No.02 王子様



 私には想い人がいる。
 ただ彼は女性にまったく興味がないようで親しい友人以外の前だととても冷たい瞳をしている。
 でも一度だけ彼の笑顔を見たことがある。その笑顔に私はやられてしまった。
 彼を見るたび『話したい』という衝動に駆り立てられる。
 ここまで自分の夢のために勉強を頑張ってきた。
 恋人なんて後から作れば良いと思ってた。
 でも……彼は今まで見た男の人とは違う……きっと私にとっての……
「なにボーっと深夜を見てるのよ」
「えっ?」
 声をかけられ現実世界に引き戻された。ホントにボーっとしていたので今の状況が良く分かっていない。
「今なにしてるんだっけ?」
「何言ってるの? 愛しの彼がバスケをやってるのに」
 そう言われようやく今、何をしていたかを思い出した。
 今は体育の授業中で男子がバスケをしているところ。女子もバスケなんだけど皆、男子のバスケに夢中。
 それは当たり前で全ての学年の女子の憧れである三人の男子、全員がバスケをしているから。
 元々は四人だったんだけど、一人転校しちゃって今は三人なわけ。
 そして私の想い人、漣 深夜くんもその一人。その為、結構告白を受けているみたい……
 ただ幸い(?)にも全ての告白を断っている。けど変わらず人気が高い。
 だから私なんて相手にもされないんだろうな……
「だ〜か〜ら〜! ボーっとしないの!」
「ちょっと考え事してるだけだよ……」
「あんまり深夜のことばっかり考えてると周りのこと見えなくなるよ」
「違うって! 考えてないよ!」
 考えてたのは事実だけど……まあこんな調子でいつもからかわれている。
 別に自分から喋ったわけじゃないんだけど、自然に目で彼を追っていたらしくアッサリばれちゃったわけです、これが。
 幸い私が仲が良い友達は漣くんに好意を持ってるわけじゃなく、しかも漣くんと普通に話せる数少ない人でもある。
 今では私も普通に話せるくらいにはなっている……んだけど、私が意識しすぎて上手く話せていないのが現状……
 あまりの情けなさに自分で呆れちゃうよ……
「アンタねぇ、せっかく深夜が話しかけてるのに無視はないでしょ?」
「えっ?……ッ!!!」
「らしくねぇな委員長」
 目の前に漣くんがいて頭の中が真っ白になった。完全にパニックに陥っていた。
 ただでたえいつも慌てるのに急すぎるよ!
「最近ねこの子ったらボーッとすること多くて私も困っているのよ」
「なんか悩み事でもあるのか?」
 悩みの元はアナタです。なんて口が裂けても言えない。
「俺で良かったら相談にのるけど?」
 近距離で優しい眼差しを見てしまい倒れそうになった。
 それを隣りで私の状況を楽しそうに見ている菜月。もう疲れる……
「あら、珍しい。深夜が女性に優しいこと言うなんて」
「お前、人をなんだと思ってるんだ。まあ委員長にはいつも迷惑かけてるからな」
 漣くんの言葉に目を見開いて、菜月は私に確認をとってきた。
「そうなの、瑠香?」
「私は覚えないけど……」
 菜月に誤魔化すとかそう言うわけじゃなくホントに覚えが無かった。
「休みにいつも勉強教わってるだろ?」
「あっ……でも私も教えてもらってるし、迷惑だなんて思ってないよ」
 むしろ嬉しい事だし……なんて考えていたら横から目線を感じた。
 ふと横に座っている菜月の顔を見ると目を細めてニヤついていた。
「あたしが知らない間にそんな仲になってたんだ〜」
 菜月の爆弾発言に私はまた慌ててしまった。多分顔も真っ赤になってるだろう。
「違うって! そんなんじゃないよ!」
 菜月は私の反応を見て明らかに楽しんでるようだった。
 漣くんが誤解したらどうするのよ!って思っていたら 「残念だな。委員長は俺と仲良くなるのがイヤなのか?」
 なんて言ってきた。 「そ、そんなことないよ!」
 しどろもどろになりながら力一杯否定する。
 相変わらず隣りでは楽しそうな菜月の笑顔。……もうイヤ……
「そっか。良かった」
 っと笑顔で言う。もう……その笑顔は反則だって……
 ここで十分楽しみましたって言わんばかりに菜月が会話に入ってきた。
「っで大分話が脱線したけど用あるんだよね?」
「そうそう。委員長、放課後時間とれるか?」
「えっと生徒会あるからその後だったら」
「じゃあ話しあるから教室に来てくれるか?」
「う、うん」
 戸惑いながら頷いたら彼は微笑んで待ってるよって。
 見とれちゃうんだけどなんかいつもと雰囲気違ったような……


****♪****♪****♪****♪****♪****♪


 結局体育の時間は終始菜月にからかわれた。
 いつものことなんだけど、漣くんに話しかけられたことでより一層……
 そういや話って一体何なんだろう?
 生徒会が終わり、話のことが気になったのもあるけど思ったより遅くなったから帰っちゃったかもと思い
 駆け足くらいのスピードで教室に向う。
 教室の電気がついているのを確認して安心し、ドアを開けようとした時だった。
 中から話し声が聞こえ、ただならぬ雰囲気を感じた。咄嗟に開けるのをやめつい盗み聞きをしてしまった。
「ねぇ漣くん。今フリーだよね?」
「だったら?」
 どうやら女性の人は確認できないけど、教室にはその女性の人と漣くんがいるみたい。
 いくら鈍い私でもこの先の展開は予想がついた。
「……あたし、漣くんのことが好き。あたしと付き合ってくれない?」
 やっぱり。そりゃこんな場面で告白じゃなきゃ他になにがあるのよ?って感じの雰囲気だったから。
 さすがにこれ以上は聞いちゃいけないと音をたてないように慎重になりながら素早くその場を立ち去った。
 学校を出てから頭の中で色んな思考が飛び交った。自分でも何考えてるのか分からないくらいに。
 そしてふと気づいたら家に帰ってきていた。
 家の中に入り、着替えもせずモヤモヤした気持ちのままベッドに倒れこんだ。
『漣くん……なんて返事したんだろう……』
 帰ってくる間は色々考えてたけど、結局それが一番気になって……
 そんな気持ちに負けたのか自然に涙が流れてくる。
『初めて本気で好きになった。けどこんなに辛いなら好きになるんじゃなかった』
 そんなことを思ってしまう。
〜♪〜♪〜♪
 ふと携帯が鳴り始めた。いつも鳴る着メロだったのでディスプレイの表示を見なくてもそれが菜月から
 ってことはすぐ分かった。内容も見なくても想像がつく。
 漣くんの話ってなんだったのか? みたいな感じだと思う。
 一刻も早く忘れたい私は菜月からのメールを見ずに無視することにした。
 無視して何分たったか分からないけど、また携帯が鳴り始めた。
 先ほどとは違う着信音。重い体を起こし携帯を手にとりディスプレイを確認したら菜月の表示。
 今度は電話みたいだ。メールを無視したせいだろう。
 これも無視したらきっと家電か直接乗り込んで来るに違いない。
 覚悟を決めてってほど大げさではないけど、ある程度は何聞かれても動揺しないように気持ちを入れて電話に出た。
「もしもし?」
「こんばんは。今家にいるのかな?」
 …………………………………菜月じゃない? というか男の人!?  驚いて声を出せないでいると、見透かされたのか男の人が喋りだした。
「はは。その様子だとメールみてないようだね」
「はい……えっと失礼ですがあなたは誰ですか? なんで菜月の携帯からかけてくるんですか?」
「質問攻めだね。じゃあ一度電話切るね。メール確認したら少し分かると思うから。5分後くらいに掛け直すね」
 そう言って一方的に電話を切られてしまった。
 何が何だかサッパリ分からなかったけど、言われた通り受信BOXに入っている未読メールを確認した。
 予想通り、メールは菜月からだった。一体何が書いてるんだろうと思い開いてみた。

From 菜月 Subject 無題 >菜月の携帯借りてメールするな。俺、瑠香のメアド知らないから。 10分後に電話するから、覚悟しててね。
                         −漣深夜−


 …………えっ? 漣くん!? じゃあさっきの電話、漣くんってこと? ……ウソ―ッ!?
 色んな考えがまた頭の中で飛び交うが、当然実際何を考えているのか分からない。とにかくパニクっていた。
 暫くして5分たったのかまた携帯電話が鳴り出した。
 ディスプレイには言うまでも無く菜月の表示。それを見た途端手が震えだした。
 しかし相手が漣くんと知った以上、無視するわけにもいかず、震える手を必死に抑え電話に出た。
「も、もしもし?」
 手だけじゃなく声も震えて出ていた。全身に力も入らず今、立てと言われても立てそうにない。
「もしもし? メール見てくれた?」
「は、はい。さっきは漣くんと知らずにごめんなさい」
「別に良いよ。気にしてないし。それよりさ、今から会えない?」
「えっ?」
 ただでさえ、今どうして漣くんと電話で話しているこの状況が理解できていないのにまた漣くんは私のこと悩ますことを言ってきた。
 まあ……私が勝手に悩んでるだけなんだけど……
「えっと今日は夜遅いし……うち結構厳しいから……」
 夜遅いといってもまだ7時前であって、まあ厳しいことは厳しいけど……
 なんで断っているのか分からなかった。ただ今は会ってはいけない気がした。
「そっか。でも家の前なら少しくらいダメかな? 5分で終わるけど」
「……えっ?」
「俺、委員長の家の前で電話してるんだけど」
 その言葉に私は閉め切っていたカーテンを乱暴に開け下を見た。  (ちなみに私の部屋は2階にある)
 するとどうだろう? ほんとに漣くんがいた。
「ど、どうして家知ってるの!?」
「ん? 菜月に聞いた」
「そ、そうなんだ……」
「これでも会えないなら諦めるよ。でもさ、今日話すって約束じゃん」
 ここまで来てもらってダメって言えるわけもなく私は覚悟を決めた。
「分かった。ちょっと待ってて」
 私は電話を切って、急いでメガネをかけ寝ていたせいでしわだらけになった制服のまま家を飛び出した。


****♪****♪****♪****♪****♪****♪


「ゴメンな。こんな時間に」
 そう言って微笑む漣くんに私は胸が締め付けられた。
 やっぱり私はこの人が好き。
 でも……
「今日の放課後話があるって言ったのに何で帰ったの?」
 まさか告白されてたところを見たから、なんて言えるわけもなかった。
 それどころかその状況を思い出してしまい、また涙まで流れてきた。
「委員長?」
「あ、あれ? おかしな…なんで……」
 見られたくないっと必死に拭った。けど全然止まらなかった。
「ごめんなさい……自分でも……わからないの……」
「もういいよ。何も言うな」
「!!!」
 急に距離を詰めると私の体をそっと引き寄せた。
 ……えっと……これって抱きしめられてるんだよね?
「さ、さざなみくん?」
「俺が告られてるの見たろ?」
「……うん。なんで分かったの?」
「ドアのところに人影が見えたんだ。その後待っても来なかったから委員長だったのかな?って思って」
「……告白……」
「ん?」
「なんて返事したの?」
 なんてこと聞いてるんだろうっと自分で思ったけど聞かずにはいられなかった。
「断ったよ、もちろん。俺好きな人いるから」
 断ったということは単純に嬉しかったけど、その後は複雑だった。
 漣くんに好きな人がいるってこと……
 そりゃクールフェイスと言われる漣くんだって人なんだから好きになる人ぐらいいるよね……
 漣くんが好きになるくらいだもん、きっと綺麗な人なんだろうな……
「誰だと思う?」
 漣くんの問いかけに思っていたことを素直に言ってみた。
「誰って言われても分からないけど、綺麗な人なんだと思う」
 ホントに素直に言ったら『はぁ』というため息が上から聞こえてきた。
 ため息つかれるほど変なこと言ったかな?
「あのさ、それ本気で言ってる?」
「うん」
 するとまたため息をつかれた。なんで?
「私変なこと言った?」
「うん。つーか鈍すぎ。この状況で俺の好きな人分からないの世界中探しても委員長ぐらいだぜ」
 ……つまり? その答えは言われてからすぐ出てきたけど、信じられない気持ちだった。
「うそ……」
 止まりかけていた涙がまた出てきた。
 私ってこんなに泣き虫だったっけ……
「俺、瑠香のこと好きなんだ」
 ……初めて異性に名前で呼ばれた……なんてことは考えることはできず出てくるのは疑問だけ。
「なんで私なの? もっと綺麗な人はたくさんいるよ?」
「さあ? 他のヤツなんて知らないよ。俺を本気にさせたのは瑠香が初めて。だから瑠香以外興味ないよ」
 この言葉に一層涙が溢れてきた。今までと違い、今度は嬉し涙……もういいや、泣き虫で。
 そんな私を漣くんは何も言わず頭を優しく撫でてくれる。
「顔上げて」
「えっ?……んっ……」
 顔を上げるとすぐ漣くんの顔が見えた。すると瞳を閉じそっと唇を重ねてきた。
 驚いたけど、抵抗せず彼を受け入れていた。

 キスした後、何分か漣くんに抱きしめられていた。その間、互いに何も言わずに……
 思考も大分落ち着いてきて、さすがに通行人に見られると恥ずかしいと思い、そろそろ漣くんから離れようと1歩下がった。
「瑠香?」
「恥ずかしいよ。通行人に見られたらどうするの?」
「クスクス。何、今更」
 …………今更?
「抱きしめてからキスするまで5、6人は通ったと思うけど」
「嘘ッ!?」
「ほんと」
 私の慌てっぷりが面白いのか腹を抱えて笑っている。複雑だけど、初めてこんなに笑ってる漣くんを見た嬉しさがあった。
 ただ今までのが全部人に見られていたと思うと一気に恥ずかしさが沸きだした。
 自分でも真っ赤になってるのが分かる。
「まぁ暗くなってきたし、ここまでかな」
 残念そうに言う彼。私ももう少し一緒にいたいのが本音。
「これからよろしく」
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
 深く頭を下げた。帰り際に軽く抱きしめられ額に軽いキスを落として行った。
「また明日な」
 何事もなかったように微笑む漣くん。この顔が私は一番好き。惚れたキッカケになったのだから。
「はい」
 それに対し私も精一杯の笑顔で答えた。


****♪****♪****♪****♪****♪****♪


 次の日、私はいつもより早く家を出た。理由は簡単。朝早く起きた……ってわけじゃなく眠れなかっただけ。
 昨日のことが夢かもって不安もあった。逆に眠ったら全部嘘だった、みたいなこともあるかもって一人で不安になっていた。
 とにかく、昨日のこと確かめたく私はただでさえ早い時間に出たのに急いで学校に向った。

 学校内はとても静かで人の気配なんて感じなかった。
 いつもより30分も早いだけでこんなにも違うのかっと思った。
 早く来すぎちゃったなと後悔しつつ、教室のドアを開けると一人、静かな教室にいた。
「待ってたわよ瑠香」
「な、菜月……」
「昨日はどうだったの?」
 目を細めてからかうように言ってくる。明らかに分かってるくせに私の口から言わせたいらしい。
「別になんにもなかったよ」
 誤魔化しても無駄なことぐらい分かってるけど、つい誤魔化してしまった。
「何言ってんのよ。お姉さんはみんな知ってんのよ」
「じゃあ聞かないでよ」
「瑠香の口から聞きたかったの。良かったね」
「…ありがと」
「でも、これから大変よ」
「えっ」
 さっきまで笑顔だった菜月が急に真剣な顔になる。何が大変なんだろ?

「深夜ファンが多いからな。悪戯は当たり前、何されるか分からないぞ?」
 急に後ろから声が聞こえてきてビックリしてしまった。
「聡、遅い!」
「呼ぶ時間考えろタコ!」
 声の主は聡くんだった。その後ろに誠くんもいた。どうやら菜月が呼んだみたいだけど……
 って相変わらず仲がいいなぁ。
「お前らね、痴話ゲンカするためにこんな朝早くに集まったのか?」
 誠くんが呆れるように言う。この二人が言い合ってるといつも誠くんが仲介役になる。
 まぁ火に油を注いでいるって漣くんは言ってるけど……
「ま、用件は電話で聞いてるけどな。ん〜瑠香ちゃん、深夜とキスしたん?」
「…えっ!? ……え、っとぉ……」
「可愛い。なんで気づかなかったんだろ。俺、結構タイプかも」
「えぇぇ!!!」
 そういうと笑いながらスッと顔を近づける。
 冗談かと思っていたらホントに近づいてきてついギュッと目を瞑ってしまった。………………………???

 教室に鈍い音が誠いた。
 そぉと目を開いてみると目の前には蹲っている聡くんの姿。
「ふざけんなよ、聡」
「し、深夜ぁ……テメェ……」
 私の隣に立っていたのは紛れもなく漣くんだった。目が合うと明らかに不機嫌そうな顔になった。
「瑠香さ、なにマジでしようとしてんの?」
「べ、別にそんなつもりじゃ……」
「聡には気をつけろよ。本気で手を出すからな」
「そうそう。キスまでは冗談だと思ってるヤツだから」
 漣くんの言葉に上乗せするように誠くんも言ってきた。う〜ん……やっぱ漣くんが止めなきゃやってたのかな?
 せっかく漣くんと初めてだったんだもん、いくら聡くんでもヤだな……って何言ってんの私!
「っで俺らを早く呼んだ理由は何なんだ?」
 蹲っていた聡くんが椅子に座って菜月に問いかけた。
 どうやら偶然私は早く来ただけで、3人は菜月に呼ばれていたみたいだ。
「っとそうだったわ。単刀直入に深夜、これから皆の前でも瑠香って呼ぶの?」
「当たり前だろ」
「いくら何でもバレるわよ?」
「そりゃそうだろ」
「あんたねぇ……瑠香の方も考えてやりなさいよ」
「あっ? 瑠香は委員長って呼ばれたいか?」
 そりゃ名前で呼んで欲しいけど……菜月が言いたいことはそうじゃないってことも私は分かってる。
 嫌気が刺したらしく菜月は一方的に話し始めた。
「あ〜もう! そうじゃない! 深夜だけ急に瑠香って呼び始めたら誰だって何かあったのか?って疑問に思うでしょ!
 だから聡や誠くんにも瑠香って呼んでもらおうってどう?って確認したいわけ! 分かった!?」
「あ、ああ」
 さすがの漣くんも菜月の気迫に押されたのか呆れ半分で返事していた。
 そんな力説しなくても……
「言いたいことは分かったけど、深夜は良いのか?」
「……まぁ……呼び捨てにしたら殺す」
「はいはい」
「はっはっは! アレほど悩んでた男が今度は独占欲かよ! 止めてくれ!」
「殺す。誠手伝え」
「あいよ」
「は? いや、ちょま……」
 誠くんに抑えられ、身動きできなくなった聡くんに左ストレートがみぞおちに入った。
 もちろん崩れ落ち蹲っている。いくらなんでも酷いよ……
「大丈夫。聡はこれくらいじゃくたばらないから」
 私の不安な顔を察したのか漣くんが優しい顔で言ってきた。
「深夜、少しでいいから俺らにもその顔見せてくれ」
 そんな様子を見て誠くんが呆れるように言った。
「あん?」
「だから、なんでそんなクールフェイスに変わるんだよ」
「お前らに優しくしてどうするんだ」
「初めて見るんだよ。お前、そんな顔できるんだな」
「うるせー!」

 その後漣くんが聡くんと誠くんにからかわれている中、菜月が私の横に来てそっと耳打ち。
「良かったね、王子様と一緒になれて」
 私はその言葉にただ頷いた。

 彼と幸せな道を歩むのはこれから……



*♪ Fin *♪







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