No.04 恋占い



「ねぇ、朔夜さんって占い信じないよね?」
 唐突に彼女、朝里優美はそう俺に言ってきた。どうやら週刊誌の占いコーナーを見て何か思ったことがあるのだろう。
ただ俺は占いなんて物は全然信用していない。まあねっと一言素っ気無く返事をした。
そうするとどうだろう? 彼女から返ってきた言葉は
「やっぱりね……」
 予想通りでしたって感じの返事で面白く無い俺は片手に持っていたコーヒーをテーブルに置き、彼女の近くに行ってその週刊誌を見た。
そこには今週の運勢が座別に書いてあった。
俺が最も信用しない占い方法だ。ただそれを楽しそうに読んでいる彼女を見て、少し皮肉を言ってみた。
「占いなんて結果全部違うじゃねーか。結局はいい結果のだけ信じるんだろ?」
「違うよぉ。やっぱ本物の占いって言うのは当たるんだよ!」
「じゃあ本物と偽物の違いって何なんだ?」
「………どうして朔夜さんはそう意地悪なの!」
 ぷぅっと頬を膨らませ週刊誌を閉じる。その仕草がとてもカワイイ。こんなカワイイ娘、鈴夜のヤツには渡せねぇな。
「あ〜あ、鈴夜さんなら関心を持って聞いてくれるのにな〜」
 思ってるそばから聞きたくない名前を聞いてしまった。ホント、鈴夜のやつこの世からいなくなって欲しいよ。
鈴夜に好感を持たれたくないので、ここはデタラメを言うことにした。
「鈴夜だって占いなんて興味ないと思うぜ」
「ううん。鈴夜さん興味持ってるよ。この前も風水占ってもらったし凄く詳しいんだよ」
 彼女の言うとおり、鈴夜はやたら占いとか風水とか好きで調べたり良くしている。
まさかそこまで知っていると思っていなかった俺は正直凹んだ。彼女は俺の知らないところで鈴夜と進展していたことになる。
そう思うと居ても立っても居られなくなっていた。
手に持っていた週刊誌を閉じて、彼女に襲い掛かる。
「あっ……何するの?」
「何って君の頭の中に漣朔夜という人物しかいないって体に分からせようかと思ってね」
二度と鈴夜のことなんて思えないようにしてやるからな。


〜〜〜☆〜〜〜☆〜〜〜☆〜〜〜☆〜〜〜☆〜〜〜☆〜〜〜


いきなり彼に抱きつかれて押し倒された。ちなみに彼はいっつも急に抱きついて来て押し倒す。
特に鈴夜さんのことを良く言うと絶対に……もう! 私は彼しか見て無いのに!
何とか抵抗して彼の攻撃をかわせたけど、彼は不満そう。このままじゃいつ襲われてもおかしくない。
この場に居ない方がいいと本能的に察した私は彼にある提案をした。
「ねえ、これから海行かない?」
「海? 今からか?」
「うん。占いにもデートは自然に触れれる場所って書いてるし」
「また占いかよ……どうして女は占いが好きなんだ……?」
 不満そうな顔をしながら週刊誌を拾い、先ほどの占いコーナーを広げる彼。
文句言いつつチャッカリ自分の占い結果を読んでいるようだ。占いに興味ない人は結構見てきたけど
彼の場合は興味ないと言うより嫌いって感じがした。
何て言われるか分からないけど、その理由を聞いてみたくなった私は勇気を持って聞いてみた。
「なんでそんなに占い嫌なの?」
「当たる根拠が無いからな」
「当たるのは当たるって」
「占いの方法によるな。ただ雑誌とかに書いているのは大抵誕生日だろ? 俺の場合、鈴夜と必ず同じ結果になるだろ?」
 ああそうか……彼と鈴夜さん、双子だからね……
「そんなんだからあんまり信じたくないわけ。分かった?」
「何となく分かった……」
 彼は双子の兄である鈴夜さんの存在を嫌う。理由は良く分からないんだけど、とにかく名前を口に出すだけですぐ襲われる。
そのうち束縛されるんじゃないかと気兼ねじゃない。それでもあたしは朔夜さんのこと好きなんだけど……
束縛されるのは大げさだけど、他の男の人と話しているだけですぐ嫉妬してあたしのこと抱きしめてくれる。
それが嬉しくて良く狙って鈴夜さんのこと話したりするんだけどね☆ ほんとに危なかった時も多々あったんだけど。
「優美? どうした?」
 ボーっと考え事をしていると彼が声をかけてきた。その声はさっきまで話していたトーンとは違って、少し暗い声だった。
顔を見ると、どうやら私が黙っちゃったものだから心配してくれているみたいだった。
「ううん、何でもないよ」
「………悪い。優美の気持ち考えてなかったな…」
 あ〜……素っ気無い返事しちゃったせいで、落ち込ませちゃった……
こういう時は………
「ちょ!! 優美!?」
 さっき彼が私にやってきたように、今度は私が彼に抱きついた。
すぐ迫ってくるくせに自分がやられる側になると脆い彼。真っ赤にしながら私のこと抱きしめてくれるんだよね。
今回も慌てていたけどしっかり私の頭を撫でてくれている。もちろん、顔を真っ赤にしてね。
普段は前髪で見えない瞳だけど、近くに言った時髪の間から少し見えるグレーの瞳に私はいつも吸い込まれそうになる。
優しく私に微笑んでくれるんだけど……その瞳はどこか哀しく、寂しそうだった。まるで心の中に鎖があるようで……
いつの日か、私がその鎖を解き放てればいいなっとそう思ってる。彼の鎖の元は多分………
「優美。今、お前が考えていること分かるよ」
「えっ?」
「お前、いつも俺の目を見たとき同じこと考えてるだろ?」
「うん……」
 私は素直に頷いた。彼はため息をついた。
「お前は特別なことしなくていいよ。俺の傍にいてくれればそれだけで十分なんだから」
「でも……」
「でもじゃない。俺の心の鎖は解けないだろうが、お前がいるだけで軽くなるんだ。だからそれ以上のことはしなくていい」
 彼の言葉は純粋に嬉しかった。けれど、少し悲しかったところもあった。
「軽くなるだけで、解くことはできないの?」
「この鎖は解いちゃいけないんだ。二度と裏社会に関わらないためにも……」
「戒めみたいなもの?」
「そういうことだな。後、鈴夜に対する感情の抑制ってこともある」
「鈴夜さん?」
「ああ。この鎖が解けた瞬間、俺は多分ジェノサイドと化すだろう。あの事件忘れたわけじゃないよな?」
 私は頷くことしか出来なかった。彼が言う『あの事件』とは私と彼が出会うキッカケになった事件。そして彼と鈴夜さんが敵対になった事件……
とても辛い思い出だけどとても大切な思い出でもある。出会いと別れが同時に襲った『KL7号事件』、あれから6年経つけど未だに解決していない。
「まあ、そういうわけだ。おいおい、そんな顔するなって」
 彼は私の頭に手を置いてまるで子犬にやるみたいに撫でてきた。
「だってぇ〜……」
「大丈夫。お前が俺の傍にいてくれる限り有り得ねぇよ。安心しな」
「本当?」
 そう言って顔を上げた。その瞬間、頭を叩かれた。優しくだったけど、急に叩かれた分少し痛みが強かった。
「なんで叩くの!?」
「その目で見るのはやめろ!」
 抱き合っている状態で彼の目を見ようとしたから上目遣いになったみたい。
前々から言われていたけど、今のは完全に無意識。なのに叩くなんて酷い!
「今のはわざとじゃないよー」
「そういう問題じゃない!」
「酷いよ〜、急に叩くなんて……」
 悔しかったから今度は目を少し潤ませてまた上目遣いで見てみた。私って役者になれるかも♪
「だからやめろって!!!」
 そう言って私の背中に回っていた手を解いて立ち上がった。。
「えへ♪」
「まったく………」
 立ち上がった彼は顔を赤くしながら急にカバンを手に取り出し中身をチェックし始めた。
「どうしたの?」
「海行くんだろ? さっさと準備しろ」
「えっ? 本当に行くの?」
「お前が行こうって言ったんだろ」
「言ったけど………」
 ホントに行くとは思ってなかった。あの場を切り抜けるための思いつきで話したことだったし…
「占いによると、彼女の思いつきに乗ると吉って書いてあるしな。ついでだ」
 ・・・・・・はい?
「朔夜さん……思いつきって?」
「どうせあの状況を切り抜けるために言ったんだろ? バレバレ。なんでこの時期に海なんだよ」
 仰るとおりです。今は11月、さすがに海は無いよね……
でも彼は行く気満々。車のキーを持って早くも玄関に向おうとしている。
「早くしろ。置いてくぞ」
「わっ! 待ってよ!!!」
 私は急いで部屋に行って、上着とバッグを手にした。後、彼からもらったお気に入りのブレスレットを腕につけた。
部屋を出た時に床に開いて置いてあった雑誌を見てふと気がついた。さっき彼、占いって言ってなかった?
彼の誕生日の欄を急いで探して読んでみるとさっき彼が言った言葉がそのまま載っていた。
「ちゃっかりしてるな〜」
 さすがに苦笑いするしかなかった。きっとご機嫌をとりたかったんだと思う。
「お〜い! まだか〜!?」
「今行く!」
 玄関から催促の言葉が飛んできたので雑誌をテーブルの上に戻して、玄関へ向った。
「お待たせ」
「じゃあ、さっさと行きますか」
「待って! この前買った靴履くから」
 腰を下ろして靴の紐を整える。まだ一回も履いて無いから後ろが折れないようにちゃんと履きたかったから。
普通より少し時間がかかるからこの時間を利用して彼にさっきと同じ質問をしてみた。
「ねぇ朔夜さん」
「ん?」
「本当に占いに興味ないの?」
「占いには興味ねぇよ。ただ……」
「ただ?」
「優美の笑顔が見れるんなら占いも良いって思えるよ」
 普段は見せない笑顔で聞いてる方が恥ずかしくなるような言葉を言ってきた。
「朔夜さん……」
 きっと耳まで真っ赤になってるんだろうなっと自分で思いながら彼を見つめていた。
「さてと帰りが遅くなっちまうし早く行きますか」
「うん!」
 思いっきり彼の腕に抱きついた。彼は何も言わずそのまま腕を組んでくれた。
この先の未来、この幸せが続くとは限らない。事件が解決しない限り永遠に彼は苦しみ続けることになると思う。
これは占いじゃ救いにならないけれど私が傍にいることで少しでも苦しみを和らげてあげれるのなら一緒にいてあげたいと思う。
それが私に出来る唯一の恩返しだから………



☆ fin ☆




無理やり占いを当てはめたような内容になってしまいました、朔夜STORY。
この短編だけでは分からないのが所々ありますが、本編として追々書いていければなっと思ってます。

予定では朔夜はもっとクールなやつだったんですけど………まあいいか(ぇ
優美と一緒の時はこんなに崩れるダメな男なわけで……(ぇ

というわけでNo.4 占い でした。


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