最初から分かってた。あの人に想いが届くわけないってことぐらい。
一度優しくしてもらって……一度抱きしめてもらって……あたしの気持ちも考えずただ微笑んでくれたあの人にただ惹かれていた。
子供の時の憧れが年齢が上がるに連れ、恋心になっているのが自分でも分かった。
でも、あの人は遠くに行ってしまう。決して手の届くことのない場所へ………
そう思うと胸が苦しくなるよ………

No.08 息も出来ない



 12月某日、世間では年明けの準備で追われていた。それはとあるマンションの一室に住んでいる兄弟たちも同様だった。
彼らは今日は大掃除。みんなの予定が今日たまたま空いたため長女、鈴の思いつきですることになったのだ。
分担して掃除を始めたまでは良かったのだが、三男の白夜が自分の部屋の掃除をしている最中に居間のテーブルに置いていたブレスレットが消え
次男、連夜と言い合いになってしまった。
「連兄だろ! ここに置いてあったブレスレットを移動させたの!」
 白夜が普段からは想像できないような怒鳴り声で連夜に向って言う。
「俺が知るか!!!」
 連夜はホントに知らないのかどうかは分からないが、これの一点張り。
しかし連夜しか考えられない白夜はずっとつっかかっている。
そのため、ずっと言い合っていて話しは平行線。
お気に入りのブレスレットだったのか普段は物静かな白夜がここまで怒るのは滅多に無いことだった。
このままじゃキリがないと悟ったのか、長男である深夜が話しに割って入った。
「とりあえず、だ。冷静に整理しろ。白夜がここに置いたのは?」
 深夜の言葉に少し落ち着いたのか、椅子に座り普段の口調で話し始めた。
「10時過ぎだな。光が出かけるって言った時だから、そのくらいだろ」
 その時、玄関から高く大きな声が部屋中に響いた。
「は〜い☆ 大掃除は進んでる〜?」
 声の主は漣家の年長である鈴だった。今の状況も分からず、一人お気楽だった。
「鈴姉、ここに置いてあったブレスレット知らないか?」
 深夜が問いただしてみる。
「ああ白夜のでしょう?」
 知ってますよっと言わんばかりの軽い返事が返ってきた。
「そう! ある場所知ってるのか!?」
 椅子が倒れるほど勢いよく立った。普段の白夜じゃないため、さすがの鈴も後退りをした。
勢いに飲まれながら、鈴は玄関の方を見ながら喋りだした。
「それだったら光ちゃんが持ってたのを見たよ」

気まずい間が部屋中に流れた。誰一人今の状況を素早く理解出来ていないようだ。
「じゃあ光ちゃんが白夜のブレスレットを持ち去ったって言うのか?」
 この空気の中、最初に口を開いたのは深夜だった。
「理由は知らないけどね。持ってたのはたしかよ」
 鈴のこの一言でまた空気は静まり返った。
静まってすぐ、電話が鳴り出した。この静けさには十分すぎるほどの音量だった。
一番近くにいた鈴が受話器を手に取り電話に出た。
「悪かったな連兄」
 一段落し、白夜はいつもの冷静な口調で連夜に謝った。
「別にいいよ。気にすんな」
 少し笑みを浮かべながらまったく気にしてないような態度を取った。
アレだけ無理やり犯人扱いしたのに冷静な態度を取れる辺り1歳しか変わらないとは言えそこが兄と弟の差なんだろう。
やっぱ兄だなっと白夜は思わずにはいられなかった。
ようやく険悪なムードから一転、落ち着きを取り戻しつつあった空気が鈴の一言でまた慌しくなってしまう。

『光ちゃんどうしたの!?』

++++♪++++♪++++♪++++

 鈴が思いっきり大声で言ってしまったため、連夜に誤解を与え、パニックに陥っているのではないか?
 と光は少し不安になった。
 公園にある公衆電話から漣家の次女・光が家に電話をしていた。
「お姉さん……お兄ちゃんに聞こえるって…」
 案の定、受話器の向こう側から連夜が騒いでいるのが聞こえてくる。
「ゴメンゴメン、『ちょっと連夜うるさい! 深夜、白夜。連夜を外に連れ出して!』えっと話しなんだっけ?」
 途中、光ではなく後ろにいる弟たちにむかって言った。受話器を手で抑えてても至近距離で発せられた声は
十分受話器を通して光の耳に伝わった。
これには光は苦笑しか出来なかったが、今光も兄弟に説明する時間がなかった。
「お兄ちゃんには言わないでね? 今から言うところに来て欲しいの」
 そのため、すぐ自分のお願いを伝えた。鈴にも連夜にも悪いと思っていたが
初めて光が人のことではなく自分のことを優先した。
「うん。分かった、任せておいて。」
「後、ゴメンなさい。大掃除サボっちゃって…」
 いくら自分のことを優先したとは言え、いつもは自分の気持ちを押し殺してでも人のことを優先しようとする光。
罪悪感が生まれないわけがない。
  「気にしなくて良いわよ。光ちゃんはいつも家事とか色々やってくれてるんだから、これぐらい。ただ……」
 光の気持ちを察してか気を使うようにいつもの明るい声で話していた鈴だったが、急に声のトーンを低くした。
「ホントに大丈夫? さっきの話し聞くと正直……」
 やはり心配だった。光を信じてはいるが、鈴にとって不安要素が一つあった。
「大丈夫です。………今日で最後だから……」
「光ちゃん!? 今なんて・・『プープープー』」
 鈴が話している最中に電話を切った。光はこの時、固い決意をしていた。

++++♪++++♪++++♪++++

「電話終わったのか?」
 サングラスをかけ、皮のコートを着ている男、香月刹那が光に言葉発した。
 光はその問いかけに頷き、刹那が座っているベンチの横に座った。
「連夜、今頃平常じゃねーだろな」
 ククッと笑いながら、連夜のことを想像しているようだ。
「やめて、今は私といることだけ考えてよ」
「っと失礼。でもいいのか? 連夜に内緒で」
「いいよ。怒られるの覚悟だけど」
 俺の場合、怒られるじゃなくて殺されるなんだけど……っと小さく刹那は呟いた。

 兄弟に連絡をいれ、待ち合わせをしていた公園を出ることにした2人。
 とりあえず、冷えた体を温めるために近くの喫茶店に入ることにした。
 カップルにとって大イベントであるクリスマスが終わってると言うこともあり、街中カップルで溢れていた。
 みんな、仲良さそうに腕を組んで歩いているのを見て刹那は俺らも繋いだ方がいいかなっと思っていた。
 光の様子を伺って大丈夫そうならっと思ったが、光の方はどうにも浮かない顔をしていた。
「あのさ、やっぱ連夜に言おうか?」
「何でそんなこと言うの」
「じゃあその不安な顔やめてくれ」
 刹那の言葉に光は一層増した感じで暗くなった。業を煮やした刹那は無理矢理光の手をとり腕を組んだ。
 さすがに予想もしなかった光は目を見開いて驚いていた。
「少しはカップルらしく見えるかな?」
「……バカ……」
 小さく呟いた言葉は刹那の耳にしっかり聞こえていた。

 喫茶店に入り、刹那はコーヒーを光はココアを頼んだ。
 当然、この喫茶店もカップルばっかり。周りの気にせずいちゃついてるカップルがほとんどだった。
「今時の若いもんはスゲーな」
「多分、みんな高校生とかだよ。刹那さんより年上だよきっと」
 クスクスと笑いながら言う光。ようやく笑顔になったなと刹那は一安心した。
 ちなみに、刹那は16歳、光は15歳だ。ただ刹那はかなり大人っぽく見え、下手したら大学生でも
 バレない可能性があるくらいだ。
 刹那は長髪で特に前髪が長く真正面から見ても目が見えないくらいで、それにサングラスまでつけている。
 ついでにコートまで着こなしていて、とても高校生に見えない。
 一方、光はショートヘアーで前髪につけている赤と青の二色の髪留めが印象的な女の子だ。
 刹那はともかく、光は当然中学生にしか見えない。それが普通なのだが。
 だから周りからすれば、刹那ほどの大人がどうして?って見えるのだ。
「やっぱ大人っぽく見えるんだね、刹那さんって」
 今も、周りの女性が刹那を見て声を上げているくらいだ。当然二人の耳にも入ってくる。
「みたいだな。サングラスとコートのせいじゃねーの?」
「そんなことないよ……カッコいいよ」
 光のちょっとした一言に刹那は胸が高鳴った。しかしあくまでもクールを装う刹那は動揺を見せず光にもカワイイよっと言った。
 光は照れることなく笑顔でアリガトと答えた。
 これには刹那は意外で顔を赤くするのを期待していたため、面白くなかった。

 注文の品が届き二人ともすぐ口に運ぶ。冷えていた体が一気に溶け出すような感覚になった。
「あれ? 刹那さん、何も入れないの?」
 刹那はコーヒーカップの横に置いてある砂糖やミルクを開けずそのまま飲んでいた。
「ああ。甘いのは苦手なんだ」
「そうなんだ。お兄ちゃんみたいだね」
「アイツはブラックが好きなんだろ。一緒にするな」
「う〜ん……結局は同じことだと思うけど」
「違うの。アイツと俺は全然違うよ」
 よほど一緒にされるのが嫌だったのか不機嫌そうに言った。
 ちなみにお兄ちゃんとは連夜のことだ。
「これからどこ行くの?」
 あくまで喫茶店には寒かったから入っただけで、実際ここに来る予定じゃなかった。
 刹那に会ったの自体、急なことだったから何の準備もしていない。
 そんな光の問いかけに刹那は微笑んでからかうように言った。
「どこ行きたい?」
「……刹那さんと一緒ならどこでも……」
「そんなこと言うと、二人きりになって襲っちゃうよ」
 改めて注意しておくが、刹那もまだ16歳だ。
「………………」
 そんな刹那の言葉に光は後に続く言葉が出てこなかった。
 しかしそれは照れているとかではなく、意味が良く分からなかったみたいだ。
 光の表情から察した刹那はため息を一つついて、徐に立ち上がった。
「飲んだし移動しよ。何か周りがウルサイ」
 先ほどから刹那のことを言っている声が周りから聞こえてくる。
 何かそのせいでケンカしているカップルも目につく。
 刹那からすればかなり迷惑だ。光も正直戸惑っていたので、タイミング的には良かった。
 会計を済まし、逃げるように二人は外に出た。

 店を出た二人は行き場所を求めて歩いた。
 どこに行きたいわけでもなく、ただ一緒にいたかった。少なくても光はそう思っていた。
 少し街から外れたところにあるアパートに立ち寄った。
「ここは?」
「俺が今住んでるアパート」
 話の流れで何気なく話したが、刹那は今まで住居不明で今回も突然光の前に現れた。
 つまり今日こうして会っているのも偶然が生んだのだ。そんな刹那がアッサリと自分の住んでいる場所に連れてきた。
「ふ〜ん……え? うそッ!?」
「ははは、驚いたろ?」
「ど、どうせすぐにいなくなるんでしょ?」
「……多分な」
 分かっていてもそう信じたくなくて冗談交じりで言ったことに刹那の返答はややマジメだった。
 光はまた会えなくなるんだと思うと自然の目の周りが熱くなってきた。
「光?」
 俯いている光に疑問を持った刹那が光の顔を覗き込む。
 光は必死に涙を堪え笑って見せた。
「え、何?」
「……良いよ泣いて。何で隠すんだ?」
「え? 私泣いてなんか――ッ――」
 何を思ったか急に光を抱き寄せる。もちろん何が起こったか判断がつかない。
 ただ抵抗する気もなく、ずっとこうしていたい。光は目を閉じセツナにそう願った。
「お前ホント自分の気持ち言わないよな。もっとさ、我侭言って良いと思うよ」
 反応を見せずただ黙って聞いている。それに対し刹那は構わず話し続ける。
「俺、お前の我侭なら何でも聞いてやる。大きく言うならお前に死ねって言われたら微笑んで死んでやるよ」
「……言うわけないじゃん……」
 小さな声で否定する。刹那も慌てて自分の言葉にフォローを入れた。
 正直、ホントに言われたら……なんてことを少しは考えていたなんで言えるはずもなく。
「例えだ例え。お前の気持ちだって気づいてるんだ。光の口から聞きたいから今まで我慢してきたけどな」
 流石にこの言葉には反応を見せた。そして刹那の腕の中でゆっくりと顔を上げた。
 刹那は顔が見えるように抱きしめているを少し緩めた。
 目と目が合い光は少し躊躇したもののハッキリと自分の口から気持ちを伝えた。
「私……刹那さんのこと好き……ずっと前から……」
 それは人生で初めての告白であり、刹那に初めて自分の気持ちを伝えた瞬間だった。
「俺もお前のこと好きだよ。連夜の妹じゃなければ今すぐさらって行きたいくらいにな」
「…………お兄ちゃんが聞いたら怒るね…………」
「怒るどころじゃねーな。多分地球が半分になるんじゃね?」
 ある種病気とも言えるほど連夜は妹・光に対して過保護である。もうシスコンなんてレベルじゃないと言っても過言ではない。
 刹那の冗談に光は笑ったが、刹那は半分以上マジな気持ちだった。
 一度だけ光のことを泣かせてしまったことがある。そのとき刹那は冗談抜きで連夜に殺されそうだった。
 友人たちが連夜を抑えつけたが、流石の刹那もそれがトラウマになっている部分もあり光に関する連夜には頭が上がらないのも事実だ。
「光。俺、まだやらなきゃいけないことあるんだ。それ終わるまでお前と幸せなカップル生活が送れないんだ」
 スッと光から離れマジな顔をし光の目を見た話した。
 それを見て冗談を言っていないことはすぐに分かった。故に光は不安になった。
「いつ頃……帰ってくる?」
「さぁな。半年後かも知れないし10年後かもしれない。明日帰ってこれるかも知れないし、とにかく不確定だ」
 この言葉に胸が締められ涙が出そうになったが、それを堪えて笑って見せた。
「……私、待ってるよ。刹那さんが……私のこと好きって言ってくれたから……待っちゃうよ?」
「ふっ。それは嬉しいな。でも光は可愛いからな〜、カッコいい男なんてすぐ寄ってくるぞ?」
 刹那のいつもの冗談交じりの言葉だったが、自分の気持ちを伝え相手の気持ちを知った光はいつもと違って刹那に向って言い返した。
「刹那さんよりカッコいい人なんていないよ。それに私にはお兄ちゃんがいるし」
 少なくても好意を持つ異性に「カッコイイ」などと言われて心が高鳴らない男はいないだろう。
 刹那だって例外じゃない。けどそれ以上にこんなにハッキリと言ってくるようになった光に嬉しかった。
「そうだな〜。連夜がいるなら悪い虫はつかないかな。なんかシャクだがな」
「……待ってるね。10年でも20年でも」
「……サンキュ……」
 刹那が少し屈み顔を傾けた。光だって中学生、刹那が何をしようとしてるのかすぐ分かった。
 光自身も望んでいたことだからだ。目を瞑り受け入れようとした。



「セツナ―――ッ!!! ちょ、何しようとしてんだテメェ!!!」

 突然聞こえてきた怒鳴り声に二人とも驚いた。
 すっかり目を瞑りすることしようとしていた二人は目を開き周りを見渡した。
 良く見たら二人がいるアパート側と道路を挟んで反対側にバイク1台と車1台があり、兄弟全員がいた。
「え……お兄ちゃん?」
「つーか全員いるぞ……」
 額に手をあて呆れる刹那。年末だっていうのに暇な兄弟たちだな、と思わずにはいれなかった。
 深夜は車にエンジンをかけ、鈴はバイクを押しながら二人のいるアパート側へ向っていた。
 それより先に連夜が真っ先に来て刹那の胸倉を掴んだ。
「テメェ……光に何しようとした?」
「何って……それより何でお前がいるんだよ!」
「落ち着けよ、レン兄。未遂で済んだんだから」
 後ろから歩いてきた弟・白夜が二人の間に割って入り引き離した。
 それから鈴も来てすぐさま光に謝った。
「ゴメン! コイツら着いてきちゃってさ」
「正確にはレン兄がシン兄を脅してだけどな。ホント、シン兄変わったよな……女できたっけ」
 シン兄こと深夜は春先に同じクラスの女子に惚れ、付き合うようになった。
 そのとき連夜に相当助けられた関係上、その話を持ち出されると連夜に頭が上がらなくなっていた。
「ほんと困った弟だわ。ゴメンね、刹那くん。邪魔しちゃって」
「お、お姉さん……電話だと心配してなかった?」
 電話をかけたときと打って変わった鈴の反応に光は疑問を持った。
「ん〜少し心配だったけど刹那くんだからね。安心してたよ」
「刹那だから危なかったんじゃねーか! 現にコイツ、手を出そうと―――」
 話の途中で鈴と白夜の鉄拳が飛んできた。通常より威力は2倍で連夜は頭を抱え崩れた。
 その後、車で深夜がアパート側に渡ってきた。
「さて光。俺、そろそろ行かなきゃいけないしさ。兄弟が迎えに来たんだ、一緒に帰れって」
「…………うん、分かった」
 明らかに不満そうな顔だったが兄弟の手前、我侭を言うわけにはいかないと納得をしたって感じだった。
「良いの? 光ちゃん」
 表情や声で当然のように察した鈴が気を使うが光は笑って頷いた。
 そして刹那に一言声をかけて、車に乗り込んだ。
「じゃわざわざありがとうございました」
 光が車に乗り込んだ後、鈴や白夜に頭を下げる。
 これで良いのかな? と二人とも顔を見合わせていたが、刹那は気にせず背を向けそこから去ろうとした。

「ちょっと待てよ、刹那」

 今まで痛がっていた連夜がふと立ち上がり刹那を止めた。
「なんだ?」
「光のこと……泣かすなよ。お前らが何話したかしるよしもないが、光のこと泣かしたら俺はお前を絶対許さない。  地獄の底まで追いかけてでもお前を問いつめるからな」
 今までにない連夜の真剣な眼差しに刹那も真剣に答えた。
「ああ。分かってるよ。ただお前も覚悟しとけ。現実はいいことばかりじゃないってな」
「何言ってんだ?」
「さぁな。じゃあ元気でな、義兄さん」
「お前に義兄さんなんで言われたくねー!!!」
 連夜の叫びに刹那は笑って、そしてその場を去っていった。

 その後、車内で光はこれまでの経緯を深夜と白夜から聞いた。
 光と刹那が入った喫茶店に帰り鈴と合流するつもりだったで鈴に連絡を入れた。
 それで向った鈴が光たちを見かけこっそり後を追いかけた。
 その鈴の後を追いかけていた連夜たちも来て、鈴と合流(結果的に)して、あの場面に至る。
「ふ〜ん……そうなんだ〜……」
 当然刹那とのキスを邪魔されたことになり、光はご機嫌ってわけにもいかなかった。
 先ほどから連夜は平謝りをしている。兄としての威厳なんてまるでない。
 しかし深夜からフォローが入る。
「でもさ、光ちゃん。連夜があそこまで我慢したんだよ。大目に見てあげて」
「シン兄、やけにレン兄のフォローに入るな。後で脅されるのが怖いのか?」
 白夜の厳しいツッコミに深夜は咳払いをして運転に集中する。
 ここで白夜は思い出したかのように「あっそういえば」っと言い、後部座席に座っている光を見た。
「光、俺のブレスレット知ってる?」
 白夜が問いかけると袖を軽く捲くった。光の腕には白夜がずっと探していたブレスレットがあった。
「ゴメン、白夜が綺麗なブレスレット持ってるの知っててつけてきちゃった」
 鈴の目撃通り犯人は光だった。黙って持っていったことより今は見つかった安堵感でいっぱいだった。
「まぁあったなら良いけど、勝手に持っていくなよ」
「ゴメンね。気持ちの余裕なくてさ」
 人のことを想って余裕を無くすことは白夜には理解出来なかったが、人を好きになることで人は変われることを二人の兄を通して知った。
 光もその例外じゃないんだろう、そう思うことにした。とにかく白夜にしてみれば見つかって良かったってだけなのだ。
「これで一件落着だな」
「ふ〜ん……」
 まとめる意味で言った連夜の発言も光にとっては軽く聞こえた。何だかんだ言ってやはり邪魔した連夜を許すことはできないらしい。
 目を細め視線で連夜に訴える。連夜は光からの鋭い訴えにすぐ気づき、まだ機嫌が直ってないことを悟った。
 刹那と光がいずれあーいう関係になることは分かっていたことだが、どうしてもまだ早いと体の抑えが聞かなかった。
 人に過保護と言われるが、連夜も自覚はあった。それでも兄として、刹那の友人としてあの場面は止めるしかなかった。
 刹那がまた姿をくらますなら、幼い頃からの付き合いといえど信用できない。ちゃんとした形で光と一緒になることを願うからこそだった。
 まぁそんな連夜の気持ちを知ってか知らずか、光にとってはいい迷惑には変わりない。
「と、とにかくさ。ほら、光。この前欲しがってた服あったろ? 買ってあげるから機嫌直せって」
 相変わらずツンとした態度に連夜は折れるしかなかった。過保護でかつ妹に弱い、兄としてはダメな部分を曝け出している。
「もう良いよ。お兄ちゃんの気持ちは分かってるから」
「そんな無愛想な顔で言われてもなぁ……」
「……じゃあ一つお願いね」
「ん?」
 少しのタメを作り、光は爆弾を投下した。
「私と刹那さんが結婚するとき、反対しないでね」
 この爆弾が爆発するまで数秒の間があり、爆発後車内……いや、車外に聞こえるほどの連夜の叫び声が響き渡った。


♪ fin ♪




 ようやく、恋愛novelの方でも中心となる漣一家を出すことができました。
 この漣一家を中心にその友人らが枝分かれして恋愛模様(?)を描いていくのが基本的です。

 漣家は文中の通り、5兄弟です。ちょっと基礎知識として書いてみますね。
 年齢はこの話中の場合です。年齢差だけ分かれば問題ないです。

長女:鈴・19歳
長男:深夜・17歳
次男:連夜・15歳
次女:光・14歳
三男・白夜・14歳

 となっております。基本的に鈴〜連夜は2歳ずつ離れていて、白夜と光は二卵性双生児となっています。
 両親は共に蒸発しており、どんな人か、名前すら知りません。
 その経緯とかも触れれば良いんですが……まぁ気長にこの世界も完成を目指したいと思います。(完成するのか?

 ではNo.08 息もできないでした。



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