No.09 キス



 とあるアパートの一室に男女が二人きりでいた。女の方は凄く不機嫌で、周りの空気が重くなっていた。
 嫌気がさした男の方が彼女の方を問い詰めた。
「あのさ、俺なんかした?」 「自分の胸に手を当てて考えてみたら?」 「はぁ……お前ね、いい加減素直になれよ」 「どっちが? 聡の方でしょ、ハッキリしなくちゃいけないのは」 「だから、お前のことしか見てないって何回も言ってるだろ?」 「じゃあ昨日どこいってた?」 「……合コン」 「最低」 「分かった分かった。今度バッグ買ってやっから」 「……物で釣る気?」 「いらなのか?」 「むっ……」 「ほ〜ら、機嫌直せよ」
 スッと男の方が女を引き寄せ唇を重ねようとした。

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 俺、塚本聡は小学校のころから女子と遊ぶことが多かった。中学に入る頃にはもう遊び人のレッテルをはられてたくらいだ。
 でも悪いのは俺じゃない。俺に寄ってくる女たちが悪い。 ……ん? 言い方が悪いだと? ま、気にすんな。
 まぁそんな俺だってマジに好きになったヤツくらいいる。
 そいつは幼馴染なんだけど、ずっと近くにいるせいかずっと俺の片想い。考えてみれば俺もいつから好きか分からない。
 物心ついたときから一緒にいたから、そう思うとその頃からもう好きだったのかも知れない。
 ただな、幼馴染ということもあってかどうしてもソイツに対して素直になれない。どうしても好きの二文字が言葉に出せないんだ……
 俺の親友たちからは素直になれよって散々言われたけど……結局、高校卒業まで友達以上恋人未満の関係が続いた。
 それでも彼女と笑って過ごせるなら構わないと思った。
 ふられて関係がギクシャクするくらなら……


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 乾いた音が部屋中に響いた。
「いってぇ!」
 キスをしようとしたところを頬に一発。
 手加減はしていたが、不意打ちだったためつい声に出してしまったようだ。
 痛がっているうちに彼女は距離をとった。
「そんな気分じゃない」 「キスは特効薬だろ」 「何のよ」 「仲直りの♪」
 言いつつ一度は離れた距離がいつのまにか無くなっていて彼のほうが彼女の手を取った。
「だからそんな気分じゃないってば!」 「すぐその気になるよ」
 彼はそのまま手を押さえ抵抗できないようにして、ゆっくりと今度は確実に唇を合わせた。


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 私、濱崎菜月には幼馴染がいる。母親が言うには生まれた病院も一緒で親同士が仲良かったのもあり赤ん坊の頃から一生に遊んでいた。
 小学校に入学後、彼はあっという間にクラスの中心になった。
 明るい性格で男子はもちろんのこと女子に対しても気兼ねなく会話する彼は男女両方の支持を得ていた。
 もちろんそんな彼に惚れる女子は少なくなかった。むしろ人並み以上にモテていた。
 それでも私との関係も変わらず友達以上恋人未満な感じだった。
 ただ学年が上がるに連れ異性を意識するようになるのか、彼に告白をする人が増えていった。
 告白されたと聞くたびなぜか胸が苦しくなっていた。この頃はまだ自分の気持ちに気づいてはいなかった。
 彼のこと好きなんだと気づいたのは中学の時、とあるキャンプに参加した。
 そのキャンプで知り合った子に『お似合いだよ』って言われて、その時は笑って誤魔化したけど、それから少しずつ意識していった。
 気づいたのが中学という遅さに周りの人は呆れていたけど……
 今までホント仲の良い幼馴染ってだけだったのに、急に彼が一人の男性に見えてきた。



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 数秒たった程度で彼は唇を離した。彼女は少し赤らめ下を向いている。
「どうだ? その気になった?」
 その問いかけに彼女は無言で首を横に振った。
「ふ〜ん。相変わらず頑固だね」
 ニヤッと何か企んでるような笑みを見せる。
 付き合いの長い菜月は何をされるのか予想がつき、スッと彼から離れた。
「あのさ、それで逃げたつもり?」 「絶対ヤダ。止めてよ?」 「じゃ、機嫌直して」 「………………」 「ふぅ……仕方ないな」 「ちょ、まっ――」
 立って離れたわけじゃなく、手を伸ばせば届く範囲。
 彼女の腕をやや強引に自分の方に引き寄せた。


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 俺と彼女が付き合い始めたのは大学に入ってから。もちろん告ったのは俺からだ。
 小学校から一緒だった親友たちとも高校卒業後はそれぞれの道に進んだ。
 まぁその事も少なからず関係あると思う。今更、彼女と関係を持つなんて照れくさかったりしたから。
 なんてことを周りのヤツらに言うと『ガラじゃない』とか言われるけどな。
 と言うことで俺は大学に入ってから彼女に告白をした。
 幼稚園のころからずっと同じで住んでる場所も近いから小・中は一緒なのは当たり前だが高校、そして大学まで一緒とは思わなかった。
 ただ高校の時は驚きも大きかったけど、大学では正直驚かなかった。
 高校卒業する頃には気持ちも固まっており、きっと一緒になれると信じていたから。
 案の定、受験のとき彼女の姿があった。向こうは目を丸くして驚いていたけど俺は凄く嬉しかった。
 そして決意した。一緒に合格したら告白しようと。
 元々大学受験に互いに合格したら告ろうと決めていた。別々の大学になった場合、多分自分の気持ちを抑えきれないと思ってたから。
 ま、思ってた通り同じ大学になった時はゆっくりで良いかなっと思ったけど、いつ彼女に相手が出来るか分からない。
 そう思うといてもたってもいられなくなった。ホント勝手だと自分で思う。
 自分は好き放題、相手を作ってるのに彼女に相手が出来たときを考えると、体の調子がおかしくなるくらい悩んでしまう。
 彼女と付き合い始めたとき、彼女もこんな気持ちだったのかなっと思うと凄く後ろめたい気持ちになっていた時期もあった。
 ただ彼女は恋人関係になれたから良いと許してくれ、また浮気したら許さないと本気で釘を打たれた。
 その言葉を聞いて改めて俺のこと好いてくれてたんだなっと嬉しくなった。



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 彼への気持ちに気づいてからも、関係はまったく変わらず微妙な感じだった。
 私は少し意識しちゃっていたけど、そんな私の気持ちなんて知らず同じように接してくる彼に少し呆れしてしまった。
 ただ彼に新しい相手ができたと聞くたび愛想笑いする自分がイヤだった。
 私はやっぱり幼馴染としか見られてないんだなって彼に相手ができるたび思った。
 それでも相手がいても私には変わらずに接してくれた。おかげで相手の方には相当怨まれていたけど、私はとても心が温められた。
 彼が告白してきたのは大学に入ってからすぐのことだった。
 同じ大学ってことも驚いたけど、彼にずっと好きだったと言われた時は頭の中が真っ白になった。
 その時は素直に私も好きって言えなかったけど、きちっと関係を持つことが出来たのは嬉しかった。



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「ちょ、やめてっ! キャッ」 「お前、ここ弱いもんな〜」
 引き寄せた後、彼は彼女のわき腹をくすぐり続けていた。
 抵抗したくても元々力が違うく、更に脇が極端に弱い彼女は抵抗できずにいた。
「ほら、止めて欲しかったら許せって」 「きゃははっ! わかった……わかった……許すから!」 「OK」
 その一言で笑顔になり、パッと彼女のわき腹を離す。
「はぁ……はぁ……このバカッ!」 「頑固なお前が悪い」 「もう……聡は脇効かないの?」 「効かねーよ。効かないのはお前が良く分かってるだろ」
 彼女は昔から不機嫌になったり彼を無視することに、彼からやられていた。
 仕返ししてやろうとあらゆることを試したが彼はまったく効かなかった。
「それにな、合コンは連れて行かれたんだ。俺の意思とは関係なくな」 「楽しそうにしてたじゃん」 「お前ね……行って黙ってたら周りの人に悪いだろ?」 「無理矢理連れて行かれたんじゃないの?」 「うっ……」  力では彼の方が上だが、口では勝てないようだ。
 だからいつもくすぐって事を終わらそうとする。
「ま、良いじゃん。さ〜バッグ買いに行こうぜ!」
 逃げるように立ちそそくさと準備を始める。
「こら! 誤魔化すな!」  彼女が逃がさないように急いで立った時だった。
「ッ!」
 不意に抱き寄せられ、キスを一発。10秒もない短いキスだったが、それで十分だった。
「ほら、菜月は俺とのキス好きだもんな」 「な、何言ってんのよ!」 「もうちょっと長いの希望?」 「ぅっ……」 「素直になろうな♪」
 そう言って今までと違って優しく寄せ、ゆっくりと合わせる。
 彼女も抵抗見せず、彼の背中に手を回してそれに応えていた。


 彼女とのキスは
 彼とのキスは

 仲直りの証


◇ Fin ◇






 今回の話はまぁ……幼馴染STORYですかね。
 No.3の話でケンカしていたのはコイツらです(ぇ

 それぞれ聡と菜月の気持ちだけ書いて終わろうと思ったんですが、間がもたず途中に普通の会話を投入。
 考えてなかった分、スゲー会話中心です。もっと描写入れようと思ったんですが、それぞれの気持ちを中心にしたかったんで
 下手に描写入れずに会話だけにしてみました。

 まぁ実際、幼馴染っている人少ないですよね。しかも異性のって更に……
 現実にあってたまるかっと思う方、いや私も恋愛系って書いててそう思うんですけど(ぇ
 まぁ実際ないからフィクションで楽しむってことにしといてください(ぇ

 ではNo.09 キスでした。



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