Eleventh Melody―体より心を大切にして―


関 東 大 会 2 回 戦
先   攻 後   攻
桜  花  学  院 VS 葉  梨  高  校
1年SS森   岡 蒼   柳RF 1年
1年  漣   城   所 LF1年
1年松   倉   響  1B1年
2年LF上   戸 大   隣CF 2年
2年3B高   橋 紅   松3B 1年
1年RF久   遠 平   野SS2年
1年CF佐 々 木 川   内 2年
2年1B山   里 佐   野2B2年
1年2B真   崎 翠   川1年


連夜「あ? エース響じゃねーのか?」

木村「翠川か……聞いたことあるな」

慎吾「情報あるなら早めに頼むぞ」

木村「あ、あぁ……」

慎吾「注意するの投打で響くらいなんだろ?」

連夜「この前の試合結果だとな」

佐々木「でもわざわざ響を降ろして使ってくるんだ。結構良いピッチャーだと思うが」

大河内「だろうね。バッターの方も1順目は慎重に、なるべく多くのデータを入手するようにしてくれ」

連夜「イエッサー」



響「え〜っ!? 今日俺じゃないの!?」

大隣「桜花のピッチャー、千葉予選で完全試合寸前までやったらしいからな。打撃の方に力を入れて欲しい」

響「別に良いのに……」

翠川「まぁまぁ、後は俺に任せんしゃい」

響「どうせ、持って3回だろ?」

翠川「………………」

大隣「否定しろよ」

蒼柳「まぁミドリだって3原色の1人なんだから大丈夫ですよ」

紅松「左様」

響「初登場だしやっといたら?」

蒼柳「仕方ないな〜、見とれよ」

翠川「翡翠の美しさ!」

紅松「真紅の輝き!」

蒼柳「蒼海の豊かさ!」

城所「三人合わせて!?」

イロレンジャー「色の三原色、イロレンジャー」

大隣「ちなみに言っとくが色の三原色は『赤、青、緑』だぞ? お前らの字、ちょっと違うぞ」

城所「まぁ良いじゃないですか。ちなみにこの三原色とは絵の具などではなく、光のほうのことです」

大隣「なに、その説明?」

城所「いや、何となく」

響「つーかちゃっかり参加してるんじゃねーよ」

城所「ちゃっかり固有アピールも兼ねてます」

響「いらーん!!!」



アナ「関東大会2回戦、千葉1位通過、桜花学院対神奈川2位通過の葉梨高校の1戦です」

解説「いい勝負になるのではないでしょうか? 打撃・投手レベル共に同等だと思います」

アナ「葉梨高校は今日、エース響くんをファーストで出してますね」

解説「どうなんでしょう? 1回戦の疲れがあるとは思えないんですが、恐らく調子が悪いんでしょう」

アナ「なるほど。ではまもなくプレーボールです」



1回の表

慎吾「とにかくだ。相手ピッチャーが分からない以上は球種なんかを探るしかない」

連夜「と言うことだ。シュウ、頼むぞ」

慎吾「お前がやれ」

連夜「………………」


翠川「はっ!」

ズバーンッ!

シュウ「……はい?」


慎吾「140キロ計測。速球派みたいだな」

真崎「速いな〜。まだ1年だろ?」

慎吾「速いだけなら打てるさ」

真崎「他人事だと思って」

慎吾「他人事だからな」

真崎「………………」


シュウ「たぁ!」

ガキョオォン!

シュウ「いってぇえぇ!!!」


アナ「1番森岡くん、ピッチャーゴロに打ち取られました」

解説「内角に素晴らしい速球でした。早い分、芯でとらえれなかったんでしょう」


連夜「よぉ、どうだった?」

シュウ「痛いわ重いわ、手が痺れたで散々だ」


翠川「はぁ!」

ビシュッ

連夜「はっ!」

キィィン


アナ「三塁線大きく外れてファール! 大分振り遅れてますね」

解説「振り遅れてますが、どうなんでしょうね? 故意にファールにしてる気もしますが」

アナ「故意にですか?」


連夜「(あのテの投手が変化球を使うとしたらチェンジアップみたいな緩急か フォールボールのような決め球のどちらかだ。タチの悪い3球種も4球種も扱う投手じゃないはずだ)」


翠川「たっ!」

スルスルスル……

連夜「なっ……んなろっ!」

カキーンッ


アナ「三遊間を破る!!! 2番漣くんのレフト前ヒット!」

解説「体勢が崩れながらも上手く打ちましたね」


慎吾「さすが漣だな」

大河内「それより外野の守備変わってるな」

真崎「え?」

慎吾「左中間、右中間がやたら狭くなってるな。塁線には引っ張れないっていう自信からか……」


連夜「スローカーブか……厄介なもん持ってるな」

響「ナイスバッティング」

連夜「なんでお前が投げないんだ?」

響「打撃に専念ってところかな。そちらの松倉くん、好投手のようだし」

連夜「あっそ。それにしてもやけにレフトとライトがセンターよりじゃないか?」

響「あれがうちの基本ポジションだ」

連夜「引っ張ったらあっという間に長打だぜ。松倉は俺の次に巧みなバッターだしな」

響「自分で言うなよ。ま、見てな」


カキィーン!

アナ「初球打ち! 打球は広く開いているライトへ!」


連夜「ざまぁみろ!」


蒼柳「シュオォォォ!」

シュタタタッ!!!

松倉「何ッ!? 漣戻れ!」

連夜「あ?」

パシッ!

アナ「捕った捕った! ライト蒼柳くん、俊足を飛ばして追いつきました!」


連夜「チィッ」

響「(パシッ)な、言ったろ?」


アナ「1塁ランナー漣くん、戻れない! ダブルプレー、蒼柳くんの好プレーが出ました」


慎吾「なるほど。足が速いから追いつけるって自信からか」

真崎「じゃあレフトもか?」

慎吾「だろうな。1.2番打ってるし気をつけるべきだな」

大河内「でもさ、センター足が遅いですよって言ってるもんじゃない?」

慎吾「……そうなりますね」




1回の裏

蒼柳「よ〜し、先制するぞ〜」


アナ「好守変わって葉梨高校の攻撃、トップバッターは先ほど好プレーを見せた蒼柳くんです」

解説「もう守備を見て俊足なのは分かってますからね。桜花としてはランナーに出してはいけませんよ」


連夜「(いくら足が速くても内野安打なんでそう出るもんじゃない。通常のヒットさえ防げば大丈夫さ)」

松倉「(ほんとお前のリードって良く分からんな。テキトーなこと言ってるのに正論だし……)」

連夜「(桁外れの俊足なんてもう相手したしな。あの程度ならシュウより楽だ)」

松倉「(まぁ殿羽の方がたしかに速かったな。OK、じゃどうする?)」

連夜「(どうせ相手はゴロを狙ってるに決まってる。なら打たせリャいいだけだ)」

松倉「(あ、今日はムラッ気リードなんだ)」


ククッ!

蒼柳「はちゃあ!」

ガキッ!

真崎「(シュ)


アナ「セカンドゴロ! これでは持ち前の足を生かせません」

解説「内角のスライダーでしょう。上手くミートできませんでしたね」


クククッ!

城所「ッ」

ブ━━━ンッ!


連夜「(おぉ、今日はスライダーが切れてるな)」

松倉「(ああ、良い感じだ)」


城所「さすが完全試合投手、並大抵のスライダーじゃないぞ」

響「ミートに心がければ当てれたと思うけどな」


アナ「2番城所くんは三振に倒れ、ツーアウトで今日は3番でファーストに入っている響くん」


国定「そういや1回戦は4番に入ってたな」

慎吾「響ですか?」

国定「ああ。ファーストにしたなら4番のままで良かったと思うが」

慎吾「……4番入っている大隣選手って1回戦では?」

国定「いや……たしかいなかったはずだ」

慎吾「……響のワンマンってわけじゃなさそうですね」

大河内「………………」


カキーンッ!

響「しゃ!」

アナ「痛烈な打球が1・2塁間を破っていく! ライト前ヒットォ!!!」


松倉「くそー。上手く打ちやがる」

連夜「ま、そう簡単に打ち取れたら苦労しないわな」

松倉「(左3人に対して全部内角スライダーじゃ読まれても仕方ないと思うけどな)」

連夜「それより、次だ。1回戦にはいなかった。どんなバッターか分からないぞ」


アナ「ここで今日4番に入っている大隣くん。どんなバッティングを見せてくれるでしょうか?」


大隣「よろしく」

連夜「こちらこそ。(チッ、いい構えしてやがる……)」


アナ「松倉くんセットポジションから……おっと! 1塁ランナー響くんスタート!」


松倉「何ッ! そらよっ!」

響「(ウェストした!)」


連夜「さすが松倉、舐めんなよ!」

大隣「ハッ!」


キィーンッ!

松倉「なっ!」

連夜「何ィッ!?」


アナ「ウェストしたボールを叩いた! 打球はライト前へ、響くんは2塁を蹴る!」


ビシュウゥン!

高橋「(バシッ)

響「ウソーッ!」


久遠「ふぅ」

アナ「ライト久遠くんの好返球! サード手前でタッチアウト!」

解説「素晴らしいコントロールでしたね。焦らず見事な送球でした」


連夜「まさかウェストした中途半端なボールを打ってくるとはな」

慎吾「良いバッティングセンスしてるぞ。あの4番」

真崎「でもあの場面でウェストできたのは松倉だからだろ? 普通できないぜ」

慎吾「…………調べ上げてるってわけか」

大河内「響にしろ大隣にしろ……選手情報を地区大会の時点で調べてたんだろうな」

連夜「!!!」

慎吾「どうした、漣」

連夜「あ、いや……何でもない」

シュウ「それじゃ先に点とりましょ」

佐々木「簡単に言うなよ」




2回の表


大河内「速球とカーブの緩急で攻める投手みたいだからな。カーブに手を出すなよ」

上戸「あいよぉ」

高橋「たしかに上戸は速球は比較的打てる方だが、見極めできたら苦労しないぞ」

大河内「だからお前を5番に添えてるんだ。お前には確実に打ってもらうぞ。な、綾瀬」

慎吾「そうっすね。上戸先輩には大きいのとりあえず狙ってもらって高橋先輩で返すのが理想ですから」

高橋「………………」


スルスルスル……


上戸「って3球全部かよ!」

ブ━━━ンッ!


アナ「4番上戸くん、ゆったりと曲がるカーブについていけず3球三振!」

解説「ストレートにヤマを張っていたみたいですね」


上戸「ごめんなさい」

大河内「どんまい」

慎吾「……詳しい情報が向こうにはあるようだな」

真崎「ちょっと試合見てりゃ分かるだろ。上戸先輩が変化球弱いの」

慎吾「ちょっと見ればな。こんな千葉でも弱い位置にあたる高校の試合なんて誰が見るんだ?」

木村「一応名門倒してるんで、そういうこと言わないでください」

国定「確かに松倉の投球技術とかは1試合2試合見た程度じゃ分からないだろうな」

慎吾「少なくても秋季大会は見てるってコトになりますね」

真崎「誰か知ってる選手がいたとか?」

連夜「壬生……」

慎吾「あ?」

連夜「………………」

慎吾「漣、様子おかしいぞ?」

連夜「え? あ……いや、大丈夫」

佐々木「明らかに大丈夫じゃねーよ」


カキーンッ!

翠川「くっ」

高橋「ふぅ……」


アナ「ライト前へ! 5番高橋くんがワンアウトから出塁しました」

解説「上手く腕を畳んで打ってましたね」


響「ワンヒットくらい気にするな。打ち取っていこう」

翠川「あいよぉ!」

響「最初から気にしてないな」


久遠「(あの手の投手は足を絡めれば崩しやすい。サードの守備がどんなもんか知らんが)」

コキンッ

アナ「送りバントかっ!? サード方向に上手く転がした」

解説「いや、自分も生きるセーフティバントですね」


紅松「なめるな、サード誰が守ってると思ってんだ!」

翠川「あ〜投げるな投げるな!」

紅松「(ガクッ)なんでやねん」


久遠「あれ? 送球しなかったの?」

響「恥ずかしいながらウチのサードは肩は強くないし、何より送球が下手なんだ」

久遠「いいのか、そんな情報くれて?」

響「見れば分かるじゃん」

久遠「まぁな……」


アナ「さぁ連続ヒットでチャンスを迎えます、桜花学院。バッターは7番佐々木くん」

解説「非常に粘り強いバッターですからね。フォアボールだけは避けたいところです」


翠川「(さて、このバッターは粘り強いんだよな。なら早めに使っちゃお)」


ククンッ!

ガギャアァン!

佐々木「ッ!」


アナ「ショート真正面! 6−4−3、最悪のダブルプレー!」

解説「あの佐々木くんが初球を凡打ですか……」

アナ「今のボールは……?」

解説「多分シュートだと思いますが」


佐々木「いって……なんつーシュート使うんだ……」

翠川「これが俺の武器だ! はっはっは〜」


慎吾「……相当情報が行ってるようだな」

真崎「え? どういうこと?」

慎吾「あんな決め球、初球から使うと思うか?」

大河内「粘り強いバッターって知って初球から打たせたってわけか……」

慎吾「でしょうね。無駄にスタミナ減らされるより、決め球使ってでも1球で済むんですからね」

国定「よっぽどだな。そこまで調べるわけがわからないな」

慎吾「それだったら漣が一番分かってるんじゃ無いか?」

連夜「………………」

木村「とにかく今は1点もやらないことだ。しっかり守れよ」

連夜「はい」

木村「……素直だな……」

慎吾「もちっと威厳っつーのを持てよ」

木村「お前も少しは先生として敬え」




3回の裏


翠川「地味ながら俊足の翠川参上!」

連夜「ほぉ。足に自信あるのか?」

翠川「おぅ! なめるなよ!」


クククッ!

ブ━━━ン!!!

連夜「お疲れ様」

翠川「………………」


コキッ

アナ「セーフティバントッ! 三塁線へ転がしました」

高橋「(ダッ!)任せろ」

ビシュッ!

アナ「アウトッ! サード高橋くん、見事な守備を見せました!」

解説「無駄のない良い動きでしたね」


蒼柳「くはぁ……やっぱ良い動きしてるわ」

城所「まぁまぁ。まだ作戦通りだしだいじょぶ!」


コキンッ!

松倉「またかよ!」


高橋「オッケ。(スッ)

ビシュッ

城所「(ズダッ)


アナ「セーフッ!!! 2番城所くん、セーフティバントを決めてきました!」


高橋「何ッ!?」

連夜「…………チッ、やってくれるな」


慎吾「良く考えたら高橋先輩の守備の上手さくらい、知ってるでしょうね。あのくらい情報いってるなら」

国定「まぁそうだろうな」

慎吾「まさか連続でセーフティをやってくるとは思わない。それに足の速さは見る限り蒼柳の方が速い。 それで刺してるもんだから高橋先輩にも一瞬気の緩みが出たんじゃないですか?」

国定「なるほどな。だがそれでも高橋の守備は完璧に近かった。それがセーフになったんだぞ?」

慎吾「つまり……」


高橋「すまん」

松倉「ドンマイです。守備は悪くなかったんです」

連夜「ああ。あの城所ってやつ、打った後のスタートが並みの速さじゃない」

シュウ「どういうことだ?」

連夜「純粋な足の速さなら蒼柳の方が速い。だがセーフになった」

松倉「つまり打った後のトップスピードになるのがヤツは早いってことか」

連夜「そういうことだな。ま、響で抑えるぞ」


アナ「さあバッターは最も期待できる響くん」

解説「ツーアウトですからね。城所くんの足に惑わされないようバッター中心で行ってほしいです」


ビシュッ

響「ハッ!」

パキーンッ

松倉「うわっ!」


真崎「くっ!」


アナ「ピッチャー松倉くんをかすめセンター前へ! ツーアウトから連打を浴びます!」

解説「ほんと良いバッティングをしますね、彼は」

アナ「ここで4番大隣くん。1打席目はライト前にヒットを放っております」


連夜「(だが1打席目は生きた球を打っていない。今日の松倉のキレは好調だし、そう簡単には……)」

大隣「………………」

松倉「…………ッ……」

真崎「(のまれたな……)」


カキーンッ!

松倉「!!!」


アナ「これは大きいぞ! 入るか!? 入るかぁ!?」

ガシャン!

佐々木「くっ……」

アナ「フェンスダイレクト! 2塁ランナー俊足の城所くんは悠々ホームイン。1塁ランナー響くんも3塁を蹴りそうだ!」

佐々木「なろっ!」

シュウ「(パシッ)いかすかっ!」

ビシュンッ!

ズシャアァア!

審判『セーフッ! セ―――フ!!!』

連夜「何ッ!? つーか行かすかよ!」

ビッシュ―――ンッ!!!

大隣「なっ!」

真崎「(バシッ!!!)しゃっ……」



アナ「クロスプレーはセーフッ! 4番大隣くんの2点タイムリーツーベース! 葉梨高校が先制しました!」

解説「しかし後の漣くんの判断は良かったですね。良くあのクロスプレーの中、見逃しませんでした」

アナ「スリーアウトチェンジとなりましたが、この回大隣くんの2点タイムリーで試合が動きました」


真崎「痛ッ……人が投げる球威か?」

連夜「アホか。ピッチャーは平気でそんなの投げて来るんだぞ」

佐々木「いや、お前はミット。真崎はグラブだぞ」

連夜「関係ないね」

佐々木「いやいやいや……」

慎吾「少しは先制された焦りを見せろよ」

木村「スゲーマイペースなチームだな」

国定「監督もですよ……」




5回の表


翠川「………………」

響「もうバテたのか?」

翠川「私シュートを使う関係で肘があまりよろしくないんですよ、奥さん」

響「うん、知ってる」

翠川「おかげでスタミナがあんまり無いんですよ、奥さん」

響「…………どうします、キャプテン?」

大隣「ん〜……もう少し引っ張ろうか。響だって準備してるわけじゃないんだし」

??「この回持たないようなら俺が行きますよ」

響「な、な、な、何―――ッ!?」

城所「正気か!? 壬生!」

壬生「あ、ああ。このチームと戦うために今まで我慢してきたんだからな」

響「……で、でもな……」

蒼柳「大丈夫。この回しっかり投げきれば、次の回は響が用意できるでしょ?」

響「……なるほどなぁ」

翠川「…………え?」

響&大隣「この回、交代することがあったら許しませんので」

翠川「……はぁ……」


アナ「5回の表、2点を追いかける桜花学院は5番の高橋くんから。第1打席目はライト前ヒットを記録しています」


高橋「ハッ!」


パッキーンッ!

翠川「ッ!!!」

アナ「これは大きい!? センター大隣くんバック……っとおや?」


大隣「オラーイ。(パシッ)

高橋「…………え?」

アナ「センターオーバーの打球と思われましたが、2・3歩下がった程度で捕りました。あまり伸びなかったんでしょうか?」

解説「いえ、予め下がってましたね。定位置なら抜けてましたよ」

アナ「なるほど。良いところに守ってました、キャプテンの大隣くん」

響「おい、翠川。コントロールが怪しくなってるぞ」

翠川「(ん〜って言ってもなぁ。明らかに球威も落ちてるんだよね)」

カ―――ンッ

翠川「ほらな」


アナ「続く6番久遠くんはライト前へ! 今、ストレートでしょうか? 難なく打ってましたが」

解説「変化球の投げそこないか、球威が落ちてるかのどっちかですね。後者なら響くんもいることですし、変えてくると思いますが」

アナ「さぁ何にせよワンアウトからランナーが出ました。続く佐々木くんはワンアウトですが、すでに送りバントの構えを見せています」


佐々木「(これなら……)」

スッ――キィィン!

アナ「おっとバスターだ! 前進していたサード、反応できず三遊間を抜けていく!」

解説「やはり疲れが出てきてるみたいですね」

アナ「と言いますと?」



慎吾「畳み掛けるなら今か……」

真崎「どういうことだ?」

慎吾「明らかに球威が落ちてるし、今の場面シュートを使ってこなかった。随分と疲れてるみたいだな」

木村「たしかにバントを防ぐならあのシュートを使わないのはおかしいな」

慎吾「つーことで真崎、森岡に確実にまわせよ」

真崎「……あのさぁ、俺じゃなくて今打席の山里先輩にも言えよ」


カキィン

アナ「内角のボールを上手く打った! 打球はセンター前に落ちるか!?」


蒼柳「シュオオオ!!!」

シュタタタッ!!!

久遠「嘘ッ! 追いつくのか!?」

パシッ! ズシャアァ!

山里「と、捕りやがった……」


アナ「な、なんとぉ!? ライト蒼柳くんがセンター前にポトリと落ちそうな打球をダイビングキャッチ!!! ランナー動けずツーアウト2塁に! これはファインプレーだ!!!」

解説「これは驚きましたね。良く追いつきましたよ、ほんと」


大河内「綾瀬、外野の守備結構細かく変わってるみたいだな」

慎吾「みたいですね。まんまとやられましたよ」

シュウ「最近、なんかメンドクさいねぇ。今度はどういうこと?」

慎吾「説明がメンドイがようは、センターの守備範囲が狭いんだろう。長打を恐れてずっと後退守備をとってる。 で、右バッターの時はライトの蒼柳が、左バッターの時はレフトの城所が前進してるんだ。さっきのような打球を捕るために」

松倉「よほど打球判断とスピードに自信があるんだな」

慎吾「そしてそれを実践でできる自信か……まぁ後は真崎が何とかしてくれる」

松倉「綾瀬って真崎に冷たいわりには信用してるよな」

慎吾「やるときはやるやつだからな。意外に頼りになるぞ」

松倉「ほぉ……?」


シュッ

真崎「(たしかに……な)」

カキーンッ!!!

響「(バッ)くっ……」

アナ「引っ張った打球は一塁線抜けた!!! ライトが右中間よりに位置してるだけあって大事になるぞ!」


蒼柳「かぁ……何してんだ、ミドリめ!」


アナ「俊足の久遠くん、ゆっくりホームイン。打った真崎くんも2塁……を蹴った! 蹴った!」


慎吾「は?」


蒼柳「それは無謀だろ!」

ビシュッ

アナ「セカンドが中継してサードへ! これは際どいぞ!」

真崎「たりゃあ!」

ズシャアァァ!!!


紅松「くっ……」

アナ「サード紅松くん、捕球できていない。セーフッ! 9番真崎くんのスリーベースヒットで同点!」


真崎「どうでい」


慎吾「な?」

松倉「あ、ああ。(この二人、まだ良くわかんねーな)」

慎吾「それより投手交代近いようだな。ブルペンで投げてるやついるぜ」

司「あいつか? 連夜の知り合いは?」

連夜「ッ! 壬生……やっぱり……」

司「お〜い、連夜〜?」

連夜「………………」

慎吾「……ほっとけ、薪瀬」

司「……あぁ……」


パキーンッ!

シュウ「よっしゃ」


アナ「センター前へ! 3塁ランナー真崎くん、ゆっくりホームイン! 桜花学院勝ち越し!」

解説「ちょっと引っ張りすぎましたね。この回から球威がガクッと落ちてましたし」

アナ「ここで葉梨高校、タイムを取ります。恐らくピッチャーの交代でしょう」


響「このアホ―――ッ」

翠川「………………」

紅松「で、どうするんだ?」

響「しゃーない。俺が行く」

壬生「それは約束が違うんじゃないか?」

響「キャーーーッ」

壬生「いや、そんな驚くとは思ってなかった」

響「ダメダメ。投げさせられへん、テクマクマヤコン」

紅松「何言ってんだ?」

壬生「とにかく、ここは俺が投げる。いや、投げさせてくれ」

紅松「まぁ響がいきなり投げるよりかは良いと思うけどな」

響「テクマクマヤコン」

紅松「響がこんなんだし、良いんだ。投げちゃえ」

壬生「ああ」

響「無茶しやがったら張った押すからな」

壬生「あぁ……」


アナ「やはり投手交代のようです。18番をつけている壬生くんがマウンドに上がります」


壬生「……久しぶりだな、連夜」

連夜「お前、何してんだよ。こんなところで」

壬生「お前と戦うために、かな? でも期待はずれだったよ」

連夜「あ?」

壬生「まさかバッティングスタイルを変えてるとはね」


ズッバーンッ!

連夜「ッ!!!」


アナ「…………えっと初球ストレート、真ん中付近でしたが漣くんが見逃し、ワンストライク」

解説「今、何キロ出ました?」

アナ「恐らく計測ミスです。続いて第2球」

解説「いやいやいや」


連夜「やめろっ! 壬生!」

壬生「試合中に敵に話しかけるなんてフェアじゃねーな」

響「(え? お前は?)」

ズッバーンッ!!!


アナ「…………どうやら計測ミスではないようです」

解説「1年生で145キロですか……」


連夜「(くっ……とりあえず打つしかないか……)」

ビシュッ!

スットーンッ!

連夜「なっ!?」


アナ「最後はフォークボール! 漣くん、三球三振!!!」


連夜「こ、ここでフォークだと?」

壬生「お前が自らを捨てたなら、俺もお前を抑えるのに下手なプライドなんて持たない。 つーか自分のバッティングを捨てるやつ相手じゃプライドも何もあったもんじゃないけどな」

連夜「ッ!」


慎吾「なんつー投手がいたもんだよ……」

真崎「逆転したんだし、抑えれば良いじゃん」

慎吾「ま、そうだが……(キャッチャー……変えるべきか……?)」




5回の裏


壬生「さてとさっさと同点にするぞ」

響「え? 打つの?」

壬生「当たり前じゃん」

響「漣のこと三振にとったんだし、もう良いじゃん」

壬生「はいはい。じゃ打ってくる」

響「お〜い……」


松倉「さっきのピッチャーからか。バッティングはどうなん?」

連夜「(チッ……あいつらは壬生のこと知らないのかよ……)」

松倉「お〜い……」

連夜「……ん? なんか言ったか?」

松倉「別に。それよりリード任せて大丈夫か?」

連夜「ああ」

松倉「(ほんとかよ。別のこと考えてんのが目に見えて分かるじゃねーか)」


アナ「さぁ逆転された葉梨高校、9番からと言うことで先ほどの回から登板している壬生くんがバッターボックスです」

連夜「お前のチームは誰もお前のこと知らないのか?」

壬生「知ってるよ。全員な。だから今まで登板を止められてたんだけど」

連夜「だったら!」

壬生「黙りな。敵のお前に心配される筋合いなんてない」

連夜「くッ……」


シュッ

壬生「ハァッ!」

パッキーンッ!!!

松倉「!!!」


壬生「お前のリードが取れればあの投手は半人前さ」


アナ「レフトスタンドへ―――!!! 壬生くんの同点ホームラーン!!!」

解説「バッティング良いですね〜。下半身を上手く使って打ってましたよ」


慎吾「…………大河内先輩、いけます?」

大河内「え? あ、あぁ。行けって言われたら行くが……」

慎吾「(どうする……漣を信じるか……一度頭を冷やさせるか……)」

大河内「……もう少し様子を見よう。やられっぱなしで代えられるのもヤだろ」

慎吾「……分かりました……」


アナ「試合は振り出しに戻り、打順はトップの蒼柳くんに回ります」

解説「葉梨高校としてはここで勢いに乗って逆転と行きたいですね」


コキン

蒼柳「だあーっ! 転がらねー!」

松倉「あん?」

連夜「………………」

松倉「おい漣!」

連夜「(ハッ)くっ!」

ビシュンッ!


審判『セーフッ! セーフッ!』


蒼柳「ラッキーッ」

松倉「お〜い、集中集中」

連夜「悪い……」


カツン

アナ「2番城所くん、送りバント成功。ワンアウト2塁と勝ち越しのチャンスでバッターは響くん」

解説「絶好の場面ですね。桜花としてはここで点をやったら流れは一気に持っていかれますよ」


松倉「(くっ……漣があーなら俺がしっかりしないといけないじゃねーか!)」

ビシュッ

クククッ

真崎「(甘いっ!)」

響「ハッ!」

カキーンッ!

真崎「なろっ!(バシッ)

松倉「真崎ッ!?」

響「何ッ!?」


アナ「おっとぉ!? 良い当たりでしたが、セカンド真崎くんのジャンピングキャッチ! セカンドライナーとなりました」

解説「良い反応でしたね。山里くんに比べるとグラブ捌きが不安ですが、その分守備範囲が広いですね」

アナ「これでツーアウト2塁となりました。しかし4番大隣くんに打席が回ります」


松倉「サンキュ、真崎」

真崎「いいってことよ。それより漣のリードはアテにならない。いざとなったら無視した方がいいかもしれないぜ」

松倉「あ、あぁ。だけど、俺はあいつを信じてる。あいつがいなきゃ元々野球なんてやってないしな」

真崎「(……随分信頼されてるねぇ。姿が野球始めたのも漣に惹かれたからからなのかな?)」


ビシュ!

キィーン!

大隣「くっ!」

アナ「内角のストレート! 三塁線大きくそれてファール! ツーストライクに追い込まれました」


松倉「ハァッ!」

クククッ!

大隣「ハッ!」

ブンッ!!!

ビシッ!!!

松倉「何ッ!?」

大隣「くっ……」

紅松「キャプテン! 振り逃げだ!」

連夜「しまっ」


アナ「おっと、キャッチャー漣くん。スライダーを捕球しきれません! バッターの大隣くんは一塁へ!」


慎吾「……大河内先輩……」

大河内「重傷だな」


紅松「キタよキタよ!!! チャンスでキタよ!!!」


連夜「(わ、悪い……)」

松倉「(別に良いけど……調子悪いなら変わったら?)」

連夜「(大丈夫だ。それに紅松は2打席ともお前に合っていない。かわして行くぞ)」

松倉「(お、おう)」


アナ「絶好の勝ち越しのチャンスを迎えて5番の紅松くんに打席がまわりました。ここまで2打席連続の三振に倒れています」

解説「油断は禁物ですよ。紅松くんは打率はあまり高くないものの打点はチーム1。得点圏打率に至っては――」

カキーンッ!

紅松「っしゃ!」

アナ「打球は右中間を真っ二つ! 3塁ランナー悠々ホームイン、1塁ランナー大隣くんは3塁へ!」

連夜「………………」

松倉「くっ……」


慎吾「……判断ミスしましたね」

大河内「しょうがないさ。それより交代するか?」

慎吾「……バカついでにこのまま行きましょう」

大河内「ああそう」

国定「このまま突き放されたらどうするんだ?」

慎吾「その時はその時でしょう。どっちにしろ漣がいなきゃ打線だって穴があくわけですしね」

国定「まぁ……な」


カキーンッ!

佐々木「オーライオーライ」

パシッ

アナ「大きな打球でしたが、センター佐々木くんが追いつきスリーアウトチェンジ。しかし葉梨高校、この回逆転に成功しています」

解説「良い打球判断ですね。守備で幾度となく松倉くんを助けてると思いますよ」


松倉「サンキュ」

佐々木「ああ。それより漣は……」

松倉「……今は待つしかないさ……」





カキーンッ

松倉「はぁ……はぁ……」


アナ「6回の裏、7・8と連続ヒット。ピッチャーの松倉くん、肩で息をしてますが……」

解説「前の回からちょっとピッチング変わりましたね。序盤とは球の勢いも違いますし」

アナ「疲れと言うことはないでしょうが、調子が悪いんですかね?」

解説「ん〜……早々崩すピッチャーではないんですけどね」

アナ「それでも桜花ベンチは動きはないようです。ここでバッターはホームランを打っている壬生くん!」


壬生「大したことないな、連夜。試合に集中できてないとは」

連夜「………………」

壬生「幻滅させるな。そんなお前と戦うために俺はコッチに来てないし、無理してマウンドにも立っていない」

連夜「…………ッ……」


シュッ

壬生「ハッ!」

カキーンッ!

真崎「抜かすかッ!」

バシッ!

シュウ「ナイス。(ビシュ!)


アナ「セカンド真崎くん、横っ飛び! 4−6−3と渡ってダブルプレー!」

解説「今日、セカンドはいい動き見せてますね」


松倉「悪ぃ」

真崎「気にすんな。それよりしっかりな」

ズキッ

真崎「(チッ……またか……)」

シュウ「真崎?」

真崎「あ、いや、何でもない。ほら、守るぞ」

シュウ「おう!」


ガキッ

松倉「くっ!」

シュウ「オッケーッ!」

シュタタタッ!

シュウ「とりゃ!」

スッ、ビシュン!

ズダッ!


審判『アウトッ!』

蒼柳「あ〜〜〜!!!」


アナ「完全に詰まった当たりでしたがピッチャーの右を抜けていき、面白い打球でしたがショート森岡くんが好守備を魅せました」

解説「この点差で保ってるのはバックの守備が大きいですね」

アナ「次の桜花の攻撃は8番の山里くんからとなります」


7回の表


響「壬生、大丈夫か?」

壬生「ああ。任せろって」

響「……なら良いけどな」


連夜「………………」

真崎「漣ぃ。お前、やる気あんのか?」

連夜「あぁ?」

真崎「足ひっぱんてんの分からない? お前がキャッチャーやってると勝てる試合も勝てねぇんだよ」

連夜「テメッ! もっぺん言ってみろ!」

真崎「何度でも言ってるよ! 相手のピッチャーと何があったか知らねぇがやる気がねぇならグラウンドに立つんじゃねぇ!」

司「やめろ! 試合中だぞ!」

慎吾「真崎も落ち着け。なんだってんだ急に」

真崎「腹立つんだよ」

慎吾「あ?」

真崎「姿も松倉も……他のヤツラも漣に惹かれて野球始めたり、またやる気になったんだろ」

松倉「…………真崎……」

真崎「他のヤツは知らないけどな、姿のことだけは良く知ってる。中学のアイツを見てたら絶対野球なんて始めねぇっと思ってた。 だから野球部のない桜花に入ったんだ。そんな決意を持ったヤツが野球始めたって聞いた時は驚いたよ」

連夜「………………」

真崎「松倉だって、そんな抜け殻みたいなお前のリードを今まで忠実に守ってきたんだ。それなのにお前は何してんだよ!」

ガシッ!

真崎「目ぇ覚ませよ!」

松倉「真崎、良いから離せよ。気持ちは分かったから」

慎吾「漣、真崎の言うことは最もだぞ」

連夜「……悪ぃ……どうかしてたな……」

慎吾「あのピッチャーとお前の間にあったことなんて知らないし、知ろうとも思わん。 ただお前はあのピッチャーに投げて欲しくないんだろ?」

連夜「……あぁ」

慎吾「なら打ってやれよ。打ってマウンドから降ろしてやれ。それも一つの友情じゃねぇの?」

連夜「!!!」

慎吾「下手なプライド見せんな。プライドを捨てろとは言わないが、中途半端なもん持ってると痛い目みるぞ」

連夜「…………綾瀬…………OK」

慎吾「良し。ランナー2人出ろ! 漣に回すぞ!」

シュウ「よっしゃあ!」


壬生「ハァッ!」

ズッバーンッ!

山里「くぅ……」


アナ「3球粘った後、2−3から高めのボール球を振ってしまいました!」


山里「スマン……」

真崎「ドンマイです。後は俺にお任せを」

慎吾「真崎。(チョイチョイ)

真崎「あん?」

慎吾「大河内先輩、お願いします」

大河内「へ?」

真崎「そりゃなくね? あそこまでカッコつけて代打って……」

慎吾「6回の守備のとき肘痛めたろ?」

真崎「!!!」

慎吾「はいはい、今日のお前は良くやったよ。今日は下がれ」

真崎「あ〜あ、お前、何でもお見通しでイヤだわ」

慎吾「と言うことで、お願いします」

大河内「OK」


アナ「おっと、ここで桜花学院が勝負に出るようです。真崎くんに変わりまして、12番をつけた大河内くんが代打に出るようです」


壬生「(ここで代打だと?)」

大河内「(さてと……仕事を果たすか)」

壬生「(まぁ……初見で俺のストレートを打てはしないだろう)」

ビシュッ!

大河内「………………」

バシッ

主審『ボールッ!』

壬生「チィ」

大河内「(やっぱ細かい制球力はないな)」

 実際壬生は前の回、松倉と高橋にフォアボールを出しており、そして自らボールを見て大河内は確信した。  そして、大雑把なボールはどんなに威力があろうと……

キィィィン!

壬生「なっ!?」

大河内「ストライクゾーンさえ通ってくれれば打つ自信はあるよ」

 桜花の反撃ののろしが上がった!


アナ「144キロのストレートを引っ張り三遊間を破るレフト前ヒットォ! ワンアウトから大河内くんが出塁しました」

解説「いや〜あのバッティングでスタメンじゃないのが勿体無いくらいですね」

アナ「右肩に不安があるようで、本来のポジションではなく千葉大会ではファーストを守ることも何度かありました」

解説「肩ですか。キャッチャーとしては致命的ですからね」


連夜「シュウ! 絶対まわせよ!」

シュウ「お、戻ってきたね〜。任せチョ」


ビシュッ!

シュウ「タァッ!(スッ)

パキーンッ!

壬生「くっ……んだと!?」


アナ「狭い狭い右中間を破る長打コース!」


蒼柳「抜かすかよ!」

大河内「嘘ッ!」

アナ「おっとライト蒼柳、俊足を飛ばして追いついた。大河内くん、慌てて2塁へ戻ります」


連夜「ほんとバッティング上手くなったな」

慎吾「ったりまえだ。誰が教えたと思ってんだ」

佐々木「っで何してんの、お前? 早く打席行けよ」

連夜「ん〜? ……あれ? バットこれだけだっけ? あの長いバットは?」

国定「アレだったら持ってきてないぞ。試合じゃ誰も使わないって言うから」

連夜「え、マジっすか? じゃあ上戸さんので良いや、貸してください」

上戸「良いよ〜」

国定「いや……上戸のほかのバットより重いぞ?」

ブンッ!

連夜「ん、十分ッす」

 一度振って感触を確かめバッターボックスに向う。

司「……アイツ……まさか……」

久遠「どうかしたか?」

司「漣連夜、その本来の姿が見れるかも知れないぜ」


ビシュッ!

壬生「ん?」

連夜「さー来いよ。パーティもこれでお開きだぜ」

スッ

壬生「……ふっ……来たな、連夜」


アナ「おっと? 漣くん、バッティングフォームを変えてますね」

解説「そうですね。今までよりもグリップを下げてますね。いずれにせよ初めて見る構えです」

アナ「1打逆転と行きたい桜花学院。漣くんのバットに託します」


壬生「行くぜ!」

ガバッ

大河内「何ッ!?」

アナ「おっとランナーがいるのに振りかぶった! 当然ランナーはスタートを切ります」


ビシッ!


連夜「なろっ!」

キィンッ


大河内「えぇ……」

紅松「(振りかぶる方も振りかぶる方だが、打つほうも打つほうだな)」

響「(もうお互いにお互いしか見えてないな)」


アナ「バックネットにあたりファールとなりました。しかし打たなきゃ盗塁が成功してたと思いますが……」

解説「その辺は漣くんらしくありませんでしたね。まず盗塁を成功させるべきでした」


ガバッ!

大河内「(そっちがその気ならトコトン行くぜ)」

アナ「大河内くんスタート! 完璧なスタートだ!」

ビシッ!

連夜「ハッ!」

ブンッ!

バシッ!

アナ「高めの速球空振り! しかしキャッチャー投げられない! ダブルスチール成功、2−3塁となりました」


壬生「(最後は…………いや、ストレートだ。今、対戦したかった連夜と対決してるんだ。フォークなんて投げられない)」

連夜「(……良い気分じゃねぇな……)」

ビシュッ!

連夜「もう終わりにしよう」


カキーンッ!!!

壬生「ッ! …………(フラッ)

響「壬生ッ!」

連夜「………………」








9回の裏


アナ「9回の裏、葉梨高校の攻撃は早くもツーアウトとなってしまいました。ここで1番に戻って蒼柳くん」


大河内「(高めのストレート)」

司「(はい)」

シュルルル!

キィン

蒼柳「くっ!」


アナ「高めのストレート打ち上げてしまった。これは万事休すか!?」


連夜「オーライ」

パシッ

アナ「7回からセカンドに回っている漣くんがしっかりキャッチ。ゲームセット! 5対4で桜花学院が勝利を収めました!」

解説「非常に良い試合でしたね。どちらが勝ってもおかしくない試合でした」

アナ「7回に漣くんの2点タイムリーツーベースで逆転後、松倉ー薪瀬のリレーで桜花学院が逃げ切りました」

解説「葉梨高校のほうはいずれも継投で失敗しましたね。早め早めで仕掛ければまた違う展開だったかもしれません」

アナ「今、両チームが整列し挨拶を交わしました」


ウウウウウウ━━━!!!


連夜「響!」

響「ん?」

連夜「悪かった。そう壬生に伝えてくれないか?」

響「イヤだね」

連夜「あ?」

響「壬生はなぜだか知らないが、お前ことやけに気にしていた。話があるなら当事者同士でやりな。仲介役はゴメンだね」

連夜「………………」

響「……明日の昼。俺らは神奈川へ戻る。その前に宿舎に来い。時間ぐらい作ってやる」

連夜「……サンキュ」



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