Thirtieth Ninth Melody―夏の終わりに……―


 前日、負けてしまった桜花だったが慎吾のことがあり、帰る予定が1日延びた。  投手陣や一部のケガ人は疲労を考えて、宿舎にいるが残りの暇人は甲子園へ観戦に来ていた。


連夜「どっち勝つかな?」

姿「どうだろうな……」


 姿や真崎は慎吾のところに行こうとしたが、今日1日は検査ということで観戦に来ていた。  一方の真崎は病院へ呼ばれ、説教を食らっている頃だろう。  ダメだというのに出場した報いだ。屁理屈をこねて言われたのは前の試合(延長18回の)だけだ、というつもりらしいが。


連夜「久々に賭けるか?」

佐々木「おい……」

松倉「俺は埼玉遊楽かな。戦った経験もあるし」

連夜「マジ? ないない」

佐々木「お前、過去の成績気にしすぎ」

姿「ピッチャーの乾だっていいし、何より矢吹が打つだろ」

連夜「まぁそうだけどさ……」

姿「じゃあ漣は椿木橋か?」

連夜「う〜ん……そうだな。乾たちを応援しつつ賭けは椿木橋」

姿「………………」


 準決勝、第1試合の豊宣対千歳は豊宣が4−3と辛くも逃げ切った。  そして第2試合、椿木橋対埼玉遊楽が始まろうとしていた。


乾「………………」


 この大事なマウンドにエース番号をつけている2年乾が上がっている。  昨年の秋よりエースとして投げており、今大会も好投を見せている左腕だ。


連夜「コントロールは元々良かったが、かなりいいな」

松倉「体つきといい秋季大会とは大違いだな」

姿「じゃなきゃここまで勝ち上がってないだろ」

松倉「ま、そういうことだな」


 その乾、要注意である1番東馬、3番鞘師を抑えるなど3者凡退で初回を終える。  一方の椿木橋は背番号17の同じく2年左腕、藤真が先発マウンドに上がった。


藤真「うっしっし、うちの監督もお目が高い。この大事なマウンドを託してもらえるとは」

東馬「いや、明日が決勝だから温存だ」

藤真「!!?」

笠間「おいおい、わざわざ落とすなよ。しかも試合前に」

東馬「アホか、笠間。いくらこいつでもそんなことに気づかないわけないだろ」

藤真「そうかそうか……やっぱここ一番は真次先輩か……」

笠間「………………」

東馬「………………」


シュッ


カァァンッ


 1番馳倉、初球を捉えセンター前ヒットで出塁。


馳倉「甘すぎ」

東馬「代わってもらうよ?」

藤真「もう大丈夫、目が覚めた」


 続く御柳への投球。


ガゴッ


日夜「んぎゃ!?」


 送りバントをしようとしているところ、高めのストレートを殺せず上げてしまう。  藤真が捕球してワンアウト。すぐに1塁に送ってダブルプレーになる。


連夜「勿体ねぇな」

佐々木「面白いな、左腕対決」

松倉「姿がどっちにいても空気になりそうだな」

姿「うるせぇよ」


 桜花の連中がスタンドで観戦中のところに今では見慣れたユニフォームを着た選手たちがやってきた。


白夜「レン兄?」

連夜「ん?」


 そこには弟の白夜と見慣れない2人がいた。  しかし連夜はその2人を知っていた。


連夜「なんだビャクか。それに……」

大澄「こんにちはお兄さん!」

冴神「ども」

連夜「あぁ、あの時の。あの時は悪かったな」

冴神「いえ、後で漣から事情聞いたんで」

大澄「僕はお兄さんのお役に立ててよかったです!」

連夜「あ、うん、ありがとう」

大澄「お兄さん、つかぬ事をお聞きしますがよろしいですか!?」

連夜「いいけど、なに?」

大澄「付き合ってる人いますか!?」


 グラウンドでは熱戦が行われているというのに、なぜかその場だけ冷たい風が流れた。  と言うか聞かれた本人は意味が分からず呆然としているだけなのだが。


姿「……弟くんよ、ちょっと」

白夜「はい?」

姿「彼、何を血迷ってるの?」

白夜「いや、なんか兄がストライクゾーンらしくて」

佐々木「いや、男だぞ? そっち系なのか?」

白夜「割と普通な男です。むしろ暑苦しいぐらいに」

松倉「でもそういうやつに限ってってあるよな」

冴神「リアルですね」

姿「まぁ漣って髪長いし見ようによってはあるかもね」


ズサッ


姿「って一斉に引くな!」

松倉「勘弁しろよ、そんなやつと今後一緒に野球できないぞ」

冴神「それ言ったら俺ら痛いです」

白夜「でも痛いのはあいつ1人だ」

佐々木「弟くんも髪伸ばせば似るんじゃないか? 顔立ち結構似てるし」

白夜「止めてください」


 などと勝手なことを言っている中、大澄にアタックされ続けている連夜は……


連夜「あの助けてください」

全員「………………」


 ある意味、甲子園の激闘の後より疲れている連夜がそこにはいた。


 スタンドでそんな会話をなされている中、グラウンドでは動きがあった。


カッキーンッ!


乾「なっ!?」

藤真「よっしゃあ、3つ!」


 6番藤真の長打で2死ながらチャンスを作る。  ちなみに3つはいけず2つ止まりだったが。


日夜「気にするな」

乾「分かってるよ」


 椿木橋はエース桜井真次が凄すぎて周りが若干霞んでいるが  実は藤真を中心に2年が打線を形成している。  上位打線だと1番東馬、3番鞘師。下位だと6番藤真、7番笠原、8番鏡、と。


鏡「笠原〜俺までね〜」

笠原「おう!」


乾「(鏡は今大会チームトップの打点数だ。チャンスにまわしたくねぇな)」


スルスルスル……


笠原「ほっ!」


キィーンッ


乾「しまっ!?」


 高目から落ちてくるスローカーブを逆らわず、ライト方向へ打ち返す。  外角に決めるはずが内に入ってしまった。乾の失投だ。


ズダッ


バシッ!


笠原「んげ!」

馳倉「舐めないでよね、うちの守備力」


 乾や矢吹を擁していることから圧倒的な打撃力で点をとり、乾が抑えるというチームに思われがちだ。  いわゆる桜花のようなチームといえるのだが、基本的には埼玉遊楽は守備のチーム。  メンバーは少し変わったが、馳倉、御柳の二遊間を筆頭に守備力には定評がある。  そう、無駄に派手な桜花とは違って、堅い守りがうりだ。


乾「ナイス、セカン」

馳倉「後、2戦。疲れたなんて言わせないぞ」

乾「あいよ」


 一方、埼玉遊楽の下位打線は藤真の前にランナー出せず無得点。  やはり試合は両左腕の投げ合いになりそうだ。


姿「そういや、さっきの試合見事だったな」

白夜「あ、どうもです」


 準決勝第1試合、豊宣対千歳は白夜が投げ9回3失点完投で勝利を収めた。  決勝前に青波龍滝を温存できたことは豊宣にとってかなり大きかった。


松倉「弟くんのチェンジアップってどう持ってるの?」

白夜「えっとまぁこういう感じですね」


 ボールがないため左拳をボールと見たて握りを見せる。


松倉「本当にOKみたいな感じなんだな」

白夜「この握りから中指と薬指で挟んで投げるとバルカンチェンジという 変化になるらしいです」

松倉「何それ?」

白夜「僕もある人から球種名は聞いただけなんですが、SFFのような感じらしいです」

松倉「ふぅ〜ん、覚えておこ」

姿「ってお前はこれ以上余計なもん覚えなくていいから秋に間に合わせろ」

松倉「余計なもんって言うな」

連夜「それよっかこの投手戦は埼玉遊楽は厳しいだろ。打線じゃ勝ってそうだが」

大澄「どうしてですか?」

連夜「藤真の後には桜井がいるからな。対する埼玉遊楽は乾以上のピッチャーはいないだろ」

豹「龍の前にランナー溜められるかがカギだろうな」

連夜「よっ」

豹「白夜が甲子園に残ってるっていうから俺も来た」

白夜「僕の場合、もう出番がないからですよ」

豹「それは分からないだろ。青波先輩にアクシデントあるかも知れないし」

白夜「まぁそうですけど……」

豹「それより、何してンの、お前ら」

連夜「流せ……」

大澄「〜〜♪」


 流石に後輩とかつての親友が腕を組んでいたら流すことは無理だろう。  連夜も抵抗を諦め、試合見るのに集中していたのだが豹のせいで思い出してしまった。


ガキッ!


タッタッタッ


 1塁方向へ叩きつける。1塁がとるもベースカバーが遅れ、1塁はセーフ。  ノーアウトのランナーが出た。


日夜「ふぅ……」


笠原「遅いわ!」

藤真「アホかお前。今のはお前がとって一塁へ走らなきゃ」

笠原「間に合うわけねーだろ!」


 2番御柳の内野安打でチャンスメイクをし、3番の矢吹にまわってくる。


藤真「まぁでも、こいつに打たせなきゃいいんでしょ?」

龍「………………」

藤真「いくよ」


ビシュッ!


龍「シッ!」


ピキィーンッ!


藤真「なっ!?」


 打球は外野への大飛球。手ごたえを感じなかったのか、打った瞬間矢吹は全力で走る。  御柳もそれにつられ走り出すが、外野は確実に抜ける……ように見えた。


ダダダダダッ


鏡「とりゃあぁぁっ!」


バシッ


ズッシャアッ


龍「なんだと!?」

馳倉「御柳、戻れ!」

日夜「マジかい!」


 3塁手前まで走っていた御柳は急ブレーキをかけ、1塁へ戻る。  しかしセンターからの返球のほうが早くダブルプレーに。


龍「ぐっ……」

日夜「悪い、焦った……」

龍「いや、お前のせいじゃない……捉えきれなかった俺が未熟だっただけだ」


 完璧に抑えている乾、要所要所を抑えている藤真。  性格の面も強いが、精神的には藤真の方が余裕があった。  やはり何だかんだいっても後ろにエースがいるというのは全然違うようだ。


連夜「何してんだ、あのアホ……焦るところじゃねーだろ」

佐々木「ランナーの足を考えれば様子見てからでも十分だったな」

豹「しかし龍もらしくねぇな。あの程度、打てないなんて」

姿「あの程度って……」

松倉「こら進藤くん、姿クンはあの程度も打てないんだから言っちゃいかん」

姿「ほっとけ」

連夜「お前らは青波の投球を間近でみてるからそんなこといえるんだ。 あの藤真ってやつ、相当速いぞ」

白夜「まぁそれもあるかも」

豹「まぁ所詮は運だけで上がってきた某千葉の高校とは違うんだよ」

某千葉の高校の人たち「あん?」

豹「冗談だっつーの」

冴神「でも桜花は国立玉山や一宮とは戦ってないんですよね」

連夜「あいつらが勝手に落ちてった」

冴神「ものはいいようですね」

佐々木「でも次の千葉大会は激戦区だぞ。鈴村、鳴海、前田、林藤と好投手が目白押しだ」

連夜「うちにも大エースが復活するし」

松倉「でも大河内さんとか引退だぜ? かなり戦力落ちるんだけど」

連夜「…………あ」

佐々木「あ、じゃねーよ。今気づいたんかい」

連夜「まぁなんとかなるっしょ」

白夜「そういうところはあんまり変わってないんだな」


 試合は終盤、9回の表。椿木橋は8番の鏡からの打順。  ここまでお互い無得点。このまま行くと今大会3回目の延長戦に突入する。


乾「ふぅ……」

馳倉「大丈夫か?」

乾「心配無用!」

日夜「次は1番から。サヨナラゲームにしてやるよ」

乾「……いや、お前が言っても説得力が……」

日夜「どうせ地区大会の打率1割切ってるし、甲子園来てからも.222だよ!」

馳倉「裏は俺から攻撃だ。サヨナラにしてやる」

乾「あぁ! 頼んだぞ!」

日夜「へーんだ、いいよいいよ」

乾「冗談だっつーの」


鏡「絶対に出る!」


 ここまでチームトップの打点を挙げている鏡だったが決めるバッターというよりは  1・2番タイプで守備がずば抜けているタイプだ。  打点が多いのはチャンス強さもあるが、打順のめぐり合わせだったりする。


乾「せいっ!」


シュッ!


ズバァンッ


鏡「むぅ……」


 外角低めに決まる。9回に来てもコントロールは乱れていなかった。


カクンッ


鏡「このっ!」


ガキンッ


 縦に落ちるカーブだったが芯をくえず引っ掛ける。  しかし振り切ったせいかか、投・三間に高く跳ね上がる。


戸津川「任せろ」


シュッ!


ズダッ!


審判『セーフッ!』


鏡「おーし、見たか!」


 勢いあまって1塁駆け抜けた後、こけたように倒れこんだがケガというわけではなさそうだ。  椿木橋、この無死のランナーを確実に送りバッターは1番に戻って東馬。


乾「(3番の鞘師までは回したくない……なんとか切らなきゃな)」

東馬「(ここは俺で決める必要はない。2死でもいい、鞘師にまわせば勝ちだ)」


 両軍思っていることは一緒だった。今大会、打率4割強の鞘師にまわせるか、その前で切るかが勝負を決するだろう。  そしてその前を打つ1・2番で期待できるのはこの東馬だった。


藤嶋「(敬遠して2番をダブルプレーにとるか?)」

乾「(いえ、それはないです。万が一、取れなかったら鞘師にまわります)」


 乾は左投げ、鞘師は左打ちだが鞘師は特に得意不得意はない。  むしろ乾は苦手とまではいかないがカーブ主体の投球のためインをつけない  左はそれほど得意とはしていなかった。


乾「――!」


 ここで投球を開始する前、相手ベンチが動くのを見た。  そしてベンチからネクストに桜井真次が向かった。


藤嶋「(おいおい、マジか……)」


 桜井も藤真も先発時は6番を打っているがバッティングはかなりいい。  意地でも鞘師にまわそうとしているのが見て取れる。


東馬「どうした?」

乾「別に。行くぞ」


しゅるしゅるしゅる……


パシッ


 初球のスローカーブを見逃す。判定はボール。  バッテリーは悩んでいた。東馬と勝負すべきか、塁を詰めて桜井勝負か。  1点で勝負は決するため、ここは守りにいくべきではあるが……


シュッ!


東馬「ハァッ!」


ピキィンッ!


乾「――ッ!」


 低めだったが、真ん中よりに入ってしまい東馬は難なく打つ。  打球はショート横を……


バシッ!


東馬「なんだと!?」


 抜けなかった。守備でレギュラーをとった男、御柳日夜。  これぐらいやらなきゃまったくもって守っている意味がなかった!


日夜「言いすぎだボケェ!」


シュッ!


 すぐに立ち上がって1塁へ送球。  捕手を守ってるわりには足の速い東馬だったが間に合わず1塁はアウト。


東馬「くそぉ……なんだ、あのショート」

乾「はぁ……マジで焦った。サンキュ、御柳」

日夜「いいってことよ。後1つだぜ」

馳倉「だがその1つまで困難な道のりになりそうだぜ」


 ここでネクストにいたとおり、代打に桜井を送ってくる。  裏の守りなら確実に満塁策を取る場面だが、今は表。  しかしそれを取りたくなるほど桜井、そして鞘師のバッティングは良かった。


ビシュッ!


バシッ


審判『……ボールッ!』


乾「え!?」

藤嶋「(うわ、きっつ……)」


 次の鞘師にはまわしたくないが、甘いと打たれる。  ランナーは3塁にいるため、ヒットはもちろんちょっとしたミスが得点に繋がる。  様々なプレッシャーが乾の左肩に重くのしかかる。


カクンッ!


真次「シッ!」


キィンッ!


乾「おしっ!」

真次「くっ!」


 しかしここは乾が勝った。9回に来てもカーブの変化、キレ共にまだ衰えてなかった。  打球は弱々しくセカンドへ転がる。


ビシッ


馳倉「…………え?」


 ここで思いがけないことが起こった。セカンド馳倉が打球を弾いてしまう。  打球は2塁ベース横へ転がっていったため、確かに逆シングルでの捕球になるが  それでも地区大会通してエラーしてこなかった名手・馳倉のエラーは誰もが驚いた。


鏡「うぉぉぉっ!!!」


ズシャアァッ


 打球が外野、センターへ転がっている間に3塁ランナー鏡が叫びながらホームイン。  虎の子1点が……そして決勝点となる1点が椿木橋に入った。


馳倉「すまん、本当にすまん!」

乾「アホ。次、お前からで絶対サヨナラにしてくれるんだろ?」

馳倉「………………」

乾「まだ終わりじゃねぇ」

馳倉「……乾……」


 ポンと馳倉の肩を叩き、ロージンを手につける。  まだ乾の気持ちが切れてないことを確認するとそれぞれの守備位置に戻っていった。


鞘師「いいですね、好きですよ、そういうの」

乾「黙れ」


シュッ!


鞘師「もう終わりですよ!」


ピキィーンッ!


乾「ハセッ!」


ダッ!


馳倉「このぉ!」


ビッ


鞘師「――!」


 確実にセンターへ抜けると確信していた鞘師だったが、セカンド馳倉の横っ飛びに抑えられる。  捕球までは出来なかったがグラブで止め、すぐに拾いセカンドベースカバーの御柳へトス。


審判『アウトォッ!』


日夜「オッケーッ!」

乾「さすが、日本一のセカンド」

馳倉「悪い、嫌味にしか聞こえない」

乾「本当の意味になるか、嫌味かは次の結果次第だぜ」


 1点リード、椿木橋はそのまま藤真がマウンドに上がった。  桜井はそのまま外野に入った。


藤真「うっしっし、いやー投げさせてもらえるとはね」

東馬「延長にならんとも限らんしな。それに豊宣は今日、青波が投げてないようだし」

藤真「だから落とすのヤメレ」

東馬「良いから抑えろよ」

笠間「(これだけ突き放すキャッチャーも珍しいよな、多分……)」


 9回の裏、1点を追う埼玉遊楽は1番の馳倉からという好打順。  こちらも何とかランナーを溜めて矢吹にまわしたいところ。


藤真「させねぇよ!」


クククッ


馳倉「ラァッ!」


ピキィーンッ!


藤真「おっと!?」


 外角へ沈むスクリューを狙い打ち、打球は軽快に1・2塁間を抜ける。  こちらもノーアウトで先頭バッターを塁に出す。


日夜「さっすが、ハッセ」

龍「1点差だ。俺にまわせ」

日夜「アイアイサー」


 続く2番御柳は送りバント。  1度失敗しているが元々はヘタではない御柳、ここは確実に決め1死2塁。


藤真「うっしっし、いいねぇ。こういう痺れるような場面での対決」

龍「………………」

藤真「行くぜ、矢吹クン」

龍「……来い!」


ビシュッ!


グッ


龍「――!」


キィンッ


 初球、内角の少し甘いところだったが、シュートして食い込んできた分だけきつくなりファールになる。


藤真「悪いけど、俺はこの場面じゃ失投しないよ?」

龍「お喋りなやろうだな」

藤真「へいへい、それは悪かったね!」


クククッ


バシッ!


審判『ストラーイクッ!』


東馬「(ほんと、こういう場面での藤真は凄いな)」


 キレ、コントロール共に抜群のスクリューが来た。  東馬はこういう場面ではヘタにリードせず藤真に任せている。  自身がリードに自信があるわけでもなく、藤真はこう見えて投球に関しては考えて投げれる方だ。  だからこそ、決め球のスクリューを2球目に使い、どう決める予定なのだろうか?


東馬「(それに矢吹、何が狙いだ……?)」

藤真「(ま、普通に考えればストレートだろ)」


 初球のシュートを振ってきたのは甘いストレートだと思ったからだ。  なら変化球で決めるのはベストだが、矢吹のセンスを考えると変化球は拾われる可能性がある。


藤真「可能性の話ばかりしてもラチがねーけどな!」


ビシュッ!


龍「――!」


ズッバァァンッ!


龍「なっ!?」


 待っていたボールが来た、タイミングバッチシだった。  そして高めのストレートを空振りした。  ただ藤真のストレートが矢吹のスイングに勝った。それだけが事実だった。


藤真「うおっしゃあっ! どーでい、このやろう!」

東馬「はいはい、あとワンアウトだ。頼んだぞ」

藤真「酷い……」


 頼みの綱、矢吹が倒れツーアウト。


龍「……すまん」

乾「謝るなよ。お前が無理ならうちは打てるヤツいねーし」

龍「……まいったね。俺が打てないの、同世代じゃ高杉ぐらいだろ思ってたのに」

乾「幸か不幸か、あいつは同い年か……まだリベンジのチャンスがあるって思えば嬉しいかな」

龍「前向きすぎんだろ、それ」


 4番芦屋が三振に倒れ、ゲームセット。  甲子園に今日2度目となる終わりを告げるサイレンが鳴り響いた。


ウウウウウウ――ッ!!!


連夜「ん〜……全国って広いよね」

姿「知らない選手が多いもんな……俺らよりレベルの高い選手でさ」

豹「少なくてもそれはお前らにも言えることだぜ」

連夜「ん?」

豹「誰も相手にしてなかったDランクのお前らがベスト8なんだ。 お前らが今、感じたこと他のやつらがお前らに対して思ってるよ」

連夜「優勝しろよ」

豹「もち」

松倉「さて、帰るか。混み出す前に」

白夜「レン兄、あのさ……」

連夜「大会終わったら一度こっち来い。親父も心配してる」

白夜「……うん、わかった」

大澄「お兄さん、お元気で!」

連夜「う、うん郁郎もね」

豹「なに、お前らデキたの?」

連夜「………………」

豹「冗談だって」


 桜花は初出場ベスト8という結果を引き下げ千葉へ帰省する。  初出場や戦力層を考えれば十分すぎる結果といえる。
 しかし、これで終わりではない。
 国定らが抜け、新チームとなる秋の大会こそがチームとしての力が試される。
 そしてこの甲子園で収穫を得た連夜が次に行動を起こすのは?
 運命は結末へ向け、変わらぬ螺旋を描いている……




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