Seventieth Second Melody―Good-bye of the eternity―


慎吾「なんで宏明さんを殺した?」


 辺りは静寂に包まれる。そんな中、綾瀬大地からの返答が嫌に長く感じた。


大地「ふむ。それに関してはノーコメントとさせてもらおうか」

慎吾「ノーコメントだと?」

大地「私はその件には直接は関わってないものでね」

慎吾「ふざけるな。お前の差し金だろ?」

大地「まさか、と言いたいところだが今回のことは美佳の時と一緒だ」

慎吾「なに?」

大地「私の判断外での出来事だってことさ」

慎吾「……それは俺に答えを与えているのと一緒じゃないか?」

大地「ん? そうかい? ま、どうとってもらっても構わないさ」


 電話からでも伝わる大地の飄々とした態度が気に食わなかったが  これ以上追及しても無駄だと思い次の話題に切り換える。


慎吾「じゃあ犯人から宏明さんを殺すことは聞いてなかったんだな」

大地「ん? 指示は出したよ。何だったら殺してもいいよってね」


 とんでもないことをさらりと言ってのける男。  真崎に聞こえない電話で良かったと慎吾は思っていた。


慎吾「何が関わってないだ」

大地「直接は関わってないって意味さ。別に真崎宏明が生きようと死のうと俺には関係ないことだ」

慎吾「なんだって?」

大地「だってそうだろ? 椎名探偵やお前に真犯人が伝わるってだけだろ?」

慎吾「………………」

大地「その前の段階で椎名探偵にはバレてる。最も本人が喋っただけだけどな」

慎吾「つまり取引はあんた有利に進められてたわけか」

大地「そうだねぇ」

慎吾「宏明さんはハメられたわけか」

大地「……人聞きが悪いな。取引を望んだのは彼自身だ」

慎吾「どうだか」

大地「ま、信じようが信じまいが関係ないけどね」

慎吾「それでアイツはどうしてるんだ?」

大地「それだよ、僕が電話してる理由」

慎吾「なに?」

大地「刺客にある物を渡した。受け取るがいい」

慎吾「………………」


 刺客に視線を移すと何も言わず懐から手紙とオルゴールを取りだした。


慎吾「これは?」

大地「助けに来い。来なければ命はないと思え」

慎吾「――!」


ツーツーツー


 今までとは違う口調で言った後、すぐに電話が切れた。  それを確認した刺客は携帯電話を慎吾から取り、その場から立ち去った。


慎吾「このオルゴール……」


 それは慎吾が家を探しても見つからなかった姉、美佳が好きだったオルゴールだった。  試しにならしてみると正常に動き、懐かしいメロディが鳴り響いた。


姿「このメロディ……どっかで聞いたことあるな」

慎吾「野球部の応援の時のアレンジの元……らしい」

姿「あーなるほどね」

真崎「それで朝森先輩は?」

慎吾「まずはこの手紙を読んでみようや」


手紙


 手紙を読み終え、慎吾はふぅと溜めていた息を深く吐いた。  真崎や姿、椎名にも見えるようにしていたため、同時に読んでいた真崎は絶句していた。


真崎「……本当に朝森先輩が……」

慎吾「白詰草ね……」

姿「意味は?」

慎吾「幸運……そして約束だったかな」

姿「約束……」

シイナ「朝森瑞奈は綾瀬大地に捕えられている。ただでは済まないだろうな」

真崎「綾瀬! 助けに行けよ」

慎吾「………………」


 刺客から手渡されたのは手紙とオルゴール、そして朝森瑞奈が捕まっていると思われる場所を示した紙だった。  そして綾瀬大地には助けに来なければ命はないと言われた。


慎吾「……だが……」

真崎「俺に気を遣ってんのか!? 朝森先輩はお前にとって大事な存在じゃないのかよ!」

慎吾「………………」



   助けに行く           行かない



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