Seventieth Fourth Melody―信―


 慎吾は綾瀬大地に指定された場所に来ていた。  そこは紛れもなく、姉である綾瀬美佳が生前に好きだった公園だった。


慎吾「ここで決着つけようってわけか」


 この公園は美佳が死体となって発見された場所でもあった。  慎吾は公園の中央に向かって歩き始めた。  そしてベンチに座って本を読んでいる大地の姿を発見した。


慎吾「……よぉ」

大地「……来たな」


 大地は本をそっとベンチに置いて立ち上がった。


慎吾「アオの世界か」

大地「お前も読んだんだったな」

慎吾「元々はあんたが薦めてきたんだけどな」

大地「ふむ、そうだったかな」

慎吾「で、何の用だ? 大事な用事蹴ってまできて、小説の感想の言い合いだったら怒るけど」

大地「基本的に私から用事ってことはあまりない。用があるのはそっちだろう?」

慎吾「宏明さんの時もそう言ってたけどな……」

大地「それで?」

慎吾「いいよ、じゃああえて聞こうか。アイツを殺したわけは?」

大地「アイツというのは瑞奈のことかな?」

慎吾「兄妹と聞いたけど?」

大地「簡単さ。美佳を殺した犯人だからさ」


 そう口にした大地の眼が鋭く光った。


慎吾「じゃあなぜ、当時事件が起きた時に消さなかった?」

大地「利用価値があったからさ。それに妹ということも少しは考慮した」

慎吾「利用価値というのは俺に近づけさせるためか?」

大地「そう。瑞奈はお前にとってかけがえのない存在になっていたはずだ」

慎吾「………………」


 それに関しては慎吾は何も口にしなかった。


大地「どうだ、慎吾。俺と共に来ないか?」

慎吾「……なに?」

大地「姉を失い、大事な人をも失った。お前は俺に近い存在だ」

慎吾「だから一緒に来いと?」

大地「俺もそうだ。大事な兄姉を失い、大事な人を失った。お前と同じ状況だ」

慎吾「………………」

大地「さぁ、俺と共に来るんだ、慎吾よ」

慎吾「その前に一つ、聞かせてくれないか?」

大地「なんだ?」

慎吾「あんた、自分の意志で動いているのか? それとも……」

大地「裏に誰かがいるか……か?」

慎吾「……漣から聞いた。あんた、朝里を恨んでいるんだって?」

大地「あぁ、朝里優美が教えてくれた。兄や姉が亡くなったのは朝里の仕業の可能性があると」

慎吾「優美さんが……?」

大地「朝里グループは今、トップの肯定派と否定派に分かれている」

慎吾「……内部分裂が起こってるわけか?」

大地「そう。正確には俺は朝里のトップ否定派を潰そうと動いているわけだ」

慎吾「――!」

大地「もう分かっただろ?」

慎吾「まさか裏であんたを動かしているやつって……」

大地「そう、朝里のトップさ」

慎吾「意外だな。一人立ち向かってる一匹狼なイメージだったが……」

大地「人間、一人じゃ何も出来ないさ」

慎吾「何で朝里のトップに従う気になったんだ?」

大地「あの人もまた、僕と同じ立場だったからさ」

慎吾「同じ立場?」

大地「兄弟……弟さんを事故で亡くしているらしい」

慎吾「……事故?」

大地「そう、あくまで表面上はね。実際は当時の朝里の陰謀だった」

慎吾「……だからあんたと一緒ってわけか」

大地「そういうこと。そしてお前もまたそうだろ?」

慎吾「俺の姉は別に朝里の陰謀なんかじゃないけどな」

大地「失ったという点では一緒だろ。お前は俺と一緒の存在なんだ」

慎吾「………………」

大地「だから今一度問う。俺と共に来い」

慎吾「……夢……見るんだよ」

大地「夢?」

慎吾「あんたとゲームをするって決めた日から決まって見る夢がある」

大地「………………」

慎吾「1人の少年が楽しそうに野球をし……そして事故に遭うという夢だ」

大地「ほぉ……」

慎吾「正確には事故に遭ったのは少年に野球を教えてるお兄さんの方だがな」

大地「………………」

慎吾「椎名探偵が前に俺に問いかけた、同じ夢を見ないかって……そして教えてくれた、あんたのこと」

大地「俺のこと?」

慎吾「あんた、不思議な力があるんだってな。相手の脳裏にある映像を流すことが出来る……」

大地「…………そうだ」

慎吾「あんたなんだろ? 俺に夢を見せていた……いや、その力を使い、夢だと思いこませていたのは」

大地「……この力は俺たち兄弟が皆、持っていた未知の力だ」

慎吾「兄弟? あんただけじゃないのか?」

大地「兄は思っていることを相手に伝える……言わばテレパシーの能力、姉は瞬時に先を読む力を持っていた」

慎吾「そしてあんたが相手の脳裏にある映像を流すことが出来る能力ってわけか……」

大地「そうだ。後、相手の記憶を呼び起こすことも出来る」

慎吾「……記憶を?」

大地「試してみるか?」

慎吾「いや、超能力ならテレビでやればいい。儲かるぞ」

大地「……なぜ俺がそんなことをしていたか、知りたいか?」

慎吾「……大方の見当はつくよ」

大地「ほぉ」

慎吾「あの夢の少年、あんたなんだろ? そして同情をひかせるため俺にその映像を見せ続けていた」

大地「………………」

慎吾「違うか? 朝森さんよ」

大地「同情をひかせるつもりはない。だが意味はある、見させ続けた意味はな……」

慎吾「……それは?」

大地「寂しかったからだ」

慎吾「――!」

大地「お前なら……分かってくれると思って見させ続けた。いつか俺と共に来る日がくると信じてな」

慎吾「………………」

大地「なぁ慎吾。美佳を失い、瑞奈も失ったお前に残ってるものは何もない。俺と一緒にいこう」

慎吾「……(スチャ)


 慎吾は懐から拳銃を取りだした。  さすがに慎吾の行動に大地も驚いた。


大地「お前……それは……?」

慎吾「椎名探偵に無理言って手に入れてもらった。宏明さんの遺品の一つさ」

大地「………………」

慎吾「あんたのことだ。あんたももってるんだろ?」

大地「……あぁ、だが拳銃は使わない主義でね」

慎吾「誰だってそうさ。使いたくはない。だが俺は……!」

大地「そいつを引いたら元には戻れない。悪いことは言わない。俺と共に来い」

慎吾「………………」





   拳銃を構える           拳銃をしまう



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