Seventieth Sixth Melody―運命の螺旋―


 星音や京香から慎吾のことを聞いたナインは真っ先に病院へ向かった。


真崎「綾瀬!」

姿「樋野さん、病室は?」

星音「私が聞いた時はまだ手術中って言われて……」

真崎「じゃあ手術室に行けばいいんだな」

木村「真崎、落ち着け。こんな大人数で行っても仕方ないだろ」

真崎「木村! んなこと言ってる場合かよ」

連夜「でも監督の言う通りかもな。姿、真崎、監督は行って話を聞いてくれ。俺らはバスで待機してる」

松倉「そうだな。ゾロゾロと行くべきじゃないな。ユニフォーム姿だし」


 他の者は連夜の言う通りバス待機となった。  姿と真崎はユニフォームを脱ぎ、予備のアンダーシャツに着替え病院の奥へ向かった。


看護婦「あなた方は?」

木村「今、手術を受けてるという綾瀬慎吾の学校の教師です」

真崎「友人の真崎だ」

看護婦「綾瀬さんは身内は?」

姿「あいつは天涯孤独の身です。親戚も遠くに住んでるらしくて」

看護婦「そう……ですか」

木村「悪いんですか?」

看護婦「……何者かに胸を撃たれたようです」

真崎「何者かって犯人決まってるんだろ!」

姿「真崎、落ち着け。今は犯人より綾瀬の無事を祈ろう」

真崎「くそっ!」

木村「助かる見込みは?」

看護婦「……正直な話、5分5分だと……」

姿「……今は待とう。それしかない」


 看護婦は3人に頭を下げ、手術室に入っていった。  3人は座ったり立ったりを繰り返し、落ち着かない様子で手術が終わるのを待った。  そして手術中のランプが音を立て消えた。  3人の視線が一斉に手術中という文字に集まり、そして出入り口の扉が開くのを待った。


慎吾「………………」

医師「………………」


 中からストレッチャーに乗せられている慎吾と医師が出てきた。


真崎「綾瀬!」

木村「先生、綾瀬は?」

医師「一命は取り留めました。安心とは言えませんが、大丈夫でしょう」

木村「はぁ……そうですか」

姿「ありがとうございます」


 それから病室に運ばれた慎吾。  真崎と木村はそのまま付き添い、姿はバスに戻り待ってる部員たちにこの結果を知らせた。


姿「綾瀬が助かった!」

連夜「そうか……良かった」

松倉「これで素直に甲子園行き喜べそうだな」

連夜「そうだな」

姿「監督が皆は先に帰ってていいと言ってる。ひとまず学校まで行っててくれ」

連夜「あいよ」

シュウ「じゃあ運転手さん、お願いします」


 こうして安堵を浮かべて桜花ナインは学校へ戻っていった。


…………*


 それから日が経ち、桜花ナインが甲子園に向かう日がやってきた。  真崎と姿は早めに寮を出て病院に来ていた。


真崎「入るぞ、綾瀬」


ガラァッ


慎吾「……よぉ」

真崎「へへ、良く無事だったな」

慎吾「無事じゃねーよ。まったく……」


 慎吾は一命を取り留めたものの目を覚ますまで時間がかかった。  助かってから真崎や姿と直接会うのはこれが初めてだった。


姿「で、どうだ?」

慎吾「ま、不愉快だが何とかな」

姿「助かっただけ儲けものだろ」

慎吾「どうなんだがね」

真崎「それより俺ら、国玉に勝ったぜ!」

慎吾「あぁ、ニュース見た。おめでとさん」

姿「今日、甲子園に行くんだ」

慎吾「いいのかよ、こんなところにいて」

真崎「だから早めに来たんだろ。お前にも言っておきたかったからな」

慎吾「そりゃどうも」

真崎「甲子園では俺の実力発揮してやるからな!」

慎吾「地区予選じゃ発揮できなかったからな」

真崎「言っとくが、国玉の試合、俺の貢献度半端ないぞ?」

慎吾「……あん? 国玉の試合に出たのか?」

真崎「……そりゃないぜ……」

姿「お前の穴を埋めるって言って出たんだよ」

慎吾「そっか……ふっきれたか?」

真崎「いや全然。だけどそれとこれは話が別だからな。割り切ることにしたよ」

慎吾「充分だろ」

姿「ま、高波や月見里がいるから大した痛手にはならんけどな」

慎吾「だろうな」

真崎「んだと!?」

慎吾「冗談だよ」

姿「それで綾瀬、お前はどうなんだ?」

慎吾「ん?」

姿「大地さんと話したんだろ……?」

慎吾「あぁ、決着がついた……とは言えないが、俺も俺なりに決別はしたよ」

姿「……そっか」

慎吾「真崎、やっぱり死んだ人はどうやったって帰って来ない」

真崎「………………」

慎吾「生きてる者がどうやって前を向くかにかかってるんじゃないかな?」

真崎「……だな。いつまでも後ろ向いてたんじゃ始まらないしな」

姿「そんなキャラでもねーしな」

真崎「へへ、違ぇねぇ」

慎吾「……甲子園、頑張ってこいよ」

姿「あぁ、良い報告してやるよ」

真崎「精々待ってろよ」

慎吾「……あぁ、行って来い」

真崎&姿「おう!」


パァンッ!


 慎吾とタッチを交わし、2人は病室を後にした。


慎吾「甲子園か……最後の夏にベンチ入りすら出来ないとは泣けるな」


 昨年も大事なところで体調を壊し、ベンチ入り出来なかった慎吾。  記録員としてでも少しでもチームに貢献したいのが本音だった。


慎吾「ま、そんなこと言ってても仕方ないしな」


 慎吾はテレビのスイッチに手を伸ばし、電源を入れた。


慎吾「さて……」



   甲子園を見る           甲子園を見ない



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