Other First Melody―罪と罰―


リエン「もう春か……」

 春の季節は大嫌いだ。桜を見るたび、思い出す。自分の罪を……決して償うことが出来ないこの世で最も重い罪を犯した……
 そうこの春という季節に……


??「どうした、リエン?」

リエン「……日夜か……」

 この男は御柳 日夜。俺の親父の再婚相手がこいつの母と、ちょっとワケありな関係だ。
 御柳家は日本ではトップ企業にあたる朝里グループの分家にあたり、それなりに力を持っている。


リエン「別に、何でもねぇよ」

日夜「そっか……なら良いけど」

リエン「ふっ……」

 俺はこの季節に実の父、そして再婚相手だった日夜の母を殺した。なぜ俺が普通に暮らしているかは追々分かるだろう。
 不思議なのはこの男……日夜が俺と普通に接してくれることだ。仮にも母親を奪った男を今でも笑って話してくる……
 生まれた時から父親はいないらしく、天涯孤独の身になってしまったのに……
 以前、そのことを聞いてみたが


日夜「え? 人は誰でも死ぬッしょ。それが運命としか言いようがないんだよ

 と割り切っていた。こう言っては何だが、今こうして立っていることが出来るのはこいつの存在が大きい。
 日夜に責められていたら俺は“あの男”に助けられても、自ら逃げるように死を選んでいたはずだ。
 いや……いっそ責められた方が楽だったかもしれない。でも逃げることだけはするな、そう言われたこともあった。


 でも今一度、聞いてみたい。なぜ、俺の横でこうして笑っていられるのかを……


リエン「なぁ日夜?」

日夜「ん〜?」

リエン「何でお前は俺の横で笑ってられるんだ?」

日夜「何でよ、ブスーっと怒ってれば良いのか?」

リエン「そうじゃない。だって俺はお前の……」

日夜「はは〜ん、またその話か。懲りないね。言っとくけど俺はホントにお前を怨んじゃいない。 それに母を失ったのはお前も一緒。それともお前は俺の母親を母とは思えなかったか?」

リエン「……いや、そんなことは……」

日夜「じゃあ良いじゃん。義兄弟として、一緒に支えあって行こうぜ」

リエン「…………お前ってホント……」

日夜「ん?」

リエン「バカだよな……」

日夜「はっはっは〜、ホメ言葉として受け取っておくぜ」

 これで分かった……日夜はホントにバカで……お人好しだってな……


・・・・*

??「リエン・クロフォード、綾瀬大地が呼んでいる」

リエン「……久々だな。何か動きでも?」

??「さぁ? あの人の考えていることは私にもわからない」

リエン「ま、同感だな。さて、何だって?」

??「この男らを調べ、片付けろ」

リエン「ふ〜ん……10人近くいるな」

??「銃も用意したけど?」

リエン「いや、ナイフで十分だ」

??「必ず一人ずつ、確実に。バレることのないように」

リエン「誰に言ってんの?」

??「……じゃ、よろしく」

リエン「ああ」

??「……あなた……今のままで良いの?」

リエン「どういうことだ?」

??「綾瀬大地の言うがままにして、あなた、それで幸せなの?」

リエン「アンタこそどうなんだ?」

??「………………」

リエン「…………みんな、アヤセダイチの言いなりなんだよ……」


 俺も含めて……な。


・・・・*

男「や、やめてくれ」

ズパッ

リエン「……バッカじゃない……」


大地「流石にやるねぇ。ナイフで即死させるのは容易いことじゃないよ」

リエン「いたのか……」

大地「まぁね♪」

リエン「……ふぅ……後、2人だ。楽勝だな」

大地「そうかなー? このメガネかけたヤツは要注意だよ。何だかんだ言って現職刑事だし」

リエン「はいはい、俺がミスったってアンタに痛いことないだろ。黙ってろ」

大地「それもそうだね。あ、そうそうキミを埼玉遊楽館高校に入学させといたから」

リエン「何?」

大地「ちょっと手間取っててね。仕事しつつ高校生活を満喫しててくれ」

リエン「どういうことだ?」

大地「さぁね? 日夜くんもいるし、問題ないでしょ?」

リエン「……別に行く行かないは俺の勝手だろ」

大地「ふぅん、僕に逆らうんだ」

リエン「アンタ、今丸腰だろ? いつもは拳銃を携帯してるが、今はないようだし」

大地「うん、読み通り。今から高校を巡回するから持ってないんだよね」

リエン「どうする?」

大地「良いよ、こっちも考えがあるし」


 ここで後悔しても遅い。忘れていたわけじゃない、ただ人を殺って興奮していただけだ。
 アヤセダイチの……ある種超能力と言ってもいい……未知の力。



ピキィーン

リエン「くっ……」







バース「へい、リエン。そこのしょう油とってくれ

リエン「自分でとれよ。親父の方が近いじゃねーか

バース「親子のスキンシップを拒むとは……リョーコ、リエンが冷たいよ

涼子「あらあら、ダメよリエン

リエン「やめてくれ……第一、日夜はどうした?

涼子「日夜? お友達の家に泊まりに行くって言ってたけど?

リエン「(あのヤロウ、一言も言ってなかったじゃねーか)

バース「ははは。リエンも学校に行けば、友達増えるよー

リエン「ウザい

バース「Oh! リョーコ!

涼子「リエン、ダメよ、虐めちゃ

リエン「……勘弁してくれ


 そう……憎まれ口叩いても、俺はこのときが一番幸せだった。……しかしこんな当たり前の日常も帰ってこなくなった。


ピンポーン

涼子「あら、誰かしら


リエン「……親父、しょう油とってくれ

バース「自分でとれ。俺のほうが近いけどな

リエン「(このガキが……)


涼子の声『キャ――ッ

リエン「!!!

バース「どうした、リョーコ!


刺客A「動くな。動くとコイツの命はないぞ

バース「なっ! 止めろ! リョーコに手を出すな

刺客A「アナタがいると御柳家に未来はない。死んでもらいますよ

バース「な、なんだと!

涼子「やめて!

刺客B「うるさい! 黙ってろ!

バキッ

涼子「うっ……

バース「リョーコ!

刺客A「おい、涼子様には手を出すな。こっちがやられるぞ

刺客B「分かってる。ちょっと黙っててもらうだけだ

バース「くっ……分かった。抵抗しないから、リョーコに手を出すな

涼子「……バース……さん……

刺客A「いい覚悟だ。死ね!

バース「………………

リエン「やめろぉ!!!

ドンッ


刺客A「なっ……! この小僧が!

リエン「親父に……母さんに……手を出すな!!!

刺客A「(ビクッ)な、何なんだこの小僧は!?

リエン「死ねぇ!


ザクッ

刺客A「ぐわぁぁぁ!!!


リエン「次はお前だ……

刺客B「や、やめろ……取り返しのつかないことになるぞ

リエン「……死ね


グサッ

刺客B「ギャアァァァ!!!


バース「止めろ! リエン!

リエン「はぁはぁはぁ……トドメだ……

バース「リエーン!!!


グサァ

リエン「………………


 ……これが俺の犯した罪……







大地「どう? 改めて見た感想は?」

リエン「はぁ……はぁ……」


 これがアヤセダイチの未知の力、人の頭に眠っている記憶を呼び起こしたり、考えている映像をまるで夢のように脳裏に映し出す。
 アヤセダイチの思うまま、良い夢にも……そして悪夢にもなる。


 あの後、俺は義母を刺し我に返った。周りには人……いやすでに人ではない物が倒れていた。
 一時的に意識を飛ばし、目が覚めた時にはアヤセダイチが目の前にいた。説明され、この通りの夢を見せられ……


大地「キミが生きる意味、僕が教えてあげるよ

 この言葉を信じて、俺はアヤセダイチの言いなりになった。
 今更、生きる意味なんてないことは分かってる。でも、ここで自ら逃げる選択もしたくない。
 結局、アヤセダイチの思うままに動くしかないってことだ。



大地「クロフォード、人形に感情はないんだよ?」

リエン「……分かってる。あんたの望み通りにしてやるよ」

大地「うん、流石だね」

リエン「………………」


 自分の意思すら持たず、俺は毎日怯えながら生きている。
 ただ一つ、アヤセダイチの命を受けたときだけ俺は人として行動できる。それは歪んだ考えかも知れない。
 それでも、俺はそう思わなきゃ地面に立っていれる自信はない。
 こうして生きていることが……多分俺の罪への罰なんじゃねーの?



ズパッ!


 ……俺が知ったことじゃないけどな。



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