Finale Melody―それが僕の描き選んだシナリオ―


 長いようであっという間だった甲子園大会も終わり、残り僅かな夏休み。  連夜は埼玉の実家に帰省していた。


連夜「ふぅ……」

鈴夜「お疲れ様」

連夜「甲子園に見に来てたんだって?」

鈴夜「あぁ、お前と白夜の晴れ姿だ。見ないわけにはいかないだろ」

連夜「優勝は出来なかったけどな」

鈴夜「創設3年目でのベスト4は充分だろ」

連夜「そうかねぇ。今年、黄金世代だったから優勝しとかないとなっと思ったんだけど」

鈴夜「帝王戦も見てたが、レベル差はあったな」

連夜「そうかね」


 桜花は結局、準決勝で帝王に敗れベスト4に終わった。  だが創設2年目で甲子園ベスト8、3年目で甲子園ベスト4は十分快挙と言える。


鈴夜「それで連夜、進路は考えてるのか?」

連夜「あぁ、それを今日言いに来た」

鈴夜「ん?」

連夜「金銭面的にやっぱり親父を頼ることになるからさ」

鈴夜「そんなこと気にするな」

連夜「光星大学に進学したいと思ってる」

鈴夜「光星? なんでまた……」

連夜「まぁそれは俺の個人的な感情なんだけどさ」

鈴夜「ふむ……」

連夜「最終的にはやっぱり俺は朝里を追う」

鈴夜「………………」

連夜「昔、何があったか……それを明らかにしたい」

鈴夜「……知らない方がいいってこともあるぞ」

連夜「だろうね。でも俺は知りたい。母親のことも、自分のことも」

鈴夜「俺からは何も言えない。お前の人生だ。好きにしろ」

連夜「あぁ。そうさせてもらうよ」

鈴夜「野球は……野球はどうするんだ?」

連夜「大学に一時期だけやる。また迷惑かけちゃうことになるけど」

鈴夜「ばか、そんなこと気にするなって言っただろ」

連夜「悪いな……」

鈴夜「甲子園を見て、てっきり野球を続けるもんだと思ってたけどな」

連夜「やっぱ俺は朝里を追いたいから。あいつとの約束もあるけど……今は……な」

鈴夜「あの子なら分かってくれるんじゃないか」

連夜「だと……良いがな……」


 野球を辞めるにあたって連夜にとって気がかりだったのは昔交わした友人との約束だった。  左利きキャッチャーを目指すようになったキッカケをくれた人との……


連夜「ま、全てに決着つけたらまた始めるよ。趣味でもなんでもいいからさ」

鈴夜「うちの家系は野球とは切っても切れない関係にあるみたいだからな」

連夜「そうだな……」


スッ


 話を終え、連夜は立ちあがった。


鈴夜「どこかいくのか?」

連夜「千葉に戻って、友人の見舞いに行く。まだ帰ってきてから報告してなかったからな」

鈴夜「そうか」

連夜「親父」

鈴夜「ん?」

連夜「俺は出生や母親のことを知りたいと思うのは変なことかな?」

鈴夜「……俺が明らかに隠してるんだ。それを知りたいと思うのは普通だろ」

連夜「後悔するんだろ?」

鈴夜「恐らくな。知らない方がお前のためだと思う」

連夜「そっか。じゃあやっぱり追うよ、朝里を」

鈴夜「……あまのじゃくか……」

連夜「くっくっく。親父たちにとっては辛い思い出をまた蘇らせることになるのが気がかりだけどな」

鈴夜「俺らはその覚悟は出来てるよ。お前を巻き込んでしまった時点でな」

連夜「プロになる夢はビャクや一夜たちに任せるよ。元々俺は選ばれてなかったしな」

鈴夜「連夜、それはだな……」

連夜「いいよ、今は。全て終わった時、聞かせてほしい。なんで俺には野球を教えてくれなかったのか」

鈴夜「……分かった」

連夜「道のりは長そうだけどな」


 含み笑いをしながら連夜は居間を後にした。  残された鈴夜は複雑な感情を抱きながら、お茶をすすった。


…………*


 連夜が身支度を済ませ、家を出ると兄弟たちが揃って待っていた。


連夜「お前ら……どうした?」

音梨「色々と言いたいこともあってな」

日夜「テレビで見てたぜ、甲子園の2回戦」

連夜「あぁ、あれか?」

音梨「何がお前らの父親は誇れる男だった、だ」

連夜「事実だろ。俺のピッチング見たろ?」

流戸「でもお前、ピッチャーの練習なんかしてたのか?」

連夜「あぁ、それは力のおかげ」

音梨「お前、だって力は……」

連夜「漣朔夜の血はまだ俺に残ってたらしいな。ま、最ももう本当に感じるか感じないかぐらいになってるけど」

日夜「連夜が好投したからって親父が誇れる男かどうかは別だろ」

連夜「プロ野球記録も作った親父だぞ? 俺がお前らに見せた姿が漣朔夜なんだ。かっこよくなかったか?」

日夜「自分で言うなよ……」

流戸「でもいい加減、漣朔夜という父親の呪縛から解き放たれなきゃいけないんだよな」

連夜「あぁ、前を向くためにはな」

音梨「俺は漣朔夜がやったことに否定も肯定もしない」

連夜「一夜……」

音梨「だがお前のピッチングを見て、少なからず感動したのも事実だ」

連夜「………………」

音梨「ありがとな、連夜」

連夜「くくっ、どう致しまして」


コンッ


 拳と拳と当て合う。  その光景に日夜と流戸も嬉しそうにしていた。


連夜「んじゃ、俺行くところあるからさ。親父と話したければ中入れ」

音梨「あぁ、じゃあな」


 兄弟たちに別れを告げ、連夜は千葉に向かった。


…………*


 千葉の病院につき、病室のドアをノックする。  中から返事が聞こえてきて、連夜はドアを開けた。


連夜「よぉ」

慎吾「漣か……」

連夜「何してんだ?」

慎吾「暇だから曲でも作ってる」

連夜「曲? お前、楽器できるの?」

慎吾「義兄にピアノ教わったことがあってね。見よう見まねだがな」

連夜「へぇ、どんな詩書いてんの?」

慎吾「見せるか、バカ」

連夜「チェッ」

慎吾「で、何の用だ?」

連夜「いや、元気かなーっていうのと進路どうするのかなって」

慎吾「あぁ……俺は普通に進学するよ」

連夜「どこに?」

慎吾「東大」

連夜「普通に進学って言うのか、それ……」

慎吾「まぁ、気にすんな」

連夜「その後のことも考えてるのか?」

慎吾「一応、警察を目指す予定」

連夜「警察?」

慎吾「真っ向勝負で俺は朝里を叩く」

連夜「朝里を?」

慎吾「お前と一緒で俺も朝里を追いたい理由が出来たんでね」

連夜「へぇ〜」


 慎吾の言葉に含まれた真意を読み取り連夜は含み笑いをした。


慎吾「んだよ」

連夜「別に。健気だなっと思ってさ」

慎吾「うるせぇよ!」

連夜「まぁまぁ、照れるな照れるな」

慎吾「ったく……で、お前は?」

連夜「俺? 俺は光星大学に進む」

慎吾「光星?」

連夜「そ」

慎吾「野球続けるのか?」

連夜「ん〜まぁ一応かな。俺も朝里を追いたいし」

慎吾「母親……か?」

連夜「まぁね」

慎吾「そっか。お互い頑張ろうな」

連夜「あぁ。情報があったら教えてくれ」

慎吾「お互いにな」


 それから数分、雑談をし連夜は病室を後にした。







白夜「レン兄!」

連夜「ビャク!? どうしてここに?」


 病院を出てすぐ、白夜と出会った。  本来なら愛媛にいるはずの弟との再会に驚いた。


白夜「親父にここに来てるって聞いてね」

連夜「わざわざ来たのか」

白夜「話したいこともあったし」

連夜「なんだよ」

白夜「いや……色々と悪かった」

連夜「んなこと気にするな。何も教えてくれない親父が悪いんだよ」

白夜「だけど……」

連夜「弟を守るのが長兄の役目。もう水に流そうや」

白夜「……分かった」

連夜「良い投手になったな」

白夜「打っといて良く言うな……」

連夜「なんか最近、普通に褒めてんのに裏をとられるよな……」

白夜「それぐらいレン兄は捻くれてんだよ」

連夜「あ、酷ぇ!」

白夜「くくっ、それでレン兄、進路は?」

連夜「なんかその話しかしてないな」

白夜「そうなんだ」

連夜「俺は大学進学して、朝里を追う。野球は終わりかな」

白夜「そっか……」

連夜「悪いな。辞めたり続けたり、ハッキリしなくて」

白夜「だって高校にはもうやめようと思ったのを俺のせいで続けてたんだろ?」

連夜「まぁ……な」

白夜「捺さんとの約束がありながら辞める理由はなんだ?」

連夜「……母親を追う」

白夜「母親?」

連夜「そ、お前を苦しめた朔夜事件を追って全てを明らかにする」

白夜「そっか……大変な道を選んだな」

連夜「まぁね。ビャク……お前はプロを目指せよ」

白夜「レン兄……」

連夜「それが親父の夢であり、俺らの夢だ。叶えてくれよ」

白夜「……あぁ、必ず」

連夜「んじゃ、帰りますか」


 連夜にとって波乱万丈だった高校3年間。もうすぐ終わろうとしていた。  だがまだ終わりじゃない。いやむしろこれからが始まりなのかもしれない。  全てに決着をつけるその日まで連夜はその歩みを止めることはないだろう……!




〜F I N〜


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