Best Friends

−7−


 時間が飛び飛びで申し訳ないところだが、今回の話は豹と打ち解けたすぐ後の話。
 GW明け、中総体に向けて練習しているところだった。

進「次、スライダー」


ククッ

 中1にしてすでに高校級と言われる桜星の投球を先輩たちも実力を認め、今度の大会も戦力として数えられている。
 だからこうして投球練習に参加しているのだが。

翔「けっ、これだから天才様はよ〜」

進「お前な……」


 わざわざ投球練習している進の横に来て愚痴る。やはり同級生としては一人贔屓されているみたいで面白くないようだ。

翔「誰かさん、俺にピッチング教えてくれるんじゃないの?」

進「練習終わってからな。お前も練習戻れよ」

翔「だって球拾いでつまらねーもん」

進「1年が何言ってやがる」

翔「お前も1年の癖に投球練習に参加してんじゃん」

進「だってお前、打てず守れずじゃん」

翔「足は誰にも負けねー」


先輩「オラァ! 高波ィ! 何サボってやがる!!!」


ピューンッ

 先輩にお呼びがかかった瞬間、一目散に逃げる翔。

進「確かに……」


 呆れるほかなかった。



カキーンッ

 一方野手組み。フリーバッティング中で、1年は主に外野に飛んできたボールを取ったり、ボールの補充など完全に裏方に徹している。
 一人除いては……

豹「なぁ、佐々木っち。あの男、同じ1年だよな」

佐々木「ん? 矢吹のことか?」


 豹は今打席に立って、バッティング練習を始めた男を指さした。

佐々木「あぁ、矢吹龍。隣のクラスだけどな」

豹「ふ〜ん、1年なのに練習参加してんのか」

佐々木「どうやら監督の推薦らしいよ。あいつ、出身東京らしいし」

豹「へぇ」

佐々木「無理やり引っ張ったらしい。中学野球だって言うのにご苦労様なこった」

豹「……ちなみにそれ、どこ情報?」

佐々木「聞いた」

豹「………………」


 佐々木は誰も知らないことを良く知っている、いわゆる情報通だった。  自分の身のためにもこれ以上は追求しないことにした。

龍「フンッ」


カキィーン

豹「おー、言うだけあるねぇ」

佐々木「うち、左バッター少ないからね」

豹「俺、左だけど」

佐々木「もとい。打てる左ね」

豹「あぁ!?」

佐々木「首絞めんな……」


キィーンッ

 外野で豹と佐々木がじゃれあってる間に快音を響かせる龍。

豹「なんか面白くねーな」

佐々木「なにがよ?」

豹「ちょっと目立ってくるわ」

佐々木「は?」


カキィーン

豹「オラァッ!!!」


ズダダダダッ!

龍「ん?」


 ちょうどセンターからレフト寄りに位置していた豹は俊足を飛ばしてライトへ上がった打球を捕球しに行く。

佐々木「おいおい……」


豹「だりゃあぁぁっ!!!」

パシッ


ズシャアアッ

先輩「おい大丈夫か?」

豹「ふっ、どーでい」


 見事にダイビングキャッチを成功させた豹は誇らしげに打席の龍を見た。

龍「ふん」


キィーン

豹「………………」


 しかし関係ないと言わんばかりにレフトに流し打つ。完全に無視である。

豹「くー、ムカつく!」

佐々木「まぁ足はアピールできたんじゃね?」

豹「あのやろう、何かいけ好かないな。他人を寄らせないオーラが出てやがる」

佐々木「お前が言うなお前が」

豹「………………」


 そこを突っ込まれると何も言えない豹であった。



翔「でーい!!!」


シュッ

 練習終了後、約束通り翔の投球練習が始まった。
 基本的にテスト期間以外は残っての自主練習が可能なためブルペンでしっかりと投げ込みを行っていた。

進「…………酷いな」

豹「マジメな顔して言うなよ」

翔「どこがダメだ!?」

進「まぁなんつーか投手としては良いところがまるでない」

翔「ふむふむ」

豹「ふむふむ、じゃねーよ」

進「結論。投手は諦めてショートで生きろ」

翔「それじゃあアカンぜよ」

豹「どこの生まれだよ」

翔「俺はピッチャーやりたいんだよ! 助けてくれ!」

進「仕方ない。まずはフォーム固めだな。投手としての基礎がまるでなってないし」

豹「ホントに一からだな」

翔「その後は変化球だな♪ フォークとか良いなぁ。スットーンと三振を取る! カッコイイ♪」

進「フォーム固めな」

翔「うぃ」


 それから何度も投げ込みを続けていたのだが……

『テメェ! その態度はなんだ!?』


進「ん?」

豹「なんか今、聞こえたな」

翔「んなもんどーでも良いよ。今、良い感じなんだよな」

進「行ってみるか」

豹「だな」


ダッ

翔「っておい!」


・・・・*

先輩「ふざけんな――よっ!」


バキッ

進「!!!」


 進たちがグラウンドに行くと、ちょうど龍が先輩に殴られてるところだった。

龍「ってぇ……」

進「何してんですか!?」

先輩「桜星か。まだ残っていたとはな」

豹「こんなこと監督に知られればどうなるか分かってますか?」

先輩「氷室、当然他言するなよ」

進「先輩、なんでこんなことを?」

龍「桜星、お前には関係ないだろ」

進「黙ってな」

龍「――!」

先輩「監督が連れてきたかは知らんが1年の癖に調子乗ってるようだからな。シメてやろうかと」

龍「調子乗ってんのはそっちでしょ? さしずめ実力がないヤツの妬みでしょうが」

先輩「なんだと!?」

龍「言われて怒るのは認めてるのと一緒ですよ」

先輩「もうちょっと痛い目見ないと分からねーようだな」

進「ストーップ、ストーップ!」

先輩「邪魔をするな」

進「大会前に騒ぎを起こしちゃいけませんって」

豹「そうそう。それに矢吹だって立派な戦力でしょ。ここでケガして抜けると最後の大会いい結果出せないよ」

先輩「矢吹一人ぐらいいなくても大丈夫だ。桜星だっているしな」

龍「結局他人頼みですか。自分には何も出来ないから」

先輩「矢吹ッ! いい加減に――」


樋野「お前たち! まだ残ってたのか」

豹「おぉグッタイミン」


先輩「チッ! 態度には気をつけろよ」

樋野「……で、結局なんだったんだ高波」

翔「さぁ?」

樋野「さぁじゃねーよ」

豹「なんだ、翔が呼んできたのか」

翔「ナイス機転だったろ」

樋野「???」


 意味が分からずただ呆然とするしかなかった樋野監督であった。

進「大丈夫か、矢吹」

龍「……ふん、お節介なヤツラだ」

進「矢吹、お節介ついでに言うけどもう少し態度良くした方が良いぞ」

龍「弱いヤツに頭を下げるのはゴメンだね」


 そう言って龍もグラウンドから出て行った。

進「まったく、自信家だな」

樋野「矢吹か。まぁこうなることは分かってはいたが……」

豹「性格に問題ありか」

樋野「まぁそんなところだ」

翔「んじゃ、まぁ俺らの出番か?」

進「豹の時のように上手く行けばいいがな」

豹「それ言われると辛いんだけど」

樋野「桜星も矢吹と似たような立場だからな。何とかしてもらいたいところだ」

進「まぁやってみます」

樋野「後、投球練習は控えろよ」

進「え?」

樋野「…………無理に大会に標準を合わせなくていい」

進「……分かってます」

豹「???」


・・・・*

 龍と先輩たちの溝はまったく埋まらず、結局大会当日を迎えてしまった。
 一年でベンチ入りしたのは三人。そのうち進と龍はレギュラーとして試合に出場した。


ズバーンッ

相手選手「何ッ!?」

進「オッケーイ!」


 サイドスローから繰り出されるキレ・球威ともに申し分ないストレートに相手打者は手も足も出なかった。


カキーン!

龍「………………」


 要所では龍がきっちりランナーを返し、抜群の強さで勝ち進んだ。
 そして準決勝、前日。


先輩「……チッ」


 一年の活躍で書き進んでいる事実に明らかに不満を持っていた。

樋野「谷澤」

谷澤「――! 監督……なんですか?」

樋野「最近、ピッチング練習してないようだが?」

谷澤「……どうせ桜星が投げるんです。俺は必要ないでしょ?」

樋野「そうか……次の試合、頭からいけないか?」

谷澤「は?」

樋野「桜星を温存させる。無理なら2年の田仲に行かせるが」

谷澤「……いえ大丈夫です。やらせてください」

樋野「よし、頼んだ」

谷澤「……桜星、何か問題でも?」

樋野「……キャプテンであるお前には伝えておくべきか。桜星は肩を故障している」

谷澤「なっ!?」

樋野「正確には故障寸前だがな。医者に止められているんだ」

谷澤「そう……なんですか」

樋野「じゃあ頼んだぞ。後ろには田仲も控えさせる」

谷澤「はい」


 樋野は話をつけると校舎に戻っていった。

先輩「谷澤、良いこと聞いたな」

谷澤「……金井か」

金井「憎たらしい1年坊に一泡吹かせてやろうぜ」

谷澤「――ふっ」


 谷澤は鼻で笑うとブルペンの方へ歩いていった。



 一方、そのブルペンでは今日も翔の叫び声が響いていた。

翔「おらぁぁぁ!!!」


ビシュッ


ズバーンッ!

豹「おぉ……」

翔「今のはどうだ!」

進「リリースのタイミングは良かったな」

豹「物覚えは良いんだな。勉強できねーくせに」

翔「勉強なんぞ、将来には必要ない!」

豹「せめて小学生程度出来なきゃ問題だぞ」

進「さ、続けろ」

翔「へ? 変化球は?」

進「たかが一回、上手くいっただけで調子のんな」

翔「そんなー!!!」


谷澤「お前ら、まだいたのか」

進「キャプテン……」

谷澤「そう警戒すんな。それより明日も試合だと言うのに、早く帰れ」

進「キャプテンこそ、どうして?」

谷澤「明日の先発を言われたからな。軽く投げ込みだ」

豹「へ? 進じゃねーの?」

進「あ、いや、準決勝は休めって言われてて」

豹「ふ〜ん。まぁここまで連投だったもんな」

谷澤「ふっ。そういうこった」

進「……?」

谷澤「とにかく早く帰って寝ろ」

進「……分かりました。翔、豹、行くぞ」

翔「なんだとぉ!?」

豹「はいはい、帰るぞ」

翔「せっかく……」


 翔が二人に引っ張られながらブルペンを出て行った。
 一人残された谷澤はポツリ呟いた。

谷澤「噂は本当らしいな、桜星くん」


・・・・*

 準決勝当日。予定通り桜星温存で谷澤がマウンドにあがる。
 しかし……

カキーンッ

谷澤「チッ!」


 付け焼刃のピッチングで抑えられるほど準決勝となると甘くはなかった。
 それでも打線が奮起しシーソーゲームとなる。


樋野「桜星、代打だ」

進「ッス」


カキーンッ!

 バッティングセンスも抜群の進がタイムリーを放つ。これで一点差となる。
 一方六回よりマウンドを受けた2年田仲が好投を見せ、終盤は一転し投手戦になった。


翔「あーあ、怪しいもんだな」

豹「ズルズルと行かなきゃいいけどな……」


 観戦している二人の心配通り、そのまま九回に突入してしまった。
 そして二死取られ、打順は二番谷澤。

キィーンッ

谷澤「よし」


 執念とも言えるヒットを放ち、次打者龍に託す。

龍「………………」


カキーンッ!

 真芯で捉える。しかし野球のポジションと言うのは良い当たりは野手の真正面をつくようになっている。

バシッ!

 会心だったが弾道が上がらず、セカンドライナー。龍が最後のバッターとなり試合が終了した。

龍「………………」

進「矢吹……」


 そして事件は試合終了の翌日、月曜の部活の時間に起きた。


・・・・*

進「今日は監督いないらしいから部活休みだってよ」

翔「ならピッチング練習し放題ですな」

進「んなわけないだろ。テストも近いし部活動自体ねーよ」

翔「えぇぇぇっ!?」

豹「帰って勉強だな」

翔「そんな!!!」


龍「………………」


豹「矢吹?」


 昇降口にいた三人だったが、そこで体育館の方に向かう龍を発見する。

進「……嫌な予感がする」

豹「同感だな」

翔「えぇ……関わるのよそうぜ」

進「なんだよ翔、らしくないな」

翔「別に」

豹「実力あるヤツを妬むな」

翔「違ぇーよ!」

豹「はいはい」

進「ともかく行くぜ」



バキッ

龍「ぐっ……」

谷澤「偉そうな態度とってて、結局大したことなかったなお前」

龍「……ハッ。自分の実力わかって言ってます?」

金井「そういう態度がムカつくんだよ!」


ドゴォ

龍「――ッ」

谷澤「腕の一本くらい折っとくか?」


進「やめろ!」

谷澤「!?」

龍「……桜星……」

金井「なんだ、お前ら?」

豹「それはこっちの台詞ですよ、金井先輩」

進「矢吹に八つ当たりですか?」

谷澤「八つ当たりとは違う。当然の制裁だ」

進「矢吹抜きで準決勝まで勝ち上がれたと思ってます?」

金井「だがその準決勝、最終的にコイツで負けたんだ」

谷澤「俺が打ったのにも関わらずな」

進「ハッ、何バカなこと言ってんですか」


 進の表情が変わった。表面は笑っている、だが言葉は違った。怒りに満ちてるような、いつものより低い声だった。

龍「――!?」

谷澤「なんだと?」

進「そもそもアナタが序盤に打たれなかったらもっと楽に勝ててたんですけど」

谷澤「……言いたいことはそれだけか? 桜星」

豹「おい進……」

進「決着つけましょう」

谷澤「望むところだっ!」

進「決着は野球で、です」

谷澤「何ッ?」


 殴りかかろうとしたところで進の急な提案に拳が止まる。

進「正々堂々、野球で決着つけましょう。3年対1年で」

谷澤「良いだろう、受けてたつぜ欠陥品」

金井「負けたら、それなりの覚悟はしてもらうぞ」

進「………………」


 ポンと進の右肩を叩くと金井と共にその場を去っていった。高らかに笑いながら……

豹「誰が欠陥品だっつーの」

進「……矢吹」

龍「…………んだよ」

進「そういうわけだ。力を貸せ」

龍「お前が売ったケンカだろ。俺には関係ない」

翔「テメェをかばってやったんだろ!」

龍「頼んだ覚えはない」

翔「コノヤロッ!」

豹「お前まで怒ったらダメだろ」

進「ここでお前のような男を潰したくないんでね」

龍「こんなことで潰れるようなヤツに見えるかい?」

進「別に。ただ野球に対して本気でもないようだが」

龍「………………」

進「お前に拒否権はない。さもなきゃ恭子ちゃんは俺がもらうぞ」

龍「なっ!?」

豹「誰?」

進「矢吹の彼女。同じクラスらしいな」

翔「なぁにぃ!? 噂の彼氏、お前だったのか!」

豹「……翔、知ってんの?」

翔「学年一と言われてるのにお前は知らんのかい!」

龍「ちょっと待て。誰が付き合ってるっていった」

進「なめんなよ矢吹。うちには最強の情報通がいるんだ」

豹「(佐々木っちか……)」

龍「……お前、先輩よりタチが悪ぃ」

進「んじゃそういうことで♪」


 進の笑顔に龍は心から恐怖を覚えた。協力はする気はなかったが、敵にも回したくない。
 そう思い、試合には参加することにした。龍と進たちが絆を結んだ……そして進が投手を辞めるキッカケとなった試合が始まる。


〜To be continued〜


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