Best Friends

−11−


 二月某日、関東地方では各地で卒業式が行われている中、ここ帝王高校でも今日卒業式を迎えようとしていた。  ……のだが……

高杉「………………」

内海「………………」

高梨「………………」

高杉「ダウト」

高梨「なんやて!?」

三瀦「なんで関西弁なんだよ」

高杉「お前、わかりやす過ぎ」


パシャパシャパシャ

進「おいこら」

高梨「ちくしょう……」

高杉「まったく、顔に出すぎなんだよ」

内海「ははは、高梨らしいな」

高杉「あ、終わりね、俺」

内海「何ィッ!?」

三瀦「バカ、よく見てろよ」

内海「お前も気づいてなかっただろ!」


パシャパシャパシャ

進「おーい!」

高杉「ん、どうした桜星」

進「どうした、じゃねぇよ。なんでマスコミの前でトランプやってんだよ」

高杉「いや、本格的に卒業式始まったら教室の風景撮れないだろ? だからマスコミ用に」

高梨「いや〜高杉がプロ入りしてくれたおかげで目立って目立って」

進「卒業式の日のトランプしている風景を撮ってどうすんだよ」

高杉「ちょっと茶目っ気ある方がいいかなーっと」

進「…………っで、誰がそれを?」

諏訪「俺に決まっているだろう!」

進「やる高杉も高杉だろ」

高杉「プロに入ったら先輩たちに頭下げなきゃいけないからな。 丸くなっておこうと思って」

魁琉「ってもうキャンプイン終わってオープン戦の最中だろ」

進「お前はプロ入りしても苦労しそうにないな」

高杉「そうでもないぞ。うんうん」

進「………………」


パシャパシャパシャ

先生「おーい、マスコミへのサービスはそれくらいにして始めるぞ」

高杉「うーす」

進「……なんだ、このグダグダ感は」

高梨「卒業式って感じで良いよね」

進「まったくしねーよ」


・・・・*


 高梨が壇上に登る際に転んだり、諏訪がカメラに向かってピースしたりと感動(?)の卒業式も終え  野球部の面々がグラウンドに集まっていた。

進「プロ入り組は向かわなくてもいいのか?」

高杉「あぁ、今日は出場予定ないし」

内海「同じく」

進「意外と厳しくないんだね」

高杉「ほら、ゴールデンルーキーだし」

進「ほんと、肝が据わってるな」


 プロ入り組はケガでもしたらシャレにならないと控えたが、他の面々でミニ試合を行うことになったのだが……  その時、帝王の入口ではひと騒動起きていた。

連夜「すいませーん」


マスコミ「あれ、桜花の漣くんじゃないか?」


ガヤガヤガヤ

職員「何かね?」

連夜「野球部の桜星を出して欲しいんですが?」

職員「は?」

連夜「見たところ卒業式のようで、申し訳ありませんが」

北野「桜花の漣か?」

連夜「おっと、俺も有名になったもんだな」

北野「野球部だったら今グラウンドにいる」

連夜「ありがとうございます!」


 北野の言葉にダッシュでグラウンドを目指した。これ面白そうと切り上げようとしていたマスコミ陣も後を追う。

職員「北野さん、良いんですか?」

北野「まぁ止めても向かいそうな勢いだしな。話も終わっ(自主規制)

職員「………………」


・・・・*

パッキーンッ

進「オッケェ」

諏訪「だぁ、もう! 簡単に打つな!」


高杉「俺も桜星相手に投げたいな」

魁琉「お前はアカンわ」

高杉「チッ、面白くねぇ」


連夜「(スゥ……)


『ススーム!!! 覚悟しやがれ!!!』


進「は?」

高杉「……アイツは……」


 帝王のグラウンドに突如、連夜が現れた。物凄い剣幕で……

進「レン!? 何でここに?」

連夜「よぉ、進。テメェ、覚悟はいいか?」

進「は?」

連夜「今までよくも俺のことを欺いて来たな。そこだけは褒めてやろう」

進「マテマテマテ、何の話だ?」

連夜「知ったんだよ」

進「何を?」

連夜「お前が光と付き合ってるってことをよぉ!!!」

進「…………はぁ!?」


ガヤガヤガヤ

高杉「……これは……」

高梨「面白い展開だな」

魁琉「………………」


 マスコミもすっかり二人の会話に耳を傾けている。一時期はプロ入り確実とも言われていた二人、知名度はあった。

進「ちょっと待て、誤解してないか?」

連夜「ぬぁにが誤解だ! ここまで来て隠そうとしてんのか! あぁ!?」

進「(怖ッ!)」


 ここまで来たら止められる者は誰もいない。っつーか止める気なんて周りの人間はゼロだ。

連夜「……構えろよ」

進「は?」

連夜「とりあえず野球でボコボコにして、後でボコボコにしてやる」

進「………………」


 そう言うと連夜は上着を脱いでマウンドへ上がっていく。

連夜「さぁ来い。俺からヒットを打てないようじゃお前の将来なんてたかが知れてる」

進「……じゃあ打ったら認めてくれんのか?」

連夜「それは別の話だ」

進「ずるっ! それはあんまりだろ!」

高杉「待てよ」


 進がバットを持って応戦しよう(打席に入ろう)としたところで高杉が止めに入った。

連夜「なんだよ、高杉」

高杉「お前らの勝負には興味はあるんだが、ここで騒ぎを起こされても迷惑なんだよね」

連夜「気にするな。お前ら、プロ入りの迷惑になるようなことはしない」

高杉「……あっそ。ならいいや」

進「いいのかよ!」


 あっさり引き返す高杉に周りで見ていた面々もずっこけた。ここまで来るともうミニコントである。

連夜「そういうわけだ、諏訪。ボールを貸せ」

諏訪「あいよ〜」

連夜「後、左用グラブがあると嬉しいな」


 丸腰と言っていい格好で来たため、グラブすら持っていなかった。加納相手に数球練習を入れて勝負開始。  試合の途中だったため、守備はそのまま帝王のメンバーがついた。単純明快、ヒットなら進の勝ち。アウトなら連夜の勝ちだ。

連夜「帝王の守備陣だからな。ヒット性じゃないと恐らくアウトだぜ?」

進「お前が投手なんてたかが知れてるだろ?」

連夜「……本気でそう思ってんのか?」


 キャッチャーが本職の連夜だが、まったくピッチングをしたことがないわけじゃない。甲子園でも投げたことがある。  元々はキャッチャーでもセンスだけでやっていた男、センスがあるならピッチャーだってそれなりのレベルでまとまっているだろう。

連夜「行くぜぇ!」

進「(ったく、誰だよ……バラしたアホは……)」


 闘争心むき出しの連夜に比べた、流し半分の進。しかし……


連夜「シィィッ!」


ビシュッ


 プレートの左側に立ち、対角線で右バッターである進の懐を鋭く抉る!


進「!!!」


ビシィッ

加納「ストライク」

進「…………なるほどね」


 この一球を見て、ようやく進は真剣になる。


高杉「いいストレートだな」

内海「だが……」

高杉「あぁ、それ以上ではない」


 思ったよりキレのある、本職投手が投げる球に近いものはあった。それでも進が打てないレベルではなかった。

連夜「シィッ!」


シュッ


進「悪ぃな。打たせてもらうぜ!」

連夜「そう簡単に行くかよ」


グググッ


進「これは――!?」


ビシッ


加納「ボール」


 スライド変化してきたボールを見逃す。わずかに外れてボールとはなったが、中々の変化をみせていた。


進「スラーブか?」

連夜「さぁな。だが、見覚えあるだろ」

進「……翔に教えたやつか!」

連夜「ご名答。俺が教えたんだ、俺が投げられたって不思議ではないだろ?」


 連夜が投げたボール、スライダーなのだが通常のスライダーより少し沈む。進が言ったスラーブに近いボールだ。速度は全然違うが。  いずれにせよカウント1−1となった。


連夜「シッ!」


進「甘いッ!」


カキィン!


連夜「チッ」


 三球目は初球と同じ、内角へのストレート。これを思いっきり引っ張り三塁側へファール。  だがこれで進は連夜のストレートに対応できることが証明できた。


進「どこか荒削りだな」

連夜「しょうがねぇよ。さて、決め球はどうするかな?」


 対角線からストレートを打たれた連夜がここで外角に投げたところで、威力はたかが知れてる。  ましてやライト方向へ打つのが上手い進相手じゃ尚更だ。じゃあどうするか?  変化球……そうするとスライダーか? 何度も言うように元々はキャッチャーの連夜、球種なんてないに等しい。


ザッ!

連夜「いっけぇ――ッ!」


ビッ!


 ここで選択したボールは……


進「内角!」


 先ほどと同じく対角線投法からの内角ストレート! 確かにこれは勝負だが、何てことはない。  どっちが勝とうと負けようと損得は特にない。ただプライドだけの対決!


進「ハァッ!」


 オープンスタンスから鋭く腰を捻らせる。バットの先端を少し下げ、ミートの瞬間手首を返す。  進独特の広角打法!


カキィーンッ!


連夜「………………」


 打球は右中間を真っ二つ。恐らくツーベース……甲子園ならスリーベースかも知れない。  最終打席、薪瀬から打った打球に類似していた。

進「俺の勝ちだな、レン」

連夜「はぁ……やっぱ俺じゃ無理か」

進「ようやく兄公認か?」

連夜「……あぁ!?」

進「よろしくな、お義兄さん!」

連夜「(プチッ)へい、セカン。ボールよこせ」

真壁「へ?」

連夜「あのヤロウに当てる!」

進「(ゾッ)ゲッ、渡すな真壁! マジで投げるぞこいつ!」


シュッ

真壁「あ……」

連夜「(パシッ)オラァッ!」


ビシュッ


進「バッ! 加納、ミット貸せ!」

加納「お、おう」


パッシーンッ


進「危ねぇ……」

連夜「これで済むと思うなよ」

進「悪かった、穏便にな」

連夜「じゃあ別れるか?」

進「いや……それは話が別だろ……」

連夜「殺す」

進「だぁ――! まてまて! 高杉たちも見てないで止めろ!」


高杉「いや、まぁ当然の報いだろ」

内海「そうだな。漣のシスコンを知ってて付き合ってるんだから」

諏訪「そゆことだな」

進「鬼ども!!!」


 進の悲鳴がグラウンドに響き渡り、最後の高校生活を終えた。  そして……







 翌日、進は成田空港へ向かうため朝早く起床した。  卒業式が終わってから埼玉の実家へ来て泊まったため、すぐ東京へ行かなくてはいけない。

進「さてと、行きますか」


 前日に準備したバッグを持ち、家を後にした。

翔「おはようさん」

進「うわっ、ビックリした」

翔「ふぁ〜あ、待ちわびたぞ」

進「相変わらず朝早いな……んで、何のようだよ」

翔「いや、今日行くんだろ? だからまぁなんつーの、激励ってやつ?」

進「何か違う気がするが、まぁいいか」

翔「後、これは豹からの手紙。流石に来れないらしいから」

進「当たり前だろ。っていうかお前もチームと合流しなきゃいけないんじゃ……?」

翔「あぁ、俺投手だからさ。登板予定ないからゆっくり来いって」

進「緩い球団だな」

翔「ほら、ゴールデンルーキーだし」

進「(どっかの誰かさんも言ってたな)」

翔「お前がいない二年間で俺はプロで実績を上げる。差、つけてやるからな」

進「あぁ……楽しみにしてるよ」

翔「まぁ二年後、進がドラフトかかる保障もないしな」

進「それ言ったらお前がプロで投手やっていける保障もないけど?」

翔「あったま来た! 絶対、タイトル獲ってやる!」

進「精々頑張れよ!」

翔「お前がいない間、光ちゃんのことは任せなさい」

馬紀「なぁに? 翔くん」

翔「……頑張ってこいよ、進」

進「お、おぅ……と言うか馬紀さん、お久しぶりです」

馬紀「久しぶり。アメリカ行くんだってね、頑張ってね」

進「えぇ。馬紀さんもいたんですか?」

馬紀「うん。ちょっと出かけててね」

進「……おい、翔。横浜海琳の卒業式って一昨日だったよな。良いのか?」

翔「埼玉の実家に来ただけで何が悪い」

進「(嘘だな、絶対に)」


 言葉を濁したがまぁ現状で進は察した。プロの選手、しかもルーキーが余分に休んで何してるんだ……っと呆れてしまった。

進「まぁ、馬紀さんも翔と仲良くね」
馬紀「ふふ、照れちゃうな」

進「(なんで翔のことがいいんだろう?)」

翔「全力で殴るぞ?」

進「読み取るな」

翔「ってほら、豹の手紙忘れるなよ」

進「おっと、サンキュ。じゃ、またな」

翔「あぁ」


 翔と馬紀に別れを告げ、進路は東京・成田空港へ。


・・・・*

進「さて、豹のヤツ……何を書いてるやら」


 電車で移動中、翔から渡された豹からの手紙を読んでみることに。

豹「前略……とかめんどくさいから書かないわ。まずお前には本当に感謝してる。 お前や翔、有館中学のやつらと出会わなきゃ今の俺なんて考えられねぇし、そういう意味じゃホントありがとな。 さて、ご存知の通り俺なんかでもプロで指名してくれたわけでね。龍や翔とも同じリーグで中々楽しめそうだ。 二年後のお前や四年後のレンがプロ入りしたとき、少しでも差をつけられるように頑張るつもりだわ

進「(まったく、自信家ばっかりだな)」

豹「光ちゃんとも末永くお幸せに〜って言いたいところだが二年間っつーのは結構長い。 お前がいなくて寂しがっている光ちゃんを落とすのは結構簡単だと思うわけだ。つーわけで俺に取られるのが嫌ならさっさと戻って来い。 それまでは他の男が寄り付かないように見張っててやろう。スゲー友達思いだろ? 俺ってさ

進「(お前が一番危ねぇじゃねーか)」

豹「と言うわけで中学の時の感謝を書こうとしたら長くなってしまった。 この辺にしておくわ。また同じグラウンドで野球できることを願って。 TO My Best Friends Susumu Sakuraboshi PS.登録名を『氷室』にする予定♪ やっぱ中学の野球が原点なんで〜(笑

進「(なんで最後だけローマ字で書いたんだ?)」


 しかし豹の手紙を見てふと笑みがこぼれた。あの豹がこういう文章を書くこと自体がかなりの進歩だったから。

進「登録名、氷室にするのか……喜ぶかもな、おじさん」


 中学時代、豹は氷室という性だったが高校で本当の両親のところへ行ってからは進藤という性になっていた。  今の両親とも差して問題はなく過ごしてるらしいが、やはり中学のときの出来事が大きかったからもあるだろう。  それは当然、育ての親への感謝の意も含まれているかも知れないが。

進「(俺も楽しみにしてるよ、一緒に野球をやるその日を)」


 豹の手紙をバッグにしまい、いよいよ進は日本を飛び立つ。


・・・・*

進「流石に空港は初めてだからな……ラザフォードはどこだ?」


 待ち合わせしている相手を探していると、見覚えあるやつと出会った。

龍「おやおや、そこにいるのは進じゃないか」

進「龍!? なんでここに?」

龍「いやチームが午後からのオープン戦出ろって言うからこう朝早くにね……」

進「なら昨日のうちに行っとけよ」

龍「はぁ……鬼だよね、プロって」

進「………………」

龍「それはさて置き、これから行くとこ?」

進「あぁ」

龍「そっか。ちゃんと治して来いよ」

進「あぁ、サンキュ……あっ!」

龍「――! それじゃ俺、そろそろいかなきゃ」


 ハッと思い出した進に対し、察した龍は咄嗟に逃げようとした。  当然、首根っこをしっかり捕獲されたが。

進「またんかい、コラ」

龍「何よ?」

進「逃げるってことは心当たりありか?」

龍「いやいやいや、時間時間」

進「手っ取り早く済ませてやる。レンにバラしたのお前か?」

龍「何を?」

進「光ちゃんと付き合ってること」

龍「あーアレね。まぁ確かに俺も企画者だがレンが気づいたんだよ」

進「嘘やん!」

龍「ホント、鈴村たちと試合やってね。んで、偶然レンが恭子のこと思い出して……」

進「あぁ、バレたんでいっそ全部喋っちまおうと」

龍「そゆこと!」


バキィッ!

龍「酷ぇぜよ、進ちゃん」

進「どっちがだ。おかげで昨日酷い目にあったんだぞ」

龍「は?」

進「レンが帝王の卒業式に乗り込んできた」

龍「嘘やん」

進「いや式自体は終わった後だけどな。マジで」

龍「あいつ、そこまでなの?」

進「だから言ったろ。恐ろしいぞ?」

龍「じゃあ付き合わなきゃいいじゃん」

進「あ?」

龍「すいませんでした」

進「ったく……まぁどうせ言わなきゃいけなかったんだしプラス思考で行くか」

龍「そうだな」

進「あ?」

龍「悪かったって」


 殴った相手を見下ろしたりとガヤガヤと騒がしい空港内だが、二人の存在はそれなりに目立っていた。  ましてや片方がプロ注目のルーキーと言えば目立つのは必然とも言えた。

??「ススム、ここにいたか」


 しかしそのおかげで進の探し人がようやく現れた。

進「ラザフォード!」

ラザ「マッタク、ヤクソクのばしょにいろよ」

進「悪い悪い、場所が分からなくて」

ラザ「まぁイイ。ゆくぞ」

進「オッケー」

ラザ「チガウ。OKだ」

進「細かいことは突っ込むな」

龍「んじゃ、またな進」

進「あぁ。プロでも頑張れよ」

龍「もちろん、約束は守る。だから早く帰ってこいよ」

進「おう!」


 進とかつて約束した『野球を続けて一流になる』、プロ入りも龍にとってはゴールじゃない。  むしろようやくスタート地点に立ったようなもんだ。
龍「まずはレギュラー獲得だな。情けない姿を見せられるかよ!」


 龍も以前と違って前を向いて歩ける。約束が果たされるその日まで歩みを止めるわけにはいかない。

ラザ「……いいナカマだな」

進「あぁ。あいつらがいるから、俺は戻って来ようという気になるのかもな」


 どんなにメジャーが実力高くても、日本には切磋琢磨できるライバルたちがいる。  桁外れな実力を持つ進もいきなりメジャー挑戦という考えは頭にはなかった。

進「んで、どうすればいいんだ?」

ラザ「ちょっとマテ、テツヅキをしてくる」

進「しとけよ!」

ラザ「おまえをサガシテたせいなのだが?」

進「う……すいません……」


 手続きを終え、持ち物・身体検査をするゲートに向かう。  その時だった。

連夜「進!」


進「は、レン!?」

ラザ「サザナミ……」

連夜「危ねぇ……間に合ったか」

進「何したの、お前」

連夜「いや、見送るつもりだったが寝過ごしてさ」

進「わざわざ良かったのに……」

連夜「まぁそうなんだが、光に手紙を頼まれててさ」

進「え……?」

連夜「あのやろう、俺がちょっと進に最後会おうかなって言ったら頼みやがって。 何か別れの直前に会うと泣きそうで辛いんだって」

進「そっか……」

連夜「ほらよ。確かに渡したぜ」

進「あぁ、ありがとう」

連夜「そこでさ、聞きたいんだけど光と別れる気ない?」

進「聞いてるつーかもう脅しじゃねーか」

ラザ「サザナミ、フタリはつきあってるんだろ?」

連夜「そこが問題なんだよ」

ラザ「ン?」

連夜「進が一方的ならボコボコにして立ち上がれないくらいにしてやるんだが」

進「サラリと恐ろしいこと言うな」

連夜「光も好きって言うからなぁ……俺としてはどうにも出来ないわけで」

ラザ「なかなかオトナじゃないか」

進「(どこがっ!?)」

連夜「つーわけでとやかく言わないことにしたわ。光の想いは尊重する」

進「レン……」

連夜「泣かせたら殺すし、光が他のヤツ好きになったら覚えておけよ」

進「あ、許す気はゼロなんだ」

ラザ「(そもそも、ホカのやつスキになったらサザナミはススムどころじゃなくなる気がする)」

連夜「ま、どうでもいい。とりあえずさっさと行ってさっさと戻って来い」

進「……あぁ」

ラザ「サザナミはどうするんだ?」

連夜「大学進学だよ。ドラフトかからんかったし」

進「お前、断ったって専らの噂だが?」

連夜「まぁね。打撃は評価してもらってたけどな。多分、プロ入り後は外野コンバートだろうし。 まだ、キャッチャーとしての俺は評価されてないってわけだ」

進「左投げだもんな……」

連夜「それに高杉にも言われたが、センスだけでやってるって言うのも気に食わないし。 大学で磨くよ。最終目的は全ポジション守れるオールラウンダーだ。プロ野球に漣連夜の名を轟かせてやる」

進「それでこそレンだぜ」

ラザ「オールポジション? おマエ、キャッチャーにコダワッテルんだろ?」

連夜「あぁ。それはもちろん。だけど俺は投手を含めた九つのポジションを制覇する。 野球ってそうだろ? 一つのポジションで縮こまってる俺じゃねーよ」

ラザ「フゥ……クチだけはあいかわらずイチリュウか」

連夜「へっ。口だけかどうか見てやがれ」

ラザ「ヨシ、イクカ。ススム」

進「そうだな。じゃあレン、光ちゃんのこと頼むわ」

連夜「お前に言われるまでもねぇよ」

進「そりゃそうだな」

連夜「……約束……」

進「あ?」

連夜「約束守るから、ずっと待ってるってさ。光からの伝言」

進「…………分かった。二年後にって伝えてくれるか?」

連夜「誰が伝えるか、バーカ!」

進「………………」

連夜「さっさと帰ってこいよタコ。光のこと傷つけたらマジでキレるからな」


 それは連夜が初めて言った肯定の言葉でもあった。どこぞの馬の骨よりは目の前の男の方がよっぽど信用できる。  連夜なりに考えた結論だろう。シスコンと言ってもただただ妹が心配(度が過ぎてるけど)なだけだ。

進「んじゃ」

連夜「あぁ。ラザ、後頼むな」

ラザ「リョウカイ」

連夜「一時でもお前を信じた、そのことを後悔させるなよ」

進「もちろん。お前のためじゃなく、あの娘のためにな」


 フッと澄ました連夜だったが次の瞬間、進に殴りかかろうとした。  やはりムカついたらしい。進はラザフォードを引っ張り急いでゲートを通った。
 最後にどんなに格好つけようと、やはりこいつらはこういう感じが一番なのだろう。







 中学時代、曲がりなりにも一緒になり全国制覇を果たした。
 高校時代、別々の高校に進学したった一つの聖地を目指し本気でぶつかりあった。  そして今、それぞれは別の目的のため別々の進路へ歩き出す。

翔「行くぜ、開幕一軍!」


 小さい頃から持ち続けた夢を叶えようとするもの。

豹「人間、何事もほどほどが一番だね」


 自分の過去に別れを告げ、前に進もうとするもの。

龍「俺だってやる気になればそれなりにやれるんだよ」


 自分の目標、そして友人との約束を達成するために努力するもの。

連夜「ともかく、めんどくさいことは大嫌いだ」


 過去に囚われずに今一度、自分の意志で野球を始めようとするもの。

進「まだまだ、これからだな」


 そしてより高みを目指すため、自分を厳しい環境の場におくもの。


 個性的な五人が出会い、そしてそれぞれを受け入れ共になった。

 それらは些細なことでは切れる事ない絆があった。

 時の流れは移り行くけれど変わらない絆がそこにはある。その絆だけは残り続けるだろう。


 『Best Friends』


 口に出せば恥ずかしいが心に秘めとけばこれほど心強い言葉はないのではないだろうか。

 意識せずとも心にそれぞれの想いとその言葉を秘めて、この先の長い道を歩んでいく。

 一人では決して乗り越えられない道があっても、一人でなければ意外と簡単に進めちゃうかもしれない。

 悩むんなら一人じゃなくて……信じられる親しい人達と一緒に……ね。



〜Best Friends Storys End〜



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