キミガクレタモノ


「チッ……」  マウンド上の投手は下を向き舌打ちをした。 バットの快音だけでそう分かったのか、打球は思ったとおり左中間スタンドに吸い込まれる逆転アーチを打たれた。 投手コーチがベンチからゆっくりマウンドに向って来て、少し遅れて監督も出てきた。 交代はほぼ間違いないだろう。場内に投手交代が告げられた。 3回7失点でノックアウト。プロ入り後初……いや、野球人生で初となる3回ノックアウトにさすがに冷静にいれなかった。 ベンチに戻るとチームメイトが励ましの声をかけるが、そんなのは耳には入っておらず乱暴に物を取りベンチを後にした。 「クソッ!」  ロッカールームで荷物の整理をしていてもまったく落ち着かず目の前にある壁を商売道具の右腕でを思いっきり殴る。 こんなのでスっきりすればまったく苦労はしないがモヤモヤした気持ちをどこにぶつければいいか分からなかった。 たまたま通りかかった選手に止められたが、右腕からは血が流れ出ていた…  そして結局試合は12対3で負けた。 1回に3点を先制したが先発投手である“漣白夜”が3回7失点、後続の投手も打たれ大差で敗北した。 本拠地での大敗にファンも頭に来たか、試合終了と同時に色んなものがグラウンドに投げ込まれた。 それを見ていた白夜はベンチから立つことも出来ずただ俯いていた。 さすがに試合終了までには落ち着きを取り戻してはいたが、頭の中は真っ白で何も考えれなくなっていた。 呆然とベンチに座って動かない白夜に対し、先ほど止めに入った選手が声をかけた。 「ドンマイ、打たれる時だってあるさ」 「………気休めは結構です…」  しかし白夜は冷たく流し、ベンチを後にした。 今日は誰とも関わりたくないというのが本音だろう。 残された選手はアッサリかわされ、逆に呆然としていた。 とりあえず、どうしたらいいか分からなかったため、その場にいた同期の人間に話しかけた。 「………おい、瀬野……白夜くんが冷たいぞ」  瀬野と呼ばれた選手はバットなどをケースに入れ、帰る準備をしていた。 話しかけられ、その作業をしながら呆れた感じで言った。 「そりゃ打たれてご機嫌ってわけにもいかないだろ」 「マズイな……」 「何が?」 「義弟の機嫌を損ねたら、相手の家族に印象悪いだろ」 「とりあえず義弟じゃねーだろ」 「………ハァ…飲みにいかね?」 「お前の奢りな」  こうしてプロの選手たちも夜の街へと足を運んでいった。  場所が変わって某居酒屋。 白夜も自棄酒を飲みに来ていた。と言っても酒にとても弱い白夜は1瓶のビールをゆっくり飲んでいるが… 「お客さん、起きて下さい」  隣りの席で店員に揺すられている人がいた。 本当に酒に飲まれるやつがいるんだなっと気にせず見ていたが、ふと顔が見えたとき動揺してビール瓶を倒してしまった。 その人は女性だっただけだが、白夜にとっては十分驚くことである。 慌てずに店員から布巾をもらい、拭きながら心の中で今の出来事を整理していた。 (女性も自棄酒ってするんだな………人だもんな……)  そんなことを考えながら、カウンターを拭いていると女性が眠っている近くに名詞っぽいのを発見した。 何気なくそれをめくってみると名前と住所が書いてあった。 「あっお客さん、その場所分かります?」  紙を見てると急に店員が話しかけてきた。 何となく先が読めるが、知っているのを知らないと言えるほど悪い性格でもない白夜は素直に答えた。 「え、ええ。一応……多分この先にあるアパートだと思いますよ」 「それは助かります。この方送っていただけませんか?」  やっぱりなと思いつつ、引き受けるほど人が出来ていない白夜は断ることにした。 「すいませんが………」  言葉を続けようとしたが、店員が押してきた。 「ビール代はいりません。どうかお願いできます?」  いや、それならビール代払います。と言いたかったが、そこまで言われたらさすがに断れず結局承諾してしまった。  タクシーを呼んでもらいアパートまできたはいいが、それからどうしようか考えていた。 (……いや、部屋分からないし…何よりこの人どうすればいいんだ?)  タクシーに乗せるときは店員がやってくれ、降ろす時は運転手さんが手伝ってくれたがどうやって運んだらいいかわからなかった。 とりあえず、おんぶする形にしたのだが、まともに女性に触れたことのない白夜はそれだけで心臓が高鳴っていた。  さっさと大家さんに事情を説明して開放されようとそれだけを思って、大家の部屋を探した。 幸いにも部屋は分かりやすかったが、後1時間ぐらいで日付が変わる時間帯だ。ハッキリ言って迷惑でも何でもないだろう。 しかしこのまま家に連れて行くわけにも行かず、覚悟を決めてノックをした。 …………………… 「あれ?」  部屋の中から物音はまったく聞こえず、聞こえるのはどこかで遠吠えしている犬の声だけだった。 気づいて無いのか ノックした後すぐ窓ガラス越しに光が差し込んできた。 「は〜い、どなた〜?」  欠伸半分でとても眠そうな顔で大家さんが出てきた。 「夜分遅くにすいません。三佐崎さんってどこのお部屋に住んでます?」  白夜がそう言うと、大家さんは首を傾げ罰悪そうに口を開いた。 「そんな人……うちには住んでませんよ?」  このおばさん、寝ぼけてんじゃないか?と思ったがウソや冗談を言っているようには見えない。 このまま引き下がっても後が大変になるだけなので白夜は名詞を見せることにした。 「この住所、ここですよね?」 「ええ、たしかにそれはうちの住所ですね……あら?みずき?」  名前を見て、すぐに俺の背中で眠っている女性の顔を見た。 確認し終えると納得したような顔になり、微笑んできた。 「あなた、彼氏になったばっか?」 「………はっ?」  唐突に変なことを聞かれ返答できずにいると、ここぞとばかりに攻め込んできた。 「ダメね、本名ちゃんと覚えてあげないと」  これ以上誤解が過ぎると後に引けなくなると思った白夜は力一杯否定した。 「いやいや、まず付き合ってません! 今日初めて会いました!」  (というか“会った”という表現も合っているか分からないが)  自分で言ったことに関して心の中でツッコミを入れる。こんな場面で良く冷静にそんなこと思ってるなっと自分に関心をしてしまっていた。 白夜の言葉に対して、ちょっと残念な素振りを見せながら外に出てきて階段を指さした。 「あらそうなの? まあ良いわ、ミズキさんは2階の205号室よ。あの階段上ってすぐね」 「ありがとうございます」  あんたこそ名前覚えておけよっと言いたくなったが、夜も遅いのでさっさと帰りたい白夜は グッと堪え階段を上がろうとした。 「あんた良い男だね。彼女いないなら私と付き合わない?」 「謹んでご遠慮いたします」  最後にそんな会話もあったが……  部屋の前に着き、静かにノックした。 まったく反応なし。もう1回やってみたがそれでも反応なし。 (もしかして一人暮らししてんのか?)  そう思ったが、中から物音が聞こえ足音が近づいてきた。 どうやら違ったらしい。 (しかし……彼氏がいて同棲していたらマズイ状況だよな……)  だがさっきの大家さんとの会話内容だと恐らくいないだろうと前向きに考えることにした。 くだらないことを考えていたらドアが開かれた。 「はい、どちらさまですか?」  身長は同じくらいの高校生らしき少年が中から出てきた。 青少年って感じがして少し童顔だが、何かしらのスポーツをやってそうな雰囲気を持っていた。 彼氏には見えないので、恐れていた状況にはならないだろうと考え とりあえず、状況を簡潔に教えさっさとその場を去ろうとしたその時だった… 「うわっ!西武ライオンズの漣選手じゃないですか!?」  考えているそばから一番最悪な状況に一転してしまった。 これ以上、時間を取られたくないと相手を落ち着かせようとした。 「いや……あのさ……」 「なんでうちに? あーっとサインください!」  しかし白夜に喋る暇を与えず、少年は家の中に入っていった。 恐らく紙とペンを取りに行ったのだろう。 1分もしないうちに、色紙とペンを取りに来た少年は白夜の目の前にそれらを差し出した。 「サインしてもらっていいですか?」 「いや、いいけどさ……とりあえず、この人知ってる?」  そう言って背中ですやすやと眠っている女性を少年に見せるように体を傾ける。 人に気づいた少年は覗き込むように顔を見ると、呆然としていた。 10秒ちょっと固まった後、恐る恐るといった口調で話し出した。 「これは僕の姉ですが……漣さんとどういった関係で?」  どういったもこういったも無い、今日初めて会った……いや会ったという表現すら正しいか分からない。 さっきの大家さんと同じ感じなり話が長くなりそうと考えた白夜はまずは背負っている女性を降ろすことにした。 「えっと……話せばややこしくなるから、家に入れてもらっていいかな? この人、早く横にしたほうがいいと思うし」 「ああ、そうですね。どうぞ」  こうして白夜の夜は予定よりさらに長引くこととなった…    中に入ってみると思ったより広く、トイレ、お風呂などしっかりある部屋だった。 外見はそれほど新しくもなくどっちかと言うと古いの分類だろうが、中はしっかりしていてる。 家賃次第だが、駅もそれほど遠くなく外見だけで判断するには勿体無いくらいの物件だろう。まあ大穴的な感じだろう。 しかし白夜は中に入ってから人がいる気配がしないのに気づいた。 「えっと………」  聞いてみようとしたが、良く考えたら名前を知らなかった。 とりあえず名前から聞くことにした。 「なんですか?」 「名前なんて言うの?」 「ゆうさくと言います。みずきゆうさくです。優しいに作るで優作」 「じゃあ優作くん、お姉さんと二人で住んでいるの?」 「そうですね。両親はいま海外行ってますから」 「仕事?」 「6年くらい前から旅行に行ってます」  ……スゲー親もいるもんだ。と心からそう思った。 ただ白夜の家系も人のこと言えない家系だったりするが…… 「優作くんは今高校生だよね?」 「ええ。高三です」  高三ってことは17〜18歳。6年前ってことは小学6年生くらいと言うことになる。 (う〜ん……やっぱ世の中広いな……)  そんなことをつい思ってしまう白夜。 先ほども言ったが、白夜の家系もとんでもない家系だったりするがここでの説明は端折ることにする。 「漣さん、立ってないで座ってください。姉さんをずっとおんぶってて疲れたでしょう?」 「ああそうか。そのために中に入ったんだもんな」  優作の案内により、ベッドに優作の姉を寝かせようやく肩の荷が降りた感じがした。 これでようやく帰れると思ったが、このまま帰れるほど世の中は甘くなかった。 「っで漣さん、姉とどういった関係なんですか?」  まあ、説明するから中に入れてもらったようなものだし、赤の他人と言って帰るのはとても後味が悪い。 優作がお茶の準備もしていることから、覚悟を決め全部説明することにした。 (めんどうなことにならなきゃいいな。)  それだけを願って。  白夜はそれから、居酒屋での出来事を言った。 それ自体は5分もかからなかったが、球場を出たところから説明したせいで 試合のことも聞かれてしまった。そのせいで全体説明に30分を要した。 「はぁ……それは姉が大変ご迷惑をおかけしました」 「いや別にそれほどでも無いから。あのままあそこにいたら、俺がそうなっていたと思うし」 「今日の漣さん、精彩を欠いてましたからね」 「まあ、な。どこが悪かったんだろ…」  どうやらこの少年は西武ファンらしい。ファンじゃないと分からないであろうと思われる、細かいところまでちゃんと知っていた。 ……逆にこんな日にファンの少年と会うのは良い気持ちではなかった白夜だが…… 「っともうこんな時間か」  話しの途中で時計が鳴り出した。どうやら12時を迎えたようだ。 長居する理由もないのでちょうど良いタイミングと思い、立ち上がった。 「あれ? もう行くんですか?」 「いやもう12時だし。優作くん高校生だろ?」 「今時の高校生は12過ぎでも普通に外歩いてますよ」 「それはそれで問題だけど……まあいいや。じゃあお邪魔しました」  そういって立ち上がったとき、部屋の方から物音が聞こえた。 何かが床に落ちたような音だった。白夜は物音が聞こえた方を見た後、優作に尋ねると手を額に当てながら呆れるように言った。 「あ〜……多分姉がベッドから落ちたんだと…」  その優作の言葉のあと、すぐに部屋のドアが開かれた。 「いったぁ〜、なんで私部屋にいるの……?」  左肘を抑えながら、やや寝ぼけ半分でいた。 その姿を見て優作は先ほどと同じトーンで言った。 「姉さん……あれほど酒飲むなって言ったのに…」 「む〜…だって、ちょっと嫌なことがあって……」 「この方が姉さんを送ってくれたの。礼いいなよ」 「えっ?」  優作の姉は白夜の方をみる。弟以外に人がいたことに驚き、寝ぼけていた顔もすっかり冷めたようだ。 「あっ! ……えっと……ご迷惑をおかけしました」 「…いえ……迷惑だなんて…」 「? どうしました? 白夜さん」 「いや…なんでもない」  なぜか白夜は戸惑っていた。それは優作にはっきりと見て取れた。 優作はピンと来たか、白夜に近づき耳打ちをしだす。 (白夜さん、姉に惚れました?)  当然のように優作は頭を殴られた。 優作は頭を抱えうずくまった。白夜は小さい頃から兄を叩いたり蹴ったりしていたため どこをやれば的確にダメージを与えれるか熟知していた。他の人が叩くより数倍も痛いだろう。 「あの、お名前は?」  白夜はずっと引っかかっていたことがあった。名刺と大家さんがいったことの食い違い。 そして何より、優作の苗字。「ミズキ」 一体どれが本物の名前なのか? 頭を抑えている優作が小声で「やっぱ興味あるんじゃん」と言ったが、白夜に聞こえたらしくまた叩かれた。 「みずきゆうです。優しい一つで優」 「………えっとみずきといのは?」 「苗字ですよ? 水に樹木の樹で水樹」 「ではこの苗字の名前は?」  そういって名刺らしきものを見せる。そこには「三佐崎 みずき」と書いてある。 「ああ、これは私の仕事の時の名前です。えっと……なんて言えば分かりやすいですかね…」 「簡単に言うと芸名ですよ」 「なるほど」  優作の一言ですぐ理解した。しかし、住所は本物で名前は芸名の名刺なんていつ使うんだ?と思ったがそれは胸に秘めておく事にした。 「お礼がしたいんですが、明日お時間あります?」 「ええ。昼は大概暇ですよ」 「というか白夜さん、明日オフじゃないの?」 「……まあ…そうだが、俺だって夜の付き合いくらいある」 「明日高波選手の先発ですからね」 「きみ、ほんと詳しいな」  高波とは西武の先発投手の一人で、白夜の1つ上である。 打たれたら自棄酒、勝ったら気持ちよく酒を飲みに行くとどっちにしろ飲みに行かされる。 特に自棄酒の場合、毎日試合に出る野手は付き合えないため、先発投手でかつ仲のいい白夜がいつも相手をする。 しかし一人話の入れない優はしどろもどろしているだけだった。 「あの〜? どんなお仕事をされているんですか?」 「一応プロ野球の選手です。西武ライオンズの」 「せいぶって言ったら優作のファンチームの?」 「そうだよ。漣白夜選手だよ」 「びゃくや……さんというのですか? 難しい名前ですね」 「白い夜と書いて白夜です。うちの親安易なので、夜という漢字が使われる言葉を捜した結果こうなったようです」  色んな大事なところを端折ってはいるが、大方こんな理由だ。 どういうわけか漣家は適当な性格が多い。特に父親と一つ上の兄はかなり酷い。 だからその二人に比べれば白夜はかなりマシな方だ。多少血が入っているような素振りを見せるが… 「もしかしてお兄さんいらっしゃいます?」 「ええ……ややこしいですが「漣」としての兄は一人います」 「そう…ですか…」 「どうかしました?」 「いえ何でもありません」  なぜそんなことを聞いてきたか気にはなったが、そろそろ帰らないと明日昼に起きるのが辛くなる。 全部含めて、明日聞くことにした。 「ではこれで。明日どこで待ち合わせます?」 「えっと……では州境高校の近くに美味しいお店があるんで、そこで」 「白夜さんの携帯番号聞けばいいじゃん」  優作が優に向って言う。優があっそうかという反応をする前に白夜が口を開いた。 「悪いが、俺携帯持って無いんだよね」 「ええ!!! 俺でさえ持っているのに!? というか今時持って無い人いるんですか!?」 「俺、機械強くないからさ。そんなに必要としないし…」  携帯を持っていないことに驚いた優作は白夜に携帯の必要性を語りだそうとしていたが、それを察した優がすぐに話を変えた。 「では、州境高校で待ち合わせましょう」 「そうですね。じゃあ明日楽しみにしてます」  優の機転により、話がまとまりようやく白夜は部屋を後に出来た。  外に出ると月がハッキリ見えるほどいい天気だった。 今日は三日月のようだ。 「ここまででいいよ。ありがと」  アパートの正門のところまで優作は見送りに来てくれた。 「分かりました。こちらこそ今日はありがとうございます」 「別にいいよ。おかげで自棄酒飲まずにすんだし」 「あの……一ついいですか?」 「ん?」 「姉……のことどう思います?」 「………いや、優作くんが考えているようなことは無いから…」 「じゃあ、何で姉が起きて来たとき戸惑っていたんですか?」 「………………いや、それは……ね……」  白夜は上手く答えれず口ごもっていると優作がズバリ一言。 「言っちゃあ悪いですけど、もしかして白夜さん、女性のこと好きになったりとかそういう感情になったことないですよね?」  ど真ん中の速球を投げられた気分だ。いや、白夜は投手だからバックスクリーンに運ばれた感覚にしておこう。 白夜はズバリ核心をつかれ挙動不審になった。 「まあ、そうだけど……高校時代も野球や兄とのことでそれどころじゃなかったし…」 「やっぱり。だから好きとかそういう感情分からないんですよ」 「……たしかに……だけどさ、多分違うと思うよ?」  とりあえず否定しておいた。頭の中じゃさっき会ったばっか優の姿が離れなかったが… 「そうですか……じゃあ明日」 「ああ。おやすみ」  そして白夜はそのアパートを去り、夜の道をゆっくり歩いた。 今までに味わったことの無い鼓動を抑えながら…      * 「あ〜……寝不足だ……」  すっかり昇りきった太陽を感じながらゆっくりとベッドから降りリビングに向った。 実家が近いことから、ホテルではなく実家に帰ってきていた。 実家と言っても、両親は離婚しており父親しかいなく、兄は一応仕事の関係上家に帰ってくることは少なく、妹も嫁に出ており実家には父親しかいない。 とりあえず重い体を起こしリビングに行くと、父親がせっせと朝食を用意していた。 「何してんの?」 「見て分からんか? 朝食の用意だ」  誇らしげに言う父。しかしそれに対し白夜はため息をつきめんどくさそうに言った。 「んなもん、俺がやるよ。父さんの飯が食えたモンじゃない」  その一言で父に火がついたのか思いっきり反論してきた。 「失礼だな! 大体、俺だって一人で暮らしてたんだぞ? 料理くらい上手くなるわ!」 「音梨さん家に食べに行ってるだろ。光がいなくなってから一時は入院するくらい栄養偏っていたくせに」 「うるさい! 古い話も持ち出すな!」  このままではキリが無いと思ったのか素直に食べることにした。以前と違って、見た目は良くなっていた。 もちろん以前は見た目も悪く、味も非常にマズかった。昔の漫画では無いが砂糖と塩を間違えるなんて日常茶飯事だった。 「どれ、じゃあ食べてみるか。どれだけ上達したか」 「なんで、上から目線なんだよ……」  そんなこんなで朝食を食べ、昼の待ち合わせまですることの無い白夜はただゴロゴロしているだけだった。 ちなみに朝食は食えなくは無かったが、それほど美味しいというほどでも無かった。 「お前さ、いくらオフでもだらけ過ぎじゃね? 夏休みの高校生じゃないんだぞ?」 「なんだその例え。う〜ん……つってもすることないしな…」 「お前、昼州境の近くいくんだろ? 高校野球でも見てくれば? 昨日ノックアウト食らってるだろ?」 「何の関係があるんだよ…」 「がむしゃらにやってる人を見れば自分もがむしゃらになれるってわけさ」 「…………アホくさ…」 「ここか……」  何だかんだ言って結局白夜は州境高校を訪れた。 今、グラウンドでは練習試合が行われているようだ。 州境が今、守っている。背番号1をつけた、恐らくエースと思われる投手がマウンドに立っている。 3対0。州境が勝っているみたいだ。 7回の表、相手は1番からの好打順らしい。相手のベンチの監督が声を響かせる。 「こらぁ! 完全なんてやらせるな! ここから打ち崩せ」  その言葉を聞き、白夜は投手を見ながら思ったことを口にした。 「へぇ…あの投手完全やってるのか……凄いな」  白夜の声が聞こえたのか、州境の監督が白夜に気づいた。 「あれ? 白夜くんじゃないか。どうした? こんなところで」 「……友弥さん!? 州境の監督してるんですか?」 ――えっと友弥さんの紹介を一応しておくと、本名音梨友弥さん。えっと……簡単に言うと父さんの親戚なんだが…… こっからはややこしくなるから別の話でな。 「昨日は散々だったね」  会うなり一番触れられたくないことを言われる。 と言っても昨日から言われまくっているせいかもう慣れた素振りで軽く流した。 「ええ。会う人みんなそう言います」 「まあ気にしてたって始まらないよ。まあ次頑張ればいいじゃん」 「はぁ……とりあえずそれは置いといて、友弥さんが監督しているんですか?」 「ああ。前の監督さんが体調を悪くしてな。2年くらい前からやってる」 「じゃあ今年の3年生が1年の時からですか。エースピッチャー、いいですね」 「おっ。さすがプロ野球選手。見る目いいな」 「そりゃ完全試合やってる投手ですから……野球ちょっと知ってりゃそう思いますよ」  白夜の言葉に対し、友弥は呆れた目で白夜を見た。 「お前さ……もっとマシなコメント無いわけ?」 「と言っても、今来たばかりですから。制球はそこそことして、フォークボールは切れ味いいですね。っとこれでいいですか?」 「………お前、人おちょくってんの?」 「滅相もございません」 ――友弥さんと話していたら、州境の選手たちがベンチに戻ってきた。どうやらチェンジのようだ。 この回もランナーは出ず、完全試合続行中みたいだ。  選手たちが戻ってくる中、そのエース投手は一人の選手のところに行って、頭を軽く叩いた。 喜んでいるところを見るといいプレイでもしたんだろう。 そして、その叩かれている選手に白夜は見覚えがあった。 「あれ? ……えっと………優……さくくんだっけ?」  昨日の夜会ったばっかりなのにすでに名前を忘れかけていた。 声をかけられ白夜の存在に気づいたのかすぐに白夜の目の前に来た。 「うわぁ! 白夜さん!ってもう名前忘れたんですか!?」 「いやいや、覚えてるって。優作くんだろ」  二人が話している中に友弥が入ってきた。 「なんだ、お前ら。知り合いなのか?」 「知り合い……ですね。一応」  白夜に気づいた野球部員たちが一斉に近くによってきた。当然だろう、プロ野球選手がいるんだから。 めんどうなことになったな。と心の中で密かに思っていた。 あれこれ聞かれるのは面倒だっと自分から話を振ることにした。 「えっと…優作くんは守備どこなんだ?」 「セカンドですよ。多分、守備だけだったらプロ選手にも引けはとらないと思いますよ」 「本当か?」 「本当ですよ。プロでもゴールデングラブ行けますよ」  白夜の問いに答えたのは優作ではなく、違う部員の方だった。 現在完全試合続行中のエース投手だった。 「へぇ。他の人が言うならいいんだろうな」 「それより、お前らは試合に集中しろって。相手チームの監督がこっちを睨んでる」  友弥が白夜の周りについている部員たちに向って言う。 部員たちは渋々ベンチに座りだした。 「じゃあ俺先に行ってるぞ」  時間を確認した白夜は優作に言った。 しかし優作は申し訳無さそうなにして言葉を発した。 「すいませんが俺、試合あるんで行けませんよ。昨日言い忘れてました」 「まぁ……そりゃそうか……」  白夜が納得できないのは、申し訳無さそうに言っているわりに顔が嬉しそうというか何か企んでるようにしか見えなかった。 そして白夜の近くに来て一言。 「姉さん、今日楽しみにしていましたよ。白夜さん、男を見せてくれば」  昨日に引き続き、白夜に頭を叩かれる。 「アホか」 投げ捨てるように言ってその場を離れた。 しかし、せっかく忘れていたことを白夜はまた思い出すハメになってしまった。  場所は変わって某レストラン。 とある二人のデート中のところにちょうどその女性の方の兄と会い、3人で食事を食べることになった。 漣連夜、桜星進、光の3人だ。 連夜は高校時代に野球をやっていたが、今はちょっとした仕事についている。進はダイエーホークスの選手として活躍中。 光は連夜の妹で進の結婚相手。つまり、進は連夜の義弟という関係になっている。 レストランに入ると一気に客の視線が3人に集中した。 進はプロ選手なため当然有名でさらに容姿が整っており、かなり女性に人気がある。 少し金色が入った茶髪で薄い茶色の瞳をしている。 連夜は進と違い有名では無いが、結構容姿がしっかりしている。しかし、女性運が無いのか人と付き合ったことが数える程度しかない。 髪は薄い青色、水色よりもう少し薄くした感じの色でカラーコンタクトをしている。 多少、性格も関係あるんだろう。今、連夜が就いている仕事を考えると向いていないんじゃ無いか?っと連夜を知る者は思うだろう。 実際最初はかなり苦労したが、結構順調に仕事をこなしている。その世界に関わる人なら十分分かるほど名も知れてきたところだ。  3人は目線を感じながら席に着いた。最初に口を開いたのは連夜だった。 「最近、やけに会うな…」 「そうだね。翔さんの時以来だね」 「まだ2週間も立ってないか……あいつらどうなんだ?」 「それは進のほうが詳しいだろ。メールで近況言ってこないのか?」 「言ってこないね。あいつ自分のことは隠すから」 「そうか……まあ、嘆かないところを見ると上手くってるんだろう」 「だろうな。っで、レンは何か無いのか?」 「こらこら、義兄さんと呼びなさい」 「………………………」  進の隣りにいる光から鋭い視線が連夜へ届く。 その視線を感じた連夜は首を竦めて―分かったよ―の一言。 それから他愛の無い話をしていたところ、斜め後ろの席にとあるカップルが座った。 連夜は後ろだったから気づかないが、向いに座っている二人は気づいた。 「なあ、アレって白夜くんじゃないか?」 「あん?」  進に言われ後ろを見たところ、どうみても弟の白夜だった。 それ以上に一緒に座っている女性に見覚えが会った。 「……あの女性……水樹さんじゃね?」 「え、お兄ちゃん知ってるの?」 「……漣家で関係があった人なのか? 俺は初めて見るけど」 「いや、仕事でちょっと……」  連夜が知っていることに驚いた光が問いただした。  コーヒーを片手に進が二人に質問をした。 「みずきさんって言うのか?」 「あぁ、水樹優さんだ」  連夜のその一言で光が首を傾げた。そして少し考えた後、恐る恐る口を開いた。 「おかしいな……たしかあの人の名前、三佐崎みずきさんのはずだよ?」  その言葉に今度は連夜が首を傾げた。二人の言う名前に食い違いが出た。 そこに進が思ったことを言ってみた。 「レンって本人から聞いたんだろ?」  進の言葉に連夜は黙って頷く。 「光は?」 「私は雑誌とか見ていてかな」 「多分、光の方は芸名じゃないか? レンの仕事の関係上、本名だろうし」  進の言葉に二人とも納得した。そうすれば辻褄は合う。 だがもう一つ問題は残っていた。 「…んで、その水樹さんが何でびゃくと一緒なんだ?」 「どっかで知り合ったんじゃないか? というかそうだろ」 「いや、びゃくの性格上女性と話すだけでも大変なはずだ。なのに結構親しげだぞ? これは隠れて交際してたな」 「う〜ん、たしかに白夜ならアッサリ周りの人騙せそうだしね」  二人して軽く酷いことを言っている。恐ろしい兄妹だなっと進は密かに思っていた。 そんなこんなで、頼んでいた料理が運ばれてきて、白夜が気になりつつもとりあえず昼食を取ることにした3人だった。 ・・・・*  3人が食べ終えた頃、白夜たちもちょうど良く席を立った。 連夜たちは白夜たちより、店に入った時間は早いが色々会話をした後頼んだため、料理が来る時間帯はほぼ一緒くらいだった。 レジに行くと丁度良く会ってしまうので、時間差を利用し店を後にした。  店を出た白夜と優。これからどこかに行くのかと思いきや、優が急な用事が入ったらしく行かなきゃ行けないらしい。 「えっと…今日はありがとうございました」 「いえ、こちらこそ………あの…」 「はい?」 「また会ってくれますか?」 「えっ……」  白夜の意外と言えば意外な言葉に、返答に詰まってしまった優。 返答が無いため、白夜はちょっと後悔していた。 「………今の聞き流していいですよ」  白夜の言葉に我に戻ったか、優が慌てて否定した。 「あっとすいません。嬉しくて……えっと……私で良ければ是非」  顔を赤らめながら言う優に白夜はつい見とれてしまった。 恥ずかしくて、周りの人に見られたらマズイと思った白夜は咄嗟に思いついたことを言ってみた。 「えっと水樹さん、急な用事が入ったって言ってましたけど…」  その言葉に優は自分の時計を見る。そして白夜に頭を下げ、慌てて駅の方へ駆け出していった。 その姿を白夜は黙って見ていた。 そんな時だった、白夜の隣りにとある人物が現れた。 「よぉ白夜。久しぶりだな」 「………レン兄(にい)!?」  声の主は連夜だった。白夜は内心、今の見られてたんじゃ無いかとハラハラしていたが 下手に同様しても一緒だろうと、無理やり心を落ち着かせて平然を装った。 しかしレストランから一部始終を見ていた連夜はそんな白夜を面白く、少しからかってやろうと思った。 「お前、こんなところで何してるんだ?」 「食事だよ、食事」 「一人でか?」 「…ああ」 「ふ〜ん、兄は何でもお見通しなんだぞ」  ウインクをしながら言う連夜に腹が立ったか、蹴りを一発入れた。 上手く入ったため、連夜は蹲り蹴られた箇所を撫でていた。 そして、レストランから会計を終え進と光が出てきた。状況は良く分からないが、連夜が何かされたのだけは見て分かった。 「何してんの、お兄ちゃん……」  しかし白夜はそれ以上に連夜以外にも光や進がいたことに驚き、さらにレストランから出てきたことに唖然としていた。 そして、さっきの連夜の言葉から全て察し出来た。 「……レン兄…全部見てたんだろ」 「おう! お前も中々やるように……」  全部言う前に同じ箇所を蹴られまた蹲る。 ハッキリ言って相当痛そうだ。進はその姿と白夜の切れ味するどい蹴りに呆然としてしまった。 そして今までのが見られていたと知り、頭の中が真っ白になった白夜はとても慌てていた。 「ってなんで光や進さんもいるんです!?」 「いや光と昼食べようとしたらレンとバッタリ会って、んで白夜くんが知らない女性と食事していたところを発見ってところかな?」  平然と白夜にとって恥ずかしいことを言う進。ただ連夜と違って蹴るわけにもいかないのが本音だ。 「でも水樹さんと付き合っていたなんてビックリだな」  笑顔でいう光に対してすっかり頭に血が上った白夜は周りのことを考えず大声で否定した。 「付き合ってねーよ!!!」 「あれ? 付き合ってないの?」  ちょっと残念がった光に対して白夜は付け足しをした。 「今日で会うの2回目だ」  その言葉に蹲っていた連夜がいらぬことを口にした。 「白夜、おまえが好きになる女性なんてそうはいないだろ。次回のデートも取り付けたわけだし、一気に勝負かけてしまえ」 「…………レン兄、俺のために死んでくれ」 「おう、断る!」  連夜の言葉空しく、容赦無い回し蹴り。蹲っている連夜の頭をクリティカルヒットし完全に失神した。 それを見ていた進は光にこそっと尋ねた。 (レンと白夜くんっていつもこうだったのか?) (うん。こうだね……)  連夜を完全に黙らせることに成功した白夜は少しスッキリしたのか、一息つき進たちに話かけた。 「さてと、二人はこれからデートか?」 「いや残念だが、俺はこのまま東京に向わなくては行けない」 「そうか、日ハム戦がありますね」  進は野手のため、投手の白夜と違ってオフが無い。 今日は久々に関東で時間が出来たみたいだ。 現在、光は関東で仕事をしていてまだ進と一緒に暮らしてはいない。3月を迎えるまではこの生活が続くみたいだ。 「じゃあ、俺帰ります。これをよろしくお願いします」  これのとことは失神している連夜を指している。 進は苦笑しつつも指でOKサインを作った。  そして白夜は西武の本拠地、西武ドームへと向った。      *  時が立ち、12月のとある日。 白夜は水樹の部屋を訪れていた。関東に本拠地を持つ西武、ホームで試合があるときは決まって来るようになっていた。 特に白夜と優の仲は親密になってきていた。 優作は二人に気をつかい、白夜が来ると友達の家に泊まりに行ったりしていたこともあり、白夜も大分意識するようになってきていた。 もうシーズンを終えているので、時間が出来た時は家に来るようになった。 そのたびに優作は出て行っていた。今日も行こうとしていたが、白夜は優作を引きとめた。 「優作くん、今日は泊まる気ないから行かなくてもいいよ」 「ちょっと買い物に出ようとしていただけですよ。どうせ俺、来年この部屋出ますから来年心置きなくいちゃいちゃ出来ますよ」  白夜を肘で突っつきながら、はっちゃけたことを言う。 何を思ったが白夜は顔を真っ赤にし、慌てて優の反応をチェックした。 幸いにも優には聞こえておらず、キッチンで夕飯の準備をしていた。 それを確認し安心をした白夜は胸を撫で下ろし優作の頭を軽く叩いた。 その後、優作は買い物に出かけ白夜は優の手伝いにキッチンにむかった。  夕食を作り終えたころ、優作も買い物から帰ってきた。 夕食の最中、ひょんなことから話は優作の進学についての話になった。 「そういえば優作くんは高校卒業したらどうするんだ? 部屋出ていくようなこと言ってたが」  白夜の言葉に優作は少し、不満そうな顔をした。 「白夜さん………ドラフト見て無いんですか?」 「ドラフト? ………まさか、指名されたのか!?」 「自分のチームのくらいチェックしましょうよ。西武ライオンズです。よろしくおねがいしますね」 「何ィ―――ッ!?」  普段は冷静な白夜もさすがに驚いた。プロに指名を受けるならまだしも、同じチームとは思っていなかったからだ。 「じゃあ部屋出るって、寮に入るってことか…」 「そうですよ。姉さんとこれで好き放題いちゃつけますよ」  先ほどと同じようなことを言われ、白夜は慌てつつも否定した。 優は顔を真っ赤にし俯いていた。その姿を見て白夜も少し照れくさくなっていた。  夕食を終え、1時間くらい雑談を交え白夜は帰ることにした。 もう12月の半ばなだけあり、外はかなり冷え込んでいる。風の音が一際高く聞こえる。 ニュース曰く、今年一番の冷え込みらしい。 東北の方でもとっくに初雪は降っており、関東でもそろそろだろうと言われている。 子供たちにとっては嬉しいだろうが、大人になってくるとそれほど感動は無い。むしろ迷惑なだけだ。 ただ関東で雪が積もることは少なく、東北、日本海側よりは全然楽ではある。  白夜がその寒空の中、実家へ向っていると後ろから息を切らしながら走ってくる人の気配を感じた。 何があるか分からない今の世の中。念のため警戒しているとその人物は白夜の後ろで止まった。 ゆっくりかつ、警戒して白夜が振り向くとそこには走って疲れきっている優がいた。 「水樹さん!? どうしたんですか?」  白夜の言葉に反応を示さずただ息を切らして辛そうにしている優を見てて―とにかく休ませよう―と思い 優の体は以前のように抱きかかえた。その行動に優は驚いたが 白夜の少し照れくさそうにしている顔を見てちょっとからかってやろうと思ったのか、腕を白夜の首にまわしてみた。 当然、白夜はそれだけで何が起こったか分かっていない。 ただ近くの公園に向っていた足が止まり、自分の中で今起きていることを一生懸命考えているようだ。 「えっと……水樹さん?」 「クスッ。顔真っ赤だよ?」  優の言葉に余計に顔を紅く染め、さっきよりも早いスピードで歩き出した。 ただ何も考えないようにしながら早く公園に行こうと考えたのだが、優はそんな白夜を尻目により深く抱きついてみた。 遊び半分でやった行為だが、―どこか安心できる―そう感じていた。  そんな中、スピードを上げた白夜の足がゆっくりになった。目的の公園に着いたからだ。 首にまわされている手を解き、優をベンチに座らせた。そして白夜は大きく深呼吸をし始めた。 「ふふ。大丈夫?」 「あ〜……のど渇きません? 飲み物買ってきます」  白夜のそんな姿を見て、優が微笑んでいるとそれから逃げるように白夜は飲み物を買いに行った。 「………ハァ……ハァ……子供じゃあるまいし、あんなんで緊張してどうするんだ…」  自販機に金を入れながら自分に対して思っていることが自然と口に出てしまっている。 完全にまわりに人がいたら不審者に間違いないだろう。幸い、夜中なため人の気配は無かったが。 「落ち着け、落ち着け、落ち着け…………………」  それから5分くらい自販機の前でブツブツと自分に言い聞かせている。 「そんなんで落ち着けたら人間苦労しませんぜ」  突然後ろから声が聞こえる。白夜は我に返り慌てて後ろを見た。 「れ……レン兄……」 「こんな夜中、こんなところで何してんの?」  たしかに夜遅くに公園の自販機の前でブツブツと独り言を言っていたら怪しい人物に見えるのは仕方ないことだが  夜遅くにこんなところにいる連夜も十分怪しい人だ。  そんなことを知ってか知らずかは置いといて、連夜は白夜が予め入れていたお金でコーラのボタンを押した。  優の突然の行動から今、こうして連夜と会うなど予想もつかないことが続いていて、連夜が勝手に買ったコーラのことなんて  今は頭の中になかった。純粋にどうして連夜がここにいるのかが知りたかった。 「レン兄こそ、何してんだよ」 「質問を質問で返すなっつーの。ま、俺は今公園の入口から来たんだ。びゃくの事情は察してるよ」 「あっそ……」 「こんな夜遅くに女性を1人にするのは感心しないな。危険がいっぱいだぞ」 「あっ……」  連夜の言葉に白夜は我に返った。たしかにその通りだと。  あまりに一杯一杯でそこまで気が回らなかった。  慌てて優のところに走り出す。そんな弟の姿を見て連夜は満足そうに微笑みコーラを口にした。 「あれ? どうしたの、走ってきて……」  何事もなく慌ててきた白夜に疑問を持つ優。  しかもその手には買ってくると言っていた飲み物がないから尚更不思議だろう。 「あ、いや……水樹さんを1人にしてたら危ないなっと思いまして……」 「クスッ……大丈夫だよぉ。それで飲み物も買わずに戻ってきてくれたの?」 「あっ……」  優の言葉で自分が何しに行っていたか思い出した。自分の記憶が正しければお金を入れて何も買っていないはず。  ただ記憶の一片に兄が押していたのがある。多分、勝手に買っただろうと思い買いに戻らなかった。  今戻ったら結局は同じことだし、何より兄が買ったなら後で返してもらえばいい。それだけの話だった。 「……ねぇ……白夜くん」 「は、はいっ!?」  優作の前だと普通に会話する白夜も二人きりがどうも苦手で、いつも話しかけられるだけで驚く。  それはまだ白夜が理解していない心があるのかも知れない。  でも白夜も自覚しつつあった。優が自分にとって大事な人だという自覚が…… 「もう、そんな驚かなくてもいいじゃん」 「す、すいません。……その……」 「ううん。それが白夜くんらしいと思うよ」  ニコッと微笑まれ、白夜の心臓が高鳴った。そして決心した。  この人の隣にいたい。これからずっとこの笑顔を見ていたいと。 「……優さん、ちょっと良いですか?」 「えっ?」  いつも苗字で呼ぶ白夜が自分の名前を呼んだことに優も戸惑った。  そして白夜は俯きながらゆっくりと口を開いた。 「俺、良く分からないんです。人のこと好きになること……ただあなたと過ごしてきて、今まで味わったことのない気持ちになりました。  上手く言葉に出せないけど……ずっとあなたの傍にいたいと思います。頼りない男かと思いますが結婚を前提に付き合ってください!」  普通の声で喋っているものの優には凄く大きな声で言われた気分だった。  それは周りが静かだからとかそういうことではなく、白夜の言葉が優の心に響いたことだろう。  突然の告白で優もなんて返事していいか迷ってしまい、そこには間が流れた。  白夜にとっては初めての告白。優を困らせてしまったとか言わなきゃ良かったかな、と不安になってしまう。  1分くらいだったが、人生で最も長い1分を白夜は過ごしただろう。  そして今度はゆっくりと優が口を開いた。 「……私でよければ喜んで」 「………………え?」 「自分で告白して『え?』はないよ」 「良いんですか? 俺なんかで」 「私的にはもう付き合ってて、プロポーズかなっておもったんだけどねぇ」  優の大胆な発言に白夜は言葉にならないような声を上げた。  今度は周りが静かってこともあり余計に声が響いた。 「シーッ。近所迷惑だよ」 「だ、だって!」 「さすがに冗談だから。でもあまり白夜くんが待たせるようだったら私から告白しようと思ってた」  優の告白に白夜は頭が真っ白になっていた。むしろ告白した時点で頭が真っ白でもあったが。  そんな白夜に追い討ちをかけるように優が色々と仕掛けてくる。 「ねぇ。白夜くん。せっかく恋人になったんだから……して?」 「……はい?」 「白夜くんからしてきて欲しいな」  人差し指を唇に添えながら言っており、明らかに誘っている。  いくら白夜でも理解できたが、中々優に詰め寄ることができないでいた。  優はそっと目を瞑り待つ姿勢になった。これでもう白夜から行くしかなくなった。  覚悟を決め一言、最後の確認をとった。  静かに頷き、そっと優の唇に自らの唇を重ねた。  白夜にとってのファーストキス。何も考えずただ重ねていたが、自然と触れ合うだけのキスから角度を変え深いキスに変わっていく。 「んっ……」  優が苦しくなったのか声をあげ、白夜は現実に戻された。  素早く離れ自分が何していたのか必死で思い出す。  しかし思い浮かぶのは優から伝わってくる愛しさや優しさで一度重ねたら離したくない感覚だった。 「す、すいません。初めてだったんで……その……」 「ホントに初めて?」 「告白も初めてしたヤツに何言ってるんですか」 「だって……凄く上手だったんだもん……」  暗くて少し距離があり白夜には分からなかったが、優は少し顔を赤らめていた。  段々小声になり『上手だった――』ってあたりはハッキリ聞こえなかったが、嫌ではなかったというのは分かり安心した。 「えっと……流石に冷えてきましたし帰りましょう。送りますから」 「大丈夫だよ。逆方向だし、1人で帰れるよ」 「夜道の一人歩きほど怖いものはないです。ほら」  そういって手を差し出す。 「ん、ありがと」  差し出された左手に自らの右手を差し出す。  白夜に狙って出来るほど経験も余裕もなく、今まで体が動くままにって感じだったが  優には今までの動揺が全部作為的ではないかと思った。  そう思うほど、キスといい今のといい、今までの白夜からは想像がつかなかった。 「白夜くん、プレイボーイだよ、結構」 「ちょっと、何言ってんですか! 俺、優さんが初めてなんですよ」 「じゃああのキスは何?」 「何って何がです?」 「初めてなのにそのぉ……上手すぎない?」 「無意識です。大体キスに上手い下手あるんですか?」 「あるんだよ。上手い人は頭が真っ白になるくらい、凄いヤツやるらしいよ」  すでに頭が真っ白な白夜はこれを聞いて、優は凄くキスが上手いんだなっと誤解をした。  しかしその後、優がとんでもないことを口にする。 「兄弟揃って上手なんだね」 「………………は?」  白夜が聞き返すと慌てて口を手で塞ぐ。明らかに口が滑ったって感じだった。 「あ、兄と……その、したことあるんですか?」 「えっと……なりゆきで」  付き合ったことがあるとかじゃなくて、なりゆくってなんやねんとそんな気持ちだった。  というか付き合わなくてもキスするんだなと白夜はいらないことをまた勉強になった。 「ま、まぁ優さんくらいになれば色んな人とキスの一つや二つするでしょうからね」  普通に言ったことだが、聞き側からすれば嫌味にしか聞こえなかった。 「白夜くん、それ嫌味?」 「純粋に思ったことですよ」 「誤解されないように言っとくけど漣さんとは何もないよ」 「分かってますよ。レン兄は一度でも愛した人を捨てるような人じゃないですし」  兄のこと、信用はしてないが信頼はしてるらしい。 「……それに例えそうだとしても、今は白夜くんが好きだしね」 「………………」 「なんで黙るの」 「すいません、こういうの慣れてなくて……」 「そう言うときは『俺も好きですよ』って答えるの」 「……はぁ……」 「好きだよ、白夜くん」 「……俺も好きです、優さん」  言わされてる感もあったが、白夜の本音であることは間違いないし、これはこれで良いやと開き直ることにした。      *  正式に交際が始まって、翌年。二人は街を歩いていた。  白夜も二人きりのときの固さが大分とれつつあった。  それもそのはず、優が早く慣れるようにと色々仕掛けてくる。  今も歩いている時腕を組んで白夜に寄り添っている。 「あの……優さん?」 「なに?」 「歩きづらくないですか?」 「カップルって普通こうやって歩くよ?」 「今時の高校生でもやってるの見ませんよ。ただの迷惑なカップルじゃないですか」 「ちょっと生真面目過ぎるよ」 「………………」  正直、それは仕方の無いことで。  何度も言ってる通り、兄と父親が非常にテキトーな性格のせいで自分や双子の姉が苦労しているのだから。  故に、白夜が生真面目くらいじゃないと漣家が崩壊する恐れがあるからだ。 「はいは〜い、道の真ん中で二人で歩くな〜。邪魔やで」 「あ、すいません。……って……なんだ、お前」  後ろから注意され振り向くと、サングラスをかけた、青髪の青年が立っていた。  声とその姿で誰かは判別できたが、こんなのと兄弟とは思いたくなかった。 「お前、実の兄に向ってお前とはなんだ」 「そんな格好の兄なんて知らん」 「びゃく、お前いつからそんな男になったんだ?」 「あ?」 「こんな可愛らしいお嬢さんと腕を組んで、ヘラヘラした顔で歩いてるな―――」  皆まで言わさず白夜のボディーブローが決まっていた。  前述の通り白夜は小さい頃から連夜の暴走を殴り蹴りで止めてきたから、通常の人より効果は高い。 「ね、ねぇ白夜くん、この人は?」 「あ、一応兄です。漣連夜。というか会ったことあるんですよね?」  そして告白した日に聞いた忌々しい出来事が白夜の頭に過ぎった。  連夜と聞かされ優は意外な顔をしていて、白夜に恐る恐る尋ねた。 「えっと……この人、本当にあの漣さん?」 「『あの』にどんな期待が込められてるか知りませんが、正真正銘俺の兄です」  優の言い方がまるで、昔会った時はカッコ良かったのに今、弟に殴られ道で悶絶しているのが同一人物には思えない。  そんな風に聞こえ、白夜は面白いわけがなかった。  やがて痛みが引いたかどうかは知らないが連夜が立ち上がり、サングラスを外し真顔で自己紹介を始めた。 「お久しぶりです、水樹さん。弟がどうやらお世話になってるようで」 「私のイメージでは何でも卒なくこなすまるで神のようなイメージがあったんで、今の白夜くんとのやり取りは意外でした」  どんなイメージだよっと隣で聞いていた白夜は思った。 「それは買いかぶりですよ。あの時だって俺がいなくても必然的にそうなっていた。少なくても俺はそう思いますが?」 「例えそうでも、あの時あなたがいなければ私はダメになっていたでしょう。感謝してますよ」 「ふぅ。なら褒め言葉として受け取っておきましょう」 「……二人はどんな知り合いなんだ?」 「ん? 俺が過去に取り合った事件で知り合っただけだよ。お前が疑うような関係になった覚えはこれといってないが?」  言い方が非常に気に入らなかったのか、何なのかは知らないが白夜は自然と熱くなっていた。  ある種嫉妬と言えるものだろう。 「ふ〜ん、そのわりにキス経験あるそうだが?」 「ちょ、白夜くん! それは……」 「キス? ……あ〜、経験は確かにあるねぇ。なんだ、白夜。兄に嫉妬か?」 「……あ?」 「安心しろ。キスはしたことあってもそれ以上でもそれ以下でもない。キスしたことがあるってだけだ」 「……悪いが理解できない」 「ちょっとした経験者ならキスだけでゴタゴタ言わないってことさ」  今日二度目のボディーブローが入ったのはこの後すぐだった。  やはり兄の言い方が気に入らなかったんだろう。いつもやる軽い手加減もなくマジで入れてきた。 「ゲホッ……ちょ、お前……手加減……」  手加減が入っていないのは食らった側も分かっていてマジで苦しそうだ。  そんな兄を尻目に優の手を引き、その場から立ち去ろうとした。 「びゃ、白夜くん。良いの?」 「ええ、構いません。これぐらいでくたばる兄じゃないので」 「小さい頃から食らってりゃ少しは慣れるってもんだな。じゃ俺仕事の途中だし、行くわ」  仕事の途中なら話しかけてくるなっと心の底から思った。  だが常識なんて存在しないのも事実。それが漣連夜なのだ。いつも常識はずれなことをして周りを驚かせる。  小さい頃の白夜にはそれが眩しく見えた時もあった。あくまで小さい頃の話だが…… 「水樹さん。白夜は捻くれモンで生真面目でそれでいてどこか頼りないですけど、そこらの男より良い男だと思います。  それは兄であるこの俺が証明しますよ。どうかお幸せに」 「……はい」 「…………なぁレン兄。俺と優さん付き合ってるなんて言ったっけ?」 「お前な。道の真ん中で腕組んで歩いてて付き合ってないなんて言うのか? しかもお前がさ。冗談はやめろ。  それにな、お前は忘れてるようだが告白した日のこと良く思い出してみろ?」 「あ?」  そう言われ告白した日のことを思い出す。あの時のことは真っ白になった時間も長くハッキリ思い出せないが  ひとつだけ確かなことを思い出した。 「あ……ああぁぁぁ!?」  そうあの日、連夜とあの公園で告白前に会ったのだ。ちょっと考えれば分かること。  この兄があのシーンを見てないという可能性はない。むしろ逆の可能性のほうが高い。 「そういうことだ。じゃあな、結婚式楽しみにしてるぜ!」 「うるせーっ! さっさと消えろ!」  言いたいこと言って軽快に去っていく連夜。  後ろ姿だけ見て、ハッハッハ〜という幻聴すら聞こえるほど白夜は頭がクラクラしていた。  あの告白シーンが見られたと言うことはその後のキスやらなんやらも見られている可能性があるわけで  後ほどからかわれるのは必須だろう。それは頭痛を覚えることだった。  それから家(優のアパート)に帰ろうとしていた途中、優が急に小さく笑い出した。 「……クスッ」 「な、なんすか?」  別に面白い会話をしていたわけでもなく、今日の夕飯どうしようかみたいな他愛のない話をしていただけだ。 「あ、ゴメン。でもこんな白夜くん初めて見たからさ。白夜くんもああいう風に感情出すんだなって思ってさ」 「…………それ褒め言葉ですか?」 「褒め言葉だよ。私の前じゃそんなに笑ってくれないし、怒ってくれないし、悲しそうにしてくれないし」 「……それじゃあロボットじゃないですか」 「そこまでは言わないけど、そんな感じがしたの。でも安心しちゃった」 「俺、優さんの前じゃ感情出さないように努力してるんですよ……」  感情出したら自分でもどうなるか分からない感じがして怖かったから。 「え? それって――」  優が聞き返そうとしたとき、前から先ほどあった人物がまた現れた。 「おや? お二人さん、偶然だね」 「……お前、俺らのことつけてるのか?」 「偶然だよ偶然。仕事中って言ったろ? 色々あるんだよ」 「ったく……じゃあさっさと消えろ」 「ん。言われなくても。だが一つ君たちに聞きたいことあってだね」 「あ?」  その顔はいつになく真顔だった。さすがの白夜も身構えたが…… 「君たち、付き合ってるのに互いに呼び捨てで呼ばないんだな」 「…………どうでも良いだろ」  真顔で何を言い出すかと思ったら、そんなことかよっと身構えた力が一気に抜けた。 「水樹さんはびゃくの一個上だし、呼び捨てだって良いと思わんか?」 「俺は年下なんだから、「さん」だって構わないだろ」 「1個上なんてこの歳になれば一緒だ。大体お前だって光のこと呼び捨てにしてるじゃん」 「それとこれは話が別だろ」  良いから早く仕事に行けよ、とも付け加えた。 「分かったよ。これで結構忙しい身なんだ」  やれやれという感じで手のひらを空に向け、首を左右に振りながら言う。  そしてまた先ほど同様に軽快に去っていった。  白夜はその後ろ姿を見てできれば向こう1ヶ月は会いたくないと切に願った。      *  家の中に入り、優は買ってきた洋服やらを整理などをしていた。  白夜はその間にコーヒーを入れていた。さすがに慣れている手つきで準備をしている。  それだけ白夜がこの家に通っている何よりの証拠だろう。 「はい、どうぞ」  横にシュガーを添えて優の前に出した。 「ありがと」  優はシュガー手に取りを半分くらい入れた後、白夜の方のコーヒーにもう半分を入れた。 「どうせ毎日飲んでるんですから、取っとけば良いじゃないですか」  白夜はミルクだけを入れる派で、更に余ったシュガーを入られるとあまり白夜が好まないくらい甘くなる。  だが優はブラックは嫌いだが、全部入れると甘くてヤダといつも半分だけ入れるのだが  半分取っているのを次の日には忘れていて、新しいのを開けてしまう。  だからいつも余ったシュガーは弟・優作のほうに入れていた。その習慣で白夜の方にシュガーを入れてしまっていた。  しかし毎回言っても癖になってしまっている優は気にせず、白夜のに入れており白夜も諦めているのも事実だった。    いつものようにコーヒーを飲んでいるところで、優がおもむろにカップをテーブルに置き、白夜の横に座った。 「どうかしました?」 「……ねぇ、私のこと一回で良いから呼び捨てで呼んで?」 「はい?」 「お願い」  そう言って白夜に寄り添ってくる。 「えっと……ゆ、……優?」 「白夜ぁ……」  色っぽい声を出して顔を見上げてくる。いくら鈍感で思いっきりのない白夜でもこうなったら流石に抱きしめるくらいはする。 「……優、愛してる」 「白夜…………んっ」  以前公園で告白した時のように優しく、そして段々と深いキスに変わっていく。  どちらともなくそっと離れた後、白夜が口を開いた。 「やっぱ……」 「ん?」 「呼び捨てするのは俺は苦手みたいです」  苦笑しながら言う。やはりさん付けの方が呼びやすかったのか、照れくさそうにしていた。 「クスッ。そっか、じゃあキスするときだけでも良いよ?」 「そんなに呼び捨てが良いんですか?」 「そういうわけじゃないけどぉ……」 「分かりました。じゃあキスするときだけ……優……」 「んっ……」  こうして夕食までの間、二人は唇を重ねあった。  お互いにお互いの温もりを確かめ合うように……    あの日、白夜が打たれていなければ彼女と出会っていなかったかも知れない。  あの日、優が酔いつぶれてなければ彼と関わることが出来なかったかも知れない。  偶然が重なり今、一緒になった二人。 「優さん、俺はアナタからいろんなことを教わりました。人を好きになる感情。その人を守りたいと思う感情。  大事な人と一緒にいたいと言う感情。今までの俺には分からないことをアナタと一緒に過ごしてきて知りました。  どうか俺とこの先ずっと一緒にいてくれませんか?」 「……はい。喜んで」  それぞれ別のロードを歩いてきた二人が今度は同じロードを共に歩んで行く……  願わくば二人に幸せな日々が多くありますように。   〜fin〜
−あとがき− この度、裏で公開していた白夜と優の恋物語を表に持って来てみました。 なぜ裏で公開していたかというと当時は蒼のグローブ、旋律しかなく未来の話を置くのはマズイかなっと思って 裏にも作品を置いとかなきゃ楽しみないかなっと思い裏に置いてました。 作品数も増えて来て、そんな心配がなくなったのと裏の管理をしていなかったのでこの度 隠しページを削除し、表にこの作品を公開する運びとなりました。 ちょっと長い話ですが、ここまで読んでくださった方、いらっしゃいましたら本当にありがとうございました! inserted by FC2 system