なんで、そんな態度を見せるんだろう……
いい加減、愛想つかせよ……こんな最低なヤツ、全国まわったっていねーよ。
いや、探せばごまんといるだろうけど、俺がとった態度以上なこと出来るヤツはそういないと思うよ。
だからさ、もう連絡すんのやめよーぜ。
ほら携帯貸せよ。番号消してやるからさ。

−本当に好きだった時間−

その日、互いの気持ちに区切りをつけて部屋を立ち去ったはず。
正直ウンザリしたし終わりにしたかった、けど反面やっぱ辛かったかもね。
だから金返しに行くときはどこか嬉しかった。どうでもいい感じで会えるのは気が楽だったし……
友人みたいな関係だけは続けていきたかった、そう思うのは我侭だろうか?
金を返しに言ったときはただ話してただけだけど、一番楽しかったかもしれない。
なんで、そういうところをもっと見せてくれなかったんだ?
って言っても後の祭り。うん、アホだな俺って。

とある日、バイクで気晴らしに走っていた。
赤だったので交差点で止まっていたら、横断歩道を渡っていた女性と目があった。
どこかで見たことあるなーって追っていたら、急にバイクの横に立って声をかけてきた。
「何してんの、お兄さん?」
「へ?」
急に声をかけられ頭の中が真っ白になったが、良く考えて俺には妹はいない。
つーか普通に考えてお兄さんなんて呼んでいるのは思い当たるうちで一人だけだった。
俺は慌ててバイクのエンジンを切り、歩道に入った。
「あのさ、もうその呼び方やめない?」
「えぇ、なんで?」
「なんでって……姉から聞いたでしょ?」
「良いの良いの。それよりさ、お姉ちゃんこの前から風邪引いて寝込んでるんだって」
「ふぅん」
前なら飛んでいってやったんだろうけど、今はどうでも良いこと……そうだろ?
でも心臓を握られたような感じになるのはどうしてだろう……
気にすることじゃねーって言うのに。
「で、お兄さん暇ですか?」
「まぁ、ね」
「なら行ってあげてください」
「……は?」
「風邪引いてるときって切なくなるじゃないですか」
言ってることはわかるけどね……そういう問題じゃない。
しかし目の前の子はなんか携帯を開き、メールを打ち出した。
1分もしないうちに携帯を閉じ、ニコッと笑う。
「それじゃお姉ちゃんにメールしたんで、行ってあげてくださいね」
「ちょ、待てって」
俺の言葉を流し、笑顔で手を振りその場を立ち去った。
残された俺はどうしたら良いか悩み、携帯を開いては閉じ開いては閉じを繰り返していた。
しかし横断歩道を渡ってくる人は必ず俺を不審そうな目で見て通り過ぎて行く。
まぁ歩道でバイクを止め、そんな行為を繰り返し大きなため息をついていればそう見られるのも当たり前だが。
もうアレコレ考えるのは疲れてきて、もう忘れる意味も込めて走ろう。
そう思いバイクに乗り刺さっているカギに手をかける。

その時、携帯が鳴り出した。どうせ某球団のメルマガだろうと思ったが、まだエンジンをかける前。
カギから手を離し、ジャージの左ポケットに入っている携帯を取り出し受信ボックスを開く。
しかしその他とフォルダ分けをしているところにメールはなく、通常の受信BOXにメールが入っている。
誰かメアドでも変えたかと思って開くと、そこにはさっきまで話していた子の姉の名前が。
一瞬で動揺し、携帯を落としそうになる。
深呼吸し、恐る恐るメールを開く。
そこには絵文字も顔文字もなく一文。
『本当に来るの?』
どうやら先ほどの子は本当にメールを送っていたようだ。
最近の高校生は本当に恐ろしい。いや、俺もそうだけど。
ここでいや、妹の冗談だよって送るのは簡単だろう。
でも俺にとっては難しかった。
と言うよりそんなこと考えなかった。
普通に『行くよ』って3文字のみ打って返信した。
俺はコンビニに行き、何を買っていこうか考えてバイクにエンジンをかける。
ニ・三度吹かして車が来ないのを確認してから車道に入り、フルスロットルでバイクを走らせた。

彼女は一人暮らしをしている。だから風邪で寝込んでいるぐらいなら出て来れないだろう。
でも一応呼び鈴を鳴らしてみる。
しかし足音一つ聞こえてこない。
人に来るのか聞いといて、寝入ったのかバカヤロと思い買ったものだけ玄関に置き帰ろうとしたら携帯が鳴った。
初期の受信BOXに届いた彼女からのメール。
開いてみると『鍵開いてる』と淡白な本文だった。
あぁそうと思い、買ったものが入っている袋を持ちドアを開けてみる。
一応恐る恐る開けてみたが、本当に開いており一言声をかけて入る。
中に入るとシーンとしており、少し泥棒の気分になりつつテーブルに買ったものを置き、寝室に行ってみる。
ノックをしてまた一言声をかけると中から弱々しい声が聞こえてきた。
とりあえずいるのと起きてるのは確認でき、家に入るときと違って躊躇いなくドアを開けた。
「よぉ、無事か」
俺が声をかけると布団からひょこっと顔を出して頷いてみせる。
「何度まで上がった?」
「39度……」
「はぁ!? 親呼んで病院行けよ」
予想以上に高くて驚いた俺やなるべく優しく……なんて忘れていつもの口調になってしまった。
「無理……寝てれば治るから……」
言い出したら聞かない頑固者っていうのは分かっていたからそれ以上は言わなかった。
「なんか食べた?」
「ううん……」
その様子じゃ立って歩けてないんだろうと予想できた。まぁ玄関の鍵は開いてたわけだけど、そこはあえて触れなかった。
「プリンとか買ってきたけど、食べれないか?」
とりあえず何か食わないと本当に倒れるぞ、と付け足した。
そうしたら、どうだろう?
「……ねぇ、どうしたの?」
「あ?」
「らしくない……」
なんて言い出した。これにはため息をついて頭をかくしかなかった。
「あのな……」
「……ゴメン」
「いや、良いけど……」
俺とて病人には優しくするわ、と言う前に謝られた。
ホント病気にかかると人は弱くなると言うが本当だ。
調子が狂うからとりあえず買ってきたものを居間から持ってきて、手当たり次第差し出してみた。
ようやく5秒チャージとか言うコマーシャルやってる飲み物? なのかわからんがそれに反応して体を起こす。
ノドが痛いのか、飲むたび顔をしかめながらそれを口に入れる。
半分……いやペース的に三分の一くらいだろうか。飲んでからフタを締めた。
「なんで妹と会ったの?」
「いや、バイクで走ってたら偶然交差点で会ったんだよ」
「ふ〜ん……でも良く来てくれたね」
「病人ほっとけるほど冷たい人間じゃねーつもりだよ」
「ありがと」
皮肉を言っても普通に返してくる。本当に調子が狂う……
前みたいにくだらないことで言い合うのも嫌いではなかったんだけどな……
いや、発熱している病人に何を求めているんだろう。
「いつからだ、熱は」
とりあえずお互い黙るような気まずい雰囲気は作りたくなかったから、手当たり次第質問を考えた。
学校はどうだ、バイトはどうだ、今の状況から近況までとりあえず聞けるだけ聞いた。
ノドも痛そうにしている病人なんだから寝かせてやれよ、第三者がいたらそう言うだろう。
俺も第三者の立場だったらそう思う。
「ねぇ」
聞くだけ聞いて、少し間ができたとき彼女が何か言いたそうに言葉を発した。
「どうした?」
「……私のこと嫌いじゃないの?」
「は? 何、急に」
「だって……」
そこから布団に顔を隠して何を話さなくなった。
そりゃ関係たってからこんなことするなんて自分でもどうなんだとは思うけど、来てしまってるし、今更どうしようもない。
でも一応聞かれたわけだから、答えることにはした。
「別に嫌いじゃねーよ。つーかそんなこと言った?」
「じゃあ……」
ゆっくりと布団から顔を出す。熱で顔中が赤く、凄く切なそうな顔が心痛む。
「なんで別れたの?」
「……いや……お前だって納得したろ」
「それは……嫌われたと思ったから……」
少し鼻声になりながら、一生懸命耐えているようにみえる。
風邪のせいか涙のせいかは知らないけど、色んな意味で辛そうに見えて見ているこっちも辛くなる。
「……ゴメン。中途半端なことしてるよな」
「ねぇ……嫌われてないなら寄り戻そうよ……」
少し心が揺らいだ。別れたのだって一時のケンカが発展しただけのこと。
彼女が嫌いでもなければ、今となれば別れた理由さえハッキリしないのも事実。
でも……なんだろう。いざそう言われると頷けなかった。怖かった。
一度壊した関係を修復し、また壊れるのが。
だから自分から全て壊した。
「悪い、それは出来ない」
もう彼女のためにもしっかり関係を絶ったほうがいい、と言ってしまえばカッコよく聞こえるがそんなんじゃない。
俺はこの瞬間、最低なヤツに成り下がってしまったんだ。
「なんで俺なんだ?」
「えっ?」
「俺なんかよりカッコイイやつも優しいヤツもいるだろ? 俺なんかもう忘れて、他の男捜せよ」
まだ言葉を選んでる方だ。
「忘れさせてくれないのどっち? じゃあ優しくしないでよ!」
かすれた声でいつもの力強い口調ではなかったけど、懸命に言い返そうとしているのは十分伝わった。
そうだよ、悪いのは全部俺だよ。
「お前の言うとおりだよ。もうこれで終わりだから。連絡もしねーよ」
「えっ、ちょっと待って……」
「起きるな」
体を起こそうとした彼女の肩を掴んで再び寝かせる。
「じゃあな、早く治せよ」
立ち上がって部屋を出ようとする。
「待ってってば。私が悪かったから……」
しかし声で制止される。もうなんつーか全部にめんどくさくなった。
「……嫌いだよ」
「え?」
「お前なんてさ。頑固で言い出したら聞かねーし、俺の手には負えないっていうのが本音」
「………………」
彼女を背にして話しているが、後ろで泣いているのを感じ取れた。
罪悪感はある。
でももう止められないし、これが今俺に出来る最良だから。
「もっと大らかなヤツ捕まえれば、お前みたいな我侭なヤツでも優しくしてもらえるかもな。ははは」
「もう……いいよ」
「そ、満足した? 本音聞けてさ」
ここで突き放してもらえれば、いつも通り。
やっぱ俺はこういう別れ方が性に合ってるみたい。
でも期待していた言葉は来なかった……
「……今までゴメンね」
「――ッ……いいえ、どういたしまして」
そういい残し、俺は部屋を出た。もう二度と会うこともメールすることもないだろう。
そのほうが彼女のためだ。
最後まで皮肉を言い、最低な言葉を並べた俺に対し言い返すことなく謝ってきた彼女……
そんな子、こんな最低なヤツの隣にいて良いはずがない。
でも、最後に一言……言いたかった。だから機械に頼って伝えた。
どこまで本気なのか、本音なのか伝わるかは知らないけど。

『お前と一緒にいた時間が一番楽しかった』

彼女の返信なんてあるはずもなく、携帯をポケットにしまいバイクで走り出した。









−あとがき−

いつぞやにブログに殴り書きしました、この短編物。
覚えている方には蒼の世界マニアという称号を授けます(ぇ
貧乏性なので出せるものは全部出しちゃえ精神で公開してみました。
実は〇%ノンフィクションだったりします(ぇ
何%かはご想像にお任せしますってことで><

読んでくださった方、いらっしゃればありがとうございました!







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