〜込み上げる想い〜


−3−


 しばらくして泣きに泣きはらしたあと、眠りに入ってしまった。
 しばらくすると我に帰った私は、周りを見てみると……時計はAM3:33を指していた。

「(深夜3時……私、そんなに困憊してたんだ……)」

 帰った時間いや、どう帰ってきたのかも分からなかった。
 ただはっきりしたのはシュウと別れたってことだけ。

「(本当、情けない……もっと早くこうすればよかったのに、そればかりか 別れた今も未練たらたらで、泣いてたなんて……あっ???)」

 そんな中私の目にとまったものは裁縫道具だった。寒いために私がおせっかいに  シュウにマフラーをプレゼントしようと思って作った奴だった。
 どうやら置きっぱなしにしたようだけど……

「(今更……こんなものなんて!!)」

 感情のままに私は、裁縫道具を投げつけて……またちょっと潤んできた。

「(本当におかしいよ……なんでこんなことをしてまで……)」

 そんなことでまた思い出して泣いていると。

コンコン

 誰かな……まっこんな時間に起きてる人なんてあの人しかいなかったから  私は急いで涙をぬぐって平静を装ってその人を招いた。

「ど、どうしたの??」

「今、大丈夫か???」

「へ、平気だよ??? どうしたのこんな時間に」

「そりゃあ俺の台詞だ。こんな時間に灯りなんかつけてどうするつもりだ。お前」

 元を正せば兄さんの所為なんですけど、って言いたかったけど、言い訳がましくなるので止めた。

「ところで、どうした……の? 何か用があるんじゃなかったの???」

「ああ、まあちょっとしたことなんだけどな。お前にとっては重要なことだけど……」

「私にとって……?」

「その……俺の所為なんだろ……お前の出生分かったのって……」

 それを聞いた瞬間、心臓を取り出されたかのような汗をかいた。
 なんで、兄さんには分からないはずなのにどうして???

「な……なんで、私が分かったって……知ってるの……」

「そりゃあ、俺が大声出して怒りまくってたしさ、何よりお前が日記読んだってのが分かったからだよ」

「だから、そんなこと分からないようにしたはずなのに、どうして……」

「どうしてもこうしてもあるか。日記を読んだら元のところに直さないで……まあショックだったんだろ きっと……」

 そういえば、確かに日記自体は読んだけど、記憶もなかった。

「そっか……ショックで、置いたのも忘れてたんだ……きっと。じゃあ分かってるんでしょう 私が他人なのは、なのに、どうして???」

「確かにな……悔しいけど、俺とお前の血は繋がってない。だけどな……」

「だけど、何よ……」

 私はちょっと怒気を込めて言った。くだらない同情されるより本音が聞きたかったからだ。

「お前との絆はこれまでどおりじゃないか。それが妹って証じゃないか???  お前と約16年間一緒に暮らしてきたこの絆が兄妹の証じゃないか」

「………」

 確かに言われてみれば……血は繋がってはいないけど、絆はある。
 理屈は確かに最もだったと思うし、その通りだと思う。だけど、逆にそう思えない私は……

「ごめん……まだ良く分からない……」

「それもそうだよな……ご、ごめんな無神経なこと聞いたって……」

 本当にそう思うならもう私に構わないで欲しいのに、本当はシュウのことで泣きたい気持ちだったのにそして、まだ気持ちに整理をつけることは出来ない。
 たとえ物心がつく頃からずっとすごしていたとはいえ……

「用はそれだけ?」

「いや、もう1個あるんだが、いいか?」

「私は大丈夫だから、早く用件言って」

「お前、もう1個俺に隠してるんじゃない?」

「な……何を???」

「あいつと、付き合ってんだろ。修と」

「!!!!!」

 それを言われてビックリした。これは言ってないことで友達と会うって言っていつも言ってから出て行ってたのに。

「やっぱりな……本当だったんだ……」

「どうして分かったの???」

「そりゃあ本当の両親が分かったって言うのに、今もなんとか自分を持てている理由とすれば やけになったか、恋人かそれに近い存在が出来たかのどっちかだろ。で極めつけはそれだ」

 そう言って、投げ出した裁縫道具を指を出した。

「………」

「お前は昔からそうだよな。隠し事が下手だ……そんなのだから、隠したくても分かっちゃうんだよ」

 それは確かにそうだ。そうじゃないとシュウも分かるはずがないんだし。

「気にすんな。別に反対じゃないよ。今反対って言える立場でもないし、あいつはああ見えて立派な奴だってことは分かってるしな ああ……あと1個あったわ」

「でも私別れたし……それと何……もう無いと思うけど……」

「気付かせた張本人が言う台詞ではないけど、行って来いよ。両親の墓参り」

「!!!!!」

 さっきのシュウと付き合ってると聞いたときも驚いたけどそれ以上に驚いたのが分かった上で、  それを受け入れて私を赦してくれている兄さんに一番驚いた。

「ごめんな……急に驚かせちゃって、でもお前の気持ちも痛いほど分かるんだ お前からしてみたらさふざけんじゃないって思ってるけど、少なくともお前を思う気持ちは誰にも負けないと思っている 両親とも話したし大丈夫だよ」

 今までたとえ面倒見が良かったって兄さんはうっとうしい。
 世話好きの兄さんだと思っていたのに、今ではそれが……

「どうかしてるよ……兄さんも、シュウもそして私も本当は、これでよかったはずなのに、もう一人の私がそれを拒絶してる……」

「行って来いよ。本当の家族のところのお墓、もう知ってるんだろ?」

「知ってるけど……いいの? 私なんかが行って???」

「さっきも言ったけど言いも悪いも決めるのは俺たちじゃないお前のもう一つの血が流れている お前が決めることだ。俺たちは反対しないし、それにそれが原因で別れたんだろうけど あいつはそんなことでお前を軽蔑する男じゃないぞ。それは自信を持っていえる」

「でも……仮にそうだったとしてもいえない今更……つっぱねるようにして別れたんだよ」

「そこは最終的には分からんが安心しろ、あいつ自身まだ諦めてないだろうし 俺に策がある」

「でも、迷惑ばっかり」

「だからそんなに深く考えんな。お前はお前の思ったとおりやればいいんだよ。その結果どうなってもそれは構わないから」

「………」

 今日ほど兄さんのことを兄さんと思ったことは無かった。
 つい、涙が出る……今まで自分は一人と勝手に思い込んでいた馬鹿な私を思う。

「ああ、もう泣くなって……ったく、そこのところは昔とちっとも変わらないんだから 無理をするな。明日でもいい日見つけて行って来いよ」

「………うん……ありがと」

 そうして、ハンカチで私の涙をぬぐって色々話してくれて。

「わりぃなこんな時間に来ちゃって……まあそういうことだから、頑張れよ」

 そして、兄さんは帰っていった、このときわずかながらの罪悪感の払拭となんとか明日からできるかもという  希望の光がさした……ように思えただけだったことを私の身勝手でそれが失せることを知ることになる……



 そして、数日後。
 兄さんから受けた言葉が嬉しく、さっそく私はそのお墓に向かうこととなった。
 顔こそ知らないとはいえ、やはり血の通った肉親、それにそのお墓に行けば絆という繋がりも出来る。
 これで私は、しがらみという鎖から開放され自由に生きることが出来るそう思ってるのに……

「(シュウ……)」

 拒絶してまで振り払うことに徹してた私……でも頭の中を独占しているのは先輩の声、そしてあの笑顔だった。

「(バカ……自分でなくす事を決めたんじゃないの……何を今更……)」

 本当の両親に会いにいける……なのに、もうシュウのことなんか忘れなさいよあなたがそう望んでいたはず。
 何を後悔しているの……??

ドン!!!!

「いってー、何すんだよ??」

「そんなに絡むな。よく見てみろこんな美人だぞ他にも方法はあるだろ?」

「あっなるほど。ねえ?暇なんでしょ?どっか遊びいかない?」

「……いえ私は……」

「なんだー、そんな悲しそうな目をして泣きそうな顔してんぞぉ?」

「こりゃあ彼氏に振られたんだな……じゃあ困ってる君に僕達がたすけちゃお」

「さんせー、ぼくぅ、困ったひとほうっとけなーい」

「だ、だから私は……」

 困った……こんな柄の悪いバカの対処なんて全部兄さんにまかせっきりでどうしたらよいものか……

「じゃあ、俺もその子の手助けするか」

「あ?」

 そういうと男は、もう一人やってきた小柄な男にすっとばされた。誰かを見てみると……

「(シュ……シュウ……)」

「あんだ?? おめえやんのか??」

「お前らのバカのおかげでその人が迷惑してんだと。放してやれ」

「んだと? このやろう!」

「(あ、危ない!!!)」

 私を助けてのことだろうけど、シュウと奴らでは体格も違う勝ち目が無い。
 逃げてと言おうとしたときだった。

「うお、いてて!」

 しかし、現実は全くの真逆でシュウが柄の悪い男に対して手玉に取っていた

「だから、言ったろ困ってるって」

「おまえには関係……いっ!!!」

 逆らうとシュウがさらに力を強める、シュウは凄んだ声でさらに返す

「関係おおありだよ。俺の大事な人なんだ。それでもないか? ていうならこっちもやるけど、まだやるか?」

 そういうと、自分の身が大事だったらしく捨て台詞だけ吐いて足早に逃げていった。
 そうするとシュウもほっとしたように私に手を貸してくれた。

「ありがとう」

 その一言を言って切り出せばよかったものを……つまらない見栄を張って……

「どうして……そんなことをするの? 私とあなたはもう何の関係もないでしょ!?」

 そんなこと言うためじゃない頭で分かってるのに止まらない。

「まさか…惚れ直すと思った? 冗談でしょ……いい加減あきらめて!」

 シュウの静かな沈黙、だけどシュウも負けない。

「違う! そんなことのためじゃない、ただ話がしたいだけなんだ!」

「話? 何を? 私からは何も無いわ!」

「法子……」

「これ以上しつこいと今度は警察を呼ぶから……私、用だってあるんだし……」

 そう言って背を向けたシュウもそんな私を黙って立ち尽くすだけだった。
 その後なんとか、墓参りもした。目的は達成できたんだけど……

「バカだよ……こんなことしても、何の解決もないじゃない……」

 肉親よりむしろ、会ったことにより余計シュウのあの悲しそうな顔だけが、くっきりと浮かび離れなかった。
 一種の麻薬中毒みたいな感じ。気をまぎらわせてはまた浮かびその人のことしか考えられない。そんな入り混じった。
 想いを抱えながら私は家に帰った。疲れて寝ようとしたときだった。

コンコン

「法子?? まだ平気か?」

 と兄さんが優しい声で話し掛けてくる。特に何もなかったので通すことにした。
 ゆっくりと腰掛、今日のことも話した。シュウと会ったこと以外は……

「そっか……大変だったんだな……大丈夫か?」

「正直分からないわ……黙ってこんなことしてるんだから……」

「いいじゃないか……親父も母さんも承知してるよ……そんなことじゃないだろ。お前の心配は」

「どういう意味?」
 なぜ兄さんがそんなことを言い出したのか。確かにあたりさわりのないことを言って不安だったけど
 心配となるようなことは何一つ……

「気付かないのか?まあいい。ああ、そうそう……」

 兄さんが思いついたように私に衝撃の言葉をつげた。

「今日、修を見たんだけど、美人の彼女を連れていたぞ。立ち直り早いかどうか知らんけど。俺はむかついてるけど 法子なんかいらないみたいな感じで遊んでさ、お前も早くしないと本当に取られるぞ」

「シュ……シュウが!!!」

「ああ……もし本当に俺の言ったようなことにならないうちに早く解決したほうがいい。取り返しつかなくなるぞ まあ今日はそんだけ……じゃあな」
 私の笑顔で敷き詰められていたシュウの思い出が一瞬で消え去った感じだった。

「(立ち直った? 乗り換えた? 冗談じゃない……こちらは整理のひとつもできていないっていうのに!)」

 このままじゃあ終われない、私のほうから文句のひとつも言ってやらなきゃ……
 でも、本当に会えるの? いやたとえ会えたとしても、どうなってしまうのか……話すより会う恐怖のほうが恐ろしかった。
 とてつもないことを言われそうな気がして……
 でも、会いたい……だけど怖い……そんなジレンマを抱えて、数日後のことだった。

 私は毎日決まったことをするようになった。本当の両親の墓参りだ。
 今日もいつものようにバイトを終わらせ、適当に準備を済ませいつものように駅に向かった。
 通いなれたこともあり、機械のようにパターンがあるかのごとくコインを入れて、切符を買いいつものように列車に乗り込む。
 いつも空いている窓から海が見える席に乗り込んだ。そんなときでも、頭の中には浮かんでいたのはあの人。

「(もし、会えたとして、そのあとどうするつもり?「ごめんなさい、私が悪かったから、許して元通りになって」)」

 言える訳が無い。私はシュウの気持ちが分かっていながら、結果的に拒絶したんだから……


 そして、ふと気付くといつのまにか大分市についた。墓のところまですぐに着き  いつものように花を手向け、水をやり、いつものように目をつぶる。
 いつもならここで終わりなんだけど…今日は違った。涙が止め処なく出るからだ。

「私、どうすればいいの……こんなことなら、いっそあのとき、死んでしまえば楽だったのに……」

 もうやだ……こんな板ばさみで、苦しみ続けるなんて……

ガサ

 誰もいない墓地で一人で泣いていると思ったのに……

「誰なの」

 草を踏むような音が聞こえたので、私は冷たく威圧するような声を発して……あとを振り向くと……

「……」

「シュ……シュウ……どうして?」

 そこには会いたがっていた人が私の目の前にいた。
 だけど、なかなか整理をつけることが出来ず、真っ白だった。
 段々と平静を取り戻しでた言葉が……

「どうして……」

「えっ……」

「どうして、そんなに私にばかり構うの? 私はあなたを深く傷つけたのよ……」

 そういう本音を初めて口にしたのだが、シュウは驚かなかった。むしろこういわれるのが分かってるみたいだった。

「どうしても何もないだろ? 俺こそ法子のことを知りもしないで、傷つけたんだ……」

「傷つけたも何も……私がもう嫌だから、別れろといったのよ。そんな私にあなたと一緒にいる資格なんて……」

「そうかな……会うのに資格もない。それには俺には法子が考え抜いて、分かれようと思ったとしか思えないんだ」

「どうして……?」

 逆にシュウに聞いてみた。だってどう見たって私の勝手なことでわかれ、シュウを捨てたのだ。今更何を……

「じゃあさ、なんでこんなものを縫ったんだ? 一人がいいんだったら、もっと早くから別れるし こんな手の込んだことをするはずないと、思えてならないんだ……」

「そ……それは……」

 そう、それはシュウと一緒にいるのが楽しくて、私が勝手に、シュウのためと思って、編んだもの。もちろん嫌なことも忘れられるし  何よりシュウが好きだったからこそあんだ水色のマフラー。

「………」

 思わぬ証拠をつかまれ黙り込む私。シュウは立て続けに話していく。私は本当の疑問を口にした。

「どうして……そんなに私に優しいの?」

 今までいえなかったことをやっと言った大きなことだ。でもシュウは恥ずかしい言葉を恥ずかしがらず平然と言った。

「好き……だからだよ……」

「へっ……? 好き?」

「俺さ……お前と別れたとき嫌ってほど宗にどやされてさ、励まされて、でもそのおかげで分かったんだ 俺はお前が好きだったってこと……お前が必要なんだ……俺のほうだったんだよ。バカなのは……それがこんな思いしてやっとわかった」

 嬉しくて嬉しくて、こんな私を好きだと真正面から受け止めてくれたシュウがとても嬉しかった。
 でもだからこそ、いえないと……あのことを。

「シュウ私ね……まだ隠し事してた」

「何を……?」

 いきなり隠しごとって言われてもって感じのシュウだったけど、言葉を続けた。

「シュウが本音で言ったように私も言わないと、それでシュウと本当に付き合っていいものかわからないから」

「そんなこと……」

「ごめん、これは私のけじめなの、ずっと隠してきたんだから……」

「じゃ、じゃあ頭痛の原因って……」

コクリ……

「私、私が悩んでる理由それは……」

 シュウは固唾を飲んで私の言葉を待っている。

「私ね……シュウの知っている「日法子」じゃない」

「裏の顔か? でもなんでそんなことで……」

「違う! 分かってるんでしょ。そんな程度の低いことじゃないってことくらい」

「私、あの兄さんの妹じゃないの……」

「な、何を言い出すんだおまえ……自暴自棄か……そんなになるな!」

 シュウはかなり驚いた様子をしていた。私は話を続ける。

「ううん、本当なの聞いて……私がシュウと別れようと思った理由……それは、兄さんとつながりもない赤の他人の私が 付き合うべきじゃないと思ったの。……わたしの……私の名前は、今村法子。その実の親がそこのお墓に彫られている人だったの」

「………法子……」

 シュウは私の悩んだ理由を聞き、まさかそんなこととは思わずビックリしていた。
 それから私は、今までのことを包み隠さず打ち明けた。シュウもすっかり聞き入っていた。

「ねっ、バカでしょう……今の今まで気付かないで、ずっと悩んで思いつめてたし、何も知らないシュウを 利用してたの……そんな私に付き合う資格なんてないのよ……」

 シュウは驚きながらも否定的な態度で返した。

「でもさ……それはしょうがないか…俺も法子と同じ立場だったらそうしてる 一人でつらかったんだろうし……利用したってのもどうかな、言い出せなかったってことは、優しかったことの裏返し でもあるんじゃないか……そうじゃなかったら言ってるはず……」

「そうね……でもシュウは良くても、私がイヤなの。だってバカみたいじゃない。血も繋がってないのに おままごとして、向こうだって何を考えてるかわからないわ。私が死んだって誰も悲しまないしすぐに忘れるわ!」

 私の汚い部分。それが前面に出た形だった。初めてさらけ出す影。
 これでシュウも諦めるすべて上手くいく。そう思った。果たしてシュウは……?

「おままごと? 本気でそんなこと思ってるのか?」

「ええ……私は血が繋がっていない赤の他人。私が死んだって……誰も悲しまない。だから 私なんかといる必要もない、シュウが負担になるだけ」

 今まで抱えていた本音をようやく口に。これでシュウも諦める。
 心の奥底で思っていたのがこんな汚い女だったんだから。

「法子……」

「何……もう私からは……」

 パシンと言う音とともにシュウの平手打ちが襲ってきた。

「シュ……シュウ……何を………」

 顔が痺れてる。はずなのに、不思議と痛みはなかった。そして私は初めて見るシュウの顔を目にする。

「バカやろう! ままごと遊び? ふざけるな! お前の周りにいる奴らはそんな奴はいない。どうしてそれがわからない!」

 そういわれた瞬間もう一人の私が怒って反撃した。

「シュウに何が分かるっていうの! 私の信じていたものが、一瞬で崩れて、絶望した私のあの気持ち。 そんなこと分からないシュウに、そんなこと言われたくない!」

「わかるよ! お前の気持ちは分かるんだよ!」

「どうしてよ! そんな口からでまかせなんか言わないで!」

「分かるさ。俺だって本当の母親なんか知らずに育ったんだから。俺を産んですぐに死んじゃってさ……でも今の親には 感謝してるし、血のつながりがないからって、悲観もしなかったし、周りにもみんなに助けられた。要するに俺が言いたいのはだな……」

「………」

 全く知らなかった。……シュウにそんなことがあったなんて、なのに私と来たら、私のほうこそシュウのこと知りもせずに  勝手なこと……私と同じ境遇を乗り越えて、そして大事なものを分かって見つけたのだ。

「法子が悲観している気持ちももちろんわかるさ……でもいつまでもそういうわけにはいかないだろ… それに法子。お前は一人じゃない。お前、あの親と宗にはあまり良くはされなかったのか?」

「ううん、違う、そんなこと絶対に!」

 ショックはあったけど、今の私を作ってくれたのは、彼らのぬくもりがなければありえないことだ。
 そういうとシュウはふっとやわらかいやさしい顔になった。

「そうだろ……確かに血のつながり…絆、それは大事だ。でも絆なんてのは、その携わる人によって与えられるものじゃないか それが本当の絆だと思うんだ。それこそが人のぬくもりだと思う。俺はずっとそう思って生きてきた。法子はどうだ?」

「うん、私もそう思うわ。だって、結局、私は彼らのおかげであなたに会えたし、大事なことも教わったんだもの。 でも、どうやってあの人たちに顔向けすればいいの? 私もあの人たちを結果的に利用した。そんな私が許されるのかしら」

「大丈夫だよ」

「ああ、許されるよ。俺たちも悪かったんだから」

 第3者の声が聞こえ、私ばかりかシュウまで向き直った。

「に……兄さん……どうして?」

「わりぃ…本当はもっと早くするべきだったのかもな……でも、どうしても心配だったしいえなかったんだ」

「どうして……」

「兄として、妹を心配するのは当然のことだからだ」

「………」

 バカだ私は、周りにはこんなにも私のことを思って心配してくれる人がこんなにいるのに、それに気付かず孤独だと勝手に勘違いし バカなことを思って、そう思うだけで涙が止まらなかった。

「ご、ごめんなさい……謝って済むことじゃないけど、私……私」

「いや、いいんだよ。それにその台詞は俺に言うべきじゃない」

 そういって兄さんはシュウを見やって言った。シュウもビックリしてる。
 そして、シュウのもとに行き、耳打ちして肩を叩いた。振り向きざまの兄さんの顔を見る限り、私とシュウが付き合っているのは知ってるはずだから もしかすると私を託すことを言ったのかもしれない。そして兄さんはとんでもないことを言い出した。

「おっともう2人っきりのところを邪魔しちゃわるいし、俺もう帰るわ……」

「えっ、マジかよ!」

 そう言ってシュウが言うのも、それを楽しみのように笑い、兄さんは本当に帰った。

「(兄さん……こんなに気まずいと何もいえないわよ)」

 気まずい沈黙が流れる。気まずいというと語弊があるがとにかく重っ苦しい雰囲気だった。

「あ、あのー」

 2人一斉に話そうとした。同時だったのが恥ずかしかったのか、ますます2人とも目をそむける。

「シュ……シュウどうしたの?」

「お、お前こそ言えよ。俺はその後言うからさ……」

「うーうん。どうして私が好きだったのかなって……」

 もっともな理由。シュウが私を好きになる要素なんてないからだ。

「今更、そんなこと?」

「だって、ずっと気になってたし」

「そっか……俺は、法子の内面だよ……そりゃあ顔も綺麗だったからってのもあったのはあったけど、 俺は法子の心の優しさに凄い救われたし、惹かれた。こいつとならやっていけると思ったんだ」

「わ、私にそんな魅力なんかないよ」

「無いかどうかは、これから考えてみろよ……お前がよければの話だけど…」

「シュウは、私を見捨てずに励まして、一生懸命私のために怒ってくれた。そんなシュウを嫌いになるわけないじゃない」

「そっか、じゃあ俺から質問するんだけどさ……なんで俺が良かったの? お前ほどの女だ。いっぱい俺なんかより魅力ある奴いたろうし なんでかなって……あとマフラーだよ。なんで水色のマフラーなんて編んだのかな……ちょっと疑問だったから……」

「マフラー変だった?」

「変ってことは無いが、マフラーじゃなくても良かったろうに、時間かかっただろ?」

「別に手間をかけたほうが喜ぶとか、そんなことで作ったんじゃないの……私の想いかな…あと、シュウ一言言うけどね。魅力ないなんて そんなバカなこと言わないで…あなたは人を惹きつけるものをいっぱい持ってるんだから」

「自覚ないんだけどな…まっ法子が言ってるんだし間違いは無いと思うけど……」

「これからゆっくり考えていこう。私は一人じゃないし、だけどシュウも一人じゃない。すぐにはダメかもしれないけど きっとみつかる。2人で頑張れば……」

「ってことは…」

「当たり前でしょ……そういうことだからお願いね」

「ふぃ、良かった……それよかさなんか大事なことが無事になったとたん腹減らないか?」

「そういえば、全然食べてないし、もうこんな時間じゃない??」

「食べにいこっか。どっか近くでも。いいところ知ってるし」

 そういってシュウは墓から背をそむけ歩こうとする。

「シュウ、今日はあの……ありがとう、とっても感謝してる。おかげですっきりした」

「本当に?」

「ええ、今とっても満たされてる……」

「じゃあ、いこっか」

「ちょっと寒いんだから、マフラーでもしときなさい。私はコートはおってるから大丈夫だけど、シュウ寒いんじゃない?」

「まあそうだな、マフラーするけどさ、なんだって、マフラーなんだろうな?」

「いいじゃない、似合ってるんだから……そんなこと気にしないで。美味しいもの食べに行くんだからそんな顔しないでよね」

「じゃあ、もう大丈夫ってことでいいんだな」

「うん」

 シュウ大丈夫だよ。ありがとう。ねえシュウ、何で水色のマフラーだと思う?
 こんなことあんまりにも恥ずかしいから言わなかったけど私が水色好きなのは知ってるよね?
 シュウといつまでも、離れていても一緒になりたいって思いで作ったの。
 本当に今日はよかった。今日の日こそ、あなたのことが魅力を感じたことは無かったし、改めて惚れ直した。
 シュウ、あなたは気付いていないかもしれないけど、あなたの魅力、それは……愚直なまでの真っ直ぐ、直向さ。
 優しさ、それがあなたの魅力で人をひき付けるの……

 今から、あなたのことを支えていって色々問題もあって、大変かもしれない。でも私は一人じゃない。
 人のぬくもりによって、そしてシュウに支えられて生きていることをあなたに教わったから。今度は私があなたを支える。
 私は今日から本当の意味で私は「日法子」になれた。
 シュウ、ありがとう。あなたに会えてそしてあなたを愛して本当に良かった。これからの私をしっかり見てね。「佐藤法子」になっても……ずーっとね。





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前回のことを反省し、今回はまったく加筆を行わずに編集のみ行いました。
編集などは任せられてるとはいえ、やりすぎてしまった感があるので時間がとれたら
第2話もオリジナルに直したほうが良いかなっと思いつつ……
さて、第3話ですが今回は見応えあったのではないでしょうか?
表舞台ではただひたすら甘い2人ですが、やはりお互いにぶつかって本音を言い合って初めて信頼できるのでしょう。
と青二才がなんか言ってますが、私はそう思います。
自作品に話も交えて申し訳無いですが、『Best friends』も恋愛との違いがありますが似たような感じですので
いっそ、そういう風に思いながら今回編集しながら読んでいました。
さて、次回が最終話、より一層期待しましょう!
                                サス





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