〜込み上げる想い〜


−4−


 あの日から私は変わった。
 シュウには大分前から私自身が変われたといったけど、コンプレックスの塊で何も変わってなかった。
 シュウに励まされ、怒られてから私はすべてを受け入れるようになり、人の温かみ、人との繋がりが分かるようになり
 生きることに対する喜びがようやく本心から見つけられた。もちろんそんなこと今まで無かった。シュウと出会ったことにより
 全てが開けて自信・ほこりを持ってシュウの彼女だと胸を張って言える。そんなハリのある毎日を楽しく過ごしているとき
 電話が掛かり取ったときだった。その主とは……

「あー、法子オレオレ。わかんだろ」

 もちろん声質で誰かなんてすぐ分かった。それに発する前の空気からもすぐに分かったんだけど……

 あえて私は兄さんの真似をするようにちょっかいを出してみた。以前の私なら考えられないこと。それは自分を
 さらけ出すことができるようになったからだ。

「すいません、お金がないので振り込めません。申し訳ないですけど家の人がどうなっても私にはどうすることもできません」

「わーバカ! 違えよ!! ○○○○詐欺じゃねえよ、シュウだよシュウ!」

「はい、良く出来ました」

「おめえ分かって言っただろ……前はそんな奴でもなかったのに……」

「私を変えた張本人はシュウでしょう。まあそんなことより、どうしたの? 珍しいじゃない。あなたが電話をかけてくるなんて……」

「そうそう、そんことだ。今週でキャンプ終えられて時間が出来たから、久しぶりにどっか行けないかなって思って……」

「それは嬉しいんだけどね……大丈夫なの? キャンプと言えばしごかれるんでしょ? 疲れてるはずなのに私なんかに付き合っちゃって……」

「俺が好きで誘ってるんだからお前が責任感じることなんかないんだよ。まあ俺の我侭ってことで……なっ?」

「ま、まあ……シュウが好きでやってるならいいんだけどね……行き先とかどうするの?」

「いつもなら俺が決めてるんだけど、今日はお前が決めてくれないか?」

「ど、どうして?」

「だってさ、いっつもデートつったら俺が決めてるじゃないか……それだけ俺ばっかりで悪いからさ……今日は法子が決めてくれないか?」

「そ、そう……うーん……どうしよっかな……あっ!」

「ど、どした大声出して……」

「そういえばさ、私シュウに話しておきたいことがあるんだ。でもその話ってねあまり人前じゃあ話したくない話なんだ」

「まあそうなるとデート場所なんか限られてくるな……」

「こんな時期にって思うのかもしれないけど……海がいいかな……もちろん時期的にいうとマイナスなところだけどね……」

「まあいいんじゃない。だって人前じゃあ出来ない話なんだろ。だったら俺は反対しないさ。お前の意思を彼氏である
俺は尊重するだけ。時間どうしようか? 昼くらいで準備できそうか?」

「うん、全然いいよ。朝だとさすがに……ね」

「よく言うよ。その朝に俺の家に山ほど奇襲をかけて人の寝顔拝んでた奴が言う台詞とはおもえねえよ」

「ひっどーい! そんな言い方無いんじゃない!!」

「冗談だよ。そんな頬膨らませて怒ることでもねえだろ。じゃあそういうことでいいんだな」

「ねえ私としてはシュウがどうして電話なんかかけたのが凄い気になるんだけど」

「それはさっきも言っただろ。深い理由なんてないんだから」

「うーん、。まあ聞いたってシュウが言うとは思えないし、いいわ。じゃあシュウまた今度ね」

「ああ、また今度な……」

 そう言って電話を切った。当然シュウは思いもしてないだろうな……私が明日あんな行動おこすなんて……
 かく言う私も、まさかシュウがあんな思い切ったことをするために電話をしたなんて思わなかった。

 そして、デート日の当日。私は昼からという約束なのにAM8:00から準備して化粧から何から何までして
 髪の毛のセットもしてるときだった。

「(佐藤法子にも将来なると思うし、何より私は生まれ変わった。なら思い切ってばっさり切っちゃって生まれ変わっても…)」

 でも私はまだそれを実行できなかった。確定もしてないんだし、何より理由をあの人に言わないといけない。それはプレッシャーにもなるわけで
 そんなことをさせてはいけない。今後私があの人を支えないといけないのだ。だから今は我慢しよう。

 結局あのあと何もするわけでもなく、適当なことをしながら時間を潰してた。海まで10〜15分くらいだったから
 11:30にでた。兄さんからはギリギリに出たって間に合うだろって言われたんだけど、人を待たせるのが嫌いだから
 っていって家を後にした。

「ま……眩しい……」

 今更ながら思うことだけど、外の景色は羨ましいくらいに眩しいことを今になって思う。
 絶望していたあのときとこんなにも景色が違って見えるなんて……

「(人間って気持ちでこんなにも変わるんだ……)」

 そんなことを思いながら私は海を目指していた。幸い人通りも少なく(寒いから当たり前なんだけど)本当にあっという間についた。
 シュウもまだ着いていないようで、私はいろんなことを考えていた。

「(シュウが来たら、今度こそあのことを話さないといけない、もう隠し事はしないって決めたんだから
でもいつ……)」

 そんな時だった。

「あちゃあ……やっぱり来てたのか……こんな寒い時期まで律儀なやっちゃな……でもごめんな待たせちゃって」

 思っていた通りシュウだった。定時より5分早く来てた。シュウにしてみれば、私に負担を掛けまいと
 早く来てくれたのかもしれない。そんな気持ちに応えるみたいに優しく言った。

「ううん、そんなことないよ。私が好きで来てるだけ……寒いみたいだし、何か飲物買ってこようか?」

「そんな必要ない」

「ど、どうして……寒いでしょ?」

「俺が買ってきてるからだよほら、ココア飲んどけよ。俺のはちゃんと用意してるから」

「ありがとう……ねえ久しぶりだね……色々なこと話さない? 退屈してたんだから……」

「そうだな……ほかになんもやることないんだしなここ…」

 そう言って、まず言い出しっぺの私が話し出した。
 簡単なことしか言わなかったんだけど……たまに両親の墓参りと毎日のバイト。そして兄さんから結局あのあとも
 あれこれ、心配されて普段と変わらないってことや、毎日がとっても楽しかったと言うありふれたこと。


 シュウもシュウで、兄さんに相変わらずおもちゃにされて、キャンプで他愛の無いことでも盛り上がって
 練習に励んだりと充実しているようだ。しかし、相変わらずっていうか昨日の電話の様子がおかしかったから
 もう一回くどいようだけど聞いてみた。

「ねぇ……シュウどうしたの? さっきからいつものシュウらしくない……」

「そっかぁ? ……俺はいつもどおりだと思うけど……」

「シュウは知らないかも知れないけど、シュウってね……何かあるとき…目が伏せ目がちになったり、いろいろあるんだよ……知ってた?」

「……そっか……今気付いた………………大体電話で話すから怪しまれてばればれだったんだろうな
しょうがねえ、どうせ言う気だったし、言うか……」

「やっぱり……そのために電話を?」

「ああ……そういうことだ」

 そう言って、シュウは話し出した。どうやらここまでに至った原因はキャンプからのようだった。
 シュウから聞いたけど、それは私にとって予想もしないものだった。

 話はつい最近のキャンプに遡るらしい。
 その日は打撃練習にも精が出ているときで、チームメイトのみんなもシュウの変わりぶりに目を丸くしていたそうだ。
 そんな時松井さんからいろいろアドバイスをもらっているときにどういうわけか、
 そのとき話題に私が出て、そこでも色々アドバイスちゃっかり貰っちゃって……それからは
 もう私の予想していた通りで。

「そういうことなんだ……今日お前を呼んだのは……」

 なんとなく……なんとなくだけど気付いていた。
 シュウが電話するなんて、今までこれで6ヶ月くらいだけど、なかった。
 大体電話をするなんて私からだったし……予感はあったんだけど、それでも
 それが信じられなくて私はつい、いつもの嘘をついた。

「シュ、シュウそんな……そんなこと急に言われても分からないよ……どういうこと???」

 でも、シュウは間髪いれずにとんでもないことを言ってきた。

「もし目標達成したら、お前と、結婚したい……それが今日呼んだ理由だ……」


 それは予測できてた……でも本当に婚約申し込まれるなんて……
 頭の中がまっしろで口を両手で抑えてしまった。

「ほ、本気で言ってるの?」

「本気だよ……ずっと今まで考えてた。ここまで法子のことを知って、今よりずうっとお前のこと好きになっちゃって……
責任っていうか、たまらなくお前と一緒になりたいって思ってきたんだ。どうだろう法子はダメか?」

 ダメな訳ない……今までの色々なことを考えればむしろそうありたいくらいだ。

「……今日何かあると思ってた……でもいざ言われてちょっとビックリしただけ……
それにシュウと一緒になったら確かに面白そうだしね」

「ってことは……」

 シュウは嬉しさを殺すに必死の顔で私を見ている。
 私も心からの笑顔で応えてやった。

「私に反対する理由なんて無い……もちろんいいわよ」

「よ……よかったぁ……」

 そういうとどうしたことかシュウはへたり込んでしまった。
 まさか……

「ま、まさか……シュウ緊張してたの?」

「いや……こんなことって初めてだし……
なんか、大きなことやったなぁと思ったら急に腰に力入らなくなっちゃって……なさけねぇな……はは」

 照れ隠しする? 情けない……? そんなわけない、私を救ってくれた大好きな人。誇りに思えるくらいだ。

「ううん、そんなことないよ、ありがとう私なんかのためにそこまで真剣になってくれて でもだとすると大変になるわね私たち」

「どうしてだ?」

 さすが天然のシュウ。普通なら分かりそうなものなんだけど……それがシュウらしいから
 逆に嬉しいけど。

「だってそうでしょ、プロ野球選手と一緒になるってことは夫の活躍はひいては妻の私にかかってくるわけなんだから私も頑張るわ」

「まっ、やるオレがしっかりしないとな」

「しっかりしてよ。期待してるんだから」

 もう新婚みたいにばかみたいな話になった緊張の糸が取れたのかもしれない。
 そうしてひとしきりしてからシュウは話題を変えてきた。

「なぁ法子?」

「どうしたの? 急に変な顔しちゃって」

「もともとこんな顔だっての。そんなことじゃなくて……
どうしてオレでよかったわけ? 俺が言うのもなんだけどさ、お前は顔もいい。性格もいい。
そんなお前が他の奴じゃなくてオレだった理由。言い寄ってくるのはいっぱいいたはずだ」

「うーん、それは買いかぶりだと思うけど……でも全部断ったわ」

「どうしてよ? こんなこと言っちゃなんだけど、俺なんかより全然いい男は居ただろう?」

「別に容姿で選んだわけじゃないけどね。それでも私はシュウがよかったの
もうあのときから多分シュウが頭から離れてなかったんだろうね」

「どういうこと? 俺法子にそんなしたっけ? 別にしたっていってもさ、
高校時代にちょっと話した位だろ? それであんなになるかな……」

 もう、シュウは確信はしていなくても、
 ここまで想いを残していることにおかしいことには気付きかけている。
 私だって、本当のことを言おうとして来たんだから、それにシュウだって納得してくれるし悪いようにはしないはず
 だから私は思い切って言ってみることにした。初恋の話を

「シュウ、覚えてないかな……私ね以前、シュウと会っているの高校の前よりずっと……
私以前さ、何気ない道をじっと見ていたでしょ?」

「ああ」

 シュウもそれには覚えがあるようで、私の話を静かに聞いていた。話しやすくなった私は、続きを話す

「ようするにそれがヒントになってるの 」

「どういう……ことだ?」

「それは私が5歳くらいのときだった 」

 私はあのときのことを思い出しながら話した。甘酸っぱい初恋の初めてあの人に会った話を

「ここどこなの……」

 ちょうど私が5歳のときのことだった。この頃は信じられないほどお転婆でよく男の子と混じって遊んでいた。
 ところが結構遠出をしたせいでみた事の無い道路に迷い込んでいた
 最初は、どうせ歩いていたら行き着けると思っていたのに、行けばいくほどわからない袋小路に入るかのごとく
 迷っていた

 ……お父さん、お母さん、お兄ちゃん……

 当然幼い私は泣きそうになったでも泣くのを必死に堪え道行く人に尋ねた。だけど当然住所もわからないで道すらまともに分からないましてやパニックになっている
 私はまともに考えることすらできずにいる私は誰も通らなくなりつつある時間でつい泣き出してしまった。

「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、早く来てよ……
ここがどこか……わかんないよ……うえぇん……」

 ついに幼い私でも周りは助けることが出来ないことをとうとう身をもって知ってしまった私は
 絶望感のあまり体育すわりのように座り込んでしまい泣きこんでしまった

 でもそんなときだった、ある人が希望の光をくれたのは……

「どうしたの? そんなところでへたれこんで泣いちゃって? 」

「お兄さん……だあれ?」

「うん、俺? 偶然通りかかっただけのただの野球少年、それよりどうしたのこんな所で……何かあったの?」

 この野球少年こそ、後に私に生きる希望を与えてくれる佐藤修平その人だった。
 第一印象は何をしても怒らない優しい人っていう感じだった。幼い私でもわかるくらい、優しい感じだった。

「うーん、話したいけど、知らない人とかかわっちゃダメってお母さんがいってた……」

「うーん、確かに知らない人だけど、別になーんにもしないよ。それに見てみろよ。
君と背も全然かわんないんだよ、そんな奴がやましいことすると思うか?」

 会って初めての人にこんな失礼なことを言ったのに、それでもその野球少年は私に優しく対応してくれた

「うーん、確かに……それもそっか……うん、ところでどうして私に声をかけたの?」

「あー、そうだったなー。いやそこでずーっと泣いて座り込んでいるからなーにか、あったのかなぁって思ってね……
どうしたの?」

「それが……」

 このとき私はなんのためらいもなく、今の状況を説明した正直言うと好感すらこのときの私は持っていた。
 何を言っても優しく接してくれるなにより初めて会う私にこんなに親切にしてくれるこの人に悪いイメージというかいいオーラしか流れていないように感じたそう思い、私はためらいも無く打ち明けた

「そっか……それは大変だねぇ……ところでその家の周辺で目印みたいなものは無いの?
もしかしたら知っているかもしれないし……」

「うーーん、そんなこと言われても……あっ!!!」

 そういわれて、私はそのときはっとした。なんで、こんなこと思いつきもしなかったのだろうか……
 もしかしたら周りの人に言えば気づいてもらえたのかもしれないのに私は藁にもすがる思いで、シュウに告げた

「どうしたの?」

「確か、私の家のところって郵便局があったの……」

「ふんふん、それで?」

「近くにコンビニもあったの……それと……」

「郵便局とコンビニかぁ……」

 そう告げるとその男の子は考え込んでどのあたりかを必死で思案しているようだった

「(なんで、見ず知らずの私にこんなに真剣なんだろ……?)」

 はっきり言ってこのときから私は彼にシュウに恋心を抱いていたのかもしれない。
 甘酸っぱいような、この人と一緒になりたいと言う不思議な今まで抱えたこともない想いを抱いたのだから


 と思っていたときだった

「あっ!!!!!」

「うーん……お兄ちゃん、声がでかいよ……なんなの?」

 シュウは思いついたかのように急に大きな声で私に朗報をもたらせてくれた

「あ、わりぃわりぃ、そんなことはどうでもいいんだ、もしかしたら家に案内できるかもしれないぞ」

「ということは……心当たりがあるってこと?」

「うん、もしかしたらだけど、うちの近所にもそれに近い場所があったから……とりあえず行ってみようか……」

「だ、大丈夫なの?もし迷ったりしたら……」

「そりゃあそうかもしれないけど、元々迷っているみたいだしそれにいちいち、
もしとか失敗ばかり考えていても何も始まらないよだから行ってみようよ」

「う、うん」





 絶対行ける保障もないのに。このときの私はなぜか「うん」と行ってしまった
 なぜかは分からないけど、この人はこのときからなんというか妙に安心できるというか
 引き込んでしまうことがこのときから備わっていた


 とそんなとき、なかなかつかなかったでもあの人の目はやばいと暗くなることなく
 むしろ近づいていってるかのように明るい目をしていたので信用したが、
 一向につかないので私のほうがあせってしまいついつい、聞いてしまった。

「ねぇ? 本当にこの道でいいの? 全然見えてこないんだけど……」

「いやぁ、見えてはいるんだけどね、もうちょっとしたら見えてくると思うから」

「にしたって……あっ!!!!」

「……君も声大きいよ……」

 どうやら私もヒントとなるものを見つけてしまいつい、大きな声を出してしまったようだ

「ご、ごめん……実は私の家思い出しちゃった」

「おっ? そうなの、でどこだか思い出しちゃったの?」

「私の家、あそこなの……ついてきて!」



 そういって、私が指をさすとあの人は目が点になったみたいに唖然とした



「あのさぁ……かなりでかくない?」

「ま、まぁね……それより早く入りましょう。お礼もしたいし……」

「そ、そうだね」

 そういって、私はインターホンを押してお母さんが来るのを待った



ガチャ


「ただいまぁ……」

「法子!!」

「ちょっと、遅くなっちゃった……あはは……」



ピシ


「笑い事じゃないの!!! お母さんがどれだけ心配してると思ってるの」



 そうして叩かれるととたんに泣けてきて……今思い出して話してるけど
 今だから言えるけど……血も繋がっていない私をよくここまで心配してくれたと思う
 そういった意味では私は本当の娘以上に幸せだった。

「ご、ごめんなさい……もう、勝手に外にふらついていかないから……」

「なるべくそうしなさい……でも……」

「へっ……」

 急に胸の奥から温かさを感じた。
 幼かった私ですら感じたのだ。今もしそうなったら私はどんな感じを抱くだろうか

「よかったわ。法子がちゃんと帰ってきてくれて……そのことが一番嬉しいわ」

「ごめん……なさい」

 そうしてみると、彼が帰りそうな仕草をしていたので

「お母さん、実は私、迷っちゃてて……」

「そんなこと分かってるわ。それでこんなに遅くなっちゃったんでしょ」

「そのときにお世話になった人がいるの……ほら、早く来て」

「……はい?」





 そうやって促して私はお母さんにことのきっかけから何まで全部話した

「そうだったの……本当にありがとうございます……
あなたが居なかったら法子は戻ってくれなかったかもしれません……私からも感謝しています」

「いえいえ、そんなことないですよ。法子ちゃんが思い出してくれたから僕は連れて行けたんです。
僕はただ単に切欠を作っただけです。」

「それでも私の気がすみません、どうかこれからもし、ここに来る機会があれば法子のお友達になっていただけますか?
この子、また、迷子になったりしたら大変ですから」

「はい……ありがとうございます
それじゃあ」

「………ちょっと待って……」

 私は、もう我慢が出来ず、もしかしたらもう会えないんじゃないかと思って
 思い切って聞いてみた

「ん? どうしたの?」

「お名前聞いてなかったね、なんていうの?」

「佐藤……佐藤修平。簡単な名前でしょ覚えてね」

「うん、修平お兄ちゃん、また会いに来てね」

「うん、じゃあね……お母さん大事にするんだよ」





バタン

「いい、人ね……いまどき珍しいくらいいい人ね」

「うん……私もそう思う……ねえお母さん……」

「何、法子?」

「どうやったら……あの人に好かれると思う……?」

「……素直になりなさい、それが一番いいわよ」


 この事件が起こってから私は素直に、実直になろうと努力した。
 そうしてその事件が今の私を作り、シュウに対して恋を抱く原因になった


「どうかな、修平お兄ちゃん……だから、私は誰から何を言われても断った
修平お兄ちゃんが好きだから……こんな一直線な私でもそれでも好き?」

「そういうことだったのか……なるほどな」

 そう言って間をおいてからシュウは恥ずかしからずに私を見据え言った

「ああ……言ったろ、俺は法子が好きだからこうしてるって……にしても……」

 そうシュウが青空を仰ぎ、言葉を繋ぐ

「あのちっちゃな……お転婆だった子が……法子とはな……
でも、嬉しかったよ。今でもこうして覚えてくれるなんてな……」

「私、初めてだったからね、初対面であんなに優しくしてくれたのは……
それが一番の大きな理由かな……」


 好きになった理由もね……

 とそんなときに、シュウはまた思いついたような疑問を投げかけた

「じゃあ……ずっと前から俺でよかったってこと?」

「まぁそうだけど、やっぱり決め手になったのは最近かな……」

「それって……法子のこと知っても受け入れたから」

「そう。それとあとは温かさ……ねぇ知ってる?
シュウの腕の中ってとっても温かいんだよ……それが心地よくて……」

「あん? どうしてお前が俺の腕なんか……って」

 そう、実はずっと寝ていたのではなく、
 シュウからおぶられているときにシュウのぬくもりを感じていた。
 そして、シュウが呆れたような顔しているのと同時に、私はまるであの頃に帰ったかのように
 幼い顔をして照れ笑いをした

「へへ……ごめんね……」

「全くこいつと来たら……そういうところだけはお転婆の頃のまんまだな」

「ウーン……寒いなぁ……」

「どしたぁ?」

「やっぱり海は止めておけばよかったかな……ちょっと寒くなってきちゃったね……」





 そう、今は真冬ただでさえ、寒いのに海。つい両手で腕をかばおうとする。いくら話したかったとはいえ、こんな真冬の海に行くなんて
 今考えれば自殺行為にも等しい。これで寒くないわけがない



「しょうがねぇなぁ…」





 そういって、何を思ったかシュウは着ていた上着を脱ぎ私の肩にそっと上着をかけた。
 これにはさしもの私も驚いた。慌てて上着を返す



「ちょ、ちょっと……これじゃあシュウが!!!!」





 私は慌てて羽織ろうとした上着を脱ごうとするがシュウはそれをさせじとする



「バカ言ってんじゃねえよ。寒かったんだろ? 無理することないじゃないか」

「そりゃあそうしたいけど、それじゃあシュウが寒くなっちゃう」

「いいんだよ。俺は寒くたってかまわない」


 寒いのに、何をするの?



「それに?」


 そういうとシュウは私のそばに寄り添って……
 私の背中を引っ付けあい……

「こうやって寄せ合えば寒くないだろ?」

「もう……顔に似合わずバカなんだから」

 本当にバカだ……でもそんなバカを心底好きになってしまった……
 私もまたシュウに劣らず大馬鹿ものだ。

「そんなバカを好きになったのは何処の誰だ」

「シュウもね……」

 私も負けずに悪態をついた。だけど事実だからしょうがない。
 私はこの人の笑顔と心、そして優しさを好きになってしまったんだから

 そしてしばらくして


「なぁ……法子……」

「ん? 何……?」

「もしさ……今年達成したらさ、お前どこ行きたい?」

「急にどうしたの???」

「いやさ……ここ数ヶ月随分色々なことがあったし……
ご褒美もあってもいいんじゃないか……?」

「ご褒美ならシュウとこうして一緒になることが出来たんだし、別にいいんじゃない?」

「でも、それじゃなくても……何か形にしてお前と一緒にしないと気がすまないのよ」

「そんなこと言われてもなぁ……」

 どこが良いんだろうかと考えていたら、私の脳裏にあるものが浮かんだ

「どんなところでもいいの?」

「ああ、お前が良いって言うところだったら……どこだってな……」

「じゃあ……いつかみんなと桜を見たい……」

「桜……か……そういや……お前桜が好きだったんだな……」

「うん……ダメ……かな」

「まあそれでお前が満足できるって言うなら俺には何の不満もないし
そう言ってくれると嬉しいよ……」

「それじゃあ帰ろうか……大分暖かくなったからそれと今日は、ありがとうね……今年かどうか分からないけど
応援して待ってるからね。そのときまた会おうね」

「ああ、頑張ってくる」

「あ、そうだ! 肝心なこと言うの忘れてた」

「ン? 何だよ急に」

「私ね、あとちょっとしたら別府を離れようと思うの……」

「ま、まじか!!! どこ行く気なんだよ!!」

 まさかの私の発言により、シュウは慌てふためいている。多分もうシュウの前からいなくなるって
 勘違いしてるんだろう

「シュウ……何もシュウと別れるなんて私行ってないわ。むしろ逆よ」

「そりゃあ一体どういうことだ?」

「シュウがホームにしてる東京で一人暮らししようと思ってるの……これは結構前から決めてたことなの」

「一体どうして東京なんかに……」

 ここまで言っても分からない人も珍しいんじゃないだろうか
 でも、そんな天然と優しいのがシュウらしい

「シュウがいるから決めたの。私もっとシュウといっしょになりたいから……なにかしら
力になれることをしたいから……だめ?」

「………両親・あいつは納得してるのか?」

「ええ、もう納得してくれた。もともと兄さんは大歓迎でしょう。遠かった妹が近くに来ちゃうんだから」

「ま、確かにな……じゃあオレも法子が来るからには本当に頑張らないと怒られちゃうな……」

「うん、頑張って私と一緒に来年のオープン戦で桜を見に行こう」

「ああ、約束だ」

「うん、約束ね……」

 そう言って、指きりの合図をして時間は流れていき、
 2人それぞれの生活に戻った。





Next⇒






前回同様ヘタな編集は行わず、渡された通りに改行タグをつけての公開になりました、第4話。
全4話の予定でしたが、長くなりすぎたとのことで分けての公開に変更しました。
これによって3話追加の全7話になりました。
今回は途中、過去へ遡って修平と法子の本当の最初(かははっきりと分かりませんが)の出会いの話が中心となっているようです。
小さな主砲でもこの辺りは書かれておりますが、小説でまた違った感じを見てもらえたらと思います。

                                                サス





inserted by FC2 system