〜込み上げる想い〜


−5−


 お互いのこれからそしてお互いの想いを確かめてから私は、東京で一人暮らしを始めた
 幸い収入に関しては会計事務所でパートをしながら暮らせるようになったので心配はなかったが、
 心配は私ではなく、シュウだった……
 約束を交わした後の開幕戦……私にはひとつの不安があったそれは……

「(シュウ……私の「形」だけの約束だけど、力入って不振になったりしないだろうか?)」

 シュウの弱点、それは意気込むと力が入り必要以上に無駄な力が入ったスイングが目立ち
 凡打や三振になることがある
 その予想は予想を裏切らず最悪な形で現れた……

 開幕戦、4打数ノーヒット3三振。最悪な出だし。
 以降も打てるはずもなく凡退・三振の山を築き、心無いファンからは罵声が飛ぶ日々
 それもそのはず5月を終えようとしている段階で打率は2割を切る直前で、本塁打はわずか4本
 約束を果たすどころか……監督もそろそろ決断を迫られているときだった。これでは約束なんて出来ないも確定したようなものだ

「(………私のせいだ……なんとかしてやらないと……)」

 私がしたらまた余計なお世話で、シュウは自分自身を追い込んでしまい、だめになることも可能性としては捨て切れなかった
 でも、この試練を超えない限り私とシュウは一歩も踏み出すことは出来ない
 私はその試練に立ち向かうため、シュウを勇気付けたいためにあるものを買って、シュウに電話をかけた

「はい、もしもし……法子……か?」

 やっぱり元気がないシュウ。無理もない結果が出ないで罵倒されていては無理も無いと思う

「シュウ……急にごめんね……シュウが休みなのこの日しかなくて電話しちゃった……大丈夫なの?」

「あ……あああの野次か大丈夫って言ってんの? 大丈夫だってあんなの日常なんだから」

 とは言うものの……やはりいつものトーンはなくどこか沈んでいるように感じた
 そこで私はシュウに思い切って聞いてみた

「シュウ……そうは言ってもさ……やっぱりちょっとは息抜きしたほうがいいんじゃない?
シュウ気付いてないかもしれないけど、やっぱりどこか疲れてる感じするよ?」

「そう……かな……」

「そうよ……今度、シュウが完全オフのとき、どこか行かない?」

「いいんだけどさ……いいんかな……練習しなきゃあいかんときに、息抜きでデートなんかしちゃって」

 でもどこか申し訳なさそうな感じだったので
 しょうがなく、どっかの誰かさんが言った言葉を私はシュウに言ってあげた

「でも、たまには息抜きも必要でしょう。あんまりトップばっかりでギアやっちゃうとガス欠起こしちゃうわよ
って……私、どっかの誰かさんから聞いたんだけど、シュウもそうしといたほうがいいんじゃない……」

「あっ……」

 そういわれてシュウはしまったみたいな顔をしているのが目に見えて分かったので私は続きをゆっくりと進めた

「くす……まあそういうことだし……たまには休んだほうがいいんじゃない? 私もそれで救われたことあるんだしさ……」

「全くお前と来たら……そういうところだけは全然変わってねえんだから……まっコーチからも実は言われてたんだ
息抜きしたほうがいいって……てっきり見限られてるとばかり思っててさ正直悩んでたんだ……」

「そんなすぐに見限るわけないでしょ。じゃあどうかな、今度のオフのときにでも……」

「ああ、オレはいいんだけどさ……お前大丈夫なのか?」

「私? ああ、私なら大丈夫所長に許可さえ取ればパートなんて縛られていないから支障は無いと思うわ」

「ま、理由はさすがに本当のこといわんだろ」

「さすがにね、そこまで私バカじゃないわよ……」

「じゃあ、オレのオフって日でいいんだな……昼ぐらい」

「ええ、シュウもすぐにまた試合なんだし、そっちのほうがいいでしょ。公園でもどう
静かに過ごせるでしょ?」

「でも……どうして今日かけてきたの……オレの状況知ってるから……?」

「まあそれもあるんだけどね……たまには息抜きしないと……ね?」

「まあいいんだけどさ……何か他の狙いでもあるんじゃない? お前が電話する時って大概そうじゃねえか」

 まあその通りなんですけどって思ったけどあの時のシュウと一緒で否定した

「何いってんのよ。シュウとは全然会ってないんだから会いたかっただけ……それにもし狙いがあったとしても
それはシュウにとってマイナスにはならないと思うわよ」

「まあそうなんだけど……まあいいわ、当日楽しみにしてるわ」

「ええ、じゃあね」

「じゃあなー」

 プツンと音を立ててシュウとの約束を取り付けることは成功に終わった
 最後はなんとなく元気を取り戻したようでそう言った意味では成功したのかな
 でも本番はむしろそのあとだ。私はかばんにある物を入れて周到に準備を重ねた
 そしてついにその日がやってきた

「(よし、あれも入れたし大丈夫。あとはシュウをいかにああするかだけ。
大丈夫、自分を信じれば出来る、さてと行こう)」

 自分を勝手な考えで勇気付けてから私は公園へと向かった。
 ついてみても案の定シュウはいない(単に私が早く行ってるだけだが……)

 そうして、しばらくするとシュウは来てくれた……
 でも心なしか元気がないのは多分気のせいではなく本当に沈んでいるんだろう

「シュウ、遅いぞ」

「いやー、わりぃわりぃ、ちょっと遅れちゃって……」

「いいんだけどね……もう慣れてるから……」

「慣れてる言うな……オレだってこれでも急いだんだよ……」

「そうね……こんな忙しい時間の合間にきたんだからね……」

「そういうこと」

 そう言って、どうでもいいことから
 私のことから話し出した

「それでお前仕事大丈夫なのか? 苛められたりしてないのか?」

「アドバイスを貰うことはしょっちゅうだけど、シュウみたいに苛められてないから大丈夫よ」

「ぐっ……痛いところを……!」

「シュウのほうこそ、どうなの? 今楽しいの?」

「どういうことだ。今日のお前何かおかしいぞ……妙につっかかって……」

そうシュウがいうと私はやっと肩で息が出来たそれを聞けて安心したからだ……

「よかった……そこのところはまだ気付ける余裕があったから……」

「????」

「私心配してたの……シュウがスランプで周りが全然見えていないんじゃないかと思って
それのこともあったし、この前あんな電話をかけたの」

「やっぱり……それが狙いだったんだな……おかしいと思ったんだよ。急にお前が電話なんかかけるから」

「でも本当はそれだけじゃないの……」

「ん?」

「私の所為なんでしょう……スランプになっちゃった原因って……」

「………それは違うよ。俺がふがいなかっただけ……オレにもっと力があれば……」

「そうさせたのは、私でしょ……結局その所為で余計に肩に力が入って結局何の力にもなれなかった……それどころか足を引っ張って」

「んなことないよ。十分力になってる。まあでも、本当のこというと結果を出したくてそれで必要以上に
お前が言うように力が入っているのもそりゃあ本当なんだ……」

「じゃあプレッシャーかけた私の!!!」

「違うんだよ。前にも言ったろ……お前はいるだけでも全然違うんだ……
なんていうのかな安心できるって言うかオレの心の支えなんだろうなきっと……」

「ほ……本当に?」

「ああ……本当にだ」

「じゃあ、これ渡すのは二つの意味が出来たかな……」

「あん?」

 そういうと、私は前々から用意していたものを取り出した
 本当はこれが最初からの狙いだったんだけど、シュウの沈んだ顔とかもあって
 私も自責の念にかられ、自分を責めていたが、シュウが優しくしてくれて
 ようやく本題に戻ることが出来た

「これ、シュウの誕生日プレゼントのつもりで前から用意してたの……でも二つの意味が出来ちゃったかな」

「っていうと?」

「シュウ言ってくれたよね、私が居るから力になってるって」

「ああ、嘘偽りの無い本音だ」

「じゃあこれを付けてくれない? 本当は誕生日プレゼントのつもりでちょっとはたいて買ったんだけどね」

「これは……ペンダント?」

シュウに送ったのは天使の羽を模した銀色に輝いたペンダントだった

「きれいだ……これをオレに……」

「最初はそのつもりだったんだけどね……」

「っていうと……」

「それを私と思ってずっと付けてくれていたら嬉しいなって……それでスランプ脱出出来てくれたらって
思うと……涙でちゃう……」

「そっか……オレのためにそんなことまで考えてくれたんだな……」

「図々しすぎたかな……」

「いや……なんか力が出てきそう……これ付けてもいいか?」

そんなこと聞くまでも無いのに……

「ええ是非付けて欲しい」

 そう言ってシュウはペンダントをつけてくれた……
 初めて付けたはずなのに、妙になじんで見えて私もだけどシュウもなんだか初めて付けるのに
 初めてじゃないみたいな顔してる

「ビックリするくらいしっくり来る……やっぱりお前が背中を押してくれたからかな」

「ちょっとは慰め程度には力になれそうかな」

「そのちょっとが野球では大事なんだと思うよ。一人の力ではどうにもならないかもしれないけど
バットに紙飛行機みたいにちょっとでも飛ぶくらいの力でも野球では全然違うんだ」

「そっか……ということは、もう大丈夫かな?」

「まあな、一人ではないんだし、迷ったらこのペンダント見て俺は一人じゃないって思い返すことも出来る」

「まあでもおこがましいよね。天使のペンダントで私だと思えって」

「全くだよな……そんなにお前天使なんかってつっこみたくなるわ」

「ぐす、人が心配してお金かかってまで買ったのに……」

「冗談だって……泣きまねなんかするなよ大人気ない……」

「でも、よかったそんなこといえる元気出てきたところ見ると大丈夫そうね……」

「ああ、お前が後押ししてくれそうな気がしてきたし気楽に打席に立てそうだ」

「無理だけしないでね……私はそれだけが心配」

「ああ、無理しねえ。無理しそうだったらこれ見てお前の顔思い出すわ」

「よかった……」

 本当によかった。それが本音だった。
 私のおかげで壊れたらどうしよう? それだけが心配だった私の所為で足を引っ張るなんて
 もう二度として欲しくなかったから

「にしてもオレも失格だよなお前の彼氏。オレが弱くなかったらこんなことになってなかったんだから」

「そんなに私のこと思ってるならちょっと聞いてもいい?」

「なんだ?」

「私のこと今でも好き……?」

 ちょっとした質問、シュウは恐らく私の思ったとおりのことを言ってくれる

「いや……好きじゃねえよ」

 や、やっぱり幻滅してしまったのか……

「お前の思っている答えじゃないよ」

「えっ」

「好きじゃない……大好きなんだよ」

「シュ……シュウ……もう、バカ」

「そのバカを好きになったのはどこのどいつだ」

「シュウもね……」

「法子、俺もっともっと強くなる……そんな俺だけど応援してくれると助かる」

「私も、迷っていたり進むべき道をはっきり示せるような女になりたい」

「そういう意味では似たもの同士だからこうしてなっちゃたのかもな」

「そうかもしれないね……」

「まあ明日から頑張るわ。ちょっと気が楽になってきたし……」

「ええ、私も頑張っていくんだからね」

「ああ」

 そうしてお互い2人とも悩みを振り切り互いの目標を語り合いいい意味で高めあうことが出来て
 恋人関係としては最良ではなかっただろうかそんな気がした。

 そして翌日シュウの試合を見ると、フォームから迷いが振り切れてるのが分かり
 全く無駄の無いものへと変わっていた。

「これはひょっとしたら」

 そう思った矢先いきなり、バックスクリーンに特大のHRを撃ちアンチを黙らせる復活の一発
 そして最後にはサヨナラHRを放ち、復活を印象付けた。
 これ以降打って打ちまくり、6月成績。打率4割超え 本塁打12本と文句なしのMVPを獲得し
 目標としている成績もわずかながら可能性が見えてきた。結果的に私の気持ちが出た形となった
 シュウがこんなに一生懸命前を向いて頑張っている。

「(シュウは絶え間ない努力して勝ち取ったなのに、私は頑張らなくて良いの? そんなことできるわけない。私も前を向いて頑張っていかないと)」

 そんな決意を固め、私はある時期にあることをすることを決めた
 そして、そんなことで準備をしていたら、シュウから電話がかかってきた

「法子? どうだ。今度オールスター終わって8月も試合あるんだけど、たまたま日程でさお盆くらいに空きが出来たんだけど
どうだ、久しぶりに?」

「ごめんね、そうしたい気持ちもやまやまなんだけど、私用が出来ちゃって……行けなくなったの」

「……そ、そっか……まあお前にも用事があるんだしな、いいんだ気にしなくて
どうせ、練習も考えていたことだしな」

「ごめんね……用が済んだら、謝罪っていうことでもないんだけど、携帯に電話するから
何をしたのか……とか言うつもりだから」

「いいよ。そこまで気を使わなくたって」

「そうじゃなくて……私がシュウと話したいだけだから……」

「そっか……まあいいわ。そんとき楽しみにしてる」

「うん、ありがと」

 そうして、シュウの誘いを蹴ってまですることが今の私にはあった
 お盆を迎えた私はある地に向かうために……夜行電車に乗ってある場所までの直行があったので
 のっていくことにした。

「久しぶりだな……私の「本当の」実家……」

 そう、私は今大分駅で電車に乗り別府へと向かっていた。
 その理由は、今までの私に対しての決別でもあった。
 シュウがあんなに頑張っているんだから、私もいい加減過去を完全に振り切らないと行かないといけないと感じた
 そうして、家についた。
 つい最近まで見慣れていた家のはずだったのに

「(久しぶりに実家に帰るのもこんな気分なのかな……でも今はそんな懐かしいなんていう暇ない。私にはこれから
やらなければいけないことがあるのだから……)」

 ピンポーンという音をまずは鳴らす。当然その間にも空白があったんだけど、
 私の気持ちを占めていたのは緊張だった


「(ばか……自分で決めたんでしょ……何を今更うじうじしてるのよ……)」

 そうは分かっていてもやはり緊張することだった
 両親がショックを受けるかもしれないとかそんなことを考えていたら

「(でも、しょうがない……いつかはその日が来る。それが今だっていうことだけ。シュウみたいに私も逃げないで頑張らないと)」

 そんなこと思っていると母さんが客だと思っていたのか、いつもの
 お客さんに対する声で対応してきた

「はいはい、どちらさまですか……の、法子??? 嘘お盆だからって帰ってきてくれたの???」

「まああと一個用事あったんだけど、それもあるかな……た、ただいまであってるのかな……」

「当たり前でしょ。ここはあなたの家なんだから……おかえり……ちょっと待ってて今日はお父さんもいるから
積もる話もあるだろうけど、まずはゆっくりしていって」

「う、うん……ありがと」

 そうして、そのまま、話は私が一人暮らしの話で終始盛り上がって
 夕飯のときもどっちかっていうと私に対してのことだった

「そういえば、宗は今年も帰ってこんきか。法子は宗と一緒の距離の遠かった東京から帰ってきたというのに
全く持ってけしからん」

「お父さん、それは無理よ。兄さんは今が一番忙しいプロ野球選手なんだから
兄さんだって帰りたいのを我慢してると思うわよ」

「まあそれは分かってるんだが、言わずにいられなくてな……」

「ところで、法子?」

「ん?」

「どうして内緒で帰ってこようとしたの……帰ってくるくらいなら連絡あっても良かったんじゃないの?」

「いや、そ、それは……」

「おい、お前言いすぎだぞ法子が帰ってきたというのにそんな言い方しちゃあ」

「そういうことじゃないの。それだけ何も連絡しないでいきなり来たって言うことは何かあったと思うの
そうじゃなかったら、そんなに簡単なことだったら電話でも済むと思うし……ここまで黙ってこないと思うの」

「………」

 さすがは母さん。私のことなんて何でもお見通しだった。さすがに3歳からずっと私を本当の娘のように思ってきただけのことはある
 でも帰ってこれは好都合かもしれない。言うきっかけを踏み出せたから

「………やっぱり、おかしいと思った?」

「そりゃあね……大体ここまで来るのに、相当かかるでしょう。それを内緒で来てまで来る必要があった
ただ実家に遊びに来ただけとは思えないのは想像するのは簡単でしょう」

 これで私は言う気持ちが固まっていよいよ前に踏み出すことを決定的にした

「私がね……もう本当はここの家の人でないことを知ってるってことは知ってるよね……」

「ああ……だけど」

「もちろんそれもわかってる。だけどね……それでも私はきちんと言って本当の意味で「日法子」
としてお父さんたちに顔が向けられるようにしたかったの……それだけで今日はここに来たの」

「そう、そこまで考えてたのね……こんな大人な子になるんだったらもっと早く言うべきだったわね
それともあの人の影響かな……恋人の修平君の……」

「!!!!! し、知ってたの!?」

「そりゃあ分かるわよ。あなたの顔を見れば、恋人がいることくらい。一人だけでは人間なんてそんな
前向きに生きられない。だとすれば恋人がいるなんて、察しもする。しかも法子が好きそうなのなんて一人だけだもの」

「まあそれはそうなんだけど……謝っておきたかったの……まずはお父さんとお母さんに
ここまで大きくさせてくれたのに、今までどうして私を育てたのかって……いっそのこと何もしてくれないほうがよかったって」

「………」

「………」

 2人とも黙って私の話を聞いていた。その顔には
 そんなこと思って当たり前だからそんな表情にも見て取れた

「でもね、そんなある日、修平先輩には私の本音をぶちまけて突き放したの。
でもあの人そんな私を怒ってくれた。偽善だけでは絶対にそこまでしない。どうしてそんなことに気づかないのか!
もっと人を信用しろって……」

「そっか……いい人を見つけたんだな……法子は……」

「私ね……それで目が覚めたっていうか、今までの自分が凄く恥ずかしくなって……
それと同時にね、2人にどうしても謝りたかった。……ごめんなさい……ここまで大きく育ててくれたのに
こんなこと今の今まで考えてて……でもね、今の私。そんな私でも……お父さん・お母さんって呼びたい
どう? こんな身勝手な私でも許してそして娘と思ってくれるの?」

 ふぅっと……ため息をついて、父さん・母さんともに慈愛を込めた表情で言った。

「当たり前だ。繋がってこそいないが、お前は俺たちの娘。日法子になんの代わりも無いんだ。
お前の境遇だったらそんなに恨んでいて当然だ。俺たちのほうこそ謝りたい気持ちなんだ……
お前が俺たちを親と思ってくれるのならば、俺たちの気持ちは変わらない。お前は俺たち自慢の娘なんだ」

「お父さん………」

 この瞬間、あの人が言っていた人を信じろといった意味が分かった気がしてきた。
 人の言葉、ぬくもりがこんなにも心地の良いものだったなんて……その瞬間、私は涙が止まらなかった
 今までの愚考……そしてそれを笑って許してくれた両親に涙が止まるはずが無かった


 どれくらいしたろうか。
 そんな涙も乾いてきて、ひょんなことからあの人の話になって

「ところで、法子どうなんだ? 修平君とはどこまで行ったんだ?」

「ど、どうしてそんなこと聞くの……?」

「そりゃあ彼女を怒ってやるくらいだから、かなり親密にならないと
怒れんだろ……かなり近くまできたんじゃないかなって……」

「本当のこというとね……結婚を意識してる……お互い」

「……やはりな……薄々そうではないかなとは思っていたんだ……」

「ど、どうして??」

 そういうと母さんがふうっとため息をついて言ってくれた

「そりゃあ誰だって分かるわよ……あんな信じられないことが起こったって言うのに、
全てを受け入れるなんて一人では出来ることじゃない。誰か大切な人の支えや教えがないとできることではないわ」

「………」

「あなたも全く変わってないわね。嘘がつけないとこ、すぐに顔にでちゃうんだから……」

「法子。お前が来た理由、それはお前一人が幸せになるってことが果たして許されるのか
俺たちのことを考えたらと思って、それでもお前の中では覚悟は決まってて、玉砕覚悟で許してもらおうと
思った……それで来たんじゃないか……違うか……」

 どうして私の人たちというのはこんな血の繋がらない娘でも可愛がって
 私の思ってたことを簡単に当ててしまうのか……でもそれはきっと愛されているからに他ならないで
 私は嬉しかった

「……うん……そう……私、どうしてもお父さんとお母さんには報告しておきたかった
今までこんな血の繋がらない私を一生懸命育ててくれて、本当の娘のように扱って
私のしぐさから何までを分かっててそこまでしてくれたお母さん達に、例え許してくれなくても
それだけは感謝として言おうと思った。だから、覚悟は出来てる……どんな結果になろうとも」

「全く……こっちが言わない間に好き放題言いおって……」

「ごめん……でも許されるわけ無いと思ったから……散々迷惑だけかけておいて、好きな人できたから
サヨナラって……そんな虫のいい話」

「そういうことじゃなくて……どうして、そんな良い人がいるのに今の今まで黙ってたの……」

「……??? どういうこと???」

「これでようやくあなたも幸せになれるってことなのよ……その幸せを親として喜ばないわけないでしょ」

「……えっ??? それって???」

「あなたには幸せになる権利はあるの。責任感ばっかり目に付いて……彼氏にも言われたろうけど
あなたはもっと人に甘えるべきよ……」

「ああ……全く、なんでもかんでも一人でしょいこもうとするところは父親似だな……
だが、そんな心配しなくていい。お前が認める男だ。よほど良い奴なのだろう……俺たちは祝福するだけだ。
だが、それには条件がある……」

「一体どんな……?」

「お前の帰るべき場所……実家はここだということだ。いつでもお前は甘えてきて良いんだ
その資格がお前にはある……」

「そう、あなたはここの子なんだからそこだけは忘れないで……」

「お、お父さん……お母さん……」

 そこからはあまりよく覚えていない。覚えているといえばお父さんとお母さんのぬくもりが確かに私の腕の中にあったということ
 そして、翌日私は東京に帰るために、家を出る事にした

「帰るんだな……」

「ちょっと寂しくなるわね……当分帰ってこれないとなると」

「そんな顔しないでよ。11月くらいには多分今度2人で帰ってくると思うから」

「……まっ、そうだな気長に待つとしよう……じゃあ頑張ってこいよ」

「うん……」

 そうして、私は東京へ帰った。当然時間は掛かりにかかったため帰り着いたときは夜9時を回っていた
 私はそこであの人に電話をかけた

「ああ、法子久しぶり……電話をかけたってところを見ると用事はようやく終えたってことか」

「ええ、そういうこと……何してたか気になる?」

「そりゃあな……オレの誘い蹴ってまで行ったことだからちょっと興味あるな……」

「そう……でも聞かないほうが良いんじゃない。聞いたらビックリするわよ……」

「それでもなんでもいいよ。興味があるだけなんだから……」

 そして、私はついさっきまであったことを全て話した。
 もちろんシュウと婚約したいってことまで何から全部……

「ま……マジか……お前そこまで思い切ったの……? どうしてオレに何の相談も……」

「言ったらオフまで待てって言うつもりだったんでしょ?」

「当たり前だよ……そんな大事なこと。俺もいるんだ。もっと甘えろって言ったろ?」

「うん、それはわかる。でもねこの私のことに対しては甘えるわけには行かなかったの。
シュウばかりに甘えてたら、私……一生あの時間から抜け出せないと思った……
もちろんシュウに後ろめたいことは沢山あったわ。だけど、私一人でもたってできるようにしたかったの
頼ってばかりだったらきっとこれからも麻薬中毒みたいに頼り切って一人で出来なくなる。そんな関係シュウもイヤでしょ……」

「……そっか……そこまでお前考えてたんだな……お前がそこまで自立できてんだから
オレもしないとな……じゃないと今の関係なんかできっこないからな……」

「分かってくれてありがとうでもシュウ…………無理だけはして欲しくない
強制なんてそれこそ恋愛でもなんでもない。ただの押し付け合いだから……」

「ああ、そりゃあ分かってる。今後しばらく時間取れないだろうけど、終わったらゆっくり話そう
今度は二人ちゃんとでな……」

「うん……」





Next⇒






今回の話は小さな主砲では取り上げられなかった法子の決心、その想いが中心と見て解釈(勝手に)しております。
その前では修平との甘い一時もあり、らしさも出てますね。
壁紙の指定がなかったのですが、文中に天使の羽が出ていたので安易に(苦笑
編集している段階ではまだ次話を読んでいないので個人的にも言わばラス前の話は楽しみだったりします。
きっとAYAさんのことなので、面白い展開を用意していることでしょう><b
と勝手に持ち上げておきます(笑

                                                サス





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