やる気、根性、懸命、そんな言葉大嫌いだ。所詮プロなんてセンスがあるやつがトップになれる。
 練習を繰り返しやろうと努力しようと凡人は落ちゆく運命にある。
 頑張って認められなかったとき、どんなに惨めになるか知っていたから。あんな姿をさらすくらいなら辞めちまった方が良い。 だから俺は逃げることを覚えた。
 でも俺の目の前にアイツが現れなければ今頃俺はどんな人生を送っていたんだろうな?



〜IF〜



「おーい、水木」

ベンチに座り休んでいるところで同期のヤツに話しかけられる。
 今は春キャンプ中。だが、金のないこのドリルモグラーズは設備はおろかコーチ陣も必要最低限しかいない。
 誰かこの球団の自主トレと春キャンプの違いが分かるなら教えてほしいものだ。  そんなわけで、軽く動いた後はベンチで一休みしているわけだ。
 こういうところは他の球団に比べて楽で良い。話しかけてきたやつも当たり前のように俺の隣に座った。どうやらコイツも休みにきたらしい。

「おい聞いたか? 今年の新人二人だけだってよ」

「いつものことだろ」

 こんな球団に指名されて入るヤツは実力がなく、この先プロになれそうにないやつか気楽に怠けれる不真面目なやつくらいだ。
 ちなみに俺は後者の理由で入団したけどな。
 そんなわけで、この球団に入ってくるヤツなんてろくなのがいないってことだ。

「あ、そういや良い店見つけたんだ。飲みいかね?」

 別にこれといって興味もなかったのか、俺がテキトーに返したせいかすぐ話題を切り替えた。
 しかし酒好きの俺としてはこの上ない話だった。結局、夜飲みに行く段取りを話して午前の練習を終えた。



 昼食はいつも球団経営の食堂に行っている。選手なら大抵はここに来る。理由は簡単だ、金がないからに尽きる。それにここには可愛い(俺が言ったわけじゃない)と評判のやつが働いている。まぁ実は二軍監督の野々村の娘ってこともあり誰も手は出せてないけどな。そんな勇気のあるやつがいたら見てみたいもんだ。
 とりあえず、いつも頼んでいるものを飽きもせず頼み新聞を広げた。別に気にしないのだが野球情報を見てしまうのは職業のせいかも知れない。毎日のように新聞に載るようないわゆるスター選手の類の話が中心で、そんな選手がいないモグラーズはまるで書かれていない。新人の情報もないあたり、大して有名でもないんだろう。
 一通り流し読みをしていたら鈴の音が聞こえてきた。入り口のドアについている人が入ってきたと言うのを分かりやすくするためにつけているらしい。
 そして食堂に見慣れない二人が入ってきた。この二人が聞いていた物好きな新人だろう。顔がパッとしない方はメニューをみて驚いてみたり、呆れてみたりしている。
 メガネをかけた方はこの食堂が球団系列だから同様に経営苦しいことを説明していた、意外にこの球団について詳しいみたいだ。中々面白そうなやつらだ、上手くやって俺のパシリにするのもアリかな。そう思いつつヤツらに近づいた。

「おいお前ら、今年入ったヤツらだな」

「あ、はい水木先輩、よろしくお願いします」

 球団の経営状態すら知らなかった男が俺の名前を言ったのには少々驚いた。とりあえず俺は純粋に聞きたいことを聞いてみることにした。

「しかし何でこの球団に入ったんだ?」

「えっ?」

「優勝は当たり前としてAクラスも夢のまた夢。開幕戦ですらテレビに映らないというのに」

俺にしては言葉を選んだ方だ。だってこの球団がAクラスどころか最下位脱出すら難しいだろう。

「それは俺が活躍してモグラーズを優勝させますよ」

「あー無理無理」

 その後の言葉は続かなかった。理由は後頭部に衝撃が来たからだ。犯人は例の野々村監督の娘の愛だった。俺を無視して自己紹介をしている、失礼なやつらだ。
 しかし、コイツは意外に大物かもしれない。監督の一人娘と知ってか知らずか、いきなりナンパをし始めた。……ま、ただのバカなだけかも知れないがな。





−☆−☆−☆−☆−☆





 アイツが入団してから一年がたった。毎日飽きもせず練習しているアイツに触発されてかは知らんが今までで一番練習をし試合に出た。それでも俺は二軍のまま、一度も一軍に上がることなくシーズンを終えた。正直、もうやってらんないと思う。第一にして球団オーナーがろくに野球なんて知らずに球団なんて持ち、そのくせ現場にあれこれ指示を出す。今年は年俸削減のため二軍を半分にするという暴挙に出た。今年に限って言えば俺はそれなりに二軍で活躍したし残れはしたが、現状に嫌気がさしてきている。
 どんなに頑張ってやっても所詮はやっぱアマの時有名で騒がれたやつが一軍で試合に出ることが出来る。俺みたいなやつが一軍の試合に出ることすら出来ないってことだよ。
 もう止める気持ちで荷物をまとめていると玄関からコンコンとノックする音が聞こえてきた。荷物まとめに忙しいから入るように促すと、例によってアイツが入ってきた。去年は暇さえあれば俺の部屋に限らず、寮に住んでいる人の部屋に来ていた。一時期、動物好きで知られる畑山さんの部屋でサソリに刺され入院する羽目になったのを聞き爆笑したのが記憶に新しい。
 凡田と二人で見舞い品を持っててやったりした。良くできた先輩だと思わないか? ま、しっかり笑って元はとったけどな。
 しかしまだ年が明けて間もないと言うのにその畑山さんの部屋で殺人クワガタとやらを退治したり古沢さんの結婚取りやめに車走らせたりと忙しいヤツだ。まぁその運気のなさに免じてもう使わない野球道具をプレゼントしてやろう。

「ほらバットだ。くれてやる」

「えっ? もらえるんですか?」

「ほらグラブもスパイクもユニフォームもくれてやる」

「えっ? ちょっとちょっとどうしたんですか!?」

「どうしたもこうしたもねー! 毎日毎日練習練習、それでずっと二軍だと!くだらねぇ!もう野球なんてやめてやる!」

  呆気にとられたような顔で俺を見てくる。最後に先輩らしくコイツのために忠告しておくことにした。

「お前も人生無駄にしたくなかったら野球なんてやめた方が良いぞ」

 そう言うと急に目つきを変え歯向かってきた。

「俺は辞めませんよ。そのうち一軍に上がって……」

「一軍だぁ!? 俺よりセンスねぇくせに偉そうなこと言ってんじゃねぇぞ」

「そんなのやってみなきゃ分からないじゃないですか!」

「よーし、なら勝負するか?グラウンドに出ろ」

「望むところです」

 グラウンドと言っても季節は冬。当然、雪があって外でやるのは無理。しかもこの極貧球団の室内練習場なんてたかが知れている。それに互いに野手、この二遊間程度の狭さで出来ることなんて数少なく互いにノックしあって捕球数が多い方が勝ちと言う勝負になった。
 先攻は俺。普段俺は外野手だがアイツに合わせて内野ノック対決になった。元々俺は内野手だし、軽いハンデのつもりだった。まぁ先ほどの言った通り、狭い室内球場、外野ノックなんて出来るはずもなく、ハンデ云々よりそれしか出来なかったわけだが。

「よーし行きますよ」

 室内練習場に乾いた金属音が鳴り響く。俺はアイツの打った球を難なく捕球していった。今は自主トレの期間、しかも折り返しの時期だ。並のプロ野球選手の十分の一程度かも知れないが、一応体は作っていたおかけで思い通り体は動いてくれて、結果は五十球中四十四球だった。

「よし、次はお前の番だ!」

「四十五球以上捕れば良いんですね」

「そうだ。行くぞ」

休む間もなくバットを片手に一心不乱にボールを打ちまくった。どんなに厳しいコースに打っても食らいついてくるアイツに対し俺もムキになっていた。野球を辞めるとか辞めないとかそんなバカな話じゃなく純粋に負けたくないというこれ以上ないバカげた気持ちだった。
あっと言う間に五十球打ち終わり結果は四十八球。

「お、俺が負けただと」

「へへっ。どうですか」

 得意げにしている目の前の男を見てると今まで熱くなっていたのがスッと冷めた。ただ勝負に負けたことには変わりなく、負けず嫌いの俺はさすがにこのまま認めるのもしゃくで、冷静に言い訳をすることにした。

「……今のはナシだ」

「は?」

「考えてみたら俺は調子が悪かったんだ」

 もちろん嘘で、オフシーズンにしてはかなり動いた方だ。

「そんな卑怯ですよ!」

「えーい、うるさい!くやしかったらオレより先に一軍いってみろ!」

 俺の言葉に目を見開いて驚き、すぐコイツ特有のニヤケ顔になった。この何か企んでるとも言えるこの顔は見ているだけで腹が立つ。

「野球辞めるんじゃなかったんですか?」

「今日の俺は調子が悪くてうわごとを言っていたんだ。バットもグラブもやらないからな」

「ちぇ……」

 普通に悔しそうにしてたが、俺が野球辞めないってことに関しては良かったらしく、もう二度と勢いで辞めるとか言わないことを釘刺された。
 そう、この時俺は言い訳しながらも勝負には負けたってことでアイツの言葉を受け止め、野球を続けた。でももし、俺が勝っていて勢いのまま野球を辞めていたら、俺は今頃何をしてたんだろう?
 きっとコンビニとかでバイトして、暇を持て余してることだと思う。間違いなく俺の人生の分岐点がこの瞬間だっと言える。唯一納得出来ない点は間違いを正してくれたヤツが憎たらしい後輩ってことだがな。





−☆−☆−☆−☆−☆





 去年、二軍が半分になるという暴挙に出たクソオーナーが今度は二軍をなくすと言い出した。
 冬の一件でやる気になった俺はアイツと共に二軍ながらモグラーズの主力打者として活躍した。元々実力者揃いのモグラーズの二軍選手。リーダー的存在の古沢さん、俊足の畑山さん、いぶし銀の倉刈さん、今年入団したドミオ、先発の一角の凡田と役者は揃ってる。春先から無計画に飛ばしたため、後半はガタが来て優勝は逃したが、これまでの最高となる二位でシーズンを終えた。俺は二軍ながら首位打者を獲得し、余裕で来期一軍として生き残った。上記のメンバーも結果を残し全員一軍にとして生き残りを果たした。
 だが、いくら結果が出たとは言えほぼ二軍暮らしだったヤツらが一軍昇格。当然、裏があるに決まっていた。



 年が明け、オレは初の一軍でのキャンプとなった。と言っても二軍がないから当たり前の話だが。監督やスタッフまでも一新し、去年まで二軍監督だった野々村が一軍監督に、また磯田もコーチとしてそれぞれ昇格した。残ったコーチと言えば、槌田くらいだ。オーナーの側近の曽根村と言うヤツの意向で残ったらしい。何を企んでいるやら……噂では親会社であるドリル・コーポレーションを乗っ取ろうとしてるとか何とか。まぁどうでも良いけど。

「あ、野々村監督。一軍監督就任おめでとうございます」

「何がめでたいか!このバカモノが!」

 春キャンプはこの監督の一声で幕を開けた。

「私が監督になったのは年俸の高い前の人が首になったからだ。私の能力なんてこれっぽっちも評価されてないんだ」

 どうやら野々村は今回の昇進がどういう意味を持っているか、分かっていた。そして野々村が言ったことに対しオレも同じ気持ちだった。

「オレもそうですよ。どうせなら実力で一軍に上がりたかったな」

 あの冬の一件以来、完全に火がついてしまった。そうなれば誰にも止められない……オレはアイツなみの野球バカになりつつ……いや戻りつつあった。

「でも一軍でやんすよ? それなりに年俸良いし、もしかしたらテレビに移るかも知れないでやんす」

「だけどよ、俺らが目指してきたのとは違うんじゃないか?」

 凡田が言いたいことも分からなくもない。現に昔のオレならそういう考え方をしていただろうから。でもオレが言いたいことは何も実力で一軍に行きたかったというわけじゃない。俺ら二軍選手がなぜほぼ全員一軍に上がったのか?  この疑問の答えはおそらく……

「でも来年、この球団あるんですかね?」

 倉刈さんが不安そうな口調で話した。全員、その言葉に否定できず気まずい雰囲気が流れた。

「確かにモグラーズは今年解散の噂があるからな」

 磯田の言うとおり、メディアがモグラーズの話を取り上げる時は大抵この話だ。一昨年に二軍半分を解雇、昨年には二軍をなくすとすれば今年解散はかなり妥当な考え方だ。
 現に一軍は去年までの二軍。二軍を無くしたと言うより年俸が高い一軍を無くしたと言った方が的確だ。このチーム状況にあって、チームが無くなると思わない方がどうかしてるかもしれない。
 そしてそれを一番理解しているのが、俺たち選手ってわけだ。
 こんなどんよりとした空気の中、一人の男が声を上げた。

「監督、優勝しましょう!」

 な、何を言い出すかと思ったらとんでもないことを言い出した。野々村はもちろん、凡田を初めとした選手たちも驚いていた。

「俺たちは人生を野球にかけてきた。こんな流された状況で許されるわけじゃない」

 コイツはコイツなりに思うことはあるかも知れない。それに今のモグラーズにはコイツのようなムードメーカーは必要不可欠だ。それは去年二軍ながら万年最下位のモグラーズを二位まで順位を上げたという実績もある。たった二年でコイツはモグラーズにいなくてはいけない人物になってしまっていた。

「まぁ確かに優勝すればモグラーズがなくなるってこともないかも知れないな」

 最年長の古沢さんがとんでもないことを言ったヤツをフォローした。言ってることは最もだが、現実味はまるでない。

「無理でやんす。オイラたちは二軍に毛が生えた程度の選手たちでやんすよ」

 凡田の言うとおり、俺らは二軍でさえ優勝できなかった。そんなやつらが一線級のプロ相手に戦えるはずがない。だがオレの心は去年の今頃から決まっていた。あの男につけられた野球バカっていう炎は自らは消すことが出来ないんだ。

「オレはやるぞ。練習量三倍にして優勝して契約更改の時、あのバカオーナーを土下座させてやる」

 不真面目で通ってきたオレだが去年の成績と練習態度が変わったことで現場の評価も高くなっている。今のオレがこう言っても誰も驚かない。と思ったんだが、意外とみんな唖然としていた。……失礼なやつらだ。
 しかし凡田はオレの言葉にやる気を出したらしい。元々は最もアイツの傍にいたのが凡田だ。オレに火がついてて、凡田についてないわけがない。

「おぉ、それは確かに面白そうでやんす。オイラも中三日のローテーションでOKでやんす」

 おいおい、それは無理だろ……なんて普通は思い、また口にするだろう。だが、今このモグラーズにそんなことを口にするのは愚か、思うヤツはきっといないだろう。もう「出来る、出来ない」の問題じゃない。「やるしかない」んだよ、俺たちはな。俺や凡田に釣られて他の選手もやる気になり、最後は野々村もやる気になった。恐ろしいくらい単純なヤツラだが、そこが一番良いところだと思う。

「よーし、やりましょう」

 アイツのかけ声でみんな声を上げ、そして一斉にランニングを始める。

「うわっ」

 悲鳴にもにた声を上げ先頭を走っていたアイツがいきなり転けた。見事なコケっぷりに俺らは笑うしかなかったが野々村が怒鳴った。

「こらぁ、幸先悪すぎるぞ!」

 まぁごもっとも。しかしアイツはめげずに立ち上がりニッコリ笑って一言。

「おっヘッドスライディングってこうすれば良いのか」

 それから小一時間、ヘッドスライディングの練習をしていた。
 ……もう、意味分からん。



 春キャンプではいきなり転けたが、シーズン開幕してからはまったく危なげなく……と言うと激しく嘘にになるが要所要所ではしっかり勝ち星を増やし、開幕からAクラスを保っていた。
 初めて優勝圏内にいるってことでこんなにファンがいたのか、と言うくらい人がオンボロ球場に来たこともあった。
 シーズン中盤から終盤は明らかに選手層の薄さ、特に先発投手の頭数が極端に足りなかった。まさか凡田とかを本当に中三日で出さないとは言え、厳しいものがあった。それでも勝ち進めたのは俺ら野手陣、そしてアイツがもたらした勢いそのままに試合をしてこれたからだろう。
 勢いがあれは後はトントン拍子で、気づいてみれば優勝が決まっていた。それでも優勝祝賀会やビールかけはかなり盛り上がり、俺自身かなりテンションが高くなったのが記憶にある。結構欠如してたりするが……
 そして初の日本シリーズでも、最終戦までもつれ込みながらも最後は勝利を納めた。口に出せば呆気ないが、それは最高で最も興奮した瞬間だった。

 ここで主力選手たちのことも軽く触れておこうか。

 畑山さんは一番として初の三割を記録。ベストナイン、そして盗塁王にも輝いた。
 (打率.302 本塁打8 打点51 盗塁57個)

 倉刈さんはいろんな打順、守備位置を難なくこなしながらシーズン最多犠打を記録した。
 (打率.286 本塁打11 打点58 犠打37個)

 古沢さんは正捕手としてチームをまとめ、最高出塁率を誇りベストナイン、ゴールデングラブと名実共にリーグ一の捕手となった。
 (打率.335 本塁打26 打点93 出塁率.419)

 ドミオは四番としてチームトップの本塁打を記録し、ベストナインとゴールデングラブも獲得した。
 (打率.286 本塁打35 打点108)

 凡田は先発の柱として、そしてリリーフとして前代未聞の二桁勝利に二桁セーブ、そして二桁本塁打を記録。日本シリーズでは先発二回、リリーフ二回の登板で全て勝利試合ってこともありシリーズMVPに輝いた。
 (防御率2.86 14勝8敗10セーブ 打率.374 本塁打11 打点30)

 アイツはムードメーカーとして、数字にすれば最もチームに貢献したかどうか分かる打点王を獲得。ベストナイン、ゴールデングラブそしてシーズンMVPにも選ばれた。
 (打率.311 本塁打31 打点118)

 そして俺も今度は一軍で首位打者を獲得し、ベストナインとゴールデングラブにも選ばれた。
 (打率.351 本塁打20 打点84 盗塁32)
 
 つまりほとんどの打撃タイトルはモグラーズの選手でとったことになる。ま、逆に言えばこのぐらいの成績収めなきゃ投手陣のフォローは出来なかっただろうな。
 しかし、そう良いことばかりなわけがない。日本シリーズ後、喜んでるつかの間にモグラーズの解散が発表された。まぐれだろうと奇跡だろうと実質日本一となったチーム、選手はもちろんファンも黙って納得するわけがなかった。解散が発表されてから数日後、プロペラ会社とか言う意味不明なところが株を半分以上買ったためそちらに株主の権利が移った。故に球団存続の決定権はその会社のオーナーとなる。モグラーズの明日は……





−☆−☆−☆−☆−☆





 あの時、たった一度の勝負が俺の人生を変えた。勝負内容も端から見れば大したことないかもしれない。でもあの時、アイツが部屋を訪れなかったら?
 俺が勝負に勝っていたら?
 いや、止めておこう。野球にたらればはないんだから。
 何にせよ俺は最後まで野球人として現役を全うした。
 モグラーズもあの後プロペラモグラーズに代わり、意味分からんフロントの指示で調子を落としたが、大神モグラーズに名称を変えアイツに似た雰囲気を持つヤツがまた負け癖のついたモグラーズを変えた。
 俺が現役のとき日本一を二度経験した。その両方で首位打者を獲得し、惜しまれながら引退出来た。しかしその両方とも独特の雰囲気を持つヤツに助けられた。情けない話ではあるが、俺自身チームを引っ張ることが出来ず、そういうヤツがチームを引っ張ってくれなきゃ俺も乗れないらしい。
 大神モグラーズとして二度目の日本一になって以来、昔のモグラーズみたいな負け癖は無くなっていた。それなりに野球が出来るチームになっていた。
 ただ現オーナーの意向で名称が大神ホッパーズとなってしまった。モグラーズに親しみを持つファンが不満を洩らしていたが、まぁ結局その名前になった。俺は大神モグラーズの時に引退をしたわけだが……
 でも今、俺は三度目の日本一を経験できるんじゃないかと密かに期待してる。
 その理由はもちろん独特の雰囲気を持つ三代目がチームにいるからだ。
 引退した俺がなぜそんなこと分かるかって?
 それは……

「水木コーチ、ノックお願いします!」

「よーし、良い覚悟だ。ぶっ倒れて後悔するなよ」

 ……ま、そういうことさ。




〜Fin〜










inserted by FC2 system