これは別になんてことない普通の日常の一コマだ。


−何気ない日常〜何事も度が過ぎれば〜−


 父親が今日、付き合いで夜遅くなるから子どもたちだけで夕飯を食べるところだ。
 と言っても父親がいようがいまいが、母親が不在のため元々当番制の漣家。
 しかも家事が出来ない父親がいても邪魔なだけなので、いつもより楽だったりする。
 今日は次男、白夜が当番のため長男、連夜と長女、光はテレビを見ていた。

「ビャク〜、まだか〜」

 台所でせっせと準備をする弟に向かっていらぬ一言を発する。
 弟からの返事はボウルが飛んできたことから察することができるだろう。
 しかし夕飯の準備をしているといっても白夜はまだ小六。
 そこでもう夕飯を作るのは問題なくなっているというのは、いかに家族に問題があるか分かるだろう。
 白夜も光も好きで上手くなったわけではなく、上手くならなきゃ一家全滅となりえるから努力した。
 連夜も一応は努力したのだが、センス的には父親の血を継いだらしく、弟妹からすればやらないで欲しい側に分類される。
 つまり、父と兄が酷い分、とばっちりを食らったように下が頑張らなきゃいけないことになる。

「ったく……最近、物を使うようになったな……」

 頭をさすりながらボウルをテーブルに置く。
 普段から余計な一言を言って実力行使を食らってる連夜。兄としての威厳はどうやらないらしい。

「どっちもどっちだよ……」

 二人のやり取りに妹は呆れるしかなかった。

「だって腹減ったじゃん」
「今日の買い物はお父さんの予定だったから……」
「ったくあのバカ親父め」

 要約すると付き合いで飲みに出かけた父親が買い物してくる役目だったのだが、それを知ってか知らずかやらずに出かけた。
 そして白夜が作ろうと冷蔵庫を空けたら、材料がなく買い物に走ったため作るのが遅れた。
 そのために、いつもより一時間も遅くなっており、腹時計が正常の連夜がイラついている状況だ。
 しかし弟が料理を作り、イラついている兄を宥める妹……
 連夜が兄と言える部分は年齢だけなのかも知れない。

「ほらよ。運ぶのぐらい手伝ってくれ」

 台所からのヘルプの声に光がすぐに立ち上がるも、連夜はリモコン片手にチャンネルを変えている始末。
 両手に料理を運んできた白夜の右足が連夜の背中を捉えた。

「ぐはっ!」
「手伝えって言ってんだよ」

 テーブルに料理を並べながら、兄の背中に向かって言い放つ。

「兄を蹴るな、兄を」
「兄と思われるようなこと一度としてやったか?」
「それは禁句だぞ」

 どうやら兄も自覚はあるらしい。
 しかし止めないのは一種のコミュニケーションだと思っているからだ。
 ただ、弟は本気なので割に合ってないことには早く気づくべきだろう。
 結局、連夜は動かず白夜と光とで料理を運び、夕飯となった。

「白夜も段々上手になってきたよね」

 今晩の献立はカレーで、一口食べてから漣家の料理長、光が感心した。

「そりゃ、やってればねぇ……」

 ほとほと呆れるように自分の作った料理を見る。
 確かに自分でも上手くはなってきたな、と思うが好きでやっているわけでもないのが複雑なところのようだ。

「さすがだな、ビャク」

 しかしそれを連夜に言われるのは腹が立つらしく、手元にあった手拭きを顔目掛けて投げる。
 さきほどテーブルを拭くのにも使用したため、濡れている手拭きが見事に顔面に直撃した。

「てめっ……濡れてるじゃねぇか」
「渇いてたらそこまで飛ばないわ」

 興味ないように自らが作った料理を口に運ぶ。
 コミュニケーションがとれず、ハァとため息をつき、同じように夕飯を食べることに集中することにした。
 集中するといっても沈黙するわけではない。
 すぐさま、違う話題が飛ぶ。
 
「この人、最近良く見るよね」

 光がスプーンを片手にテレビを見ながら、兄弟に話しかけた。
 その言葉に二人とも似たように食べる動作を止め、テレビを見る。
 そこにはアイドル歌手が歌っている姿が映し出されていた。
 どうやら知らない間に光が歌番組にチャンネルを変えていたらしい。

「最近売り出し中だからな」
「え、そうなん?」

 白夜が光の言葉を肯定するも連夜が否定……というか知らないようだ。
 そんな連夜に白夜が呆れていた。

「レン兄は歌番組見ねぇからな……」
「歌番組というよりあんまりテレビ見ないよね」
「そんなん見てるより、宿題終わらせた方が効率が良いからな」

 弟妹の言い分に対し学生の鏡のような発言をするが、その心は授業中寝ることにある。
 ようは宿題さえやってればその日の授業内容は理解でき、テストで苦労することもないというのが連夜の考えだ。
 最もそのテストも目立つのが嫌だからってことでいつも平均点しか取らなかったりする。
 友人たちからすれば、そんな連夜が勉強面に置いてだけは腹が立つらしい。

「で、ビャクはこういうのが好みなん?」
「いや。俺はもっと大人っぽい人がいい」

 お決まりともいえる会話に発展するが、兄の質問に白夜はそう言い切った。
 言うても白夜はまだ小学生。そのアイドル歌手は未成年とはいえ年齢でいったら大分年上なのだが、不満らしい。
 まぁ、小さい頃は先生に初恋をする子も多いし憧れという部分が強いのだろう。

「ふぅん……年上キラーか」
「あのな……」

 連夜の解釈に微妙な表情を浮かべる。
 流石にそう言われると複雑らしい。
 そしてなお、テレビを見続ける連夜に今度は光が質問した。

「お兄ちゃん、こういう人が好みなの?」

 その光の質問に連夜は手に持っていたカレーとスプーンを置き、両手を広げ首を左右に振った。

「バカだな。光以上にカワイイ人なんていねぇよ」

 真顔でそんなことを言う連夜にさすがの光もひきつった笑顔を見せる。
 そんな二人を尻目に白夜は一人、夕飯を食べ終え台所に行き自分の分の後始末を始めていた。

「アホか」

 そう一人呟きながら……




F i n



−あとがき− 以前、羽根ヶ永久さんにデフォルメ、連夜と光を描いてもらった時に一緒に書いたものです。 眠らせておくのも勿体なかったのでこの度、公開してみました(笑 短い、一コマですが微笑んでもらえると嬉しいです^^; では読んでくださった方、ありがとうございました!


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