ねぇ……本当に好きなの? その言葉すら聞けないまま、ズルズルとした私たちの関係。 もうこんなの耐えられない…… だから最後に聞かせて…… あなたの本当の気持ちを…… −言葉で伝えて− 彼、漣辰夜(さざなみたつや)は大学の2個上の先輩でとてもカッコイイ人だ。 細身で長い手足は人の目を惹く。事実モデルとして何度もスカウトを受けているぐらいだ。 髪は肩につくぐらいで男の人からすればやや長髪、そして茶髪かかった綺麗なストレート。 髪をかきあげる姿は思わずため息をついてしまうほど絵になっている。 そんな彼に声をかける女性は数知れず……ファンクラブまで存在するほどの人気がある。 一方、私、村山杏里はどこにでもいるような普通の一般人だ。 強いて取り柄を挙げるなら辰夜に褒めてもらった腰まである黒髪のストレート。 初めて会ったときに綺麗だと言ってもらって以来、ずっとケアをかかしていない。 そんな私だけど辰夜と付き合っている……と周りは言ってくる。 現にそうなのか私には分からない。 私と辰夜の出会いは大学してすぐのことだった。 私の友達に辰夜の友達が一目惚れしたらしく、告白してきたのがキッカケ。 それからWデートの形で辰夜と一緒に行動することが多くなった。 だから周りは誤解しているだけ。 私たちは一度も「好き」とも「付き合って」とも言っていない。 それでも2人きりで出かけたり、クリスマスや誕生日といったイベントも2人で過ごしてきた。 まるで付き合っているフリをしているような感じで…… でも私の気持ちは辰夜に惹かれていく一方だった。 だから余計胸が苦しくなる…… 一体、どうすれば楽になれるのかな? 「あんたねぇ、素直に言っちゃえばいいじゃない」 そう言い放ったのは私の高校時代からの親友、坂崎智恵だった。 辰夜と出会うキッカケになった告白されたのが彼女だ。 「てっきりもう付き合ってるもんだと思ってたわよ」 不安になった私は思いの丈を智恵に話してみた。 結果がこの有様……酷い言われようだった。 「杏里、あなた性格の割には恋愛は奥手よね……辰夜さんはあなたしか見てないって」 「どうしてそんなこと言えるの? 辰夜からは一度も好きって言われたこともキスしてくれたこともないのよ? きっと良い友達としか見てないんだわ」 「杏里……」 そんな時、辰夜が学食に入ってきた。 その横には綺麗な女性がいた。その女性はミスキャンパスにも選ばれ、私でも知っている人だった。 辰夜は凄いモテている。それはファンクラブの存在が証明してくれるだろう。 それでも色恋沙汰がなかったのは私の存在があったせい。 そのせいで一度、暴行を受けたことがあったけどそのとき助けてくれたのが辰夜だった。 そういうこともあって周囲は私と辰夜が付き合ってると思っているらしい…… 現実は友達以上恋人未満……ううん、ただの友達の可能性だってあるのにね…… 「ねぇ、うどん伸びるわよ?」 考え事をしていた私に智恵が呆れてるような目で私を見てくる。 言葉にせずとも智恵が「またくだらないこと考えて」といってるのが痛いほど伝わってくる。 「そんなにイヤならやっぱりハッキリ言ってみたほうがいいわよ?」 「うん……そうかな?」 「杏里なら問題ないと思うよ。頑張って」 うどんを食べながら、これからどうしようか考えていた…… 正直……うどんの味は良く分からないまま気づいたら食べ終えていた。 全ての講義を終え、私は出入り口で辰夜を待っていた。 相変わらず私の頭の中を渦巻いているのは辰夜との微妙な関係をどうするか…… やっぱり打破したい気持ちもあるし、今のままですら壊したくない自分がいる。 一体どうすればいいのか……自分で自分が分からない…… 「よっ、どうした杏里」 「辰夜……お疲れ様」 「なんか元気ないな。調子でも悪いのか?」 「ううん、大丈夫よ」 「そう? ならいいけど」 そう言って視線を逸らす辰夜。辰夜は私のこと真っ直ぐに見てくれることが少ない。 そんな些細なことですら、不安になってしまう。 やっぱり私に興味がないのかなっと…… 「ねぇ辰夜……私のこと好き?」 そして聞いていしまった。今まで触れずにいたことを…… 「ど、どうしたんだよ、急に」 辰夜は明らかに戸惑っていた。 でも聞いてしまった以上、ハッキリさせないと余計辛いから…… 「ねぇ、私たち付き合ってるの? 辰夜は私のこと好きなの?」 「なんだよ急に……」 「急じゃ困るの?」 「そりゃ困るよ。何て言っていいか……」 「……もういい。辰夜のバカ!」 私は気づけば思いっきり叫んでいた。 周りの人が一斉に私たちを見た気がするけど、そんなのお構いなしに私は辰夜の前から早くいなくなりたい一心で駆け出した。 「ちょ、ちょっと待てよ!」 辰夜の制止がかかったけど無視して私はその場から離れた。 悔しくて悲しくて走ってる途中で涙が出てきた。 これで辰夜との関係も終わりだと思うと涙が止まらなかった。 「辰夜のバカ……私のバカ……」 泣き顔で家に帰るわけにもいかず、公園のベンチに座って心を落ち着かせようとした。 ハンカチで涙を拭くが、溢れ出てくるのが止まらずハンカチはすでに濡れすぎて絞れるぐらいになってしまっている。 「辰夜のバカ……何で私、好きになっちゃったんだろう」 「その言葉、もっと早く行って欲しかったな」 「た、辰夜!?」 私は驚いてベンチから立ってしまった。 目の前には確かに辰夜が立っていた。しかも少し怒ってるような表情で。 私は涙顔を見られたくなくてハンカチで目元を抑え、顔を伏せた。 「急に走り去るなんて酷いな。俺の言い分も聞いてくれよ」 「聞く必要なんてないわよ。パッと答えられないってことは気持ちがないってことでしょ!?」 「違うよ。好きじゃないならパッと答えられるけど、そうじゃないから戸惑ったんだよ」 「…………え?」 私は耳を疑い、思わず顔を上げた。 そこには照れくさそうに頭をかいている辰夜の姿があった。 「ずっと好きだったよ。好きって言いたかった。だけどそれを口にすると全て壊れそうで怖かったんだ」 「……辰夜も?」 「も……ってことは杏里もか」 「うん……」 「はぁ……もっと早くに勇気出していれば苦しまずに済んだのか」 大きなため息をついて、ベンチの隣に座る辰夜。 それに合わせて私もベンチに座った。 けどそれにしたって腑に落ちない点はいくつかある。 「だったら何で辰夜、私に興味ない雰囲気出すの?」 「出してないよ。強いて言うなら求めすぎておかしくなっちゃいそうだったから、かな」 「何それ……?」 「こういうことだよ」 そういって辰夜は唇を重ねてきた。 驚いたけど目を閉じてすんなりと受け入れている自分がいた。 そんな長い時間ではなかったけど、私には凄く長く感じられた。 どちらともなく離れ、私はふと正気に戻り頬を赤める。 「た、辰夜!?」 「なに?」 私は驚いて辰夜の顔を見る。でも私だけじゃなく辰夜も少し頬を赤らめていた。 自分からやっといてと思うと私は可笑しくなかった。 我慢できずクスっと笑うと辰夜は目を細め、明らかに怒った様子になった。 「なに?」 「ううん、ゴメン、ごめっ――」 謝ってるとまた唇を塞がれた。辰夜は卑怯だ。 でもそんな辰夜からのキスに私は酔っていた。 経験が少ないからかもしれないけど、辰夜はキスは上手いと思う。経験が違う……そう思うとテンションが下がってしまった。 それを察したのか辰夜はそっと私から離れる。 「今、つまらないこと考えたでしょ?」 「え!?」 「分かるよ、杏里のことだったらね」 ふぅと一息はいて辰夜は立ち上がった。 そしてまるで私に顔を見せたくないかのように空を見上げた。 「ファーストキスだよ」 「……え?」 「二度も言わせないでよ」 耳を疑った。あれだけモテてる辰夜がファーストキス? 高校時代からまったく経験がなかったというの? 「うそ……」 「ほんと。杏里は?」 「一度だけ……」 高校時代に付き合っていた人としたことがある。 それを聞いた辰夜は振り向き、また目を細めた。 「杏里の方が経験あるじゃん」 それは茶化すような言い方だった。 「もう! 一度だけだから大して変わらないよ」 「開き直ったな。じゃあそいつのこと思い出せないくらい俺で埋めてやるよ」 「その前に言葉で伝えて」 「え?」 「好きよ……辰夜」 「俺も……好きだよ、杏里」 それから数十分、公園のベンチで辰夜と何度も唇を重ね合わせてた。 そのときはキスに酔っていたから気づかなかったけど、思えば人通りの少ない公園でよかったなっというのが終わってからふと思ったことだった。 翌日、私は一番に智恵に昨日の辰夜とのこと報告した。 その智恵の反応は…… 「ふ〜ん、それで上手くいったわけだ」 どこか面白くなさそうだった。 なんでよ…… 「何が不満なの?」 「あんなに悩んでいたわりにはあっさりだなーっと思って」 「いいじゃない」 「はいはい、幸せそうな顔しないで」 だからなんでよ……いいじゃない、上手くいったんだから。 そう思っていると後ろから急に首に手がまわってきた。 「あ〜んり、おはよ」 「辰夜、おはよ」 驚いたけど、すぐに辰夜と分かり笑顔で返す。 その間、智恵が大きなため息をついてきたけどこの際無視することにする。 「これ」 そういって何やらチケットのようなもの2枚、私に差し出す。 私は小首を傾げ、なにこれと言いながら受け取る。 そこには巨人×阪神と書かれた観戦チケットだった。 「え、え、え!? どうしたのこれ!?」 何を隠そう、私は大の野球好き。ついでに言うと好きなチームは阪神。 私は東京の大学に籍を置いているため当然東京暮らし。 中々阪神戦を狙ってチケットが取れないでいた。だからここ数年、生観戦をしていない。 だけど目の前にはその観戦チケットがある。しかも相手は巨人というサプライズつきだ。 「杏里、野球好きだろ? うちの親父も好きで前からとってたんだけど仕事が入ってね。今夜なんだけど良かったらいかない?」 「もちろんいく!」 と答えたものの思えば辰夜が野球好きというのは聞いたことがない。 「辰夜って野球好きだっけ?」 「いやそこまででもない。親父が熱烈な阪神ファンだから一緒に見せられてたからルールとかは分かるけど」 「私に付き合う形になるってこと? それでもいいの?」 「いいよ。杏里の笑顔が見れるならね」 照れるような言葉を言ってくれる辰夜。 それに私は満面の笑みで答えた。 「笑顔になるかは阪神次第だけどね」 辰夜のためにもそしてせっかくの生観戦だから今日だけ勝って欲しいと思い、早く講義が終わるのが待ち遠しくなった私がいた。 チケットを一枚バッグにしまって、もう一枚を辰夜に返す。 その時、目が合って私は自然とこの言葉を口にしていた。 「好きよ、辰夜」 「俺も好きだよ、杏里」 それに対して、綺麗な瞳で真っ直ぐに見つめなおして来てくれた。 それから私たちは周りの人関係なく見つめ合った。 永遠にそのまま時が過ぎそうだったところを、現実に戻したのは智恵の一言だった。 「あなたたち、講義始まるわよ」 私たちはハッとしてお互いに赤くなった。 それを見て智恵はまた大きなため息をついた。 私は辰夜の好きって言葉で安心できる。 長い手でやさしく強く抱きしめてくれる辰夜が好き。 テレながらキスしてくれる辰夜が好き。 真っ直ぐに瞳を見て好きって言ってくれる辰夜が好き。 そんな想いを口にするには長すぎるから…… 私は一言、あなたに伝えるわ。 何度でも何度でも…… 大好き 〜Fin〜
−あとがき− 今回はヒトナツの絆、主人公の漣初夜の両親のちょっとした一コマを書いてみました。 連夜を基準に見れば初夜はお爺ちゃん、辰夜は曾お爺ちゃんの年代ですか…… 随分遡りますね(笑 まぁそう簡単な関係じゃないのがうちの作品なんですが…… この小説はほぼ勢いだけで書いたので前後の話とか無視してます(マテ それでも楽しめて頂けたら嬉しいなっと思います。 では読んでくださった方、ありがとうございました!