「もし一つだけ願いが叶うのなら、私は過去に行って愚かな自分を殺しますよ」

 あの時、私が考えなければ今世界を脅かしている事件は起きなかった。
 たった一人の師を自らの手で殺めてしまった。その報いを違う方向へ向けてしまった愚かな自分を。
 いくら後悔しても、いくら悔やんでも、もう戻しようのないのが過去と言うもの。
 罪というものは償えるものではない。その罪に対し罰を食らい、そしてそ罪を一生背負って生きていかなくてはならない。
 だからもし、願いが一つだけ叶うという非現実的なことが起こり得るなら私は一番にこれを望むことでしょう。





Tales of the abyss Side Story -Jade Curtiss-
『それはまるで自分のようで……』





「でもジェイドがいなかったら俺は今、いないわけだし。俺は感謝してるぜ」

 私があみだしてしまった罪、フォミクリー。そのフォミクリーで誕生したルーク・フォン・ファブレ。そのレプリカのあなたは私の言葉に対し、こう言いました。
 考え方の相違でしょうか。当の本人からすれば、そう思うのは道理でしょうが……
 いえ、そうではないですね。昔のあなたならいざ知らず、今のあなたが言うことは物事をしっかり考えることができ、心からそう思えるからでしょう。
 ルーク、あなたは本当に変わりました。昔のあなたは何も知らない世間知らずのおぼっちゃまでした。
 そんなあなたがアクゼリュスを崩落させてしまった。  自分で何も考えず、言われたとおりに行動し、自分の非を認めない。あなたは本当に救いようがありませんでした。
 でも自分の罪を認め、あなたは変わろうとしましたね。
 まぁ髪を切って変われるのなら誰も苦労しません。
 あの時は戦力が欲しかったとはいえ、またあなたと旅をすることになるとは思っていませんでした。 正直言うと、もうおぼっちゃまのお守りはゴメンでしたが、まぁ事が事でしたので仕方なかったとしましょう。
 けれども、あなたはめげずに立ち上がり、歩みを止めようとしませんでした。
 性格がここまで変わるなんて……いえ、変わることが出来るなんて驚きましたが旅を通じて成長したのだと思います。
 前よりすぐ卑屈になる場面も多く見られましたが、まぁそれはそれで困ったもんでした。人間、やはり一つは欠点があるものですね。

 いつ頃からでしょうか、私はあなたが成長し変わっていくのを見ていきたくなりました。
 明確にあげることはできませんが、カイツールからケセドニアへ住民を避難させるときに見たのですがあなたは寝ながら涙を流していたことがありました。
 アクゼリュスの一件を思い出しているのか、昼間に戦わなくていい兵士を切ってしまったからか……
 恐らく両方でしょう。それから意識して観察……失礼、見ていたのですがあなたは人を切ってしまった夜はいつも震えて泣いていました。寝ている時ですから無意識なのでしょう。
 それでもアクゼリュスの一件はあなたにとって大きな事だった。でも同時に命の尊さを学んだのではないでしょうか。
 私には理解できない、人の死をあなたは感じている。そう思ったとき、人は変われるのだと私は思いました。
 そんな変わっていくあなたに一つの山場がありましたね。

 それは瘴気を消す方法を議論しているときでした。あなたは超振動で瘴気を消せることを示唆しました。それから色々と意見が飛び交いましたが、やはりと言うべきか故意に口を閉ざしていた私に意見を求められました。
 今までの話の中には最も効率良い方法はなぜか言われませんでした。皆、自然と言わないようにしていたのかも知れません。気持ちは分かります。さすがの私も直接言うのは躊躇いました。

「私はもっと残酷なことしか言えませんから」

 だからこうとしか言えなかったのです。

「俺か? ジェイド」
「……すいません」

 あなたが真っ先に自分のことと察した。恐らく、自分自身考えていたのでしょう。
 その直後、ガイを始め全員が否定しました。当然ですね、私も大佐という身分じゃなかったら止める側でしたから。友人として……

「友人としてはもちろん止めたいとは思いますよ」
「ジェイドが俺を友達と思ってくれてたなんてな」

 照れくさそうに笑うあなたを見て、私も何だか微笑ましくなりました。
 その思いをあなたに直接伝えることができたのは個人的には良かったです。

 それからアッシュが先に行ったなどバタバタしましたが、最終的には瘴気を消せて、二人とも死なずにすんで万々歳でしたねぇ。
 ……しかし、あなたの体はそうはいかなかった。
 血中フォニムが隔離を起こし、ボロボロになっていきました。それでもあなたは前を向いて歩いた。あなたの成長と強さには感服しましたよ。

 以前、私はネビリム先生の死を受け入れることが出来なかったと言いました。いや、今でもそうかもしれません。
 人の死と言うのが分からないのです。だからフォミクリーを発案し、レプリカを作り出そうとした。今ではレプリカは悪い意味でも、そして良い意味でも決してオリジナルにはなれない。それをあなたを通して学びました。

 そうそう、一つあなたに謝らなくてはいけないことがありました。最後にローレライを解放する時、私は必ず戻ってきてくださいと左手を差し出しました。  左利きのあなたに合わせたといえば格好がつきますが、私は意味を知っていて左手で握手をしました。
 左手の意味は相手を嫌う……というのもありますが、他には別れという意味もあります。軍人として最悪な結果を考えなくてはいけません。
 だから自然とでしょうか。けれど言葉で友人としての思いを伝えた。これは本当のことです。

 さて、あれから二年の月日が経ちました。あなたの成人の儀式が行われるに至って、ティアやガイと同様に招待を受けましたが断りを入れました。
 その代わり、あなたとティアの旅が始まったタタル渓谷に行く話になったので私も行くことにしました。久々に皆に会って過去を語るのも良いでしょう。

「大変だ! 俺のジェイドが! 俺のジェイドが逃げた!」
「やれやれ……少々騒がしくなって来ましたね」

 最後にあなたへの言葉を綴りたいと思います。
 ルーク、あなたは償いきれない罪を犯し、それを認めない子供でした。バカな発言にイライラさせられる……
 あれはあなたが昔の私に見えて仕方なかったのです。しかし、そのまま成長してしまった私とは違い、あなたは本当に変わることを望み、そして変わることができました。
 私が生み出してしまったフォミクリーで生まれたルーク、あなたは私の罪そのものなのです。
 このまま朽ち果ててしまったら私は罪意識が増す一方……でも生きて帰ってきて、いつの日かあなたの存在が世間で認められるのなら私はようやく昔の自分と決別することができる気がするのです。
 フォミクリーをもっと有効に使えばアッシュやルークのようなことにはならないでしょうから。
 ……失礼、私事が入ってしまいましたね。罪意識云々は置いといて、あなたが帰ってくるのをいつまでも望んでいますよ。

「ガイラルディア、早く俺のジェイドを! あールークが帰ってきたぞ。後はジェイドだ。俺のジェイドを早く!」
「あーもう、うるさいですね。陛下! その名前を大声で呼ばないで下さい!」

 友人としていつまでも……なんて私らしくないでしょうかね(笑





〜Fin〜










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