闇夜に射し込む光
辺りを覆う闇。目の前が見えず進む道すら分からないこの状況。
人に裏切られ闇に落とされ、自ら追い込み闇に落ち
そんな闇が気づいたら周りの光など見えないくらい厚く広がっていた。
こんな闇に囲まれて生きるくらいなら…………
そんなことを思っていた。
でもそんな途方に暮れていた僕を一筋の光が導いてくれた。
人から見れば小さな光でも僕にとっては大きく光だった。
何も言わず歩くのをあきらめていた僕に手を差し伸べてくれた。
ただ僕の手を取り、強引だけど僕のことを引っ張り歩かせてくれた。
暗闇の中の光はどんなに小さな輝きでもとても眩しく見えた。
一度失った光だけど、キミが照らしてくれた新たな光を僕はなくさない。
それが俺にできるお前への恩返しになると信じているから……
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「どうしたの?」
聖なる日の前日、寒空の下にカップルはいた。
公園のベンチに座って互いに寄り添っていた。
ふと彼の方が彼女の肩に手を回しゆっくりと引き寄せ、頭を撫でる。
一通りの動作を終えると体を離しベンチから立ち上がる。
夜空を寂しげに見上げる彼を気になった彼女がたまらず声をかけた。
「覚えてるか? 俺とお前が初めて会った時のことを」
彼女は急な発言に戸惑っていた。
「きゅ、急にどうしたの?」
「別に。ただ今の風景と俺の前の気持ちが似ていたから」
そう言われて彼女は空を見上げた。
真っ暗な闇が空を覆い隠している。
見てれば見てるほど不安になるようだった。
『いつ、あの闇に飲み込まれるだろうか?』
ずっと見ていると不思議とそんな気持ちになる。
「前ってことは今は違うんだよね?」
星も見えず闇しか見えない空に不安を抱いた彼女は立っている彼の袖を引っ張った。
その瞳はとても心配しているのが良く分かった。
そんな彼女に微笑み、彼女の頭の上に手を優しく置いた。
「ああ。やっと光を見つけたんだ。自ら手放すようなことはしないよ」
「光?」
頭の上に置いている手を離し、夜空に向って指さす。
その先に小さく今にも見えなくなりそうな星が一つだけあった。
「闇の中で輝いている小さな光。人から見ればあの程度の光でも俺にはとても大きな光だった」
「そんな光、見つけることができたの?」
星を指していた手を下ろし、ベンチに座っている彼女に対して地面に膝をつき、真っ直ぐに向き合った。
「お前だよ。お前がいたから俺はこうして今ここにいる。お前の温もりを感じることが出来るんだよ」
「あたしにそんな力ないよ……」
語尾を弱め、申し訳なさそうにうつむく。
「いや、お前以外にはできないよ。俺の星になれるのは」
そっと頬に手を当てる。
「だからこれからも俺の支えになってくれるかな?」
「……うん……」
彼女は小さく頷いた。
彼が膝を立て首に手を回してたせいで小さくにしか頷けなかったのだが。
「あっ……」
「どうした?」
「雪」
「ゆき?」
彼女の言葉をすぐに理解できなかったが、手に白く冷たいものが落ちてきた。
首に回している手を離し、彼女は空から降ってくる雪をまるで子供のように目を輝かせて見ていた。
「ねぇホワイトクリスマスだね」
「まだ早いよ」
「イヴも一緒だよ」
「そうか?」
「そうだよ!」
力一杯主張する彼女につい吹き出してしまい、彼は声を出して笑った。
彼女は自分がおかしいことを言ったと思っていなくて、彼に問いつめていた。
ただ彼は笑いを抑えると、また空に向って指をさした。
今度は左右に往復させながら。
「ほら見てみろよ」
彼女が見上げた空には、先ほどよりも多くの星があった。
一つ一つは小さいが目に見えて光り輝いていた。
「少しずつ少しずつ俺の気持ちもこの夜空のように光が増えてきているんだよ」
彼女を後ろから抱きしめ、耳元で囁いた。
「お前のおかげでな」
抱きしめられたまま、首に回っている彼の腕を優しく包んだ。
「あたしもあなたのおかげで変わったと思う」
目を閉じ彼に身を預けるように寄り添った。
「ずっとあなたの隣りにいたいです」
彼は彼女のことを強く、そして優しく抱きしめた。
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光は闇がなくては光ることができない。
闇は光がなくては現れることができない。
闇が深ければより光は強く光ることができる。
光が強ければより闇は深く色濃くなる。
相反する二つの存在。
今、僕の心には深い闇がある。
しかし、小さな光がいま強い輝きを放とうとしている。
人に頼り生きていく気は無い。
けれどもやはり人は支え、逃げ場がなければ生きていけない。
矛盾が矛盾を生んでいくエンドレスな生活の中で、僕は自分なりの答えを探していきたい。
彼女と出会った日、雪が降っていた真っ暗な闇だった。
そして彼女と初めて共にした聖なる日は雪が降っていたが、星が広がっていた綺麗な夜空だった。
☆ fin ☆