Third Melody―夏の甲子園U―


姿「あ、綾瀬大地だって?」

大地「おや、僕のこと知ってるの? 光栄だな」

姿「知ってるというか、同じ名字のやつがダチにいるんでね。関係あるのか?」

大地「ちょっとね。キミの実力を認めてのお願いだ」

姿「あん?」

大地「転校してこないか? 桜花学院なんかじゃキミの実力が埋まってしまうよ」

 参考:ちょうどこの時、真崎は偶然小耳に挟みました。

姿「転校だと?」

大地「そう。いい学校を紹介してあげるよ、どうだい?」

姿「断る」

大地「どうして? レベルの高いところで野球をしてみたいと思わないか?」

姿「俺は現状で満足してるんだ。そういうわけでな」

大地「そんなんだから高杉くんに置いていかれるんだよ」

姿「…………関係ねぇ」

大地「僕が紹介する学校に行けば高杉くんを簡単に超えられるくらいのレベルになれるよ」

姿「高杉のやつに勝てるのか?」

大地「もちろん」

姿「…………まだ信用ができない。証明しろ」

大地「う〜ん、証明ね……じゃあ僕と勝負する?」

姿「何?」

大地「自分の実力がいかに劣ってるか分かるんじゃない?」

姿「……いいだろう。俺が勝ったら二度とつきまとうな」





真崎「さっき見かけた時はこんな空き地にいなかったけどな」

慎吾「やっぱ空き地は隠れるところが無いからな。何話してるか全然聞こえん」

 ちょうど勝負ために移動していたところを二人は見つけ、後をつけてきた。
 ただ空き地は見通しが良く、近くに行けないため話し声は微かに聞こえるだけで何を話しているかまでは聞こえない。


慎吾「しかしいけ好かない顔の男だな」

真崎「でも世間的にはモテそうだよな」

慎吾「そこは論点じゃない」

真崎「お前から言ってきたんだぞ」

慎吾「独り言だ。掘り下げんでいい」

真崎「ところでさ、俺もそこそこカッコいいと思わん?」

慎吾「思わん」

真崎「うわ〜ん!!!

慎吾「アホッ! バレるっつーの!!!」





大地「おや? 何かいるのかな?」

姿「俺も暇じゃない。さっさとお相手願おうか」

大地「ふぅ……しょうがないね」

姿「そっちから言ってきた勝負だぜ」

大地「んじゃあ行くよ」

ビシュッ!!

姿「――ッ」

バキッ!!!

 物凄い速球がど真ん中を通過し、後ろ木の壁を打ち抜いた。姿はスイングすら出来ず、速球に目がついていかなかった。

大地「まあ、そういうわけだね。名刺ここに置いておくよ、じゃあ決心したら連絡ちょうだいね」

 マウンドに見立てた板の上に名刺を置き、軽快に去っていった。姿はその名刺を手に取り、そこに書いてある名前と番号を見ていた。

真崎「あ……や…せ? ふ〜んお前と同じ苗字だな」

慎吾「……名刺をローマ字で書くやつ初めて見たぜ」

姿「どわっ!?」

 ボーっと名刺を見ていた姿の後ろから名刺を見た二人。姿は急に後ろから声が聞こえ驚いたようだ。

姿「綾瀬!? しかも真崎まで!? 何でお前らがいるんだよ!」

真崎「ふっ……それはな……」

慎吾「アホは置いといて」

真崎「今日、冷たくないっすか?」

慎吾「いつもこんな感じだろ」

姿「久々に真崎に会ったが、変わってないな」

真崎「ええ。ご無沙汰してますね」

慎吾「(同じ学校の癖に、何でこいつら会わなかったんだろう?)」

 参考:違うクラスでかつ姿は部活、真崎はナンパで会う機会が少なかったからです。

真崎「ちゃう! 俺だって陸上部に入って忙しかったんじゃ!」

慎吾「何言い出してんだ?」

真崎「独り言じゃ!」

慎吾「………………」

姿「つーか脱線しすぎ」

慎吾「早い話、あいつとお前が話しているのをこのバカが見つけ、気になったから後をつけたってわけ」

姿「真崎はともかく、綾瀬までいるとはな」

慎吾「んまあ、来て損は無かったな。一体何の話だったんだ?」

姿「お前らには関係ない」

慎吾「あの程度のストレートについていけず、何考えてたんだか」

ガッ

 慎吾の発言に対しムカついたのか、急に胸倉をつかみだす。

姿「お前に何が分かる!」

慎吾「分からないね。ただ野球部に入部した時、漣に言った言葉忘れたわけじゃないよな?」

姿「――ッ!」

慎吾「それなのに迷ってるお前の気持ちなんて分かるわけねーだろ!」

姿「………………」

慎吾「これ以上話しても無駄だな。(バッ)行くぞ」

真崎「お、おう」



姿「俺だって……」





―桜花学院―

 姿の一騒動から二日後。甲子園ではベスト8が決定していた。
 黄金世代と言われている今大会の3年生達、そのレベルの高さに連夜たちは毎日テレビに釘付けになっていた。


佐野アナ「さあ夏の甲子園大会ベスト8が出揃いました。その8校を紹介したいと思います」

 今は、朝のスポーツニュースの甲子園特集を部室で見ているところ。いつものメンバーが部室に揃っていた。

シュウ「うん。眠いぞ」

連夜「じゃあ無理して来るなよ」

シュウ「ほれ、みんなで第一試合目から見ようってことで集まってんのに眠いって理由で休めるか!」

連夜「ああそう」



佐野アナ「まずは南北海道代表、千歳高校。エース斉藤慎二郎くんを軸に守りのチームとして勝ってきました。 その守備の要であるセカンド須永くん、センター大狩くん、ライト斉藤純三郎くんが地方大会通じてノーエラーで来ています」


連夜「やっぱ守備は重要だよな」

松倉「ああ。センターラインが揃ってるのは大きいな」


佐野アナ「更に今大会で目立つ1年生勢。千歳高校にもいます。2回戦からライトで出場している雪沢くん。 今大会第4号のホームランも放っており、力強い打撃を披露しております」


シュウ「ん? ライトって斉藤じゃないの?」

連夜「2回戦以降、センターに回ってるぞ。センターの大狩さんがセカンド。セカンドの須永さんがサードになってる」

松倉「そこまでして使うってことはやっぱ期待されてるんだな」

佐々木「今言ってたけど、今年は1年生の出場が目立つからな」


佐野アナ「続きまして千葉県代表、国立玉山高校。強力なクリーンアップを率いる打撃のチームです。 3番森山くん、4番神滝くん、5番野中くんと地方大会で合計13本のホームランを打ち その中でも神滝くんは1回戦で今大会第2号となるホームランを放っております」


佐々木「おっ、うちの代表校だな」

連夜「さすがという打撃力だな。チーム本塁打だけなら帝王に勝ってるし」


佐野アナ「そして注目のエース、国立くん。千葉大会では46と2/3イニングスを投げわずかに4失点。 0.88という大会bPの防御率です。今大会もわずかに2失点。抜群の安定感を誇ります」


連夜「まあ自慢じゃないけど、千葉大会での4失点中2失点は俺らだったりするんだけどな」

佐々木「しかもその2打点は俺って言いたいんだろ?」

連夜「なんのことやら」

佐々木「………………」


佐野アナ「注目の1年生では投手の鈴村くん、内野手の飛騨くん。 千葉大会では鈴村くんは国立くんに次ぐ10と1/3を投げ、飛騨くんは2本の本塁打を放っております」


シュウ「なんか嫌に1年生がアップされてない?」

松倉「それほど今年多いんだよ。2年後には今年みたいに黄金世代って言われるんじゃないか?」

 参考:今年の3年生は好選手が多く存在するため世間から黄金世代と呼ばれています。

連夜「いや、漣世代だな」

松倉「甲子園にも出てない高校の一選手が中心になるわけねーだろ」


佐野アナ「続きまして東東京代表、帝王高校。これで8大会連続の夏の甲子園出場となりました。 エース伊勢くん、大会bPバッターと名高い南雲くんを筆頭にレベルの高い選手が数多く揃っています。 毎年プロ選手を輩出していますが、今年はより完成度の高い選手が多いようでスカウト陣が目を光らせているようです」


連夜「今年の帝王はマジで強いらしいな」

松倉「ああ。大会トップの打率を誇るからな。相川さん、南雲さんは打率5割越して来てるし」

佐々木「4番の立山さん一人で6本のホームランを打ってる。南雲さんも4本と二人で二桁打ってるし」


佐野アナ「その帝王高校の1番手と言われているのが春・センバツの王者横浜代表、横浜海琳高校。 非常に帝王と似たようなチーム構成になっております。エース菊咲くんは国立くんに次ぐ防御率1.18を残しており 今大会も3失点と好投しております。 バッターでは越智くん、楽留くんがドラフト候補になっており、共に大会第7・8号とアベックアーチを見せております」


連夜「……この2チームは1年生情報ないんだな」

松倉「ベンチ入りしてないからな。横浜の狩野ってやつは1年だが、地方大会通じて出場がないから仕方ないだろ」

連夜「(あいつらでもやっぱ1年からは出れないのか……)」


佐野アナ「残りの4校は西日本です。まずは大阪府代表、常陸学園。打撃面では良いとは言いがたいですが なんと言ってもプロ注目の左右のエース、多村くんと盛田くんを中心に非常に少ない失点率で大阪大会を勝ってきました。 先制点を取ったら逃げ切れる自信がありますよっと監督自ら豪語するだけあって、それがしっかり数字となっております」


松倉「今大会は守りのチームが目立つな」

連夜「いや、基本がしっかりしてるからだ。千歳や常陸にいいバッターが一人でもいれば帝王や横浜にも勝てるだろ」

松倉「最後はやっぱその差か」


佐野アナ「また、1年生勢として投手の輪刃くんと内野手の濱北くんが登録されております。 濱北くんはレギュラーで、輪刃くんも多村くんが5回まで持たなかった時、盛田くんまでの繋ぎ役として 大阪大会では多々登板がありました」


連夜「地味に濱北は俺や享介の中学時代のチームメイトだったりする」

佐々木「後、赤槻の清村もな」

松倉「今更そんな説明いらんわ」


佐野アナ「そして春のセンバツ大会・準優勝校の兵庫県代表、沼南高校。 エース青波くんはセンバツ大会で右肩を負傷してしまいましたが、夏の大会まで間に合わせてきました。 しかしながら、調整不足と噂され、9回投げるスタミナがついてないとの情報も入ってきており心配です」


シュウ「おぉ! 沼南高校だぜ」

連夜「そろそろネタ切れの頃だと思ったが、沼南高校は一味違うな」

佐々木「なんのこっちゃ」


佐野アナ「しかしながらその青波くんの負担を1年生の淡野くんが軽くしています。 兵庫大会では青波くん以上のイニングスを投げており、野山監督も絶賛の好投手です」


連夜「淡野も……(以下略)」

松倉「(察しろってことか)」


佐野アナ「広島県代表、周流高校は実に27年ぶりの甲子園出場でベスト8に残りました。 今大会でスカウト陣の評価を底上げしているのが新井、新山バッテリーです。 余談ですけど、この高校凄く「新」ってつく苗字が多いんですよ」


連夜「余談つーか完全にどうでもいいことだよ」

松倉「完全にネタが切れたな」


佐野アナ「そして課題だったトップバッターに1年生、汐瀬くんが加わったことにより、 大きく攻撃に幅が出来たと監督は仰っています この汐瀬くん、左投げながらセカンドを守るといった一風変わった選手で注目を浴びています。 外野コンバート中でしたが、大会まで間に合わず今大会はセカンドでの出場となりました」


連夜「スゲー共感するんだけど」

松倉「……コンバート中だってよ」

佐々木「こいつの記事見たことあるな。セカンドじゃないと試合に出ないっていって今大会はセカンドで出場してるらしいぞ」

連夜「うわぁ会ったら話し弾みそうだな」

松倉&佐々木「………………」


佐野アナ「最後は福岡県代表、鷲真高校。何と言っても注目はエース青田くん。今大会は福岡大会から一人で投げてきています。 キレのいいシュートボールを武器にしながらも、連投出来る強い体で、好投手犇く今大会でもトップクラスの評価です」


連夜「青田さんはたしかに凄いよな」

松倉「今大会で一番体が出来てる投手だからな、プロがほっとかないだろ」


佐野アナ「そして6番に座る瀬野くんが期待の1年生です。チーム2位の打点数を誇り、多くの決定打を放ってきました」


連夜「ふ〜ん。瀬野は全国大会で会ったことあるな」

佐々木「ああ。ベンチ入りしている高谷や大鵬もな」

 参考:この二人は中学時代、全国で優勝しています。


佐野アナ「今日は第一試合に千歳高校対帝王高校、第二試合に国立玉山高校対周流高校となっております。 続きまして、昨日のプロ野球6試合を続けてどうぞ」


連夜「やっぱ残った高校はエースが別格だな」

佐々木「そうだな。どこが勝ってもおかしくないが、戦力層的にやっぱ帝王かな」

シュウ「その発言は賭けタイムってわけですな?」

佐々木「健全なスポーツで賭博を持ち込むな」

シュウ「一口500円から! さあどうする?」

連夜「沼南で二口」

松倉「横浜に一口」

佐々木「賭けんのかよ!」

シュウ「俺はどこかな〜やっぱ沼南かな。二口」

ガラッ

司「お〜い、練習してないのか?」

連夜「おっ司。久々だな」

シュウ「グッドタイミング! 薪瀬、今賭けてるんだがどこに賭ける?」

司「ん? 賭け?」

シュウ「そう。今残ったベスト8でどこが優勝するかの賭け。一口500円だ」

佐々木「やらないよな?」

司「う〜ん……じゃあ国立玉山に一口」

佐々木「薪瀬まで……」

シュウ「OK。以外にも優勝候補bPの帝王に賭けるやつはいないんだな」

連夜「あれ? 享介だろ?」

佐々木「賭けねーわ!」

シュウ「ああそうか。何口?」

佐々木「おい……」



慎吾「じゃあ俺、帝王に二口」

真崎「俺は地元の国立玉山かな。同じく二口」

シュウ「おぉ! 綾瀬くんじゃないか」

連夜「よぉ」

慎吾「ああ」

佐々木「つーか、賭けるんだ」

慎吾「面白そうだからな」

シュウ「これで佐々木くんも賭けなきゃチキンですな」

佐々木「分かったよ。帝王に一口」

シュウ「よ〜し出揃ったな! では甲子園へどうぞ!」







甲 子 園 大 会 準 々 決 勝
千葉県代表 広島県代表
国 立 玉 山 高 校 VS 周  流  高  校
2年RF山   内 汐   瀬2B1年
3年国   立 新   野1B3年
3年LF森   山    北   CF3年
3年SS神   滝 新   山3年
3年2B野   中 新   田3B2年
1年3B飛   騨 島   間SS3年
2年1B小   暮 新   本LF3年
3年CF佐   藤 田   中RF3年
1年達   川 新   井3年


―甲子園1塁側ベンチ―


神滝「ついに準々決勝だぜ!」

霧生監督「相手は左腕新井だ。と言うことで、右の小暮を起用したい」

小暮「えっ?」

森山「俺は?」

霧生「外野に入ってくれ。レフトくらいできるだろ?」

森山「分っかりました〜」

達川「………………」

鈴村「なんでタツは泣いてんだ?」

飛騨「朝やってた特集で自分がアップされなかったからだそうだ」

鈴村「………………」


―甲子園3塁側ベンチ―

汐瀬「いや〜ここまで残れると思ってました?」

新田「当たり前だ」

新居監督「思ってませんでした」

新田「………………」

汐瀬「ああ、新田先輩。ちゃんと自分は固有キャラってアピールしなくちゃ大変ですよ」

新田「なんでよ?」

汐瀬「ネタで『新』ってつく苗字が多い学校になってますから」

新田「じゃあ新井先輩や新山先輩は?」

汐瀬「さっき紹介されてましたので」

新田「………………」





 試合は投手戦となり、先制したチームがそのまま勝ちそうなそんな流れになっていた。


アナ「ここで第一試合のハイライトです。帝王高校対千歳高校。試合が動いたのは4回でした」


斉藤慎「(やばいな……3塁1塁で南雲か……)」

南雲「………………」

パキーン

斉藤慎「だろうと思ったさ」


アナ「南雲くんの2点タイムリーが飛び出します。続く立山くん、伊勢くんと続き一気に4点を先制。7回にようやく反撃します」


須永「(外角低めスライダー!)」

ククッ

須永「読み通り」

カーン


アナ「須永くんのツーベースを足掛かりに、続く大狩くんとのコンビネーションで送りバントながら 隙を見て2塁からホームを狙い、一気にホームイン。これで1点返します。 続く斉藤純三郎んもツーベースで出て、ツーアウトとしながら6番の雪沢くんにタイムリーを浴びます」


伊勢「ハッ!!!」

クァキーン!!!


アナ「8回すぐさま、伊勢くんの大会15号ホームランで突き放します。最終的に6対2で帝王高校が勝ちました」


 一方、投手戦を繰り広げている第二試合は8回の表、国立玉山高校が先制のチャンスを迎えていた。

神滝「はっはっは〜、俺は別に左に苦はしないぞ」

野中「どっちかと言うと俺は得意だ」

新井「くっそ、野中はともかくアホにまで打たれるとは」

神滝「誰がアホだ!!!」

新井「(なんで三塁にいるやつに聞こえるんだよ)」


アナ「さあチャンスらしいチャンスが無かった国立玉山高校、初めてのチャンスはツーアウト3塁2塁。 バッターは7番小暮。ここまで2打席でヒットがありません」

霧生「気負わなくていいぞ。思いっきり行け!」

小暮「っす!」


アナ「周流高校も1回目の守備タイムを使い、間を起きます。その際、汐瀬くんが叩かれてましたがどうしたんでしょうね?」

解説「どうでもいいこと言ったんだと思います。彼はムードメーカーですから」


パキーン

新井「セカン!」

汐瀬「んなろっ!」

パシッ

アナ「捕った捕った! 間違いなく抜けようという打球を止めました! 神滝くん、ホームへ突っ込む!」

解説「左利きですから、通常では逆シングルなところを普通に捕れましたね」


ドガッ!

アナ「クロスプレー! 判定は? セーフだセーフ! 新山くん、ボールをこぼしている!」

新山「しまった」

解説「やっぱ捕ったのは見事でしたが送球がワンテンポ遅れてましたね。普通ならアウトですよ」


汐瀬「…………まっいいか」

新井「仕方ないさって立ち直り速ッ」

新山「すまん、新井」

新井「気にするな。こいつみたいに」

新山「おう」


 続くバッターをきちっと打ち取り、最小失点に抑えた。8回裏、9回表は得点なくそして試合はいよいよ大詰めへ……

アナ「さあ1対0で迎えた9回の裏、周流高校は9番の新井くんから」

解説「新井くんは足は結構速いんですけど、打撃は上手くありませんからね。ちょっと厳しいかも知れません」


達川「国立さん、大丈夫ですか?」

国立「………………」

達川「国立さん?」

神滝「ちょっとヤバイな。ボーっとしてやがる」

達川「そうなんですか?」

国立「いや、大丈夫だ。」

神滝「ガンバ。(タツ、ちょっと来い)」

 国立がロージンを使っているところに、手招きしながら達川を呼ぶ。

達川「(はい?)」

神滝「(スパイクはもう使うな。それ以外の球でなんとか抑えるリードできるか?)」

達川「(……そんなにヤバイですか?)」

神滝「(ああ。今大会レベルが高いって聞いたがこれほどとは思わなかった。相当疲れがたまってるな)」

達川「(分かりました。出来る限りやってみます)」

神滝「(頼むぞ)」


アナ「さあ、新井くんが左バッターボックスに立ちました。初球どこに投げるか?」


達川「(新井さんは打撃はあまり良くないです。低めのストレートで打たせましょう)」

国立「(1年の癖にいいリードするよな……)」


コン

新井「うぉぉぉ!!!」

飛騨「なろっ! ってキャ――ッ!!!」

野中「(パシッ)


アナ「サード飛騨くんの悪送球! カバーに入ろうとしていたセカンド野中くんにドンピシャの送球でした」

解説「意表っちゃ意表でしたが焦りすぎですね。落ち着いて投げればアウトでした」

アナ「ノーアウトのランナーを出し、迎えるバッターは1番汐瀬くん。ここまで3打数2安打と当たっております」


カーン

アナ「内角のストレートを上手く弾き返した! 打球は右中間を抜けている!!!」


新井「はっはっは」

新田「スト―ップ」

新井「はぁ……行けなかったか?」

新田「新井先輩の足じゃ無理ですよ」

新井「ん?」

新田「足もつれてましたよ。あれじゃあ突っ込ませれないです」


アナ「チャンス拡大。ここで2番の新野くんを満塁策で歩かせます」


続く北はライトへ打ち上げ、犠牲フライ。同点に追いつく。

アナ「追いつかれたところで、守備タイムを使います。伝令の鈴村くんが出てきました」


鈴村「4番を歩かせ、5番と勝負するのも3塁・1塁のままで行くのも任せるようです」

国立「ああ。それより達川」

達川「はい?」

国立「どこのアホが入れ知恵を入れたか知らんが、なんでスパイクを要求しない? さっきの犠牲フライだって防げたろ」

達川「………………」

神滝「今のお前がスパイク投げたってたかが知れてるだろ。すっぽ抜けにもなったらたまらないしな」

国立「ストレートじゃ抑えれないだろ! 1年に変な入れ知恵すんな!」

神滝「っさい! じゃあ抑えてみろ!」

国立「ああ、見てろよ!!!」

達川「……いいんですか?」

野中「そういや、今日森山レフトやわ……こう言う状況でなだめてくれるのはあいつなのに……」

達川「………………」


森山「もう外野って集まってる時暇すぎ……」


クククッ!

新山「うわっ!」


アナ「大きく曲がるカーブに手が出せない! 新山くん、今日3つ目の三振を喫しました」

解説「いいカーブでしたね。コースも良いところに決まってますし、あれは打てませんよ」


クククッ!

新田「うりゃあ!!!」

ガキッ!

新田「当たった〜!!!」


アナ「詰まりながらも打球は三遊間へ! サヨナラかっ!?」


神滝「偉そうなこと言ってここで負けたら意味がねぇ!」

パシッ

ビシュ!

野中「ナイス。(パシッ)


アナ「神滝くん、良く捕りました! セカンドに転送しスリーアウトチェンジ。延長戦に突入です」

解説「新井くんはスタミナに少し不安がありますし、国立くんも限界でしょう。どこで継投するか見物ですね」

アナ「10回の表は新井くん続投のようです。国立玉山高校の攻撃は9番の達川くんから」


パァキーン!!!

達川「………………」

新井「………………」


アナ「これは大きい! レフト完全に見送っている! レフトスタンドへ大会第16号ホームラーン! 貴重な1点が入りました」

解説「いや〜……ドンピシャでしたね」

アナ「新井くんは膝をついて泣いています。まだ勝負はついていないので、顔を上げて欲しい」


汐瀬「キャプテン、何一人で終わってんですか。まだ裏があります。さあ投げきってください」

新井「……いや、俺の夏は終わりだ」

汐瀬「ここでマウンド降りたら後悔するぞ!」

新山「ホラッ。新しいボールだ」

新井「……新山……」

新山「お前の夏は終わっても、周流高校の夏は終わってない。最後の思い出に一番の球頼むぜ」

汐瀬「最後とか思い出とか言わんで頂きたい」

新山「こりゃ失敬」


 1番にまわった好打順も抜群の制球力が戻り、新山の言うとおり一番良い球を投げ込んだ。
 しかし国立玉山の2番手、鈴村を打つことができず2対1で惜敗した。


ウウウウウウ━━━!!!


達川「っしゃ勝った!」

鈴村「省略かよ」

飛騨「俺も今日の試合、目立ってない」

達川「お前らは今朝のニュースに出たからな。試合前に目立ってるしいいだろ」






連夜「順当に2チームが勝って、賭け脱落者がいないっと」

シュウ「明日の注目は沼南と横浜だな」

松倉「俺ら3人以外は明日は安心なわけだ」

佐々木「視点が完全に賭けの方に行ってるぞ……」

慎吾「じゃあ俺らは明日来ないから準決勝でな」

連夜「明日来ないやつはいないと思うぞ」

慎吾「あん?」

真崎「明日は登校日だ。天然ぼっちゃん」

慎吾「………………」

連夜「綾瀬の意外な一面を見たところで、NEXT MELODYをクリック♪」

司「気持ち悪いぞ」

連夜「やらされてんだよ」

司「………………」


THE NEXT MELODY

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