Sixth Melody―茜に染まる空―


―東京都・某所―


真崎「くそ、どこにいるんだよ……」

慎吾「……東京には来てないみたいだな」


 昨日から1泊2日で東京に来ている慎吾たち。昨日の準決勝で部室に現れなかったのはその為である。  来ている理由はとある日から行方不明になっている姿を探すためだ。  地元が東京のため実家を含め、考えられる場所全てに当たってみたのだが結局、有力情報を得ることはできなかった。

真崎「じゃあもうあのAYASEってやつのところに行ったのか!?」

慎吾「知るか。……千葉に戻ろう。寮に戻ってるかも知れないしな」

真崎「だな」







―千葉県・駅前―


慎吾「千葉で行きそうな場所あるか?」

真崎「分かるか。姿と話したのAYASEってやつに会ってた時だからな」

慎吾「そうか……そうだったな」

真崎「野球場は?」

慎吾「…………例えいても見つけれんわ。却下」

真崎「じゃあ桜花に向かいながら適当に探してみるか」


・・・・*

真崎「姿の姿が見当たりません!」

慎吾「………………」

真崎「………………」

慎吾「さて、桜花学院に着いたわけだが」

真崎「酷ッ!!! ボケ殺しかよ!」

慎吾「んなしょうもないギャグにツッコムほど人間できてねーわ!」

真崎「チッ。ノリの悪いやつだ」

慎吾「ツッコミ役にやらせろ。漣とか」

真崎「あいよ」


―桜花学院・男子寮―


慎吾「すいません」

寮長「は〜い」

慎吾「………………」

寮長「………………」

真崎「なんで互いに黙ってるんだよ」

寮長「あれ〜真崎くんじゃないですか〜」

真崎「しまった!!! すっかり忘れてた!!!」

慎吾「なに? なんかしたの?」

寮長「この子ったら掃除当番サボって東京に遊びに行ってたんですよ」

慎吾「……とりあえず、そのタイヤキ置きませんか?」

寮長「…………まあ、君カワイイから君に免じて今日、掃除してくれるだけで許してあげる」

慎吾「だってさ。良かったな」

真崎「ありがたいが、カワイイってお前のことだぞ?」

慎吾「……………………」

寮長「キラーン☆」

慎吾「俺、野球部にいって甲子園の状況見てくるからその間に掃除しとけ」

真崎「アホ―ッ!!! 寮長と二人っきりにするな!!!」

寮長「キラーン☆」


・・・・*

慎吾「合掌」


―桜花学院・野球部部室―


慎吾「こんにちは」

連夜「おっ綾瀬。昨日はどうして来なかったんだ?」

慎吾「諸事情。ただ結果知らないんだ。どうなったんだ?」

シュウ「見ての通り! 決勝は帝王VS沼南だぜ!」

慎吾「ってことは俺は残ってるわけだ。良かった」

佐々木「あれ? 真崎は一緒じゃないのか?」

慎吾「寮長に捕まってる」

佐々木「………………」

シュウ「一人にしちゃったの?」

慎吾「おう」

被害経験ありの二人「………………」

連夜「昨日の帝王対横浜は9対5で帝王の逆転勝ち」

慎吾「予想以上に差がついたな」

松倉「8回まで横浜が2点リードしてたんだが、9回の帝王の攻撃の時 再度マウンドに上がった菊咲さんに打球が当たって負傷退場」

佐々木「3番手の忠津さんを攻め、一気に逆転。そのままゲームセットってわけ」

慎吾「ふ〜ん……それは気の毒だな」

佐々木「顔がニヤけてるぞ」

連夜「やっぱ綾瀬も人間だったか」

慎吾「………………」


 真崎が捕まっているため、暇な慎吾は野球部のメンバーと一緒に決勝を見ることにした。





真崎「おうおうおう。のん気に野球なんて見てんじゃねーよ」

 およそ1時間後、部室のドアを蹴飛ばし真崎が乱入してきた。

慎吾「おぉ速かったな」

シュウ「大丈夫だった?」

真崎「ん? そうか森岡たち、最初の被害者だったな。大丈夫。綾瀬のおかげで助かった」

慎吾「あん?」

真崎「次会ったら、『ヨロシク☆』だそうだ」

慎吾「………………」

連夜「良かったな」

慎吾「本気で言ってるんなら殴るぞ」

佐々木「大丈夫。漣も寮長のお気に入りの一人だから」

慎吾「………………」

連夜「………………」

真崎「そ、それよりさ。姿の情報集めようぜ」

慎吾「そうだな。野球いいところだが」

連夜「姿? どういうことだ?」

真崎「実はな。姿の姿が見当たらないんだよ」

その場にいた人たち「………………」

慎吾「(沈黙が痛い)」

連夜「ってことは昨日の諸事情ってそれか?」

慎吾「そう」

真崎「お前らまで無視かーい!!!」

慎吾「黙れ」

真崎「はいはい」

連夜「まあ、見つかるだろ。事件に巻き込まれてなきゃな」

慎吾「…………そうだな。じゃあ行くわ」

連夜「ああ」






―千葉県・某所―


真崎「あ〜もう嫌や。二度とあんなことしないぞ」

慎吾「ちなみにどんなことされるんだ?」

真崎「そんなこと口に出せるか!」


寮長「キラーン☆」


慎吾「(ゾクッ)

真崎「ん? どうした?」

慎吾「いや、なんでもない」

真崎「っで、これからどうする? 完全に手詰まりだぞ」

慎吾「……一つだけ……あるんだが……」

真崎「……何が?」

慎吾「…………姿が行きそうなところだよ。アホッ」

真崎「ふんふん……なんだとっ! 先に言えよ!」

慎吾「行ってみるか?」

真崎「ああ! 当たり前だ!」

慎吾「良し、来い」

・・・・*

真崎「綾瀬さん? ここはダメですよ」

慎吾「見ての通り、族の人たちがいることで有名な繁華街です」

真崎「繁華街でもなんでもねーよ!」

慎吾「まあ、安心しろ。街には入る気ないぞ」

真崎「この近くにいるだけで怖いっつーの」

慎吾「あのAYASEってやつと繋がりがあるなら、この地域にいるはずだ」

真崎「そうそう。そのAYASEってやつとお前って関係あるの?」

慎吾「あん?」

真崎「同じ苗字やん」

慎吾「ねぇよ。苗字一緒なだけで関係を作るな」

真崎「ふ〜ん。そうか」

慎吾「………………」

真崎「……今度はなんだ?」

慎吾「いや、お前周り良く見たほうがいいぞ」

真崎「あん?」

??「………………」

真崎「す! すいませんでした!!!」

??「いや、別に構わないよ」

慎吾「つかぬ事をお伺いいたしますが、こいつ見たことあります?」



??「ん〜……ああ、ここから少し歩いたところに空地があるんだけど、そこにいたな」

慎吾「そうですか。ありがとうございます」

??「おっ? その校章は桜花かな?」

慎吾「ええ。……詳しいですね」

??「まあ。息子が通ってるからな。じゃあ急ぐからこれで」

慎吾「あ、ありがとうございました」

 ヤクザの関係者っぽい人がその場を離れると、少し離れて怖がっていた真崎がようやく慎吾の近くに戻ってきた。
 ちなみに真崎は慎吾が話しかけた時に、静かに素早くその場を離れていた。



真崎「君ね、バカじゃないの?」

慎吾「誰がバカだ。姿の情報も得たし十分だろ」

真崎「寿命縮むわ」

慎吾「そりゃ助かるわ。さっさと逝け」

真崎「酷ッ!!!」


・・・・*

姿「………………」


慎吾「おっいたいた」

真崎「また隣りにいるぞ。キザな男が」

 前回同様、空地からは見えないように隠れて状況を見ている二人。  今回は隠れているところから距離が近いため、二人の会話も聞こえるようだ。


姿「さて、俺はどうすればいい?」

大地「うん。行く気になったんだね、いい判断だよ」

姿「俺は上を目指したいだけだ」


慎吾「二度とあの思いはしたくないってか。弱くなったもんだな、姿」

姿「綾瀬!? お前、どうしてここに!?」

慎吾「ふざけたこと考えるな。黙って桜花にいろ」

姿「……悪いが俺はもう誰にも負けたくないんだ」

慎吾「何言ってんだお前は。野球はチームでするもんだろ?」

姿「だが4番が打てなきゃチームは勝てないのもまた事実だ。               俺はもうあんな惨めな思いはしたくないんだ!」

慎吾「お前、桜花はどうするんだよ! 漣たちになんて言う気だよ!」

姿「最初から桜花学院に姿和真って男はいなかったんだ。そうすればいい」

慎吾「ふざけんな!」

大地「キミね、本人が決めたことなんだよ。いいじゃん好きにさせれば」

慎吾「黙りな」

大地「あ〜、分かったよ。じゃあキミたちも実力で黙らせてあげよう。ホラッ」

 肩に担いでいたバットケースから1本バットを取り出すと、慎吾に向って投げた。

大地「キミが打てたら自由にさせるよ。殴って連れてこうが自由だ。                 ただ打てなかったら、何も言わず立ち去ってもらおうか」

慎吾「………………」

真崎「綾瀬、無理すんな。いいよ、俺がやる」

慎吾「真崎……」

 真崎は慎吾の足元に転がっているバットを広い、大地に向ってバットを指した。

真崎「打ってやろうじゃん。ただそこいらの窓ガラスが割れても知らねーぞ」

大地「ふ〜ん。キミたち僕の球一度見てるよね? そんなこと言えるのかな?」

慎吾「(あの時か……気づいてたんだな)」

姿「止めろ、真崎!」

真崎「……さあ来い!」

大地「身の程知らずがッ!」


ビシュ!

カンッ

パリーンッ!!!

慎吾「おっ?」

 初球、真崎はタイミングバッチリのスイングだった。悲しくは打球は真後ろに飛んだことだが。  また後ろに建っていたビルの窓ガラスが見事に割れた。

大地「やるねぇ。ホントに窓ガラスを割るとわ」

真崎「ナメんじゃねぇよ。本気で来いよ」

大地「あ〜、弁償しなきゃいけないな」

慎吾「俺らはする気ないぞ」

大地「うん。まあ当てられた僕が悪いからそこまで請求する気はないさ」

真崎「その球威だったら次で打っちゃうぞ」

大地「みたいだね。さすが真崎くん。じゃあこれは……どうかな!」

ビシュッ!!

ズバーンッ!!!


 先ほど以上の速球に真崎はバットに当てることが出来ず、後ろの木の板を打ち抜いた。  以前、姿を空振りにとった速球だった。

大地「う〜ん、キミたちと勝負してると空地の木の板全部打ち抜いちゃうな」

真崎「くっ……」

大地「どうせなら後1球勝負してあげるよ」

真崎「いやいい。約束だ、お前らにもう関わらないよ」(ダッ!)

慎吾「真崎!!! チッ! 姿、自分が何をしようとしてんのかもう一度考えてみろ」

 そういい残し、慎吾は真崎の後を追った。

姿「(すまん、真崎……綾瀬…)」

大地「じゃ行こうか」

姿「はい」






慎吾「ったく、どこ行ったんだ? 真崎のやつ……」

 カーン! カーン! カーン!

慎吾「打球音? ……バッティングセンターか」

 ふと聞こえてきた打球音に気になってバッティングセンターの中へ入っていった。

慎吾「ま、真崎……」


真崎「くそ―ッ!!! ちくしょう!!!」

 カーン! カーン! カーン!

 叫びながらバットを一心不乱に振っている真崎を見て声をかけづらくなった  慎吾は静かに背を向けバッティングセンターを後にした。

真崎「姿のバカ野郎!!!」

 最後の真崎の叫び声がなぜか外に出た慎吾の心に重く響いた……

慎吾「はぁ……こんな重い感じな時は外は雨ってのが普通だろ……」

 慎吾の気持ちとは裏腹に外は雨なんて考えられないほどいい天気だった。
 日は沈みかけ、見事な夕焼が広がっていた。
 しかし親友に裏切られた慎吾の心は酷く傷ついていた。
 それは真崎も……そして、裏切った姿も同じだった。
 そんな彼らを尻目に空は綺麗な茜色で覆いつくされていた。



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