Seventh Melody―桜花の野球―


―桜花学院―


連夜「おはようさん」

松倉「これまた眠そうな顔で、ご登場ですな」

連夜「だってオールだもん」

松倉「あれほど練習したがってた男が、みんな集まる日にオールかよ」

連夜「大人には色んな事情があるんだ、コノヤロウ」

松倉「夏休みだからって遊んでるからだ」

連夜「誘われるんだしょうがないだろ」

シュウ「どうせB組の☆☆ちゃんとかC組の♪♪ちゃんとかだろ」

 参考:名前を伏せてるのは大人の事情で(ぇ

連夜「いや、A組の☆♪だけど」

シュウ&松倉「はぁ!?」

・・・・*

佐々木「おはようさんって何でこんなに散らかってるんだ?」

久遠「おぉ佐々木か。俺らが来た時はこんな感じになってたんだけど」

 野球部の部室は机が倒れ、椅子が逆さになってたりかなり散らかっていた。  明らかに誰かが争ったような形跡だ。

司「……連夜は?」

佐々木「そういやシュウもいないな。先に行くって言ったのに」

 参考:シュウと佐々木、久遠と司は寮住まいで同じ部屋に住んでます。

久遠「とりあえず、片付けようぜ」

佐々木「そうだな」


・・・・*

 その後、2年生軍も集まり総動員で野球部の部室を綺麗にした。

国定「何があったんだ?」

佐々木「分かりません」

司「俺らが来た時からこうなってました」

上戸「むぅ! 事件か!?」

大河内「不吉なこと言うもんじゃない」

山里「でもいると思われる森岡がいないんだろ?」


シュウ「僕、シュウですけど?」

 唐突に現れたシュウにみんな、呆然としてしまった。

久遠「……どこ行ってた?」

シュウ「ちょっと散歩。何々どうしたの?」

佐々木「部室が荒らされてたんだよ」

松倉「あ〜……悪ィ、それ俺ら」

佐々木「あん?」

松倉「予想以上に暴れてな。みんなが来る前に片付けようと思ったんだが」

佐々木「暴れる? 何が?」

松倉「気にするな」

司「……なぁ、連夜は?」

松倉「誰それ?」

司「…………いや、聞き流して」

佐々木「(また何かしたのか……?)」


 結局、8時に集合したメンバーだったが全部片付けるのに2時間かかり、時は10時になった。

??「おっみんな揃ってるな」

全員「………………」

??「何、その珍獣を見る目は」

高橋「つかぬ事をお聞きしますが、どちら様で?」

木村監督「監督だよ! 木村!!!」

高橋「あっ! 失礼しました!」

国定「焼けすぎて分かりませんでしたよ」

木村「うむ。甲子園の1回戦から全試合見てきたからな。正直、暑かった」

シュウ「チームをほったらかしにいい度胸してますね」

木村「まあ、まだ夏休みはあるからな。ミッチリしごいてやるよ」


慎吾「ミッチリね。それ、俺らも参加させてくれないか?」


 突然部室に入ってきた慎吾と真崎。いきなりだったため、メンバーは呆気にとられた。

木村「……あ、綾瀬か? そういや、宿題持ってった?」

慎吾「他の先生に大分迷惑かけたがな。全部やったよ」

真崎「えっ? 全部やったの?」

慎吾「俺はアホじゃないからな」

アホ「ウルセー」

大河内「話ずれてますよ」

佐々木「綾瀬たち野球部入るの?」

慎吾「まあ、ハッキリ言えばな。どうかな、監督さん」

木村「……やる気、あるんだな?」

慎吾「ああ」

真崎「やらなきゃいけないんでね」

木村「いいだろう。だが、途中で辞めたら許さないぞ」

慎吾「大丈夫」

木村「良し、じゃあグラウンドに出ろ。軽く練習しておくぞ」






―グラウンド―


木村「俺ら中学のとき見てるが、他のやつはまだ見てないしな。久々にチェックするか」

国定「中学のとき見てるって?」

木村「こいつらが野球やってる時な。いいプレイヤーだなって思ってたら次の大会からまったく出なくなったんだよ」

真崎「昔の話さ。さあノックでも何でも来いや!」

木村「良し、大河内。ノックしてやれ」

大河内「はい」


木村「………………」

慎吾「………………」

木村「………………」

慎吾「……………?」

木村「早くポジションつけよ!」

慎吾「あん? 俺、選手として入ったつもりはないぞ」

木村「はっ?」

慎吾「マネージャーってやつ? 言うならば影の監督」

木村「………………」

慎吾「木村って指導力はたしかにいいよ。特に走塁面では言うことナシ。             たださ、作戦考えるの下手だろ? だから俺がやってやるって言ってんの」

木村「いや、うち人数少ないから選手としての方が……」

慎吾「嫌」

木村「ああそう」



真崎「うりゃ!!!」

シュタタタタッ! パシッ シュ

大河内「ほぉ。足速いな〜。シュウみたいな役割果たしてくれそうだな」

慎吾「ああ、ただグラブ捌きまだ怪しいもんなんで過信しない方がいいですよ」

真崎「大丈夫だって」

山里「セカンドか。俺、守備だけだからスタメンは真崎のほうがいいかもな」

慎吾「山里先輩の守備センスなら内野どこでもいけるでしょう。姿の抜けたファーストはどうですか?」

山里「姿? 何、抜けたって?」

慎吾「(あちゃ、しまった)」

真崎「まあ、俺ショートや外野もグーなんで空いてるところでいいですよ」

大河内「そりゃ助かるな。複数ポジション守れるやつが多いのはうちの強みだな」

司「人数が少ないですからね」

木村「じゃあみんな守備につけ。仕上がり見るぞ」


・・・・*

 それから1時間くらい主にノックで汗をかいた。  木村監督はいい頃合だなっと部員たちに集合をかけた。

木村「なかなかいい動きしてたな。サボってるヤツはいなかったようだ」

シュウ「モチ!」

木村「っで、1時から試合を申し込んである。昼時だから食べるなっと言わんが、程ほどにしとけよ」

全員「………………」

木村「どうした、お前ら」

久遠「いきなりですか?」

木村「いや、元々サボってるやつがいるかいないかはこの試合で見るつもりだったんだ。               真崎たちが入部するって言ったからついでにノックまでしたけど」

佐々木「相手は?」

木村「宮城の緑央学院」

佐々木「聞いたことない名前ですね」

木村「まあ、監督とちょっと知り合いでな。頼んでおいた」

司「わざわざ宮城から呼んだんですか……」

木村「ま、そういうこと。じゃあ一旦解散。集合は12時半な」





 っで、集合の12時半。ちょっと前にみんな集合し、相手チームも到着した。  今はアップとメンバー交換をするところだ。


練   習   試   合
先   攻 後   攻
桜  花  学  院 VS 緑  央  学  院
1年SSシ ュ ウ 春   山SS1年
1年CF佐 々 木 東   城 1年
1年RF久   遠 徳   本1B3年
2年1B上   戸 浦   澤 3B2年
2年3B高   橋 山   本2B2年
1年薪   瀬 松   田RF 1年
2年大 河 内 及   川 LF2年
2年2B山   里   迎    CF1年
1年LF真   崎 マーク・レイン1年


久遠「何この打線」

木村「ああ、今回は俺じゃなくて綾瀬に考えてもらった」

久遠「えっ?」

慎吾「まあ、このメンバーなら妥当な線だろ」

シュウ「説明いただこう!」

慎吾「ん? 説明ね……うちの打線の軸になる漣、姿、松倉の三人が抜けてるから      上戸先輩や高橋先輩はともかくとして、ちょっと攻撃力低下してるだろ」

山里「まあ、たしかに」

慎吾「つーわけで、森岡を起点とした打線にしてみた」

シュウ「ほぉ!」

慎吾「当然1番だから、それを返す選手が必要。それが上戸先輩と高橋先輩。    っで、もう一つが森岡が返す選手になる場合。返される選手が必要。ってことで大河内先輩と真崎ってわけ」

大河内「なるほどな」

慎吾「間の選手には繋ぎが上手い選手を置いてみました。ってことであんまり必要ない6番に薪瀬を入れた」

高橋「でも何でシュウなんだ?」

慎吾「意外や意外、夏の大会で打点・得点圏打率共に森岡がチームトップなんですよ」

高橋「えっ? そうなの?」

慎吾「夏の大会のスコアを見直したんで。本塁打を打っている姿や上戸先輩より4打点も多かったです」

シュウ「ヒューッ! 俺スゲー」

司「俺の先発は?」

慎吾「松倉だけじゃ秋は乗り切れないだろ? 薪瀬が頭からどれくらい行けるか?ってテスト。   大河内さんも同様です。っつーか漣がいないからですけど」

木村「はぁ……お前ほんと考えてるんね。先のことまで」

慎吾「当たり前だ。木村が考えなさ過ぎだから秋、国定さんにドクターストップかかるんだよ」

木村「うるさい」

司「っで連夜は?」

慎吾「あいつ、どうしたの?」

松倉「さあ?」

シュウ「摩訶不思議だね」

司「………………」


 そんなこんなでプレイボール!





1回の表

レイン「(ビシュ)

佐々木「そういや、相手のあんまり確認してなかったが外国人ピッチャーだな」

慎吾「森岡、初球からかましてやれ!」

シュウ「っしゃ!」

佐々木「おいおい、いいのか?」

慎吾「森岡に球種引き出させるバッティングは無理だろ。何のためにお前が2番に入ってるんだ」

佐々木「ああそう」

大河内「ほんとに監督より采配上手いかもしれませんね」

木村「俺、試合じゃ目立てねーじゃん」



コン

レイン「あん?

 初球からセーフティバント。さすがに予想外のバッテリー&サード、その間に俊足のシュウは一塁を駆け抜けた。


慎吾「っし、佐々木。ツーストライク後、送りだ」

佐々木「スリーバントはちょっと……せめてバントなしにしない?」

慎吾「じゃあゲッツーは許さん。最低、森岡2塁な」


レイン「ちっ。初球からとはナメてやがる

東城「気にするな。ランナーは俺が刺してやるから、バッターしっかりな


 続く佐々木への1球目、シュウ迷わずスタートを切る。

東城「(パシッ、ビシュ!!!)

春山「(パシッ)

シュウ「ウソーン!!!」

 しかし、東城の好送球によりタッチアウト。2盗失敗に終わった。


シュウ「くそっ!!!」

慎吾「あのキャッチャーやるな。キャンチングとか細かい技術は漣より上だな」

司「…………ああ、東城じゃん」

久遠「知ってるのか?」

司「どっかで見たことあると思ったんだよね。小学校から中学途中まで一緒」

慎吾「先に言えよ。だったら森岡にさせなかったのに」

司「悪い悪い」


 そうこう話している間に、佐々木のカウントは2−3。粘り強い佐々木の真骨頂である。


レイン「(あ〜さっさと三振にとろうぜ)

東城「(そうだな。しかし二人目から使うのか?)

レイン「(別にいいだろ)


ビシュ

佐々木「むっ……………」

シュルシュルシュル………

ブーン!!!


佐々木「遅ッ!!!」

久遠「あれは厄介だな」


レイン「(俺のCHANGE-UPは初見で打てるほど甘くはないっと)

東城「(チェンジアップなんだろ?)

レイン「(いや、CHANGE-UP)

東城「(ああそう)


 続く久遠も内野フライに倒れ、桜花学院の攻撃は結果的に3人で攻撃を終えた。




1回の裏

春山「向こうの1番みたいに初球から行こうか?」

東城「う〜ん……好きにしていいぞ」

春山「そう? じゃあ振り回すな」

東城「思いっきり振ったところで、内野越えるのがやっとだろ? 非力くん」

レイン「いいんじゃね。期待してねーし

春山「なんだって?」

東城「お前の俊足には期待してるってさ」

春山「よ〜しやるぞ!」

レイン「喋れないが聞き取れるぞ。ウソ教えるな

東城「味方を凹ましてどうする


大河内「1番のヤツは知ってるか?」

司「いえ、俺が知ってるのは東城と後、3番に入ってる徳本先輩です」

大河内「じゃあ、その2人はリード任せるわ」

司「えっ?」

 それだけ告げて大河内はポジションに戻っていった。


春山「よ〜し来い!」

大河内「(間違いなく俊足バッター。内角高めに速球)」

司「(コク)」

ビシュ

ズバーン!!!


春山「はい?」

 司のノビのある速球にまったくついていけず、春山は三球三振に倒れる。

春山「何、あれ?」

東城「薪瀬の投げる速球は凄くノビるから気をつけろよ」

春山「言うの遅!」

東城「まあ、俺が御手本見せてやるよ」


・・・・*

東城「あの野郎、成長しやがったな」

 東城を良く知る司は変化球を打たせ、セカンドゴロに抑えた。

徳本「東城が打ち損じるとはな」

東城「まあ、相変わらず変化球は微妙ですから速球に張ってりゃ大丈夫ですよ」


司「……徳本さんか……って徳本さん、3年生ですよね?」

徳本「ああ。部活は引退したが、今日はメンバーが足りなかったんだ。大目にみてくれ」

司「………………」


カーン!

 東城同様に変化球で攻めるが、今度はライト前に運ばれる。

司「(ちょっと単調すぎたか)」

大河内「(ドンマイ)」


 ここで、打席には4番の浦澤が入る。

大河内「(4番って感じのバッターじゃないな。体格もガッチリしてるわけじゃないし)」

司「(速球で押しましょう)」

大河内「(だな)」


パキーン!!

司「ッ!」

 少し甘く入ったものの、ノビる速球を詰まらせず左中間へ運ぶ。

真崎「うおおお!!!」

ダッ! ズッシャ!

真崎「顔打った……」

佐々木「(パシッ)


 真崎が気迫溢れるダイビングキャッチを試みるが一歩届かず  ポジショニング良く守っていた佐々木が何とか追いつきセンターフライ。

佐々木「大丈夫か?」

真崎「何とか」

慎吾「無理するなアホ。お前怪我しやすいんだから」

佐々木「そうなん?」

慎吾「こいつ良く、ダイビングキャッチとかヘッドスライディングとかするけど、すぐ肘とか痛めるから」

佐々木「………………」





2回の表

 先頭上戸が鋭い当たりを放ちレフト前ヒットで出塁する。

慎吾「高橋先輩、ここはヒッティングです。ゲッツーは気をつけてください」

高橋「ああ」

佐々木「アイツのストレート、外国人みたいに綺麗な直球じゃないので注意してください」

久遠「まあ、事実外国人だけどな」


レイン「(ここはカットでいいだろ)

東城「(練習試合で出すなって言われてるだろ)

レイン「(はいはい。じゃあ三振狙いでいくぞ)


ビシュ

ガキン

高橋「くっ」

慎吾「ん?」


春山「っしゃ、ゲッツーコース!」

 ショートからセカンドにトスされ、ファースト送球。6−4−3とゲッツーになってしまった。

高橋「すまない」

慎吾「ドンマイです。(あの振り方、ちょっとおかしかったな)」

佐々木「どうした綾瀬」

慎吾「高橋先輩、もしかして……」

高橋「ん?」

 高橋に耳打ちする。すると高橋は驚いた顔をした。

高橋「なんで分かったんだ」

慎吾「うちのアホもそうだったんで」

真崎「ん?」←こいつのこと

慎吾「アドバイスしますよ。こっちへ」

司「いや、悪い。その前に守備だ」

 続く薪瀬は打撃は得意と言えず、アッサリ三球三振。

慎吾「……まぁしゃーねー」

高橋「(それにしても凄い洞察力だな)」





3回の裏

 先頭バッターが倒れ、打席には9番レイン。

司「(9番だけど、バッティングはダメなのかな?)」

大河内「(まあ、初打席だし速球で押してみようぜ)」

司「(大河内さんってリード連夜みたいですね)」

大河内「(いや、意識してやってるんだけど。俺のリードにしようか?)」

司「(そっちでお願いします)」

大河内「(OK)」

司「(通りでテキトーだと思った)」


ククッ

ビシュ

ズバーン!!!

レイン「チッ

 変化球を見せ球にし、速球で決めるオーソドックスな攻めだが今まで速球のみだったので  急なリードの変化にレインは三振に倒れた。

レイン「リードが変わったぞ。気をつけろ

春山「なんだって?」

東城「リードが変わったから気をつけろって」

浦澤「見せ球で使ってくる変化球を狙え」

春山「オッス!」


 初球、内角のスライダー。

春山「うんりゃあ!!!」

ブーン!!!

大河内「(すげースイングだな)」

司「(案外、シュウみたいなバッターかも知れませんよ)」

大河内「(ありえるな。ちょっと配球変えるか)」


 2球目は外角高めのストレートを選択。

ビシュ

春山「おりゃあ!!!」

パキン!

高橋「くっ!……あん?」

 フルスイングしたと言うことで高橋は鋭い打球が来ると思ったが  打球はむしろプッシュバントしたかのように転がっていた。
高橋「んだよ!」

大河内「投げるな間に合わない」

高橋「速ッ!」

 高橋が捕球した時には春山は一塁にヘッドスライディングしていた。


春山「さあさあ、これは走らなきゃいけない場面ですよ!」

司「(チッ……)」

大河内「(アレは刺せっかな……)」


ダッ!

大河内「んなろっ!」

ビシュ

ズキッ!!

大河内「!!!」


 初球から盗塁を試みる。2塁送球した大河内が負傷していた肩を送球のさい痛みが走った。

慎吾「ん? タイムだ!」

 大河内の異変にいち早く気づいた慎吾がタイムをかける。

慎吾「大丈夫ですか?」

大河内「ああ、ギリ」

慎吾「……無理させれないな。交代だ」

司「……誰に?」

慎吾「………………」

シーン……

高橋「漣を連れてくればいいじゃん」

慎吾「だってさ、松倉」

松倉「俺かよ。アイツ今頃爆睡だぞ?」

慎吾「あん?」

松倉「アイツ、オールしてて眠い言うから寝かせてやったんだ」

慎吾「ったくあのアホ。いいから叩き起こしてつれて来い」

松倉「あいよ」


・・・・*

 試合再開後、東城に対する2球目で春山は三盗に成功。大河内は痛みで送球すら出来なかった。

東城「怪我してるんですか?」

大河内「まあね」

東城「じゃあ連夜は?」

大河内「諸事情でね。まあ来ると思うよ」

東城「そうですか」






松倉「あれ〜どこに投げ飛ばしたっけ?」

 連夜を捜索しに来た松倉は、体育館倉庫に来ていた。  ここに監禁しているはずだが、連夜の姿が見つからない。

バッ!

松倉「あん?」

連夜「このヤロ! 良くもやりやがったな!」

 松倉の背後に飛び出し、首を締め出す。

松倉「ギブッギブッ!」

連夜「何がギブッだ。絞め殺す!」

国定「アホやってんじゃね。一大事だっつーの」

連夜「おっと国定さん。どうしたんですか?」

国定「とりあえず松倉離せ。死ぬって」

連夜「チッ。(パッ)

松倉「ゲホッ!……ッ……」

国定「大丈夫か?」

連夜「っで何かあったんですか?」

国定「今、試合中でさ大河内のヤツが肩を痛めたんだ。代わりに出てくれ」

連夜「ハァ!?」

国定「とにかく急ぐぞ」

連夜「は、はい」






パキーン!!

司「くっ……」


 連夜たちが着いた頃には、点差が4と開いていた。守備の助けもあり、何とかツーアウトとったがランナー2塁・3塁のピンチ。 バッターは9番のレインをむかえるところだった。

連夜「タイム! 大河内さん、交代」

慎吾「……ようやく来たか」

連夜「俺じゃなく松倉やシュウに文句言え」

慎吾「後で聞く。早く行け。ピッチャーも交代だ、松倉」

松倉「あいよ」


司「すまない」

松倉「いや、ナイスピッチング。後は任せろ」

連夜「4対0の2・3塁か……バッターは……外国人か」

松倉「点数やるわけには行かないな」

連夜「いつも通り、内角にズッバーンと頼むぜ」

松倉「ああ」

 ちなみに6番に連夜が入りキャッチャーに7番に松倉が入り、ピッチャーになった。  ファーストの上戸がレフトに入り、真崎がセカンド、山里がファーストにまわった。


レイン「ピッチャーが変わったか

連夜「ハロー、ハーワーユー?」

レイン「………………」

連夜「冗談の通じない外国人だな

レイン「(普通に英語喋れるのかよ……)


ククッ!

バキッ!

レイン「チッ

 バットが折れたものの打球は一二塁間をしぶとく転がっている。  なお、レインは木のバットを使用している。

真崎「よっ!」

 俊足のセカンド真崎が打球に追いつき、一塁へトス。スリーアウトとなった。

連夜「ナイス真崎くん……はっ?」

松倉「ああ、そうか。お前いなかったもんな」

連夜「ん? どういうこと?」

佐々木「真崎と綾瀬が野球部入るってさ」

連夜「ふ〜ん…………綾瀬も!?」

慎吾「心外だな」

連夜「……まあ、いいや。よろしく」

慎吾「ああ」





7回の表

 4対1とリードされている桜花の攻撃。この回は9番の真崎からの好打順。

慎吾「……真崎、左打席で行け」

真崎「ん〜了解」

 慎吾の指示に何も言わず従う真崎。

木村「ほぉアイツスイッチだったんだな」

慎吾「お前は何見てたんだ」

木村「ちょっと度忘れしただけだよ」

慎吾「歳だな」

木村「ウルセー」

国定「(監督の威厳はどこいったんだ)」


東城「(この選手左もいけたのか……)」

真崎「(綾瀬が策もなしに指示は出さない。あの投手、右より左の方が苦手なんだろう)」

 真崎の予想は当たっていた。レインは左投手だが球種的に左打者の内角を攻めれるボールがないため、多少苦手としていた。

真崎「てりゃ!」

パキーン!!!

 ライト前へヒットを放つ。反撃ののろしを上げ、バッターはキーマンのシュウ。

シュウ「ふっ、ノリノリの僕を抑えれるかな?」

 桜花学院の1点はこのシュウのタイムリーによるもので、シュウ自身そのおかげで乗ってきているようだ。

レイン「(三振とりに行くぞ。次の右でゲッツーだ)

東城「(そうだな)

コッ

浦澤「読んでるよ!」

シュウ「スゥゥオオオ!!!」

ビシュ!

ダンッ!・パシッ!

徳本「速いな……春山以上かもしれん」

 判定はセーフ。内野安打でノーアウト1塁・2塁の大チャンス。  続く佐々木は送りバント。久遠を満塁策で歩かせ満塁で4番上戸。


慎吾「三振でいいです。思いっきり振ってください」

上戸「おう!」

連夜「ところで、何でさっきの交代の時守備も変えたんだ?」

慎吾「お前は知らんだろうが、上戸先輩ファーストで2エラーしたからな。 やっぱ向いてないんだなっと思ってさ。打撃にも少し影響あったし」

連夜「ふ〜ん」


クァーン!!!

レイン「何ッ!?

 レインが自信を持って投げたインハイの速球を詰まりながらも力でレフト前に持っていきタイムリーとなった。  2塁ランナー俊足シュウも返ってきて、2点を返した。

慎吾「高橋先輩、分かってますね?」

高橋「ああ。見せ所だな」

 慎吾の言葉を受け、ゆっくりと左バッターボックスに向う。

連夜「左打席!?」

木村「スイッチヒッターの練習してたのか!」

慎吾「真崎もスイッチになったとき、右打席のときスイング壊してましたから。 そうじゃないかなって思いましてね」

真崎「ああ、あの時は苦労したな」


東城「(う〜ん……左が苦手っていうレインの弱点バレたんかな?)」

高橋「(絶対打つ!)」

東城「(打ち気にはやってるな。ここはチェンジアップでタイミングをずらそう)

レイン「(ああ。CHANGE-UPな)

東城「(………………)」


高橋「ハッ!」

パキーン!

 打球はライト前へ鋭い当たりとなる。2塁ランナー久遠がホームに来て同点となる。

シュウ「ナイスバッティング!」

高橋「(サンキュ、綾瀬)」



東城「タイム!」

レイン「どうした?

東城「交代だ。ファーストに行け

レイン「な、なんだと!?

東城「徳本さん、お願いします」

徳本「俺は構わないが、レインはいいのか?」

東城「俺に権限があるんで、良い悪いは関係ないですよ」

レイン「チッ

 舌打ちをし、ベンチに下がっていくレイン。

浦澤「おいレインどこいくんだ!?」

東城「大丈夫ですよ。あいつ素直ですから」

 ベンチから左用ファーストミットと右用ピッチャーグラブを持ってグラウンドに戻ってきた。
 そのまま、徳本にグラブを渡し一塁の守備につく。



慎吾「ピッチャー変わってきたな」

連夜「ほぉ、徳本さんやん」

司「そう。覚えてたんだな」

連夜「まあな。世話になったし」

慎吾「どんなピッチャーだ?」

連夜「俺は一緒にプレーしたことないから知らん」

司「フォークが武器の本格派だな」

慎吾「じゃあ、低めは捨てていこう」

連夜「………………」

慎吾「………………あん?」

連夜「………………」

松倉「何してんだ、お前?」

連夜「あっ、俺?」

司「お前の打席だ」

連夜「……はぁ!? 俺大河内さんの打順じゃねーの?」

慎吾「お前は薪瀬のところに入れて、松倉は大河内先輩のところだ」

佐々木「確認しとけよ」


 目をこすりながら渋々打席に向かう連夜。


連夜「ったく、眠いのに打てるわけねーだろ」

東城「久しぶりだな、連夜」

連夜「ああ…………あん?」

東城「?」

連夜「おぉ、東城か。気づかんかった」

東城「お前らしいな」

連夜「ここの高校強いのか? お前が行くほどに」

東城「まぁ、それなりだと思うよ。元々誘われてたっていうのもあるし」

連夜「へぇ〜」

東城「中学の借り、返すよ」

連夜「悪いが今はやめろ。眠いんだ、俺は」

東城「相変わらずのマイペースだな、お前……」


 寝不足のため、速いボールについていけず三球三振に倒れる。


連夜「あ〜くそ……」

司「ドンマイ」

連夜「司、ここの高校ってどこ?」

司「緑央は宮城の名門だぞ?」

連夜「東北か。わざわざ関東離れたのか」

司「俺も手紙で知ったからな」


 続く、松倉と山里は切れ味鋭いフォークの前に三振に倒れ桜花は同点止まり。





8回の裏


 8回の表、真崎・シュウの連続ツーベースで1点勝ち越しに成功した桜花。  逆に1点を追う緑央の攻撃は8番の迎から。


東城「ちょっと劣勢」

浦澤「ちょっとか?」

東城「迎はともかく、レインから春山にまわる好打順ですから」

浦澤「(迎はともかくが余計だ)」

レイン「………………」

東城「わざわざファーストで残してるんだ。頼むぞ

レイン「………………」

 そんなこんなで迎が倒れレインに打席がまわってくる。


連夜「………………」

松倉「(ん? 珍しいな連夜が迷うなんて)」

連夜「………………」
松倉「(悩んだ挙句任せるのかよ。何を悩んでるんだ?)」

 松倉は初球、内角のストレートを選択。サイドハンドから左バッターの内角へ鋭いストレートだったが……

カーン!!!


 基本的なボールを前方で捉えるバッティングに速いスイングスピードで、完全に長打コース。


佐々木「っし、捕れる!」


ビュウウウ!!!

 強い風がホームからセンターへと吹いてきた。


佐々木「んなっ!?」


 風に乗り更に打球は伸び、センターのホームランゾーンを越えた。レインの同点ホームランとなった。


春山「ナイスバッティング!」

東城「さすがだな

レイン「ふっ

パチン!


 ハイタッチを求めてきたチームメイトたちに素直にするレイン。


浦澤「(なるほど。たしかに根は素直かも知れないな)」


松倉「くそー風のやろう」

高橋「風に文句言ったってしょうがないだろ」

真崎「しかし木のバットで良くあそこまで運んだな。風があったとはいえ」

連夜「元々芯に当たれば木だって飛ぶんだ」

山里「木を使うあたり、バッティングにも自信があったってことだろ」

連夜「そうでしょうね」

松倉「あ〜悔しい!」

高橋「それより、ここから上位だ。気をつけろよ」

連夜「じゃあ内野前進で。内野安打は阻止してください」

内野全員「おう!」



春山「う〜む、やっぱ前進か……」

連夜「(そりゃフルスイングで内野も抜けないほどだもん)」

春山「ならこうじゃい!」


ガンッ!


 叩きつけられた打球はピッチャーと二遊間の真ん中にちょうど上がっている。


松倉「くっ、シュウ! 頼む」

シュウ「おう!」

シュタタタッ! パシッ!


 素早く前進し、難しいショートバウンドだったが見事に捕球し一塁送球。


ズシャアアア!!!


 春山の決死のヘッドスライディング! シュウの送球より一歩速く、内野安打になった。


東城「よ〜し、上出来だ!」

徳本「どうするんだ?」

東城「単純な送りはしませんが、盗塁は無理でしょう。連夜相手じゃ」

徳本「そうだな。まあ、上手く繋いでくれ」

東城「はい」


松倉「(どう来るかな?)」

連夜「(向こうには東城がいるから盗塁はない。確率的にエンドラン?)」

松倉「(偉い強気だな。自分が強肩と言いたげだな)」

連夜「(中学時代、レフトアローをいう異名をとっていた俺だぞ?)」

松倉「(ああそう。まあ、エンドランね。気をつけるわ)」


コンッ


松倉「はぁ?」


 予想に反して送りバント。しかもピッチャー真正面。


連夜「セカンド!」

松倉「当然!」

春山「てぇーい!!!」


ズシャア!!!


シュウ「くっ……」


 迫力あるヘッドスライディングでシュウは体勢を崩され、松倉からの送球を上手く捕球できずオールセーフとなった。


松倉「何ッ!? アレでクロスプレーになんのかよ!」

連夜「速いな」←指示したのはコイツ

松倉「………………」


 続く徳本の打席で2人のランナーは勝負に出る。


東城「(ダッ!)

春山「(ビシュン!)

松倉「なんだと!?」

連夜「くそっ!(パシッ)


ビシューン!


高橋「お〜い!」


 焦った連夜の暴投で2塁ランナー春山は3塁を蹴ってホームイン。


連夜「悪い」

松倉「どうしたレフトアロー?」

連夜「嫌味言うな」


パキーン!


 その後、徳本のセンター前タイムリーで2点差となった。


シュウ「バッテリーして何してんの!?」

バッテリー「悪い」


浦澤「ハッァ!」


カーン!


シュウ「抜かせん!」


パシッ!


 ショート頭上を抜ける当たりをジャンプキャッチ。シュウの流れを食い止める好プレー。


松倉「ナイスプレー」

シュウ「グッ!」


 このシュウのプレーにより、立ち直った松倉は続く山本・松田を打ち取った。





9回の表


 2点のビハインドで迎えた最終回。先頭バッターは点を与えてしまった連夜から。


連夜「このまま終わったら後味悪いな」

慎吾「東城ってヤツ、リードが偏ってるな」

連夜「ん?」

慎吾「データ通りのリードだ。確率の高いリードしかしない」

真崎「それって普通だろ」

慎吾「アホ。やるのは人間なんだ。その通り行くわけないだろ。時には違ったこともして一人前だ」

連夜「その通り」

佐々木「(漣はもうちょっとデータ通りしてほしい)」


東城「(先頭は連夜か……ホームランが怖いですから、外角低めで)」


徳本「(ああ)」


ビシュ


連夜「そらっ!」


パキーン!


 逆らわず流し打ち。サードの頭上を超え、ヒットになった。


東城「くっ、しまった!?」


連夜「警戒しすぎ。バレバレだっつーの」


松倉「どうせなら2塁まで行けよな」

東城「(……くそ、まだそのスタイルを貫いていたか……!)」


 東城の計算が連夜のバッティングによって狂いを生じてリードが単調になってしまう。  そこを松倉に叩かれ、チャンスが広がる。続く山里は送りバントで2塁3塁でバッターは真崎。


真崎「よ〜し、チャンスだ」

東城「(……集中しなきゃな。良し!)」


 ここで東城は立ち上がった。


徳本「け、敬遠?」

真崎「ふ〜ん」


慎吾「満塁策か……」

高橋「しかしホントシュウにチャンスでまわってくるな」

慎吾「下位打線に漣と松倉がいますからね。当然っちゃ当然ですよ」

シュウ「なんか作戦ある?」

慎吾「任せる。頼むぞ」

シュウ「っしゃ!」


 その初球だった。


カキーン


春山「よ〜し」


パシッ!


松倉「ゲッ」

春山「お疲れ様でした」


ポンッ


 ショートライナーに倒れ、2塁ランナー松倉がその場でタッチアウト。  ゲームセットとなり、7対5で緑央学院の勝利となった。


連夜&松倉「ナイスバッティング」

シュウ「嫌味かよ」


東城「連夜、薪瀬」

連夜「おう東城」

司「やられたな」

東城「いや、連夜が頭から出てれば分からなかったぞ」

連夜「何言ってんだ。大河内さんだって有名な捕手だぞ」

東城「でも怪我してたろ? そう言う意味だ」

連夜「まあお前もまだまだだが、これから頑張れ」

東城「なんで上から目線なんだよ」

連夜「事実、上だろ」

東城「まあいい。万全な時に中学の借りは返すよ」

連夜「楽しみにしてるよ」


ガシッ


 握手を交わし東城はチームの元へ戻っていった。


松倉「じゃあ漣連夜。裁判の時間だ」

連夜「また唐突だな」

木村「いや、その前に試合の反省会だ」

慎吾「これより漣 連夜の法廷を開始します」

木村「っておーい!」

国定「弁護側準備完了してます」

松倉「検察側準備完了しております」

慎吾「じゃあ、冒頭弁論をお願いします」

松倉「被告人は高校生ながらオールで遊びまくり、こともあろうことがA組の☆♪さん を誘惑しイケナイ関係になってしまったようです」

1年全員「何―――ッ!?」
連夜「ちょっとマテーイ!」

慎吾「被告人が発言していいところではありません」

連夜「(このヤロ)」

松倉「これは許されるべきことではありません。罰するべきでしょう」

慎吾「ふ〜む。では判決を言い渡します」

連夜「異議アリ!

慎吾「異議は却下します」

連夜「判決速過ぎるだろ!」

慎吾「異議は却下します」

連夜「(このヤロ)」

慎吾「弁護人もよろしいですね」

国定「まあそれが事実なら」

連夜「いや、事実じゃありませんって」

慎吾「被告人は勝手に発言しない」

連夜「(このヤロ)」

慎吾「じゃあ判決を言い渡します」

有  罪

慎吾「では、この辺で」


 その後、連夜は全員にボコボコにされた模様です。


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