Ninth Melody―光あるところに影はあり―


 雨が降る中、とあるお墓の前に慎吾はいた。決勝戦が早々に決まり、自由行動となっていた。

ザァァ――!

慎吾「………………」

真崎「綾瀬……」

ザザー

 なぜこの二人が雨が降っているにも関わらずここにいるのか……それは数時間以上にさかのぼる……




 時は午前。決勝戦は正午からのため、ひとまず学校に集合していた。

木村「今日決勝なわけだが……天候があまりよろしくない」

連夜「みたいだな。昼過ぎには降ってくるらしいぞ」

木村「良くないコンディションの中、ウチに先発できる投手もいない」

久遠「最悪っすね」

木村「なんか綾瀬が良い作戦があるっていうからそれを聞いてみたいと思う」

国定「完全に綾瀬に任せてますね」

慎吾「とりあえず投手が薪瀬しかいない以上、薪瀬で行く」

司「ああ」

慎吾「まぁ雨でコールドゲームになるまで粘ろう。いじょ」

全員「………………」

木村「えっ? マジで終わり?」

慎吾「んなわけねーだろ。アホが」

木村「………………」

慎吾「ま、ここで言ってもしょうがないから。なるべくなら使いたくないし」

木村「そうか。じゃ今日のスタメンだけど……」


 その後、軽く一宮対策のミーティングを行い球場へ向った。





 試合は正午ちょうどに審判のプレーボールの声が響いた。

・・・・*

連夜「落ち着け、司! 一つ一つ!」

司「はぁ……はぁ……」

 イニングは4回。1〜3回はノーヒットに抑えたものの、1番の殿羽に出塁を許し、強肩連夜から盗塁を成功。  それから強力一宮打線の圧力で予想以上に早く限界が来ていた。

慎吾「くっ……上位打線はマジで厄介だな」

大河内「どうするんだ?」

慎吾「とりあえず下位打線なんで、踏ん張ってもらいたいですけど」

 しかし疲れ、精神的な面で追い込まれている司は持ち味であるノビのあるストレートに威力が感じられない。

パキーン

司「ッ……」

真崎「うおぉぉ!!」

バシッ!

連夜「真崎!」

真崎「森岡ぁ!」

スッ

シュウ「あいよ!」

 ジャンプ一番、真崎が右中間を確実に破ると思われた打球を捕り、すぐさまセカンドに入ったシュウにトス。

司「はぁ……サンキュ」

真崎「どういたしまして」

 この真崎のファインプレーで助けられた司だったが、ピンチは続く。ダブルプレーでランナーを無くしたものの  2個のフォアボールでアッサリとピンチにしてしまう。

連夜「(綾瀬……)」


大河内「漣がサイン待ちしてるぞ」

慎吾「いや……限界なんでしょうね。微妙なコントロールがつかなくなってるんだと思います」

大河内「どうするんだ?」

慎吾「次9番ですから、先ほどの真崎のようなこともあるかもしれないので……」

大河内「殿羽に回ったら交代か」

慎吾「はい……」


連夜「(続投かよ……9番だし踏ん張ってはもらいたいが……)」

キィーン

真崎「くっ」

 打球は鋭く1・2塁間を破る。2塁ランナーは迷わずホームに突っ込んでくる。

久遠「いかすか!」

ビシュウゥン!

連夜「ナイス」

バシッ

 ライト久遠からの好返球でタッチアウト。長い4回がようやく終わった。


慎吾「……漣……」

連夜「分かってる」

シュウ「よ〜し、4点ぐらいなんだ! 頼むぜ久遠!」

久遠「ああ」


パキーン!

田仲「(くっ……アイツとは相性悪いな)」

 2打席連続ヒットで久遠が出塁する。

佐々木「狙い目はファーストの天野!」

コツン

田仲「だぁしまった!」

 わざとファーストに捕らせるように強めのバントをする。普通ならセカンドフォースアウトになる打球だったが……

田仲「天野、2塁は良い。確実にバッターをアウトにしろ」

天野「おう!」

スカッ

田仲「………………」

佐々木「まだ守備は下手のままだな」

 参考:天野と佐々木(連夜も)は中学時代一緒でした。

慎吾「良し、大河内さん。お願いします」

 ここで打順は司になり、代打に大河内を出そうとしていた。

松倉「待て! ここは俺が行く!」

連夜「何言ってんだ。イヤでも後半投げなきゃいけないんだ。休んでろ」

松倉「ここで大河内さんを出すと後半何があるか分からない。誰かがケガをするかも知れないんだぞ?」

連夜「それはそうだが……」

松倉「ならここは俺が行って次の回から投げる。俺がダメなら、綾瀬の作戦をやればいい」

連夜「……どうする? 綾瀬」

慎吾「ふぅ……行け。頼むぞ」

松倉「ああ!」

 バットとヘルメットを持ち、ネクストバッターズサークルに向う。


アナウンス『8番薪瀬くんに変わりまして松倉くん』

連夜「おいおい、良いのかよ……」

慎吾「松倉が言ったことも一理ある。大河内さんを使って後がやばくなるよりかはマシだろ」

連夜「後に松倉がいるのといないのとじゃ展開が全然違うぞ」

大河内「いや、ここで松倉出すのは正解だと思うよ」

連夜「なんでですか?」

大河内「ほら」

連夜「えっ?」

 大河内は人差し指を空に向けていた。ベンチから少し顔を出して空を見ると薄暗い雲が広がっていた。

ポタッ

連夜「雨……9回まで出来ないってことですか?」

大河内「多分ね。4点が痛手だけど」

司「すいません」

大河内「いや、そんなつもりで言ったんじゃないから」

連夜「気にすんな。負けても関東大会は出場できるから」

大河内「それはフォローになってない」


カキーン!

松倉「っしゃ!」

 ライト前ヒットで三塁ランナー久遠が生還する。


慎吾「真崎、下手なバッティングしたら怒るぞ!」

真崎「任せんしゃい!」


ガキッ

真崎「あ……」


 4−6−3のダブルプレーに倒れ、チャンスの芽を潰す。

慎吾「ほぉ」

真崎「ドンマイ」

慎吾「ったくアホが。せっかくのチャンスを」

真崎「すまん」


 その後、松倉と田仲の投げ合いとなり点差4−1のまま6回を終えた。

慎吾「松倉、大丈夫か?」

松倉「ああ」

連夜「雨も強くなって来たし、時間稼いで中止にしね?」

シュウ「いいな、それ!」

慎吾「帰れ」

連夜&シュウ「すいませんでした」



殿羽「うぉぃ! 雨が強くなってきたYo!」

田仲「この回、終われば試合成立だ。それまで持つだろ」

天野「良し、この回さっさと終わらすぞ。初球打て! アウトで構わん」

殿羽「OK」

前田「少しはスポーツマンらしく正々堂々とやれ」


カキーン!

カキーン!


松倉「(くそ……思ったとおりのところにいかねぇ……)」

連夜「(限界か……)」


ザァァ――!


審判『タイムッ!』

 雨が一層強くなり、審判が中断を決め選手をベンチに戻した。


慎吾「言っちゃ悪いが、好都合だな」

連夜「なんだよ、結局思ってたのか」

シュウ「どうせ試合は来週だろ? 勝とうが負けようが関東大会に行けるんだし良いじゃん」

連夜「いや、勝った方が後が楽なんだよ」

木村「この雨じゃ続きはできないさ。帰り支度を始めろ」

連夜「うぃーす」

佐々木「おいおい」


 しかし木村の思惑通り、審判団は続行不可能と判断し中止となった。


連夜「おぉホントにか」

シュウ「スゲーな監督」

木村「だろ? カンだけどな」

シュウ「だと思ってました」

松倉「雨に助けられたな」

慎吾「そうだな。おい木村」

木村「ん?」

慎吾「ここで解散か?」

木村「ミーティングを学校でやって解散のつもりだが」

慎吾「俺、抜けていいか?」

木村「なんだ、用事あんのか?」

慎吾「まぁそんなところだ」

木村「ああ、いいよ。別に作戦とかじゃないから」

慎吾「サンキュ」





瑞奈「あ〜や〜せ〜さ〜ん〜!」

慎吾「…………待ち伏せかよ」

瑞奈「ふっふ〜ん♪ どこに行くんですか?」

慎吾「別に。どこでも良いだろ」

瑞奈「ひ、酷い……ここまで綾瀬さんに尽くしてるのに……」

 周りの人に聞こえるように話、その人たちから白い眼で見られている慎吾。

慎吾「あ〜もう! 勝手に着いて来い」

 早くその場から立ち去りたいと早歩きで移動する。言われた通りその後を瑞奈が着いていった。


・・・・*

瑞奈「ここは?」

 慎吾に後を着いて来て、辿りついた場所はお墓のあるところだった。

慎吾「俺の姉貴の墓。生きていれば今年24歳だな」

瑞奈「ってことは8歳も離れてるんですか?」

慎吾「そういうことになるな。俺にとっては母親以上に母親に近いイメージがあるよ」

瑞奈「どうして亡くなられたんですか?」

慎吾「ただの不幸な事故さ」


真崎「って言えたらお前は中学の時、挫折なんてしなかったさ」


慎吾「……真崎……」

瑞奈「どう言うことですか?」

慎吾「真崎!」

真崎「言うかよ。人の不幸なんてな」

瑞奈「……それもそうですね」

慎吾「…………ま、真崎の言うとおり。事故の裏には何かあった、そう読んでる」

瑞奈「……何かって?」

真崎「その事故は本当に事故だったのか?ってことさ」

瑞奈「……まさか……!?」

慎吾「可能性の話だ。実際は警察の調査の結果事故となってる。今更何調べたって無駄さ」

真崎「でもお前は納得してないんだろ?」

慎吾「ああ……なぁちょっと良いか? 真崎と話したいことがある」

瑞奈「……分かりました。ここ降りたところに喫茶店がありましたから、そこで待ってますね」

慎吾「助かる」


 雨で地面がぬかるんでいたため、ゆっくりと瑞奈はその場を立ち去った。  十分に離れ見えなくなったのを確認し、慎吾は口を開いた。


慎吾「実はな。あのAYASEってヤツ、知り合いなんだ」

真崎「ふ〜ん……んだとぉ!?」

慎吾「俺の姉貴の結婚相手、それがアイツなんだ」

真崎「ハアァ!?!?!?!?!?!」

慎吾「そしてあの事件にアイツが絡んでるんだ。絶対にな」

真崎「…………それで姿の件か……」

慎吾「はぁ……なんで俺、こんなところに来たんだろうな?」

真崎「迷ってる……からじゃね?」

慎吾「迷ってる? 俺が?」

ザザー

真崎「野球を始めたは良いが、姿の足取りなんて分からない。 この先どうしたらいいか途方にくれてるんだろ?」

慎吾「………………」

真崎「俺は考えるのは苦手だけどさ、アイツが野球をやってる限りまた会える。そんな気がするよ」

慎吾「……ふぅ……そうだな……」

ザザー


真崎「でもさ、お前の姉貴の相手がアイツってマジなのか?」

慎吾「ああ。つまり義兄弟になるわけ。どうも思ってねーけど」

真崎「………………」

慎吾「赤の他人さ。ただ姉貴や姿……大事なもんが全てアイツに奪われていく。そんな気がするんだ」

真崎「綾瀬…………」

慎吾「…………………」

真崎「大丈夫だ。姿が完全に裏切るなんて俺は思わない。奪われるんなら取り返せばいい。簡単な話だ」

慎吾「真崎…………そうだな……凹んで考えてるだけじゃ始まらないよな」

真崎「お前は今、桜花学院野球部を甲子園に連れて行くと誓ったんだ。今はそれだけ考えろ」

慎吾「……ああ、そうだな……」

真崎「後は時間が解決してくれるさ」


ザァァ――!


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