Thirteen Melody―何も出来ないもどかしさより……―


慎吾「………………」

連夜「………………」

慎吾「聞こえなかったな、漣。もう1回言ってみろ」

連夜「いやだからな……今日の試合、俺出れないわ」

佐々木「どうしたんだ?」

連夜「ん〜と、コレ」

 ポケットの中に入れていた右手を出す。

司「なんだよ、その包帯は」

連夜「昨日、花瓶を投げられてんだよ」

司「はぁ?」

連夜「で壁にあたって割れたんだけど、破片が俺の手に刺さったっつーかカスってな。その時は大したことなかったんだけど 帰って痛みが増したから見てみたら意外と深かったんだよ。力が入らないのなんので」

慎吾「はぁ……たたでさえ、真崎が出場止められてんのに……」

連夜「悪いな」

久遠「で、どうするんだ?」

慎吾「どうするも何もキャッチャー出来るの後、大河内先輩だけですからね。9回まで行けます?」

大河内「正直微妙だが、やらなきゃダメだろ。盗塁は抑えれないぞ」

慎吾「仕方ないでしょう。セカンドは山里先輩。ファーストは上戸先輩で、薪瀬レフトで出てくれ」

司「へ?」

真崎「千葉大会みたいに頭からいかないのか?」

慎吾「あの時はあくまで松倉がダメだったから先発だったんだ。今回はアホ二人のせいで薪瀬を出さなきゃいけなくなってんだろ」

連夜「おいおい俺は被害者だぞ」

木村「まぁまぁ。とりあえず今日の試合は実質9人で戦うわけか」

慎吾「真崎と国定先輩が止められてる以上はそうなるな」

連夜「大丈夫大丈夫。松倉が完封してくれるさ」

松倉「ちょ、マテや。相手分かって行ってんのか?」

連夜「埼玉遊楽だろ? 負けねー負けねー。俺が投げたって勝てるよ」

松倉「………………」

慎吾「まぁ良い。どうせ試合に出れないんだ。後で知ろうと今知ろうと大差ないさ」





リエン「有り得ないね。まったく有り得ない。君が何を望むのかは分からない。 ただ僕の前に現れた。ただそれだけを後悔するがいいさ」

 リエン・クロフォードの手には綺麗に磨かれ、刃がまるで鏡のようなナイフを持っていた。

男「や、止めてくれ。何でこんなことを……」

リエン「何で? それはコッチが聞きたいね。まぁ良いよ、俺はアヤセダイチの言うとおり動くだけさ」

男「綾瀬大地の差し金か! お前、アイツのために自分の人生棒に振る気か!」

リエン「ははは、フハハハハ。面白いね、この僕に説教する気? 惜しいね、君こそ道を外さなきゃこんなことにはならなかったのにね」

男「や、止めろ! やめろぉ―――ッ!」

ズパッ

リエン「……バカバカしいよ。まったく、バカバカしい」





関  東  大  会  準  決  勝
先   攻 後   攻
埼 玉 遊 楽 館 高 校 VS 桜  花  学  院
1年2B馳   倉 森   岡SS1年
2年3B小   川 佐 々 木CF 1年
1年CF矢   吹 大 河 内 2年
1年RF芦   屋 上   戸 1B2年
2年SS戸 津 川 高   橋3B2年
2年藤   嶋 久   遠 RF1年
2年LF見   前 松   倉1年
2年1B帆   足 山   里2B 2年
1年  乾    薪   瀬LF1年


龍「いや〜来たよ来たよ。ついに桜花との対決が!」

乾「今大会やけに頑張るなっと思ってたら、やっぱ理由あんのか」

龍「まぁ中学と違ってアピールしなきゃプロになれないだろ? だから出てる」

乾「中学は別に良いからサボりまくってたのか」

龍「だって俺が出なくても進がいれば勝てたからな。後は勝ち進んで目立つ時に打つ! 頭良いだろ?」

乾「呆れて物も言えんわ」

馳倉「それより梨遠は? アイツ、今日も来ないの?」

龍「なんか遅れてくるらしいよ。用事があるって」

馳倉「はぁ……またかよ。まともに出たことねぇじゃん」

戸津川「別に良いだろ、あんなヤツ。それとも俺との二遊間じゃ不満か?」

馳倉「いえ、そんなことはないんですが守備の安定感だと段違いですからね」

戸津川「ふん。俺はアイツを認めてないがな」

乾「……あ〜あ、ウチはアレがどうにかならないかな……」

龍「そればっかりはしょうがないだろ。さ、アップしようぜ」

乾「(コイツは……)」


アナ「関東大会準決勝。埼玉1位通過の埼玉遊楽館高校と千葉1位の桜花学院の対決です」

解説「桜花学院は大きく打順を変えてきましたね」

アナ「2回戦でケガをした真崎くんはともかく、漣くんまでどうしたんでしょうかね」

解説「投手の薪瀬くんを使わなきゃいけないあたり、出れない事情があるんでしょう」

アナ「そして対する埼玉遊楽館高校は2番でショートを打つ御柳くんが出てませんが」

解説「彼はほとんど途中出場ですからね。2回戦でフル出場したのが珍しいくらいです」

アナ「そうですか。ではまもなくプレーボールです」




1回の表


大河内「松倉、リードどうする?」

松倉「へ? 任せますよ、もちろん」

大河内「そうか。普段、漣と組んでるから急に俺のリードに変わったら調子狂うかなって思ってさ」

松倉「あ〜大丈夫です。気にせずリードしてください」


アナ「先攻、埼玉遊楽館高校の攻撃は1番セカンド馳倉くん。右バッターボックスに入りました」


大河内「(打撃は矢吹を基本にしている。松倉が普段どおりのピッチングすりゃ矢吹以外には打たれねぇだろ)」

 大河内の狙い通り、1番馳倉、2番小川と共に右バッターをスライダーで内野ゴロに打ち取った。

大河内「(良し。問題は次か)」


アナ「ツーアウトランナーなし。ここでバッターは3番矢吹くんが左バッターボックスに入ります」

解説「1〜2回戦まででホームラン3本打ってる強打者です。細心の注意が必要です」


馳倉「噂通りスライダーがいいキレしてる。だがお前なら打てないピッチャーじゃない」

龍「オッケー、楽勝だぜ」


連夜「んだとぉ―――ッ!?」

慎吾「落ち着け」

連夜「矢吹龍が敵にいるだと? 何で先に言わねぇんだ!」

慎吾「お前が試合に出るなら言ってる。だが出れないなら言う必要ないだろ」

連夜「むっ……」

慎吾「というかお前、中学一緒だったろ? 進路知らなかったのか?」

連夜「……忘れてた」

慎吾「………………」

連夜「で、対策練ってるのか?」

慎吾「正直対策らしい対策は練れないな。苦手コースなんてないだろ?」

連夜「ああ。だが初回からやる気を出すようなヤツじゃ――」


カッキーンッ!!!

連夜「………………」

慎吾「な、何ぃ!?」


龍「はっはっは〜、この矢吹様にかかれば打てない球なんでねーよ!」

松倉「くっ……」

大河内「(対左バッター最強の対角線からのスライダーをあろうことかライトスタンドに運ぶだと?)」

龍「良いピッチャーだ。詰まらされるとは思わなかったな」

大河内「詰まっただと?」

龍「ほら、バット見てみ」

大河内「た、確かに……芯には当たってない」

龍「ま、だが所詮は俺の敵ではないってことさ」


大河内「(焦るな、松倉。まだ1点だ)」

松倉「(は、はい)」

クククッ

芦屋「だぁ……」

ブ――ンッ!

松倉「ふぅ。4番は大したことないな」

芦屋「んだとぉ!?」

松倉「あ、すまん。つい口にしてた」

芦屋「前の矢吹が凄すぎて俺が霞んじまうんだコノヤロー!」

松倉「それは悪かった」


慎吾「大河内先輩、打たれた球ってなんです?」

大河内「松倉の決め球、対角線のスライダーだよ」

慎吾「えっ! 1打席目から使ったんですか!?」

大河内「悪い。だが1打席目から抑えなきゃ調子に乗るかと思ったんだ」

慎吾「まぁ俺もそうしていたでしょう。だが……それを打ったのか……」

連夜「(チッ、さすがだな龍)」

慎吾「(となるとこの先、松倉は通用しないってことになる……)」


 ここで慎吾は一つ間違いを犯すこととなる。
 標的を勝つことから矢吹を抑えるってことだけを考えてしまった。それがこの先、勝敗を決める間違った決断となる。





2回の裏


乾「よ〜し、今日は調子良いなぁ」

馳倉「1回にヒット打たれてて何が調子良いんだよ」

乾「打たれたけど、カーブのキレがええんよ」

馳倉「どこの生まれだよ……」


高橋「さてと、早めに1点返さないとな」


慎吾「あの乾ってピッチャー、左投げってだけで後は今までと変わらないだろ」

久遠「どういうことだ?」

慎吾「カーブ使いというが、スローは大岬の鳴海、縦は葉梨の響と戦っている。 この二人がまとめて合わさったのが乾と思えば何ら問題はない」

久遠「そういう問題じゃない気がするが……」

大河内「だが気持ちは綾瀬が言ったとおりで良いと思う。センター返しを心がければ苦労するピッチャーじゃない」

連夜「コントロールは抜群だからな。フォアボールは期待するなよ」

松倉「どうでも良いが、左投手マジで多いな。当たりすぎじゃね?」

連夜「そんなもん気にするな。根性で打ち返せ」

松倉「言うこと古いな」


スルスルスル

高橋「なろっ!」


キィーンッ!


戸津川「チィ!」


慎吾「よし、流石。久遠、エンドランだ」

久遠「エンドラン!? 今日の7番松倉だろ? バントで良いじゃん」

慎吾「1点ビハインドなんだ。思いっきり行くぐらいは丁度良い」

連夜「つーか今の久遠の言葉は享介を深く傷つけたな」

久遠「へ?」

連夜「いつも7番は享介だ。享介のままならエンドランは頷ける、そう聞こえるぞ?」

佐々木「良いんだ……打撃がヘボいのは自分がよく分かってる」

久遠「別にそんなつもりで言ったんじゃねーって」


馳倉「ドンマイドンマイ。ゲッツー行くぞ」

乾「ああ、ワンヒットぐらい大丈夫だって」

馳倉「(梨遠なら追いついてたな。ったく早く来いよな)」

戸津川「………………」


高橋「(ダッ)

乾「エンドランっ!?」

シュッ

馳倉「アホッ」

久遠「シッ!」

カキーンッ

馳倉「(ダッ)

パシッ

高橋「んなっ!」

スッ

戸津川「くっ(パスッ)

馳倉「…………くそ」

久遠「おー危ねぇ。セカンドが追いついた時は驚いたけどな」

佐々木一塁コーチャー「トスが早過ぎてショートがついていけてなかったな」


カキーンッ

松倉「よっしゃ!」

乾「あ〜もう……」


慎吾「ふっふ〜ん、痺れを切らしたな。スクイズでもやっちゃいますか」

連夜「え?」

慎吾「冗談だ」

連夜「(ヒソヒソ)真崎、コイツこんな冗談言うのか?

真崎「(ヒソヒソ)ん〜……まったくないわけじゃないな。自分の作戦がはまって気持ち良いんだろ

慎吾「あ〜ゴホンッ! 初球から仕掛けてみるか」


山里「(スクイズね。今日は早い段階で作戦たてるな)」

乾「………………」

久遠「…………(ダッ)

山里「(サッ)

戸津川「ランナー走った!」

乾「えっ!?」

シュッ

コキンッ

久遠「(ズシャーッ)っしゃ!」


アナ「スクイズ――ッ!!! 初球から仕掛けてきました、桜花学院!」

解説「左の乾くんとは言え、ちょっと無警戒でしたね」

アナ「8番山里くんのスクイズで2対1。桜花学院が勝ち越しに成功しました」


慎吾「精神的にまだ甘いな。中学時代多少名を馳せた投手ってわりには崩しちゃえば大したことない」

連夜「まぁ組んでたキャッチャーが凄かったのもあるだろうな」

慎吾「…………投手が良いのは半分は捕手のおかげ。松倉が良いのは、俺のおかげって言いたいのか?」

連夜「…………さ、守って行けよ、お前ら!」

慎吾「話を誤魔化すな」

真崎「つーか、まだ攻撃中だろ?」

連夜「アホ言うな。バッターは司だぞ? ガキッと打ち損じてゲッツーに倒れるさ」


ガキッ


乾「(パシ、ビシュ)


アナ「ピッチャーゴロ! セカンドに送って、フォースアウト。更にファーストへ転送しダブルプレー! 最小失点で抑えました」


連夜「な?」

真崎「………………」




4回の表


松倉「ハァッ!」

ズッバーンッ!

乾「くっ……」

大河内「(このクロスボールを矢吹は運んだんだよな……)」


クククッ

乾「当てるだけなら!」

ガキッ

大河内「くっ、ショート!」


シュウ「オッケーッ」

スッ

ビシュッ!


審判『アウトッ!』

乾「えー」

松倉「おーナイス、シュウ。上手くなったな」

シュウ「任せんしゃい」


馳倉「(一回り目はスライダーとストレートの二球種のみ。警戒してくるならここで別の球種が来る)」

大河内「(何を狙ってくるか……いや、来た球を打つって可能性もあるか)」

シュッ

馳倉「(ストレート)」

ズバンッ!

松倉「(ほ〜ピクリとも動かなかったよ)」

大河内「(チェンジアップで様子見るか。外角に外して来い)」


シュ

馳倉「(遅い、チェンジアップか!)」

キィーン


アナ「1、2塁間抜けたぁ! 外角のチェンジアップを逆らわずライト前へ」


松倉「うわ、綺麗に打たれたな」

山里「悪い、追いつけたかも」

松倉「ドンマイ。一個ずつ確実に行きましょう」


スッ


高橋「送りバント!」

アナ「2番小川くん、迷わずバントの構え!」


カツンッ


高橋「任せ!」

大河内「セカンッ!」


ビシュッ


山里「(パシッ)


ズシャアァア


審判『セーフッセーフ!』

山里「なっ! なろっ(ビシュ)


上戸「(ボスッ)あっ…………」

松倉「ウソーン」


アナ「オールセーフ! 記録はサード高橋くんのフィールダースチョイス」

解説「馳倉くんの足を考えるとちょっと無理がありましたね」


上戸「ゴメン、ゴメン」

松倉「まぁ、今のは取ってても微妙なタイミングでしたし……」

高橋「だが問題は次のバッターだな」

大河内「(矢吹に回したくないって思いが無茶な指示を出しちまったか……)」


連夜「タイムッ!」


アナ「おっと、桜花学院がタイムをかけました。1回目の守備タイムでしょうか?」

解説「ベンチで指示が出てますね。交代かもしれません」

アナ「どうやらレフトの薪瀬くんとピッチャーの松倉くんを交代するようですね」


司「まさかここで出番とはね」

大河内「肩は大丈夫か?」

司「さっきの回に綾瀬に言われて早めには作ってましたんで、大丈夫ですけど」

大河内「出番が来ると思っておらず気持ちは出来てないか」

司「そういうことですね。まぁワンポイントでしょうし、しっかり抑えますよ」

大河内「良し、頼んだ」


龍「薪瀬くんね。1打席ずつピッチャー代えられちゃったらキツイな」

大河内「松倉との第1打席で打ったヤツが何を言う」

龍「多少データあればね。うちのセカンドはデータ収集ハンパないし、俺が打てる理由はそこかもね」

大河内「(やはりキーマンは馳倉か)」


連夜「思い切ったことをするな」

慎吾「矢吹を抑えなきゃ勝てるわけがない。なら良い手だと思うが」

連夜「まぁな。(ただここで司まで打たれたらどうする気だよ……)」


ビシュッ


シュパーンッ


龍「ヒュー。これが4シームジャイロか」

大河内「(そ、そこまで知ってるのかコイツ……)」

龍「これがコーナーに決められちゃ振り遅れそうだな。流石に」

大河内「(薪瀬、次は低めだ。アウトローで一気に決める)」

司「(分かりました)」


ビシュッ


龍「ハァッ!」


パッキーンッ!!!


アナ「いったぁ!!! レフトスタンドへ、文句なしの一撃!」


司「そんな……」

大河内「(一杯食わされた? いや、違う。たしかに振り遅れてはいた)」


慎吾「だが広角に打ち返し、最小限の力で打球を飛ばした……ってわけか」

連夜「一撃で勝負を決めるサムライ。龍が中学時代言われていた名だよ」

国定「聞いたことあるな。代打で出て、勝負どころで決めていくのが由来だっけ?」

連夜「ええ。フルイニング出て攻守で要となった天才桜星進と比較対照になったのはその違いもあるでしょう」

真崎「それより逆転されたぞ。どうするんだ?」

慎吾「この回は薪瀬に抑えてもらうさ」


カキーンッ


カキーンッ


司「………………」

シュウ「落ち着け落ち着け」

大河内「(ちょっと精度が落ちてる。矢吹に運ばれたのがショックだったか……)」


カキーンッ!


シュウ「抜かすかぁ!」


バシィッ!


司「シュウ!」

戸津川「ほぉ。良い反応だ」


慎吾「ふぅ……危なかった……」

真崎「でも乾に対してはタイミングあってきてるし、2点差ぐらい大丈夫だろ」

慎吾「だと良いけどな……」





4回の裏


司「ゴメン、打たれちゃって」

松倉「気にすんな。取り返せばいいだけさ」

慎吾「この回は高橋先輩からでしたね。2回の時のように効率よく行きましょう」

シュウ「なんでみんな、あんな遅い球打てるの?」

連夜「そういやシュウは対鳴海もそんな成績良くなかったな」

慎吾「まだタイミングを上手くとれてないんだろ。速い球なら大分反応できるようになってるが」

真崎「それよりさ、向こうに動きがあるぞ」

慎吾「あん?」


馳倉「ようやく来たか」

戸津川「………………」

梨遠「遅れてすいません、キャプテン」

戸津川「別に来なくても良かったんだがな」

梨遠「そういうワケにもいかないでしょう。アナタじゃ馳倉の重りになりますからね」

戸津川「なんだと!」

梨遠「本当のことでしょう。打撃でも矢吹には叶わない。アナタがキャプテンの理由をしりたいですね」

戸津川「貴様!」

芦屋「あ〜もう! 良いからいつも通りの守備位置で早くやろうぜ。キャプテンもここは穏便に」

戸津川「チッ!」

梨遠「ハハハ、芦屋の方がよっぽどキャプテンらしいね。人一人操れない器の癖にキャプテン気取るんじゃないよ」

戸津川「くぅ……」

梨遠「さ、馳倉。俺が来たからには思いっきり守備しな」

馳倉「……あぁ」

乾「……あ〜あ……どうにかならんかね?」

龍「いずれ決着はつくさ。俺らは俺らが出来ることをしよう」

乾「お前ねぇ……野球は9人でやるもんだろ」

龍「そりゃそうだが、高校野球ってピッチャーと一人打てるバッターがいるだけで全然違う。 俺らがまともにやれれば、チームとしては上がっていける。そうだろ?」

乾「……それは野球とは言わないぜ」

龍「じゃあお前はこんなチームで、お前の言う野球ができると思ってんのか?」

乾「……そ、それは…………」

龍「だろ? なら俺らは勝ち進まなきゃいけない。こんな状態で3年間やるなんてゴメンだからな」

乾「矢吹……(考えてないようで考えてんだな……)」


アナ「ここで埼玉遊楽館高校に動きがあるようです。ショートの戸津川くんがサードへ、サードの小川くんに代わって御柳くんが入ります」

解説「いつもの布陣になりましたね。戸津川くんに悪いですが、御柳くんの守備は卓越してますからね」


慎吾「……り、リエン・クロフォード!」

真崎「なんだって!?」

連夜「……知り合いか?」

慎吾「知り合い……ではないが、俺がまだ野球やってたとき、比較された男だよ」

佐々木「リエン・クロフォードって名前は知らないが、俺らも桜星が比較されて聞いた名だろ?」

連夜「だっけ?」

佐々木「御柳梨遠だよ。確かセカンド守ってたやつと知り合いじゃなかったっけ?」

連夜「あぁ、日夜のところのショートか。天才ショートストップ、桜星進と同等、それ以上の守備っていっても過言じゃなかったな」

慎吾「グラブ捌き、肩、送球、ショートとしての守備は桜星にも劣らない。打撃じゃ流石に敵わないがな」

連夜「ふ〜ん……っで、名前の違いってなんだ?」

慎吾「リエン・クロフォード。あいつの両親が日本人とアメリカ人なんだ」

佐々木「つまりハーフってことか」


カキーンッ


高橋「よし!」


梨遠「これがヒットになるのは前の回だけだよ」


パシッ


ビシュッ!


高橋「なんだとぉ!?」


連夜「完全にセカンドベースの上を通った打球だぞ……」

慎吾「ポジショニング、打球判断も完璧。ただ上手いヤツなんてごまんといる。桜星もその辺が優れてるだろ?」

連夜「あ、あぁ……そうだな」

真崎「話を戻すけど、実は俺らは日本の方の名前を知らないんだ」

佐々木「つまり御柳梨遠は知らないと?」

慎吾「ああ。御柳は母親、クロフォードは父親の姓なんだろう」

司「なぜ別々に名乗ってるんだ?」

慎吾「さぁな。ただ俺が知ってるリエン・クロフォードはとあるヤツと関係がある。そういう点で使い分けてんじゃないか?」

連夜「とあるヤツ?」

慎吾「お前が俺に聞いてきた名さ」

連夜「!!! やっぱお前!」

慎吾「悪かったな、誤魔化して。だがお前が考える接点は俺とヤツにはないぜ」

連夜「………………」


久遠「ハッ!」

カキーンッ


馳倉「(シュタタタ)

パシッ

シュッ!


久遠「セカンドが塁間埋めてやがったか……」

山里「ショートが変わったことによって、カバーする必要がなくなったからな。一塁よりに守備を変えてきたってことか」

佐々木「元々馳倉の守備範囲は広い。そこに梨遠が入ったら鉄壁の二遊間になるな」

連夜「それより綾瀬、お前ほんとに?」

慎吾「ああ。調べてもらって一向に構わない。俺とヤツに血の繋がりはないぜ」

真崎「漣は何でそいつの名前知ってるんだ?」

連夜「……さぁな。それを言えないあたりお互い様だと思わないか?」

真崎「………………」

慎吾「そのうち話すよ。お前からも情報欲しいからな」

連夜「時期が来たらな」


キィーン!

シュタタタッ

馳倉「(パシッ、スッ!)

梨遠「(パシ、ビシュッ!)


松倉「何っ!?」

久遠「あれは……」

連夜「秋の大会、対国立玉山戦で山里さんとシュウがやったやつだな」

山里「だが俺らと違って完璧だ」

連夜「どういうことです?」

山里「あの時は綾瀬の指示でセンター返し阻止にゲッツーシフトみたいに二塁ベースに近づいてたんだ。 だから俺とシュウはゲッツーをとる感覚であれをやったんだ」

連夜「なるほど。だからシュウはセカンドベースについたのか」

山里「だがあいつらは通常の守備体系で、しかもセカンドはどこにいるか分からないショートに向って上手いトスをした」

慎吾「リエンも受け取った後の送球が早く、左の松倉をアウトにした」

連夜「流れは完全に向こうだな」


乾「ナイス守備!」

梨遠「あれくらい動作もないさ」

戸津川「………………」

龍「(これでも出てこないか、レン)」




 ベストメンバーになった埼玉遊楽に対し、連夜、真崎と主力どころを抜いている桜花。  しぶとく食い下がったが梨遠・馳倉の二遊間にヒット性は防がれ、矢吹に2点タイムリーを浴びて勝負あり。


ビシュッ

大河内「ハッ!」

パキーンッ!

梨遠「お疲れさん」

バシッ


アナ「ショートライナー! 今日猛打賞の大河内くん、最後も良い当たりを放ちましたが、御柳くん真正面。ゲームセット! 埼玉遊楽館高校、決勝戦に勝ち進みました!」


ウウウウウウ━━━!!!


・・・・*

龍「お〜い、レ〜ン〜」

連夜「龍……敗者に声をかけるなんてフェアじゃねーな」

龍「そういうなって。ほえ? どうした、その手は」

連夜「ちょっとな。このせいで今日出れなかった。まぁ決勝頑張れよ」

龍「やっぱケガだったんか。楽しみにしてなのにさ」

連夜「悪かったな。俺がリードしてりゃお前にパカパカ打たれなかっただろうし」

龍「はっはっは〜。誰がリードしても誰が投げても相手が俺じゃあしょうがないさ」

連夜「ただのナルシストじゃん」

慎吾「おい、漣行くぞ」

連夜「あいよ、じゃあな」

龍「おうまたな」


梨遠「……ククッ……」

慎吾「(リエン……クロフォード……)」

連夜「綾瀬?」

慎吾「ん、何でもない、行こう」


龍「御柳、あいつと知り合いか?」

梨遠「ん、なんでだ?」

龍「いや、そんな気がして」

梨遠「さぁな。互いに互いを知ってるが、知り合いではないさ」

龍「ふ〜ん……?」


リエン「アヤセシンゴ、お前が真に強き者ならこの俺にたどり着いてみな」



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