Fifteenth Melody―演じることしか出来ないピエロ―


リエン「ははは、笑えるだろ。俺は哀れなピエロなんだよ」

慎吾「何で戦うことを選ばない? そこまでわかってて!」

リエン「お前には分からないさ」

慎吾「そうでもないさ。お前にあったことは聞いたよ」

リエン「……あの似非探偵か」

慎吾「お前が辛い思いしたかは分かった、だけどな」


ガシャッ

リエン「ハッ、俺の辛さが分かる? 何ふざけたこと言ってんだよ!」

慎吾「………………」

リエン「自分の手で人を殺した時、どんな思いか分かるか? 分かるわけねーだろ!」

慎吾「リエン、だからって綾瀬大地に縋ったところで何も助かりはしないぞ」

リエン「分かってる。そんなことはな」

慎吾「なに?」

リエン「だけどな……アイツに命令され、それを従ってる時、俺は初めて生きてて良いって実感が湧くんだ」

慎吾「例え道具として扱われていてもか?」

リエン「ただの殺人者が道具として扱われるんだ。これ以上嬉しいことはないね」

慎吾「お前、そこまで死んでるのかよ……」

リエン「とっくの昔にな。甘ちゃんのお前にはわからねぇよ」

慎吾「あぁ?」

リエン「お前、何のためにアヤセダイチを追ってるんだ?」

慎吾「それは――」

リエン「友達のためだろ? どんだけ正義面すれば気が済むんだ?」

慎吾「………………」

リエン「挙句の果て、もういない姉の影を追って事件を掘り返そうとしている。 お前、自分のことしか考えてないだろ?」

慎吾「それは……」

リエン「所詮、アヤセダイチの前じゃみんな哀れなピエロなんだよ。お前の姉も、まんまと――」

大地「クロフォード、お喋りが過ぎるよ」

リエン「チッ、アヤセダイチ……」

慎吾「リエン、今なんて言おうとした!」

大地「クロフォード。例のヤツが動き出した、処分を頼む」

リエン「……ああ」

慎吾「リエン!」

リエン「アヤセシンゴ、俺のことより自分の過去を洗ってみるんだな」


 リエンはそのままその場を離れた。残されたのは慎吾と大地の二人。




 話は少し遡り、椎名に助けられリエンの過去を聞くところ。(14章ラストの続き)

シイナ「リエン・クロフォード。彼はアメリカ人同士で生まれた生粋のアメリカ人だ」

慎吾「え、そうなんですか!? だって、アイツ日本の苗字も名乗ってますよ」

シイナ「御柳だろ? それは夫の方が日本に来て再婚した相手が御柳なんだ。その関係だろ」

慎吾「の癖に日本語上手すぎだよな……」

瑞奈「とりあえず、そこはどうでも良いですよ」

慎吾「ま、そうだな。っで、アイツの過去と関係あるんですか?」

シイナ「問題は日本に来てからなんだ」

慎吾「日本に?」

シイナ「そう。やっぱ新しい環境に馴染めなかったようでね、学校にも名を置くだけで行ってなかったみたいだし」

慎吾「………………」

シイナ「ところで、御柳って知ってるか?」

慎吾「聞いたことありますね。確か朝里と関係ありませんでした?」

瑞奈「御柳家といえば、朝里の分家にあたるはずです」

シイナ「その通り。逆に言えば朝里の力を抑えれるのは分家の御柳と朝森くらいだろ」

慎吾「なるほど……」

瑞奈「どうしたんです? そんな腑に落ちない顔して」

慎吾「いや、椎名探偵が言いたいことが見えなくてな」

シイナ「慎吾くん。色々考えるのは良いことだが、本質を見失ってはいけないな」

慎吾「本質?」

シイナ「そう。君が今、私に聞きたいことは何かな?」

慎吾「……リエン・クロフォードの過去……ですね」

シイナ「そう。それを頭から離しちゃダメだ。では私から質問しよう。それくらい名のある家系の娘、言わば跡取りだ。 そんな人が異国人と結婚すると言ったらどうする?」

慎吾「そりゃまぁ……その人が家系を継ぐなら良いことではないでしょうね」

シイナ「その通り。だから消そうとした」

慎吾「なんですって!?」

シイナ「刺客がリエン・クロフォードらの家に送り込まれた。当然、父親を殺るためにね」

慎吾「……で、やられたんですか?」

シイナ「結局はね」

慎吾「………………」

シイナ「だが事実は少し違う」

慎吾「え?」

シイナ「刺客は父親を殺そうとしたが、それを本能的に察したリエン・クロフォードが庇った。そのとき暴走した」

慎吾「暴走?」

シイナ「まぁ例えは色々あるけど、何かの拍子にスイッチが入るって言うだろ? 人が犯罪やる時だって何かしらのスイッチが 入るから、取り返しのつかないことをやってしまうんだ」

慎吾「ま、まさか……?」

シイナ「暴走したリエン・クロフォードは刺客を返り討ちにした。最悪の結果でね。 一度入ったスイッチはそう止まらない。周りが見えなくなったんだろう」

慎吾「………………」

シイナ「止めに入った父親や母親もリエン・クロフォードの手によって……ね」

瑞奈「そんな……」

シイナ「じゃあ次の問題だ。なぜそんなリエン・クロフォードが綾瀬大地に手を貸すか」

慎吾「リエンがその事件を起こしたのっていつです?」

シイナ「確か3年前ぐらいだったな」

慎吾「(一緒だ……姉貴が亡くなった年と……)」

瑞奈「ちょっと待ってください」

慎吾「ん?」

瑞奈「いくらなんでも、そんな人数をやっちゃったんです。警察に身柄を取り押さえられるでしょう」

シイナ「その通りだ。そこにある人物が出てくる」

慎吾「綾瀬……大地か」

シイナ「うむ。どういうわけか警察の動きを止め、独自でリエン・クロフォードの身柄を預かった。 残念ながら綾瀬大地に関しては私も情報がないのだよ」

慎吾「でしょうね。俺もそんなに詳しくないですから」

シイナ「慎吾くん、職業や基本的なプロフィールでも何でも良いから知ってることを教えて欲しい」

慎吾「そういや俺も職業は知らないっすね。姉貴だって普通のOLだったし、どこで知り合ったかも俺は分かりません」

瑞奈「ちょっと無関心すぎません?」

慎吾「姉貴が誰とどこで知り合って、結婚までいったかなんて俺にはどうでも良いからな」

瑞奈「昔から根暗だったんですね」

慎吾「誰が根暗だ、誰が」

シイナ「と、ともかくだ。どういう経緯でリエン・クロフォードを手元に置いたか分からないが 時期的に、綾瀬大地はその事件を知ってることになる」

慎吾「………………」

シイナ「リエン・クロフォードが自分のしたことを知らなければ、綾瀬大地に騙されていることになる」

慎吾「知らなければ?」

シイナ「自分が人を殺し、しかも自分の両親もだ。そんな記憶、常人なら真っ先に本能が消すはずだ」

慎吾「じゃあ逆に覚えていたら?」

シイナ「分からない。だが、リエン・クロフォードは言ったとおり綾瀬大地にとって敵対する者を消している。つまり……」

慎吾「人を殺ることを躊躇していない……」

瑞奈「それってどういうことですか!?」

慎吾「簡単だよ。人を一度でも殺してしまえば、戻ることができない。そこには何者にもない強さがあるってことさ」

シイナ「そう。綾瀬大地の命とは言え、消しているのであればリエン・クロフォードは覚えていなきゃおかしい」

慎吾「で、でもリエンが実際、その行為をしてるって確証があるんですか?」

シイナ「ああ。あれは……いつだったかな……大体4〜5日前だったと思うが。今日のように尾行していたんだ」

慎吾「探偵の尾行って一つ間違えばストーカーですよね」

シイナ「安心しろ。私は元警察。顔が利く」

慎吾「(そういうことではない)」

シイナ「ともかく、彼がまた命を受け行動してるという情報を得たから尾行してたんだが、そこでその現場に辿りついたんだ」


・・・・*

男「君はなんだ! こんなところに呼び出して」

リエン「今から死ぬ人に何も語る必要はないさ」

男「な、なんだと!?」

リエン「有り得ないね。まったく有り得ない。君が何を望むのかは分からない。 ただ僕の前に現れた。ただそれだけを後悔するがいいさ」

 リエン・クロフォードの手には綺麗に磨かれ、刃がまるで鏡のようなナイフを持っていた。

男「や、止めてくれ。何でこんなことを……」

リエン「何で? それはコッチが聞きたいね。まぁ良いよ、俺はアヤセダイチの言うとおり動くだけさ」

男「綾瀬大地の差し金か! お前、アイツのために自分の人生棒に振る気か!」

リエン「ははは、フハハハハ。面白いね、この僕に説教する気? 惜しいね、君こそ道を外さなきゃこんなことにはならなかったのにね」

男「や、止めろ! やめろぉ―――ッ!」

ズパッ

リエン「……バカバカしいよ。まったく、バカバカしい」

シイナ「何がだ?(ズキッ)

リエン「何で人のために庇うのかな。理解しがたいよ」

シイナ「理解する必要はない。今日は引きなさい」

リエン「へぇ、俺としては二人やっちゃっても良いけど?(シャキ)

シイナ「やめときな。ケガじゃすまなくなるぞ」

リエン「チッ、あんただけは敵にしたくねーな。俺は試合があるし、今日は引かせてもらうよ。だが次はないと思え」

ダッ


シイナ「大丈夫か?」

男「ええ、ありがとうございます。しかしあなたは?」

シイナ「これぐらいケガに入らない。安心しろ」

男「あなたは確か椎名辰彦氏ですよね?」

シイナ「ああ、覚えていたか」

男「当たり前です。幾度となく助けていただいて……」

シイナ「気にするな。ところで今襲った男、リエン・クロフォードと言うんだが、調べてもらえないか?」

男「構いませんが、以前仰っていた綾瀬美佳のは?」

シイナ「分かったのがあれば事務所に送ってくれ。今はリエン・クロフォードのほうを優先させて構わない」

男「分かりました。お任せください。でもその口ぶりですとまだ綾瀬美佳の事件追っていたんですね」

シイナ「ふふ。ちょっと前に再開したんだ。この事件を追っている高校生に会ってな」

男「高校生?」

シイナ「そのうち行かせるさ。お前は警察の方でも信頼できるからな、色々情報をあげてやってくれ」

男「そんなことしたら私の首が飛んでしまいますよ」

シイナ「その時は俺の元で働かせてやる」

男「勘弁してくださいよ」


・・・・*

シイナ「と、こんなことがあってだな」

慎吾「試合って言ってたってことは……俺らとの試合か」

瑞奈「確かに途中出場でしたが、そんなことをしていたとは……」

シイナ「ん? 慎吾くんも野球やってるのか?」

慎吾「ええ。選手としてではないですけど……」

シイナ「そうか。……まぁリエン・クロフォードに関してはもう少し情報を集める。それまで接触は避けてくれ」

慎吾「……分かりました」

シイナ「あ、それと後一つ聞きたいことがあった」

慎吾「なんです?」

シイナ「最近、同じような夢をみないか?」

慎吾「夢? ……そういや毎日ってわけじゃないですけど、変わった夢をたまに見ますね」

シイナ「それはどういう?」

慎吾「ハッキリと覚えてないんですが、交通事故に遭うような感じだったと思います」

瑞奈「大丈夫ですか!? 正夢にしないでくださいね!」

慎吾「あ、あぁ大丈夫だって」

シイナ「ふむ……夢を覚えとけって言うのは厳しいだろうが、意識しておいてくれないか?」

慎吾「あ、はい。良いですけど……」

シイナ「では、今日のところはこの辺で。気をつけてな」

タッタッタ

瑞奈「ふぅ……何か色んなことを一気に聞かされちゃいましたね」

慎吾「そうだな…………お前、今の話分かった?」

瑞奈「失礼ですね、椎名探偵の事務所行ったとき、私もいたじゃないですか!」

慎吾「あ、そうか……」

瑞奈「さて、邪魔が入りましたが、時間はまだたっぷりあります。デートに行きましょう!」

慎吾「悪い。話で疲れたから、今日は帰らせてくれ」

瑞奈「えぇ―――ッ!?」

慎吾「明日、暇だから付き合ってやる。じゃあな」

瑞奈「綾瀬さんの鬼――ッ!!!」


慎吾「……悪いな、巻き込みたくないんでね」

 慎吾の手には一切れの紙が握られていた。
 一人で指定の場所に来るようにと、リエン・クロフォードの指示書が。






大地「なるほどね。クロフォードに呼ばれてか」

慎吾「アンタはなんでここに?」

大地「さぁ? わかるかな?」

慎吾「知りたくもねぇ」

大地「なんだよ、お前から聞いてて」

慎吾「俺が聞きたいことは一つさ」

大地「それは?」

慎吾「姿和真はどこにいる? 無事なんだろうな?」

大地「あぁ大丈夫さ。彼は元気でやってるよ。それに4月になったら桜花に戻す気だし」

慎吾「何っ!?」

大地「僕は他にも現状の学校に不満を持ってる選手を他の学校に移したりしている。まぁ姿くんは例外だけど」

慎吾「……信用できるかよ」

大地「ホントだよ。そうだな……有名どころで言うと横浜海琳の菊咲くん、楽留くんは元帝王の選手だ」

慎吾「あんたが転校させたと?」

大地「そういうこと。姿くんもそうしようと思ったけど、彼らと事情が違ったからね」

慎吾「どういうことだ?」

大地「彼は力を手に入れたがっている。それを一生懸命指導してるわけさ。僕が」

慎吾「……アンタ、野球やったことあるのか?」

大地「さぁ?」

慎吾「………………」

大地「菊咲くんらは学校や周りに不満を持っていた。理由が違うんでね、力をつけさせたら桜花に返すよ」

慎吾「あんたの力で2年に進学させてか?」

大地「僕にそこまでの力あると思う?」

慎吾「桜花の校長は朝里グループの社長だろ? 簡単じゃね」

大地「ふ〜む……僕としてはそんな大物、敵にしたくないんだけどな」

慎吾「……いつまでとぼける気だ?」

大地「はいはい。まぁまた1年やるのもメンドイっしょ。そこは考慮させてもらうよ」

慎吾「俺から姿を奪うためにやったんじゃなかったんだな」

大地「そこまで悪党のつもりじゃないけどな。大体、奪うならお前にはまだ仲間がいるだろ?」

慎吾「(真崎のことか?)」

大地「奪うならまとめての方が楽だし効率が良いけど?」

慎吾「………………」

大地「お前に俺は超えられない。そしてお前は全て失うことになる。覚えておけ」

慎吾「………………」

大地「全てはこの綾瀬大地が描いたシナリオなんだよ」



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