Sixteenth Melody―聖なる日の約束―


− 1−B −

連夜「ドローワン」

シュッ

久遠「ドローワン」

シュッ

連夜「カードオープン。フラッシュだ」

久遠「ワンコイン追加。ドローワン」

シュッ

久遠「くっ!」

連夜「っしゃ、俺の勝ち。後ちょっとだぜ」

久遠「くそ――ッ、なんで勝てねぇんだろ」

シュウ「よ〜し次は俺だ!」

連夜「ドンドンきやがれ!」

司「…………何してんの?」

佐々木「トランプだけど」

司「まぁ見れば分かる。何でわざわざB組に来てやってんの?」

久遠「気にするなって。薪瀬もやるか?」

司「やらん。大体、普通に金が飛び交ってるんですけど」

連夜「そりゃポーカーってコインかけなきゃ面白くないし。あ、ドローワン」

シュウ「くぅ、お前いっつもドローワンするな。怖くないのか?」

連夜「勝負はいつも踏み込まなきゃダメだって」

シュウ「じゃあ俺も! ドローワン!」

連夜「カードオープン。Kのスリーカード」

シュウ「Aのスリーカードだ!」

連夜「ゲッ。んじゃワンコイン、ドローワン」

シュッ

連夜「(パチン)来たぜフォーカード」

シュウ「なぁにぃ!?」

司「え、ポーカー?」

久遠「ポーカーだけど、オリジナル要素を加えた。知らない?」

司「知らないな。初めて見る」

久遠「一応あるかなーって軽くルールでググって見たんだけど、出なかった。残念だ」


(´ー`)ノ<残念だ。

司「あん?」

連夜「いやー良かった良かった。+3000円だぜ」

司「どんだけだよ!」

連夜「今日何の日だい、司くん」

司「学校の終業式+クリスマスイヴだろ?」

連夜「そう! クリスマスイヴなのだよ!」

司「はぁ……」

連夜「最近、彼女のこと放置プレイしてたら滅茶苦茶拒絶されたから、それなりのプレゼントを買わないとあかんのや」

司「知らんわ。だから友人たちからむしりとるな」

連夜「あ、いや返すよ。休み明けに。ただ普通に貸してくれなかったから」

シュウ「だって彼女のプレゼント用って言われて素直に貸す一人身の男がいると思うか!」

司「あーそういうことね」

久遠「結局、取られたけどな。あー悔しい」

連夜「残念だったな」

佐々木「じゃクラスに戻るか。そろそろHR始まりそうだし」

シュウ「オッケーッ」

連夜「じゃまたな」

シュウ「おぅ!」


− 1−A −


慎吾「……あのよ、ここ1年のクラスだぞ」

真崎「………………」

慎吾「なんでアンタがいるんだ?」

瑞奈「シーッ、ちょっと黙っててください」

慎吾「………………」

真崎「………………」

瑞奈「あと……ちょっと……」


ガラッ

シュウ「ウィッス!」


ガラガラガシャァ

瑞奈「あ――ッ!!!」

シュウ「へ?」

佐々木「って朝森先輩?」

星音「へへ、先輩の負けです」

瑞奈「むー。シュウくんのせいで崩しちゃったじゃん」

シュウ「あ、すいません」

慎吾「いやナイスアシストだ森岡。っで何でいるんだよ」

瑞奈「いや星音ちゃんの相談受ける&遊びに」

真崎「トランプといいジェンガといい、色んなものを置いてある学校だな」

慎吾「あのな、こんな教室のど真ん中で堂々と恋バナ相談されても困るぞ」

瑞奈「別に星音ちゃんがここで良いって言ったんだし、綾瀬さんたちにも相談があるみたいですよ」

慎吾「あん?」

シュウ「ふっふっふ〜なら、この私めが相談に乗りましょう」

佐々木「おいおい……」

星音「ふふ、ありがと。でも大丈夫♪」

慎吾「どうせ漣のことだろ。あいつなら君のことちゃんと気にかけてるよ」

星音「え?」

シュウ「そうそう! 今日だって今まで相手出来なかったからってちゃんとしたプレゼント買ってやろうって――」

真崎「……どうした?」

シュウ「俺らからポーカーで金を取っていったっけ……」

真崎「………………」

星音「……そうなんだ……」

瑞奈「ほら言ったじゃん。漣くん優しいって」

シュウ「友人たちには容赦ないけどな」

真崎「ポーカーってただ取られたわけじゃないだろ。負けるお前が悪い」

シュウ「んだとぉ! じゃあやってみろよ、勝てねーって」

真崎「……ま、後でな」

佐々木「(口だけかよ)」

慎吾「人一人大事に出来ねー男が彼女なんて作らないよ」

佐々木「でもそうだよな。あいつそういうのメンドクサイって言いそうなイメージあるし」

星音「それもそうだね。みんな、アリガト♪」

瑞奈「綾瀬さん。漣くんに見習ってもう少し優しくしてください!」

慎吾「なんで俺がアンタに優しくしなきゃいけないんだ?」

真崎「綾瀬、人一人大事に出来ねー男が――」

慎吾「うっさい、黙れ」

真崎「俺にももう少し優しくしてくれないか?」

慎吾「はぁ……とにかくアンタはHRに戻れ」

瑞奈「分かりましたよー。帰り待ってますからね!」


ガラッ

シュウ「綾瀬!」

慎吾「な、なんだよ……」

シュウ「お前もちゃっかりと作ってたんだな……」

慎吾「違うわ!」

佐々木「1年の樋野さん、2年の朝森先輩と人気の高い女子が野球部に取られてるってんでかなり目の仇にされてるぜ」

真崎「だろうねぇ」

佐々木「教頭も元々野球部設立は反対だったし、作るために先輩たちを他の部から引き抜いたしね」

慎吾「目の仇にされる理由、そっちじゃねーの?」

真崎「甘いな。自分がどんな女性を彼女にしてるのかわかってないようだな」

慎吾「あのな……俺はアイツと付き合ってる覚えはないぞ。勝手な噂話だ。大体、その噂の元はどこから来たんだ?」

星音「それだったら瑞奈先輩が自分で言ってたよ」

慎吾「はぁ!?」

真崎「本人が認めてるんだ。お前の言い訳はすでに無だな」

慎吾「俺だって本人だろ! 俺が認めてねぇって言ってんだから」

シュウ「綾瀬、お前のような人間が見苦しいぞ」

慎吾「森岡、そういうことマジで言わないでくれ。しかもお前のようなヤツが」


ガラッ

高橋「あ、佐々木たち! 放課後、1回部室来てくれ」

佐々木「へ? どうしたんですか?」

高橋「監督に呼ばれたんだ。じゃそういうことで」


佐々木「なんだ、急に……」

慎吾「まぁ行けば分かるだろ」

先生「じゃあそろそろHR始めて良いかな?」

慎吾「……すいませんでした」


・・・・*

 先輩たちから部室に集合しろとの命を受け、部室に集まる1年だったが……


連夜「悪い。俺、彼女のところ行くから出ないわ。なんだったか後で教えてくれ」

司「あいよ」

連夜「恩に着る!」


ダッ

久遠「……薪瀬、お前人がいいな」

司「知らなきゃ困るような内容だったら伝えなきゃいけないだろ」

久遠「そんなの出ないあいつが悪いんだーい」

司「………………」

真崎「おーい、さっき漣とすれ違ったけど?」

久遠「あぁ彼女とクリスマスデートだってよー」

真崎「あぁそうか……でもまさか部集会出ないとは思わなかったわ」

シュウ「そうだよね。綾瀬だって来たのに」

慎吾「別のこの後予定ないしな」

瑞奈「ひーどーいーでーす!」

慎吾「……卑怯だぞ」

瑞奈「さっきHRの時、高橋くんとすれ違って内容聞いたら、もしかしてそれを 理由に来ないかと思ってきてみれば案の定じゃないですか!」

慎吾「とにかく知ってんなら、今日は諦めろ」

瑞奈「嫌です! 大体漣くんもいないなら、選手でもない綾瀬さんがいなくても良いと思いますけど」

真崎「まぁそりゃそうだな」

シュウ「良いよ、行っても」

司「後で内容は伝えてやるし」

慎吾「……お前らな……」

瑞奈「じゃあ行きましょう!」


ズルズルズル

慎吾「コラ、引っ張るな」


真崎「(ニヤッ)……さ、行くか」

シュウ「(ニヤッ)だな」

佐々木「(何が狙いだったんだ?)」


− 野球部・部室内 −


佐々木「つーかちゃんと部室出来たんだな。部室とは名だけの物置だったのに」

シュウ「それか視聴覚室だったからね」

国定「夏、そしてこの前の関東大会での成績で教頭も渋々承諾したんだって」

佐々木「あ、国定先輩。今日の集まりって何なんです?」

国定「すまん。俺らも知らないんだ。監督は2年担当の先生だから、直接1年たちに集合かけてくれって言われただけだし」

真崎「ふ〜ん、何したんだろ。もしかして甲子園出場決まったとか?」

大河内「それはないと思うぞ」

久遠「あれ、でも関東の門って案外広いですよね」

大河内「順位的には可能性があるだろうが、センバツは何も関東大会の順位で決まるわけじゃないからな」

国定「それに同地区の一宮高校が神奈川の名門、横浜海琳を抑えて優勝してるしな。ちょっと不利」

久遠「なるほど」


木村「第一、センバツ発表は2月頃だ。今の時期じゃねーだろ」

全員「遅いわ」

木村「すいませんでした」

高橋「っで用件はなんです?」

木村「ん〜、なんか足りない気がするが良いか。実は新入部員がいてな」

佐々木「は? この時期にですか?」

木村「そ。転校生なんだけどさ。ホントは2年に上がるところでだったんだけど」

山里「確か転校生って出場規定ありましたよね?」

木村「その通り。その転校生って学年が上がるまで公式戦に出れないんだよね」

上戸「へぇ〜そんなルールあったんだ。良く知ってるな山里」

山里「まぁそれなりに勉強したし」

木村「まぁそう言うわけで無理言って学校に入学手続きはしてもらった。実際は2年上がってからの登校になるがな」

佐々木「何で遅れて来るんです?」

木村「あーなんか向こうの学校で進級のためのテストやってから来るんだって。だからこっちでもいきなり2年からOKみたいな」

佐々木「なるほど」

木村「ってことで倉科透くんだ」

透「こんちは〜」

佐々木「来てるのかよ!」

透「いやー冬休み間近やからな。野球部の人たちには挨拶しとこ思おて」

真崎「お、関西弁か」

透「まぁ出身は神戸やけどな。半分大阪暮らしみたいなもんやし、染み付いてしもうて」

シュウ「ええって、これからよろしゅうな」

透「おぉよろしゅう頼むわ」

大河内「わざわざ野球部入るあたり経験者か?」

透「一応そうですわ。関東大会で好成績収めたこの学校でお役に立てるか分かりまへんが」

大河内「いや、うちは人数が少ないから十分助かる。これからヨロシク」

透「こちらこそ。ところで漣連夜がこの学校にいるって……」

大河内「ん? あぁいるけど、今日は用事があって来てないんだ」

司「知り合いか?」

透「ちょっと……ね」

司「…………?」

シュウ「まぁまぁ、とにかく仲間も増えたことだしクリスマスパーティと行こうぜ!」

上戸「その後はカラオケ&ボーリングと行こうじゃねーか!」

木村「あ、ほどほどにしてくれ。俺、お前らを補導するの嫌だからな」


・・・・*

慎吾「つ、疲れた……」

 クリスマスデートとは名だけであり、瑞奈の買い物に付き合わされた慎吾はかなり疲れていた。
 しかも買ったのは極少数。じゃあなぜあんなに見て回ったのか慎吾には不思議でたまらなかったが、ある意味それが女性なのだ。


瑞奈「ふっふ〜ん♪ おっ買い物は楽しいな〜♪」

慎吾「おいコラ」

瑞奈「なんです〜?」

慎吾「なんです〜? じゃない。まだ見て回る気か!?」

瑞奈「まだ半分も見てませんよ!」

慎吾「……マジかい……」


 目がキラキラと輝いている瑞奈を前に、慎吾は諦めるしかなかった。

慎吾「どうでも良いが……」

 慎吾はベンチに座り、改めて辺りを見渡した。

慎吾「ここしか来るところないんかい……」

 同じ学校で知ってるヤツをこれまで何人もすれ違ってきた。慎吾たちの学校である、桜花学院や駅に最も近いデパートがここだからだ。
 そしてすれ違うたびに酷く睨まれてきた。出来ることなら代わってくれ、そう口にしたら慎吾は桜花には通えなくなる可能性がある。


瑞奈「あーこれも良いな、でもこっちも捨てがたいなー」

慎吾「……はぁ……」

 それくらい瑞奈は人気が高い。慎吾にとっては良い迷惑でしかないが。


星音「あれ? 瑞奈先輩じゃないですか」

瑞奈「あー星音ちゃん。星音ちゃんも買い物?」

星音「えぇ。レンくんが欲しいのいくらでも買って良いって言ってくれたから」

連夜「い、いや……一応上限あるからな」

瑞奈「ふ〜ん、良いなぁ」

連夜「あれ、綾瀬と一緒じゃないんですか?」

瑞奈「いるよ。ほらあそこ」

連夜「あ、ホントだ」


 瑞奈が指さした時、慎吾はちょうど瑞奈のほうを見たためバッチシ連夜と目が合った。
 このまま無視するのもどうかと思い、特に用がないもののベンチから立ち上がり、瑞奈たちのところへ来た。


慎吾「他に行くとこないのか、お前ら」

連夜「そっくり返せるぞ」

慎吾「俺はコイツに連れて来られただけだ」

瑞奈「あー酷いです! ホントはデェトしたいのに素直じゃないからこうして私がリードを……」

慎吾「それは誤解だ」

瑞奈「むー!」

星音「ケンカするほど仲が良いって言いますよね」

連夜「そうだな。慎吾の場合、男版ツンデレってところか」

バキィ

慎吾「それ以上言うなら俺にも考えがあるぞ」

連夜「ほ、ほぉ……」

星音「さ、まだ終わってないからね。ドンドン行くよ♪」

連夜「(なんで女ってこんなに無駄に見て回るんだろう……)」

星音「レンくん? な〜に?」

連夜「……別に。行くぞ」

星音「じゃあ、また瑞奈先輩、綾瀬くん」

瑞奈「お幸せに〜」

慎吾「さ、俺らもそろそろ――」

瑞奈「そうですね」

慎吾「お?」

瑞奈「星音ちゃんたちに負けないように、ドンドン見て回りましょう!」

慎吾「………………」


 そうじゃない、と言えぬまま慎吾は引っ張られるまま瑞奈の買い物に付き合った。いや、付き合わざる負えなかった。
 理由は簡単。瑞奈に逆らえば、全校生徒を敵に回すことになるからだ。



・・・・*

 慎吾は半ば暴走と言っても言い瑞奈を止め、ようやく店を後に出来た。
 閉店まで買い物をしかねない瑞奈を止めた一言は『俺が買ってやるからもう良いだろ』だ。
 予想もしてなかった出費は痛かったが、これで解放されるならこの出費は無駄じゃなかっただろう。


慎吾「(くそー……これから年明けに出費が嵩むのに……)」

 ……予想以上にダメージは大きかったようだ。


瑞奈「ふっふ〜ん♪ いい買い物でしたねー」

慎吾「そりゃ良かったな」

瑞奈「自分から奢ってて泣くなんて失礼じゃないですか!?」

慎吾「はいはい」


 慎吾は住んでいるアパートに帰ろうとして歩いているのだが、瑞奈は黙って着いてくる。

慎吾「なぁアンタ。家はどこなんだ?」

瑞奈「へ? えっとぉ……きぎょ――」

慎吾「企業秘密って言うのはもう良いからな。第一、パクリだし」

瑞奈「じゃ、じゃあ……」

慎吾「……いや良いよ。別に知りたいわけでもないし」

瑞奈「あー酷い! 酷すぎます!」

慎吾「じゃあ教えてくれるのか?」

瑞奈「うっ……」

慎吾「だろ? なら良いさ」

瑞奈「…………なんか面白くないですね」

慎吾「あっそう。じゃあもう一つ質問がある」

瑞奈「なんですか!?」

慎吾「アンタ……リエン・クロフォードと知り合いなのか?」

瑞奈「な、なんですって?」

慎吾「この前、クロフォードと会ったとき、どうもそんな感じがしてね」

瑞奈「それは……その、気のせいですよ!」

慎吾「どうだか。俺はアンタがクロフォードのプロフィールを挙げた時のクロフォードの台詞が頭から離れないんだ。 『流石ですね』って言葉がね。これは確実にアンタを知ってるから出た言葉だ」

瑞奈「向こうが知ってても私が知らないって可能性だってあります」

慎吾「自分で可能性提示はどうかと思うがね。俺は覚えてる。そういわれた後のアンタが一瞬だが顔を引きつらせたこと。 そしてすぐ話を逸らしたこと。ちょっと偶然とは言いがたいだろ?」

瑞奈「……でも証明はしてません」

慎吾「だな。じゃあ俺がクロフォードに挑発した時、なんて言ったか覚えてるか?」

瑞奈「………………」

慎吾「アンタは『コイツは本気でやりますよ』ってな。クロフォードが人殺しって知ってたのか?」

瑞奈「そ、それは椎名探偵が言ってたじゃないですか」

慎吾「いや、椎名探偵から聞いたのはあの後だったと思ったが?」

瑞奈「ッ……えっと……ですねぇ……」

慎吾「……なぁアンタ。例えば、好きなヤツや付き合ってるヤツがいるとしてだ。ソイツに秘密全部言うか?」

瑞奈「え? 急になんです?」

慎吾「ま、隠し事するかってことだ」

瑞奈「そうですねぇ……あんまりしたくないですかね」

慎吾「くくっ。そっか」

瑞奈「な、なんです?」

慎吾「いや、別に。そっか、じゃあ俺はまだアンタの特別な存在にはなれてないってことか」

瑞奈「あ〜そう来ますか。ズルイですねぇ、いつも私のこと邪険に扱うくせに」

慎吾「俺はアンタが俺の中で特別な存在になるように意識してるつもりだ」

瑞奈「…………え?」

慎吾「今すぐとは言わない。だが、時が来たら隠さず話して欲しい」

瑞奈「…………なんか綾瀬さんらしくありません」

慎吾「……かもな」

瑞奈「でも悪くありません」

慎吾「……ふっ」


 聖なる日に交わした二人だけの約束がそこにはあった。



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