Eighteenth Melody―神の見えざる手―


カッキーンッ!

姿「ふぅ……ありがと皆河」

皆河「どういたしましてー」

姿「(大地さんに着いてきてもう半年か……)」


 とある球場で姿はマウンド上にいる皆河と呼ばれる男相手にバッティング練習を行っていた。
 そのスイングスピード……いや、体格はもちろん風貌までも夏、桜花で野球をやっていた時とはまるで違った。


鴻池「弱点だったストレートに振り遅れるって言うのも大分なくなったな」

皆河「まだまだだけどな」

姿「(綾瀬……真崎……どうしてっかな……)」

皆河「すーがーたー? どした〜?」

姿「ん、何か言ったか?」

皆河「いや、別に何でもねーけど……」

大地「やぁやぁ頑張ってる〜?」

皆河「遅いっすよ」

大地「すまんね、ちょっと仕事が多くてさ。ヤになっちゃうわ」

鴻池「半分くらい俺らにやらせてるくせに何言ってんですか」

大地「それはそれ。これはこれ、だ。皆河を除く3人の頭の良さを使わないわけにはいかないからな」

皆河「失礼な、本気になれば俺は横浜海琳にだって受かりますよ」

鴻池「スポーツ推薦でな」

皆河「………………」


大地「あぁそうだ、姿くん。この前のテスト終わってる?」

姿「え、あぁはい。鴻池に渡してますけど」

大地「そ。鴻池、採点は?」

鴻池「終わってますよ」

大地「さっすがだな。言わんでもやってくれてるとは」

鴻池「何年あなたの傍にいると思ってるんですか」

大地「……何年だっけ?」

皆河「俺らが中1の時だから……」

鴻池「はぁ……今年で4年たつんです。あなたの考えてることぐらい分かります」

姿「なぁ、4人とも一緒に大地さんについたのか?」

皆河「いや、笹森が最初で次が俺、そして藤原、鴻池の順だな」

大地「4人とも同世代じゃ敵は恐らくいないと思うよ。まぁ綾瀬大地四天王ってところかな」

姿「へぇ〜……でも勿体無いよな」

皆河「何が?」

姿「それぐらいの実力があれば甲子園なんて余裕だろ。地区にもよるだろうが」

皆河「別に甲子園なんて興味ないからなー。俺、力を手に入れたいだけだし」

鴻池「ま、人それぞれ考え方があるんだ。お前だって力が欲しかったからだろ?」

姿「まぁ……な」

大地「さ、姿くん。テストしようか」

姿「またっすか?」

大地「今度は野球のテストさ。君がこの半年間につけた力を試してみようじゃないか」

姿「は、はい!」


 姿はこの半年間、全国の高校を周り初めて見る投手を相手に打つというのをやってきた。
 どんなピッチャーでも初めて見るピッチャーに対応できれば3〜4打席も回ってくるウチのたった1回のチャンスぐらい簡単に打てるからだ。


姿「っでピッチャーって誰が? もうプロの投手ともやりましたし……」

大地「ボクだよ」

姿「大地さんと勝負?」

大地「安心しろ。勝負じゃない、君のバッティングが見たいんだ」

姿「は、はい」

大地「皆河、笹森と藤原を呼んできてくれ」

皆河「へ? あ、あー了解」


大地「では姿くん状況2点差、回は9回でランナー1・3塁ツーアウトだ。君は4番バッター」
姿「はぁ……」

大地「僕は真ん中高めにストレートを投げる。それなりなスピードは出すけど、まぁ打ち頃の球さ」

姿「俺はどうすれば?」

大地「ただ打てば良い。君が4番打者としての仕事と思うことをやれば良い」

姿「分かりました」

大地「じゃあ鴻池はキャッチャーをやってくれ。捕るだけだから出来るだろ」

鴻池「うーす」

皆河「連れて来ましたぜー」

笹森「何ですか?」

大地「じゃあ3人は一応守備についてくれ。笹森は外野、皆河と藤原でニ遊間を」

藤原「……俺内野経験ないですよ」

大地「別に良い。君たちもやったことあるシュミレーションをやるだけだ」

藤原「あーなるほど。分かりました」


 それぞれが綾瀬大地に言われた守備位置についた。

大地「よっ」


ズバーンッ

大地「くぅ〜肩重いなぁ」

鴻池「年ですか?」

大地「最近運動してなかったからかな」

皆河「俺やりますか〜?」

大地「大丈夫大丈夫」


姿「(4番として俺が出来ること……か……)」

ビシュッ

姿「(2点差で1塁ランナーを還すなら長打しかない。こういう場面で打ってこその4番だ……)」

ビシュッ


大地「よっと」

ズバーンッ!

大地「オーケー。姿くん、バッターボックスに入って」

姿「はい!」

大地「状況を再確認しよう。9回2点負けててランナーは3塁1塁だ。良いね?」

姿「はい」


皆河「(笹森にやったのと同じシュミレーションだな)」

藤原「(実力的には両者引けを取らない。姿はどういうバッティングをするかな)」

笹森「………………」


大地「カウントは0−0から。同じ球投げるから好きなとき打って良いよ」

姿「分かりました」

大地「じゃ行くよ!」


ビシュッ

ズバーンッ!

大地「(初球は見逃しか)」

姿「(ここは確実に点を取らなきゃいけない。自分のペースで打たなきゃ……)」

大地「2球目!」

姿「ハァッ!」


キィーンッ

大地「……ほぉ」


 姿の打った打球はセンター前へ。状況的に3塁ランナーが生還し、2塁1塁となった。

大地「それが君の選んだ4番バッターかな?」

姿「えぇ」

皆河「おいおい、あんだけ強い打球飛ばせるようになったって言うのに考え方が小さくなったな」

笹森「姿、どういうことだ?」

姿「ん?」

笹森「俺はお前の実力を認めてる。だが、今のバッティングはなんだ!? この場面は4番の軽打はいらないだろ!」

姿「いや俺はこのバッティングをする。俺はあの場面で笹森みたいに一発逆転を狙えるほど精神力は強くない。 なら、俺は味方を信じ後に繋ぐ。野球には流れが存在するだろ? 4番の俺が得点し、繋いだなら完全に流れはこっちに来るはずだ」

笹森「チームで1番のバッターだから4番に座るんだろ! 後のバッターに何が期待できる!?」

姿「そうかな? うちのチームは変わったもんで、チーム1のバッターに2番を打たせて繋がせてるぜ」

鴻池「落ちつけ笹森。別にこれに模範解答はないんだ」

大地「その通りだよ。かつての笹森はこの場面で長打を狙った。でも姿くんは確実に点を取ることを望んだんだ」

笹森「しかし、これは4番のシュミレーションでしょ!?」

大地「笹森が考える4番と姿くんが考える4番とじゃ違いがあるってことさ」

笹森「4番バッターは試合を決める1打を放つのが絶対条件です」

大地「その考えは間違いじゃない。じゃあ姿くん、君の考えは?」

姿「試合の流れをこちらに向ける1打を放つことですかね」

皆河「……言ってること一緒じゃねーの?」

大地「似てるようだが違うよ。姿くんはチームメイトを信頼してるんだよ。それはボクの傍にいる君たちじゃちょっと分からないだろうね」

皆河「そうか……」

笹森「………………」

姿「笹森、俺はお前が羨ましいよ」

笹森「なに?」

姿「俺はお前ほど力がないから、あの場面で自分で決めにいけない。それもあるから俺は繋ぐバッティングをするんだ」

笹森「……大地さんも言ってるが、どっちが間違いとかないんだろう。いずれ俺とお前、戦う時が来るだろう。 そのとき、どっちが4番に相応しいのか証明しようじゃないか」

姿「あぁ、楽しみにしてるよ」

大地「さて、姿くん。君はこれからどうする?」

姿「え? どうすると言いますと?」

大地「桜花に戻るか、私たちと一緒にこれからもやるか、決めて良いよ」

姿「い、いや……今更戻っても……」

大地「この前やってもらったテストは桜花の進級試験だ。合格点だったし2年で戻ることは可能だよ」

姿「えっ!?」

大地「それに君が言った言葉。君はあのチームメートたちを求めてるようだし」

姿「それは…………」

大地「僕は君の望んだ通り、力をつけさせたつもりだ。転校を望んだ人たちと違って君は笹森たちと一緒で力を望んだ。 でも根本的に笹森たちと君とは違うみたいだしね」

姿「俺はあなたの下にはいれないってことですか?」

大地「そうじゃない。でも君自身が一番分かってると思うけど?」

姿「………………」

大地「姿くんが決めることだ。僕は道を作ってあげただけ、歩むかどうかは君次第だよ」

姿「大地さん……俺、桜花に戻っても……」

大地「うん。細かい手続きはやっておくよ」

姿「……何から何までありがとうございます!」

大地「気にしなくて良いよ。あ、実際学校行くのは春からね」

姿「分かりました。では今日はこれで失礼します」

大地「はいは〜い」


ガチャ

大地「ふぅ……」

藤原「大地さん?」

大地「人生上手くいかないもんだなー」

藤原「え?」

鴻池「本当は姿を留めて置きたかった?」

大地「彼はホント、凄いバッターになる……いや、十分力を持ってる。勿体無いな……」

藤原「なら何であんなことを?」

大地「姿くんが望んでいたからさ。まぁ君たちでも十分だけどね。うかうかしてると実力者たちに追い抜かれるよ」

皆河「よ〜し、大地さん。レジェンド完成させましょう!」

大地「オーケー」


ガチャ

リエン「アヤセダイチはいるか?」

大地「クロフォード……どうした、血相変えて」

リエン「話がある。時間とってもらおうか?」

大地「ボクと話す時は――」

リエン「アイツにはもう話を通した」

大地「ふぅ……しょうがないな。良いよ、近くに空地があったよね。そこにいて」

リエン「あぁ」


大地「と、言うわけだ。すまないな皆河、鴻池相手に投げ込んでてくれ」

皆河「しょうがないっすね」

笹森「さ、練習しよ練習」

大地「その息だよ」


・・・・*

大地「……どういうことだ?」

??「すいません……でも彼は今までと違う雰囲気だったので……」

大地「まぁ良いよ。お前らしくないけどな」

??「……あの、私は?」

大地「クロフォードが話あるのは私だけだろ。来なくて良い」

??「分かりました」

大地「クロフォード……一体なにがあったと言うんだ……」

??「………………」

大地「まぁ行けば分かるか。ここに来て、歯車を狂わせるわけにはいかない」


ガチャ


大地「さぁ終わりにしようか」



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