Twentieth Melody―さざなみが立つ時―


ダンダンダンッ

光「お兄ちゃん! 遅刻するよ〜、起きて!」


ダンダンダンッ

光「電車乗り遅れるよ〜」


ガチャッ

連夜「起きてる……っつーか早すぎ」

光「!!!」

連夜「あん?」

光「お、起きてたの?」

連夜「電車で行かなきゃ行けないからな。ちょっと早めに起きたんだ。つーか起こすにしてもちょっと早いぞ」

光「だってこのぐらいから起こさないとお兄ちゃん、時間に間に合わないじゃん」

連夜「アホ。そこまで時間にルーズじゃねー」

光「………………」

連夜「さ、朝食出来てんだろ? 行こうぜ」

光「う、うん……」


・・・・*

ガチャッ

鈴夜「ははは、光、連夜は起きなかったか」

連夜「おはよーさん」

鈴夜「…………はい?」

連夜「んだよ?」

鈴夜「……おはよ」

連夜「あぁ」

鈴夜「どしたの?」

連夜「何が?」

鈴夜「いや……早く起きるなんて珍しいから」

連夜「今日から学校だからな。早く行かなきゃ間に合わねーよ」

鈴夜「!!!」

光「……お、お兄ちゃんコレ……」


 光の手には体温計があった。明らかに違う兄に対して熱があるんじゃないかと悟ったらしい。

連夜「お前ね……俺をバカにしてんのか?」

光「そうじゃないけど……」

鈴夜「連夜、ホント何かあったのか?」

連夜「何か……さぁな。さて、早く準備しなきゃマジで遅れちまう」


ガタッ

 朝食をとり、イスから立ち上がり部屋に戻っていった。いつもと違う連夜に父と妹は唖然とするしかなかった。

光「……ホント、大丈夫かな?」

鈴夜「…………さぁ?」


・・・・*

 準備し、かなり余裕を持って家を出た。家を出る間際、またも二人にいらぬ心配をされたが連夜は軽く流して家を出た。
 元々連夜は桜花学院のある千葉で一人暮らしをしてるのだが、春休みってことで進級試験に合格してからずっと埼玉の実家に帰ってきていた。


連夜「……よぉ、日夜」

日夜「来たか。時間のルーズな連夜だから不安だったが」

連夜「時と場合によるんだよ」

 朝早く起きたのは偶然でも、ましてや学校に行くための電車に乗るためでもない。
 従兄弟の日夜に呼ばれていたからだ。そしてちょっと前に信じられない事実を聞き、その内容を詳しく聞きだしたかったから。



連夜「日夜、話す前に一言誓え」

日夜「ん?」

連夜「お前がこの前言ったこと、そしてこれから話すこと嘘じゃねーな?」

日夜「当たり前だ。リエンは俺の兄弟だぞ? そんな嘘つかねーよ」

連夜「…………死因は?」

日夜「心臓を銃弾が貫いたらしい」

連夜「………………」


 それはリエン・クロフォードが何者かに殺されたという事実。  当然、日夜はショックが大きかったがこれを連夜に伝えた。理由は簡単、リエンからの頼みだったから。

日夜「それ以外の情報は表向きには差し押さえられてる。ってことは逆算すれば犯人は……」

連夜「それが出来る人物か」

日夜「ちなみに御柳の……まぁ俺の力じゃ無理だった。ってことは本家の朝里か同じく分家の朝森の人間になるな」

連夜「…………あぁ、そうだ。リエンの手紙とやらは?」

日夜「おっとそうだった」


 連夜に言われ、肩にかけていたバッグを地面に下ろし中をあさる。

日夜「ほれ、これだ」


 日夜から渡されたのは手紙と呼べるものではなく、ただの紙切れだった。  字が綺麗に整っているのを見て、それが機械で打たれたものだとすぐ分かった。ただそんなのはどうでも良くて、気になるのは中身だけ。


連夜「……『漣家の血』……ねぇ」


リエン「日夜へ。最初に言っとくわ、今までありがとう。 なんつーかこんな道選ぶわって面と向かって言ったら殴られそうだから手紙にした。言っとくけど、俺はこの道に希望があると信じている。 だから今回ばかりは笑って許してくれ。お前に伝えたいことは一つ。『漣』という苗字を持つものを探し、これを伝えてくれ。 『悪魔の血』に関して綾瀬大地という人物が狙っているということ。正直、俺も良く分からん。なんせ盗み聞きした中途半端な情報だ。 だがこれだけキーワードが揃ってるなら、それに関わるヤツなら分かってくれるだろう。日夜、これが俺の最後のお願いだ。 こんな俺を兄弟と呼んでくれて嬉しかった。ありがとな、my brother


連夜「……ふぅん……綾瀬大地ねぇ」

日夜「正直偶然としか言いようがないな。漣という苗字を持つのが従兄弟にいるなんてさ」

連夜「従兄弟ね……」

日夜「……で、悪魔の血って何だ?」

連夜「知るかよ。そんな非現実的な言葉なんて」

日夜「ってことは鈴夜さんとかじゃないと分からないか……」

連夜「日夜、これに関しては俺が調べる。お前は親父に聞くなよ」

日夜「なっ! なんでだよ!?」

連夜「漣家に関することだ。お前は関係ない」

日夜「関係ないだと!? リエンが殺されたんだぞ!」

連夜「分かってるよ!」

日夜「連夜…………」

連夜「……すまない……お前には言っとくべきかもな」

日夜「悪魔の血……で?」

連夜「……いや、ビャクのことで」

日夜「白夜くん? 何したのよ」

連夜「俺が中2……まだ兵庫にいた頃から行方不明になってるんだ」

日夜「ハァ!?」

連夜「ちょうどこっちに引っ越してくる時かな。むしろビャクのことがキッカケでこっちに来ることになった」

日夜「ちょ、ちょっと待て。どういうことだ? お前、それ絶対誘拐だろ!?」

連夜「ビャクから置手紙があったんだ。その内容を俺は知らないが、親父はそれを見た後すぐ引越しを決めた」

日夜「……それって……」

連夜「どういうことだろうな? 俺にもわかんねーよ」

日夜「……っで、白夜くんのことは分かった。だがそれと鈴夜さんに血に関して聞くのと関係あんのか?」

連夜「俺だってだた桜花に入ったわけじゃねーよ」

日夜「は?」

連夜「桜花の校長は朝里のオーナーだ。そこからなら情報はいくらでも入ってくる」

日夜「お前……することが大胆だな」

連夜「ビャクをさらった……と言うかまぁ出し抜いた男が綾瀬大地という人物ってことが分かったんだ」

日夜「あやせだいち? ……それって!?」

連夜「そ。リエンの手紙に書いてる名前さ。だからさ……」

日夜「白夜くんのことが分かるまで俺に任せてくれってことか」

連夜「そういうこと」

日夜「分かったよ。そう言うことならな」

連夜「サンキュ。流石my brother」

日夜「おい……」

連夜「ははは。で今日学校だろ? 良いのか、ゆっくりしてて」

日夜「あぁ大丈夫。お前の方大丈夫か? もう7時半だけど」

連夜「ん、大丈夫」

日夜「言っとくけど千葉に行く電車、7時40分頃出るけど?」

連夜「良いよ。今日始業式だけだし、部集会に間に合えばな」

日夜「あぁそうなんだ……」

連夜「ほら早く行け。遅れるぞ」

日夜「お、おう! またな。何か分かったら連絡しろよ」

連夜「オーケイオーケイ」


 連夜は日夜から受け取った手紙をカバンに入れると欠伸を一つかき、駅へと足を向けた。


・・・・*

 場所は変わって桜花学院。綾瀬慎吾も欠伸をかきながらやっとの思いで登校してきた。

慎吾「………………」


 真崎の父、宏明を通して慎吾にもリエンのことは伝えられた。
 それから色んな考えが頭を巡っては消え巡っては消えて行き全然眠れない日々が続いた。


慎吾「はぁ……俺はホント、優柔不断だな」


 リエンがこうなることは“分かっていた”はずだ。自分でそうするように仕向けたんだから。
 それから綾瀬大地の動きを探りたかったが、今のところそんな様子はない。慎吾は少なからず悩んでいた。
 『クロフォードは思ってた以上に重要な役割ではなかったのか』っと。



真崎「よっ、おはようさん」

慎吾「うっす」

真崎「……元気ねーな」

慎吾「朝はあんまり強くないんでね」

真崎「どうせあの男のことだろ?」

慎吾「……そっか。そりゃ知ってるよな」


 普通に考えれば真崎の父、宏明から聞いた情報を真崎が知らないわけがない。

真崎「なんでこんなことになったんだろうな」

慎吾「……そうだな。どっかの悪魔が囁いたのかもな」

真崎「は?」

慎吾「お前は死ぬべき人間なんだよってな」

真崎「……なに言ってんの、お前」

慎吾「なんてな。さ、早く教室行こうぜ」

真崎「お、おう」


・・・・*

透「兵庫から来た倉科透や。よろしゅう頼む」

 透は慎吾たちと同じA組になった。野球部以外は初めてってことで挨拶をしている最中だ。

慎吾「へぇ転入生だってよ」

真崎「あぁアイツ野球部入るって」

慎吾「……何で知ってんの?」

真崎「冬休み前にアイツ挨拶に来てな。お前が朝森先輩とデートの日」

慎吾「あぁクリスマスイヴの話ってこれだったんか」

真崎「そういうこと」

慎吾「でも転入生って公式戦1年間出れないんじゃなかった?」

佐々木「一応転入手続きは去年に済ませたらしい。その問題もあって」

慎吾「ほーチャッカリしてるな」

佐々木「ついでに桜花って冬休み明け進級試験で潰れるじゃん」

慎吾「なるほどな」

真崎「ホント、1月〜3月フルに使うもんな」

シュウ「そうそう!」

慎吾「はぁ……お前ら、ホント留年するところだったな」

佐々木「綾瀬が教えなきゃ危なかったなぁ」

真崎「フッ、今こうしていれるんだから良いだろ」

シュウ「そうだよねー」

慎吾「……もう良いよ、お前ら」


先生「じゃあ倉科くんは綾瀬の隣に来てもらおうか」


慎吾「良いですけど、何で怒ってるんですか?」

先生「2年になっても君たちは私の話も聞かず無視してますので」

慎吾「……すいませんでした」


透「ちゅーことでよろしゅうな」

シュウ「おう!」

透「この辺は野球部の固まりなんやな」

佐々木「そうだな。ちなみに綾瀬も野球部だ」

透「おぉそうなんか」

慎吾「選手じゃねーけどな。裏監督だ。戦略に関しては俺を頼ってくれ」

透「分かったわ。ほなよろしゅう」

真崎「いや〜野球部ってことは運動神経良いんだろ? これは球技大会楽しみだな」

透「おっ、球技大会なんてあるんか?」

真崎「そや! GW前にな。今年は優勝目指してるんで期待してるで」

透「任せとけ」

綾瀬「(俺としては気苦労も増えそうだな)」


・・・・*

連夜「おはよーさん」

佐々木「遅ぇよ!」


 始業式も終わり、部集会が始まる時間にようやく漣がHRに現れる。

連夜「部集会には出ようと来たんだ。褒めてくれ」

佐々木「褒めるか!」

司「お前さ、少しは時間守るって覚えたら?」

連夜「ふっ、俺は優等生だから多少は大目に見られるんだよ」

真崎「優等生が聞いて呆れるぜ!」

連夜「何だと?」

真崎「真の優等生は綾瀬に決まってるだろ!」

慎吾「あのな、漣は去年の新入試験1位だぞ?」

真崎「…………へ?」

久遠「は、お前1位だったの!?」

連夜「んだよ。舐めんな」

久遠「いつもテストで60点前後しか取らないくせに……」

連夜「普段のはめんどくさいし、赤点じゃなきゃ問題ない」

久遠「一生懸命勉強しても点とれないっていうのに……」

慎吾「それに進級試験も1番に抜けたのコイツだし」

真崎「嘘ォ!? ずっと綾瀬だと思ってた」

連夜「ふっ」

佐々木「(中学の頃もそうだったからな、コイツ)」

慎吾「さ、部室に行くか」


 新2年生が部室に行くと新3年生はすでに全員揃っていた。

国定「全員来たか?」

連夜「ばっちりっす」

佐々木「お前が言うな」

真崎「そういや倉科は?」

慎吾「職員室行ってから来るってよ」

連夜「倉科?」

シュウ「そう! 転校生で、野球部に入る新しいチームメイトだぜ」

連夜「倉科って名前透か?」

シュウ「およ? 知ってるのか?」

司「そういや向こうも連夜のこと知ってたっけな」


ガチャ

木村「お、全員揃ってるな」

透「ども、皆さんこれからよろしゅう」

連夜「よっ」

透「おぉ――! 連夜ぁ久々やな〜」

連夜「壬生といい何なんだ、お前ら」

透「ちゃうちゃう。ワイは親の事情で已む無くや」

連夜「わざわざ桜花にきやがって」

透「連夜がいるって聞いたからな〜」

連夜「……はぁ……お前は相変わらず気楽だな」


木村「さて、倉科に続いてもう一人紹介したいやつがいる」

慎吾「ん?」

木村「入って来い」


姿「………………」

慎吾「姿ッ!?」

真崎「何ィ!?」

連夜「おー帰ってきたか」

大河内「今までどこ行ってたんだ?」

姿「ちょっと諸事情で……」

大河内「ふ〜ん……まぁ何事もなかったんならいいけど」

姿「すいません。ご迷惑かけて」

慎吾「冗談じゃねーぞ。どの面下げて帰ってきたんだ?」

姿「お前こそ何で野球部入ってんだ?」

真崎「テメェが――」


バキィ

慎吾「言うな、真崎」

真崎「だふぁらっへ、なふらんへほ……」

佐々木「大丈夫か?」


慎吾「チームメイトに迷惑かけるような自分勝手なヤツがいたらチームに悪影響を及ぼすからな」

姿「ふっ。なら実力で認めさす」

慎吾「何?」

姿「実力があれば問題ないだろ。俺は漣と約束した」

連夜「………………」

姿「生半可な気持ちで戻ってきていない」

慎吾「……いいだろう。すいません、先輩方良いですか?」

国定「あぁ好きにやってくれ。綾瀬の言うことも一理あるし、それに姿が乗るならな」

大河内「だが勝負方法は?」

慎吾「松倉、頼む」

松倉「俺?」

慎吾「あぁ。練習してたヤツ、あるだろ? 姿相手なら試すいい機会だ」

松倉「なるほどね」

姿「ふっ、面白そうだな」


透「ははぁ……血の気の多いヤツばっかやね」

連夜「退屈しなくて良いぞ。こいつら見てるだけで楽しいからな、くくっ」

佐々木「………………」


 今日は部集会のみで部活動は認められておらず、ユニフォームには着替えずにグラウンドに移動する。
 制服で互いに動きづらい格好だが条件は一緒。守備も普通につき、ヒットなら姿の勝ち、アウトなら松倉の勝ちというルールになった。



連夜「んで、松倉が練習してたやつってなんだ?」

佐々木「ってお前知らないのかーい!」

連夜「知るかよ。あいつ、最近大河内さんとしかピッチング練習してないみたいだし」

慎吾「まぁ、誰かさんが実家に帰ってていなかったせいもあるがな」

連夜「だってよ、享介」

佐々木「お前だお前」


ビシュッ、ビシュッ

姿「オーケー」

大河内「(随分スイングが速くなってるな……数ヶ月でここまで伸びるものか?)」

松倉「行くぜ、姿」

姿「おぅ、来いや」


 プレートに足をかける……が、そこからいつもの松倉と変わっていた。

姿「――!」


連夜「プレートの端に立ち、対角線に打者の胸元を抉る――」

慎吾「そう、クロスファイアーだ」


松倉「せぇぇいッ!」


ピシッ

姿「(くっ……きっつ……)」


ズッバーンッ!

司「ストライク!」


 松倉の右腕から放たれたボールは真っ直ぐに姿の内角に決まり、ワンストライク。  予想以上の角度に姿は見逃さざるおえなかった。

連夜「ほぉ、これに安定感が増せば強みにはなるな」

慎吾「……問題は姿のほうだな」

連夜「どうしてもストレートには振り遅れるって欠点があったからな」


姿「やるな、松倉。レベルアップしたのは俺だけじゃないってことか」

松倉「ふっ。じゃあ次はお前の力を……」


ザッ

松倉「見せてみろ!」


ビュッ


姿「(ストレート……いやっ!)」


クククッ

連夜「上手い!」


 ここで対角線からの決め球、スライダーを選択する。  しかしこれには姿のバットも食らいついていく!

大河内「(これは!?)」

姿「らぁぁぁ!!!」


カッキーンッ


 打球は広いグラウンドを半分に割ったサッカー部の方へ飛んでいった。  球場なら場所によるが大抵はホームランとなる当たりだろう。

姿「俺の勝ちだ」


 それは松倉ではなく、綾瀬に向けて言った言葉であった。

大河内「対戦前はスイングだけが早くなったように見えたんだがな」

姿「ふふ、気づきました?」

大河内「あぁ、手首を強くしたんだな。スイングに惑わされたが、それ以上にバットコントロールが良くなってる」

姿「その通りです」

連夜「んで、ボールを弾き返す時に強くなった手首で飛距離を稼ぐか。無茶な打法だな」

姿「そうは言うが、実際スイングも速くなってると思うぜ」

連夜「……否定はしないよ」

姿「さて、どうだい綾瀬? つってもお前になんか認められなくてもキャプテンや監督がいいって言ってくれれば問題はない」

慎吾「言ってくれるね。まぁ事実だが」

透「だそうやで、監督にキャプテン」

国定「まぁ別にダメっていう理由もないしな」

木村「そういうことだ。良いな、綾瀬」

慎吾「えぇ……これで俺が野球部でいる理由もなくなったわけだ」

真崎「は?」

慎吾「そういう約束だろ?」

連夜「おいおい、そーくるか?」

国定「綾瀬、悪いがな。それは認められないぞ」

慎吾「なんでです?」

国定「俺も監督も退部届けを受け取る気はないからだ」

慎吾「それは俺が来なくなれば良いだけの話で……」

瑞奈「ふふ〜ん、それはないですねぇ。綾瀬さんは人一倍、優しくて責任感強くてお人よしです!」

国定「だ、そうだ」

慎吾「……はぁ……」

姿「綾瀬、監督から聞いてるよ」

慎吾「……何?」

姿「ありがとな。迷惑かけちまった分、取り返すから」

真崎「お、言ってくれるねぇ」

姿「……あ、お前もいたんだ」

真崎「酷ッ!」

慎吾「余計なこと言ってくれたな」

木村「ん? そうか?」

慎吾「ったく……」


 憎まれ口叩いててもどこか嬉しそうな慎吾だった。

瑞奈「さて、まとまったところで綾瀬さん! 行きますよ!」

慎吾「どこにだよ……」

瑞奈「姿くん復帰&透くん入部祝いです!」

透「お、そりゃ嬉しいなぁ。ところでこのカワイイお嬢さんは誰や?」

真崎「綾瀬の彼女」

慎吾「ちゃうわ!」

シュウ「お、綾瀬まで関西弁移ったな」

透「おぉ見る目あるやないか。ほな行こうか! 近くにカラオケ屋あるん?」

瑞奈「その辺は抜かりありません!」

姿「んじゃ折角だしいくか」

木村「構わんが捕まることだけはするなよ」


 ワーワー盛り上がる野球部メンバーを尻目に一人帰る準備を始めている連夜。

佐々木「あれ、漣はいかないの?」

連夜「あぁ、帰って寝たい」

佐々木「相変わらずだな……」

連夜「楽しんでこい」


 部集会にしか来る気なかった連夜は実家から持ってきた食料や着替えを持って桜花を後にした。


・・・・*

連夜「さてと……夕飯どうすっかな……」


 ダラダラと歩いていると目の前にスッと背の高い男が現れた。

大地「そうだな、ピザを頼むっていうのはどうかな?」

連夜「…………なんすか? あなたは」


 スーツ姿の見た目二十代後半のようにしか見えない男が急に独り言に反応してきたと思うと普通の反応だ。  しかも見知らぬ男が……連夜から見れば不審者にしか見えなかった。

大地「君の探し人さ。しかし逆に僕も君を探していた」

連夜「はぁ……」

大地「初めまして、漣の血を受け継ぐ者。僕の名前は綾瀬大地だ」

連夜「――! 綾瀬大地!?」

大地「そう。君は僕に聞きたいことがあるはずだ。もちろん答えさせてもらうよ」

連夜「だったら一つだ。ビャク……漣白夜はどこにいる!?」

大地「ふぅ……そう急くな。答えはするが、取引だ」

連夜「なんだと?」

大地「探していたと言っただろ? 僕も君に聞きたいことがあるというわけだ」

連夜「…………良いだろう」

大地「よし。白夜くんだったら四国にいるよ」

連夜「四国!?」

大地「今年、愛媛県にある豊宣学園に入学する予定だ」

連夜「豊宣……何でだよ。アンタの目的はなんなんだ!?」

大地「勘違いしないで欲しい。去年、一回だけ君と話す機会を与えたはずだよ?」

連夜「――!」

大地「白夜くんは望んで私についてきた。絶望を知ってね」

連夜「絶望だと?」

大地「そう。漣家に伝わる魔の存在。その様子だと君は聞かされてないようだね」

連夜「アンタ、さっきから何言ってるんだ?」

大地「父親……漣鈴夜に聞いてみるといい。彼もまた当事者だからな」

連夜「……アンタのそのハッキリと物を言わない性格、大嫌いだぜ」

大地「白夜くんに会いたければ甲子園を目指すんだな」

連夜「ビャクも言っていた。何で野球なんだ?」

大地「不思議なことを言うもんだな。プロの子だろ? 君だってね」

連夜「俺はビャクが言うからわざわざ桜花で野球部を作ったんだ。野球なんてやる気なかった!」

大地「ふっ。まぁ君のプライドなんてどうでもいい。時間が取れたら父に聞きに行きたまえ。 その時は使いの者を送る。そいつに聞いたことを話すんだな」

連夜「……アンタ、リエン・クロフォードとはどんな関係だった?」

大地「お? 何でここにクロフォードの名が?」

連夜「お人好しの兄弟が心配してるもんでね」

大地「別に。一つの駒にすぎない。それ以上でもそれ以下でもない」

連夜「……そうか。日夜が聞いたら狂いそうだな」

大地「じゃあ楽しみにしてるよ。そして知ったときは是非協力して欲しいものだな」

連夜「………………」


 ポンと肩を叩くと颯爽と自転車で去っていった。人目を惹く格好なのに自転車はあまりにも釣り合っていなかった。

連夜「漣家の絶望? ……なんのことだよ」


 連夜の頭の中には夕飯のことはすっかり消えてなくなり、弟の安否と大地が言い残した漣家の絶望のことでいっぱいになっていた。



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