Twentieth first Melody―誰かが置いた線路上の小石―
新学期も始まり、綾瀬たちも二年生へ進級した。それは当然、新一年生が入ってくることを意味する。
入学式も終えてようやく全ての学年が揃うこの日。桜花学院は戦場と化していた。
透「なんやねん……これ……」
慎吾「スゲーだろ」
クラスに入ろうとした二人の目の前にはあらゆる掲示板……いやただの壁でさえ部員募集の紙が張られていた。
元々は女子高の名残か、こういう新入部員を集めるためとかはある意味男子より凄いものはあるようだ。
透「こんなんで野球部は大丈夫なん?」
慎吾「つっても良く見ろ。ほとんど女子部だ。まぁ当たり前だが」
透「そらそやが……男子マネージャー募集とか書いとるで?」
慎吾「女に釣られてか……まぁいなきゃいなくても戦力はある」
佐々木「下手に素人入られても困るか?」
慎吾「いや、そういうわけでもないが、まぁ真崎みたいな性格だったらこっちからお断りってことさ」
真崎「誰が女に釣られるんだよ」
慎吾「おぉ、自覚してんじゃん」
佐々木「一人でも二人でもいてくれたら嬉しいけどな」
透「そんなもんなん? もっといてもええやろ」
慎吾「やっぱ元女子高ってこともあり男子は少ないからな。先輩たちで無理やり二つのクラスにわけたらしいし」
佐々木「まぁ俺らも二クラスだが、男子の人数はまぁまぁだからな」
透「だったらワイらも募集紙出すとかな」
慎吾「先輩たち(女子)が怖くないならどうぞ」
透「それ言われたらムリやん」
シュウ「でも去年の俺らぐらいの新入生は入るんじゃないか?」
佐々木「そうだな。今年の新一年は中学からの上がりもいるからそれなりにいるんじゃないかな?
年々増やすために色々やってるらしいし」
慎吾「あぁ森岡や真崎を入れるくらいだもんな」
シュウ「むっ! 失礼な」
真崎「そうだそうだ」
ちなみに二人は進級試験を最後に抜けてたりする。もちろん内申は非常に良くない。
そして中等部は高等部より一年早く共学となったので、今年の新一年生はそのまま上がってくる男子もいるだろうという見解だ。
透「せやったら野球部にも……」
慎吾「問題はバスケ部なんだよな」
透「バスケ部?」
慎吾「あぁ、去年の男バスが全国出場果たしてな。恐らくそっちに流れるんじゃないかと」
透「ほぉ、やるやないか。うちのバスケ部」
佐々木「野球やサッカーより少ない人数で出来るしな。テニスやバドにもいることはいるが、あっちはシングルやダブルスだからな」
透「女子に押されとるっちゅーことか」
佐々木「そういうこと。と言うことでチームでかつ人数が少なくてすむバスケ部が今男子では有利かな」
シュウ「まぁ俺らそのバスケ部にも勝ったことあるんだけどね」
佐々木「あれは完全なラッキーだろ」
透「おぉ凄いやないか。やっぱ連夜はバスケ上手いからな」
佐々木「そうそう、何か経験者って言ってたけど」
透「あいつ、こっち(兵庫)にいた時はバスケ部やもん。ミニバス経験者」
佐々木「なるほどねぇ」
慎吾「まぁおかげさんで山里先輩をもらったからな。いい戦力だよ」
佐々木「そっか……山里さん抜きでインハイ出たんだな。スゲーな、そう思うと」
真崎「結論としては新入部員は望めないか」
透「アカンやん」
先生「………………」
慎吾「…………どうぞ」
こうしてAクラスのHRが始まった。
一方Bクラスでは……
女子生徒「姿くん、これまでどこいってたの?」
女子生徒「そうだよ、心配してたんだよ?」
姿「まぁ、ちょっとね」
京香「病気ってわけじゃなかったんでしょ?」
姿「う、うん。ちょっと家庭の事情……かな」
久々……約半年ぶりの姿の登校に、クラスメイトが群がっていた。
クール系でかつ彼女がいない存在の姿は女子には結構な人気を誇っていたりする。
連夜「おーモテモテだな姿のやつ」
久遠「まったく悲劇のヒーローのつもりかね」
司「僻み丸出しじゃねーか」
久遠「そうは言うが、あんなの女子に囲まれるって羨ましいなって思わん?」
司「別に」
連夜「司っちは女性恐怖症だからな」
久遠「何で元女子高に来るんだよ」
連夜「まぁまぁ、そこは色々事情があるんだにゃん」
久遠「例えば?」
連夜「そうだな。女性恐怖症を克服しようと思ってな」
司「適当なこと言うな」
連夜「家庭の事情だ。お察ししてくれ」
久遠「分かった。薪瀬、今度合コンセッティングしてやる」
司「察する気ゼロだろお前!」
連夜「とりあえず、姿のヤロー調子乗ってるのでからかいに行って来る」
久遠「おう、頼んだぞ」
司「………………」
女子生徒「これから普通に来るの?」
姿「あぁ、その予定だよ」
女子生徒「ホント!? じゃあお弁当作ってきてあげる」
女子生徒「ちょっと何言ってんのよ!」
女子生徒「そうそう。姿くんだって迷惑してるって」
姿「あ、いや……」
連夜「よーよー姿よ。いきなり来て調子乗ってんのな」
姿「漣……お前な……」
連夜「ちょっとおモテになるからってよぉ」
京香「あ、漣くん。春休み中、星音と会ってないんだって?」
女子生徒「星音、泣いてたよ!」
連夜「いや、会ったっつーの!」
京香「週一って言ってたよ。休みのくせに!」
女子生徒「しかも星音置いて先に埼玉帰ったって酷すぎるよね」
瞬く間に女子に非難された連夜。一体どうするのか?
連夜「……オホンッ! んじゃ、姿。また後でな」
姿「…………………」
女子のパワーに圧倒され、あっさり引き下がる連夜。
連夜「ただいま」
司「おかえり」
久遠「情けなさすぎるだろ」
連夜「無茶言うな。あれはムリだ。あの状況よりヤクザに囲まれて土下座する方が気は楽だ」
久遠「意味がわかんねーよ」
姿が戻ってきたことで女子たちが騒ぎ立て、HRどころではなかったという。
・・・・*
そして放課後、部活動の日だが余りにも他の部の勧誘が凄すぎて野球部は部室に逃げ込んでいた。
慎吾「昨年以上じゃね? この騒ぎは……」
国定「どうやら男子生徒も増え、女子は相変わらずの人気ぶり。つまり入学者が増えたようだよ」
元々は女子高の桜花。女子の定員はそのままに、男子の分を底上げしたため一年の人数は多くなったようだ。
連夜「で、どうするの?」
慎吾「適当に練習して、後は練習試合を組むように頼んであるんだが……」
姿「練習試合?」
慎吾「そう。出来れば今度の土・日にな。試したいことがあるんだ」
高橋「ほぉ。綾瀬がそう言うのは珍しいな」
慎吾「今のままじゃ勝てないのならちょっと打順とか変えてみようと思いましてね」
真崎「お、良いねぇ。早く教えろよ」
慎吾「まぁ待て。木村が来てからだ」
それから数十分後、ようやく木村監督は部室に来た。
木村「いやー……怖いね、廊下とか」
透「ほんまや。デパートのセールやないか、あれじゃあ」
国定「ん? 監督、後ろの三人は?」
木村「あぁ、新入部員だ。先ほど入部届けをもらってな」
慎吾「三人も?」
大河内「それは意外だったな」
木村「まずは自己紹介。そしてミーティングするべ。グラウンドは恐ろしくて出たくないだろ」
木村の言葉に野球部一同頷いて見せた。こればかりは落ち着くまでの辛抱だ。
大友「千葉第二中から来ました。大友裕次郎です。中学時代はピッチャーをやってました」
滝口「オナチューの滝口准一でーす! 中学はキャッチャーでした。よろしくお願いしまっす!」
大河内「おなちゅう?」
滝口「あぁ、同じ中学ってことです。言いません?」
大河内「さぁ? 言うの?」
慎吾「まぁノーコメントで」
連夜「だな」
佐々木「………………」
宮本「じゃあ僕の番ですね。宮本一郎です。野球はやったことないですがよろしくです」
国定「初心者か。なんで野球部に?」
宮本「あれ、初心者はダメですか?」
国定「いや、そんなことはない。むしろ大歓迎だが、理由を聞きたくてな」
宮本「准一くんに誘われたからですよ」
国定「あぁ……そうなんだ」
木村「と言うことで今度は先輩たちの自己紹介だな」
こうして新2・3年生がそれぞれ自己紹介をしていった。人数が少ないためすぐに終わり
続いて、ミーティングに入る。綾瀬がホワイトボードの前に立ち、木村は横で聞いている。これが桜花のミーティングでは当たり前になっている。
慎吾「宮本は後でゆっくり適性を見るとして、大友と滝口は今度の練習試合でチェックするからな」
滝口「おぉ、いきなり試合っすか! いいっすね〜」
姿「ところで試合っていつなんですか?」
木村「今度の土曜日にとったよ」
真崎「さすが元プロ。コネはあるな」
大河内「相手は?」
木村「うむ……州境高校だ」
連夜「埼玉の?」
木村「あぁ」
木村監督から出た対戦相手にため息が飛び交う部室内。
慎吾「なんで去年といい強豪ばっかり頼むんだ?」
木村「いや、今年は近いところでっと思ったが中々いなくてさ。今年も赤槻じゃ面白くないし……」
慎吾「まったく……」
連夜「まぁせっかくだから良いとして、綾瀬の策を聞こうか?」
慎吾「あぁ。まずコンバートや複数のポジションを使い分けてもらう人が出てくるからそこはお願いします」
連夜「あーあ、ヤな予感」
慎吾「勘がいいな、漣。バッテリーは基本的にセットで考えるが夏は大河内先輩をキャッチャーに固定して戦う」
久遠「えっ。大河内さん、大丈夫なんですか?」
大河内「あぁ。冬の間に仕上たつもりだ」
国定「ちなみに俺もな。問題ない」
佐々木「国定さんまでOKとなると……」
久遠「かなり戦力が上がるな」
慎吾「と言うわけで松倉が投げる時はキャッチャーにするが、漣は国定先輩が登板時はセンターにまわってもらう」
連夜「センターね。佐々木をベンチに下げてまでか?」
慎吾「まぁ確かに怖いが、打線を考えるとお前に抜けられるのは痛い。佐々木には悪いが」
佐々木「いや、妥当だろう」
慎吾「高橋先輩は倉科や久遠の出来によってサードとライトを兼用してもらいますので」
高橋「あぁ」
山里「セカンドはどっちがスタメンでいくんだ?」
慎吾「とりあえず山里先輩で。真崎は松倉登板時、センターをやってもらうこともあるがとりあえずバックアップ役だな」
真崎「へーへー」
山里「あれ、佐々木や漣のときは攻撃重視だったのにか?」
慎吾「流石に山里先輩に抜けられると内野が怖くなるので。それに足が速い真崎をベンチに置いておきたいですし」
山里「なるほどな」
慎吾「っで、一番は打順です。去年と大きく変えていきます」
シュウ「おっと、これは楽しみだが僕は一番でお願いね」
慎吾「あぁ森岡は固定だ。二番には大河内先輩、もしくは佐々木を置く」
大河内「お?」
慎吾「三番に高橋先輩、四番は上戸先輩。そして五番に漣だ」
連夜「そうくるか……コンバートした上に打順もねぇ」
慎吾「気に食わないか?」
連夜「まぁ……快くはないが従おうか」
慎吾「あっそう。んじゃあ続き行くぞ」
司「(意外だな。連夜がポジションや打順に文句言わないなんて)」
慎吾「六番は国定先輩、松倉。七番は久遠、八番山里先輩で九番に姿だ」
姿「――!」
木村「は、姿を?」
慎吾「やるよな、姿」
姿「………………」
有無を示さない姿だったが、深く何かを考えているようだった。
それを感じ取った慎吾はとりあえずは置いといて話を進める。
慎吾「今度の練習試合はこのオーダーを試してみる。大友や滝口を使う関係で多少は崩れるがな」
木村「じゃあ今日はこれで解散かな。一週間もすればこの騒ぎも落ち着くだろう」
部室内にまで聞こえてくる勧誘の声。野球部の面々は頭が痛くなった。
一週間もっと言うが試合は今度の土曜日。ろくな練習ができないし、新一年生や守備位置の確認すらできない。
最悪なコンディションで練習試合の当日を迎えることになる。まぁ予想していたことなので諦めるしかないが……
・・・・*
連夜「……おぉ、スゲー熱気」
野球部はいつもより早く解散し、連夜は一人体育館に来ていた。
彼女である星音がバドミントン部に所属しているため、その迎えにだが……
ダムダム
カッコッカッコッ
シュパァ
バンッ
連夜「……今日、勧誘だけかと思ったが……」
広い広い桜花の体育館。4つに区切ってバスケ・卓球・バドミントン・バレーと活動していた。
男子バスケ部がIHに出場したため、男子の部員も増量。現在は第二体育館が出来る予定までたっている。
連夜「……帰るか」
かなりの人数+新入部員へのアピールか、かなり熱心にやっているため体育館のこの空気に耐え切れず連夜は帰ろうとした。
京香「漣くん! また星音を置いていこうとしたね!?」
バド部のとある生徒、しかも同じクラスの女子に見つかってしまった。
相変わらず、連夜は女子生徒(星音の友達)の評価は低いらしい。
連夜「あのな、誤解だ誤解。ちょっと暑いから外で待ってようとしただけだ」
京香「ふ〜ん……」
連夜「その目はやめろ」
京香「星音、このまま帰すとあれだから今日はもういいよ」
星音「え?」
京香「どうせ今日は本格的には動いてないし、後は先輩たちに任せていれば大丈夫」
連夜「だ、そうだ。行くぞー星音」
京香「漣くん?」
連夜「すいません、ご協力感謝します」
京香「星音のこと泣かせたら……」
連夜「分かった分かった」
星音「それじゃあ行くね。ありがと」
京香「お幸せにー」
チクチクと刺さる視線を受けながら連夜はようやく体育館をあとにすることができた。
やはり、いくら図太い連夜といえど女子のパワーには勝てないらしい。
桜花を出て数分、今は連夜の住んでいるアパートに向かっているのだが連夜が先ほどから
真剣な顔で時には辺りを見渡しながら何か考えている様子だった。
星音「レンくん、どうしたの?」
流石に気になったのか聞いてみた。連夜はふと立ち止まり首を傾げた。
連夜「いや、誰かにつけられてる気が……」
星音「えぇ!?」
連夜「気のせいなら良いが……」
星音「もしかして京香たち?」
連夜「いや、あいつらならすぐ分かる」
星音「そ、そうよね……」
デートを付けられたりなんてことはぶっちゃけ日常茶飯事。騒がしいので慣れている連夜たちはすぐ分かるだろう。
じゃあ、今感じているのは結局は何だって話になる。
連夜「……ん?」
立ち止まり、後ろを見ていると曲がり角から一人の女性が現れた。外見だけは見たことある女性だった。
瑞奈「……漣、連夜ね」
星音「あ、朝森先輩?」
連夜「……そうだけど、何だ?」
星音が言ったように、確かに自分が知っている朝森瑞奈かと思ったが様子がどうもおかしいということで
ここは相手の調子に合わせることにした。
瑞奈「綾瀬大地とは会ったわね?」
連夜「……あぁ」
瑞奈「聞くところによるとあなたは何も分かってないようだから少しヒントを与えにきたわ」
連夜「それはご苦労なことだが、あんた、綾瀬大地の何なんだ?」
瑞奈「ただの手駒よ。それが何か?」
連夜「……いや……」
声も確かに瑞奈っぽいのだが表情や言動が明らかに違う。双子の姉妹か? と本気で思うぐらいだった。
瑞奈「あなたは漣朔夜、そして15年前何があったか漣鈴夜に聞くことね」
連夜「15年前?」
瑞奈「詳しい話になるともっと前の話になると思うけど」
連夜「っで、誰だよその朔夜って」
瑞奈「さぁ? 自分で調べた方が分かると思うけど?」
連夜「……まさか日夜みたいなのがまだいるってことか?」
瑞奈「まさか。ただ漣朔夜が分かれば御柳くんたちのことも分かるかもよ?」
連夜「……チッ、堂々巡りだな」
瑞奈「その通り。あなたは弟くんのために動けばいいだけ」
連夜「ビャクの無事が確認できたら、お前らただじゃおかないぜ」
瑞奈「……そうね。そして15年前と同じことが起きるかも……」
連夜「何ィ!?」
瑞奈「……健闘を祈るわ」
連夜「待ちやがれ!」
女性は来た方へ戻るように歩いていった。連夜は慌てて追いかけ、曲がり角を曲がるも女性はもういなくなっていた。
連夜「くそっ!」
星音「レンくん……今のは?」
連夜「……星音、今の会話も含め全て忘れろ」
星音「え?」
連夜「さっきのが朝森先輩という証拠は何もねぇ。もしかしたら双子の姉妹かも知れないしな」
星音「それだったら本人に聞けば!」
連夜「聞いてどうする? 答えてはくれないだろ。お前は関わるな。いいな?」
星音「……分かった……」
連夜「何が……起きようとしてるんだ?」
リエン・クロフォードが殺されてから、事態は急速に動きつつあった。
少なくてもここ2日間で連夜の頭はパニックに陥っていた。
自分の家系のことなのに何も知らない。知らないやつらがそれを求め動いている。気味が悪いことばっかりだ。
連夜「……親父、アンタは俺に何を隠している?」
全ての鍵を握る自分の父親、漣鈴夜に連夜は少なからず不信感を抱き始めていた……
・・・・*
大地「取引しようと言ってるんだよ?」
宏明「今更……か。私を殺そうとしていて」
大地「そうだねぇ。邪魔さえしなければいい。でも邪魔をするなら君は僕の強敵になる」
宏明「……内容は?」
大地「漣連夜を捕まえて欲しい。報酬は……そうだね、息子の命かな?」
宏明「貴様! 要をどうした!?」
大地「真崎くんだけじゃない。その友達たちも危ないよ?」
宏明「……どこまでも卑怯な男だな……!」
大地「そう、僕は欲しいもののためには手段すら選ばない男だよ?」
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