Twentieth Seventh Melody―宿る力を……―


 多くの高校が甲子園を目指して、戦ってきた千葉県地方大会も残すは1戦だけとなった。  決勝戦は創設2年目の桜花学院VSダークフォース浦庄高校になり、今は試合前のミーティング中だ。


慎吾「言うまでもなく要注意人物は林藤なんだが昨日、試合終わってから霜月と話してな」

透「誰や、霜月って」

松倉「一宮の選手だ。昨日の試合、見たろ」


 偵察組以外もテレビで観戦をしていた。  練習のために戻ったといえど、やはり準決勝のカードは気になったようだ。


透「あぁ、あの3番やな」

慎吾「そう。情報をもらったんだが、霜月、角谷さんと打ち取ったボールは どうやらツーシームファストボールというらしい」

シュウ「長い名前だな。カーブが可愛くみえるよ」

慎吾「あのな……」

木村「ファストボールというのは日本でいうストレートさ。メジャーリーグではファストボールと総称し 日本のストレートのように素直な速球をフォーシーム、沈ませるボールをツーシームと呼んでるんだ」

慎吾「………………」


 慎吾を始め、選手全員が呆気にとられた顔で木村を見つめる。


木村「な、なんだよお前ら……」

松倉「いえ、結構知ってるなって思いまして」

慎吾「俺だって昨日、調べるまで知らなかったのに」

木村「高校野球の監督やるってことになって、一度アメリカに飛んだんだ。 プロと違って、やっぱオールラウンドに教えれなきゃダメだと思ってな。 指導者としての武者修行ってところだ」

慎吾「なんで采配まで学んでこなかったんだ?」

木村「ほっとけ」

慎吾「とまぁ、木村の言うとおりなんだが、ツーシームって方は手を出すな」

姿「いや、って言われてもな」

慎吾「恐らく今日は初回から混ぜてくると思われる。ストレートにのみヤマを張ってたたけ」

姿「スピード変わらないからな……厳しいだろ」

大河内「だからって諦めたら打てないだろ」

高橋「ここまで来たんだ。どうこうより指示通りやるだけだ」

姿「……そうっすね」

慎吾「よし。オーダーだが大岬戦と一緒でいく……が……」

国定「が?」

慎吾「高橋先輩と漣の守備を変える。林藤のバッティングを考えると長打が多そうだからな」

高橋「了解」

松倉「左のサード?」

慎吾「しょうがないだろ。漣外すわけにはいかないが、外野に置くのは怖いし。 他に置けそうなのサードぐらいなんだから」

透「そやで。左かてサードは出来るわい」

松倉「………………」


 出来るなら綾瀬がバッティングのいいお前を使ってるけどな、とはあえて口にはしなかった。


慎吾「というわけで、いいな、漣」

連夜「………………」

慎吾「…………漣?」

連夜「――! な、なんだ!?」


 問いかけても反応のない連夜に疑問を思って、意識して見ていると自分の左腕をずっと見つめていた。  自分に声かけられてると気づくと慌てて左腕を隠すように下げ、右腕で肩の付近を掴んだ。  その余りにも不自然な行動に、皆何事かと疑問の念を抱く。


佐々木「肩、どうかしたのか?」

連夜「い、いや別に……」

慎吾「……調子悪いなら無理するなよ」

連夜「……大丈夫だって」

慎吾「ならいいけど……」


 話を終えると連夜はまた上の空になった。  心配にはなったが、繰り返し聞いても同じだろうと皆、集中を高めることに専念した。



・・・・*



 試合前のシートノックも終え、オーダー表も交換し試合が開始間近となった。  後攻となった桜花学院が守備につく。


大河内「さてと、初回から林藤にはまわさないようにしよう」

国定「当然」


連夜「ん〜……っと……」

国定「って漣、どこに行くんだよ」

連夜「え? どこってセンターですけど」

山里「聞いてなかったのか? 今日、お前サードだぞ」

連夜「サード? 俺が?」


 バックスクリーンに表示されているオーダーを見ると確かに自分のところの守備番号は5になっていた。


連夜「…………ふぅん」

山里「お前、本当に大丈夫か?」

連夜「問題ないですよ。頼むぞ、シュウ」

シュウ「おう!」


 もちろん他の内野陣が激しく不安になったのは言うまでもない。


ウウウウウ――ッ!!!


 サイレンと同時に国定が第一球を投げ込む。


国定「しっ!」


ズッバーンッ!


相手打者「おぉ……」


 ケガさえしなければ全中優勝投手。潜在能力は抜群だ。  そしてケガさえ治れば、プロもほっとかないほどのピッチャーだ。


ググッ!


キィン


シュウ「まいど!」


 ここに来て本来の投球、そして自分を取り戻しつつある国定は初回から絶好調。  4番の林藤にまわさず、3人であっさりと終わらせる


松倉「今日は大丈夫そうですね」

国定「今日はって言うな」


 いざ我に戻ってみると大岬戦での失態は自分でも考えられなかったようで  あれから他のチームメートに弄られていたりする。


木村「攻撃は?」

慎吾「とりあえずランナーが出ないとこっちとしては何にもできないから……」


キィィン


慎吾「おっ?」


 慎吾が言い終わる前に快音が響く。


シュウ「おーし!」


 先頭のシュウが初球を叩き、右中間を破るツーベース。  いきなりの長打で桜花に先制のチャンスがめぐってくる。


慎吾「おーやるな」

姿「で、送るのか?」

慎吾「いや、大河内先輩に任せる」

姿「ランナー出ても一緒じゃねーか」

慎吾「ほっとけ」


 ベンチから特にサインが出ず、大河内は自らでどうしようか考えながらバッターボックスに入る。  そして足場を慣らしているとふと投手の迅と目が合った。


迅「甲子園出たいかい?」

大河内「そりゃあな」

迅「あっそう。じゃあこの俺を打ってみな」


ビッ


大河内「――しっ!」


グッ


キィーンッ


迅「なっ!?」


 迅が投じたのはツーシーム。しかし大河内は苦もせずレフト前に運ばれる。


滝口「シュウ先輩、ストップです」

シュウ「了解」


 スタートの遅れたシュウは3塁ストップ。


迅「(やるねぇ。まさかいきなり打ってくるとは)」


 もちろん打てたのは大河内のミートセンスが光った結果だが、迅は一辺倒で勝てる相手ではないと思わざるおえなかった。  無死3塁1塁のチャンスで、打席には今大会大当たりの3番高橋。


高橋「最悪犠牲フライ……いや、ゲッツーでも1点か」


 そう思いベンチを見るも、指示はなく逆に1塁の大河内からサインが出ていた。


高橋「(エンドラン? 何を焦っているんだが……)」


 だがエンドランのサインなんて無視するわけにもいかず、ミートに徹すると心がけ打席に入る。


迅「………………」


ビッ


 投げると同時に大河内がスタートを切る。


高橋「甘いッ!」


カキーンッ!


 高めの威力のないストレートを叩き、打球は低い弾道でセカンド頭上を破ると鋭いゴロが右中間を真っ二つにする。  3塁ランナーシュウはもちろん、スタートを切っていた大河内も生還し、2点先制。  更に連携が崩れてる間に高橋が3塁まで進塁する。


慎吾「え、エンドランですか」

大河内「林藤の調子がいまひとつみたいだからな。早めに点差つけようと思って」

慎吾「疲れでもあんのかな」

松倉「かもな。今まで1人で投げてきただろうし」

慎吾「だとすると後、2点は取りたいな」

木村「まぁ点はいくらあっても困らんしな」


 押せ押せの桜花は続く上戸もレフトオーバーのツーベースを放ち、高橋を迎え入れる。  国玉や一宮を倒し、一躍有名となった迅だったが、今日は目に見えてボールが走っていなかった。  ベンチの思惑通り、どんどん点を入れたい桜花はチャンスが続き2塁にランナーを置いて5番連夜。


迅「来たな、漣連夜」

連夜「ん?」

迅「今日の俺はお前と対戦できればそれでいい。行くぜ」


ガバッ


 ランナーを置いた状態で振りかぶる。当然、それを見た2塁ランナーはスタートを切る。


ズッバーンッ!


連夜「――!」

迅「本気で行くぜ」

連夜「………………」


 迅のストレートを見て、本能的にバットを握る手が反応し、強く打つ体勢に入る。  しかしそれと同時に連夜はタイムをかけ、打席を外した。


連夜「(ダメだ……力が……)」


 入らないんじゃない、入りすぎてしまうのだ。  どうも瑞奈らしき人物と話した次の日から左手の様子がおかしい。  鈴夜の忠告が頭を過ぎり、意識して力が入らないようにしていた。


迅「しっ!」


ズッバーンッ!


連夜「………………」

迅「…………?」


 2球目も見逃し、流石に迅やベンチが連夜の異変に気づく。


慎吾「漣の様子、おかしくないか?」

真崎「そうか? 今のボール球だったし、見逃して当たり前だろ」

佐々木「いや、確かに変だな。あいつ、待つタイプでもないし」

慎吾「ましてや林藤なんて球種2つしかねーし」

真崎「そうか……」

慎吾「まぁあいつのことだから何か意図でもあるとは思うが……」


ズッバーンッ!


 しかし慎吾の期待も虚しく、連夜は1球も振らずに見逃し三振に倒れる。


迅「どうした?」

連夜「………………」


 迅の問いかけを聞き流し、バットを引きずりながらベンチへと戻った。  そして当然ながらベンチへ戻っても質問攻めだった。


慎吾「どうした、漣。やっぱ調子悪いのか?」

連夜「別に……気にするな」

慎吾「だったら……」

佐々木「まぁ綾瀬。本人が言ってるんだから」

慎吾「しかしだな……」

佐々木「あんな漣、初めて見るんだ。ちょっと放って置こうぜ」

慎吾「……了解……」


キィーンッ!


 グラウンドでは桜花打線が止まらず、6番国定、7番久遠と連続ヒット。  更に8番山里が犠牲フライを放ち……


カッキーンッ!


姿「よし!」


 9番に座っている強打者、姿の今大会初アーチで更に差を広げる。


迅「ふぅん、やるね」


 続くシュウは真芯で捉えるもセカンドライナーとなってしまうが、打者一巡7点を奪う一方的な展開を見せる。


慎吾「とりあえず大量点入りましたけど、油断だけはしないように」

国定「分かってるって。国玉が大量点取られてる以上、安心は出来ないだろ」


 軽く返されたが、今の国定は安心して見ていられるほど復調していた。  慎吾もよほどのことがなければひっくり返されることはないだろうと安心しており、問題は……


慎吾「後は漣だな」

真崎「まぁそれは放っておくしかないらしいし」

慎吾「ダメなら変えるぞ。準備しておけよ、真崎」

真崎「え? サードはやったことないんだけど……」

慎吾「アホか。セカンドに入れ、山里先輩をまわす」

真崎「あーなるほど。了解」

透「なんでやねん! サードの名手がおるやん!」

慎吾「あー……佐々木をセンターにして高橋先輩を戻せばいいのか」

真崎「ふむふむ。やるな、倉科」

透「あんまし褒めんなや。照れちまうやないか……ってちゃうわ! ボケェェ!」

真崎「関西人のくせにベタなノリツッコミだな」

透「関西が皆、ボケれると思うなや」

真崎「いや、そうとは思ってないけど」

慎吾「何があるか分からないからな。打撃のいい倉科は温存しときたいんだ」

透「と言うてもこの点差やん。経験させてーな」

慎吾「そうだな。じゃあタッキーと大友、後、宮本も用意しろ」

1年トリオ「分かりました」

透「せやな。1年も大事な戦力やし……ってちゃうわ! アホォッ!」

木村「お前ら、余裕なのもいいけど、あんまり騒ぐなよ」


カキィーン


慎吾「あれ?」


 快音が響き、騒いでいたベンチも一瞬でグラウンドへ視線を移す。  迅の打球は右中間へ飛び、ラインドライブがかかっていた。


久遠「くっ、せめてスリーにはしないように」


ダダダダダッ


 打球を見て、回りこもうとするがセンターから俊足を飛ばして高橋がダイビングを試みようとしていた。


久遠「高橋先輩!?」

高橋「おらぁっ!」


ズシャアアッ


 捕球の手ごたえを感じ、左手を挙げアピールする。  2塁審がすぐに駆け寄り捕球を確認し、高々とアウトをコールする。


迅「………………」


 2塁をまわったところで、アウトコールを聞きスピードを弱め、歩くようなスピードでベンチへと戻る。  このセンター高橋のファインプレーでベンチの面々が改めてセンターの守備の重要性を思った。


慎吾「しかし今大会の高橋先輩は凄いな」

木村「元々はセンス抜群の高橋だ。これぐらいはやってもらわなきゃ」

慎吾「スイッチもすぐに順応したし……」

真崎「それより、やっぱりセンターの守備って重要なんだな」

慎吾「そうだな。元々佐々木が守ってたから気にもならなかったが 漣が守ってからは痛いほど分かったからな」

佐々木「あいつ、ワザとやってるんじゃないかって思うほどだからな」

慎吾「まぁ、それはともかく林藤の調子、よくねーのかな?」

真崎「なんだよ、綾瀬。敵の心配までするのか?」

慎吾「そうじゃねーけど、敵の調子を観察するのも勝つための近道にはなるだろ」

松倉「確かにな。ピッチングの方は言わずともだけど、今のも捉えたと思ったわりには伸びなかったな」

真崎「あれ、見てたの?」

松倉「俺はお前らと一緒に騒いでなかったわ」

慎吾「…………と、とりあえず大友と薪瀬、肩作っておいてくれ。継投で行くぞ」

大友「分かりました」

司「了解」


 打撃に特化したチームといえど主軸の迅が不発のせいか、国定を打ち崩すまで行かず凡打の山を築く。  一方、初回に7点を奪い、調子の乗って迅を攻め立てる。


ピキィンッ!


高橋「よし!」


カッキーンッ


上戸「はっはっは〜」


 2回には高橋、上戸のアベックアーチが飛び出すなどワンサイドゲーム。  強豪を倒した浦庄と地元じゃちょっとした注目の的になっている桜花との一戦ということで  観客も多く見に来ているのだが、予想に反した一方的な展開に少しずつ空席が目立ってきた。


慎吾「ん〜……つまらないな」

木村「もう甲子園決まったようなもんだし、いいんじゃね?」

慎吾「結構、ツーシームの打ち方とか戦略とか立ててきたのに使わず終わるのが不満だ」

真崎「勝てばいいだろ。楽できたわけだし」

慎吾「まぁ……な。じゃあ倉科、真崎、いってこい」

ベンチ組「おっしゃあぁぁっ!」


 鬱憤が溜まっていたのか途中出場の二人組の爆発もあり、更に突き放す。  しかしそんな中、良いことばかりではなく……


ズッバーンッ


連夜「………………」


 連夜が3打席連続で見逃し三振に倒れていた。  しかも1度もバットを振っていない。  いい加減変えようとしても、こっちの言葉には反応しないのでどうにも出来ないのが現状だ。


迅「情けねぇ。そんなに力の放出が怖いか」

連夜「――!」

迅「どうすれば本気になるかねぇ」

連夜「お前……」

迅「意外と仲間想いらしいな。誰か一人ケガさせようか?」

連夜「なっ!?」

迅「くっくっく。気にするな、さっさと守備につけよ」

連夜「ぐっ……」


 思い通りにならないことに苛立ちを感じはじめ、バットを投げ捨てる。


カランカランカラン


慎吾「おーい……」

連夜「構うな。大丈夫だから」

慎吾「(だったらそんな態度とらんでほしいな)」


 そんな中、事件は起きた。  7回の裏、打順は9番の姿から1番へまわる好打順。


カキィーン!


姿「よしっ!」


 姿のこの試合、2本目のホームランで11対0とする。


迅「(そろそろ仕掛けるか)」

シュウ「よ〜し! かかってこい!」

迅「そらよっ」


ビシュッ


シュウ「おらぁ!」


ダッ


 踏み込んで強打にいくシュウだったが……


シュウ「ちょ!?」


ガゴッ!


 体の方へ向かってきたボールを踏み込んだせいで避けきれず直撃してしまう。  耳当てのところに当たったように見え、反動でヘルメットが飛びシュウ自身も打席で蹲る。


慎吾「森岡!?」

木村「おい、大丈夫か!」


ガシッ


姿「監督がグラウンド出ちゃダメですよ」

木村「へ? あ、そうか……」


 しかし動こうとしないシュウに対し、審判が交代を告げシュウは救急車で運ばれていった。


慎吾「やべ……調子に乗って選手、交代しなきゃ良かった」

滝口「………………」

慎吾「宮本、行ってみようか。経験しとかなきゃな」

宮本「いいんですか?」

滝口「………………」

慎吾「あぁ。そのままライトに入ってくれ」

滝口「そりゃあんまりじゃないですか」

慎吾「お前は大友とセットで出すから」

滝口「!!! ってことはキャッチャーですね」

慎吾「あぁ」

木村「それより、こいつのせいでシュウの問題が流されてるんだが」

慎吾「………………」

連夜「あのやろう……わざとか……」

慎吾「ん?」

連夜「………………」

慎吾「漣?」


 慎吾には見えなかったが、今連夜の左腕は青白い光に包まれていた。  色濃く……強大な力が左腕に集まり、そしてその解放の時を待ち続けている。


バァンッ


審判『ボール!』


上戸「おしおし」


 一方試合は大河内のヒットから高橋、上戸と連続で歩き押し出しで1点を取る。  更に満塁で連夜の打席となったのだが……


迅「おっ、もう隠す気はないみたいだな」

連夜「黙れ。調子に乗るなよ」

迅「ふっ、ならこのボール打ってみろ!」


ビッ!


 迅から投じられたボールは今までのストレートとは比べ物にならない速さだった。  それはベンチから見ていても違うが分かるほど言わば別物だった。  しかし……


連夜「ムンッ!」


ヒュッ


 バットが一閃した。  目に見えずとも風を感じ、人々は空気が引き裂かれた感覚を覚えた。  そのバットがボールを捉えた。


ピキィーンッ!


 打球はライナー性でセンター、バックスクリーン方向へ飛び、あっという間にスタンドへ入った。  誰もがストレートの速さに呆気にとられたが、更に連夜の打球に唖然として球場はかつてないほど静寂に包まれていた。  そんな中、打たれた迅だけはマウンド上で満足そうに笑みを浮かべていた。


迅「ミッションコンプリート」


 それから今まで力を出していなかったのか、桜花打線をシャットアウト。  対連夜ほどではないが、国玉・一宮で投げた同等の力を出してきた。  後続を抑えられ、チェンジとなる。


連夜「悪い、綾瀬。代えてくれ」

慎吾「どうした?」

連夜「ちょっと、腕に力が入らないんだ」

慎吾「ん?」


 連夜の左腕は震え続けており、確かにボールすら握れない状態だろう。


慎吾「分かった。タッキー、サード」

滝口「え、次大友ですよね? なんでサード?」

慎吾「倉科も代えちゃってサード出来るやつがいないんだよ」

滝口「高橋先輩がおりますやん」

慎吾「お前がセンターはもっと怖い。いいから守れ」

滝口「へい」

慎吾「(しかし、左打者の漣がなんで左腕を?)」


 引っ張る腕は左打者の場合、右腕になるのだが、まぁ今日の漣自体が様子がおかしかったから  今更気に止めることではないと意識をスコアブックへ持っていく。


慎吾「まぁ負けはしないだろうけど」


 迅が本来の投球になり、打てずとも序盤・中盤と攻め続け、大量点を得ている桜花。  もう回も終盤ということもあり国定の後、大友・薪瀬と1イニングずつ投げ、継投で相手打線に付け入るスキを与えない。


ピシュッ


迅「………………」


シュッパーンッ!


審判『ストラーイクッ!』


司「よしっ!」


 最後は迅を見逃し三振に抑え、16対0で桜花が勝利。  シュウのケガの具合や連夜の腑に落ちない様子など気になる点が多々あるが  桜花は創設2年目にして初の甲子園へのキップを手に入れた。
 





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