Twentieth Ninth Melody―約束という言葉の意味―


 今年も甲子園の季節がやってきた。  近年、高校野球のレベルも上がってきており、注目度も年々高まっている。  そんな中、組み合わせ抽選会も終わり桜花学院は大会4日目となった。  だが問題はその対戦相手だった。


慎吾「初戦の相手が福岡の鷲真になった」

国定「ゴメン、改めて言わないでもらえる?」


 組み合わせを終え、相手が決まってからキャプテンである国定は皆に白い目で見られ  遠まわしにくじ運のなさを責められた。  福岡の鷲真と言うと……


慎吾「昨年のベスト8と初戦をねぇ……」

国定「でもさ、去年のベスト8って言ったって青田さんのワンマンだったし……」

大河内「ワンマンでベスト8。今年の下馬評は正直言って、昨年より高いんだけどな」

司「しかも黄金世代でワンマンで勝ち進んだってわけですからね」

透「プロ1年目から1軍で投げとるしな」

国定「………………」

慎吾「とまぁ、決まってしまったのをあれこれ言っても仕方ないから対策を練るけど」

国定「だったら最初っからやって欲しかったな……」


 近くの中学のグラウンドを借りているのだが、使用時間が限られており、また午後からのため宿舎で  甲子園の試合を見ながらミーティングを行っている最中だ。


慎吾「相手のエース格は2人。3年の樋上と2年の大鵬だが恐らく2年の大鵬が来ると予想される」

大河内「地区で投げたイニングも大鵬の方が上回っている。良くも悪くも先発は大鵬のようだ」

連夜「大鵬って言えば……」

佐々木「あぁ、中学の時戦ったな」

慎吾「本当か?」

連夜「全中優勝チームだぜ? 結構名のある選手とやってるぜ」

慎吾「おっそれは助かるな。どんなピッチャーだった?」

連夜「いや、だって投げてこなかったもん」

慎吾「………………」

佐々木「いや、大鵬って2番手だったんだ。瀬野っていうのがエースで」

慎吾「あ、そうなんだ。早く言えよ」

大河内「まぁ大鵬はいわゆるパワーピッチャーだな。うちでいうと大友と同じタイプだな」

滝口「じゃあ四死球も多いんですか?」

大河内「あぁ、35イニングス投げて42個だな」

松倉「それは多すぎでしょ。1イニング1個以上じゃないすか」

大河内「まぁそういうわけだから球数を多く投げさせて自滅を狙うのがベストだな」

慎吾「多分、打撃面は苦労しないと思う。問題は守りだな。うち、投手が弱いし」


 慎吾の言った投手が弱いと言うのは層が薄いということを指し、決して国定や薪瀬のレベルが劣っているという意味ではない。  ただ、国定と薪瀬のスタミナ面に不安、大友も技術的な面で長いイニングス任せるのは全国では不安が残る。  松倉がいる、いないではやはり大きく差があることを改めて感じさせられた。


透「それでシュウの抜けたショートは誰がやるんや?」

慎吾「初戦は大友に任せるから、国定先輩にお願いします」

国定「おう」

大友「え? 俺っすか?」

慎吾「まぁ大友も早いうちに甲子園に慣れて欲しいからな。ピッチャーはどっちにしろフル活動だし」

木村「後、初戦からエラー連発も困るからな」


 それは単純にショートの真崎がエラーするのが怖いと言ってるようなものだった。


滝口「あの〜」

慎吾「ん? なんだ、タッキー」

滝口「大友も出すなら俺やミヤッチも出してくださいよ」

慎吾「あぁ、お前も出すよ。宮本はちと待てな。流石に外野の層は下げたくないし」

宮本「それはもちろんです」

木村「それで大友、誰がキャッチャーがいい?」

大友「俺が選んでいいんですか?」

慎吾「いいよ。やっぱ投げやすいやつがいいだろ」

連夜&滝口「………………」

大友「じゃあ大河内先輩で」

大河内「あ、あぁ……」

慎吾「じゃあタッキーはサードね」

滝口「うす……」

佐々木「え、高橋先輩は?」

慎吾「もちセンター。甲子園のセンターはお前か高橋先輩しかいないだろ」

連夜「ん、俺は?」

慎吾「ベンチスタート」

連夜「…………マジで?」

慎吾「マジ。まだ左腕に力戻らないんだろ?」

連夜「ん〜……でも7割方良くなったぞ?」

慎吾「まぁ無理するな」

連夜「どうせ、俺がセンターで出せなくて安心してるくせに」

慎吾「……さて、守りの方だが……」

佐々木「………………」


 図星をつかれたのか、露骨に話を変える慎吾。  しかし連夜も腕の調子は言うほど良くないのか、特に突っ込まず握力回復に専念していた。


慎吾「要注意は瀬野と金城の2年コンビだな。チーム総得点の半分以上を2人で上げている」

姿「まぁ逆算するとその前にチャンスメイクする選手がいるってわけだが」

慎吾「まぁな。1番の高谷、3番の黒田が打率3割超えてる。特に高谷は4割超えてるし」

木村「お前ら、さっき瀬野がエースって言ったが同一人物か?」


 木村の言ったお前らは連夜と佐々木を指している。  その言葉に2人とも頷いた。


佐々木「高谷も同じ瀬野たちと中学だったのである程度は知ってます」

慎吾「それは助かるな。データだけじゃ実際戦う時不安だし」


 しかもそのデータと言うのは地区大会での成績だけのため、何が得意かとか実戦で使えるデータではない。


姿「エースってピッチャーなんだな。福岡大会じゃ投げてないのか?」

連夜「瀬野は中学時代に肩壊してるからな。投げれないんだよね」

姿「あ、そうなんだ……」

慎吾「通りでね。左投げで右打ちは珍しいなって思ったんだよ」

真崎「お前、なんでそんなに知ってるんだ?」

慎吾「いや、瀬野は去年の夏もレギュラーで出てるし……」

真崎「……そうだっけ?」

慎吾「アホはほっといて、基本的に右バッターが多いから途中から国定先輩にスイッチする。 大友はいけるところまで飛ばしていけ。一回りで終わっても良いからな」

大友「了解です」

連夜「なんやかんや言ってるうちに第1戦終わったようだな」


 連夜の言葉を象徴するようにテレビからはサイレンの音が聞こえてきた。


慎吾「そういや甲子園といえば横浜海琳の2年投手、凄かったな」

連夜「横海の2年投手……?」

慎吾「は? 今朝のニュース見なかったのか?」

連夜「あぁ。何かしたのか?」

慎吾「大阪、常陸学園相手にノーヒットノーランだと」

連夜「なにぃっ!?」

佐々木「横海の2年投手ってもしかして……?」

連夜「バカ言うな……そんなわけないだろ」

慎吾「あれ、知り合いか? 高波翔って言うらしんだけど」

連夜&佐々木「んだとぉ!?」


 2人とも立ち上がって驚く。  周りから見ると大げさだろと言った感じだが、本人たちはマジもマジで驚いていた。


連夜「ちょっとマテ、それ誤解か間違いだろ!」

慎吾「なわけないだろ。木村が読んでる新聞見てみろ」

連夜「貸してください」


バッ


木村「………………」


 素早く引き抜かれ、読んでる格好のまま唖然とする木村。  よく破けずに抜けたなと周りは皆、関心するしかなかった。  そして木村から奪い取った新聞を食い入るようにみる2人。


連夜「……マジか……」

佐々木「………………」


 2人の目に入った写真の少年は紛れもなく知っている高波翔だった。  しかしそれを認めたくないのか2人は誤魔化しはじめた。


連夜「いや、同姓同名で似ている人ってだけだろ」

佐々木「そうだな。高波翔なんてありふれてる名前だし」

松倉「ねぇよ」

山里「なんでそんなに否定したがる?」

連夜「だって翔だもんな」

佐々木「あぁ、高波だからな」

山里「………………」


 これ以上、聞かないほうが良いだろうと察し、慎吾が手を叩いて注目を集めた。


慎吾「さて、押さえ所はこんな感じだ。あと1時半からグラウンド借りてるからそれまでは自由で」

真崎「それじゃ寝るかな……」

姿「良いのか、真崎」

真崎「ん〜?」

姿「次、蒼月と周流だぜ?」

真崎「いや、興味ないし」

姿「真塚の高校だって言ってんだよ」

真崎「え、ホント? じゃあ見とくか」

連夜「へぇ〜帝王破った高校に知り合いいるんだ」

慎吾「あぁ。中学のとき一緒でな」

連夜「ふぅん…………ん?」


 テレビでは蒼月学園がシートノックを行っているシーンが流れているのだが、ノックしている選手が写り  連夜はふと脳裏にどこかで見たなという一文が浮かんだ。  そして少し考え込んでみると、記憶と映像の選手が一致した。


連夜「なに――ッ!?」

周りにいた人物「!!!」


 自由時間となり、皆、各々のことをするべく解散していたためこの場にいたのは少数だったが  その少数が連夜の不意の大声に耳をやられた。


慎吾「急にどうした……」

連夜「宙夜! 蒼月に行ってたのか……」

佐々木「お前、相変わらず知り合い多いな。兵庫のか?」

透「いや、ワイも知らんからちゃうやろ」

連夜「従兄弟なんだ。なるほど、宙夜がいたのなら帝王に勝つのも頷ける」


 1人納得している連夜を尻目に独自で集めたデータを見ていた慎吾があることに気づいた。


慎吾「悪いが漣。そのちゅうやってやつの苗字は?」

連夜「流戸だよ。流れるに戸棚とかの戸」

透「珍しい苗字やな」

慎吾「その流戸ってベンチだぞ。地区での成績も代打出場だけだし」

連夜「はぁ!? 嘘だろ!」

真崎「大体、レギュラーがノッカーやらんだろ」

佐々木「まぁノックって普通は監督がやるけどね」

連夜「いや宙夜は投手だからな。3年エースがいて控えに甘んじてるんだろう」

慎吾「地区予選、登板してないけど」

連夜「え? 嘘だろ?」

慎吾「いや、嘘ついても仕方ないし……」

連夜「ってことはその3年エースよっぽど凄いんだな」

慎吾「確かに特集でもスカウト注目選手にはなってるけど、2年の海塚ってピッチャーを始め 地区だと4人の投手が投げてるな。でもその流戸って選手は投げてないぞ」

連夜「ん〜? じゃあケガかな……」

慎吾「お前が言うならよっぽどいい選手なんだな」

連夜「うちの親族では最も完成されたピッチャーだろうな」

慎吾「(だからピッチャーとしては出てないんだけどな……)」


 知り合いがいるってことで、名門周流のデータ集めも兼ねてそこに残っていたメンバーは  このまま試合を観戦することにした。  試合は初回からサードのエラーを含む、守備の乱れて3点を失う厳しい展開。


佐々木「あれ、蒼月のサードの神代って帝王の?」

慎吾「俺も気になってた。去年の決勝でいい動きしてたから印象に残ってたんだが」

姿「転校したんだろ。理由は分からないけど」

透「ふぅん。物好きな人もいるんやな」

真崎「しかし真塚の判断ミスが目立つな。あんなやつだっけ?」

慎吾「確かにな……」


 早めに反撃したい蒼月だったが、周流先発の1年投手のストレートの前に相次いで三振に倒れる。


連夜「打線がザルだな」

姿「だが東東京ではチーム打率3割を超えてる。ピッチャーが良すぎるんだろ」

慎吾「薪瀬の同じタイプだな。新井さんが抜けた周流が今年も出てくるわけだ」


 今年の甲子園は、昨年黄金世代と言われた年代がいなくなったせいか、昨年出場した高校が地区で負けると言うのが目立ってきた。  そのため桜花や蒼月をはじめ、初出場校が出場49チーム中、22校と半分近くになっている。


連夜「しかしこの海塚っていうのも限界だぞ。代えどきだろ」


 その連夜の言葉通り、フォアボールとヒットでピンチを迎えた6回に投手をエースに代えててきた。


連夜「………………」

佐々木「だからケガなんだろ?」


 代わった投手はリードに首を振りながらもこのピンチを無失点で抑えた。


真崎「ん〜真塚のリードが良くないんだな」

慎吾「と言うより今日は精彩を欠いてるな。らしくもねぇ」


 その言葉が指すとおり、その裏、チャンスを作るも真塚がスクイズを失敗して無得点に終わってしまう。


姿「普通に打てばあいつなら犠牲フライぐらいできるだろうに」

透「なんか迷ぉてるように見えるな」

真崎「どうしたんだろうな」


 スクイズ失敗で流れが傾きそうなところ、エースが上位打線をきっちり3人で抑える。  そしてその裏、先頭バッターが出塁し送りバントで1死2塁のチャンスを作り、連夜が待っていた選手が登場する。


実況アナ『ここで蒼月学園は代打を送るようですね。背番号11をつけた流戸くんのようです』


連夜「ようやく出てきたな」


実況アナ『この流戸くんですが、昨年の秋季大会ではクリンナップを打ってましたが、春先に右腕を骨折してしまったようで 大会には間に合わず、主に代打での出場は続いています』


解説『ですけど、この流戸くんは勝負どころでは打ちますからね。要注意でしょう』


慎吾「だとよ」

連夜「やっぱケガか…………ん?」

透「今度はなんや?」

連夜「今、クリンナップって言ったな」

透「ゆっとったな」

連夜「おかしいな……あいつ、ピッチャーやめたんかな」

慎吾「本人に直接聞いたらいいやん」

連夜「まぁ今度会った時にでも……」


 ここでふと流戸のことを考えた。


連夜「(そういやアイツも自分の父親のこと知りたがっていたな)」


 これまで自分が持っている情報を与えるのも簡単だが、それでは従兄弟のためにはならないだろう。


連夜「(まぁ、必要最低限ぐらい教えてやるか。兄弟だしな)」


 連夜はよく、流戸や音梨といった面々を兄弟扱いする。  一緒に暮らしていた時期もあり、従兄弟より近い存在だと思っているからだ。  だから兄弟にあんまり隠し事したくないって気持ちもあった。


慎吾「どうした、漣」

連夜「ん、いや。そういや試合はどうなった?」


 試合はその流戸のタイムリーから流れを作った蒼月が同点に追いつく。  しかし周流も黙ってはおらず、その直後の回にプロ注目の4番に一発を食らい勝負あり。


慎吾「ん〜残念だったな」

姿「やっぱりいくら黄金世代抜けたといっても甲子園にきた強豪は勝ってるな」


 そう言いながら姿はトーナメント表にスコアと勝ったほうのチームに線を描いていた。


連夜「姿、豊宣って試合いつだ?」

姿「豊宣? どこよ、そこ」

慎吾「愛媛だろ」

連夜「……詳しいな」

佐々木「豊宣学園だったらこの前テレビでやってたぞ。あの青波投手の弟がいるんだって」

連夜「へぇ〜……」

慎吾「高校としては古豪だが、監督が代わったらしくて結構評価高いんだよな」

透「でも何で豊宣なんや?」


 しかし透の質問は姿によってかき消された。


姿「あった。明日の第1試合だ」

連夜「最初か……悪い、綾瀬。甲子園行って来ていいか?」

慎吾「ん、別にいいぞ。練習あるわけじゃないし」

真崎「と言うかさ、俺ら甲子園に行ってデータ収集しないわけ?」

慎吾「木村がやってる」

透「監督直々にやっとるんか……」

佐々木「去年も俺らほっといて1人で見学に行ってたぐらいだから」

慎吾「生で見たいんだと。だからついでに頼んだ」

真崎「じゃあ俺らは試合に向けて調整してればいいんだな」

慎吾「そういうこと」

真崎「じゃあ寝る」

姿「外、走って来いよ」

慎吾「と言うか、これから練習だから寝させないし」

真崎「何ィッ!? 時差で眠いのに」

姿「千葉と兵庫に時差なんてあるか!」

真崎「いや、ちょっとはあるぞ」

姿「それ時間じゃないし」

真崎「あ、そうか……秒差?」

姿「はい、行くぞ」


ズルズルズル


真崎「酷ぇ……」


 桜花の面々は試合に向け、ハードな練習を避け軽いノックとかで調整している中  甲子園でショートを任せられるであろう、真崎だけ慎吾の鬼のような特守を受けていた。  宿舎に帰って来た選手の中で、真崎だけボロボロだったそうな。



・・・・*


連夜「ね、ねみぃ……」


 翌日、朝弱い連夜が頑張って朝起きて第1試合の豊宣戦を見るべく甲子園に向かっていた。  ただ厳密に言えば連夜は豊宣の試合自体には興味はなかった。  現にもう試合は始まっている。


連夜「さて、どうやって確認したらいいものか……」


 綾瀬大地の情報が正しければ豊宣に進学した白夜。  実際、試合が始まる前に再会を果たしておこうと思って来たのだが、応援団の方に入るには少々度胸がいる。  ……いや、度胸の問題ではなく現実的に入れるわけがない。  甲子園の入口まで来て途方にくれていた。


連夜「ん〜……とりあえず豊宣の応援団、誰か捕まえることができたらな……」


 誰かいないかと辺りを見渡してみると、豊宣のユニフォームを着た二人の選手が甲子園へ駆け込もうとしているのが見えた。  これを逃す手はないと、駆ける一人の腕を掴む。


連夜「ちょっと待って」


ぐい


??「いってぇ!」

連夜「あ、悪い」


 走ってる人の腕を急に引っ張ったら、こうなることぐらい安易に想像つくだろう。  ましてや相手からすれば引っ張られるなんて思っていないのだから。


??「何してる大澄。お前のせいで遅れたんだぞ」

大澄「いやいや、文句ならこの人に言ってくれ」

連夜「すまない、君たち豊宣の選手か?」

??「えぇ。最もベンチ入りしていない応援団ですけど」

大澄「冴神、こんな話してる場合か?」

冴神「まぁどうせ遅れてるんだし、構わないだろ」

連夜「俺の用はすぐ済む。漣白夜ってやつと話が出来れば嬉しいんだが」

冴神「漣とですか?」

大澄「話って言ってもなぁ?」

連夜「何とか呼び出せないかな?」

冴神「呼び出すのは無理ですね」

連夜「……なぜ?」

冴神「今、試合中ですから」

連夜「…………え?」

冴神「知らないんですか? 漣、1年で唯一ベンチ入りしてるんですよ」

連夜「――!」

冴神「僕からお伝えしますよ。あなたの名前は?」

連夜「そうか……じゃあ頼もうかな。俺の名前は漣連夜」

冴神「……えっ?」

大澄「さざなみ? もしかして漣のお兄さん?」

連夜「そう。約束は守った、この言葉だけ伝えてもらえるかな?」

冴神「…………分かりました。確かにお伝えします」

連夜「よろしく頼むよ」


 冴神は連夜に対し、何か言いたげではあったがいくら遅刻してるといっても流石にこれ以上は  と考えたのか大澄を引っ張って球場入りした。  ちなみに遅れた理由は大澄の寝坊であって、冴神は連れ戻されただけなのだが。


連夜「さて、せっかく来たのにもう帰るって言うのもな……」


 ここで連夜は暇つぶしに、次の対戦校の応援団が球場外で準備しているのを見て  適当に女子グループに話をかけ時間を潰すことにした。


連夜「ねーねー、君たちはどこの高校の応援?」


 桜花という元女子校で揉まれた連夜からすれば、母校の女子よりははるかに楽な相手だった。  自らのルックスの良さもあり、自然と打ち解けた。  女子に囲まれながらちょっとした時間、話しているとふとこっちを見た人と目が合った。


連夜「……ん?」

??「………………」

連夜「…………あっ」

??「………………」

連夜「おぉ宙夜! 久しぶり〜!」


 偶然にも昨日、話していた従兄弟と再会を果たしたのだった。


・・・・*


 試合を終え、初戦を大差で勝った豊宣学園。  1年ながら唯一ベンチ入りしていた白夜だったが出番はなく、宿舎についてからすぐランニングに出かけた。


タッタッタ


白夜「はっはっは……」

大澄「お〜い、漣ぃっ!」

白夜「――!」


ダダダダダッ


大澄「なんでスピード上げるんだよ!?」


タッタッタ


白夜「いや、嫌な予感しかしなかったから」

大澄「なんでやねん。あんまりやわ」

白夜「で、何か用?」

大澄「あぁ。伝言頼まれたんだよ」

白夜「誰に?」

大澄「お前のお兄さんに」

白夜「なっ!?」

大澄「女性っぽい人だったな。俺、あの人ならOKやわ」

白夜「何がよ?」

大澄「ストライクゾーンってこと」

白夜「男だけど?」

大澄「俺、綺麗な人すきなんだもん」

白夜「………………」

冴神「ふぅ、ようやく追いついた」

白夜「冴神か。助かった、大澄じゃ話にならなかった」

冴神「どこまで話した?」

白夜「俺の兄と会ったところまで」

冴神「あぁそう。そのお兄さんから伝言を預かってるんだが」

白夜「…………何て言ってた?」

冴神「えっと『約束は果たした』だったかな」

白夜「チッ……何が果たしただ……」

冴神「お前、お兄さんとなんかあったのか?」

白夜「別に……」


 明らかに何か隠しているような素振りを見せつつも、聞くだけ聞いてまたランニングに戻っていった。  その白夜と昼間会った連夜の態度を思い浮かべ、そこにはやはり何かしら因果関係が生じているとしか思えなかった。


冴神「どうしたんだろうな、漣のやつ……」

大澄「………………」

冴神「どうしたの、お前は」

大澄「いや、お兄さん綺麗だったな〜って改めて思い出してる」

冴神「………………」


 この甲子園を舞台に兄弟の決着をつけられるかはグラウンドで出会うしかない。  その想いを胸に、桜花はいよいよ甲子園初戦を強豪・鷲真と迎えることとなる。  初の聖地での一戦、どういった結果を残すか?





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