Thirtieth First Melody―古豪の実力―


 甲子園で初勝利を挙げた桜花。桜花のように初出場校が全体の半分近い数、いる中それなりに勝ち進んでおり  今年の甲子園はまさしく1回戦から予想外の展開が続いていた。  甲子園はすでに2回戦が始まっており、桜花の対戦相手は静岡の富士中央高校に決まっていた。


慎吾「それで上戸先輩と漣は間に合うのか?」

木村「両方大丈夫らしいが、上戸は状態によっては休ませた方がいいかもしれないな」


 1回戦終わって、桜花は更に満身創痍になった。フェンス激突しながらファインプレーを見せた上戸は  鞭打ちになり、痛みが取れないらしい。その日の状態で判断することになった。  連夜は地区予選と同じように力を使ったせいで左腕に力が入らないらしい。  本人はあの時よりはマシだから大丈夫と言っているのだが……


木村「今年、野球部にとって厄年だな」

慎吾「甲子園に来たっていうのにな……」


 今度の対戦相手、静岡の富士中央のデータをまとめながら2人は頭を抱えていた。


慎吾「ところで今日、甲子園行かないのか?」

木村「俺も監督らしくデータ見直そうと思ってな」

慎吾「ふ〜ん……でも相手のデータ取ってくるのも俺としては助かるんだが」

木村「今日、漣が行ってる。豊宣の試合が見たいからついでにやるって」

慎吾「へぇ。あいつ、やたら豊宣に拘ってるけど何かあんのかな?」



・・・・*



 今年の甲子園は大きな天気の崩れはなく、まだ雨などで日程が狂っていない。  それどころか連日の猛暑日で、選手の体力は早い段階で奪われていっていた。


連夜「あつ……」

司「来るなら一人で来いよ……」

松倉「まぁ俺は試合で出番がないし、これぐらいは構わないが」


 試合は見たかったが、1人ではつまらないと司と松倉を連れてきた。  他のメンバーが来なかった理由は練習or暑いのヤダである。  暑いのヤダって言った面々は後ほど慎吾の地獄ノックが待っているのだが……


連夜「今日の試合の見所は豊宣対緑央だな」

松倉「緑央の評価はDだが、あいつらは結構やるからな」

連夜「D? 低ッ!」

司「いや、うちもだけど?」

連夜「………………」

松倉「対する豊宣はA+。余裕で優勝候補だな」

連夜「ふ〜ん……ってことはこの試合は他のやつらから見れば豊宣が勝つだろってやつか」

松倉「そういうこと」

司「ただ東城たちだからな」

連夜「あぁ、うちと同じ評価が出てる以上、その評価はアテにならねーよ」


 昨年、練習試合で緑央とは戦ったことがある。  あれから力をつけたと考えれば甲子園にも出てきたと分かるとおり十分全国レベルだろう。  連夜としては豊宣と実際戦いたい気持ちもあるが、東城たちに勝ってもらうのもそれはそれで悪くない……  そう考えてしまっているほどだった。  とりあえず試合に集中したいから、監督に頼まれたスコアブックを司に渡した。


司「自分で書けよ!」



甲 子 園 大 会 2 回 戦
宮城県代表 愛媛県代表
緑  央  学  院 VS 豊  宣  学  園
2年SS春   山 進   藤2B 2年
2年東   城 後   藤RF3年
3年3B浦   澤 火   影2年
1年LF山   田 日   高1B 3年
1年1B有   銘 水   神 2年
3年2B山   本 阿   部3B3年
3年RF及   川 坂   口 SS3年
2年CF  迎   大   西LF3年
2年マ ー ク 須   山CF3年


連夜「あん、あのバッテリーどっかで見たことあると思ったらあいつらか」

松倉「また知り合いか?」

連夜「あぁ、瀬野と同じく全中の時な」

司「背番号1の青波さん、背番号2の石水さん共に温存か。層厚いな」

連夜「2人ともクリンナップ打ってんだろ? 打線の方は大丈夫なんか?」

松倉「中軸バッテリー下げても大丈夫っていう信頼感じゃないか?」

連夜「火影に? 成長してるかもしれんが、アイツは打者の方が大成するタイプだぞ」

松倉「だから3番か」

連夜「お前と一緒だな」

松倉「失礼な。投手としてのほうが良いと自分では思ってるが?」

連夜「それを決めるのはお前じゃなくてプロのスカウトたちだ」

松倉「むっ……」


ウウウウウウ――ッ!!!


連夜「おっ、始まったな」


 緑央のトップバッターは昨年と変わらず俊足の春山。


火影「ふっふっふ〜、まさか今大会投手として出番があるとはな!」

水神「須山先輩ばかり投げさせるわけにはいかんだろ。青波先輩も温存したいし」

火影「いや〜ベンチに漣弟を登録した時には絶対出番がないと思ったからね!」

水神「と言うわけで引っ張り出すなよ。長いイニング投げろよ」

火影「分かってるわい! 完投するスタミナは十二分にある!」

水神「技術的な面を言っているんだが……」


 初球、外角のスライダー。左バッターの春山にとっては逃げていくボール。


クククッ


春山「ほわっちゃ」


コツッ


 足を生かすセーフティを初球から狙う。


火影「甘いわ!」


パシッ


クルッ


ズルッ


ポトッ


火影「………………」

水神「このアホが」


 素早くマウンドを降りて捕球するも左投げの火影。一塁へ半回転して送球しようとするが  その際に滑ってしまい、ボールを落としてしまう。  その間に当然、春山は1塁駆け抜けてセーフ。


ズシャアァッ


 そして次のバッターの初球で盗塁成功。  左投げの火影だというのにあっさりと成功させた。


松倉「ザルすぎるだろ」

連夜「中学時代もあーやって勝ったからな。成長してねぇな」


キィーンッ


 続く2番東城、2−2とボールを見ていった後、右打ちに徹し1・2塁間へ。


??「甘いわっ!」


 抜けるかと思った打球をセカンドの進藤が回り込み、1塁転送。


司「速いな、あのセカンド」

松倉「あぁ。完全に抜けたように見えたけど……」

連夜「………………」

司「ん、どうした?」

連夜「いや、知り合いかと思ったが苗字が違うからな。似てるだけかも」

松倉「お前、本当に全国に知り合いいるよな」

連夜「中学時代の友人が結構全国に散らばってるし、元々関西に住んでたから こっちには知り合い多いんだ」

松倉「なるほどな」


キィーンッ!


浦澤「よっしゃ」


 3番キャプテンの浦澤の一打で先制点を挙げる。  更に……


山田「うんりゃあぁっ!!!」


ビシュッ!!!


火影「おぉ……」


 緑央の新星4番山田が凄いスイングを見せ、火影を圧倒。  勝負を避けられフォアボールで歩き、5番有銘がきっちりとランナーを還し緑央が初回から2点先制。


火影「うぅ……久々なのに……」

水神「もうちょっとコントロールに気を遣えよ」


 立ち上がりコントロールの安定しない火影だったがバックの助けもあり、2点で抑えた。


連夜「もしかしたら火影先発っていうのは失敗だったかもな」

松倉「でも緑央のピッチャーが抑えれるか、だぞ?」

連夜「俺も松倉も途中出場だったからあれだけど、悪くなかったろ」

司「緩急の上手いピッチャーだ。コントロールはあんまり良くなかったが……」

連夜「左で制球難か。似たような投手の対決だな」

松倉「しかし大鵬といい、この年代はそういうタイプしかいないのか?」

連夜「たまたま出ている投手がそうなってるだけだ。触れるな」

司「………………」


 一方、試合は早い段階で追いついておきたい豊宣。


火影「いっけぇ、氷室! 自慢の足を見せたれ!」

豹「はいよ」


東城「(愛媛大会で6盗塁か……足に要注意だな)」

レイン「行くぜ


シュッ


豹「よっ」


サッ


レイン「――!」

豹「ふっふっふ、そう簡単にやらんぞ」

レイン「小ざかしいバッターだ

豹「(俺、英語は得意なんだけど……)」


 バッター進藤の構えをバックネットから見ている連夜はやっぱり引っかかっていた。


連夜「う〜ん……やっぱり似てるな」

松倉「本名進藤豹だってよ。どうだ?」

連夜「豹!? ……あぁ、そうか……だから苗字が」

松倉「1人で納得するなよ」

連夜「気にするな。関係ないから」


カァァンッ


レイン「なにっ!?

豹「甘いっしょ」


 外角一杯のストレートを上手くレフト前に運ぶ。  レインにとってはいいコースに決め、更に大きくオープンスタンスを取っているバッターに  打たれるはずがないと思っていただけにダメージも大きかった。


シュタタタッ


 表の緑央と同じように初球から盗塁を決め、チャンスを広げる。


火影「ほわっちゃっ!」


ピキィーンッ!


レイン「チッ」


 2番の送りバントから3番火影がタイムリー!  更にこの回、4番がフォアボールで歩いた後、5番水神がタイムリーを放ち同点に。  ほぼ同じといっていい展開に乱打戦が予想された。


火影「…………………」

水神「仕方ないだろ」


 しかし2回の表、豊宣はすぐに2番手投手、須山にスイッチする。  火影はそのままセンターに。センターとピッチャーを入れ替えた。


須山「おらっ!」


クククッ!


 その須山は高速スピードで滑り落ちる独特のスライダーで緑央の打線を封じる。


連夜「あのボール……」

松倉「スゲースライダーだな」

司「あれ、スライダーか?」

松倉「カーブではないだろ。スピード的に」

連夜「(ビャクか……他にいないよな……)」


 作中でも何度か出ているが漣鈴夜が得意とし、子どもたちに教えたスライダーがあった。  白夜も連夜も教わり、従兄弟の音梨を始めとした面々もこれを投げられる。  家系として関係ない選手が投げてるとすれば、それはそういった家系の人から教わったことになる。  須山が投じた変化球は多少変化は違うものの、間違いなく漣家のスライダーだった。


連夜「(教えるってことはそれなりの関係ってことだ……)」


 連夜は少し安心していた。  高校入ってから会った白夜は人を拒絶する態度が見られた。  だから野球部でも浮いている存在になってないかと心配してたのだが杞憂だったようだ。


司「ところで何で連夜は豊宣に拘るんだ?」

連夜「ん? いや別に深い理由はないよ」

松倉「じゃあ浅い理由は?」

連夜「ただ弟がいるっていうからな」

松倉「弟? 漣に弟いたんか」

連夜「あぁ、年子のな」

司「なんでまた白夜くんは愛媛に?」

連夜「さぁ? それは本人に聞いてくれ」

松倉「びゃくやって名前なの? どういう字?」

連夜「白に夜」

松倉「お前は連夜で、弟は白夜か……面白いな」

連夜「バカにされてる気がするんだが……」

松倉「気のせいだ」

連夜「………………」


 須山に交代して落ち着いた豊宣。そのピッチングに感化されたか、レインも本来のピッチングを  展開し、初回の得点以来スコアボードには0が並んだ。


レイン「チッ、早く点とってくれよ

東城「落ちつけ。ピッチャーが先に痺れを切らしてどうする

レイン「まったくチャンスすら作れてないじゃないか

東城「仕方ないだろ。とにかく粘ってくれ

春山「なんだって?」

東城「早く点とれって」

春山「こら! 1年ども、エースがお怒りだぞ!」

山田&有銘「は、はい! すいません!」

東城「いや、お前も人のこと言えないから……」


 まったく試合が動かない展開にレインが先に痺れを切らしてしまった。  そこを古豪、豊宣が見逃さなかった。


コツッ


レイン「なにっ!?


 この回、先頭の9番須山がセーフティバント。処理に焦ったレインが1塁へ悪送球をしてしまい  無死2塁のピンチを招くと……


カキーンッ!


豹「おらっ!」


キィーンッ!


 連続タイムリーで勝ち越しに成功する。  更に火影は凡退するも、4番が歩き5番の水神の走者一掃のタイムリーで大きく点差をつける。


東城「レイン、交代だ

レイン「………………


 レインは外野に行き、1塁に入っていた有銘がマウンドに上がった。  しかし中盤に6−2と4点差ついてしまい、スタンドは豊宣の勝利を確信した。


連夜「決まったな」

松倉「おいおい、4点なら分からないだろ。俺ら、それ以上の点差逆転したんだし」

連夜「いや、多分青波さんが出てくるだろ。そうしたら無理だろ」


 連夜の言葉通り、プロ注目の左腕、青波龍滝が登板し緑央の打線を完璧に抑える。  点差変わらず試合は進行し、9回。  未だ青波の前に1人のランナーも出せていない緑央は2番東城からの好打順。


東城「(もうストレート1本狙い。じゃなきゃ振り遅れる)」

龍滝「しっ!」


ピシュッ


東城「このっ!」


ガキンッ


フラフラ〜


豹「あーもう!」


ポトッ


 決め打ちしたものの、どん詰まりの当たり。  しかし打球はファーストの頭上を超えるポテンヒットとなる。


東城「これでもミート出来ないのかよ……」


龍滝「(やるな……)」


 キャッチャーながら足には自信のある東城が塁上で揺さぶりをかける。


ダッ!


ガキッ


浦澤「ギャッ」


 ヒットエンドランをかけるも、またも詰まらされセカンド真正面。


豹「ゲッツー!」


シュッ


 セカンドが素早い守備を見せ、2塁へ転送。ショートが受け素早く1塁へ。  ダブルプレー完成で2死。これで後がなくなった。


シュッ!


山田「おっしゃぁっ!」


パッキーンッ!


龍滝「な……!?」


 4番1年の山田が龍滝の高めのストレートを捉える。  高々と上がった大飛球に観客も含め、球場にいた全員がその打球の行方を追う。


火影「オーラーイ」


 しかしフェンス直前で失速。最後はレフトにまわっていた火影が捕球してゲームセット。


山田「うそ……捉えたと思ったのに……」

龍滝「ナイスバッティング。驚いた……俺もまだまだだな」

山田「次は……打ってみせます」

龍滝「楽しみにしてるよ」


 宮城県代表、初出場の緑央は優勝候補の古豪相手に善戦を見せるも最後は  地力の差を見せつけられ6−2で敗れる。


連夜「兄弟揃ってプロ注目のピッチャーって凄いな」

司「父親も元プロだしな。親子2代は活躍しないって良く言うけど……」

松倉「そうだな……言うても青波投手の父親はプロじゃ実績らしい実績は残してないけど」

連夜「でもプロになること自体凄いだろ」

松倉「まぁな」

連夜「さて司、ちゃんと書いたか?」

司「書いたよ」

連夜「んじゃ帰るか」

松倉「あれ、残りはやらないのか?」

連夜「先輩グループと交代」


 後を山里、高橋に任せ連夜たちは宿舎に帰った。  そして全員が揃った夜に次の試合に向けてミーティングを行った。


慎吾「とりあえず次の静岡の富士中央。昨年も出ている言わば静岡の強豪だな」

連夜「へぇ。レベル高いところと続けて当たるな」

国定「………………」


 何気なく言った連夜の言葉が国定にヒットした。


慎吾「チームの特徴としては2年エース加藤を中心とした守りのチームだな」

姿「鷲真と逆か。ロースコアゲームになりそうだな」

慎吾「あぁ。だが、攻撃力も悪くない。鷲真とは違った意味で、だがな」

大河内「どういうことだ?」

木村「機動力野球を展開するみたいだ」

慎吾「静岡大会6試合でチーム盗塁数38個だと」

連夜「38ィ!?」

佐々木「1試合平均6個以上か」

慎吾「それに対抗して漣、お前をキャッチャーにする」

連夜「おっ、分かってるね」

慎吾「先発は大友に任せる。左だしな」

大友「しかし、自分で言うのもなんですがクイックは……」

慎吾「左ってだけでスタートは遅らせれる。もしモーションを奪われるようなら早めにスイッチするしな」

滝口「漣先輩がキャッチャーってことは俺はサードですか?」

慎吾「いや、お前は出さん」

滝口「酷ぇ!」

上戸「綾瀬、悪いけど俺首の痛みがまだとれないんだ」

慎吾「えぇ、次の試合は出さないので安心してください」

木村「外野は宮本、佐々木、久遠で行く」

宮本「えぇ〜僕ですか〜?」

滝口「何でミヤッチを出して、俺がベンチなんです!?」

慎吾「そこは何となく、初戦の貢献度で」

滝口「久遠先輩、酷かったのに出すんですか……」

久遠「うるさい、うるさい」

慎吾「いや、久遠まで外したら外野酷いことになるし」

透「ちょぉまてや。そんなら高橋はんを外野にしてワイを出したらええやん」

慎吾「ショートを真崎にするから、サードがお前じゃ怖い」

真崎「は? 大友先発なのに?」

慎吾「いや、前回それで継投ミスったからな」

連夜「じゃあ大河内さんと上戸さん抜きなの?」

慎吾「あぁ。頑張って点とれよ」

連夜「………………」


 初戦の鷲真に続いて、またも昨年の甲子園出場校と戦うことになった桜花。  大逆転で勝利した勢いそのままに2回目の大金星を挙げることができるのか!?





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