Thirtieth Third Melody―好投手現る―


 昨年の黄金世代で甲子園は大きく盛り上がりすぎ、今年は不発になるだろうと言われてきたが  そんなことは一切なく、昨年の勢いそのままに甲子園は熱気に包まれていた。
 また創設2年目で甲子園に来て、1回戦は大逆転勝利、2回戦は接戦で勝利、というドラマチックな試合展開をする  桜花学院は軽く注目を受けており甲子園番組で特集が組まれたりした。



連夜「次の対戦相手は?」

佐々木「栃木の大鍔高校だと。現在2試合連続完封中、エース美堂に要注意ってところだな」

連夜「へぇ、それは凄いな。うちと大違いだ」

国定「悪かったな」

連夜「いや、別にそういう意味で言ったんじゃないっす」

松倉「うちは元々守り勝つチームじゃないからな」

佐々木「今度は抑えられたら話にならない。ロースコアゲームで勝たないと」

連夜「……あれ、綾瀬は?」

木村「綾瀬だったら真崎たちと一緒に外に行ったぞ。何か人に呼ばれたらしい」

連夜「ふ〜ん」

木村「大鍔高校は佐々木が言ってる通り2年エース美堂攻略だな。打撃は正直大したことない」

佐々木「でも1回戦、2回戦と合わせて9得点してますよ?」

木村「内容を見ろ。打ってるのはクリンナップだけだ。そこだけ抑えれば大したことはない」

松倉「まぁ、それが出来ないから戦ったチームは負けてるんですけどね」

木村「お前な……」

松倉「冗談っす」

連夜「んで、ビデオあるんすか?」

木村「あぁ、あるよ」

連夜「じゃ一夜漬けでも見ておこうぜ」

木村「いや、3回戦までまだ時間あるからしっかり見ていてくれ」


・・・・*


 宿舎で偵察メンバー以外が次の対戦相手校である大鍔高校のビデオを見ているところ  慎吾たちは実際に大鍔高校のメンツと会っていた。


??「よっ、久々だなお前ら」

慎吾「美堂……お前、わざわざ電話で呼び出すなよ……」


 実のところ大鍔のエース美堂と慎吾たちは中学時代の同級生。  美堂が慎吾たちが対戦相手だと知るや否やすぐに電話して呼び出したらしい。


真崎「お前らも甲子園に出てたんだな」

真島「出てたんだなって知らなかったのか?」

真崎「あぁ」

真島「………………」

姿「俺ら、基本的に目の前の相手しかチェックしないからな」

真島「だろうね」

慎吾「ってことはお前らは俺らが出てるの知ってたのか?」

剣坂「当たり前だろ。美堂はすぐに連絡取りたがってたが、対戦する時まで待てって言っててな」

慎吾「普通、対戦前には会わんだろ……」

剣坂「いや、多分お前ら初戦で負けると思ってたから、負けてから連絡させようとな」

桜花ーズ「おい、なめるなよ」

剣坂「途中まで10点差つけられたやつらが何を言ってやがる」

慎吾「あれは作戦だ」

剣坂「嘘つけ!」

美堂「だが、次ようやく戦えるわけだ」

姿「それ言うためにわざわざ呼んだのか?」

美堂「いいや、もちろん違う」

真崎「じゃあそろそろ本題に入ってくれ」

美堂「姿と真崎は次はスタメンか?」

慎吾「教えるわけねーだろ」

美堂「正直、俺は綾瀬と勝負するために呼んだんだ」

慎吾「…………は?」

美堂「姿と真崎は試合に出ると信じてる。だが、お前は選手じゃなく記録員でベンチ入りしてるらしいじゃないか」

慎吾「まぁな」

美堂「と言うわけで勝負だ、綾瀬!」

慎吾「……意味が分からん」

真島「まぁ、せっかくグラウンド借りたんだ。勝負してやってくれ」

姿「これだけのために借りたの!?」

真島「あぁ」

姿「チーム練やれよ……」

美堂「で、やるのかやらんのか?」

慎吾「……俺だけで良いのか?」

美堂「あぁ。二人は試合で勝負する」

慎吾「分かった、いいよ」

真崎「およ? 珍しいな」


 試合前に相手投手の球筋を見れるなら別に断る理由はない。  ましてや自分は選手として出場しない。  つまりこちらに損はことはないわけだ。


慎吾「誰がキャッチャーやるんだ?」

美堂「真島」

真島「俺? っていうか勝負する気だったらキャッチャーを連れて来いよ」

姿「聞かされてきたんじゃないのか」

剣坂「あいつが言うわけないだろ」

姿「いや、道具持ってるので気づけよ」

剣坂「薄々は感じてた」

姿「………………」

真島「……ミットは?」


 美堂の手にはグローブとボール、それに慎吾に渡そうとしているバットだけだった。


美堂「あん? いるのか?」

真島「当たり前だろ!」

美堂「仕方ないな、ほらよ」


 自分の左手につけていたグローブを外し、真島に投げる。  それを受け取る真島だったが、突き指しないか不安になった。


ブンッ


ブンッ


慎吾「投球練習は良いのか?」

美堂「1球だけだから、いいよ」

慎吾「あっそ」

美堂「んじゃ、行くぜ!」


ビシュッ!


慎吾「しっ!」


パッキーンッ!


慎吾「…………あれ?」

姿「………………」

真崎「………………」

剣坂「………………」

真島「………………」


 完璧に芯を食った打球は、左中間方向へ飛んだ。  恐らく守備がついてても抜けていただろうと、4人は揃って思った。  しかしあれほど意気込んでいたわりに、この結果は……と慎吾を始めそう思わずにはいられなかった。


美堂「……はーはっはっは。試合を楽しみにしているぞ3バカトリオめ!」


 捨て台詞を吐き、美堂はとっとと去っていった。


姿「誰が3バカトリオだ」

真島「あ、綾瀬バット」

慎吾「あぁ」

剣坂「まぁ、いい試合しような」

真崎「あれで試合になんの?」

剣坂「本気で投げればな。遊びさ遊び」


 美堂の自分勝手な行動に呆れつつも真島と剣坂もその後を追った。


姿「ったく……」

真崎「で、どうだった?」

慎吾「さぁな。あれで遊びなら試合が怖いところだな」


 確実に今、投げたボールは中学時代より速かった。  それに美堂には武器があった。それを知っている3人だけに成長の跡を感じずにはいられなかった。



・・・・*



 一方、大鍔高校の一夜漬けに終わった桜花は甲子園を見ていた。  と言うより、データに関しては一部に任せて残りは甲子園を見ようってことになったのだが。  あんまりデータを気にしない面々が揃っており、完全に勢いで勝ってきたチームと言うのが伺える。


連夜「あ〜あ、頭痛ぇ……」

松倉「お前は来るなよ。データ集めてろ」

連夜「どうせ次、キャッチャーじゃねぇし。試合見てた方が楽しい」

松倉「まぁ、直感リードだしな……お前って……」

連夜「そゆこと」

松倉「(出来れば否定して欲しかった)」

連夜「で、享介や。試合はどことどこかな?」

佐々木「ん〜っと……西東京の赤槻と沖縄の椿木橋だな」

連夜「椿木橋? 聞いたことねぇな」

国定「今年、優勝候補と言われている高校だな」

連夜「あれ、国定さんも逃げてきたんですか?」

国定「逃げてきたって言うな」

松倉「椿木橋ってそんな評価高いんですか?」

国定「エースの桜井真次ってやつの評価が良くてな。右の桜井、左の青波って言われてる」

連夜「昨年みたいですね。右の青波、左の伊勢みたいな」

佐々木「言うても去年は好投手多かったからな。特に右投げは」

連夜「しかし赤槻も全国屈指の実力校だ。これは面白そうなカードだな」

松倉「赤槻の評価はどうなんです?」

国定「評価はB+。3年十文字、2年暁の投手評価は高いが打線が弱いって出てるな」

松倉「なるほど……投手次第ですか」

連夜「まぁ野球って基本的にそうだよね」

佐々木「まぁ、うちはそう言える勝ち方してきてないけどね」

国定「悪かったな」

佐々木「い、いや別にそういう意味で言ったんじゃ……」

連夜「あ〜あ、ダメだな享介。そこは思っても言ってはいけないところだぞ」

国定「一言余計だよ」


 連夜たちが不甲斐ない投手陣を弄っている間に  甲子園ではオーダーが発表され、試合が始まろうとしていた。



甲 子 園 大 会 2 回 戦
沖縄県代表 西東京都代表
椿  木  橋  高  校 VS 赤  槻  高  校
2年東   馬 清   村2B2年
3年LF根   元 真   中LF 3年
2年RF鞘   師 池   上RF 3年
3年3B橋   本 城   戸1B 3年
3年SS  堀   大   道 1年
2年藤   真 ブ ラ ウ ン3B2年
2年1B笠   原 城   石 SS3年
2年CF  鏡   湊   川CF2年
3年2B大   村   暁  2年


 TV画面からサイレンの音が鳴り響き、ようやく試合が始まったことを知る桜花メンバー。


連夜「あれ、赤槻の先発って暁じゃん」

佐々木「………………」

連夜「しょ、しょーがねーだろ! そういう高校名に名前なんだから」

松倉「優勝候補相手にエース温存とは凄いな」

連夜「だが暁だって全国レベルの投手だ。案外調子が良かったりするのかもよ」

国定「それは有り得るな」


カキーンッ!


暁「な、何っ!?」


 桜花メンバーの予想通り、調子の良さを買われこの試合先発マウンドに立った暁だったが  先頭バッターの東馬にヒットを許してしまう。  決して甘いところに投げたわけではないため、簡単に弾き返されたことに不快感が強まっていた。


清村「ドンマイ、ドンマイ」

暁「……チッ」

清村「………………」


 続く根元が送りバントをキッチリ決め1死2塁。  ここでバッターは3番鞘師。


鞘師「よろしくお願いしますね」

暁「(チッ、嫌いだな。こういう男)」


シュッ!


 脅しの意味もこめて内角の厳しいコースに投げ込む。


鞘師「嫌ですね」


スゥッ


暁「――!」


カキーンッ!


 まるで吸い込まれるような感じを暁は感じた。  そしてその感じのまま芯をくった打球は暁目掛けて飛ぶ。


バキィッ


暁「グッ……このっ!」

城戸「くっ!?」


 右肩に直撃しながらも懸命に1塁へ送球。  しかし、送球は逸れ城戸がフォローするも1塁はセーフ。  状況は1死3塁1塁となったが、それ以上に気がかりなのは暁の状態だ。


清村「暁!?」

ブラウン「ダイジョーブデスカ〜!?」


 タイムがかかり、内野陣が一斉にマウンドに集まる。  暁は冷却スプレーで当たった箇所を冷やし、緊急処置として2〜3球の試し投球が許された。


シュッ


暁「うっ……」

大道「無理そうですね」

暁「ふざけんな……まだ大丈夫だ」

城戸「無理をするな。この先、お前はまだ必要になる」

暁「……覚えておけよ、くそやろう」

鞘師「………………」


 城戸の言葉に、暁は素直に応じマウンドを降りる。  その際、1塁にいる鞘師に向かって睨みをきかせる。  それに対し鞘師は気にも留めず涼しい顔をしていた。


連夜「おいおい……大丈夫か?」

国定「右肩だけにな……多分厳しいだろうな」


 国定の思ったとおり、そのまま暁はドクターストップもかかり負傷降板。  急遽、エースの十文字がマウンドに上がった。


十文字「ふぅ……」

大道「この際、1点は仕方ないとしましょう」

十文字「なに?」

大道「このピンチに肩も作らずマウンドに上がってるんです。犠牲フライで済めば儲けもんです」

十文字「嫌だね。暁の気持ちを考えて言ってるのか? 俺はランナーを返す気はねぇ」

大道「それは自分もそうです。ですが、暁先輩だって負けるのが1番嫌なはずです」

城戸「大道の言うとおりだ。ここでお前にまで無理して抜けられたら困る」

十文字「……わかったよ。ただ、打たれるの前提で話すな」

大道「もちろんですよ。力は5分でもいいです、コントロールだけ気をつけてください」

十文字「了解ですよ」

城戸「(1年のくせに……さすがは監督に認められるだけあるな)」


 緊急登板の十文字だったが、大道の指示通り投げて4・5番を内野フライに抑える。  どうしても先制したいのは向こうも同じこと。  大道はそれを逆手にとった。十文字のコントロールならそれが可能だから、あえてそう言った。  『1点は取られても良いと』  大道だって本音を言えば嫌だ。でも、守ろうと力めばコントロールは悪くなる。  そして出来てない肩で投げれば故障に繋がる。もちろん威力は出ないから打たれるのも間違いない。


藤真「ふ〜ん、やるね、お宅も」

大道「負けられませんし」

藤真「でもそんな手負いのピッチングいつまでも通じると思うなよ」

十文字「(だな。肩は大丈夫だ、行くぞ)」

大道「(分かりました)」


ビシュッ!


藤真「シッ!」


ピキィーンッ!


十文字「な……っ!?」


 4〜5番に投げている間に肩も徐々に出来上がり、投げるに問題はなくなった。  そして本来の投球をした初球、藤真に捉えられる。


タッタッタッ


湊川「セカンッ!」


 センター湊川の守備で長打は防ぐことは出来たが、3塁ランナーは生還。  1塁ランナーも3塁へ進塁し、まだ3塁1塁のピンチは続く。


ククッ


笠原「ていっ」


カァーンッ!


 追い込んでからの外のスクリューを拾われ、ライト前へ。


池上「いかすかっ!」


ビシュウッ!


 ライト池上から3塁へレーザービーム返球がくるも、1塁ランナー藤真は2塁ストップ。


鏡「その肩も計算に入ってるぜい」

十文字「生意気な……」

鏡「そしてこの俺のチャンス強さ、君たちのデータには入ってるのかな?」

十文字「抜かせ!」


するするする


 ここで十文字の伝家の宝刀、スローカーブ。  ノリノリで攻めている相手に上手い攻め方……だが!


鏡「おりゃあっ!」


パッキーンッ!!!


十文字「――!?」


 上手く拾った鏡はそのまま振り切り、思いのほか伸びていく。  思いっきり振り切ったのに加え、浜風に上手く乗り打球はそのまま吸い込まれるようにスタンドへ。


鏡「どーでい!」

十文字「な、なんだと……?」


 まさかまさかのスリーランホームランで初回に5点先制。  暁が降板というアクシデントをつき、椿木橋が一気に勝負を決める。  一方、反撃したい赤槻だったが……


藤真「おっしゃあっ!」


ズバァァンッ!


清村「ッ……」


 先発の左腕藤真の前に要所を抑えられる。


カキーンッ


鏡「甘いっしょ!」


ズシャアァッ


パシッ


大道「嘘ッ!?」


 更に守っては鉄壁鏡を中心とした守備陣が好守で盛り立てる。  しかしだからと言って負けられない赤槻は名門の意地を見せる。


キィーンッ!


城戸「よしっ!」


 4番城戸のヒットとブラウンのフォアボールなどで1死2塁1塁のチャンスを作る。  ここで椿木橋は早めの継投に打って出た。


桜井真次「お疲れさん。後は任せろ」

藤真「へ〜い、お願いしや〜す」


 代わった超高校級と言われる桜井がずば抜けた直球で後続を完璧に抑える。


ズッバァァンッ!


湊川「ッ……」


 その桜井が残りのイニングをノーヒットで抑え  終わってみれば7対0と名門赤槻が大差で敗れた。


連夜「………………」

松倉「いくらアクシデントがあったとはいえ……」

佐々木「赤槻が1点も取れないとはな」

連夜「面白いじゃん」

松倉「面白いって……」

連夜「こんな投手がいるんだぜ? 何のために全国に来たんだよ。こういう投手を打つためだろ」

国定「同感だな。ましてや俺は同世代だ。負けられるかよ」


 試合を見た余韻に浸っている中、木村が部屋に入ってきた。


木村「よぉ、試合終わったか」

連夜「たった今。赤槻が7対0で負けました」

木村「マジか? 大差ついたな……」

国定「椿木橋は前評判以上に強いチームですね」

木村「ふむ。いずれ対策は必要か。それより今は目先の大鍔だ。綾瀬たちも帰って来た、ミーティングするぞ」


 先ほどビデオを見ていた部屋に戻ると、先ほどまでいなかったメンツが全員揃っていた。  4人もそれぞれの位置に座り、それを合図に前に立っている慎吾がビデオを再生した。


慎吾「次の大鍔高校はエース美堂を中心としたロースコアゲームを展開するチームだ」

山里「守備のチームってことか?」

慎吾「悪くはないですね。ただ美堂が良すぎるってところですね。強いて言うなら ショートの剣坂、ライトの風間は要注意です。攻撃面ではクリンナップですね」

大友「これまでの試合以上に投手の出来が勝負のカギになりそうですね」

慎吾「その通り。あんまり後のこと考えると厳しいが、次は国定先輩を頭に立てる」

国定「了解」

連夜「トーナメントだからって後のこと考えるのは賛成じゃないな。目先の試合勝たなきゃ次もねぇんだ」

透「せや! 目の前の試合に全力でやろや!」

慎吾「選手はそれでいい。だが俺らの仕事はそこを上手くコントロールすることだ」

連夜「そっか。んじゃ何にも言いません」

慎吾「美堂は俺ら……姿、真崎と中学一緒だったんである程度の球種は覚えてるんですが……」

木村「……あ、あの美堂か!?」

慎吾「……は? 今更?」

木村「うっ……」


 慎吾たちが中学の頃、コーチ経験のある木村。  当然、美堂らのことは知っていても良いのだが今の今まで頭に残っていなかったらしい。


真崎「年だな」

姿「大丈夫すか?」

木村「っさいわ」

慎吾「まぁ年寄りは置いといて、真崎と姿を上位に置きます。 1番に大河内先輩、4番に高橋先輩。上戸先輩はまだ休養を」

連夜「ってことは5番は俺か?」

慎吾「あぁ。下位は国定先輩、佐々木、山里先輩、久遠で行く」

久遠「へ? 俺?」

慎吾「上戸先輩がまだ万全じゃないからな。お前には早くスランプ脱してもらわなきゃ困るし」

久遠「お、おう」

滝口「あの〜初戦以降、まったく出番ないんですけど?」

慎吾「守備に難があるお前と漣を一緒には使えないんだよ。悪いが我慢してくれ」

滝口「うぅ……タイプ的に似た上戸先輩がケガした時、出番増えると思ったのに」

大友「お前と違って上戸先輩は足があるからな。全然違うわ」

慎吾「まぁそういうことだ。試合展開楽になったら出してやるから」

滝口「約束ですよ?」

慎吾「へいへい」

連夜「まぁ、試合のキーマンは真崎と姿か」

大河内「もちろんその前後が生きればの話になるけどな」

真崎「俺は決めるタイプじゃないからな。姿に任せるわ」

姿「プレッシャーかけるなって……」

連夜「(なんで姿ほどのバッターがプレッシャーに弱いんだろうな……)」


 口には出さないが連夜が思ってることは皆、思っていた。  慎吾もある意味、荒療治に出ているところはあった。  精神面を鍛えるには、場数を踏むことも重要になる。


慎吾「姿、最近いいバッティングしてるだろ。それを意識しろ」

姿「……あぁ。何とかやってみるわ」


 千里の道も一歩からと言う。  一気に走る必要はない。  今までの姿は期待に応えようと、無理をした。出来ないことまでやろうとした。  だから失敗してきたのだ。


慎吾「美堂相手に大味な野球はしません。確実にランナーを進める野球をします。 2死からでもワンヒットで還れる状況を作り、点を挙げていきます」


 2死にしてまでクリンナップに託す、と言うのはやっぱりプレッシャーになる。  だが慎吾はあえて言い方を変えた。  『2死からでもワンヒットで還れる状況』  長打は必要ない。ヒットを打てばいいだけ。  もちろん難しいことに変わりはないが、意識や受ける印象は全然違う。


連夜「シュウがいれば十八番な野球なんだけどな」

佐々木「いないものねだりしたってしょうがないだろ」

大河内「そうだな」


 それでも慎吾は姿に期待してしまう。  分かっているのだが……姿というバッターにはそんな魅力があるのだ。


慎吾「明日は……」

姿「ハッキリ言えよ。任せとけ、俺に」

慎吾「……頼むぜ、相棒」

姿「あぁ」


 次の試合で一皮向けることを慎吾は願った。  期待され、そしてその期待に応えたいからこそ姿は躓いた。  それでも期待してくれる親友へ、今度こそ大舞台で応えたい。  そんな強い想いを胸に、姿は……桜花学院は3回戦、大鍔高校との試合を迎える。




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