Thirtieth Seventh Melody―仮説と真実―


 4時間31分の熱闘を終え、疲労感たっぷりで宿舎に戻る桜花メンバー。  しかし、その中に連夜の姿はなかった。  仕度をしたと思ったら荷物を仲間に任せ、反対側のベンチの出入り口に走った。


連夜「はぁ……はぁ……」


 弟と話す機会を得るために、というのは言うまでもないのだが  試合終わってすぐに対戦相手と話すのはあまり褒められたもんではない。


豹「レン? なんでここに?」

連夜「豹! ビャクと話をさせてくれ」

豹「は? 何言ってんの、お前」

龍滝「進藤、どうした?」

白夜「………………」

連夜「ビャク!」

白夜「………………」


 しかし白夜は連夜に見向きせず、バスに乗り込む。


連夜「ビャク!」

龍滝「待て、どこに行く気だ?」

連夜「離せよ!」

龍滝「何があったか知らないが、試合終わってすぐはないだろ。少し考えろ」

豹「そうだぜ、ましてやKOされた投手なんだ」

連夜「………………」

豹「はぁ……ちょっと待ってろ」

連夜「……?」


 バスに荷物を乗せたと思ったら、ダッシュでバスに乗り込む。  乗り込むさいに乗ろうとしていた男を吹っ飛ばしたが豹はまったく気にしてないようすだ。  バスの中でも駆けており、運転手に何かお願いしているようだ。


連夜「何してんだ、あいつ?」


 そう思ったのもつかの間、バスから豹が文字通り飛び出てきた。  その際、乗ろうとしていた男がまた吹っ飛んだが気にせず連夜のところに来た。


豹「おまっとうさん」

連夜「どうでもいいけど、火影死んでるぞ?」

豹「あぁ、気にするな。そういう役目だし、あんなんでケガしてたらあいつ甲子園に来れてない」

連夜「(普段からどんなことされてんだ、あいつ?)」

豹「それより、これ」


 手渡されたのは住所が書いてある紙だった。


豹「俺らの宿舎。これそうか?」

連夜「……あぁ、大丈夫だ」

豹「話はつけとく。一度戻ってから来い」

連夜「助かる、あんがとな」

豹「中学の借りだよ。気にすんな」


 ポンと肩を叩いて、豹はバスに乗り込んだ。  その際、バスから豹を呼ぼうと出てきた男を吹っ飛ばしたのは言うまでもない。


連夜「……はぁ……」


 豹からもらった紙を適当に四つ折りにし、ポケットの中にいれた。  ふと空を見上げると試合開始前は高く昇っていた日が、薄らと紅色を差してきた。



・・・・*



 帰りのバスの中、やはり疲労感で少し重苦しい雰囲気になっていた。


火影「えぇーい、なんだいこの空気は! 負けたわけじゃないんだぞ!」

水神「やかましい。疲れてんだ、明日の試合もあんだから静かにしてろ」

火影「湿っぽいのは大嫌いなんねん! もっとさ、雰囲気だけ明るくしようや」

須山「んで、何でお前、そんな痛そうな顔してんの?」

火影「それは氷室のやろうが!」


 その氷室こと進藤豹は後ろの方に座っている白夜の隣に座っていた。  22人乗るのに、わざわざ隣に乗る必要ないのだが、今は連夜とのことについて聞こうと思い  隣に座った……のだが、開口一番の言葉が思いつかず云々と唸っている。  そんな豹に見かねた白夜が先に話しかけてきた。


白夜「……進藤先輩って……あいつと知り合いなんですか?」

豹「あいつ?」

白夜「漣連夜とです」

豹「あぁ、中学一緒なんだ。まぁ途中からなんだけど」

白夜「埼玉の、ですか」

豹「そうそう。そういや弟はいなかったな。光ちゃんは同じ中学だったのに」

白夜「僕はその頃、ある人に着いてったので」

豹「ある人?」

白夜「えぇ。去年一年は御藤監督の下で過ごして、高校に入学しました」

豹「ふ〜ん……ってことは監督とは入学前から知り合いなんだ」

白夜「そういうことです」

豹「でもさ、何でレンのことそんな嫌うん?」

白夜「……別に……嫌ってるわけじゃないんです」

豹「え?」

白夜「ただムカつくだけです」

豹「へ?」


 目標が目の前からなくなる虚無感。  そしてその怖さ。


『ビャク、頑張れよ』


『え?』


『俺、野球辞めるわ』


『な、なんでだよ!?』


『俺にはセンスないって分かってるから。父さんもお前に期待してるしな』


『勝手なこと言うなよ!』


 自分よりはるかにセンスがあった兄が野球を辞めた。  理由はセンスがないから……  じゃあ自分は?


白夜「そんな理由で辞めた兄が許せなかった」

豹「(なんていうか……レンらしいっちゃらしいよな)」

白夜「だから意地なんです」

豹「意地?」

白夜「無理やり約束しました。兄が野球を始めるように」

豹「そういや、今更だけど帝王じゃないんだな」

白夜「桜花は元々野球部がありませんでした。まぁ桜花に進んだ理由も想像つきますが」

豹「(つーか翔も横海にいたし、聞くと龍も違うらしいな。あいつら、約束誰一人守ってないってことか)」


 白夜の一件とは別に、豹も軽く憎悪感を生み出していた。  まぁこれはまた別のお話なのだが。


豹「で、どうだ? レンには俺らの宿舎の住所を渡しておいた」

白夜「え?」

豹「話してみろよ。レンに対して怒ってるわけじゃないなら、向き合ってみろ」

白夜「………………」

豹「逃げるのは楽だよ。でも何にも解決しない。レンは真っ直ぐに向き合おうとしてるよ」

白夜「進藤先輩……」

豹「って悪いな。これ受け売りなんだ」

白夜「え?」

豹「中学のとき、レンたちに言われたことなんだ。本当の両親と向き合うのが怖くて逃げ出してた俺に そう言って背中を押してくれ」

白夜「本当の?」

豹「中学まで俺は里親に育てられてた。火影たちが俺を氷室と呼ぶのは、中学まで苗字がそうだったからさ」

白夜「そうなんですか……じゃあ今は?」

豹「本当の両親と暮らしてるよ」

白夜「凄いっすね」

豹「凄くないさ。そっちだって家庭の事情はあんまり知らないけど、複雑なんだろ?」

白夜「えぇ……まぁ……」

豹「中学の時から、レンはずっと考えてた。だからそんなレンの想いに応えるためにも 弟……いや、白夜には向き合って話して欲しいって思う」

白夜「進藤先輩…………わかりました」

豹「白夜……」

白夜「言ってもあの男は来るでしょう。明日試合なのに、僕が出なかったら 多分、ずっと居座りますよ。そうなったらチームに迷惑かけますしね」

豹「くくっ、違いないな」


 相変わらずの皮肉っぷりだが、自然と心の中のモヤモヤは少しずつ晴れていくのが分かった。  きちんと向き合った先は土砂降りの雨か? それとも雲一つない晴天か?  どちらに転んでもいい覚悟と、向き合うだけの気持ちを作ることが出来たのに間違いはなかった。



・・・・*



 一方、桜花も宿舎につきすぐに解散、自由時間にした。  そして大河内、上戸、真崎の3人はすぐに病院行きなった。  ケガ持ちのため、無理して故障したら元も子もないっていう木村の配慮だが  国定だけは頑なに行くのを拒んだ。  結局、国定は宿舎で休んでることになったのだが……


佐々木「何で、国定さん……行かなかったんだろ?」

姿「今日200球近く投げたのにな。ケガが再発したら……」

連夜「だからじゃね?」

姿「え?」

連夜「病院に行って明日、投げるのを止められるのが怖いんだろ」

姿「それって……」

連夜「あぁ。恐らく、相当悪い……のかもな」

佐々木「それなら明日投げさせない方が……」

連夜「それは監督の判断だ。お前らも休め、疲れただろ」

佐々木「いや、お前もだろ。慣れない内野やって」

連夜「ちょっと用事があってな。抜けるわ」

佐々木「は?」

連夜「監督が先に帰ってきたらランニングに出てるとでも言っててくれ」

佐々木「あ、あぁ……」


 腑に落ちない佐々木と姿だったが、妙な雰囲気に圧倒されて連夜を送り出した。

 桜花と豊宣の宿舎は大体、車で1時間ぐらい離れたところにある。  しかし連夜は元々は兵庫に住んでいたため土地勘があり、十分バスで行き来できる術を知っていた。


豹「来たか」

連夜「豹……」


 宿舎の前に行くと豹が腕を組んで待っていた。


豹「この先に公園あんのは……」

連夜「知ってるよ」

豹「そこで待ってろって」

連夜「分かった。豹、悪いけどさ」

豹「バーカ、分かってるよ。ただ白夜の伝言を伝えただけだ」

連夜「……サンキュ」

豹「どういたしまして、じゃあな」

連夜「豹!」

豹「ん?」

連夜「その……どうだ? そっちでの生活は」

豹「おかげさんで、今では普通に暮らしてるよ」

連夜「そっか」

豹「何があったのかは聞かないけど、でっかい問題抱えてるんだろ?」

連夜「………………」

豹「でもお前は逃げずに向き合おうとしてる。だから結果的にはいい方に向くと思うよ」

連夜「豹……」

豹「じゃ、呼んでくるよ。先に行ってろ」

連夜「頼むわ」

豹「へいへい」


 連夜は親友に対し、心から感謝して指定された場所へ向かった。  向かうまでの時間、そして白夜が来るまでの時間、連夜が覚悟を決めるには十分過ぎる時間だった。  果たして白夜から出る漣家の闇とは一体……?


ザッ


連夜「よっ」

白夜「……いい歳して何してんだ?」

連夜「ブランコだけど?」

白夜「………………」


スタッ


 ブランコから勢いをつけて飛び降りる。


連夜「じゃあ話してもらおうか。お前の知ってることを」

白夜「……その前に一つ、俺から聞いて良いか?」

連夜「なんだ?」

白夜「野球……なんで辞めたんだ?」

連夜「いや、続けてるだろ」

白夜「違う。俺に言っただろ? センスがないから辞めるって」

連夜「………………」

白夜「何で……?」

連夜「文字通りだよ……いや違う……そうじゃないよな」

白夜「レン……兄……」

連夜「逃げたんだ」

白夜「逃げた?」

連夜「野球から……父親から……」

白夜「どういうこと?」

連夜「あの時の俺はお世辞にもいい選手じゃなかったろ? 親父も野球に関しては何にも教えてくれなかった」


 あの時とはまだ連夜たちが埼玉にいた頃の話。  埼玉でリトルリーグをやり、兵庫に引っ越してから一時期辞めていた。  キッカケを得てまた始めたところで、白夜がいなくなり連夜たちは埼玉へ戻ってきたのだ。


白夜「それは俺も不思議に思ってた」

連夜「親父はしきりにプロ野球選手になって欲しいって言ってた。 けど、全てはビャク……お前に期待してる。そう思ったら嫌になったんだ」

白夜「………………」

連夜「俺が左投げでまた始めた時なんてグローブ燃やしたぐらいだぜ? 恐らく、親父は本当に俺に野球をやらせたくなかったんだろ」

白夜「そう……だったんだ……」

連夜「実はさ、光から聞いてたんだ。お前が何でそんなに俺にこだわってたのか」

白夜「――!」

連夜「お前は俺なんか目標にしなくても十分上を目指せる。だから頑張ってくれ」

白夜「…………ふふっ」

連夜「ん?」

白夜「人から打っといてよくそんなこと言えるな」

連夜「たまたまだよ」

白夜「たまたまね……右打席でも打たれたっていうのがかなりショックなんだけど」

連夜「ここで打っとかないと抑えられたりしたらはぐらかされそうだったからな」

白夜「まぁ……否定はしないね」

連夜「くっくっ」

白夜「でもわざわざ右投げでねぇ……」

連夜「それはチーム事情……もあったけど、お前の心理を狙ったのは事実」

白夜「え?」

連夜「いや、ヘタだった俺でもセンスにいち早く気づいて目標にしていたんだろ? 右投げなら余計、その心理をつけるかなって思ってさ」

白夜「……やられたよ。まさか今でも右で投げれると思わなかった」

連夜「俺自身もな。さすがにもう明日は右投げ止めるけど」

白夜「なんで?」

連夜「なんでってお前分かってるだろ……」

白夜「危なっかしいもんな」

連夜「そういこと」

白夜「しかしまぁ、見事にレン兄の思い通りかよ」 連夜「長兄に逆らうもんじゃないさ」

白夜「……でもそんな事情が分かって良かった。そんなことがあったんだな」

連夜「まぁね。さて、こんなもんでいいか?」

白夜「……あぁ、いいよ」

連夜「んじゃ、次は俺の番だな」

白夜「………………」


 そう連夜が言うと白夜はゆっくりと歩き出した。  まさか帰るんじゃないかと引き止めようとしたが向かってる先にベンチがあるのが目に入った。  黙ってみてると思っていた通り白夜はそのベンチに座った。  それに続いて連夜はベンチの近くにあるスプリングのきいた動物の乗り物に乗った。  パンダ・ライオン・ウサギとある中、パンダを選んだのは恐らくベンチに一番近いからだろう。


連夜「綾瀬大地って言ったっけ?」

白夜「……あぁ」


 何から聞こうか悩んだ挙句、唐突な質問になってしまう。  聞きたい聞きたいと思っていたが、いざとなるとやはり踏み込むのには勇気がいる。


連夜「その人から聞いたんだろ? その親父の罪って」

白夜「そうだよ」

連夜「駆け引きなんて出来ないし、お前とはする必要もないしな。 単刀直入に聞く。親父の罪、お前の聞いた漣家の闇ってなんだ?」

白夜「…………レン兄はどこまで知ってる?」

連夜「何を?」

白夜「漣家のこと……いや、漣鈴夜たちのこと」

連夜「悪いが全然だ。双子の弟がいたこと、15年前にある事件があったこと、それぐらいだ」

白夜「そう、双子の弟……漣朔夜の存在が大きい」

連夜「つまりその事件が鍵ってことか」

白夜「そうだよ。漣鈴夜は……その事件のとき、漣朔夜を殺した張本人さ」

連夜「――な、なに?」

白夜「理由は良く分からない。そこまでは教えてくれなかったから」

連夜「そんな根の葉もないことをお前は信じたのか?」

白夜「………………」

連夜「そんなこと……するわけねぇだろ!」

白夜「なぜそう言い切れる?」

連夜「なんでって……」

白夜「全ての人が善人じゃないように、人は……いつ何があるか分からないだろ!」

連夜「――ッ」


 連夜はなぜか自分のことを言われているようで心が反応した。  今、自分が自分ではない感覚に陥っているのは他ではない連夜だったから。


白夜「俺の目標で更に父親がただの犯罪者かも知れないって言われたんだ。 俺は何を信じればいいんだよ!」

連夜「………………」


 たかが、と言えばたかがそれだけのことかもしれない。  だけど白夜にとっては家を出るには十分すぎる理由だった。  目標を失う怖さを一度経験している以上、白夜の心の傷はかなり深いものがあった。


白夜「俺だって……信じたくなかったよ……」

連夜「いや、悪い。ちょっと考えなさすぎた」

白夜「……これさ、俺のただの仮説なんだけど」

連夜「ん?」

白夜「漣鈴夜は朝里優美のために漣朔夜を殺した。そうは思えないか?」

連夜「なに……言ってんだよ?」

白夜「父さんは不思議と俺らの母親のことに関しては教えてくれなかった。 そこには裏があると思わないか?」

連夜「……まさか?」

白夜「そう、父さんは朝里優美と関係を持ったんだ」

連夜「それなら俺らに母親の記憶がないのは頷けるって?」

白夜「あぁ。例えば俺と光が生まれてすぐに別れることになったとかな。 その辺の事情は知らないし、そもそもこれは俺の仮説だ」

連夜「なるほど……まぁ有り得る話ではあるな」

白夜「その15年前の事件、漣朔夜が朝里優美と一緒になったから朝里グループが消すために 動いたって話らしいし、この仮説も怪しいけどな」

連夜「いや親父曰く、2人はグループ公認らしい。それが理由じゃない」

白夜「はぁ? じゃあなんで朝里グループは?」

連夜「……ビャク、見てろよ」


 そう言って腕まくりをして左腕に力を入れる。  白夜の目にはその左腕から発せられる青白い光がしっかりと目に映った。


白夜「こ、これは?」

連夜「これが襲われた理由、漣家に伝わる悪魔の血だと」

白夜「…………は?」

連夜「俺がそれ、一番言いたいけどな」

白夜「悪いけど、最初から説明してくれ」

連夜「まぁ俺もよく分かってないけど……」


 今まで聞いた情報を自分なりにまとめて白夜に説明した。  正直、自分でも分からないことだらけだが、確実なことが一つある。  15年前、確かになにかが起きていて今、その血を自分が継いでいること。


白夜「そんな……じゃあレン兄は?」

連夜「分からない。けど、あるやつは俺は漣朔夜の子だという」

白夜「朝里優美との間に生まれた……?」

連夜「そういうことになるな」

白夜「………………」

連夜「どうだろうな、俺は信じてはいない。けどこの血はある意味証明なのかも知れないな」


ひな「その通りよ」


 2人の会話の中、急にひなが横槍を入れてきた。  甲子園の応援に来ているため、兵庫にいること自体は驚かない。  けど、この場にいることは釈然としないものがあった。


連夜「駒崎……」

白夜「え? レン兄、駒崎と知り合いなの?」

連夜「は?」

ひな「あら、白夜くん。お久しぶり」

連夜「なんでお前ら……」

白夜「俺が大地さんに着いていった時に知り合ったんだ」

連夜「そうか。お前、手駒なんだっけ」

ひな「………………」

連夜「真崎とくっついたのも俺に近づくためか?」

ひな「それは……」

連夜「…………まぁいいや。ビャク、駒崎は高校の後輩なんだ」

白夜「あ、そうなんだ」

連夜「で、何のようだ?」

ひな「そろそろ覚悟を決めてもらわないとこっちも色々とあるのよ」

連夜「覚悟って言っても、まだ何にも分かってないしな」

ひな「例えば?」

連夜「自分は何者なのか? いきなり朔夜の子どもっていわれてもねぇ」

ひな「あなたは漣朔夜の子なの。どうして認めないの?」

連夜「……あのな、駒崎。お前が綾瀬大地とやらのどの程度の手駒か知らないが 俺が朔夜の子どもって、お前の仮説だろ?」

ひな「な、何を言ってるの!?」


 想像以上の動揺に驚き半分、嬉しさ半分と言った感じだ。  連夜もただただ今まで情報を聞いていたわけじゃない。  暇な時など、自分で仮説を立てるなどして真実に近づこうとした。  そこである矛盾に気づいた。自分が朔夜の子どもでは釈然としない事実がそこにはあった。


連夜「ビャク、宙夜たち知ってるよな?」

白夜「そりゃもちろん」

連夜「駒崎、知ってるか? 俺らには兄弟がいる」

ひな「えっ……?」

連夜「そいつらの存在を知ってたら、俺が漣朔夜の子ということにはまずならないんだ」

ひな「……どういうこと?」


 ここで連夜もある“仮説”を立てる。  ひなのことをはめる為に。


連夜「そいつらって言うからには複数いるんだけど、共通点があるんだ。な、ビャク」

白夜「え? えっと……父親がいない?」

連夜「そう。ガキの頃、漣鈴夜が面倒みてたようなもんだからな」

ひな「それが何?」

連夜「そしてもう一つ。幼い頃に襲われたことがあるんだ。相手は分からないが 恐らく朝里グループだろう」

ひな「だから何なのよ! はっきり言って!」

連夜「なぜ朝里グループがそいつらを消そうとしたか分からないか? 俺には朝里グループのことは 良く分からないが漣朔夜を消した以上、やつらにとってはいてはならない存在なんだろ」

白夜「……れ、レン兄……まさか?」


 連夜も仮説のつもりだった。  でも話しているうちに、これが真実じゃないかと思う気持ちもあった。  それは一夜との会話があったから。  一夜と白夜が共通の闇を知っているとは限らない。  いや、むしろ別々と考えるのが妥当だろう。  そう、連夜の仮説が今、一夜の闇に迫ろうとしているのだ。


連夜「そうだ。あいつらの……共通の父親、それが漣朔夜なんじゃないか?」

白夜「――!」

ひな「どういうこと!?」

連夜「朝里グループ公認っていうのが俺は引っかかってたんだ。2人の駆け落ち同然ならまだしも 公認ならなぜ消す必要がある? 俺はそこの理由が分からなかった」

白夜「…………! レン兄の!」

連夜「そう。恐らく漣朔夜の力を継承させようとしたんだ」

白夜「一夜くんたちは失敗?」

連夜「恐らくな。証拠として残る以上、消そうとしたんだ」

ひな「ちょっと待ってよ。なら生きてるあなたこそ、正式な継承者じゃない!」

連夜「それは違う。そうだったら、俺は朝里に捕まっている」

ひな「あっ……!」

連夜「それに俺も狙われたことがあるんだ。今考えれば親父が引退したのも俺のせいかもな」

白夜「え?」

連夜「…………!」


 ここでふと昔のことが脳裏を過った。  怖い思いをしたため、その時のことを思い出さないようにしていたが……  少しずつだが、連夜は脳内でピースがはまりつつあった。


白夜「どうした?」

連夜「い、いや何でもない」

ひな「……でもあなたは狙われた経験があるんでしょ?」

連夜「クスッ……あぁ、そうだな」


 思い出した以上、これはただのハッタリにしかならない。  けど、今は十分だった。  後は本人と会って話してみればいいだけのこと。


連夜「でも俺は9歳のときだ。一夜たちとは時期が違いすぎる。つまり朝里にとって 俺は計算外なんだよ。いるはずのない力の継承者なんだ」

ひな「…………ッ!」


 ひなは唇を噛み締めた。  連夜の指摘はハッタリのようでいて、ケチがつけれないほど筋は通っていたから。


連夜「どうだ、とりあえず認めてくれるかな?」

ひな「何を?」

連夜「俺が漣朔夜の子だっていうのは君の仮説だろ?」

ひな「……えぇ……そうよ」

連夜「OK」

白夜「なぁレン兄……」


 白夜が何か話そうとしたとき、手で制された。  そして連夜はまっすぐにひなのほうを向く。


連夜「駒崎、あんたの親分に言っておけ。大会が終わったら会う。だから今だけ見逃してくれって」

ひな「そう……分かったわ」


 俯きながらひなはその場を去った。  とりあえず自分の中の疑惑が晴れ、そして真実に近づく仮説が立てられた。  連夜にとって今日は大きな一歩になった。


連夜「(まぁ仮説はどんなに真実に近くても仮説に変わりないけど……)」


 そうは思っても、前進した手応えを感じずにはいられない。


連夜「ところで、さっき何を言いかけた?」

白夜「え? あぁ……そのさレン兄がさらわれた時……本当に朝里だったのかな?」

連夜「いや違う。朝里は俺の存在に気づいてないはずだ」

白夜「じゃあ……一体誰が?」

連夜「何となく想像はつくよ」

白夜「え?」


 想像ではない、過去にさらわれたのだからその犯人を連夜は見ているのだ。  そして今、しっかりと思い出した。  そう考えれば辻褄が合う。  なぜ白夜までこのことに関わらなきゃいけなくなったのか……  教えた張本人こそ、連夜をさらった犯人なのだから。


連夜「さて、明日も試合だし帰るか」


 だけどここではあえて言わなかった。  白夜はその人を慕っているように見えたから。


連夜「明日、投げるのか?」

白夜「投げるわけないだろ」

連夜「なーんだ、残念」

白夜「ま、うちが誇る2大投手をどう打つか楽しみにしてるよ」

連夜「へいへい、せいぜい見てろ」


 お互い拳を握り、手の甲を軽く合わせた。  すれ違っていた兄弟が今、ようやく元に戻った。



・・・・*



 そして翌日、桜花対豊宣のベスト4をかけた再試合。


国定「おしっ、勝つぞ!」

全員「おぉ――ッ!」


龍滝「全力をつくせ!」

全員「オスッ!」


ウウウウウウ――ッ!!!


 AM8:50、甲子園にサイレンが鳴り響いた。


甲 子 園 大 会 準 々 決 勝
千葉県代表 愛媛県代表
桜  花  学  院 VS 豊  宣  学  園
3年大 河 内 進   藤2B 2年
2年CF佐 々 木 水   神3B 2年
3年RF高   橋 火   影2年
3年LF上   戸 青   波RF3年
2年3B  漣   石   水 3年
2年1B  姿   日   高1B 3年
2年SS真   崎 坂   口 SS3年
3年2B山   里 大   西LF3年
3年国   定 須   山CF3年





THE NEXT MELODY


inserted by FC2 system