Fortieth Ninth Melody―苦悩と変化―


 土曜日、山形の陽佳との試合のため桜花はグラウンドを借りて先に練習していた。


慎吾「大友はいけるところまでいけ。完投出来るならさせるからな」

大友「はいっ!」

慎吾「とはいえ薪瀬も準備を怠るなよ」

司「あぁ」


 投手二人と捕手を務める滝口は慎吾の軽い打ち合わせ。  野手陣は木村のノックを受けていた。


滝口「リードはどうするんですか?」

慎吾「いいよ、お前のやりたいようにやれ」

滝口「分かりました」


キィンッ


パシッ


真崎「それよっと」


シュッ


真崎「ん?」

姿「来たようだな」


 反対側のベンチから見慣れないユニフォームを着た面々が現れた。


秋山監督「木村監督、今日はよろしくお願いします」

木村「いえ、こちらこそ。おい、上がれ。交代だ」


真崎「うーす」

姿「今日は動けてるな」

真崎「あぁ、肘もいい感じだしな。山里先輩がいないんだ。俺もそろそろ一本立ちしねぇとな」

姿「くくっ、良く言うぜ」

??「初めまして、今日はよろしくお願いします」

真崎「っとどうも」

姿「ん? お前……駿河か?」

駿河「はい? そうですけど……」

姿「ふ〜ん、いや何でもない。よろしくな」

駿河「はい、お願いします」


タッタッタ


真崎「いいやつだな。わざわざ挨拶に来るなんて」

姿「教育方針だか知らないが駿河はそんな男じゃねーぞ」

真崎「知ってんのか?」

姿「シニアの時な。高杉と同じチームにいたやつだ」

真崎「え!?」

姿「投手はともかく打者で自分以上のやつがいたと当時は正直驚いたよ」

真崎「あいつ、そんなに凄いのか……」

姿「当時から順調に成長しているなら、な」


 まだ名が知られていない陽佳と初出場で甲子園ベスト8まで進んだ桜花。  この練習試合の勝負の行方は?


練   習   試   合
先   攻 後   攻
陽  佳  高  校 VS 桜  花  学  院
2年2B珠   玖 森   岡SS2年
2年RF名   瀬 佐 々 木CF 2年
2年瑞   穂 倉   科3B2年
2年CF駿   河   姿   1B2年
2年高   柳 滝   口 1年
2年LF水   田 久   遠 RF2年
1年SS越   後 大   友1年
2年1B鈴   木 真   崎2B 2年
1年3B本   田 宮   本LF1年


 オーダーは以上の通り。  後攻の桜花が最初の守備に就く。


シュウ「いや〜礼儀正しいやつだったな」

透「せやな。今日は楽しく出来そうやん」

真崎「お前らな……少しは集中しろよ」

姿「(お前が言うな)」

シュウ「あの珠玖ってやつは近い将来、一緒にやってる気がするんだ」

姿「何言ってんの?」

大友「いきますよ?」

シュウ「おっしゃあ、来い!」

姿「………………」


 一回の表、陽佳の攻撃。  トップバッターの珠玖が左打席に入る。


珠玖「へっへっへ〜、さぁ来いよぉ」

滝口「(小柄な人だな。パワーはない。思いっきり押してこい)」

大友「(ふっ……)」


 夏の大会は大河内と組んでいた大友。  アバウトなリードな滝口と久々に組んで懐かしい思いになった。


ズッバァンッ!


珠玖「わぁお!」


 と同時に力で押しまくっていた中学時代を思い出した。


ギィンッ


シュウ「オッケー」

名瀬「くっ」


ガキッ


シュウ「もういっちょ」

瑞穂「あ〜……」


 一番珠玖を三振、二番名瀬、三番瑞穂を連続でショートゴロに抑える。


滝口「いいねぇ」

姿「ナイスピッチング」

慎吾「……鈴村対策、純粋に大友でもいいな」

佐々木「それを今言っちゃあ……」


 しかし今慎吾がポツリと言った言葉が現実にした方がいいと  桜花の面々はこの後、すぐに思いなおした。


瑞穂「(グワッ)


ズバァンッ


シュウ「……へ? なんか今おかしくなかった?」

佐々木「……左のアンダー?」


瑞穂「(グワッ)


ズバァンッ


慎吾「……おい、木村……どういうことだ?」

木村「い、いや……俺に言われても……」


 相手の先発、瑞穂は体を沈みこませ極力腕を下げた投法……アンダースローで投じていた。


慎吾「練習どころか苦戦を強いられそうだな……」


 慎吾の言葉通り、慣れないアンダーにタイミングが合わず  1、2、3番と呆気なく三者凡退に倒れた。


シュウ「いや〜鳴海も嫌だけど、あいつはもっとタイミングとれないねぇ」

慎吾「右の佐々木でもタイミング取れないか」

佐々木「左アンダーなんてやったことないからな」

透「な〜に、すぐに打ったるわ」

慎吾「一打席目三振だったやつが言ってもなぁ」

透「それは内緒や!」

久遠「………………」


 二回の表、陽佳の攻撃は四番駿河から。  姿曰く、要注意な人物だが……


ビシュッ!


駿河「………………」


ズバァァンッ!


滝口「うし、ナイスボール!」

大友「…………?」


 ノーテンキな滝口とは対照的に大友はピッチャーとして駿河に対し警戒心を自然と持ち始めていた。


大友「(このバッター……姿先輩みたいだ……)」


 構えが似てるわけでもないのに雰囲気がそう感じさせる。


滝口「(どうした〜? 早く投げて来い!)」

大友「(ここはコーナーをついた方がよさそうだな)」


シュッ!


カッキーンッ!


駿河「よし」

大友「――ッ」


 コーナーをつこうとしたが、甘く入ってしまいそれを駿河に運ばれた。  先制は陽佳、四番の一振りだった。


透「どうしたんや?」

大友「すいません」

シュウ「ドンマイドンマイ。ここで抑えようぜ」


カキーンッ!


 しかし続く五番高柳にも長打を浴びてしまい、送りバントを決められ一死三塁。


ガキッ


パシッ


真崎「チッ」


 そしてセカンドゴロの間に生還し、更に一点追加された。


慎吾「ん〜卒のない野球をするなぁ」

大友「すいません」

慎吾「ちょっと大事に行き過ぎたな。ま、このぐらい気にするな。うちの打線なら二点ぐらいすぐだよ」


 二回の裏、桜花の攻撃は姿、滝口、久遠とあっさり三者凡退。


慎吾「………………」

大友「とりあえず、頑張ってきます」

慎吾「あぁ」

佐々木「………………」


 三回の表、一死から1番珠玖がバントヒットで出塁する。  左投げのサード倉科が送球にワンテンポ遅れる間に一塁を駆け抜けた。


慎吾「ん〜あれだよな」

司「しかしあの一番、見た目通りすばしっこい選手だな」

慎吾「当然走ってくるだろうな」


ズシャアァッ


 走ってきた。


慎吾「……少しは警戒してほしかったな」


キィンッ


 続く名瀬がきっちりと右方向へ進塁打を決め、二死三塁。  打席には三番の瑞穂が入る。


大友「(ピッチャーで三番か……バッティングは良いんだろうな)」

滝口「(ここらでシュート使ってみるか)」

大友「(あぁ)」


 ストレート二球でカウント1−1としたバッテリーはここで新球シュートを試すことにする。


グッ!


大友「――ッ」


キィンッ!


 しかしインを狙ったボールは真ん中に入ってしまう。  シュート自体はしっかり投げており、わずかに詰まらされるも……


真崎「くっ」


 鈍いゴロが一、二塁間を抜けていきヒットとなる。  陽佳に3点目が入った。ピッチャー、瑞穂自らのタイムリー。


バシッ!


主審『ボール、フォアボール!』


大友「チッ」


 更に一打席目打たれた駿河には大事に行き過ぎてフォアボールを与えてしまう。


慎吾「タイム、薪瀬」

司「了解」


 ここで桜花が一回目の守備タイムを使う。  マウンド上には唯一の控えである薪瀬が向かった。


司「もっと思い切って攻めろ。打たれたボールは失投か置きにいったボールなんだから」

大友「えぇ、分かってるつもりではいるんですけど……」

透「トモやんは責任感が強ぉからな。しゃーあらへんわ」

真崎「良い意味で弾けれればもっと良いんだろうけどな」

シュウ「打たれても必ずヒットってわけじゃないんだからね」

滝口「そうっすよね、さっすが兄貴」

姿「(兄貴?)」

司「綾瀬からの伝言はそんな感じだ。俺も控えてるし、思い切っていけ」

大友「分かりました」


 タイムが解け、二死二塁一塁。打席には五番高柳が入る。  一打席目には長打を打ってるだけに警戒すべきバッター。


ビシュ!


ズバァンッ!


高柳「むっ?」

滝口「ナイスボール」


 それでも伝言通り、臆せず良いボールを投げ込む。  コースは甘かったが、勢いのある大友らしいボールだった。


ビシュッ!


高柳「おらぁっ!」


カキーンッ!


シュウ「抜かせんッ!」


バシッ


 三遊間へ痛烈な打球をシュウが逆シングルで掴む。


グッ


慎吾「おっ?」


シュウ「このぉっ!」


ビシュッ!


真崎「いや……」


バシッ


一塁審『アウトォッ!』


 深いところ、いつものシュウなら飛び込んで倒れてしまうためワンテンポ遅れるが  今回は踏みとどまり、そこからノーステップで一塁へ送球。  高柳が足が速くないこともあるが、悠々アウトにした。


大友「ナイスプレーです」

真崎「わざわざ一塁投げんでも俺によこせよ」

シュウ「あそこからセカンドって苦しいんだよね。だったら一塁の方が投げやすい」

真崎「変わってんな……」

慎吾「だが、よくあそこで耐えたな」

シュウ「ねぇ? 綾瀬の言ったバランスが良くなってきたのかな?」

慎吾「始めてまだ一週間も経ってないのにか……?」


 いずれにせよ、シュウの好プレーでピンチを脱した桜花。  ここまで左のアンダーという変則な瑞穂に抑えられていたが  ようやく流れが向いてきた。


カキーンッ!


瑞穂「あっ!?」

真崎「しゃあっ!」


 三回の裏、一死から真崎がライト前ヒットで出塁する。


高柳「ドンマイ、次二つ取ろう」

瑞穂「あぁ」


ガキッ


宮本「ありゃ?」


 相手の思惑通り、引っ掛けてショートへゴロを打ってしまう宮本。  だが、この宮本、かなりのラッキーボーイである。


ガッ


越後「はい?」


ビシッ


 捌く直前でイレギュラーバウンドし、弾いてしまう。  記録はショートのエラーとなり、二塁一塁と逆にチャンスが広がる。


珠玖「ドントマインド!」

瑞穂「……もういっちょいくぞ。どっちかというとお前が不安だからきちんと捌けよ」

珠玖「おう! と返事だけは一人前!」

瑞穂「自分で言うな!」


 しかし陽佳は分かっていなかった。  桜花はトップバッターにチーム1のポイントゲッターを置いていることを。


クククッ!


シュウ「てりゃあっ!」


パキーンッ!


瑞穂「なにぃっ!?」

高柳「スクリューを!?」


 瑞穂の決め球スクリューボール、そしていいコースに来たところだったが  チャンスの場面でシュウにそんなことは関係なかった。  打球をセンターに運び二塁ランナー俊足の真崎が迷わず三塁を蹴り生還。  3対1、差を2点に縮めた。


姿「ほんとチャンスで頼もしい男だな」

慎吾「チャンスメーカーとしてもポイントゲッターとしても使えるもんな。本当は……」

姿「分かってますよ。言いたいことは」

慎吾「力はあるんだ。何をそんなに考えるんだ?」

姿「さぁな……」

真崎「ま、姿もどうでもいいチャンスには打つしその延長線上で打てるようになればいいんじゃね?」

姿「ちょっと表現にイラっときたがその通りだな」


ガキッ


佐々木「あっ……」

珠玖「おっしゃ、ゲッツー!」


 更に得点の場面だったが佐々木がスクリューを引っ掛けてしまいセカンドゴロ。  4−6−3と渡ってダブルプレー。更に追い上げとはいかなかった。


佐々木「悪い」

慎吾「ん〜、あのスクリューはキレがよくて厄介だな」

佐々木「ほんと、シュウは良く打ったよ」

シュウ「えっへん!」


 四回は共にランナーを出すも両投手がしっかり抑えた。


カァンッ!


名瀬「よし!」


グッ!


ガキッ


瑞穂「くっ」

大友「(グッ)


 一死から名瀬をヒットで出すも、瑞穂をシュートでリベンジ成功。  詰まらせ併殺打に抑える。


慎吾「よしよし、シュートも十分使えるレベルになってきたな」

滝口「捕るの苦労しますけどね」

大友「まぁシュートで空振りは滅多にないだろうけどな」

シュウ「じゃあそろそろ追いついておきたいしよろしく」

久遠「あぁ、チャンスでお前にまわしてやるよ」


 2点を追う桜花の五回の裏の攻撃は今日目立ってない六番の久遠から。


久遠「一言余計じゃい!」


カキィンッ


 先頭の久遠がセンター前ヒットで出塁する。  続く大友がバントを失敗するも、続く真崎がヒットでチャンスを広げる。


カァ〜ンッ


 そして宮本の打球はふわんっと上がって内野の頭を越えようかという打球。  追うのは共に俊足のセカンド珠玖とライトの名瀬。


ズダッ


久遠「落ちる!」


 二塁ランナー久遠が打球が落ちる前に落ちると確信しスタートを切る。  それに合わせ真崎もスタートを切った。


ポトッ


 久遠の判断通り、内外野に落ちるテキサスヒットとなる。


名瀬「このぉっ!」


ビシュッ!


 ライト名瀬から好返球がくるも、スタートを切っていた久遠が一歩速く生還しこれで3対2と一点差に詰め寄る。  更に真崎も三塁へ進塁し、三塁一塁と更にチャンスでこの男!


ピキィンッ!


シュウ!「しゃあっ!」

瑞穂「………………」


 またも難しい外角のカーブを完璧に拾ってセンター前へ持っていく。  これには瑞穂も呆然とするしかなかった。  真崎が生還し3対3の同点とした。


バシッ


主審『ボールフォア!』


佐々木「………………」


 少し気落ちが見える瑞穂は続く佐々木にフォアボールを与え満塁としてしまう。  ここで陽佳が守備タイムをとった。


珠玖「まだ同点だ。大丈夫大丈夫」

瑞穂「分かってるんだが、あの一番に良いボールを打たれてると少し滅入るわ」

高柳「だが実際、良いボールは来てるんだ。打ったやつが上だったって思って自信もって投げろ」

瑞穂「投手からすれば打った方が上って嫌なんだけど」

高柳「じゃあ打たれんなよ」

瑞穂「すいませんでした」

珠玖「もう、高柳は沸点低いんだから怒らせるなよ」

瑞穂「そうだったそうだった」

高柳「やかましい!」


 陽佳の守備タイムが解け、打席に三番の倉科が入る。  倉科も打席に入る前に慎吾と話をしていた。


慎吾「同点で一死満塁だ。お前の仕事は?」

透「最悪犠牲フライやな」

慎吾「OK、思ったより冷静で助かるよ」

透「こう見えてワイは仕事人キャラなんやで?」

慎吾「(どー見えてると思ってるんだろ、自分で)」

真崎「言いたいことは口に出せよ」


 天国と地獄が隣り合わせの一死満塁。  転がせば地獄。外野まで運べば天国。


瑞穂「しっ!」


クククッ!


 内角低めにスクリューボール。


バシッ


主審『ストライクッ!』


透「(ん〜これを外野まで運ぶのは無理やな)」


しゅるしゅるしゅる


パシッ


 続く外角へのカーブで更にストライクカウントを稼ぎ、追い込まれる。


透「(左対左の相性の良さ、全面に使ってきとるな。出所が見づらいわ)」

高柳「(これで一気に決めよう)」

瑞穂「(了解)」


ビシュッ!


透「(ストレートや! ……ん?)」


スゥッ


 ストレートだと思ってスイングに行くもボールは失速していく。  そうタイミングを外すチェンジアップ。


高柳「(決まった!)」

透「なめるなやっ!」


カァァンッ


高柳「何っ!?」


 バットを投げ捨てるように右手一本で上手くレフトまで運ぶ。  レフトは定位置で捕球。


ダッ!


 そして三塁ランナー宮本がタッチアップ。


シュッ!


ズシャアァッ!


主審『セーフッ!』


宮本「おーし!」

高柳「しまった」


 レフトから好返球が来るも、クロスプレーの際焦った高柳が捕球が雑になり送球を弾いてしまう。  宮本が先に生還し、3対4と5回に桜花が逆転を果たした。


ガキッ


姿「………………」


 更にチャンスが続くも4番姿がまったくタイミングが合わず引っ掛けチェンジ。


慎吾「しまらねぇ」

姿「悪い」

真崎「お前、左でも技巧派は大丈夫じゃなかったか?」

姿「あそこまで変則だと左バッターは皆苦労するって」

慎吾「この回の先頭久遠がヒット、森岡が同点タイムリー、倉科が犠牲フライか……」

姿「悪かったな」


 六回の表、陽佳の攻撃は四番の駿河から。


駿河「………………」

滝口「(この人は要注意だけど、ベストピッチすれば大丈夫。来い!)」

大友「(俺のベストがどの程度通用するか……試すにはもってこいか)」


ビシュッ!


パッキーンッ!


駿河「(いいストレートだな……)」


 大友の外角へのストレート、本人にとってはベストピッチだった一球を  完璧に捉え、センターからややレフト方向へのホームラン。  陽佳もすぐさま、四番の一振りで追いついた。


慎吾「タイム願います」


 ここで桜花ベンチが動き、投手交代。  マウンドには抑えの切り札、薪瀬が上がる。


司「ナイスピッチング」

大友「いえ、これが実力でした。後お願いします」

司「あぁ」


 サバサバとした表情でマウンドを降りる大友。  いい意味で大友は考え方が大人になりつつあった。  自分の実力を認めることは難しいこと。だけど見なければ見えないものもある。  大友は今、それを実感しつつあった。


シュパァンッ


高柳「おわっ!?」


司「しっ!」


ググッ


ガキッ


高柳「だぁっ!」

真崎「まいど」


 代わった薪瀬が後続をきっちり三人で抑えた。  しかし、駿河のホームランで4対4の同点に追いつかれた。


…………*


 六回は共に動きがなく終わり、七回の裏。


ガキッ


シュウ「キュッ!」

瑞穂「よし!」


 この日絶好調のシュウを抑えるなどここに来て瑞穂が乗ってきた。  桜花はこのイニング三人で抑えられるなど流れが陽佳に傾きかけた八回の表。


シュパンッ!


主審『ボール! フォア!』


司「くっ……」

滝口「ドンマイです!」


 先頭の名瀬にフォアボールを与えてしまう。


コツッ


そして続く瑞穂が送りバントを決め、一死二塁の勝ち越しのチャンスを作る。


姿「薪瀬、気をつけろよ」

司「分かってるよ」


 このチャンスに打席には四番駿河が入る。  今日、大友から2HRと絶好調。


滝口「(今日の薪瀬先輩のストレートなら大丈夫っす)」

司「(大友のストレートを打ってるのにか?)」

滝口「(ノビが違いますやん)」

司「(とりあえず外に外すぞ)」


シュパァンッ!


 初球、外角にストレートが外れワンボール。


駿河「ふむ……」

司「(次、あれ投げさせてくれ)」

滝口「(おすっ!)」


シュッ!


駿河「――……!」


シュルシュルシュル


ポスッ


滝口「おっと」


 二球目、夏の大会以降練習していたサークルチェンジアップ。  低めのボールに滝口は捕球をし損ねる。


駿河「(ストレートがいいだけに厄介なボールだな……ここは……)」


シュッ!


カァンッ!


姿「真崎!」

真崎「くのっ!」


 軽打にヒッティングを変え、セカンド真崎の頭上を破るヒットで三塁一塁とチャンスを広げた。


ガキーンッ!


久遠「(パシッ)


 5番高柳がライトへきっちり運び、三塁ランナー名瀬が生還。  勝ち越しの一点が陽佳に入った。


…………*


 八回の裏、一点勝ち越された桜花は三番倉科から。


透「ここで追いつかないとキツイな」

姿「頼むぜ、倉科」

透「あいよ」


キィーンッ


透「どやっ!」


シュタタタッ


パシッ


珠玖「しゃあ!」

透「なんやて!?」


 一、二塁間抜ける打球を俊足珠玖が捌く。  落ち着いて一塁に転送し、ワンナウト。


ガキッ


 続く姿は本当にタイミングが合わずあっさりと引っ掛ける。


慎吾「お前な……」

姿「すまん……」


 二死ランナー無し、打席には右の滝口が入る。  一年ながら一発に期待が出来るバッターだが……


クククッ


ガキッ


滝口「無念……」


 まだまだ緩急に弱い面があり、技巧派瑞穂は中々打ち崩せなかった。


慎吾「薪瀬、ここは踏ん張れよ」

司「もちろん、このまま終われないでしょ」


 その言葉通り九回の表、陽佳の攻撃をピシャリと三人で抑えた。  その裏、最後の攻撃は六番の久遠から。


高柳「後、三人だ。抑えたろうぜ」

瑞穂「了解」


ビシュッ


カッキンッ!


名瀬「(パシッ)


 いい当たりを放つもライト名瀬の守備範囲。  軽く右中間へ守備位置を変え、悠々捕球した。


久遠「くそぉ……」


 続く薪瀬は打撃が得意ではなく三振に倒れる。


司「すまん」

慎吾「仕方ないけど、こういう場面で代打がいないのはキツイな」


 選手層の薄さがここに来て露わになりつつあるが  スタメンを張っている選手のレベルはそう低いものでもない。


ピキィンッ


瑞穂「くっ」

真崎「このまま終わらすかい!」


 二死から真崎がヒットで出塁する。


高柳「後一人だ。バッター集中」

瑞穂「あぁ」


 この言葉に真崎が初球からスチールをかける。


ズダッ


パシッ


高柳「いかせるか!」


ビシュッ!


真崎「――!」


二塁審『アウトォッ!』


 最後は高柳の強肩が光りタッチアウト。  結果、五対四、陽佳が接戦を物にした。


駿河「今日はありがとうございました」

姿「ナイスバッティング」

駿河「残念だったよ。君のバッティングが見れなくてね」

姿「ん?」

駿河「高杉にあそこまでボールを合わせたのを君が初めてだった。そして甲子園でも見てたんだけどね」

姿「惨敗だった男に言う言葉じゃないな」

駿河「本音だよ。今度は甲子園で」

姿「あぁ、戦おう」


ガシッ


 今日の敵は明日のライバル、桜花の面々は近い将来出てくる相手だと実感した試合だった。


…………*


 現地解散した桜花、慎吾は真っ直ぐ部屋に向かっていた。


慎吾「(やっぱり人数の少なさがマイナスに出てるな……)」


 夏から継投で勝ってきた桜花。  代打要員などそれなりの控え人数がいないと成り立たない面もある。


慎吾「(松倉がどれだけ投げれるかか……結局負担かけちまうな)」


 長いイニング投げられる投手が実質大友のみという厳しい状況。  それだけにどれだけ回復してるかがカギとなる。


チリンチリン


慎吾「(明日来てくれるらしいし、経過聞くか……ん?)」


チリンチリン


 明らかに自分に向けられていると思われる……というか周りに他に人がいないだけだが。  自転車のベル音に後ろを振り向く。


大地「よぉ」

慎吾「……何の用だ?」

大地「お前と話したいって人がいるんだ。着いてこい」

慎吾「断るって言ったら?」

大地「お前に拒否権はないよ」

慎吾「……俺に有益なんだろうな?」

大地「それはお前次第」

慎吾「……分かった」


 陽佳に敗戦した桜花、次の対戦相手は強豪奉新。一体どういう試合になるのか?  そして大地の慎吾と話したいという人物とは一体?



THE NEXT MELODY


inserted by FC2 system