Fiftieth First Melody―永久に続く道―


 翌日の日曜日、今日は夏の甲子園三回戦まで進んだ群馬の名門、奉新学院との練習試合。  昨日同様、桜花の面々は先にグラウンドに来て体を動かしていた。


木村「綾瀬、向こうの先発。右サイドが来るらしい」

慎吾「は?」

木村「すまん、最初に伝えるの忘れていた」

慎吾「天羽じゃねーの?」

木村「天羽は途中から出すことを約束に組んだんだ。向こうも試したい投手がいるらしくな」

慎吾「ま、仕方ないか。都合があるからな」


ガヤガヤガヤ


慎吾「っとお出ましか」

渡田監督「今日はよろしくお願いします」

慎吾「こちらこそ」

木村「よろしくお願いします」

慎吾「じゃあ着いてすぐですが、どうしますノックとかは」

渡田「あ、じゃあやらせてもらおうかな」

慎吾「分かりました。松倉」


 ノッカー役をやっている松倉に合図を出し、引き上げさせる。


渡田「ところで先発、左投げの投手じゃないんですがよろしいですか?」

木村「えぇ。ただ出来れば途中で天羽くんを出してもらえればと思います」

慎吾「うちも練習したいんで」

渡田「分かりました。ではよろしくお願いします」


 お互い挨拶を交わし、相手校の監督はベンチへ戻った。


慎吾「さて、うちも今日はオーダー変えるぞ」

真崎「おっ?」

慎吾「先発は薪瀬。いけるところまでいけ」

司「了解」

慎吾「大友は今日はレフトスタートだ」

大友「分かりました」

慎吾「それでオーダーだが……」


練   習   試   合
先   攻 後   攻
奉  新  学  院 VS 桜  花  学  院
2年2B御   伽 森   岡SS2年
2年蜷   川 真   崎2B 2年
2年CF天   羽   姿   1B2年
2年1B鴨   河 滝   口 1年
2年相   良 大   友LF1年
2年RF中   島 久   遠 RF2年
2年SS栗   山 佐 々 木CF 2年
1年LF  原   薪   瀬2年
1年3B大   崎 倉   科3B2年


慎吾「以上の通りだ。相手は名門、ぶつかっていくぞ」

全員「おぉっ!」


 共に夏の甲子園で勝ち進んだ実績のある両校の一戦。  どちらが勝利を収めるのか?


司「(シュッ)


 桜花の先発はスタミナに不安のある薪瀬。  アクシデントなど以外で先発経験が少ない薪瀬だが  松倉が球数制限ある以上、秋の大会では先発もこなさなければならない。


木村「そのためのテストだろ?」

慎吾「テストっつーか経験な。後ろと先発じゃ全然違うしな」


 投球練習を終え、プレーボール。  奉新の先頭バッター、御伽が右打席に入る。


ピシュッ!


カァァンッ!


司「なっ!?」


 いきなり初球を捉えセンター前ヒット。  先頭バッターが塁に出る。


滝口「ドンマイです、薪瀬センパイ!」

姿「(凄いシャープなバッティングをするやつだな)」

御伽「………………」


 二番蜷川が送りバントを決め、一死二塁。  初回から得点圏にランナーを送り、打席には三番の天羽。


ピシュッ!


カッキーンッ!


司「あっ!」


佐々木「くっ」

久遠「あー……」


 右中間方向への大飛球。守備範囲の広い二人が懸命に追うも最後は見上げるしかできなかった。  三番天羽の右中間へのホームランでいきなり二点先制。


慎吾「薪瀬が初回に捕まるなんてな……」

木村「やっぱ先発ってことで気負ってる分もあんのかな」

慎吾「かもな」


 スタミナ不足以外では能力は慎吾も認めている。  その薪瀬が初回からHRを打たれるなんてちょっと考えられなかった。  そして負の連鎖はまだ続く。


パッキーンッ!


司「――ッ!」


 続く鴨河にも打たれ二者連続アーチ。  3対0、初回から点差をつけられてしまった。


カキィンッ


真崎「好き放題やらせるかよ!」


パシッ


シュッ!


 一、二塁間への打球、セカンド真崎が飛びついて好捕し一塁転送ツーアウト。  この真崎のプレーで流れを食い止め、この回を何とかしのいだ。


司「すまん……」

慎吾「まだ初回だろ。大丈夫だ」

シュウ「そうそう。一点ずつとっていこう」


 攻守変わって一回の裏、桜花のトップバッターはもちろんシュウ。  そして奉新のマウンドには右のサイド、蜷川が上がった。


グッ


ガキンッ


ググッ


カンッ


 微妙に変化する変化球を捉えられず、シュウ、真崎と簡単に打ち取られた。


慎吾「お前ら……」

シュウ「何か今までで対戦したことないような投手だね」

真崎「うん、やりづらい」

慎吾「確かにあんまり打たせてとる投手、微妙な変化を操る投手はやったことねぇな」


カッキーンッ!


慎吾「ん?」


姿「しゃあ!」


 しかし三番に入った姿がこのボールを上手く捉え、天羽とほぼ同じところまで運ぶホームラン。  3対1、これで二点差とした。


真崎「おぉ、さすがはチャンスじゃない場面!」

慎吾「ついでに得意の右の技巧派だしな」

姿「お前らな……」


 続く滝口が1・2番と同じように打ち取られ、この回の攻撃を終えた。


滝口「地味ッ!」

大友「アウトなら一緒だろ」

滝口「ちゃうねん!」

大友「なんで関西弁何だよ……」


 二回は両チーム動きがなく終える。  そして三回表、奉新は初回同様、一番の御伽からという好打順。


司「(いきなり打たれたけど良い打者みたいだな。気をつけなきゃ)」


ピシュッ


シュパァンッ


主審『ボールッ』


御伽「………………」

司「くっ」


慎吾「薪瀬の場合、短いイニングが多いせいか打たれた打者には慎重に行き過ぎる傾向があるな」

木村「考え過ぎるのは性格もあるだろうけどな」

慎吾「どっちにしろ、良いボール持ってんだからもう少し大胆に言って欲しいものだな」


ピキィンッ!


ビシッ


透「にゃっ!?」


 三塁線へ痛烈な打球、サード倉科が飛びつくも打球はグラブの端を弾きファールゾーンへ。  ボールが転々とする間に御伽は二塁へ。記録はツーベースヒット。


透「すまへん、捕れたわ」

司「いや、ドンマイ」


 初回同様二番の蜷川が送り、一死三塁で初回にHRを打っている三番天羽。


シュルシュルシュル


 ここで練習中のチェンジアップを投じる。


天羽「――くのっ!」


カァァン


 上手く反応するも平凡なレフトフライ。しかし犠牲フライには十分。  三塁ランナーが生還し更に追加点を挙げた。


シュルシュルシュル


ブ――ンッ!


鴨河「くっ!」


 四番鴨河をいいコースにチェンジアップを決め三振を奪った。


慎吾「よしよし、上手く使えるようになってきたな」

司「でも点はとられちまったけどな」

慎吾「いいよ。打線がとってくれるさ」


カキィンッ!


透「任せ!」


 三回の裏、この回先頭の倉科がライト前ヒットで出塁する。


コキッ


シュウ「ナイスバント!」

相良「(自分で言うなよ)」


 一番に戻ってシュウが送りバントを決め一死二塁。


キィンッ!


真崎「しゃあ!」


シュタタタッ


パシッ


御伽「抜かせん」

真崎「何ィッ!?」


 捉えた打球もセカンド御伽が良い動きを見せツーアウト。  その間に倉科は三塁へ進塁。


相良「落ち着けよ、ニナ」

蜷川「OK」

姿「(ここは単打でいい。食らいつくぞ)」


グッ


カァンッ!


蜷川「ゲッ!」


ポトッ


 打球は内外野にポトリと落ちるテキサスヒット。  二死だったためスタートを切っていた倉科が余裕で生還し4対2、再び二点差とした。


慎吾「おっ、チャンスで打った」

真崎「でも結構点差がついて負けてる場面だからな。打つだろ」

慎吾「そっか。どうでもいいチャンスには打つんだからな」

佐々木「いや、点差を詰める意味ではどうでもよくはないだろ」

久遠「姿ほど打ってもこいつら厳しいよな」


 一方、一塁ベース上の姿はというと……


姿「(またどうでもいいチャンスでとか言ってんだろうな)」


 どうやらこの三人は意志疎通が完璧のようだ。


司「よし、抑えなきゃな」

滝口「頑張りましょう!」


 四回表、司は二つの四球を出してしまうも無失点に抑える。  しかしその裏、桜花の攻撃は三者凡退に打ち取られ、回は五回の表。  この回の先頭バッターは二度先頭バッターとして出塁している一番御伽。


滝口「(このバッターにはストレートを打たれています。変化球で攻めましょう)」

司「(……了解)」


ググッ


主審『ストライクッ!』


 初球の変化球をあっさり見送りワンストライク。


司「(本当にストレート狙いなのか?)」

御伽「………………」


シュルシュルシュル


御伽「(ザッ)

司「――!」


ピキィンッ!


 外角のチェンジアップを踏みこんで打ちにいく。  滝口が要求したところより内に入ってしまったボールを捉えセンター前ヒット。  これで御伽は三打数三安打の猛打賞。


滝口「(ドンマイです。次はどうせバントでしょうからやらせましょう)」

司「(決めつけはよくないだろ)」

滝口「(そうですかね? まぁ厳しいコースにストレートお願いします)」

司「(OK)」


ピシュッ


蜷川「(サッ)


シュパァンッ


 バントの構えで低めのストレートをバント出来ずに空振り。  しかしこれで内野陣も滝口同様、バントと決めつけてしまった。


ピシュッ!


透「(ダッ)


 サード倉科がバントプレスをかける。  バッターの蜷川は最初からバントの構え。


蜷川「(サッ!)


透「はっ!?」

司「――!」


ガキンッ!


 そこからバットを引き打ちにいくバスター。  打球ははねてサード頭上を越えていくヒットで二塁一塁とチャンスが広がった。


慎吾「流石は名門、卒のない野球をするな」

木村「ん〜……今日の薪瀬良くないのか?」

松倉「どうだろう、ボール自体はいつもと変わらない気がする」

慎吾「あぁ、俺もそう思う。強いて言うならコントロールが甘いな」

宮本「そんなに先発と抑えって違うもんなんですか?」

松倉「そうだな。結構違うと思う。特に薪瀬はずっと後ろで投げてきたからな」

慎吾「昨年の秋に投げて以来かな? もっと経験させときゃよかったな」

木村「逆に今日経験して良かったじゃん」

慎吾「まぁな……」


カキーンッ!


司「あっ!」

天羽「しっ!」


 このチャンスに今日三打点の天羽が右中間を破るツーベースヒット。  二塁ランナー御伽が生還し5対2と三度三点差となった。


バシッ


主審『ボール、フォア』


司「はぁ……はぁ……」


 イニングが五回表、そろそろスタミナが切れてきたのか四番鴨河にフォアボールを与えてしまう。  この回の初めから松倉がキャッチボールを始めており、六回から代わる予定だったのだが……


パッキーンッ!


司「………………」

相良「うしゃあ!」


 その前に薪瀬が力尽きてしまった。  五番相良のグランドスラムで一挙四点、点差も9対2と七点差になってしまった。


慎吾「松倉」

松倉「あいよ」


 ここで桜花は投手交代。  薪瀬に代わって松倉がマウンドに上がった。


司「ゴメン……」

松倉「ドンマイ、後は任せろ」


 その言葉通り代わった松倉が後続を三人で抑え、長かった五回の表を終えた。  しかし9対2と点差が開いてしまい、苦しくなった桜花。


慎吾「まったく打てないわけじゃない。一点ずつとっていこう」

全員「おう!」


 円陣を組み、その裏の攻撃に臨む。  五回の裏、この回の先頭は八番の松倉から。


蜷川「しっ!」


ググッ


カキーンッ!


松倉「よしっ!」


 甘く入ったスライダーを捉え、打球は右中間を破る。  代わったばかりの松倉が打撃でも結果を残し得点圏にランナーが進んだ。


渡田「ピッチャー交代」


慎吾「おっ? 来たか」


 監督の声と同時にベンチから一人外野に駆けだし、外野から天羽がマウンドに向かった。  夏の甲子園、三回戦まで進んだ原動力のエースピッチャーがマウンドに立った。


蜷川「すまん、後頼んだ」

天羽「あいよ」


ビシュッ


ズバァンッ!


透「やっぱ速いな」

シュウ「最低進塁打ね」

透「わぁっとるわ」


 投球練習を終え、試合が再開される。  無死二塁で桜花の攻撃は九番の倉科から。


天羽「いくぜ」


ビシュッ!


透「どりゃあっ!」


ズバァンッ!


透「むっ、当たらんかったか」

天羽「ほぅ……」


 初球から打ちにいくも空振り。


ビシュッ


カツンッ


天羽「はぁ!?」


 二球目、セーフティバントを敢行する。  虚をつかれた天羽は打球を追うも間に合わないと見送る。


三塁審『ファール!』


松倉「おっしぃ」

天羽「ふぅ……」


 しかし打球は惜しくも切れる。


ビシュッ!


ズッバァンッ!


透「だぁ、もう!」


 高めの釣り球に思わずバットが出てしまい空振り三振。


透「すまへん」

シュウ「らしくないねぇ」

透「頼んだで」

シュウ「頼まれた!」


 一死二塁となり、一番に戻ってチャンスに頼れる男、シュウ。


天羽「しぃっ!」


ビシュッ!


ガキィン


シュウ「くぅ!」


 引っ張った打球はセカンド真正面のゴロ。御伽が軽快に捌いてツーアウト。  その間に松倉が三塁に進塁し、続くバッターは二番真崎。


真崎「ほんと鈴村対策にはちょうどいいピッチャーだな」

天羽「俺のボールはストレートだけじゃ、ないよっ!」


グッ!


ガキャンッ


真崎「ってぇ!」


 インコースへのマッスラに完全に詰まらされサードゴロ。  無死でランナーを出すも代わった天羽の前にランナーを還すことができなかった。


慎吾「やるなぁ」

姿「感心してる場合かよ」

慎吾「そう思うなら頼むぜ四番」

姿「…………俺、今日三番だしな」

慎吾「………………」

松倉「で、大友が準備してるようだけどどうすればいいの?」

慎吾「あ、交代。松倉はレフトに入ってくれ」

松倉「了解」


 六回の表、桜花は投手を松倉から大友に交代する。  そして奉新の攻撃は九番から。


大友「(ピシュッ)


ズバァンッ!


滝口「ナイスピー!」


 この回の先頭バッターを得意のストレートで三振を奪う。  そして一死ランナーなしで打席には今日三安打の御伽が右打席に入る。


大友「(この人か……)」


ビシュッ!


ズバァンッ!


主審『ボールッ!』


御伽「………………」


 薪瀬が打たれたのを見ていた大友。  力んでしまい、ストライクが入らない。


ズバァンッ


主審『ボール、フォアボール』


 結局、ストライクが入らずストレートのフォアボール。  御伽はこれで今日四打席で全て出塁を果たしている。


ガキッ


 続くバッターはセカンドへの進塁打となり二死三塁のチャンス。  そのチャンスに三番天羽が打席に入る。


天羽「(ストレートは確かに速いがそれだけか……? なら拍子抜けだな)」

滝口「(この人には初球からシュートをいっとこう)」

大友「(了解)」


ビシュッ!


天羽「甘い!」


ググッ!


ガキィンッ!


 インを狙ったが真ん中に入ってしまう。  しかしストレートだと思った天羽のスイングを詰まらせることはできた。  打球はしぶとくセンターへ抜けていこうかというところ。


パシッ


真崎「そらよ!」


 逆シングルで捌き、反転スローできっちり一塁に送りアウトにする。  御伽が出塁したイニングで初めて得点を防ぐことができた。


大友「助かりました、先輩」

真崎「任せろってーの」


 山里が抜けセカンドに不安があったが、真崎がきっちりと埋めている。  選手層って意味では薄いが、個々の力はきっちりと上がっていた。


慎吾「ナイスプレイ」

真崎「おっ、珍しいな。褒めるなんて」

慎吾「山里先輩と比べるわけじゃないが、良い動きになってきたな」

真崎「へへ、だろ?」


 こう見えて真崎も山里が抜けた後、人一倍守備練習を頑張った。  皆、やるべきこと、やらなければならないことは自覚していた。


慎吾「(だから戻ってこい漣……皆、お前が思ってるほどヤワじゃやつらじゃないぞ)」


 なぜ漣は自分たちと心中する道を選べなかったのか。なぜ一緒に乗り切ろうって気になれなかったのか。  綾瀬は一番そこが引っかかっていた。人が犠牲になるということは残される者の気持ちも考慮してほしいものだ。


木村「さ、一点ずつ返していくぞ」


 六回の裏、この回の先頭は姿。  苦手な速球派との対決。


天羽「よっ」

姿「久々だな」


 この二人、実はシニア時代に対決をしていた。  その時は天羽のフォークを捉え、姿がHRを打っている。


天羽「あの時の勝負は悔いが残ってるからな。今回は本気で行くぜ!」


ビシュッ!


姿「(速球一本!)」


パキーンッ!


天羽「――!」


 しかし捉えた打球は弾道が上がらずライトへのライナーに倒れた。


姿「チッ」

天羽「ひゅぅ、やるねぇ」


 四番滝口、五番大友も天羽のストレートを捉える事が出来ず凡退に終わった。


慎吾「ん〜……」

木村「大友が抑えてくれてるんだけどな」


 それからベンチの二人が歯がゆくなる試合展開が続く。  と言うのも大友がきっちりと試合を作っていくも  天羽の前に打撃陣が沈黙してしまう。


慎吾「やっぱ主力が左だけだと苦労するな」


 シュウや姿、久遠、松倉といった面々が皆左ということもあるが姿が少し苦手としている以外は  そこまで苦にしていない。久遠に至っては打ちやすいと得意にしている。  だがそれ以上に左投手が左打者を得意としていればこれほど厄介なことはない。


慎吾「先輩の代は上戸先輩や高橋先輩が右で打てたからな……」


 代わりに入った倉科までもが左打ちという偏重チーム。  やはりバランスが大事というのを改めて思い知らされた。


ズバァンッ!


松倉「くっ!」

天羽「どーだ!」


 七回の裏、この回も三者凡退に抑えられる。  これで天羽に代わってからランナーを出せずに九人で抑えられていることになる。


ズバァンッ!


大友「しっ!」


 しかし大友も踏ん張りをみせ、下位打線を抑える。  八回の表、8番、9番を抑え二死でトップの御伽が打席に入る。  ここで桜花ベンチが動いた。


慎吾「大友、投手交代だ。ナイスピッチング」

大友「いえ、どうも」

慎吾「ミヤ、レフトに入れ。松倉頼むぞ」

宮本「は〜い」

松倉「OK」


 乗りに乗っている一番をエースで封じ込めようと投手交代、松倉がマウンドに上がった。


松倉「らぁ!」


グググッ!


ガキッ


御伽「――!」

真崎「へへ、まいど!」


 プレートの右端からインコースを突くスライダー。  これを無理やり流すも詰まらされ、平凡なセカンドゴロ。  この試合、初めて御伽が塁に出ることを許さなかった。


松倉「しゃあ!」

姿「ナイスピッチン」


 その裏、一死からシュウがバントヒットで出塁をみせる。


シュウ「うっしっし!」

鴨河「速いなぁ」

シュウ「うし、走るぞ」

鴨河「(口に出して言うなよ……)」


天羽「(サッ)



ズダッ!


パシッ


相良「おらぁっ!」


ビシュッ!


ズシャアッ


二塁審『アウトッ!』


シュウ「むぅ!?」

相良「おっし!」


 言葉通り盗塁を敢行するも強肩の相良が唸りを上げ、盗塁を刺した。  技術のついたシュウが盗塁を刺されるのは久々のことだった。


カァァンッ!


天羽「くっ」

真崎「おっしゃあ」


 しかしシュウのバントヒットから綻びが生まれたのか、続く真崎が天羽から初のクリーンヒットを放つ。


ズダッ


 そしてすかさず盗塁をしかける。


相良「なっ!?」


 これがバッテリーの裏をかき、今度は真崎の足が先に塁に到達した。


姿「良い場面を作ってくれるじゃねーか」

天羽「俺の台詞だよ」


 二死ながら得点圏にランナーを置き、三番の姿。  ここは一矢報いたいところ。


ビシュッ!


ガキンッ


 打球は一塁側へ切れるファールボール。


姿「(どうも捉えられないな……)」


 姿はなぜ速いボールを打てないのか悩んでいた。  ただ単に始動が遅いせいなのか……自惚れではないが技術はついている。  スイングスピードも人には負けないものを持っているはず……だが……


ビシュッ!


ズバァンッ!


姿「くっ!」


 今度は空振り。バットにボールが当たらなかった。  いつも変化球に合わせてしまうため振り遅れるという意識があった。  だが今は違う。ストレート一本に的を絞っている……つもりだ。


姿「………………」


 と、前までの姿だったらここまでで終わっていた。  ストレートに的を絞っていても打てない。なら打撃を変えるだけだ。


ビシュッ!


カァンッ!


天羽「――!?」


 軽く合わせるだけのバッティングはレフト前にポトリと落ちた。  二死ってことで迷いなくスタートを切っていた真崎が三塁を蹴る。


ズシャアッ!


主審『セーフッ!』


真崎「しゃあ!」


 真崎の好走塁もあり、一点追加。9対3と点差はまだあるものの、天羽の牙城にヒビをいれた。


姿「ナイス走塁!」

真崎「(グッ!)


 姿は信じていた。真崎の足とセンスならポテンでも還って来れるはずだと。  自惚れていたのは今までの自分だったんじゃないかと気づき始めていた。  技術がついてきたが、それ以上に姿は自分がどこまで出来る人間なのかを知り始めていた。  人間、自分の限界を知って初めて出来るようになることがある。


姿「(大地さんの言ってたことはこういうことかな……)」


 答えはない。答えはないが自分自身で答えを見つけなければいけない。  果てない道への一歩を……いやその入口に姿は立つことができたのかもしれない。


ズバァンッ!


佐々木「くっ」

天羽「しゃあ!」


 試合はその後、大きな流れがなく終了。  最後のバッター佐々木が天羽の前に空振り三振に倒れゲームセットとなった。


木村「完敗です」

渡田「いえ、ありがとうございました」

慎吾「天羽の登板、無理言ってすいませんでした」

渡田「構わないよ。天羽も投げたがっていたからね」

慎吾「ありがとうございました」


 慎吾と木村が渡田監督に挨拶をしている中、選手同士も話していた。


天羽「やられたよ。相変わらず良いバッターだな」

姿「何言ってんだよ。シャットアウトしておいて」

天羽「俺の登板、そっちのリクエストらしいけどなして?」

姿「同地区に鈴村っていう速球派左がいるんだよ」

天羽「なるほどね。練習台ってことか」

真崎「でもストレートだけなら鈴村並だったよ、ほんと」

天羽「国玉のだろ? 俺もやったことあるけど、えげつないボール投げるよな」

真崎「お前が言うなよ」

姿「言い訳じゃないがうちは今ベストじゃない。今度やる時はこの結果にはならないぜ」

天羽「OK、楽しみにしてるよ」


 試合は9対3と大差で負けはしたものの、内容では良かった者もいる。  個々のレベルアップも信じ、秋の大会へ……!


…………*


 一方、その桜花の最大のライバルである国立玉山も秋の大会へ最後の調整に入っていた。


ズッバァンッ!


鈴村「しぃっ!」


パッキーンッ!


飛騨「ふぅ」


シュタタタッ


漆原「しゃあっ!」


カキィンッ!


真田「………………」


 同時期に練習試合をやり、相手を圧倒していた。  特にエース鈴村の意気込みは激しかった。


鈴村「桜花め、二度もフラッグで勝てないことを教えてやる!」


 各校の想いは一つ。秋季大会に勝つことだけ。  それぞれの想いを乗せ、いざ大会を迎えようとしていた……!




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