Fiftieth Second Melody―名門との一戦―


 秋の大会間近、桜花野球部に激震が走った。  それはキャプテンであるシュウが抽選会へ行き、戻ってきての一言めが原因だった。


シュウ「ごめ〜ん、初戦国立玉山だって」

全員「………………」


 皆、呆然としてしまったのは言うまでもない。


真崎「は、本気で言ってんの?」

慎吾「残念ながらな」


 シュウの他に木村、慎吾、松倉が着いていったのだが全員頷いて見せた。


久遠「くじ運なさすぎだろ」

慎吾「まぁ、どうせ戦うんだ。松倉も薪瀬も疲れてない初戦はある意味いんじゃね?」

久遠「本気で言ってる?」

慎吾「半々かな」

佐々木「まぁ、でも一理あるかもね」

透「せや、どうせやるんや。いつでも一緒や!」

シュウ「だよね!」

真崎「はぁ、ポジティブな連中だこと」

姿「お前もそっち派だろ」

真崎「まぁね」


 一方、同時刻、国立玉山でも報告が行われていた。


鈴村「初戦、桜花学院とやることになった」

漆原「おっ、いいじゃんいいじゃん!」

飛騨「やってやろうじゃん」

鈴村「当然だ。言うまでもないようだな」

霧生「相手は夏の覇者だが、三年が引退して戦力は下がってる。気合を入れていけよ」

全員「はいっ!」

真田「楽しみだな」

達川「おっ、珍しく燃えてる?」

真田「いっつも燃えてるけどな」

達川「(わかんねぇ)」

鈴村「うっし、タツ。受けろぉ!」

達川「あいよ」


 さぁ、初戦から頂上決戦といっても過言じゃないこの試合。  どちらが一体、勝負を制するのか!?


…………*


秋 季 大 会 一 回 戦
先   攻 後   攻
桜  花  学  院 VS 国 立 玉 山 高 校
2年SS森   岡 漆   原SS2年
2年2B真   崎   巧  CF 1年
2年1B  姿   長 谷 川1B2年
2年3B倉   科 飛   騨3B 2年
1年滝   口 真   田RF 2年
2年RF久   遠 達   川 2年
2年LF松   倉 鈴   村2年
2年CF佐 々 木 多   村2B2年
1年大   友 森   本 LF2年


シュウ「うし、先手必勝だい!」


 この試合、先行の桜花。もちろんトップバッターはシュウ。  一方、国立玉山の先発の鈴村が気合十分で投球練習を行っていた。


鈴村「絶対負けねぇ!」

シュウ「僕たちだって負けるわけにはいかん!」


ビシュッ!


ズッバァンッ!


シュウ「むぅ……!?」

鈴村「いっくぜ!」


ビシュッ!


ガキィンッ


シュウ「くぅ!」

漆原「へへ、オッケイ」


 先頭のシュウ、ストレートに詰まりショートへの小フライ。


鈴村「うしっ!」

達川「(これでいい。桜花戦は先頭のシュウを抑えることが得点を防ぐことに繋がる)」


 熱く燃えているのは鈴村だけじゃない。キャッチャーの達川もそれは同じで  桜花のデータを自分なりに揃えてきたつもりだった。


ズッバァンッ!


真崎「くっ!」


ズッバァンッ!


姿「………………」


 更に二番真崎、三番姿を連続で三振を奪った。  気合十分、鈴村が最高の立ち上がりを見せた。


慎吾「どうだ?」

姿「レベルアップしすぎ。天羽より質がいい印象を受ける」

慎吾「あいつ、夏俺らに負けたわけじゃないのに……」

真崎「フラックだと思われてるみたいだからな」

慎吾「似たようなもんだけどな」

佐々木「おいおい……」

慎吾「なんて言ってても仕方ねぇや。大友、負けじと飛ばしていけ」

大友「ウスッ」


 桜花の先発は大友。スタミナに不安のある薪瀬や球数制限のある松倉はやはり先発に立てにくかった。


漆原「うっしっし、先制点と行くぜ!」


 国立玉山の一番は夏より一番に定着した俊足漆原。


大友「(ビシュッ!)

漆原「(カキィンッ!)


 初球を叩き、センター前ヒット。  桜花の攻撃とは違い、俊足のランナーを出してしまった。


巧「(サッ)


 続く二番、国立玉山で唯一一年でスタメンの巧は早くも送りバントの構え。


滝口「(走ってくるかもしれん。気をつけろ)」

大友「(あぁ……というかお前が気をつけろ)」


ビシュッ


透「(ダッ)

巧「(――サッ)


ガキンッ!


透「なんやて!?」


 バットを引きバスターエンドラン。打球を叩きつけ  バントプレスを仕掛けた倉科の頭上をしぶとく越えていく。


松倉「(パシッ)

漆原「おっとっと」


 レフト松倉がカバーし、漆原は二塁ストップ。  しかし一年の巧に上手く打たれ、二塁一塁とピンチが広がった。


カッ


 そして三番が送りバントを決め、打席には国立玉山の四番飛騨が入った。


飛騨「おいおい舐められたもんだな。一年が先発とは」

大友「………………」

飛騨「力の違いを教えてやろう」

滝口「(ムゥ、ムカつくぞ。初球、内角シュート!)」

大友「(そんな決め方かよ……)」


 何となく安易過ぎたので首を振った。


ビシュッ!


ズバァンッ!


飛騨「………………」


 初球見逃し。しかし見送り方が凄く余裕があり大友は不穏な感じを抱いていた。


ビシュッ!


カッキーンッ!


大友「――!」


 打った瞬間分かる特大な当たりをライトスタンドへ。


飛騨「悪いが俺らの相手は君じゃない」


 先制は国立玉山。四番飛騨の一撃で一気に三点を先制した。


キィーンッ!


カキーンッ!


 更にたたみかけ、五番真田、六番達川の連続ヒットで三塁一塁のチャンスを作る。


宮本「タイム願います」


 ここで桜花は早くも一回目の守備タイムを使い、薪瀬がマウンドに向かう。


司「落ち着け、って言っても無理か」

大友「すいません……」

シュウ「まだ初回じゃん。三点なんて楽勝楽勝」

姿「そうそう。奉新からだって三点はとったわけだしな」

透「でも肝心の天羽には一点しかとれてへんで?」

姿「余計なこと言うな」

真崎「次は鈴村だ。左のお前ならいけるはずだ」

シュウ「頼むよ」

大友「はい」

滝口「おっしゃ、抑えたろうぜ」


 タイムが解け試合が再開される。  一死三塁一塁で打席には七番の鈴村。


グッ!


ガキィッ


鈴村「ゲッ!」


真崎「(パッ)

シュウ「(パシッ)


ビシュッ!


姿「(パシッ!)


 シュートに詰まらされ、セカンド真正面の併殺コース。  4−6−3のダブルプレーでピンチを脱した。


大友「おしっ!」

滝口「ナイスピー!」


 しかし初回に飛騨のHRで三点を先制した国立玉山。  逆に三点もの追う桜花だったが、その前に立ち塞がるのが鈴村!


ズバァンッ!


透「く……!」


 二回の表も三者凡退に抑えられる。  夏の敗戦が鈴村をより一層大きくしたようだ。


大友「(ビシュッ!)


ガキンッ


 大友も負けじと打たせて取り、追加点を許さない。  しかし試合が動いたのは三回の裏、またも国立玉山の攻撃。


カツッ


大友「――!」


シュタタタッ!


 この回先頭の二番巧がセーフティバントを決める。  その後、また三番が送りバントを決め一死二塁、打席にはHRを打っている飛騨。


大友「(この人か……)」

滝口「(考えても仕方ない。思いっきり来い!)」

大友「(……了解)」


ビシュッ!


 大友の一番の武器であるストレートがいい感じに指にかかり低めに決まる。


パッキーンッ!


飛騨「(グッ!)


 しかしそのボールさえも飛騨の前には通用しなかった。  二打席連発、今度はバックスクリーンへの一撃となった。


大友「くっ……!」

透「ドンマイや!」

真崎「切り替えろ。悔やんで戻ってくるわけじゃないんだしよ」


 大友も入部時よりははるかに精神的に強くなった。  だがここに来ての二打席連発は応えたようだ。


ズバァンッ!


主審『ボール、フォアボール!』


真田「………………」


ビシュッ


達川「(カァンッ!)


 真田にフォアボールを与えた後、達川にヒットを許し一死一塁二塁。  ここでバッターは七番鈴村。一打席目は似たような状況で併殺打に抑えている。


コッ


大友「――バントッ!?」

滝口「ボール、一つ!」


 一死ながら後のバッターに託し、二死三塁二塁。  初回に守備タイムを使っている桜花はここは大友に託した。


カキーンッ!


大友「――!」


 快音を残した打球はライナーでセンターへ。


シュタタタッ!


パシッ!


佐々木「ふぅ……」


 だがここは堅守を誇るセンター佐々木がセンター前に落ちる打球をスライディングキャッチ。  落ちれば二点更に追加だった場面、好プレーで凌いだ。  しかし、飛騨のツーランで5対0と点差が更に広がってしまった。


慎吾「ナイスプレー。流石だな」

佐々木「どうも」

大友「すいません……」

慎吾「謝るな。謝る前にすることがあるはずだ」

真崎「そゆこと」


ポンッ


 大友の肩を軽く叩いて打席に向かう。  四回の表、桜花の攻撃は二番真崎から。


鈴村「ふしっ!」


ズバァンッ!


真崎「くっ……!」


 しかしエース鈴村が絶好調。自慢のストレートを惜しみなく投じてくる。


ズッバァンッ!


真崎「くそっ!」


 140キロは悠に超えていそうな速球についていけず空振り三振に倒れる。


鈴村「松倉が投げられず、漣がいないお前らが勝てるとでも思ってんのか?」

真崎「ニャロ……!」


 完全に乗っている鈴村相手に流れを止めれるとしたら、今の桜花はこの男に託すしかなかった。


真崎「好き勝手言われてるぜ」

姿「何とかしてみるよ」

真崎「頼むぜ」


 一死ランナーなし、三番の姿が打席に入る。


姿「(間違いなくストレートは打てないな)」


 姿は練習試合、天羽との練習試合で自身に感じ取ったこと。  それは未だコツを掴めないのかストレートを狙ってても捉えれないこと。  なら狙うだけ無駄というもの。


姿「(いくら俺がストレートに弱いつっても変化球一球ぐらい挟むだろう)」


鈴村「(ビシュッ!)


ガキィッ


姿「ふぅ……」


 打球はバックネットへのファールボール。


達川「(タイミングが合ってる!?)」

鈴村「(流石は姿、随分練習してきたようだな)」


 国立玉山のバッテリーも姿が速球に弱いことは重々承知だった。  そして姿の実力も……だからこそ、ここでストレートにタイミングが合っているということは  バッテリーにとって脅威でしかなかった。


達川「(一球、変化球を挟むか)」

鈴村「(了解)」


 だから速球一本やりでは通用しないという判断を下す。  これがストレートに無理やりタイミングを合わせにいった姿の一つの賭け。


ググッ


カキィーンッ!


鈴村「なっ――!?」


 外角低めへのカーブ。決して簡単なボールではなかったが上手くバットに乗せ振り切った。  打球はレフトスタンドに一直線。ポール際ギリギリに飛びこむソロアーチ!


姿「うちは松倉や漣だけのチームじゃねぇよ」

鈴村「ニャロ……!」


 ようやく桜花も反撃に出た。姿の一撃で5対1と4点差とした。  そして攻撃を終えたその裏、桜花に動きが出た。


松倉「綾瀬、俺にいかせてくれ」

慎吾「は? いやいや、早過ぎるだろ」

松倉「これ以上、あいつらに好き放題やらせてたまるかよ」

慎吾「松倉……」

真崎「いいんじゃね? 投げてぇって言ってるんだし」

透「せやな」

慎吾「はぁ……違和感感じたらすぐに言え。それが条件だ。決して無理はするな」

松倉「了解」

大友「先輩」

松倉「悪いな。決して大友のこと信用してないわけじゃない。あいつら目の前に黙って外野から見てるのが嫌なんだ」

大友「いえ、五失点が全てです。後、お願いします」

松倉「あぁ」


 4回の裏、桜花は投手を松倉に交代する。  大友はそのまま松倉と入れ替わりレフトに入った。


鈴村「おっ、出てきたよ」

真田「本当の勝負はここからだな」

飛騨「だな」

鈴村「うっし、気合入った」


 エース松倉の登板は両チームの気持ちに火をつけた。  その後、一進一退の攻防が続く。  桜花は6回にシュウのヒット、盗塁を足がかりに倉科の犠牲フライで一点を返した。


鈴村「(ビシュッ!)


ズバァンッ!


佐々木「くっ……」


 7回の表、佐々木が空振り三振に倒れ、鈴村の奪三振がこれで二桁となった。


慎吾「松倉、まだ大丈夫か?」

松倉「大丈夫大丈夫。最後まで行くよ」

慎吾「………………」

松倉「んな顔するなって。気持ちいいくらいだよ」

慎吾「んじゃ頼むぜ」

松倉「あいよ」


 7回の裏、国立玉山の先発は今日、2HRの四番飛騨から。


松倉「しっ!」


カキィンッ


飛騨「しゃあ!」


 初球、甘く入ったボールを捉えセンター前ヒット。  先頭のバッターが塁に出た。


松倉「あぁ、もう……」

真崎「大丈夫か?」

松倉「ん? んまぁな」

真崎「まぁなって……」


 夏から長いイニング投げてなかった松倉。実戦復帰したのもほんの最近だ。  僅か4イニングとはいえ、松倉のスタミナを削るには十分すぎるイニングだった。


ズバァンッ


主審『ボール、フォアボール』


松倉「だぁ、もう!」

真田「………………」


 更に真田にはフォアボールを与えてしまい、無死二塁一塁。  このチャンスに6番の達川が打席に入る。


カッ


松倉「くのっ!」


ビシュッ!


三塁審『セーフッ!』


透「なんやて!?」

飛騨「うし!」


 タッチプレーのいらない場面だったが好スタートを切っていた飛騨が一歩早かった。  自らの判断ミスでこれで無死満塁となった。  ここで桜花は二回目の守備タイムを取る。


司「ドンマイ」

松倉「ってそれだけかい」

司「まぁ、ここは間を取りに来ただけだし」

姿「つまりここは松倉に任せるってことだな」

司「そういうこと」

松倉「OK」

真崎「んじゃホームゲッツーでよろしく」

内野陣「よろしく!」


 タイムが解け試合再開。  この追加点のビックチャンスに7番の鈴村が左打席に入る。


鈴村「俺の一打で自らを楽にしてやる!」

松倉「させるかよ」


グググッ!


鈴村「おらぁっ!」


カァァンッ!


松倉「あっ!?」


久遠「(パシッ)

飛騨「(ダッ)


 会心の当たりだったがライト真正面。しかし犠牲フライには十分で飛騨が生還する。  これで2対6と差は4点となった。


グググッ!


ガキッ


松倉「よし、セカンッ!」


 しかし後続の打者をゲッツーに抑え、このピンチを最小失点で抑えた。


鈴村「チッ!」

達川「チッて……」

真田「4点じゃ足りないか?」

鈴村「冗談抜かせ」

真田「だろ? 頼んだぜ」


 回もいよいよ終盤、8回の表一死から桜花はこの男が魅せた。


カキィンッ!


鈴村「なっ!?」

シュウ「しゃあ!」


 快音を残し打球は外野の間を破っていく。  俊足シュウは悠々とスタンディングダブル。


鈴村「くっそー……嫌な打者になりやがって」

シュウ「ふっふっふ、このまますんなりいくわけないっしょ!」


真崎「そういうこと」


 一死二塁のチャンスに2番真崎が右打席に入る。


達川「(わずかだけどストレートの球威が落ちてきた……)」


 初回から気合十分で飛ばしてきた鈴村。  当然と言えば当然だがツケがまわってきた形だ。


ググッ!


カァンッ!


鈴村「あっ!」

真崎「どうだ!」


 カウントを取りに来た変化球を上手く打ちレフト前へ。  シュウは三塁を蹴ってホームに生還、これで3対6と3点差に。  ここで姿に打順がまわるということで守備タイムをとり、マウンドに集まる。


鈴村「んだよ、集まって来なくても大丈夫だって」

達川「まぁ、そう言うな。間を置くだけだ」

飛騨「次は姿だしな」

漆原「まだ3点差あるんだし、余裕っしょ」

鈴村「……俺のストレート、少し球威落ちてきたか?」

達川「……大丈夫だよ。姿には全部まっすぐでいこう」

鈴村「へ?」

達川「お前、やっぱ楽するとダメだわ。姿は変化球打つの上手いし、真崎のようにはいかないだろう」

鈴村「オッケ。そうこなくっちゃな」


ビシュッ!


ズバァァンッ!


姿「(もう変化球は投げてきそうな雰囲気じゃねーな)」


 ほぼランナー無視でストレートを投げ込んでくる鈴村。  その雰囲気を察して二球目、真崎がスタートを切る。


鈴村「(ビシュッ!)


ガキィンッ


真崎「なにぃ!?」


 真崎がスタートしたのにも関わらず打ちにいく姿。  打球は三塁側ファールゾーンを転がる。


真崎「おい、姿!」

姿「(……追い込まれて打つ自信がねぇんだよ)」


 真崎の盗塁を待っていたら追い込まれる。  実質一発目のスイングで打てるボールではないと察した姿はスイングにいった。  だがこのファールで追い込まれてしまい、鈴村が決めに来る。


姿「(真崎がスタート切るなら最悪転がして進塁打にしなきゃな)」


 弱気になった時点で勝負は見えていた。


鈴村「らぁっ!」


ビシュッ!


ズッバァンッ!


姿「くっ……!」


達川「(シュッ!)


ズシャアァッ!


二塁審『セーフッ!』


 姿は三振に倒れるも真崎が盗塁を成功させ、これで二死二塁。  ツーアウトながら得点圏にランナーが進み、4番の倉科。


鈴村「でりゃあっ!」


ガキンッ!


透「アカンッ!」


漆原「はいはい、オッケー」


 ここは鈴村の気迫が勝り、ショートゴロ。  このチャンスに真崎のタイムリーで一点取るのがやっとだった桜花。  残る攻撃は1回のみとなった。


松倉「(ビシュッ!)


ズバァンッ!


 しかし投げ続けるエースが国立玉山に流れをいかせない。


グググッ!


ガキッ


漆原「いけるっ!」


シュウ「させーんっ!(パシッ)


ビシュッ!


一塁審『アウトッ!』


漆原「ぐっ……シュウめ……」


松倉「ナイス」

シュウ「オスッ!」


 高くバウンドしたボールを突っ込んで上手くすくい上げ捕球したシュウ。  そのまま一塁へ転送し、俊足漆原をアウトにした。


ガキッ


主審『ファールッ!』


キィンッ


三塁審『ファールッ』


グググッ


主審『ボールッ!』


巧「ふぅ」

松倉「(コイツ……)」


 二死ランナーなし、打席には2番巧が入っている。  早々に追い込まれながらもファールで粘ってフルカウントまで来た。


松倉「(ビシュッ!)


ズバァァンッ!


主審『ストライク! バッターアウトッ!』


巧「くっ!」


 しかし最後は松倉の貫禄勝ち。  きっちり三者凡退に抑え、最後の攻撃に挑む。


慎吾「泣いても笑ってもラストだ。絶対追いつくぞ!」

全員「オォッ!」


 9回の表、この回先頭は5番の滝口から。  今日は鈴村の前にランナーとして出ることが出来ていない。


シュッ!


鈴村「あっ」

達川「(甘い!)」


カァァンッ


 高めの甘いボールを初球から逃さず打ち、先頭の滝口が塁に出る。


ガキンッ


巧「(パシッ)


 しかし続く久遠が初球を打ち上げセンターフライ。これで一死一塁。  下位打線になるが7番には今日松倉が入っている。  松倉は打撃も悪くない。桜花の中では上に位置する実力者だ。


鈴村「(松倉か……)」

達川「(変化球を挟むか……だが甘く入ったら松倉じゃ打つだろうしな)」


 鈴村は変化球が悪いわけじゃないがストレートに比べると見劣りする。  何よりコントロールがあんまり良くなかった。


ビシュッ!


カァァンッ!


鈴村「ニャッ!?」

松倉「入った!」

一塁審『フェア!』


 しかし松倉はストレートを狙い一塁線ギリギリに入る長打コース。


真田「くのっ!」


ビシュッ!


ズシャアァッ


松倉「ふぅ」


 一塁ランナーの滝口は三塁をまわったところでストップ。  一死三塁二塁と一発出れば同点の場面で8番佐々木。


達川「………………」

鈴村「おっ?」

佐々木「へ?」


 ここで達川が立ち上がり、敬遠策。  佐々木はもちろん、投手の鈴村も意外な顔をしていた。  とりあえず捕手の指示通り投げ、佐々木は一塁に歩いた。


達川「タイムお願いします」


 そして満塁となったところで達川がタイムをかけた。


鈴村「佐々木敬遠は驚いたな」

飛騨「良く従ったな」

漆原「ほんと、そっちの方が驚いた」

鈴村「ん〜……あんまりね、ここに来て抵抗すんのも疲れんのよ」

達川「一死三塁二塁より満塁の方が守りやすいし、何よりスズやんが燃えてくれるだろ」

鈴村「くっくっく、分かってるねぇタッちゃん」

飛騨「そのせいでシュウにまわる。ビシっと頼むぜ」

鈴村「おう!」


 そして桜花のベンチでもこの敬遠について話していた。


慎吾「まさか佐々木と勝負を避けてくるとはな」

真崎「でもこれで森岡にまわるぜ?」

慎吾「そこなんだよな。佐々木を嫌ったのか満塁の守りやすさをとったのか……」

姿「あるいはもう一つ」

慎吾「ん?」

久遠「シュウを打ち取れる自信がある、か」

姿「そういうこと」

透「となると結論とすればなんや?」

慎吾「まぁ、打てば何でもいいだろ」

透「せやな」


 一死満塁、三点を追う桜花の打席には9番大友が左打席に入る。


鈴村「(ビシュッ)


ズバァァンッ!


大友「………………」


 二球のストレートであっという間に追い込まれる。


達川「(変化球待ちか? もう遊び球なしでいこう)」

鈴村「もちろん!」

達川「(声に出すなよ……)」


ビシュッ!


カキィン


大友「ぐっ」


 詰まりながらも何とか外野に運ぶ。  打球はライト定位置。


真田「(パシッ)

滝口「(ダッ)


ビシュッ!


滝口「おっと」


 ライト定位置では滝口は生還出来ず、真田の送球を見てスタートを切った瞬間止まった。  強肩の真田から好返球が来て、ランナーの生還を許さなかった。


鈴村「ふぅ……後一人か」

シュウ「させんわ!」


 これでツーアウト。後がなくなった桜花だがトップバッターに戻ってチャンスに頼れる男、シュウ。


鈴村「(ビシュッ!)


カキィンッ!


バシッ!


シュウ「――!?」

鈴村「うっしゃあ!」


 最後はピッチャーライナー。鈴村が反射良く捕ってゲームセット。  国立玉山が3対6で勝利を収めた。  夏の覇者、桜花学院が初戦で姿を消すことになった。


シュウ「うぅ……無念」

真崎「ドンマイ、良い当たりだった」

慎吾「まぁ、仕方ない。これが実力だったんだよ」

鈴村「よぉ」

慎吾「挨拶後に来るのは感心しないな」

鈴村「漣はどうしたんだ?」

慎吾「ちょっとワケありでな」

鈴村「……分かった。今は聞かないよ。少し噂では聞いてるんだが」

慎吾「やっぱそういう噂は広まるんだな」

姿「まぁ、頑張ってくれ」

鈴村「あいよ」


 夏の甲子園出場がフラッグだったとは言わないが、それでの選手層の違いを見せつけられた桜花。  個々のレベルアップも必須だと見せつけられた名門との差。  最後の夏へ……ここから這いあがらなければならない。




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