Fiftieth Third Melody―恋する男の悩み―


 秋季大会を終えた野球部の面々だったが、大きなやり残しがあった。  今、綾瀬慎吾が樋野星音に尋問を受けている最中だ。


慎吾「で、話って?」

星音「その前に綾瀬くん、何か忘れてない?」

慎吾「いや」

星音「もうすぐ何がある?」

慎吾「……秋の大会終えた後何かあったっけ?」

星音「文化祭です!」

慎吾「あ、文化祭ね」


 思わぬ気迫に流石の慎吾も呆気にとられてしまった。


星音「出し物、決まってないのうちだけなのよ!?」

慎吾「そういやそういう時期か」

星音「昨年、野球部は大会勝ち進んだから私や他の人たちがカバーしたけど今年はお願いね」

慎吾「へいへい」


 面倒くさそうに星音から渡された紙を見る。  しかしそこには同じ紙が二枚あった。


慎吾「樋野、二つあるけど?」

星音「もう一つは野球部のよ?」

慎吾「あに?」

星音「今年は負けたんだから部としてもやってって生徒会長が」

慎吾「生徒会長ってあいつだろ……」


 あいつとは朝森瑞奈のことである。


星音「いくら彼女でも見逃してはくれないわよ」

慎吾「だから違うっつーねん。何か樋野、怖いぞ、何かあったか?」

星音「別に」

真崎「聞くだけ野暮だろ」

慎吾「あ、さざ――」

星音「………………」

慎吾&真崎「すいませんでした」


 結局、星音が怖かったので逆らわないことにした委員長こと綾瀬慎吾だった。


慎吾「と言うわけで何か決まってないのうちだけらしいのでさっさと決めますか」

透「ほんなら屋台なんてどうや。ワイ、タコ焼き機もっとるし」

慎吾「屋台か……組むのがメンドイから却下したいが、タコ焼き機は利用できそうだな」

真崎「じゃあ喫茶店で良いじゃん」

慎吾「喫茶店なんてどこもやるようなやつだろ。良いのか?」

星音「それが今年、どの学年でも男子がいることから皆結構大がかりなことやってるみたいなの」

慎吾「ふ〜ん、逆に喫茶店がないってことか」

星音「そうみたい。まったくないわけじゃないみたいだけど」

シュウ「ちなみにお隣は何すんの?」

星音「京香に聞いたのだとお化け屋敷みたいだね」

シュウ「お化け屋敷か〜面白そうだな」

佐々木「お化け屋敷の隣が喫茶店かよ」

慎吾「まぁ、良いんじゃね? 屋台風喫茶店でいこうか。倉科、たこ焼きの他に作れるのは?」

透「お好み焼きとかその辺ならお任せやで!」

慎吾「よし、働いてもらうぞ」

透「任せとき!」

慎吾「じゃあそう書いておくけど、異論あるやつは?」

佐々木「異論はないけど、屋台風喫茶店ってシュールだな」

透「なんか味があった方がええやん」

慎吾「そうそう。ウリだと思えばいいんじゃね?」

佐々木「ウリねぇ……」

慎吾「んで、異論は?」


 慎吾の最終的な確認に誰も手を挙げず、容認した。


慎吾「これ、野球部も考えなきゃいけないみたいだな」

真崎「あ、そうなん?」

慎吾「というわけで野球部の面々も何か考えておいてな」

シュウ「あ、僕良い案あるんだけど」

慎吾「採用」

真崎「せめて聞いてからにしろ」


 面倒くさがりながらも一応リーダーシップを発揮して朝のHR内に決めた慎吾。  やっぱりやる時はやる男だった。


…………*


 放課後、各生徒が帰宅したり部活動に走ったりとしている中、駒崎ひなは2−Bを訪れていた。


ひな「すいません、薪瀬先輩いますか?」

2−B生徒「ん? 薪瀬? おーい、薪瀬。真崎の彼女が呼んでるぞ」


司「え?」

姿「(駒崎が薪瀬に……?)」

司「あ、うん。ありがとう」


 姿も何気なく思ったことだが、真崎曰く二人は知り合いらしい。  そのことを思い出しなんら不思議ではないかなと思いつつ、どこか引っかかっていた。


司「なに?」

ひな「少しお話いいですか?」

司「……ここじゃマズい話?」

ひな「そうですね……」

司「分かった。姿、久遠、先に行っててくれ」


姿「……了解」

久遠「なるべく早く来いよ」

司「あぁ、じゃあ行こうか」

ひな「はい」


 二人は姿や久遠とは別の方に行った。  その後ろ姿を見ながら久遠が疑問を口にした。


久遠「駒崎と薪瀬って前から知り合いなんだろ?」

姿「らしいな」

久遠「なんか怪しいよな」

姿「お前な……」

久遠「冗談……でもないけどまぁ、考え過ぎか」

姿「真崎だって気にしてるんだ、言うなよ」

久遠「分かってるよ」


 しかしこの二人の会話を教室にいる真崎らに聞かれていた。


慎吾「気にしてんの?」

真崎「まぁ、ちょっとな……」

慎吾「気になんなら、話盗み聞きしてくれば?」

真崎「出来るかよ、んなこと」

慎吾「不器用なやつめ。じゃあ俺が行こうか?」

真崎「……いい、俺が行く。でもミーティングだろ?」

慎吾「いいよ。文化祭のもあるし、どうせ薪瀬いなきゃ出来ないし」

真崎「……分かった。サンキュ」

慎吾「どう致しまして」


 姿と久遠が立ち去った後に教室から出て、薪瀬らが向かった方へ駆ける真崎。


慎吾「ほんと不器用なやつだよな」


 真崎の後ろ姿を見つめながらふぅと一息ついた慎吾だった。


…………*


司「それで話って?」

ひな「大地さんから連絡は来た?」

司「……あぁ、もう協力しなくていいってね」

ひな「私にもそう来たわ」

司「それで?」

ひな「それはつまり漣先輩については終わったことを指すわ」

司「……俺は良く知らないけど、やっぱりそういうことだったのか」

ひな「漣先輩は危険な兵器なの。これでよかったんだわ」

司「いいわけあるかよ……!」

ひな「今更よ。誰かのせいにするなら、あなただって同罪なんだから」

司「………………」

ひな「今更、野球部の人たちに話すっていうの?」

司「……少なくても連夜はこうなるって分かってたんだ。分かってて……」

ひな「じゃああなた……いえ私たちは漣先輩に助けられたって言いたいのね」

司「……そうだよ」

ひな「まぁ、それでもいいわ。私は深く関わり過ぎている。大地さんに協力できなくても引く気はないわ」

司「君には真崎がいるだろ。なぜそう関わりを持とうとする?」

ひな「それは私が前崎の人間だからよ」

司「前崎……?」

ひな「私の兄も姉も朝里を追ってる。私だけ何もしないなんて我慢できないわ」

司「君は大地さんの下にした時から結構危険なマネもしてるよね」

ひな「朝里を追うという時点で危険はつきものよ」

司「真崎のことも考えてやれよ。だったら付き合うなんて中途半端なマネすんなよ!」

ひな「――ッ!」

司「連夜はきっと君が真崎と付き合ったからこそ助けてくれたんだと思う。あいつの想い、無碍にしないでくれ」

ひな「勝手なこと言わないで!」

司「勝手じゃないさ。あいつは犠牲のもと、多くの者を救ってくれた。その者たちはそれに甘えなきゃあいつが救われない」

ひな「………………」

司「前にも言ったけど、せめて事情話してやったら? 真崎は綾瀬の近くにいる。何にも知らないわけじゃないと思うよ」

ひな「――!」

司「じゃ、俺は行くよ」


 ひなの返答待たずしてその場を立ち去る。  そして校舎の角を曲がってすぐに何者かに話しかけた。


司「勝手なこと言ってゴメンな。後は本人に聞いてくれ」


 立ち止まって一言発するとそのまま部室の方へ向かった。  隠れていた男は薪瀬の姿が見えなくなった後に出てきて一言呟いた。


真崎「気づいてたのかよ」


 はぁっとため息一つついて、薪瀬と同じ方向へとゆっくりゆっくり歩いて行った。


…………*


 薪瀬、真崎が不在の中、野球部の部室では秋季大会の反省……ではなく文化祭の出し物について話し合われていた。


シュウ「野球部でも出し物考えなきゃいけないんだけど、俺と綾瀬で勝手に決めちゃいました」

全員「決めたんかい!」

慎吾「今日が提出期限だったもんでな。悪いな」


 本当にあの後、二人で話して決めてしまったようだ。  案が良かったのか、綾瀬がめんどくさかったのかはこの際置いておくが……


佐々木「ちなみに何にしたの?」

慎吾「色々。アトラクションって感じだな。皆、協力してもらうから頑張れよ」

久遠「それはそれで怖いものがあるな」

慎吾「まぁ、こういうのはテキト―で良いんだよ」

久遠「………………」


ガチャ


司「悪い、遅れた」

慎吾「いいよ。後一人か。全員が集まったら一応反省会するぞ」

姿「そういや真崎は?」

慎吾「ま、気にするな」

姿「あん?」

大友「反省会というのは秋季大会のですよね?」

慎吾「ま、そうだな。国玉が関東大会進んでくれたおかげでまだ面目は立ったけど、実力差があったのも事実だ」

透「国立玉山と後、どこが関東大会いったんや?」

慎吾「確か大岬だっけ?」

姿「鳴海たちだな」

透「へぇ、凄いやん」

慎吾「決勝戦、1対0のロースコアゲームだからな。鳴海が飛騨の一発で泣いた以外はパーフェクトだったし」

佐々木「延長17回までやって鈴村と鳴海投げ切ったんだろ」

シュウ「凄いよね〜」

慎吾「このように他校のライバルたちもレベルアップしてるからな」

大友「ならミーティングもいいですが、練習しません?」

滝口「そうっすよ。今日までグラウンド使えるんですよね!?」


 明日から文化祭の準備のため部活動は全面的に準備時間へと姿を変える。  早いところはもう今日から行っているがグラウンドは一応明日から準備に入る。


シュウ「そうだな〜、そうするか。な、綾瀬」

慎吾「キャプテンの判断に任せるよ」

シュウ「よし、じゃあ着替えろ! 練習だぁ!」

全員「おすっ」

慎吾「ふっ」


 こうして皆、練習にグラウンドに向かった。  綾瀬は文化祭の構想や、各選手の弱点、長所などをまとめておこうと部室で作業することにした。


ガチャ


真崎「あれ、皆は?」

慎吾「練習いったよ」

真崎「そっか……」

慎吾「あんまり良い話じゃなかったみたいだな」

真崎「……ひなちゃん、何隠してるんだろうな」

慎吾「本人に聞けばいいだろ」

真崎「………………」

慎吾「はぁ……ま、良いんじゃね。大会終わったし、悩むだけ悩んでろ」

真崎「お前な……自分は上手くいってるからって」

慎吾「だから違うっつーの。上手くもいってねぇし」

真崎「え?」

慎吾「ま、上手くいかなかったら姿同様慰めてやるよ」

真崎「姿だって決まったわけじゃねーだろ」

慎吾「本人否定してるしな。くっくっく、面白ぇな」

真崎「お前、性格よくねぇな」

慎吾「自覚してるよ」

真崎「くくっ、少し元気でたかな。俺も練習してくるわ」

慎吾「了解。行ってこい」


ガチャ


姿「綾瀬……っと真崎いたのか」

慎吾「どうした?」

姿「いや、この間教えてくれたやつ、もっかいいいか?」

慎吾「あぁ、いいよ」

真崎「この間教えたやつ?」

慎吾「姿、フォーム変えたいって言ってたからちょっと矯正中なんだ」

真崎「ふ〜ん」

姿「お前、来てたなら練習に来いよ」

真崎「今行こうと思ったの。それより姿、聞きたいことあんだけど」

姿「ん?」

真崎「おまえ、橘のこと好きなの?」

姿「は!?」


 唐突に今までの話とは関係ないことだったが、姿は分かりやすく反応をしてしまった。


慎吾「おっ、分かりやすっ」

姿「どっからそうなるんだよ! 大体、橘さんはシュウのこと好きなんだろ?」

慎吾「見てりゃ分かるんだけど、あくまで否定すんだな」

姿「否定も何も違うっちゅーねん」

真崎「否定の仕方が綾瀬と一緒なんだけど」

慎吾「それ認めたら俺も認めることにならねぇか?」

真崎「正解!」

慎吾「あのな……」

姿「バカ言ってないで練習に来い」

真崎「へいへい」


 文化祭へ準備は着々と進んでいく中、真崎は当日駒崎へ聞く決心をつけた。  果たして駒崎は一体どういう返答をするのか……?




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