Fiftieth Fifth Melody―朔夜の事件―


 慎吾たちが秋季大会や文化祭など忙しくしている中、漣連夜は家でボーっとしていた。  これには鈴夜も光もどうしていいか分からず、ただただ様子見の日々が続いていた。


連夜「なぁ、親父。ちょっといいか?」

鈴夜「……あぁ」


 鈴夜には学校を辞めたってことだけのみ伝えており、詳細は言ってなかった。  鈴夜はある程度、察し今日まで我慢してきたが連夜がようやく口を開いた。


連夜「綾瀬大地って人がよこして刺客と戦ったんだ。力を使ってな」

鈴夜「そうか……やはり発動してしまったか」

連夜「それで俺は警察に捕まった。それを理由に野球部を潰されそうになった」

鈴夜「だから学校を辞めた?」

連夜「そうすれば少なくても野球部に迷惑がかからないと思ったから」

鈴夜「……そうか、なるほどな」

連夜「俺の力、その綾瀬大地って人にとられちまった。今の俺には力すらない」

鈴夜「な、何ッ!?」

連夜「……? マズかったか?」

鈴夜「い、いや……お前、本当に力が?」

連夜「あぁ……」

鈴夜「そうか……良かった」


 本当に安堵したような表情をみせる鈴夜。  その表情が意外だった連夜は不思議に思った。


連夜「良かった?」

鈴夜「その力は良いものじゃない。欲しいというやつがいるならくれてやれ」

連夜「良いのか? と言っても俺にはもうないし関係ないが」

鈴夜「そう、関係ないんだ。もう関わる必要はない」

連夜「漣朔夜も力を取られることは望まなかったのか?」

鈴夜「あいつはオリジナルだ。抜きようがなかったんだと俺は思ってる」

連夜「ふぅん……なるほどな」

光「お父さん、今いい?」


 二人が話しているところにおそるおそる光が尋ねる。


鈴夜「ん、どうした?」

光「宙夜さん、そろそろ来るんじゃない?」

鈴夜「っとそうだった」

連夜「何、宙夜のやつくんの?」

鈴夜「あぁ、あいつにも真実を教える」

連夜「あいつが望んだことだ。俺には関係ないかな」


ピンポーン


連夜「噂をすればなんとやら、だな。じゃあ俺は出かけてくるわ」

鈴夜「連夜、これからどうするんだ?」

連夜「……もう少し考えさせてくれ」

鈴夜「……分かった」


ガチャ


流戸「うお! 開いた!」

連夜「ドアが開いたくらいで驚くな」

流戸「れ、連夜ぁ!? なんでお前がいるんだよ!」

連夜「自分の家にいて何が悪いんだよ」

流戸「いや、お前向こう(千葉)に1人暮らしじゃなかったっけ?」

連夜「休日だから帰ってきたんだよ。ほっとけ」

流戸「珍しいな。長期休みでもないのに」

連夜「…………………」

スタスタ

流戸「ってどこいくんだよ」

連夜「散歩。大体俺は関係ない話だろ?」

流戸「………………」


スタスタスタ


 暇つぶしに歩いていたら前から見た顔が歩いてきた。  不意に立ち止まって声をかける。


連夜「一夜」

音梨「れ、連夜? なんでお前がここに……」

連夜「俺の台詞。どうした、うちに用か?」

音梨「あぁ」

連夜「今家にいったら宙夜が来てるぜ」

音梨「知ってるよ」

連夜「え?」

音梨「大会前に鈴夜さんと会っててね。宙夜が来るって聞いてたから様子見に行こうかなっと思ってさ」

連夜「(宙夜ね……何か心境の変化があんのかな)なるほどね」

音梨「関東大会に桜花の名前なかったが負けたのか?」

連夜「あぁ、そうなんだ」

音梨「そうなんだって……お前……」

連夜「俺、学校辞めたんだ」

音梨「…………は?」


 急な発言に呆気にとられる音梨。  しかしこれが当たり前の反応とも言えるだろう。


音梨「お、おい辞めたってどういうことだよ!?」

連夜「言葉通りの意味だよ。それ以上でもそれ以下でもねぇ」

音梨「なんで辞めたんだ?」

連夜「色々あってな」

音梨「力のこと、関係あんだろ?」

連夜「さぁな」

音梨「誤魔化すなよ!」

連夜「一夜……」

音梨「俺だって無関係じゃないんだ。何があったんだ?」


 一夜の真剣な眼差しに連夜が折れた。  自分が一夜だったら確かに気になるだろうなと思い……


連夜「ある男に力を狙われ、奪われたんだよ」

音梨「奪われた?」

連夜「そう。今の俺は漣朔夜の力なんて持ってない一般人さ」


 自分の左腕を見つめながら笑みを浮かべる。  その笑みにどういう意味があるのか一夜には分からなかった。


音梨「じゃあ朝里に狙われる心配はないわけか」

連夜「現状、狙われる理由がないって感じだな」

音梨「そうか……それだけでも一安心だな」

連夜「まぁ、朝里を追おうとしてるんだ。狙われる理由にはなるだろ」

音梨「連夜……」

瑞奈「その通りよ」

連夜「――! あんた……」


 一夜と話しているところで瑞奈が現れる。  一夜は知らないため誰って感じだが連夜はいっそ警戒心を増した。


連夜「何の用だ?」

瑞奈「学校辞めたって聞いたから、様子を見に来たのよ」

連夜「この通りピンピンしてるよ」

瑞奈「そうみたいね。安心したわ」

音梨「連夜、この人は?」


 状況が掴めない音梨が話に割って入る。  しかし質問された連夜も返答に困った。


連夜「さぁな」

音梨「さぁなって……」

連夜「あんた、何者なんだ? 俺の知ってる人か?」


 恐らく答えないだろうと踏んで質問をしたが、意外にもあっさりと返ってきた。


瑞奈「あなたが知っている者よ」

連夜「――! じゃ、じゃあやっぱり……」

瑞奈「そう、私は朝森瑞奈。あなたの知ってる……ね」


 予想はしていた。双子じゃなければ本人だろうと。  でもどこかで否定したい自分がいた。だが本人から聞いてしまった以上、問いただす他ない。


連夜「朝森先輩……一体どうして? 綾瀬は知ってるんですか?」

瑞奈「この一件に彼は関係ないわ」

連夜「どうしてこんなことしてるんですか?」

瑞奈「綾瀬大地の命令だからよ」

連夜「駒崎といい、司といい、あの人一体何者なんだよ? 人を駒のように扱ってるあいつは何もんなんだよ!?」

瑞奈「駒崎や薪瀬は彼に恩がある。ギブ&テイクよ」

連夜「じゃあ先輩は?」

瑞奈「……私とあの人は兄妹なの」

連夜「――!?」

瑞奈「異母兄妹だけどね。あなたなら分かるんじゃないかしら? 兄弟を大切にするあなたなら」

連夜「綾瀬大地と綾瀬慎吾は血の繋がり上は関係ないと聞いたがまさか朝森先輩がそうとはな」

瑞奈「兄の命令は絶対よ。だから協力している。それ以上の答えが必要かしら?」

連夜「綾瀬は綾瀬大地を追ってるような話をしていた。何で教えてあげないんですか?」

瑞奈「教えるメリットがこっちにはないわ」

連夜「先輩……もしかして綾瀬に近づいてる理由って……」

瑞奈「………………」

連夜「先輩!」

瑞奈「答える必要はないわ」

連夜「どうしてだよ!?」

音梨「落ち着け連夜」

連夜「同級生が利用されてんだぞ!? 落ち着いていられるか!」

音梨「とにかく落ち着け。カッとなったら負けだ」

瑞奈「あら随分大人なのね。漣朔夜の出来そこないは」

音梨「なんとでも言え。おかげさんで楽しい人生歩ませてもらってるよ」

瑞奈「そう……」

連夜「先輩はどこまで知ってるんだ? 漣朔夜のことといい……」

瑞奈「実際起こったこと、は当事者しか知らないわ。だから何を知ってるかは答えようがないけれど…… あなたたちより正確な情報は持ってるわ」

音梨「じゃあ一つ聞いていいか?」

瑞奈「何かしら?」

音梨「何で漣朔夜は死んだんだ? 力とやらがあれば死ぬような状況じゃなかったはずだ」

瑞奈「……状況を知ってるのなら、分かるんじゃないかしら?」

音梨「人質だろ? だけどそんなんで無抵抗になるとは思えないんだ」

瑞奈「漣朔夜は朝里優美を人質にとられ、力を解放したわ」

連夜「(……一緒だな、状況が)」

瑞奈「そして朝里優美は撃たれたわ」

連夜「は?」

瑞奈「更に激怒した漣朔夜は人質をとったものを殴りにかかった。この時、止めに入った漣鈴夜を殴ったの」

連夜「親父が?」

瑞奈「そう。そして我に返ったところを、朝里の工作員に撃たれた……その工作員が綾瀬慎吾の両親だった」

連夜「な、なにっ!?」

瑞奈「綾瀬慎吾は関わっていたことは知ってるけど、犯人が両親とは知らないわ」

音梨「結果的に鈴夜さんの行動が漣朔夜の死に繋がってしまったのか……」

瑞奈「そういうこと。だから漣鈴夜は自分を責めているわ」

連夜「(だから自分が殺したって表現を使ったのか……)」

音梨「なるほどな。よくわかったよ」

瑞奈「漣くん、学校に戻る気はないのかしら?」

連夜「ねぇよ。戻ったら野球部にとばっちりが行くだけだ」

瑞奈「そう。分かったわ。じゃあ他にもお客さんが来たみたいだから私はこの辺で」

連夜「待ってくれ」

瑞奈「何かしら?」

連夜「綾瀬に……綾瀬には言わない気か?」

瑞奈「言ってどうなることじゃないわ」

連夜「それでも!」

瑞奈「いずれ敵対するかもしれない彼に何を言えばいいのかしら?」

連夜「……ッ……本気かよ……!」

瑞奈「それじゃあ」


 淡々と告げ、去っていく瑞奈。  連夜は奥歯を噛みしめて、どこにもぶつけようのない怒りを抱いていた。


音梨「さっきお客さん言ってたな」

流戸「よぉ」

連夜「宙夜……話終わったのか?」


 二人が辺りを見渡すと流戸がその場にいた。  どこかスッキリとした表情に二人は少し安堵感を持っていた。


連夜「なぁ、宙夜」

流戸「……え?」

連夜「更なる真実教えてやろうか?」


 この連夜の一言に静かな辺りが余計に静かさを増した、そんな感じを受けた音梨だった。




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