Fiftieth Sixth Melody―再会―


流戸「更なる真実……だって?」

連夜「そう。どうせなら聞いときたいだろ?」


 連夜が言おうとしていることは甲子園後、音梨や日夜と話した内容だ。  宙夜が朝森、御柳の抗争のために生まれたこと。  そして父である漣朔夜が意図的に抗争のためにやったこと。


音梨「連夜、わざわざ言うことはない!」

流戸「なんだよ、気になるだろ」

音梨「宙夜は俺や日夜ほど踏み込んでない。わざわざ知る必要はない」

流戸「一夜……お前……」


 自分が名前で呼ばれたことに驚く流戸。  基本的に音梨と日夜は名字で呼んでいたからだ。  ちなみに日夜はたまに名前で呼ぶこともあり、統一されてはいないが……


連夜「……それもそうだな。悪いな、思わせぶりに話しちまって」

流戸「い、いや良いが……関係あることなら話してほしいな」

音梨「気にするな。と言っても無理だろうが、俺らを信じるなら……な」

流戸「……分かった。一夜、なんだか雰囲気変わったな」

音梨「そうか?」

流戸「俺のこと名前で呼ぶなんてなかったろ?」

音梨「ん〜まぁそうだが……嫌か?」

流戸「いや逆。嬉しいわ」

音梨「そうか。なら良かった」


 一転、和やかな雰囲気となり連夜が雑談でもしようと共通の話題を出す。


連夜「そういや宙夜とは甲子園で会ったな」

流戸「そうだな。俺は一回戦で負けちまったけど」

連夜「まぁ、相手が周流なら仕方ないだろ」

流戸「自分んとこはベスト8まで進んだからって皮肉か?」

連夜「事実だよ。帝王に勝っただけ良かったと思え」

音梨「俺も地区で埼玉遊楽に負けたからな」

連夜「龍に打たれたか?」

音梨「龍?」

連夜「矢吹のこと」

音梨「あぁ、お察しの通りな。何より日夜にも打たれたことがイラっと来た」

連夜「それはそれは」

流戸「あー同じ地区なんだな」

音梨「県が一緒だからな。地区は違うから秋とかは県予選まで当たらないけど」

連夜「日夜で思い出した。宙夜、お前投手辞めたんだな」

流戸「あぁ、去年にな。外野にコンバートした」

連夜「自分の意志でか?」

流戸「あぁ。打者になって打ちたいライバルがいたんだ」

連夜「なるほどね。ならよかったわ」

流戸「なんだよ?」

連夜「いやチーム事情とかでコンバートじゃ親父とかも報われないからな」

流戸「鈴夜さんには悪いけどな」

連夜「気にすんなよ。日夜もコンバートした以上、残るは一夜だけか」

音梨「俺は打撃苦手だし、生きる道は投手しかないよ」

連夜「打撃苦手なのは日夜も一緒だろ」

音梨「だから打たれたんだっつーの」

連夜「悪かった」

流戸「ふふっ」


 今まで見ることのなかった音梨に流戸はどこか嬉しくなった。  やっぱり兄弟や家族は仲あるべきだと再認識した。


音梨「俺は関東大会に出るが、宙夜はどうなんだ?」

流戸「残念ながら赤槻に負けたよ」

音梨「そっか……」

流戸「連夜は?」

連夜「負けたらしいよ」

流戸「らしいって何だよ」

音梨「こいつ、学校辞めたらしいぜ」

流戸「は?」

連夜「なんか皆、同じ反応しかしないな」

音梨「他に言えることなんかねぇよ」


 ちなみに鈴夜や光も同じ反応だった。


流戸「辞めたってマジか?」

連夜「嘘ついても仕方ないしな」

流戸「なんでまた」

連夜「それはちょっとややこしいから勘弁な」

流戸「んだよ……」

音梨「でもバカとしか言いようがないよな」

流戸「だな」

連夜「バカって言うな」


 それから再会を懐かしみ、色々と話が湧いて出る状態で話していた。  辺りが暗くなり始め、流戸がようやく終わりを示唆した。


流戸「んじゃ、俺そろそろ帰るわ」

音梨「あぁ、了解」

流戸「わざわざ来てくれてありがとな」

音梨「気にすんな。じゃあな」

流戸「あぁ、連夜も早く今後どうするか決めろよ」

連夜「うるさいわ」

流戸「くくっ、じゃあな」


 流戸は良い表情で東京へと帰っていった。  聞きたいことが聞けてスッキリしたんだろう。


音梨「じゃ、俺も行くわ」


 流戸が去ってすぐ音梨も帰ることにした。


連夜「あぁ、またな」

音梨「……何かあったら言えよ」

連夜「もう何かあるなんてねぇよ。野球に集中しろ」

音梨「どうせお前が野球辞めた理由も他の人のためなんだろ? いい加減少しは自分勝手に動いてみれば?」

連夜「さぁな。案外自分勝手なやつかもしれないぜ」

音梨「本当に自分勝手なやつよりタチが悪いな」

連夜「人をタチが悪いって言うな」

音梨「じゃあな」

連夜「あぁ、頑張れよ」


 手を挙げ音梨もその場から立ち去って行った。  二人を見送り、自身も家に戻ろうとした時、新たな来客が現れた。


迅「よぉ、覚えてるか?」

連夜「林藤……何の用だ?」

迅「おぉ覚えてたか、良かった」

連夜「お前のせいで全て狂ったからな」

迅「何言ってやがる。俺はちょいと言われた通りにしただけだぜ?」

連夜「綾瀬大地のか?」

迅「そういうこと」

連夜「はぁ……」


スタスタスタ


 林藤のことを無視して自宅へ帰ろうとする。


迅「おっと、待て待て。そんな話をしにきたんじゃない」

連夜「んだよ。お前と仲良く話す気なんてないぞ」

迅「まぁまぁ、そう言わずにさ」

連夜「で何よ?」

迅「お前、朝里が主催している野球大会って知ってるか?」

連夜「噂では聞いたことあるな」

迅「なら話が早い。俺のチームで参加しろ」

連夜「は? なんでお前のところのチームで参加しなきゃいけないんだよ」

迅「言っとくが高校じゃないぞ?」

連夜「え?」

迅「俺はあそこの野球部辞めたからな。元々大地さんに言われてミッションやってただけだし」

連夜「じゃあどこのチームで?」

迅「朝里の野球部よ。俺もチームに入ってるんだが今年はあんまり参加率良くなくてな」

連夜「それで俺に来たわけか……だが断る」

迅「なんでよ! 暇だろ?」

連夜「暇言うな」

迅「四人ぐらいしか朝里の野球部の人参加しねぇから気がねなく出来るぜ?」

連夜「そんなんでいいのかよ……」

迅「良いんじゃね? 俺がいれば優勝できるし」

連夜「大した自信だな。うちに16点もとられてて」

迅「あれは手抜き。それに秋季大会あっさり敗退したみたいじゃん」

連夜「あ、らしいけど相手どこよ?」

迅「国立玉山だったはずだな」

連夜「なんだ鈴村たちか。じゃあ負けても不思議じゃない」

迅「やっぱお前がいなきゃ大したことないチームだな」

連夜「そうでもねぇよ。お前が証明したはずだ。高校でのワンマンチームはある程度勝ち進めることをな」

迅「あん?」

連夜「俺がいなくても松倉や姿で十分勝てる。国玉と当たったのが不運だっただけさ」

迅「ふ〜ん、随分買ってるんだな」

連夜「純粋に事実を話してるだけだよ」

迅「まぁ、いい。で、どうするんだ?」

連夜「断るよ。そんな気分じゃない」


 そう言って歩き出す連夜だが林藤の右腕がそれを阻む。


連夜「んだよ?」

迅「まぁまぁ、そう言わずにさ。とびっきりのゲストも呼んでるんだ」

連夜「ゲスト? 誰が来たって俺は……」


 しかしその言葉の後は続かなかった。  林藤の合図で出てきた人物は連夜にとってかなり意外な人物だったからだ。


??「よぉ、久しぶりだな」

連夜「……彰規さん……!?」


 そこにいたのは連夜にとって憧れの人物で、キャッチャーを始めるキッカケにもなった人だ。


連夜「すいません、彰規さん。どの面下げて会えばいいのか……」

黒瀬「あのな、まだ妹の件引きずってんのか? あれは俺らが決めたことでもある。お前には関係ない…… とは言わないが、お前が自分を責めることでもねぇ」

連夜「でもアメリカなんかいかなきゃ捺は!」

黒瀬「日本にいても同じ結果だよ。早いか遅いかの違いだ」

連夜「――ッ……」

黒瀬「……悪い、言い方が悪かったな」


 捺というのは黒瀬の妹で連夜が野球を始めるキッカケになった人。  つまり連夜は野球に置いてはこの兄妹がキッカケになっている。


黒瀬「だがなあんまり思いつめるな。捺が悲しむ」

連夜「……はい……」

迅「さてさて本題に良いかな?」

連夜「本題?」

迅「こら、何黒瀬さんと会って忘れちゃってんだよ」

連夜「あぁ、朝里の大会だっけ……」

迅「そう。黒瀬さんも俺のチームで参加が決まってるんだよ」

連夜「――! 本当ですか?」

黒瀬「あぁ、大学の後輩も何人か連れてな」

迅「さて、漣はどうする?」

連夜「………………」


 連夜と黒瀬は年齢的には五歳離れているため、一緒にプレーした経験はない。  憧れの人物、自分がキャッチャーを目指すキッカケの人とプレーできるといえば  流石の連夜も心が揺らぐ。


黒瀬「一緒にプレーしようぜ」

連夜「……よろしく……お願いします」

迅「オッケー、決まりだな」

連夜「ところでポジションは?」


 連夜は夏はコンバートしていたが、元々はキャッチャー。  だが黒瀬がいる以上、自分が守るわけにはいかない。  誘ってくるぐらいだから考えがあるのだろうと聞いてみたが……


迅「どこがいい?」


 なかったらしい。


連夜「あのな……」

迅「俺がピッチャーとファースト兼任するから、お前も兼任してほしいんだよね」

連夜「俺が……ピッチャー?」

迅「出来ないか?」

連夜「いや、出来ないことはないけど……」

迅「じゃあそういうことでよろしく」

黒瀬「じゃあバッテリー組めるわけか」

連夜「よろしくお願いします」

黒瀬「高校じゃ投手やってんのか?」

連夜「いえ、夏は外野守ってましたがキャッチャーやってます」

黒瀬「そうか。というか甲子園見たんだけどな」

連夜「え?」

黒瀬「白夜とも戦ってたろ。あの時は内野守ってたっけ?」

連夜「そうですね」

黒瀬「器用なやつだな。どこでも守れるなんて」

連夜「いや、一つのポジションのスペシャリストの方が素晴らしいですよ。 そう言えば彰規さん、肩は大丈夫なんですか?」

黒瀬「あぁ、おかげさんでな。大学の監督がいい感じで」

連夜「そうなんですか」

黒瀬「だけど俺は強かった光星大学が好きなんだけどな」

連夜「強かった……?」

黒瀬「あぁ、今は管理野球になっててな。ある程度の実績は残すけどある程度しか残せないんだ」

連夜「………………」

黒瀬「お前が入って強くしてくれれば嬉しんだけどな」

連夜「彰規さん……」

黒瀬「冗談だよ。お前は高卒でプロ入りするやつだろうからな」

連夜「………………」

黒瀬「そしてその方が捺もよろこぶ」

連夜「そう……ですかね」

黒瀬「きっとな。じゃあ俺、大学に戻らなきゃいけないから行くわ」

連夜「あ、はい。よろしくお願いします」

黒瀬「あぁ、よろしくな」


 黒瀬と別れて辺りは日が落ち、街灯が灯り始めていた。


迅「黒瀬さんにはいやに素直だな」

連夜「まだいたのか……」

迅「何で黒瀬さんにはそんな素直なんだ?」

連夜「別に……関係ないだろ」

迅「ワケぐらい聞かせろよ。その妹さんだけが理由じゃないだろ?」

連夜「捺のこと、なんで知ってるんだよ」

迅「大地さんに聞いた。黒瀬さんも大地さんにお世話になった一人だからな」

連夜「……なるほどね」

迅「だけどそれだけじゃない気がしてね」

連夜「……黒瀬さんの肩、悪かったの知ってるか?」

迅「知ってるよ。リハビリとか付き合ってあげてたしな」

連夜「なるほど。その肩を悪くした理由、俺なんだ」

迅「ふ〜ん。黒瀬さんは確かにその理由を頑なに言おうとしなかったが、簡単に事故って言ってたけど?」

連夜「交通事故なんだ。俺を助けるために身代わりになったんだ」

迅「へぇ、なるほどね。そりゃその人に恩持つわな」

連夜「それが理由だよ」

迅「納得したわ。んじゃ大会、よろしくな」

連夜「……はいはい」


 連夜も参戦することになった朝里の野球大会。  ここで様々な対決、ドラマが生まれる。  連夜は……そして桜花はどこまで勝ち進めることが出来るのか?




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