Fiftieth Ninth Melody―朝里野球大会、三日目―


 朝里野球大会、最終日。チームとしては試合を終えたが、慎吾が試合を見に足を運んでいた。


慎吾「………………」


 その背後から顔なじみが声をかけてきた。


姿「よぉ、綾瀬。綾瀬も来てたんだ」

慎吾「姿……お前も来たのか」

姿「レベルの高い野球なら見て勉強になるかと思ってな」

慎吾「練習休みの日にご苦労なことだな」

姿「来てるお前が言うなよ……」

慎吾「最もだな」

姿「後、出来れば漣と話せないかなって思ってさ」

慎吾「漣と?」

姿「夏もそうだったが、あいついるのといないのとじゃ全然違うからさ。 頼ってる部分が強いって点では情けない話だけど」

慎吾「いや、それは俺も考えてた。攻守にタッキーもやってくれてはいるが 何か雰囲気的な問題なんだよな」

姿「お前のいうここ一番の集中力、勝負勘を持っていたのが漣だったからな」

慎吾「……ま、こうなったのも俺の責任みたいなところあるからな」

姿「え?」

慎吾「………………」


 慎吾は夏の甲子園、自分が入院した時に大地と話したことを思い出した。  思えば、あれが今回の火種だったんじゃないかと……


姿「なぁ……大地さんって何者なんだ?」

慎吾「あん?」

姿「今回のこと、関係あるんだろ? お前がそうやって悩む時にはいつも大地さんが関わってた」

慎吾「気のせいだよ」


パキーンッ


 メインスタジアムのグラウンドでは織樟ウェーブスと東京連合軍の試合が始まっていた。


姿「俺に気を遣うなよ。俺だって真実が知りたい」

慎吾「お前は綾瀬大地を慕ってるだろ? お前の想像以上にあいつはヤバイことに足を突っ込んでるよ」

姿「それはお前もだろ?」

慎吾「……あのな、姿。俺とお前では元々住む世界が違うんだ」

姿「友達だろ?」

慎吾「……はぁ……真崎といい、後悔するぞ?」

姿「後悔するならお前と出会った時点でしとくべきだったかな」

慎吾「言ってくれる」

姿「冗談だよ」


 2人に笑みが浮かんだ。  こうして冗談を言い合える仲間がいること、慎吾にとっては心強かった。


慎吾「難しい話は言うつもりはない。ということで姿からの質問を聞こうか?」

姿「漣はどうして捕まらなかったんだ?」

慎吾「さぁな。その点は俺も知らないが、恐らく綾瀬大地が手を回したんだろ」

姿「宏明さんがどうにかしたわけじゃないのか?」

慎吾「いや可能性はあるだろうけど、あの人一人の力じゃないだろうな。朝里全体が動いてるはずだ」

姿「なんでまた……」

慎吾「2つ理由はある。1つは言えないがもう1つは綾瀬大地はかつて朝里の職員だった」

姿「かつてって……」


 昔かよっと言わんばかりの姿のツッコミだった。  ちなみに言えない方の理由は連夜との親子関係だが  何やら複雑なことになっていると知ったため姿に言うことをためらった。


姿「そんな元職員に一端の力があるのか?」

慎吾「そこはまぁ、色々あるんだよ」

姿「案外、肝心なところはもやもやだな」

慎吾「俺だって良く知らねぇもん」

姿「……そっか」

慎吾「少なくても綾瀬大地にはその力があるんだ」

姿「じゃあ漣はそもそも何であんなことになったんだ?」

慎吾「それは綾瀬大地が仕向けたからだって」

姿「だから仕向けたのは大地さんだとして、そこまで仕向けてなんで逮捕は望まなかったんだ?」

慎吾「…………ふむ」


 確かに姿の言うことは最もだった。  そこまで深く考えてはいなかったが理由はいくつか浮かび上がった。


慎吾「(優美さんの話が本当だとすれば漣は妙な力を持ってるらしい。その力を欲しかった? だが、刺客に襲わせる理由が分からないな……現に漣は刺客を倒しちゃってるし……)」


 あれこれ考えても答えが出るわけはないが、ここで自分なりの仮説を立てることが綾瀬大地に繋がる。


慎吾「(漣が本当に力を持っているか試すために刺客に襲わせた? そして判明すれば別に逮捕までは望まなかった。これなら分かるか……?)」

姿「綾瀬?」

慎吾「(いや、もっとシンプルかもな。優美さんが望まなかった。一番これがしっくりくる)」

姿「綾瀬〜?」

慎吾「ん?」

姿「ん、じゃねーよ。ボーっとして」

慎吾「あぁ、悪い」

姿「結局さ、漣を学校に連れ戻す方法ってないのかな?」

慎吾「いや、そんなことはない」

姿「え?」

慎吾「結局ネックなのは漣が戻ってきて罰が野球部に来ること。 言ってしまえば懲罰さえなくなればいいってことだ」

姿「それはそうだが……」

慎吾「教頭を説得することなら考えてる。だが時期がな……」

姿「時期?」

慎吾「これから試合禁止期間に入るだろ?」

姿「お前、何考えてるんだ?」

慎吾「教頭に賭けを申し込む。負けたら廃部の条件を持ってな」

姿「――!?」

慎吾「勝ったら漣の復学を許してもらう。この条件なら乗ってくれるだろう」

姿「お前、それは……」

慎吾「当然、野球部の皆には聞くぜ? 逆にこれぐらいじゃなきゃ説得は無理だ」

姿「………………」

慎吾「お前はどうする?」

姿「……乗るよ。元々、あいつが作った野球部なんだからな」

慎吾「そうこなくっちゃな」


 姿の決意に秘めた眼を見て、慎吾は薄らと微笑んだ。  他の仲間たちもきっと同じ答えを出してくれるだろうと期待を持ちながら……


…………*


 午前の試合が終わり、決勝には朝里と東京連合軍が残った。  慎吾と姿も当然、最後の試合を見るべく昼食をとり再びスタンドに来ていた。


慎吾「両方、うちが負けたチームだ。決勝まで来てくれれば株が下がらなくていいな」

姿「しかし東京連合軍は凄いな。いっても高校生の寄せ集めチームなのに」

慎吾「全員がプロ注目と言ってもいい。やっぱそういう選手は俺らとどっか違うのかもな」


 俺らと言いつつも慎吾は姿もそういう選手であると思っていた。  だから応援もしたいし、密かに嫉妬心も持っている。


姿「ま、ここはこの試合をじっくり見ますか」

慎吾「そのために来たんだもんな」


朝里ナインスターズVS東京連合軍








 大会は東京連合軍の優勝で幕を閉じた。  観客が続々と席を立つ中、慎吾と姿も帰り支度を始めていた。


姿「いい試合だったな」

慎吾「あぁ、見に来たかいがあったな」

姿「これからどうするんだ?」

慎吾「家に帰るよ。お前は?」

姿「漣と話せないか、粘ってみるよ」

慎吾「了解。いい知らせを期待してるよ」

姿「無茶言うなよ……」

慎吾「漣待つならもう行った方がいいだろ」

姿「あぁ、そうだな」

慎吾「俺はこのデータまとめたらいくよ」

姿「了解。じゃあな」


 参考になるかと思いスコアと気になった点をまとめていた慎吾。  姿は席を立ち、観客席を後にした。


姿「………………」


 姿は選手の出入り口で連夜が出てくるのを待った。


迅「くっそ……やっぱ負けると悔しいな」

連夜「そりゃあな」

黒瀬「でも実りのある試合だったよ」


姿「漣!」


 林藤、黒瀬と一緒に出てきたところをすかさず声をかける。  姿の声に3人が姿の方に顔を向けた。


連夜「姿……」

黒瀬「知り合いか?」

連夜「えぇ、高校のクラスメートです」

迅「なんか話があるみたいだし、先にいってるぜ」

連夜「……あぁ」


 林藤と黒瀬がその場を立ち去り、連夜と姿は球場から少し離れ人気のないところに来た。


連夜「……話すことはないんだけどな」

姿「そういうなよ。皆、心配してるんだ」

連夜「………………」

姿「自主退学の場合、本人が望んで学校側が認めれば復学できるらしい」

連夜「……へぇ」

姿「戻る気はないか?」

連夜「ないよ」

姿「今、綾瀬が教頭を説得しようとしてる。お前が戻ってきても野球部に懲罰がないようにな」

連夜「――!」

姿「皆もお前が作った野球部だって、綾瀬の言わば賭けに乗ると思う」

連夜「関係ないだろ! お前らは夏に向けて――」

姿「だからお前がいなきゃダメなんだろ!」

連夜「――ッ!」

姿「皆待ってる。変な意地はってないで戻ってこい。お前となら俺らは何でも受け入れてやる」

連夜「………………」

姿「俺からはそれだけだよ」

連夜「……姿」

姿「ん?」

連夜「お前らは力がある。俺なんかにこだわって潰すぐらいなら先を目指せよ。 夏、甲子園行く実力はあるんだからさ」

姿「でも皆はお前の犠牲の元、生き残ることは望んでない。その気持ちぐらい察してくれや」


ポンッ


 軽く肩を叩いて、姿はその場から立ち去った。  残された連夜は複雑な心境になっていた


…………*


 データをまとめ慎吾も球場を後にしていた。  だが球場の駐車場出入り口であんまり会いたくない人物を見つけた。


大地「………………」

瑞奈「………………」


 慎吾の視線には綾瀬大地が……そして……


慎吾「(あいつ……なんで綾瀬大地と一緒にいるんだ?)」


 話を聞きたいが迂闊に近づくことも出来ず、その場に立ち尽くす。


大地「それじゃあ、よろしくね」

瑞奈「分かりました」


 最後にニコっと笑い綾瀬大地が立ち去った。


慎吾「……あいつ……」


 話しかけようと思ったがいつもの瑞奈ではないと察した慎吾は声をかけるのをためらった。


慎吾「(綾瀬大地の旧姓は朝森といった。やっぱり関係あんのかな……)」


 この場は立ち去ることにした慎吾だったが、着々と自分の中でピースが組み上がっていく。


慎吾「(問題はなんであいつはこのことを隠してるか……だな)」


 いつかチャンスがあれば問いただそうと心に決め、慎吾はその場から立ち去った……  心に残ったのは朝森瑞奈への疑念だけだった。




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