Sixtieth Sixth Melody―信じてきたモノ―


 3月中旬、今日日、桜花学院では卒業式が行われようとしていた。


姿「漣のやつ遅いな」

久遠「ほんと、何してんだろうな」


 前日、賭け試合に勝利し漣の復学が決まったが当の本人は登校していなかった。


京香「せっかく勝ったのにね」

姿「出席日数の関係で恐らく来年も2年やるだろうしな」

久遠「あ、そうか。いやだな、それ」

姿「最後の夏は問題ないだろうけど、本人がどうなんだろうな」


ガラッ


??「おはよーっす」


キーンコーンカーンコーン


 チャイムが鳴ったのと同時に教室に一人の少年が入ってきた。  見たことない人に皆、呆然と少年を見ていた。


姿「…………誰?」

??「ちゃす」

姿「……どうも」

??「何で他人行儀なんだよ」

京香「……え? もしかして漣くん?」

連夜「んだよ? 何その今知った言い方」

久遠「何ィッ!? 漣だと!?」


ガヤガヤガヤッ


 久遠の一言で教室中がざわめき立つ。


姿「え、マジで?」

連夜「そこまで驚かれると何かいやだな」

久遠「髪どうしたん?」

連夜「切った」

久遠「いや、それは見れば分かるから」

京香「昨日の今日でスッキリしたわね」

連夜「まぁ、一応ケジメにな」

姿「で、何でこんな遅くなんだよ」

連夜「進級試験受けてきた」

姿「え? 受けるの?」

連夜「出席日数は向こうで水増ししてくれるって」

姿「水増し言うな。何か悪いことしてるみたいだろ」

連夜「決して褒められたことでもないだろ」

久遠「じゃあ一緒に進級出来んの?」

連夜「テストに受かってればな。期限的に今日までだし」

司「それは良かったな」

連夜「よぉ、司」

司「久々にみるな、短髪連夜」

久遠「へ、薪瀬分かったの?」

司「昔は一時期だけど短髪だったからな」

姿「あ、感謝しろよ漣。お前がいない期間の学級委員、薪瀬が務めてたんだから」

連夜「そっか、悪かったな」

司「いいけど、これっきりにしろよ」

連夜「分かってるよ」


 髪を切り心機一転した連夜、久々とクラスメイトと話してようやく元のB組の姿に戻った。


…………*


 定型のような卒業式が終わり、野球部の面々は部室に集まっていた。  理由はもちろん、野球部としても卒業を祝うためだ。


慎吾「………………」

真崎「綾瀬? どうしたんだ?」


 A組の面々も部室に向かう中、綾瀬がふと卒業生で賑わっている昇降口で立ち止まった。


慎吾「悪い、先行ってろ」

真崎「あん?」

シュウ「なんで?」

佐々木「はいはい、行くぞ」


 察した佐々木が無理やりシュウを引っ張り部室へと向かう。


真崎「あ〜なるほどね」

慎吾「半分正解。んな色恋沙汰じゃねぇよ」

真崎「ま、俺らのことは気にするなよ」

透「ほな先行ってるで」

慎吾「あぁ」


 こうして慎吾はいつかのように昇降口で待つことにした。  目的の人物が現れたのは卒業生がほとんどいなくなってからだった。


瑞奈「………………」

慎吾「遅かったな」

瑞奈「あ、綾瀬さん!?」

慎吾「一言、お祝いでもかけようと思ってな」

瑞奈「それはありがとうございます」

慎吾「……あんた、ここんとこ俺から逃げてたろ?」

瑞奈「え――?」

慎吾「前みたいに気づけば横にいたなんてことなくなったからな。だから俺はクリスマスの時もこうして待っていた」

瑞奈「………………」

慎吾「卒業したらそれで終わりか?」

瑞奈「そ、それは……」

慎吾「あんたにとって俺は何だったんだ? ただ不用意に近づいてきたわけじゃないだろ」

瑞奈「……もう、話すことはないわ」

慎吾「――!」


 一転、瑞奈の雰囲気が変わった。それを慎吾は感じ取った。


瑞奈「あなたのお察しの通りよ」

慎吾「全ては綾瀬大地の差し金か?」

瑞奈「………………」

慎吾「答えろよ!」

瑞奈「………………」

慎吾「一体どういうことだよ!? 勝手に近づいてきて、勝手に去るって本当に勝手じゃねーか!」

瑞奈「あなたは全て分かってしまったの?」

慎吾「……まだ分からないことだらけだよ」

瑞奈「そう……」

慎吾「だからこそ教えてほしい。君は一体……何者なんだ?」

瑞奈「私は朝森瑞奈。朝森の後継者、ただそれだけよ」

慎吾「まったく関係ないわけじゃないんだろ? 綾瀬大地と……」

瑞奈「あなたには関係ないわ」

慎吾「……言えないのか?」

瑞奈「そうじゃないわ。私は朝森の後継者。それ以上でもそれ以下でもない。ただそれだけよ」

慎吾「嘘つけ! それだけが理由で俺に近づいてきたわけじゃないだろ!?」

瑞奈「それは……」

慎吾「俺はあんたを信じたいんだ……頼む、教えてくれ」

瑞奈「――!?」

慎吾「君は……俺の姉さんの事件……何を知っている?」


 慎吾の切りたくなかったピース、瑞奈の返答は……


瑞奈「……全てよ」


 慎吾にとって聞きたくなかった決定的な一言だった。


慎吾「………………」

瑞奈「さようなら……」


 立ち去ろうとする瑞奈に慎吾は声をかけられなかった。  信じてきたものを砕かれ、頭も心も真っ白になっていた。


慎吾「……一体……何なんだよ……」


 ただ瑞奈の最後の言葉だけが痛いほど耳に残っていた……




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