Sixtieth Eighth Melody―100を望むこと―


 新入部員が入部し、1ヶ月が経とうとしていた。  そして予定していた練習試合の日が来た。


木村「今日は赤槻と蒼月との練習試合だ。1年からも6人ベンチ入りさせる」


 その6人が発表されるところだった。


木村「赤木、布袋、雨宮、高波、月見里、向江。以上、6人は蒼月の試合にスタメンで出す」


ガヤガヤガヤッ


木村「赤槻との試合でもチャンスがあれば使うからな。用意しとけよ」

シュウ「じゃあ2連勝するってことで行くぞ!」

全員「おぉっ!」


 シュウの合図と共に全員が気合を入れる。  まずは最初の対決、赤槻高校を目指し、桜花専用のバスに乗り込んだ。


…………*


 赤槻高校につき、1年生たちはその専用グラウンドに驚きを隠せないでいた。  そんな中、監督と赤槻の新キャプテンが桜花が来たことに気づき出迎える。


千馬監督「ようこそお越しになりました。2年ぶりですね」

木村「まぁ最もその頃は私、まだ監督じゃなかったですけどね」

暁「いよぉ、野郎ども。久しぶりじゃねーか!」

松倉「って朝里の大会で会っただろ」

暁「かぁ、ノリが悪いねぇ、ノリが!」

松倉「お前、そんなキャラだっけ」

暁「今年こそ甲子園で優勝するためにチームを鼓舞してるからな。ちょっとはノリが良い方がいいかと思って」

連夜「お前はピッチングでチームを引っ張った方が絶対いいぞ」

佐々木「同感だな」

暁「その点は抜かりない。千葉の弱小校ぐらい完封できる実力はついている」

連夜「ほぉ……?」

真崎「うちだって当時とは選手も実力も違うぜ」

暁「ってお前、当時いなかっただろ!」

真崎「ノリは確かにいいな」

暁「人で遊ぶな!」

姿「ま、何にせよ今日はよろしくな」

暁「あぁ」


 それから軽くノックをし、試合に備える。  桜花野球部として初めて対外試合を行った相手が赤槻高校だ。  それから2年越しの対決。一体どんな試合になるのか?


練  習  試  合
先   攻 後   攻
桜  花  学  院 VS 赤  槻  高  校
3年SS森   岡 清   村2B3年
3年  漣   如   月 SS3年
3年松   倉 岡   村LF3年
3年1B  姿   湊   川CF 3年
2年LF滝   口 ブ ラ ウ ン3B3年
3年3B倉   科 大   道 2年
3年RF久   遠   暁  3年
3年CF佐 々 木 岩   町1B 2年
3年2B真   崎 有   馬RF 2年


慎吾「オーダーは以上の通りだ。赤槻に勝てないようなら全国は目指せないぞ」

シュウ「絶対勝つぞ!」

全員「おぉっ!」



暁「おっ、向こうも気合が入ってるね」

千馬「岡村復帰に伴って打順を少しいじってみた。各々仕事をきっちっとこなしてくれよ」

如月「オカちゃんはもう足はいいのかい?」

岡村「あぁ、万全だ。最もお前にショートのポジション取られたことは悔しいがな」

清村「俺、中学時代から外野兼任だったから俺がまわって如月セカンドでも良かったんだけどね」

暁「何となくお前には内野にいてくれた方が安心するから俺から頼んだんだよ」

清村「ほぉ、そうなのか!」

如月「まぁ、1年からレギュラーだったし、他の内野が2年の岩町や留学生のブラウンだからな。内野キャプテンは岡村か清村だよな」

岡村「俺はそこまでじゃないし、キヨが適任かもな」

清村「いやいや、それほどでも」

如月「俺もせっかくポジションもらったし頑張らんとな」

岡村「君は相変わらず掴みづらい性格だよね」

如月「良く言われる。褒め言葉として取っておこう」

岡村「………………」

暁「よし、行くぞ!」

全員「おぉっ!」


 1回の表、桜花の先攻でプレーボールがかかる。  トップバッターは不動とも言っていい森岡秋気。


シュウ「しゃあ、来い!」

大道「(足のあるトップバッターですね)」

暁「(当時はストレートに振り遅れていたが朝里の大会を見る限りでは克服したようだな)」


グッ!


ガキィンッ


シュウ「あ〜!」


シュタタタッ


暁「ショート、焦るなよ」

如月「誰に言ってんの?」


シュッ!


1塁審『アウトッ』


 高速シュートでバットの先に当たりショートゴロ。  流石のシュウもこれはヒットには出来なかった。


暁「相変わらず守備は安定感があるな」

如月「ま、それでオカやんからポジション奪ったんだからな」


連夜「あのショート、岡村より安定感ありそうだな」

松倉「出ろよ」

連夜「あいよ」


 続く2番連夜が左打席に入る。


連夜「相変わらずシュートとパームで命繋いでるのか?」

暁「さぁね!」


ズッバァン!


連夜「(おぉ、速っ……ストレートに磨きをかけてきたか)」


ビシュッ!


ガキィンッ


主審『ファール』


連夜「(くっ、合わせるのがやっとかよ)」

暁「さて、お前を三振に取れれば俺も乗れるんだけどね」

連夜「そう簡単に行くか」

暁「さぁてどうかな?」

連夜「……?」


ビシュッ!


連夜「(真ん中? 舐めんな!)」


グググッ!


連夜「なっ!?」


ブ――ンッ!


暁「しゃあ!」


 最後は暁が高校に来て覚え磨きをかけたシンカ―。  本人はフォールシュートと呼んでいる。


連夜「なんだ今の? シンカー?」

暁「フォールシュートだ!」

連夜「落ちるシュート……ってシンカーじゃん」

暁「フォールシュートだ!」

連夜「はいはい」


松倉「珍しいな、3球三振なんて」

連夜「フォールシュートだって。シンカーのキレは半端ないな。追い込まれる前に打った方がいいぞ」

松倉「ふ〜ん」


 しかし松倉もストレート、パームとカウント2−1と追い込まれてしまう。


グググッ!


松倉「んなっ!?」


ブ――ンッ!


 松倉もフォールシュートの前に空振り三振に抑えられてしまい、1回の表、桜花は三者凡退。


暁「オッケイ!」

清村「ナイスピー!」


松倉「スゲーキレしてんな……」

連夜「だろ? だから忠告したやん」

松倉「百聞は一見にしかずっていうだろ?」

連夜「使い方間違ってねぇか……」

慎吾「良いからお前ら、抑えることに集中しろよ」

連夜「だって、松倉」

松倉「君もね」


 1回裏、赤槻の攻撃は1年夏よりずっとトップバッターを打っている清村。


清村「しゃあ、こーい!」

連夜「(シャープなバッティングをする。うちのシュウと似たタイプだ。気をつけろよ)」

松倉「(あいよ)」


グググッ


ガキッ


清村「くぅ……!」


 松倉も暁同様、1回から決め球のスライダーを使い厄介な1、2番を抑える。  そして打席には3番の岡村を迎える。


連夜「よぉ、レフトコンバート」

岡村「嫌味か?」

連夜「事実だろ」

岡村「まぁ、俺の代わりのショートは守備は抜群に良いからな。戦力的に上がったと思うぜ」

連夜「ふ〜ん……(ま、確かに守備も良かったな。打撃も1打席目からスライダーに対応してたし)」


 先ほどの2番如月はスライダーを捉えたものの、セカンド真崎真正面のライナーに倒れた。


ピキィンッ!


シュウ「くっ!」


 初球ストレートを捉え、センター前へ。  2死から岡村が出塁した。


連夜「チッ、相変わらず良いバッティングだこと」

シュウ「ツーアウトだ。バッター集中で」

松倉「あぁ」


グググッ!


ガキィン


松倉「セカンッ」

真崎「(シュッ!)

湊川「チッ……」


 続く4番湊川は松倉の外角スライダーを当てるだけになってしまいセカンドゴロ。  この回、全てのアウトをセカンド真崎が捌いた。


慎吾「よしよし、グラブ捌き柔らかくなったな」

真崎「守備良くなんねーと、高波や月見里に奪われかねないからな」

慎吾「その危機感はいいな」

真崎「お前次第ってところが俺は怖いがな」


 2回表、桜花は先頭姿がツーベースで出塁するも後続が続かず。  その裏、赤槻も先頭のブラウンがヒットで出塁し、送りバントで得点圏に送るも得点まで至らなかった。
 そして3回表、桜花の攻撃は8番の佐々木から。



ズバァンッ!


主審『ボールッ! フォアボール』


暁「ぐっ! やっちまった!」

佐々木「よっし」


 先頭の佐々木が10球粘ってフォアボールで出塁。  9番真崎が送り、1死2塁。ここで打席に立つは頼れるキャプテン!


カキーンッ!


暁「くっ!」

シュウ「おっしゃあ!」


 暁の頭上を越えセンター前へ。2塁ランナー佐々木が生還し、桜花が1点を先制した。


ズダッ!


暁「このっ!」


シュッ!


大道「(バシッ)


ビシュッ!


ズシャアァッ


2塁審『セーフッ!』


 更に盗塁でチャンスを広げ、1死2塁。バッターには連夜が立っている。


暁「(ここで漣か……厄介だな)」


グググッ!


ガキッ!


連夜「チィッ!」

清村「毎度!」


 シンカーを引っ掛け、セカンドゴロ。この間にランナーが進塁し、2死3塁。  打席には投打でチームを引っ張る3番松倉。


キィィンッ!


松倉「しゃあ!」


如月「ガッツポーズは早いっしょ」


バシッ


松倉「何っ!?」

如月「ほい!」


シュッ!


1塁審『アウトッ』


 抜けたと思った打球、ショート如月がファインプレー。  2得点目を防いだ。


松倉「捕るかぁ?」


暁「ふぅ、サンキュ、如月」

如月「いいえー」


 ファインプレーで流れに乗りたい赤槻、打順は9番有馬から。


キィンッ


 三遊間深いところに打球は転がる。


シュウ「むぅ」


 俊足を飛ばして捕球するも投げられず、内野安打に。


シュウ「ゴメン」

松倉「ドンマイっていうか今のは仕方ないだろ」

真崎「バッターの足も速かったしな」


キィーンッ!


真崎「チィッ!」


 更に1番に戻って清村が1、2塁間を破るヒットでチャンスを広げる。


連夜「(ここは送ってくるか?)」

如月「………………」

連夜「(表情からは読み取れないがバントで決めつけよう)」

松倉「(決めつけようっていいのか、それ?)」

連夜「(3塁で刺すぞ)」

松倉「(分かったよ)」


シュッ!


コッ


連夜「……1塁」

松倉「(スゲー上手いバントだな)」


シュッ!


 松倉が落ち着いて1塁に送って1死2塁3塁、得点のチャンスが広がりクリンナップへ。


連夜「(さて踏ん張りどころだぞ)」

松倉「(あぁ、任せとけ)」

連夜「(頼りになるねぇ)」


松倉「しっ!」


ズバァァンッ!


岡村「(当然だがあの時より速くなってるな……)」


 サイドハンドから140キロ超えると思われるストレートを投げる本格派松倉。  昨年の夏は甲子園に出場していながらも自身は投げられなかった。  今年の夏にかける想いは強い!


グググッ!


ズバァッ


岡村「ぐぅっ!」


スゥッ!


ガキッ


湊川「なっ!?」


シュウ「オッケイ」


シュッ!


松倉「しゃあ!」

連夜「ナイスピッチング」

慎吾「夏の走り込みが生きてきたな」

司「鬼のように走り込んでたからな」

松倉「良い表現か、それ……」

木村「いずれにせよ、良く守った」

松倉「ウスッ」

慎吾「追加点早めに取ってやれよ」

姿「真っ直ぐ俺を見るの止めて」

慎吾「この回、お前からだろ」

姿「まぁ、そうなんだけど」


 しかし暁もプロが注目する本格派ピッチャー。  4回表、姿から始まる打順を3者凡退に抑えた。


暁「うっし!」


慎吾「大したピッチャーだな」

連夜「フォールシュートとやらを覚えて決め球が出来たってことで投球に幅ができたな」

久遠「昔はシュートで打たせて取るピッチャーだったのにな」

慎吾「ま、1点勝ってるんだ。抑えれば勝てる」

連夜「だってよ、松倉」

松倉「赤槻の打線、知らんわけじゃないのに言ってくれる」

連夜「2年前よりは強力じゃねーだろ」

松倉「そういう問題か……?」


ピキィーンッ


松倉「あっ!」


 4回裏、ワンアウトから6番大道がツーベースヒットで出塁する。


暁「うし、一打同点のチャンス!」

連夜「お前が7番とは大したことない打線だな」

暁「むっ、挑発のつもりか? この冬、俺は振り込んで打撃力もアップしたんだ」

連夜「ふ〜ん」

暁「むっ、信じてないな?」

連夜「いや、名門赤槻で7番に昇格したんだ。嘘ではないだろ」

暁「……分かればいい、さぁ来い!」


ズッバァンッ!


暁「むぅ……」

連夜「(だが松倉を打てるレベルまで上がったかというとそうでもないんだな、これが)」


グググッ!


ブ――ンッ!


暁「くそっ……!」

連夜「お疲れ様」


コッ!


連夜「ゲッ、ツーアウトから!?」

透「任せっ!」


ビシュッ


1塁審『セーフッ!』


岩町「よし!」


 ツーアウトからセーフティバントで出塁し、2死3塁1塁とチャンスを広げる。


連夜「暁より打撃が落ちると思ったが流石に名門だな」

真崎「次、足があるぞ。気をつけろ」

連夜「分かってるよ」


キィーンッ!


松倉「あっ!?」


シュタタタッ


バシッ


久遠「ふぅ……」


 良い当たりだったが、ライト久遠がランニングキャッチでスリーアウト。  守りの堅さも当時よりレベルが上がっていた。


暁「くそ……中々点が入らないな」

湊川「次、打ってやる。それより守り頼むぜ」

暁「おっ、頼りになってきたね、ミナトくん」

湊川「茶化すな。頼んだぜ、エース」


ズッバァンッ!


真崎「ぐっ!?」


 5回表、7番久遠からも3者凡退。  これで桜花は2イニング3者凡退となった。


連夜「嫌な流れだな」

慎吾「しかも次、1番からだしな」

連夜「ここで踏ん張れるかがカギだな」

松倉「ま、何とかしましょう」


キィーンッ


清村「うしっ!」


 5回裏、赤槻の先頭バッター清村が三遊間突破で出塁すると2番如月が確実に送って1死2塁。


ガキンッ!


シュタタタッ


パシッ


岡村「捕りやがった!」

シュウ「てりゃ!」


1塁審『アウトッ』


 叩きつけた難しい打球、ショートシュウが前進し上手くすくい上げ捕球をし、1塁へ。


暁「ん〜上手くなったな、シュウのやつ」

如月「まだ粗いが足は良いもん持ってるな」

暁「んなことより得点だ。頼んだぞ、ミナト!」


湊川「………………」

連夜「(新4番ね……夏の大会にもそういや出てたな)」

松倉「(正直印象ないんだけど)」

連夜「(同感だな。だが構えがいい、何より赤槻が4番に据えるんだ。打つに決まってる)」

松倉「(で、どうすんだ?)」

連夜「(対角線のスライダー、技術がなきゃ右には運べないだろ)」


ググッ!


パキャーンッ


 技術があった。


松倉「………………」


 ライトオーバーの打球、ゆっくり清村が生還し同点。  打った湊川も2塁へ。


連夜「上手く打たれたな」

松倉「ま、仕方ねぇ、切り替えよう」

連夜「だな」


 だが桜花バッテリーも落ち着いて5番ブラウンを抑えた。


慎吾「えらく簡単に打たれたように見えたが……」

連夜「対角線のスライダー、クロススライダーを打たれたよ。ま、打った方が見事だったな」

真崎「うちもこの回は1番からだ。頼んだぜ、シュウ!」

シュウ「おうよ!」


 6回表、桜花の攻撃は1番シュウからの好打順。


暁「しっ!」


ズッバァンッ!


シュウ「むぅ!?」

暁「追いついた以上、これ以上はやらせん!」


グググッ


ガキッ!


シュウ「くぅ……!」


 先頭のシュウをフォールシュートで内野ゴロに打ち取る。


ピキィンッ!


ブラウン「Oh!」

如月「………………」


連夜「よーし、ようやく仕事出来た」


 ワンアウトから2番連夜がレフト前ヒットで出塁する。


松倉「姿、送るぞ」

姿「は? いやいや、2死になるし」

松倉「ツーアウトでお前の一打にかける」

慎吾「そろそろ姿も殻の破きどころじゃね?」

姿「……分かった」


コンッ


暁「バントかよ」


 松倉が送りバントを決め、2死2塁。  この勝ち越しのチャンスに4番姿が打席に入る。


暁「(姿の一打にかけてきたか)」

大道「(どうします?)」

暁「(勝負以外の選択肢があるのか?)」

大道「(……いえ、行きましょう)」


 これは練習試合、勝ち負けも当然大事だが、それ以上に大事なものがある。


グググッ!


ピキィンッ


姿「落ちろ!」


シュタタタッ


有馬「くっ!」


ポトッ


 フォールシュートを上手く拾いライト前へ。俊足を飛ばして有馬が追うも追いつかずポトリと落ちる。


連夜「2点目!」


 2死ということで打った瞬間スタートを切っていた連夜が生還。  勝ち越しのチャンスに姿が見事にタイムリーを放った。


慎吾「………………」

真崎「やるぅ」


 続く滝口を冷静に打ち取る暁。  だが2−1と桜花が勝ち越しに成功した。


慎吾「松倉」

松倉「ん?」

慎吾「代える気はないぞ」

松倉「当然!」


グググッ!


ズバァッ!


暁「ぐっ!?」


 6回裏、6番大道からだったが松倉の力投で三者凡退に抑える。


キィンッ!


透「どや!」


 7回表、その流れのまま先頭の倉科が出塁。  久遠が送りバント失敗でワンアウト後、佐々木が送りバントを決め2死2塁。


真崎「おらぁっ!」


キィーンッ


暁「ギャッ!?」


 このチャンスに真崎がセンター前へ運ぶ。


透「3点目や!」

湊川「いかせんっ!」


ビシュッ!


大道「(バシッ)

透「なんやて!?」


 センター湊川の好返球でクロスプレーはタッチアウト。  3点目とはならなかった。


バシッ!


主審『ボール、フォアボール』


松倉「ぐっ!?」

如月「毎度!」


 7回裏、二死から如月に粘られ、フォアボールを与えてしまう。  更に負の連鎖は続き……


ピキィンッ!


ビシッ!


透「あっ!?」


 岡村の鋭い当たりを倉科が弾いてしまう。  倉科のエラーで2死2塁1塁とピンチが広がってしまい、打順は4番湊川。


パッキーンッ!


松倉「………………」


 打球が上がった瞬間、湊川は抜けたと思った。  だが桜花の面々はそうは思わず、打球の行方を淡々とした感じで見ていた。


ダッ


佐々木「(バシッ)


湊川「なにっ!?」


松倉「自分の守備範囲では抜けてたか、湊川くん」

真崎「うちのセンターの守備範囲、舐めるなよ」

湊川「にゃろ……!」


 そう、センター佐々木の守備力を皆分かっていたから安心していたのだ。  普通なら抜ける打球も、捕ってくれると言う安心感。  それが佐々木にはあった。


松倉「サンキュ、佐々木」

慎吾「相変わらずいい足だな」

佐々木「どうも」

連夜「足というか一歩目だな。単純な走力はある方じゃないが」

佐々木「痛いところつくなよ」

慎吾「頼りになるって言ってんだよ。な、漣」

連夜「さぁな」

佐々木「………………」


 8回は両チーム三者凡退に終わり、9回表。  桜花の攻撃は4番姿から。


暁「しっ!」


ビシュッ!


姿「ハッ!」


パッキーンッ!


暁「なっ!?」

姿「おっしゃあ!」


慎吾「お、珍しい」

真崎「姿が気合を見せるとはね」


 姿の放った打球はライトスタンドへ。  3−1、追加点は再び姿のバットから生まれた。


慎吾「ナイスバッティング」

姿「あぁ、サンキュ」

連夜「ん〜、いいバッティングするようになったな」

慎吾「4番としての自覚が出てきたか?」

姿「さぁな。ただ今まで高橋先輩や上戸先輩に頼ってた部分があった。その甘えから脱却したのは事実かな」

透「誰かが打つんやない。自分が打たな、って意味やな」

姿「そういうこと」

慎吾「良い心境の変化だな」


 暁の方も姿の後はランナーを許さず、9回の表の攻撃を終える。


暁「くそっ! チクショウ!」

千馬「よく、HRの後取り乱さなかったな」

暁「俺も成長したんです!」

湊川「ベンチに帰ってきてこれじゃあな……」

暁「このまま負けられるか!」


 9回裏、赤槻の攻撃は8番の岩町から。


松倉「しっ!」


ズバァッ!


岩町「くっ!?」


グググッ!


ガキッ


岩町「しまった!」


 9回に来ても球威、キレ、コントロール共に衰えていない松倉。  夏場、リハビリも兼ねて走り込んだのが今、実戦で生きてきた。


ズバァンッ!


有馬「くぅっ!」


 9番有馬も三振に抑え、ツーアウト。  後一人となった。


キィーンッ


松倉「あっ!?」

清村「このまま終わらーん!」


 1番に戻ってトップの清村がセンター前ヒットで出塁すると……


ズバァッ!


主審『……ボールッ、フォア』


松倉「えぇっ!?」

連夜「(際どい……)」

如月「ふっふ〜ん」


 2番如月が歩いて2死2塁1塁の得点のチャンスで打席には3番岡村。


岡村「うし!」

松倉「しっ!」


グググッ!


ブ――ンッ!


岡村「ぐっ!」


 まずはスライダーを振らせワンストライク。


スゥッ!


ガキィンッ


3塁審『ファール』


 2球目はチェンジアップ、スイングに行き3塁側のファールグラウンドへ。


連夜「(遊ばずに決めるぞ)」

松倉「(おう!)」


ビシュッ!


岡村「はっ!」


ズバァンッ!


岡村「あーっ!?」


 遊ばずに勝負に行った最後のボールは対角線投法の外角のストレート。  岡村のバットが空を切り、ゲームセット。  3−1、桜花が勝利を収めた。


千馬「今日はありがとうございました。こちらにとっても良い敗戦となりました」

木村「いえ、今日はたまたまです。こちらこそありがとうございました」


暁「次こそ負けねぇ! 甲子園で戦おうぜ!」

連夜「まぁ、お前、うちに2戦2敗だからな」

暁「うるせぇよ!」

慎吾「でも右本格派とやる機会、うち少ないから助かったよ」

暁「誰が練習相手だよ!」

慎吾「いや、そのための練習試合だろ……」

湊川「ま、負けは負け。もっと練習して強くならなきゃな」

姿「暁も言ってたけど甲子園で」

岡村「あぁ、会おうぜ」


ガシッ


 それぞれ熱く固い握手を交わす選手たち。  お互い、夢の聖地での再戦を誓いこの試合を終えた。


…………*


 今日、ダブルヘッダーを組んでいる桜花。  昼食を取り次第、次へ移動することになっていた。


慎吾「………………」


 早めに食べ終えた慎吾は散歩と言って、近くを歩いていた。


慎吾「あ〜あ……試合は見てるだけでも疲れるな……」


 と、愚痴を零していると前方から会いたかったような会いたくなかったような意外な人物が現れた。


瑞奈「………………」

慎吾「――! あんた……」

瑞奈「久しぶりね……と言っても2ヶ月程度かしら」

慎吾「あぁ、それよりどういう気だ。もう俺の前には現れないと思ったが」

瑞奈「最後の忠告よ」

慎吾「あん?」

瑞奈「綾瀬大地の言う通りにしなさい。その方が今後、あなたのためになる」

慎吾「………………」

瑞奈「いいわね? そうじゃなきゃあなた死ぬわよ」

慎吾「嫌だね」

瑞奈「――!」

慎吾「俺はあいつとゲームしてるんだ。あいつの言う通りにしたら俺の負けじゃねーか」

瑞奈「勝てるわけないわ! あの人の性格分かってるんでしょ!?」

慎吾「俺は何も失わない。あんたも含めてだ」

瑞奈「な、何を言って……」

慎吾「俺が救ってやる。あんたもな」

瑞奈「なっ――!?」

慎吾「だから俺には素顔を見せて欲しい。本当のことを教えて欲しい」

瑞奈「そ、そうはいかないわ。私はあなたを……」

慎吾「裏切ってない、今はまだな」

瑞奈「……そんな……私は……」

慎吾「君が望むなら俺は本気だ」

瑞奈「……ダメよ」

慎吾「………………」

瑞奈「私があなたに救われたら、私はあなたの弱点になるわ。その時は見捨てて」

慎吾「結構厳しいこと言うんだな。出来るわけ……」

瑞奈「ううん、そうしなきゃあなたは綾瀬大地に勝てない。100を望むのは子供のすることよ」

慎吾「じゃあ俺はまだ子供なんだな」

瑞奈「……私を想うなら……想ってくれるなら私の言うこと聞いてほしい」

慎吾「そうくるか。男を悩ます嫌な切り替えだな」

瑞奈「とにかく……お願い。綾瀬大地の言うこと、聞くのよ」

慎吾「ま、忠告の一環として受け取っておこう」

瑞奈「……それじゃあ」


 瑞奈は逃げるようにその場を去っていった。  何をそんな早くと思ったが、後ろから声をかけられ慎吾は納得した。


連夜「綾瀬、行くぞ」

慎吾「漣……」

連夜「今の、朝森先輩か……?」

慎吾「さぁな」

連夜「……綾瀬、朝森先輩のことで話がある。良かったら後で時間作ってくれないか?」

慎吾「……? いいよ、今度学校でな」

連夜「あぁ、サンキュ」


 瑞奈の忠告を受け、慎吾は一体どうするのか?  その時は刻一刻と迫ってきていた……




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