Seventieth Melody―伸ばした手の先は……?―


 GWが明け、学校が再び始まった。  そんな中、連夜は授業をサボり、屋上で横になっていた。


連夜「………………」


 裏工作で3年に進級できたと言ってもいい連夜、授業なんてサボってる場合ではないのだが  とある理由で仕方なしに屋上で横になっている。


慎吾「漣、いるか?」

連夜「来たか」


 それは慎吾と1対1で話すためだった。  誰にも聞かれたくない話で、1対1で話せる機会なんてそうない。  皆がいない授業中が一番ゆっくり話せる時間帯だったのだ。


連夜「優等生の綾瀬くんがサボっていいのかな?」

慎吾「今までしっかり出てたんだ。1回で文句言われたくないな」

連夜「そうかい」

慎吾「それで話って?」

連夜「あぁ、朝森先輩だけど……」

慎吾「………………」

連夜「俺が夏休み明けに学校辞めた理由、知ってんだよな?」

慎吾「綾瀬大地が関係してるってことか?」

連夜「あぁ。そこで朝森先輩が俺の前に現れた」

慎吾「綾瀬大地の手駒としてか……」

連夜「大して驚かないところをみると知ってたか」

慎吾「アイツと綾瀬大地の関係って……」

連夜「兄妹だそうだ」

慎吾「やっぱりか……名字が一緒だから、関係はあると思っていたが」

連夜「名字が一緒?」

慎吾「綾瀬大地の旧姓は朝森なんだ」

連夜「へぇ……って朝森大地?」

慎吾「そう。帝王高校で春夏5連覇達成した当時の投手が朝森大地だ」

連夜「あの人、そんな凄い人だったんか……」

慎吾「有名だから結婚後の名字である綾瀬を使ってると今思えばそう思う」

連夜「結婚って婿養子だったのか?」

慎吾「当時、両親はもういなくて、俺と姉だけだったからな。口実だろうが気を遣ってくれたんだろう」

連夜「なるほどな」

慎吾「それでアイツについてはそれだけか?」

連夜「朝森先輩か……お前といずれ敵対するって言っていたが……」

慎吾「………………」

連夜「お前は何で綾瀬大地を追ってるんだ?」

慎吾「お前は確か……」

連夜「弟を救うためだ。拉致ったやつの名前が綾瀬大地ということは知っていたからな」

慎吾「そっか……目的は達成したんだな」

連夜「まぁな……弟とは和解したよ、一応な。それでお前は?」

慎吾「俺は綾瀬大地とあるゲームをやってる」

連夜「ゲーム?」

慎吾「俺の姉を殺した真犯人を見つけ、真実を見極めれるかどうかのゲーム」

連夜「………………」

慎吾「実はもう犯人の目星がついてるんだ」

連夜「――!」

慎吾「……そっからが問題でな……」

連夜「……?」

慎吾「まぁ、いい。貴重な話、ありがとな」

連夜「綾瀬大地だけど、朝里を潰す気でいるらしい」

慎吾「朝里を?」

連夜「そのために俺の不思議な力が必要だった、そんな話だった」

慎吾「あの人が朝里を恨む理由……か」

連夜「どうやら兄弟の死に朝里が関係しているらしい」

慎吾「……ふぅん、なるほどな」

連夜「少しはお役に立てたかな」

慎吾「十分だよ。ありがとな」

連夜「なんかあったらまた言ってくれ。力になる」

慎吾「あぁ」

連夜「俺も綾瀬大地とは関わってるし、何も知らないわけじゃない。きっとお前の力になれると思う」

慎吾「……あぁ」

連夜「お前には……いや野球部の皆には感謝してるんだ。だから……」

慎吾「ふっ、いざというときは頼らせて頂くよ」

連夜「あいよ」


キーンコーンカーンコーン


慎吾「さて戻るか」

連夜「だな……」


 連夜との会話で慎吾は更に核心へと近付いた……そんな気で慎吾はいた。  そしてその核心……真実は慎吾が想う最悪なシナリオへと近づきつつあった……


…………*


 ここはとある工場跡地、そこに真崎宏明がいた。  手にはある事件の証拠を持って……


宏明「………………」

瑞奈「来たわね、真崎宏明」

宏明「君か……綾瀬大地はどうした?」

瑞奈「彼は忙しいわ。あなたなんかに付き合ってる暇はないの」

宏明「話が違うな」

瑞奈「違わないわ。あなたは証拠を渡し、犯人の名前を知れればいいんじゃないの?」

宏明「………………」

瑞奈「さぁ、証拠を渡してもらおうかしら」

宏明「その前に犯人、教えてもらおうか」

瑞奈「……いいわ」

宏明「……綾瀬美佳を殺した、真犯人は?」

瑞奈「私よ」


カチャッ


宏明「――!」

瑞奈「悪いけどあなたには死んでもらうわ」

宏明「拳銃ね……綾瀬大地の指示じゃないようだが」

瑞奈「なぜそう思うの?」

宏明「あいつは拳銃を嫌ってるからな。一番足がつきやすいってことで。なのに君に使わせるなんておかしい」

瑞奈「言っとくけど私が犯人ってことは椎名も知ってるわよ」

宏明「そうかい。だったら尚更、証拠は渡せないな」

瑞奈「もらう気なんかないわ。あなたの遺体から持っていくだけだわ」

宏明「……君はなぜ綾瀬美佳を殺した?」

瑞奈「……悔しかったからよ」

宏明「悔しかった?」

瑞奈「私は負けてないわ。あいつさえいなければ私は……!」

宏明「……君は可哀想な人だね」

瑞奈「――!」

宏明「朝森の後継者として認められようと必死で、藁にもすがる想いだったんだろ」

瑞奈「黙れぇっ!」

宏明「そして綾瀬大地にも期待されたが、綾瀬美佳を殺す結果になってしまった。もう君を認める者はいないだろう」

瑞奈「黙れと言っている!」

宏明「ここで君は衝動で僕を殺しても、綾瀬大地はもう庇わないだろう。僕の死はきっと椎名さん、そして綾瀬慎吾くんに繋がる」

瑞奈「――いい加減に!」

宏明「君はただ認められたかっただけなのにな」

瑞奈「このぉ!」


バァンッ!


瑞奈「――!」


バァンッ!


バァンッ!


バァンッ!


瑞奈「はぁ……はぁ……」


スッ


 宏明から零れ落ちた綾瀬美佳の事件の証拠を拾い上げる。


瑞奈「私は……!」


 宏明に言われ言葉が瑞奈の頭の中を駆け巡る。


瑞奈「私は……ただ……」


 一滴の涙が頬をつたった……


…………*


 所変わって桜花学院。  放課後、野球部の練習が始まっていた。


慎吾「行くぞ!」


カキィンッ


シュウ「しゃあ、セカンッ!」

真崎「おう!」


 鉄壁の守備陣を作り上げた慎吾だったが、先代のセカンド、サードが抜け  新チームとしてまた1から内野陣を作り上げなければいけなかった。


キィンッ!


透「しゃあ!」


 だが代わりに入った真崎、倉科も守備は言うほど悪くない。  ただ安定感で言うと先代を下回る。


慎吾「……次ぃっ!」


 だからこそ夏までに安定感を上げようと守備練習を中心に組み立てている。  逆に言えば打撃は連夜が戻り、姿の成長があり昨年の夏より下がってる印象はなかった。  そして真崎、倉科が打撃に関して言えば穴を埋めていた。


慎吾「ふぅ……」

木村「大丈夫か、綾瀬」

慎吾「あぁ、大丈夫!」


カキィンッ


 そんな練習の中、校内放送が入った。


校内アナウンス『真崎要くん、真崎要くん、至急……大至急! 職員室まで来るように』


真崎「俺ぇ?」


 ちょうど打球が行き、突然の呼び出しに打球をお手玉した。


姿「何だ、真崎。大至急なんて呼び出し食らって」

慎吾「この間の進路調査、マジメに書かなかったせいじゃね?」

真崎「あれは書き直したっつーの。とにかく行ってくるわ」

慎吾「ったく……月見里、高波、代わりにセカンド入れ」

月見里「うぃす」

快「はいっ」

慎吾「行くぞ」

シュウ「ふっふっふ、1年坊が僕に合わせることができるかな?」

月見里「先輩こそ、しっかり合わせてくださいね」

シュウ「むっ! その挑発受けて立つ!」


キーンッ!


月見里「それっ」


パッ


シュウ「てりゃあ!」


ビシュッ!


慎吾「月見里は攻守に1年離れしてるな」

木村「今年の1年は走守に安定しているやつが多いから使いやすいよな」

慎吾「あぁ……真崎もスタメンに入ったし、今年は機動力野球かな」

木村「俺の腕の見せ所だな」

慎吾「ふふっ、頼むぜ。監督さん」


 それからも慎吾の熱の入ったノックが続く。  しかし練習終わりが近づいても呼び出しをくらった真崎は戻ってきてなかった。


姿「真崎のやつ、遅くね?」

慎吾「木村、なんか聞いてないのか?」

木村「いや、真崎のことは別に何も……」

慎吾「ふ〜ん……」


 そうこうしている間に真崎が戻ってきた。  どうも虚ろで目の焦点が合ってないように見えた。


真崎「………………」

慎吾「お、ようやく来たか」

姿「なんだったんだ?」

真崎「………………」

慎吾「……真崎?」

真崎「親父が……」

慎吾「宏明さん? 宏明さんがどうかしたのか?」

真崎「何者かに殺されたって……」

慎吾「――なっ!?」


 真崎の掠れるような声で言った言葉は慎吾にとっても信じられない事実だった……




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