Seventieth First Melody―存在意義―


瑞奈「申し訳ありません……」

大地「ふぅ……」


 とある工場跡地に来た綾瀬大地は朝森瑞奈の行動に一つ息を吐いた。


大地「どうして拳銃を使った?」

瑞奈「………………」


 大地の問いに返答しない瑞奈。  構わず大地は言葉を続ける。


大地「真崎宏明を殺してもいいとは言ったが拳銃は使うなと前から言っていたはずだが?」

瑞奈「すいません……」

大地「瑞奈……また何か言われたのか?」

瑞奈「……いえ、そんなことは……」

大地「美佳の時と同じだ。お前は大事なところでカッとなるところがあるな」

瑞奈「………………」

大地「そんなんじゃ、誰もお前を頼りにはしないぞ」

瑞奈「――ッ! 私は……!」

大地「もういい、瑞奈。お前にはガッカリだ」

瑞奈「――!」

大地「瑞奈を捕えろ」

刺客「はっ」

瑞奈「私は――!」


 刺客に連れて行かれる中、瑞奈は何か言いたげだった。  それでも構わず、強引に刺客は瑞奈をその場から遠ざけた。


大地「慎吾も気づきつつある中、これ以上勝手なマネしてもらうのは困るんだよね」


 ふぅっと一息ついて、瑞奈の使った拳銃を真崎宏明の遺体の横に置いた。


大地「後はっと……」


 更にそこに瑞奈の学生時代の証明書を落とす。  その行動は犯人は誰か、分かるようにしているようにしか見えなかった。  そして近くにあった公衆電話で警察に電話をした。


…………*


 桜花学院では練習終わりに詳しい事情を聞くべく、慎吾らは人通りの少ない公園に来ていた。


姿「そらよ」


 姿が近くの自販機で買ってきたジュースを慎吾と真崎に投げ渡す。


真崎「………………」

慎吾「それで……」


 慎吾は口あぐねた。いざ口に出そうとすると真崎の気持ちも考えて辛い。  だが聞かないわけにはいかない。自分が関わってるかもしれないから……


真崎「警察からの電話だった。俺はこれから本当かどうか、確かめに行かなきゃいけない」

慎吾「宏明さんが……なんで……」

真崎「発見場所は工場跡地らしい。拳銃で撃たれたって」

姿「工場跡地? なんで宏明さん、そんなところに行ったんだ?」

慎吾「呼び出されたんだろう」

姿「誰に!?」

慎吾「……真崎……」

真崎「ん?」

慎吾「犯人は綾瀬大地、他関係者に違いない。警察はアテにならないだろう」

真崎「なぁ、綾瀬……俺は犯人に仕返しさえ出来ないって言うのか?」

慎吾「仕返しってバカなこと考えるな!」

真崎「バカなことってなんだよ! 親父が殺されたんだぞ!」

慎吾「――ッ……」

姿「落ち着けって、真崎。綾瀬はお前のためを思って言ってんだよ」

真崎「余計なお世話だ!」

姿「真崎!」

慎吾「姿、良いよ。俺の言い方も悪かった」

姿「綾瀬……」

慎吾「だけどな、真崎。宏明さんはそんなこと望む人か? お前の身の安全の方が大事だと思う人だと思うが……」

真崎「そんなの関係ねぇ! 俺が敵を取るんだ!」

慎吾「冷静になれ、真崎……頼むから……」


 真崎が取り乱せば取り乱すほど慎吾は辛かった。  恐らく犯人は綾瀬大地に関わる人物。  だとすれば慎吾自身、無関係とは言えないはずだから……


真崎「綾瀬、犯人に心当たりがあるんだろ!? どこにいるか教えてくれ!」

慎吾「それは……」

シイナ「私で良かったら教えようか?」


 3人のところに現れたのは椎名探偵だった。  姿は面識がないため、クエスチョンマークを頭に浮かべていた。


姿「綾瀬、この人は?」

慎吾「椎名さん……探偵だ」

姿「探偵……?」

慎吾「俺の姉の事件で依頼を頼んでたんだ」

姿「……なるほどな」

真崎「それで椎名探偵! 犯人は!? どこにいるんだ!?」

シイナ「……犯人の名前は……」


 チラッと慎吾へ視線を向ける。  その視線に気づいた慎吾は不思議とその視線の意味を理解していた。  そして静かに頷いた。


シイナ「朝森瑞奈だ」

真崎「…………は?」

シイナ「彼女は今、綾瀬大地に身柄を捕られている。仕返しは不可能だろうな」

真崎「ちょ、ちょっと待てよ……今、なんて?」

シイナ「犯人の名前だよ。真崎宏明を殺害した人物、それは紛れもなく朝森瑞奈だ」

真崎「ふざけんなよ! 綾瀬、何とか言ってやれ!」

慎吾「………………」

真崎「綾瀬?」

シイナ「真崎を守れなかったのは紛れもなく私のミスだった。すまない」

真崎「そんな言葉が聞きたいんじゃねぇ。朝森先輩が犯人って本気で言ってんのかよ?」

シイナ「本気だ。朝森家の関係者ってことで警察も大きくは動けていないようだがな」

真崎「適当なこと言うな! 証拠は……証拠はあんのかよ!?」

慎吾「落ち着け、真崎」

真崎「綾瀬! お前もお前だぞ!」

慎吾「………………」

真崎「なんで黙ってる!」

慎吾「椎名探偵の言うことは正しいからさ」

姿「――!」

真崎「お前までそんなこと信じるのか!?」

慎吾「綾瀬大地は自らこんなことをしない。使うなら刺客だろう」

シイナ「現に真崎が行った工場跡地に朝森瑞奈の姿も確認されている」

慎吾「あるいは……」

シイナ「ん?」

慎吾「綾瀬大地にとってアイツはもう用済みになった……?」

シイナ「どうしてそう思うんだい?」

慎吾「椎名探偵は知ってるんですよね……俺の姉の事件の真犯人……」

シイナ「……あぁ、“本人”から聞いた」

慎吾「俺も想像はついてます……」

姿「なんかお前らの言い方だと……」

真崎「本気かよ……本気かよ、綾瀬!」

シイナ「真崎が言っていたんだが綾瀬大地は綾瀬美佳を殺した人物を許さないと言っていたらしいね」

慎吾「案外的を得ているというか本音かもしれませんね」

シイナ「だが利用価値があったから当時が誤魔化した。事件を事故と見せかける隠匿をした……そういうわけか?」

慎吾「えぇ」

姿「な、なぁ綾瀬……お前の姉、美佳さんの事故……いや事件の真犯人って……」

真崎「嘘だろ……なぁ、綾瀬……!」

慎吾「………………」


 慎吾が作った静寂の中……誰一人、次の言葉を出すことはなかった……  だがハッキリさせなきゃいけない。そう慎吾が決意をした時、椎名がそれを止めた。


シイナ「真崎宏明、そして綾瀬美佳を殺した犯人は朝森瑞奈だ」

姿「――!」

真崎「……そんな……!」

慎吾「………………」


 慎吾も実際知っていたわけではない。100%の確信があったわけではない。  そうかもしれない……でも……そう、でもと自分に言い聞かせていた。  だが椎名の言葉を聞き、自分も覚悟しなければならないと思っていた。


慎吾「なんで宏明さんはあんな場所に行ったんですか?」

シイナ「何やら取引をしようとしていたらしい」

慎吾「取引?」

シイナ「綾瀬美佳の事件の証拠と引き換えに真犯人を聞くという取引をな」

慎吾「――!? そんなことしたら宏明さんが!」

シイナ「そう、彼の警察人生は終わりだろうね。ま、バレたらだけど」

慎吾「俺のため……? 俺のために宏明さんが……?」


 慎吾が失意に落ちた時、椎名が誰よりも早くその場に近づく人影に気づく。


シイナ「――! 誰だ!」

刺客「………………」


 しかし現れた人物は椎名の言葉を無視し、3人に近づく。


シイナ「……お前、綾瀬大地の刺客だな。何の用だ?」

刺客「……綾瀬慎吾様は?」

慎吾「俺だが?」

刺客「これを……」


 慎吾に手渡したのは携帯電話だった。


姿「それは?」

慎吾「携帯電話ってやつだ」


 最も、慎吾も実際手に取るのは初めてなのだが……


プルルルルッ


慎吾「………………」


 そして突然の着信に刺客の顔を見るも、顔色一つ変えなかった。  その反応を見て、慎吾は出てみることにした。


ピッ


慎吾「もしもし?」

大地「よぉ、慎吾。元気か?」


 相手はやはり綾瀬大地だった。


慎吾「何の用だ?」

大地「いや〜、用があるのはそっちじゃないかなっと思ってね」

慎吾「なら聞かせてもらう。宏明さんを殺したのはなぜだ?」


 日が落ち、辺りが暗くなり肌寒くなってきた。  そんな中、慎吾の質問で辺りはいっそ寒さを増した、そんな感じだった。




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