Seventieth Third Melody―夏の始まり―


 朝森瑞奈の死のニュースは桜花中に激震が走っていた。  去年度まで在学していて、生徒会長までやっていたのだから当然といえば当然だが……


慎吾「………………」


 そんなザワついてる中、慎吾は目を赤くして登校していた。


ガラッ


慎吾「おはよう」

真崎「綾瀬!」


 教室に入るや否や、真崎が詰め寄ってきた。  理由は分かってる。


慎吾「……なんだよ」

真崎「お前……!」


 胸倉を掴まれたが、真崎もそれ以上の言葉が出てこない。  慎吾の表情があまりに悲愴過ぎて言葉を失ったのだ。


真崎「お前なら分かってたんだろ……こうなっちゃうって」

慎吾「……こうなってほしくはなかったよ、ってしか思ってねぇよ」

真崎「やっぱり俺の親父のせいか?」

慎吾「何言ってんだよ。犯人、死んだんだぜ? 喜べよ。恨み晴らせたんだ」

真崎「いいよ、綾瀬……無理しなくて……」

慎吾「無理? 誰が無理してるって?」

真崎「……悪ぃ……一番辛いのお前なのにな……」

慎吾「………………」


 それ以上、二人の会話は続かなかった。  慎吾は席につき、肘をつき机を見つめたまま動かなかった。  周りの人も気を遣ってか、誰も話しかけて来なかったが  時より聞こえてくる瑞奈の名に慎吾は辛さを覚えていた……


…………*


 放課後、野球部は練習前に部室に集まっていた。  夏の大会が近付いてきているため、そのミーティングだ。


木村「もうすぐ夏の大会の抽選会があるが、今年はちょっと違うから確認しておくぞ」

シュウ「ちょっと違うって?」

慎吾「今年は大会第80回大会の記念大会でな。各地で北海道や東京みたいに東西、南北に分かれる地域が出るんだ」


 放課後には慎吾もいつものように振舞うようになっていた。  そして皆もそれを察し、普段通りでいようとそれぞれで思っていた。


木村「綾瀬が言った通り、うちの県もその対象になり東西に分かれることになる」

連夜「ってことは鳴海たちや鈴村たちと分かれることになるのか?」

慎吾「大岬と一宮は東になる。うちは西だから国玉と一緒だな」

連夜「鈴村たちと一緒かよ……」

透「でも考えようによっては強豪と当たる率が減ったんやろ? ええやん」

シュウ「あとは僕のくじ運次第かな?」

久遠「秋季大会みたいに一発目から国玉は止めろよ」

慎吾「つーか春季大会で勝った国玉はシードだから1回戦で会わないぞ」

シュウ「あ、それもそうだね」


 桜花の春季大会は3回戦で負けた。  1年主体でいったということもあるが  チームの実力的に言えば爆発力があるが安定しないといった感じだった。


連夜「ま、春のドジは夏に返す。元々春なんてあってないようなもんだ」

慎吾「でもどこぞの中堅校に負けたっていうのは痛いよな」


 一方、ライバルとなる国立玉山は見事優勝したんだから実力差は歴然だ。


慎吾「どこまで松倉が国玉打線を抑えられるかがカギだな」

松倉「あいよ」

姿「後は鈴村対策か」

慎吾「うちは左がどうしても多いからな……」

連夜「な〜に、大丈夫だって」

慎吾「お前と姿が一番心配なんだけど」


 主軸で左が苦手としているのが連夜と姿。  特に姿は以前よりかなり改善されてきたとはいえ、ストレートに振り遅れるという弱点がある。  左の速球派、鈴村相手にどこまで対抗できるかが勝負の分かれ目となる。


木村「ま、相手は国玉だけじゃない。気を引き締めていくぞ」

全員「オスッ!」


 夏の大会に向け、気合を入れる桜花ナイン。  慎吾らにとっては最後の夏となる。  去年に引き続き、甲子園行きの切符を手に入れることは出来るのか?


…………*


 そして各地で夏の大会が始まった。  西千葉大会も開催し、初戦は大友ー赤木ー薪瀬の0封リレーで圧勝したが  やはりレベルの高い千葉大会。そう簡単にはいかなかった。


大友「……チッ」

連夜「抑えていくぞ」


ズバァンッ!


主審『ボール、フォア!』


大友「ぐっ……!」


 2回戦、5回に大友がヒットとフォアボール2つで満塁となる。


慎吾「薪瀬、準備はいいか?」

司「あぁ!」


 ここでピッチャーを守護神、薪瀬にスイッチする。


松倉「おいおい、5回から薪瀬かよ」

慎吾「6回から行くぞ、エース」

松倉「――! OK、そうこなくっちゃな」


シュパァンッ!


連夜「ナイスボール!」

司「しゃあ!」


 大友の作ったピンチを薪瀬がきっちり抑える。  そしてピンチの後にはチャンスあり。  打順は8番の薪瀬からだが……


慎吾「代打、月見里」


月見里「待ってました!」


パキィンッ!


 代打で出た1年月見里が初球を狙い、レフト前ヒット。  それに先輩が続く。


カァァンッ!


透「どや!」


パッキーンッ


シュウ「よっし!」


 眠っていた打線が目覚め、ようやく先制点を入れる。  その後、松倉が6回からシャットアウトし2回戦も突破する。


慎吾「ふぅ……心臓に悪い」

木村「一発勝負の高校野球は何があるか分からないからな」

慎吾「まぁ、でも流石松倉だな」

松倉「どーも」

慎吾「国玉まではなるべく酷使しないつもりでいるがここ一番頼むぞ」

松倉「その方が辛いけどな」

司「まぁ、俺がなるべく負担減らしてやるから」

慎吾「だな。薪瀬の使いどころが重要になってくるな」


 今回はクジ運が良かったわけではないが決勝まで国玉と当たらない。  だが中堅校とはやたら当たるため、苦戦が強いられていた。  それでも昨年夏を制した原動力である打線が徐々に目覚め始め勝利を重ねていた。


司「しっ!」


シュパァンッ!


主審『ストライクッ! バッターアウトッ!』


連夜「よっし!」

司「しゃあ!」


 準決勝も4−3と9回に勝負強いシュウが逆転打を放ち最後は7回から投げていた薪瀬が抑えた。  これで桜花は一足先に決勝進出を決めた。


慎吾「ま、決勝は当然国玉が来るだけろうけど」

真崎「番狂わせがあればいいけどな」


 そんな桜花の願いも届かず、鈴村が9回を0封。  打撃も8得点と圧倒的な力を見せ決勝進出を決めた。


鈴村「勝負だ、桜花!」


 スタンドで観戦していた桜花の面々に拳を突き出す鈴村。


連夜「ケッ、かっこつけやがって鈴村め」

慎吾「松倉も漣もいなかった秋とは違うっつーの」

木村「だが実力差はありそうだな」

慎吾「大丈夫。俺の眼が確かなら鈴村と松倉に実力差はねぇよ」

松倉「全ては明後日か……」

シュウ「絶対勝つぞ!」

真崎「ここまで来たからにはな」


 桜花の面々も対戦相手が決まり、決意を固めていた。  後一戦、どんな試合となるのか?


…………*


 一方、東千葉大会は一足先に決勝が行われようとしていた。  決勝は大方の予想通り、一宮と大岬の対決となった。


鳴海「うし、春夏出場だ!」

ラザ「あまりリキむなよ」

浅月「ラザフォードは本当に日本語上手くなったな」

ラザ「いま、カンケイないだろ」

会津「ラザフォードさんは元々上手いんじゃないですか?」

水城「ま、それは良いとして相手は予想通り一宮だ」

鳴海「絶対俺が抑える! 頼むぞ、1点!」

水城「あぁ」


前田「ついに決勝か……」

宮地「相手は予想通り、鳴海率いる大岬か」

殿羽「いや〜、甲子園に向けて頑張ろうじゃないかYo!」

霜月「1点勝負になるだろうな」

前田「今日は俺が頭からいく。宮地はバッティングに集中してくれ」

宮地「あぁ、そうさせてもらうよ」

殿羽「よし、行くZo!」


東 千 葉 県 大 会 決 勝 戦
先   攻 後   攻
一  宮  高  校 VS 大  岬  学  園
3年RF殿   羽 水   城2B3年
2年SS野 々 村 和 田 谷RF 3年
3年3B霜   月 会   津CF 2年
3年CF宮   地 鳴   海3年
3年1B天   野 浅   月 SS3年
3年2B島   田 ラザフォード3年
3年LF大   野 笹   部1B3年
3年崎   元 今   里 3B3年
3年前   田 園   部LF 3年


 この一戦も今日試合のない桜花の面々も観戦に訪れていた。  明日、試合のため練習はほどほどに試合に備える考えの元でだ。


真崎「どっちが勝つと思う?」

慎吾「どっちも守備型、機動力を使うって点が似てるからな」

姿「一宮は先発に前田を使ってきたし、前田、鳴海がどう抑えるかがカギだろうな」

連夜「1番俊足に3、4番がアベレージヒッタータイプ、5番に長距離打者と打線も似てるしな」

松倉「まぁどちらも基本に忠実な打線ってわけか」

慎吾「俺が監督ならやっぱ足を使いたいからな。1番の出塁がガキじゃないかな」

シュウ「さてそろそろ試合開始だね」


 桜花の面々が見守る中、挨拶が終わり大岬の守備陣が守備位置に着く。  鳴海が投球練習を終え、一宮のトップバッター、殿羽が左打席に入る。


主審『プレイ!』


鳴海「行くぜ!」


ズビシィッ!


主審『ストライクッ!』


殿羽「わっつ!?」


 県内トップクラスの制球力を誇る鳴海。  初球内角に決める。


ラザ「(なんかナルミとこのバッターってアイショウ、よくないんだよな……)」


 大岬と一宮は公式戦はもちろん、練習試合でも結構試合をやっていた。  そのため、データはあるが対殿羽に関して言えば打率4割強、殿羽が勝っていた。


カァァンッ


鳴海「あっ!?」


ズシャアッ


水城「しゃあ!」


シュッ


殿羽「わっつ!?」


 ヒット性の当たりを水城が上手く回り込んで捕球。  素早く1塁に転送し、俊足殿羽をアウトにした。


鳴海「オッケイ、水城」

水城「さ、守っていくぞ」


 水城のファインプレーで乗った鳴海は2番野々村、3番霜月と抑えて1回の攻撃を終えた。


殿羽「くぅ……水城めぇ……」

前田「ドンマイ。こっちも負けじと守っていくぞ」


 1回裏、大岬の攻撃は県内トップクラスの俊足を誇る水城。


鳴海「さて水城、対策は?」

水城「対策ってわけじゃないが、球種が少ないから決め打ちかな」

前田「行くぜ!」


ピシュッ!


水城「(初球!)」


ゆらゆらゆらっ


水城「初球からかよ!」


ガキィンッ


 前田の球種は主に3つ。ストレート、ナックル、そしてオリジナルのチェンジアップ。  スタミナ面でナックルはないと踏んでいた水城の裏をかいた。


水城「くそっ、前田めぇ……」

会津「前田投手と言えばあの遅いボールだけが印象にあるんですが、ナックルなんて投げるんですね」

鳴海「練習試合ではほぼ2球種でナックルは使わなかったからな」

浅月「元々、先発は宮地、抑えに前田というスタンスが一宮だ。ナックルは見せ球程度にしか使わないんだがな」

水城「でも先発だから握力を使うナックルは余計使わないと踏んだんだがな……まさか初球とは」

ラザ「キメウチも相手がイッセンキュウだとムズかしいな」

会津「ですか……」

水城「ま、元々合わせるタイプのお前は気にせず自分のスタイルで打ってこい」

会津「はい」


 2番はストレートで3球三振に取り、打席にはこの試合、3番に入っている会津。


前田「さて……」

会津「………………」

前田「(コイツか……3番に上げてきたか、厄介なことを……)」


シュパァンッ!


 まずは初球、ストレートでストライクを取る。


スゥッ


会津「――!」


カキィン


霜月「オッケイ」


 続く前田特有のチェンジアップ、スローダウンでサードゴロに引っ掛けさせる。


前田「しゃあ!」

殿羽「ナイスピーだYo!」

前田「来るの速っ!」


鳴海「おりょ? どしたい、会津」

会津「変化量が上がってました。以前のだったら三遊間破ってたはずなんですが」

鳴海「ふ〜ん……ま、成長してるってことか」

ラザ「そうこなくちゃ面白くない」

鳴海「だな」


 2回の攻防は互いに4番の鳴海、宮地がヒットを打つも両投手が後続を断つ。


ピキィンッ


殿羽「OK!」


 3回表、2死から殿羽がヒットで出塁する。


ズダッ!


鳴海「くっ!」


 すかさずスチールを敢行。


ラザ「(ビシュッ!)

水城「(バシッ)


殿羽「わっつ!?」


2塁審『アウトッ!』


 しかしラザフォードが県内トップを誇るといってもいい殿羽の足を刺した。  しかもクイックがあまり得意ではない鳴海をピッチャーにしてだ。


鳴海「うぉぉっ! ラザァッ!」

ラザ「ふぅ……」


慎吾「スゲーな、今の」

連夜「今のは俺でも刺せたな」

松倉「ホントかよ……」

慎吾「ま、松倉は鳴海よりクイックは上手い。それを差し引けばまぁ、5分だな」

姿「それで5分じゃラザフォードの方が肩がいいってことか?」

慎吾「肩自体は漣だろうけど捕ってからが速いからな、ラザフォードは」

連夜「どうだか」

佐々木「(負けず嫌いだからな)」

透「(しかも事、キャッチャーに関しては、余計やな)」


 3回裏、前田が大岬の打線を3者凡退に抑える。  そして4回表、1死から霜月がツーベースで出塁する。


鳴海「むむむっ」

霜月「どーでい」


キィーンッ


宮地「しゃあ!」


 更に4番宮地がヒットで続く。  2塁ランナー霜月は3塁を蹴るが……


ビシュッ!


ラザ「(バシッ)


霜月「ふぅ……危ねぇ」

会津「………………」


 センター会津から好返球が来る。  霜月は蹴ったところですぐに止まった。  練習試合などで会津の肩の良さは分かっていたからだ。


鳴海「よし、ここから締めていくぞ」

天野「むぅ……どーも鳴海は打てないんだよな」

前田「振り回すな。コンパクトに」

天野「コンパクトに、だな。分かった」


しゅるしゅるしゅる


ブ――ンッ!


天野「むぅ……!」


前田「あいつ、コンパクトにの意味分かってんのかな」

殿羽「パワーがあいつの持ち味だからNa」


ラザ「(交わして何とかなるだろう。続けていくぞ)」

鳴海「(当然!)」


しゅるしゅるしゅる


天野「このぉ!」


カキーンッ


 外角のスローカーブに食らいつき、持ち前のパワーでライトへ運ぶ。  捕球後、3塁ランナー霜月がタッチアップし生還。  天野のライトへの犠牲フライで一宮が先制した。


鳴海「せいやっ!」


ズビシッ!


 だが動じない鳴海は後続をきっちりと抑えた。


鳴海「チィッ!」

ラザ「よくおさえたな」

鳴海「まさか天野に外野まで持ってかれるとはな」

水城「元々パワーはあるんだ。不思議じゃないだろ」

浅月「とにかく取り返そう」


パキィンッ


会津「よしっ!」


 4回裏、すぐさま大岬が反撃に転じる。  1死から3番の会津がセンター前ヒットで出塁する。


鳴海「よしっ! 行くぜ!」

前田「(鳴海か、打者としては好打者だ。気を引き締めて……)」


コッ!


前田「えっ?」


 2死にしながらも鳴海は送りバントでランナーを2塁に送る。


浅月「そう来ますか……」

鳴海「頼むぜ、浅月!」

浅月「あぁ」


シュパァンッ!


前田「ここは抑える!」


スゥッ!


浅月「くのっ!」


ピキィンッ!


天野「くっ!?」


 叩きつけた打球はファースト天野の頭上を越える。  2塁から会津が生還し、1−1の同点に。


前田「くっ!」

天野「すまん」

前田「ん、まぁ今のは仕方ない」

霜月「(まぁ元々天野の守備は期待してないしね)」


カキーンッ!


宮地「オーライ」


ラザ「……チッ」


 しかし前田も6番ラザフォードを抑え、この回を凌いだ。


連夜「予想通りの展開だな」

慎吾「どこで均衡が破れるか、か」

松倉「となると次の1点が重要になってくるな」


 5回の表裏は共に3者凡退に終わる。  6回は共に1番からの好打順。  表は一宮、殿羽がヒットで出塁する。


コッ


野々村「ふぅ」


殿羽「むぅ……!」


 それを2番野々村が送りバントを決め、得点圏にランナーを送る。  殿羽は盗塁出来なくてやや不満げだったが……


鳴海「おらぁっ!」


グググッ


ガキィンッ


霜月「くっ!?」


 しかし3番霜月はセカンドゴロに。


ズバァッ!


宮地「――!」

鳴海「おっしゃあ!」


 続く4番宮地からは見逃し三振を奪い、ピンチを脱する。


キィーンッ!


前田「なっ!?」


ズシャアァッ


水城「おっし!」


 一方、裏の大岬の攻撃、1番水城がツーベースヒットで出塁する。


コンッ


前田「いかすかっ!」


ビシュッ!


3塁審『アウトッ!』


水城「んなっ!?」

霜月「ナイス!」


 しかし3塁進塁の送りバントを好フィールディングで阻止する。  そして3番会津、4番鳴海を力投で抑える。


連夜「歯がゆい試合というか……何というか……」

姿「お互い良く守ってるな」

慎吾「1番が出塁したのにな」

シュウ「殿羽に走らせればよかったのにね」

慎吾「一度刺されてるからな。出しづらさはあるだろ」

シュウ「ん〜そうかぁ」


 7回表、一宮の攻撃は5番の天野から。  殿羽と対照的に鳴海と相性が悪いのがこの天野。  だがこの試合、犠牲フライを打つなどあながちアンパイをは言いづらい。


シュッ!


鳴海「やべっ!」

天野「ピキーンッ」


パッキーンッ!


 制球力のいい、鳴海の唯一の弱点と言ってもいいのが失投癖。  それが長打力のある天野のところで出てしまった。  スタンドまで運び、2−1。勝ち越しHRとなった。


水城「切り替えろ、鳴海。いつものことだ」

鳴海「その励ましは一般的に励ましとは言わない」

ラザ「まだ1点だ、ナルミ」

鳴海「あぁ」


 周りの励まし(?)もあって鳴海は後続を抑える。


松倉「待望の1点は一宮か」

慎吾「これで決まる……とは言い難いがな」


パッキーンッ!


 慎吾の言葉を肯定するかのように金属音が鳴り響いた。


前田「なっ!?」

浅月「おっしゃあ!」


 何と7回裏、大岬先頭の5番浅月がライトスタンドへ運ぶHR。  2−2、すぐに追いついてみせた。


真崎「すげぇ……」

姿「凄いゲームになってきたな」


前田「しっ!」


シュパァンッ!


主審『ストライクッ! バッターアウトッ!』


前田「おっし!」

ラザ「(イガイとシンがツヨいおとこだな)」


 ラザフォードにヒットを打たれ送られるも後続を抑える。  そして試合はいよいよ8回に突入。  8回表、一宮の攻撃は9番前田から。


鳴海「(前田か……それほどバッティングは良い方ではないが……)」

ラザ「(バットをもってるイジョウはケイカイはヒツヨウだな)」


シュッ!


カァァンッ


浅月「くのっ!」


ビシッ!


浅月「くっ!」


 ショート横への鋭い打球、浅月が飛びつくも弾いてしまいその間に前田が1塁を駆け抜ける。  記録はショートへの内野安打、一宮先頭を出した。


殿羽「よ〜し! 良く出たYo!」


浅月「すまん」

鳴海「どんまい。今のはしょうがねぇだろ」

水城「鳴海、次は殿羽だ。相性もあってか、送りはないかもしれん」

鳴海「あぁ、併殺も中々取れないだろうからな。まずワンアウト、落ち着いて取ろう」

水城「よし」


 無死1塁、一宮は1番の殿羽に打順がまわってくる。


殿羽「(Oh! 打てのサインKa。うちの監督もやるNe)」

鳴海「しっ!」


グググッ!


カァンッ!


水城「くっ!」


 打球はセカンド水城の横を、1、2塁間を抜けてゆく。  ライト前ヒットで続き、チャンスを拡大した。


鳴海「くっそー……何なんだ、殿羽のやろう……」

ラザ「きにするな。しかしここはショウブドコロだぞ」

鳴海「あぁ。分かってる」


 続く2番野々村が送りバントを決め、1死2塁3塁。  ここで打席には3番の霜月。


するするする


主審『ストライクッ』


霜月「(良くこの場面で、こういうボール投げれるよな)」

鳴海「しっ!」


ビシュッ


霜月「ストレート!」


ピキィンッ!


鳴海「なっ!?」


 打球は鳴海の頭上を越え、センターへ。  3塁ランナーが生還し、勝ち越し!


ズダッ


殿羽「Go!」


 更に俊足殿羽が3塁を蹴ってホームに向かってくる。  そしてセンター会津から返球が来ていた。


ズシャアァッ


主審『セーフッ!』


ラザ「なっ!?」

殿羽「Ok!」


 完璧にブロックしていたと思われていたが、殿羽の足が僅かに速くベースに入っていた。  霜月の2点タイムリーで一宮が8回に4−2と勝ち越しに成功した。


キィーンッ


 更に宮地がヒットで続き、再び得点圏にランナーが進んだ。


鳴海「おらぁっ!」


ズビシィッ!


主審『ストライク! バッターアウトッ!』


天野「えぇっ!?」


するするする


ブ――ンッ!


鳴海「しゃあ!」


 しかし鳴海が意地を見せ、HRを打たれている天野を含め後続を抑えた。


ラザ「よくやった」

水城「後は俺らに任せとけ」

鳴海「はぁ……はぁ……」


バシッ!


主審『ボール、フォアボール』


前田「くっ」

水城「おし!」


 8回裏、粘りに粘って先頭の1番水城がフォアボールで出塁する。  ここで一宮ベンチが動き、ピッチャーを宮地にスイッチする。


宮地「ナイスピッチング」

前田「後、頼んだ」

宮地「あぁ」


ズダッ!


 プレイ再開後の初球、水城がいきなりスチールを仕掛ける。


ビシュッ!


ズシャアァッ


2塁審『セーフッ!』


連夜「今のは勇気いるな」

慎吾「2点差で8回、先頭が出ての盗塁か……うちでも森岡が出ても出せないな」

シュウ「むぅ!? それはどういう意味かな!?」

慎吾「いや、森岡の足が水城に劣ってるとかじゃなくてな」

真崎「単純に攻撃力の差でもあるだろ。うちの場合、連打が期待できるが大岬の打線はそこまでじゃない」

慎吾「ま、それもあるかもな」


ガキッ


松倉「さて、水城が3塁に進んで3番会津か。ここは是が非でもタイムリーが欲しいところだな」

慎吾「2点差だもんな」


宮地「ふぅ……」

霜月「落ち着いていこう。2点ある」

宮地「あぁ」


鳴海「頼むぞ、会津!」

会津「……はい!」


 その初球だった。


ピキィンッ


霜月「くのっ!」

野々村「くっ!」


 痛烈な打球が三遊間を破り、3塁ランナーを迎え入れる。  4−3、大岬もまだまだ終われない。


カキーンッ


鳴海「うし!」


バシッ!


主審『ボール、フォア!』


宮地「くっ!」

浅月「おし!」


 鳴海のヒット、浅月のフォアボールで1死満塁となり、打席には6番ラザフォード。


ピキィンッ


宮地「あっ!?」


 打球はライト前へ、ヒットとなった。  前進守備を敷いていた殿羽が素早くバックホームをし、2塁ランナーの生還は許さなかった。  しかし3塁ランナーが生還し、4−4の再び同点となった。


スバァンッ!


宮地「……ふぅ……」


 だが大岬の反撃もここまで。  宮地も鳴海同様意地を見せ、後続を抑え同点止まりに。


連夜「良く追いついたな」

慎吾「そう見るか、満塁のチャンスで勝ち越せなかったのを残念に思うか、だな」

松倉「一宮も大岬も下位打線が弱いからな」

姿「その分、上位は県内トップクラスだがな」

慎吾「一宮に分があるとすれば宮地が今の回から投げてることだな。大岬は鳴海以外ろくなピッチャーがいない」


ズバァッ!


主審『ボールッ、フォアボール』


鳴海「はぁ……はぁ……」


 9回表、ツーアウトを取るも前田に代わって途中出場の9番の選手にフォアボールを与えてしまう。  精密機械、鳴海が与えた初めてのフォアボールだ。


宮地「決めて来い、殿羽」

殿羽「おし、任せRo!」


ビシュッ!


パッキーンッ!


鳴海「あっ!?」


 打球はライト頭上を越える長打コース。  1塁ランナーは1塁から長躯ホームイン。打った殿羽も俊足を飛ばして3塁へ。  貴重な勝ち越しの1点が一宮に入った。


水城「(次、スクイズあるかもしれないぞ)」

ラザ「(あぁ、わかってる)」


ビシュッ!


野々村「(サッ)


鳴海「くっ!」


キィンッ


 3塁ランナーとのバスターエンドランを敢行。  野々村は上手く叩きつけ前進守備の内野の頭を超える打球を放つ。  殿羽が生還し、6−4。差を2点とした。


連夜「決まったな」

慎吾「……だな」


キィーンッ


水城「まだだ!」


バシッ


霜月「なっ!?」


 霜月の鋭い打球を水城がファインプレー。  裏の反撃へののろしを上げると……


キィーンッ!


 1死から水城がヒットで出塁。


カァァンッ!


 更にツーアウトとなるが3番会津もヒットで続き、2塁1塁で4番鳴海を迎える。


宮地「ふぅ……行くぜ!」

鳴海「しゃあ!」


パキーンッ!


宮地「――!」


 打球はライト頭上を襲った。


シュタタタッ


ダッ!


殿羽「とりゃあっ!」


バシッ


ズシャアァッ


 滑り込んだ後、すぐに殿羽は高々とグラブを上げアピールをした。  そして高々と審判のアウトのコールが響いた。


鳴海「……最後まであいつか……何なんだろうな、この相性の悪さは……」


 決勝打を放った殿羽が最後、鳴海の打球をファインプレーした。  鳴海は込み上げてくるものを出さないと必死に空を見上げた……


…………*


 一宮と大岬の凄まじい決勝戦から翌日。  西大会でも国立玉山と桜花の決勝戦が行われようとしていた。


木村「よし、行くぞー」

慎吾「……――!」


 学校から現地へとバスで向かおうとしていた時だった。  慎吾の前に大地の刺客が現れた。


刺客「綾瀬慎吾様」

慎吾「……なんだよ。これから大事な試合なんだ」

刺客「これを」


 渡された手紙には場所の指定と一言、来なければお前の負けだ、と書かれていた。


姿「行けよ」


 その手紙を後ろから覗き見た姿が一言慎吾に告げた。


慎吾「バカ言え。今から決勝戦だぞ」

真崎「森岡や漣、松倉がいなければ試合は出来ないが、お前がいなくても試合はできる」

慎吾「………………」

真崎「俺、バカだから何とも言えないけど、親父の敵なんだろ?」

慎吾「……あぁ」

真崎「ほんとなら俺が行きたいところだけど、俺がお前の代わりになる。だからお前も俺の代わりに頼んだ」

慎吾「……分かった。後、頼むな」

姿「あぁ、任せとけ」


ダッ!


木村「へ、おい! 綾瀬?」

真崎「さ、行きましょうや」

木村「いや、綾瀬は?」

姿「急用が出来たみたいで」

木村「急用……?」

連夜「ま、良いから行きましょう。間に合わなくなりますよ」

木村「お、おう」

姿「漣……」

連夜「俺は夏にあいつに迷惑をかけた。取り返す」

真崎「同感だね。俺も今まで休ませてもらったから、あいつのいない穴、俺が埋める!」


 決勝戦当日、綾瀬大地に呼び出された慎吾。  決勝戦は……そして慎吾は一体どうなってしまうのか!?




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